《第412号あらまし》
 年頭所感
 たくみ運輸が行った違法な配車差別により被った『損害賠償請求事件』
 労働判例研究会報告
 〔シリーズ〕労基法を使おう (第30回)
     変化する労働環境 派遣労働・裁量労働・在宅勤務・一週間単位の変則労働制について


年頭所感

民法協代表幹事 長淵 満男


明けましておめでとうございます。

昨年は、平和で民主的な文化国家としての発展を願う私たち国民の気持ちが、アメリカと日本の政府によって今までにないほど踏みにじられました。軍事力の誇示をもって世界を支配しようとするアメリカの強引な"テロ報復攻撃"と、これをチャンスとばかりに一気に日本の軍国化を進めようとする小泉内閣が、共通して、緊急を要する「国民生活の維持向上」に必要な施策を放り出し、それどころか、いわゆる"社会的弱者"の生活と営業、権利と利益を一層悪化させる政策を実行してきました。特に日本においては、大企業が行うおおがかりな人員整理や生産の海外移転を野放しにし、不良債権処理という名の零細・小企業切り捨て、さらには医療・介護といった社会保障・社会福祉の低劣化問題など労働者、国民の悲鳴には真剣に取り組む姿勢を全く見せない小泉内閣は、このままでは国民にとって「最悪の内閣」になりそうです。

年末から正月にかけて4〜5人の零細業者、10人余りのサラリーマンと酒を飲みながら話をする機会があったのですが、工賃を切り下げたうえに正月も半ば返上で納品を迫られる零細業者、正規の時間働いた後、一般の労働者が帰宅する時間帯(夕方7時過ぎ)からいっせいに販売活動に駆り立てられるセールスマン、一週間単位の年休とひき換えに無制限に残業させられる事務職員等々、零細・小規模業者や労働者の権利と営業はすさまじい勢いで破壊されつつあることを実感せざるを得ません。このような状況が続くと、切実な利益を保持しようとしたり、正当な権利を主張することが、あたかも"身勝手な言動"であり、"会社つぶし"であるかのような、倒錯した関係でとらえられる危険が生じることは周知のとおりです。一般の正常な理解や判断を維持するためにも、労働者・国民の側からの"巻き返し"が必要というほかありません。

兵庫民法協は労働者・国民の権利を確保し、その拡充に寄与することを目標に微力ながらも活動を行ってきました。大阪の活動と比べれば至るところで"弱さ"があるでしょうが、兵庫でも一時金の停滞を反省して、今日の状況に少しでも多く対応できるよう、若い力を補給しながら態勢も整え、また、活動のメニューも増やしながら頑張っていこうという方向が目に見える形で現れてきたのではないかと思います。労働者、労働組合、国民などの権利の確保という目標からして、「最終的には裁判闘争」という軌道を走るイメージが強くなるのは、当然といえば当然ですが、職場での闘い、職場からの反撃、それを可能にする理論の体得を・・・と考えれば、事件が起こったときだけ、民法協を思い出すというのではなく、日頃からこれを活用することの重要性、有意義性が「はっきりする」のではないかと思います。

消費・購買力低下→価格破壊→リストラ・労働条件切り下げ→購買力低下といったデフレスパイラルの悪循環を阻止し、平和と民主的権利が確保され、国民が豊かな文化を創造し享受するすばらしい未来の構築へ向かって今年こそ頑張らなければと思いを新たにする次第です。

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たくみ運輸が行った違法な配車差別により被った『損害賠償請求事件』

建交労たくみ運輸分会 津村 訓孝


甲陽運輸鰍ヘ、'95年の阪神・淡路大震災を口実に自らの多角経営で完全支配してきた100%子会社(有)たくみ運輸の閉鎖を強行しょうとしたことから労働争議になっています。

突然の閉鎖通告に全乗務員を当時の運輸一般に組織し閉鎖は、撤回させ ましたが、更に甲陽運輸鰍ヘ、一方的に(有)たくみ運輸の一部を他社へ譲渡したと主張しました。組合は、宣伝行動を強化し甲陽運輸鰍フ社会的責任を追及したところ、甲陽運輸鰍ヘ、組合に対して前代未聞の損害賠償事件の訴訟をおこしました。2000年12月に最高裁でも棄却が決定し、組合側の全面勝利となっています。判決の理由は『@甲陽運輸は、たくみ運輸の従業員との間で労組法上の使用者といえる。A他社への売却は、仮想的であるとの疑念は、払拭できない。』とし甲陽運輸鰍フ責任が重大であることが明白となっています。

'96年6月に甲陽運輸鰍ヘ、(有)たくみ運輸の職場に大豊運輸倉庫椛O田社長を介在させてから賃金遅配を手始めに夏・冬の一時金の不支給、更には、'97年8月から基本給の14万円カットなど賃金労働条件の一方的不利益変更を行い団体交渉にもまともに応じない姿勢を示しました。組合が'97年12月に抗議のストライキを行ったことを口実に大豊運輸倉庫椛O田社長は、組合員に早出・残業を一切させないという報復的処置を取り、組合員の月収を15万円ほどに引き下げる悪質な組合潰しを行っています。

組合は、弁護団との協議を経て、まず地方労働委員会へ不当労働行済申し立てを行い2000年5月には、不当労働行為の救済命令が出されました。(そくざに中労委へ不服申し立てを行い2001年11月結審)

救済命令が出る前月には、神戸地方裁判所へ『損害賠償請求事件』の訴訟を起こし、2001年12月に私たちが請求した差額賃金が全て認められ慰謝料や弁護士費用についても請求の一部を認める、まさに全面勝訴の判決がだされました。当日、裁判官が金額を読み上げたのに、何のことだか一瞬とまどいましたが、「あー勝ったんだ!」という実感がだんだんと湧いてきました。すぐさま動産執行の手続きを行ってもらい、会社が金員を支払う意志を示さなかったため動産差し押さえの執行がおこなわれました。私には初めての経験で、あまりにもテキパキとあっさり事が終わったのにビックリさせられました。

会社は、翌日に約2,300万円もの供託金を神戸地裁に支払い控訴の手続きをとっています。しかし、その翌日から4年ぶりに早出を指示する変化がみられています。12月6日にたくみ運輸争議支援共闘会議で三菱倉庫、神鋼物流、甲陽運輸への申入れを行ったところ、それぞれが「解決するべき」との見解を示しています。

会社は、配車差別を弱め、今年に入っても早出残業の指示を行い、中長距離運行について4年ぶりの指示を行いましたが、いまだに団体交渉に応じない姿勢をとっています。

まだまだ闘いは、続きますが、ゴールが目の前に確実に近づいている、そんな気がします。これまで共に闘ってきた弁護団と支援をして下さったあらゆる皆様方に心より感謝を申し上げます「有り難うございました」。

そして、今しばらくお力をお貸し下さるようお願い致します。私たちは、必ず早期に労働争議が円満解決出来るよう全力で闘い貫きます。

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労働判例研究会報告

弁護士 高本 知子


民法協の労働判例研究会が2001年11月29日、シーガルホールで開かれました。

多くの組合関係者、甲南大学の長渕満男先生、神戸商船大学の根本到先生、筧宗憲弁護士、本上博丈弁護士、小泉伸夫弁護士、増田正幸弁護士、高本知子弁護士、萩田満弁護士が参加しました。

「労働関係民事・行政事件担当裁判官協議会における協議の概要」を素材に、中神戸法律事務所の萩田弁護士が「修行規則による「能力主義賃金体系への変更」及び「定年延長との引替に延長期間賃金減額の就業規則変更」について、神戸総合法律事務所の高本弁護士が「労働者の賃金を切り下げる就業規則の変更を認めるための高度の必要性」及び「タクシー運転手の賃金規定の改定の合理性判断」について、神戸合同法律事務所の小泉弁護士が「退職金額を半額にする旨の退職金規程の改正の合理性を検討する場合の考慮すべき要素」及び「賃金体系の変更を内容とする労働協約はそれによって不利益を受ける組合員にも規範的効力は及ぶべきか」との議題で発表し、活発な議論がなされました。

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〔シリーズ〕労基法を使おう (第30回)
変化する労働環境 派遣労働・裁量労働・在宅勤務・一週間単位の変則労働制について

弁護士 萩田 満


2002年1月11日、モロゾフ労組新春旗開きでの講演の際に使用したレジュメですが、今日、職場での学習会等に有益であると思い転載いたしました。民法協ではこのような出前の権利講座を随時行っております。

T 変化する労働環境概観

1 派遣労働
(1) 意義と種類

「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下にかつ他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させること(労働者派遣法2条1号)」
(参考)請負、出向、転籍、労働者供給事業

種 類 業 種 期 間
専門的派遣 26業種 1年(更新可能、3年を越えると行政指導)
臨時的・一時的派遣 原則無制限(製造・建設・港湾・
警備その他専門職はのぞく)
1年以下
有期プロジェクト型派遣 一定期間内に事業が終了する 3年以下
休業取得者の代替派遣 無制限 産休・育休代替 2年
介護休業代替  1年

(2) 現況

1975年ころから拡大を始め(実体先行),こんにち派遣労働者数は100万人

(3) 法制度の変遷

1985年に法制化(ポジティブリスト,当初13事業→99年当時26事業)、99年に大改正(原則自由化=ネガティブリスト)

(4) どう考えるか

@ 労働者供給事業の原則禁止の趣旨=中間搾取と強制労働の予防

A 雇用責任なき指揮命令権

B 賃金の値崩れと連鎖、差別的派遣の拡大、無権利状態、短期化・不安定化、常用代替・ 偽装派遣の進行

(5) 小泉改革の流れの中で

労働者派遣の活用を検討(専門的26派遣の拡大、適用除外業務・期間制限・派遣先労働者の特定目的行為の禁止の緩和)

(6) 労働組合の役割

常用雇用代替とならないように派遣受入れのルール化を進めること(違法派遣の禁止(労基署の改善命令)、成規労働者待遇への引き上げなど)、派遣先管理台帳などのチェック

規模・業種 規則・協定 期間・労働時間 日数・時間の上限、
連続して労働させる日数
1ヶ月単位 制限なし 労使協定また
は就業規則等
1ヶ月以内
週平均法定労働時間
なし
1年単位 制限なし 労使協定 1ヶ月超1年以内
週平均40時間
原則1年あたり280日原則
1日10時間・1週52時間6日、
「特定期間」は1週間に1回
の休日が確保できる日数
1週間単位 30人規模未満の小売
業、旅館、料理店、飲
食店
労使協定 1週間
週平均40時間
1日10時間

企業規模 合計
(%)
変形労働時間制の採用(%) 変形労働時間制不採用
      (%)
合計 1年単位 1月単位 フレックスタイム制
全体 100.0 54.8 34.3 17.5 5.1 45.2
1000人以上 100.0 65.7 20.5 29.9 33.9 34.3
100〜999人 100.0 60.6 34.8 21.8 7.7 39.4
30〜99人 100.0 52.3 34.6 15.4 32. 47.7

2 変形時間制とフレックスタイム制
(1) 現行3種類の変形労働時間制
(2) 変形時間制の採用状況(1998年)
(3) 法制度の変遷

ア 1ヶ月単位

当初4週間単位→1ヶ月単位(87年)→労使協定によっても可能になる(98年)

イ 1年単位

3ヶ月単位制新設(87年)→1年単位(93年)→適用対象拡大(98年)

ウ 1週間単位

87年改正で新設

(4) どう考えるか

@労働時間法制の原理原則

1日あたり何時間働くか,明日もしっかり働けるか=1日あたりの労働時間規制

A問題点

本来の残業時間の消滅=合法性なただ働き,過労死の増加

(注)36協定などの問題点も

(5) フレックスタイム制

@意義

一定期間の総労働時間を定めた上で,労働者が各日の始業・終業時刻を選択しながら勤務して,その一定期間(精算期間)内に決められた総労働時間数を満たすようにする制度

■通常は,1日のうち労働時間が必ず勤務すべき「コアタイム」と,労働者が自由に勤務時間を決定できる「フレキシブルタイム」

A制度

精算期間中の週労働時間の平均が法定労働時間を超えない範囲内で使用者は労働者に1週又は1日法定労働時間を超える労働をさせることができる

B87年改正で導入

(6) 労働者・労働組合の役割

@労働時間把握基準「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(01.4.6基発339号)の活用

A始業・就業時刻の把握,タイムカード・IDカード,残業命令書の利用

(注)民法協の学習会(1月29日)

B労働時間原則の適用除外ではなく,時間内労働の緩和にすぎない。したがって,休息,休日,時間外休日労働,深夜業規制は及ぶ。


3 みなし労働時間制
(1) 現行3種類のみなし労働制
対 象 「みなし」
事業外労働の
みなし時間制
労働時間の全部または一部につき事業
場外で業務に従事し労働時間を算定し
がたいとき
所定労働時間労働したものと「みなす」
専門業務型
裁量労働制
新製品等開発,情報処理システム関連,
マスコミ等のうち労使協定によって特定
された対象業務(限定列挙)
労使協定により一定時間労働したもの
と「みなす」
当該業務に従事する労働者について遂
行手段・時間配分等の決定に関して具
体的指示をしない
企画業務型
裁量労働制
本社等において,企画・調査・立案・分析
の業務に従事し,その業務の知識経験を
有する労働者(労働者の個別同意必要)
労使委員会において決議した一定時間
労働したものと「みなす」
当該業務に従事する労働者について遂
行手段・時間配分等の決定に関して具
体的指示をしない
(2) 現況(2000年)

総合調査 採用企業9.2%(事業外8.5%,裁量労働1.9%)

中労委調査 大企業の状況として,事業外20.4%,専門型裁量15.2%,企画型裁量2%

(3) 法制度の変遷

1987年 事業外労働のみなし時間制・専門業務型裁量労働制を導入

1998年 企画業務型裁量労働制が導入

(4) 小泉改革と緩和の動き

@ 前記労働時間把握基準は,性質上,みなし時間制を対象外としている

A 手続が煩瑣で使いづらいという財界(非導入企業アンケート)の要望に応え,裁量労働制見直しの主張(行革・規制改革委員会)

B IT化などで、事業所勤務体制の崩壊の可能性

(5) 労働者・労働組合の役割

@ 労働者の決定権の重視と適正な業務量の設定

A 「みなし」の意味

労働時間原則の適用除外ではなく,単なる「みなし」にすぎない。したがって,休息,休日,時間外休日労働,深夜業規制は及ぶ。


U 労働環境の歴史的変遷とその背景

1 繰り返される法改正

(1) 1985年以降毎年のように繰り返される労働法制変更

(2) なかでも87年改正と98年改正

87年の労基法改正  労働条件の弾力化とともに時短促進が大きな目玉

98年の労基法改正  弾力化のみが目的(女性保護規定の撤廃など)

その間に、85年に派遣法制定、99年に大改正

2 現状の労働時間法制をどう見るか

(1) 弾力化の背景にあるもの

経済界の要望と労働者各層の一定の要求

(2) いびつな法改正

例  派遣制度,裁量労働制の複線制度 = 労働者の反対・不安の反映

(3) 現状と今後予想される法改正案

使いづらい制度の「整備」(特に裁量労働制)といっそうの弾力化


V 労働組合などの役割

1 裁判で争いにくい労働時間(未払賃金など)=前記基準の活用

2 近年の裁判所・法学者の動向=労使自治の「尊重」(司法責任の放棄)

3 司法改革の動きにふれて


W 権利の実現のために

1 何か不利益を被りそうなときは,同意しない。もし同意してしまっても,無効になる場合があるのであきらめない。

2 すぐに相談する。労働組合,弁護士,民主法律協会。労基署は簡単には動かない

3 立法運動への関わり方 以上

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