《第417号あらまし》
 全日検賃金請求裁判
     真の「勝利」を勝ちとるその日まで
 第40回総会報告
 労働判例研究会報告
     仙台セクハラ事件
 緊急連載シリーズ「司法改革」bP
     司法が変わる、社会が変わる


全日検賃金請求裁判
真の「勝利」を勝ちとるその日まで

全日検神戸支部労働組合 副委員長 北川 伸一


あの日

「必ず勝利する」その強い思いを胸に提訴したあの日。2001年4月26日。テレビがラジオが新聞が、私たちの姿を声を思いを、それぞれの媒体を通して全国に発信した。それは、賃金50%カットという中身のひどさもさることながら、長引く不況「規制緩和」などの影響を受け、国民・労働者の中にややもすると「しかたがない」というあきらめの風潮が蔓延する状況下、労働組合総ぐるみで「闘う」ということが珍しいことに映ったせいかもしれない。首を垂れずに虚勢を張る犬にマスコミも興味を示したのだろうか。しかし、負け犬根性を捨て闘う道を選んだ私たちの行方は、この時点では五里霧中であった。


回想1・オルグ

どんよりと雲が立ちこめ、時折ポツリポツリと小雨がアスファルトを濡らす。

「本日午後1時10分、全日検賃金請求裁判の判決が下されます。市民の皆さん注目して下さい」

早朝の街頭宣伝を終え、私は組合事務所で待機する。敗けるはずがない、そう自分に言い聞かせるも、一抹の不安が胸をよぎる。歯をくいしばり闘ってきたおよそ2年間の出来事が頭の中をぐるぐる回る。目をつぶり何度も何度も思い返してみる。

オルグ。今まで神戸港の労働運動の雄?であっても、所詮は内弁慶であった私たち。思いもよらぬ攻撃をうけ、たじろぐ間もなく闘いに立ち上がった。兵庫県下の労働組合や民主団体への訴え、行く先々で激励と連帯のことばを頂き胸を熱くした。大阪・京都・滋賀・奈良・和歌山、全労連近畿ブロックのそれぞれの本部へのオルグ、とりあえずの訴えを一日でやりきった。もちろん、港湾の仲間への訴えも忘れずに行った。東京・横浜・名古屋・北九州、日本の主要港湾にはすべて「検数労働者」がいる。当然、全日検の仲間も多数おり、それぞれの港へ「共に闘い立ち上がろう」というメッセージを片手に、もう一つの手には支援のお願いを持ち、必死の訴えをしてきた。

初めての「オルグ活動」に参加し、戸惑いと緊張を隠せなかった組合員も、行動を終え組合事務所に帰ってきた時には、何かしらふっきれた様子。「確信」という文字が浮かび上がるような顔になっていたことが印象的だった。

だけど、順風満帆ばかりではなかった。

「厳しいのはお宅とこだけではない」「うちも争議を抱えてるから、カンパはちょっと…」「署名?たくさんあるからねぇ。取り組めるかどうか、今、返事はできない」

残念だけどそんな場面に遭遇したこともあった。そんな時、がんばっている組合員や家族の顔を思い浮かべ、さらに頭を下げてお願いをした。ようやく理解を示してくれた時、やってよかったという安堵とささやかな自己満足に浸ったものだ。

しかし、闘いは始まったばかり。私たちの前には「生活苦」という大きな壁が立ちはだかっていた。


回想2・連帯

初めての大集会。500名を超す仲間たちが集い、会場である勤労会館大ホールは熱気に包まれた。2001年3月8日。暦の上では春であったが、寒風吹きすさぶ寒い寒い日であった。その後、大小の集会が繰り返し開催され、その都度「勇気と感動」を私たちに与えてくれた。

裁判の傍聴へも毎回、神戸地裁101大法廷を埋め尽くす、原告・家族、そして支援の仲間たちが集い法廷を圧倒した。その力を糧に、弁護団は鋭い弁論を展開し、被告全日検協会を追い詰めていった。2月22日、裁判長より和解勧告が出され協議を行ったが、双方の主張がかみあわず不調に終わった。結局、「判決」を勝ちとるしか道はなくなったのであった。

やがて、組合財政も底を尽きはじめ、原告の各家庭の生活も困窮を増し、「貧すれば鈍する」という状況に追い込まれても不思議ではなかったが、多くの仲間たちが救いの手をさしのべてくれた。闘争カンパ約850万円。「原告を守る会」への生活募金は約700万円にも達し、2001年の年末にはその「守る会」より、越年資金とし原告全員に10万円が贈られた。賃金50%カットと同時に一時金不支給(ゼロ)、という攻撃をかけられている私たちにとって何よりの支援であり、心に灯がともった瞬間であった。

その後、兵庫労連は一億円の「全日検闘争資金」確立を提起、傘下単産のすべてがこれに呼応。あらゆる困難を乗り越えてこれが確立された。快挙と言えるこのことで、勝利への道は財政面でも盤石になった。いくら感謝してもしきれない、そんな思いを抱いたのは言うまでもない。そして、全労連運動への限りない確信と、兵庫労連の仲間たちへの信頼が、よりいっそう深まったのであった。あってよかった労働組合。あってよかった兵庫労連。何が何でも勝利しなければならない。私は、新たな決意を固めた。


回想3・確信

全日検神戸支部労組支援連絡会(兵庫労連・中央区労協・港湾共闘など)を中心に運動は発展していった。全日検協会の差別・分断政策により、企業内で孤立を余儀なくされていた私たちであったが、支援連を始めとした地元の運動が全国に飛び火し全国的な闘いへと広がっていった。それを象徴するように、神戸地裁に対する「迅速・公正な判決を求める署名」は、団体3922、個人67895筆、という到達になり世論は全日検協会の無法に怒りを表し、神戸地裁に対し「勝利判決」を促す大きな力となった。またすでに、2001年11月には3名の代表による同主旨の仮処分申し立てに対する「勝利決定」もだされており(奇しくも本訴の裁判長が担当)、「敗けるはずがない」という思いに立ちかえったのであった。夢からさめて時計を覗くと、もう11時。さあ、神戸地裁へ行こう!「勝利判決」が私を待っている。


勝利は我等に

神戸地裁前に集まった顔、顔、顔。原告・家族、そして支援の人たちで埋め尽くされた。代表者110名は101大法廷に入り固唾を飲んで判決を待っていた。テレビカメラがその瞬間を撮るためにスタンバイしている。咳(しわぶき)ひとつない法廷に3人の裁判官が登場。

「主文。被告は…原告らそれぞれに対し…金員を支払え」

淡々とした裁判長の声が「判決」を読み上げる。一瞬何が起こったのか判断に困り、羽柴弁護団長に見解を聞く。「勝利判決」瞬く間に喜びが爆発する。「勝利判決」という垂れ幕を広げ走るA組合員。私もその後を走る。法廷に入りきれなかった多くの人たちに一刻も早く知らせたい。その思いが体を動かす。垂れ幕を見た人たちが叫ぶ。「ヤッター。勝利判決や。万歳!」……。拍手歓声が沸き起こる。そして、入廷していた仲間たちも合流し、神戸地裁前は熱い熱い連帯の輪が瞬く間に広がった。夏の終わりの一齣(ひとこま)。1年4カ月に亘る裁判闘争の苦労が実る、至福の時であった。


新たな闘いのスタートが

9月5日。全日検協会は世論に押され「控訴断念」を表明。判決が確定した。しかし、謝罪はおろか、一片の反省の言葉もなく新たな施策を提案。裁判などなかったように、あるいは私たちが勝ちとった「判決」を無にするような、卑劣な提案であった。退職金の大幅な減額、上乗せも何もない「希望退職」、給与の分割払い、これらを全国的に提案。さらに神戸支部には、新賃金体系の導入(約30%カットに相当する)、希望転勤を独自提案。賃金協定(全国統一労働協約)を再度破棄し、協議が整わなければ一方的に実施することも表明している。そして、この「新たな提案」をするのはすべて神戸の裁判のため、という説明を労使交渉の場で行っている。

「神戸での裁判の結果、多額の資金が必要になり、そのため資金繰りが大変厳しくなりこの提案をせざるをえない」…。卑怯なり、全日検協会。

一息つく間もなく、また新たな闘いが始まった。しかし、私たちは後悔しない。闘ったからこそ勝ちとった「勝利判決」。ここに確信を持っている。そしてそれは、原告・家族、弁護団、支援の人たち、この三者が固く団結したからこそ勝利できたことを。

民法協の皆様方に、胸を張って「勝利報告」ができないことを心苦しく思うが、その楽しみは先にとっておこう。私たちは今、頭を抱えながらも新たな闘いを組織するために奮闘している。願わくば、引き続きの支援を心からお願いしたい。真に勝利できるその日まで。

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第40回総会報告

弁護士 白子 雅人


9月14日(土)、神戸タワーサイドホテル(元町)において民法協第40回総会が行われ、のべ30組合・団体、50人(うち弁護士5名)が参加した。

1 最初に

増田事務局長(弁護士)が、この間の重要な闘争として、全日検神戸支部労組の完全勝訴判決(神戸地裁・2002年8月23日、内容については、民法教ニュース416号)の意義を報告した。

本判決は、リストラの嵐がまさに吹き荒れる中、賃金50%カットという会社の攻撃を、多くの支援のなかでしりぞけたという点で極めて大きな意義があり、多くの労働者を励ますものである。会社は、控訴を断念せざるを得なかったが、この判決を逆手にとって、「雇用確保の方針は放棄せざるを得ない」、「神戸判決を履行するためには他地区の労働者の労働条件を下げなければならない」等と、これを労働者の分断の口実として利用する攻撃に出ており、このような策動を許さないよう団結強化の必要性を訴えた。


2 木下智史・神戸学院大学教授(青年法律家協会議長(全国)、憲法会議事務局長(兵庫)から「有事法制の行方と日本国憲法」というテーマで報告を行っていただいた。

@議論の前提として、「有事=戦争」であり、「備えあれば憂いなし」という議論の「備え」とは戦争に対する備えであることである。

憲法9条は「武力で国は守れなかった」という認識を基礎として制定され、戦後の国民の共感の下で正当性が確認されたものであるが、この憲法9条は自衛権を認めるという解釈をとっても、提起されている有事法制は違憲である。

あいまいな「武力攻撃のおそれ」、「武力攻撃が予測される事態」という概念やその際の国民の権利制限に対する懸念も広がってきた。

日経新聞の世論調査では、本年2月では、有事法制は必要との回答が不要との回答を上回っていたが、5月では逆転した。

Aそもそも、本法案が提起されるに至ったのは、数年前の北朝鮮の核疑惑に際して、アメリカは臨戦態勢を整え、日本政府に対して1506項目の要求を行ったが、これに応じる法整備が無く、このことがアメリカが軍事介入を断念せざるを得なかったという経緯によるものである。

現在、アフガニスタン攻撃のため、インド洋に展開している米艦隊への燃料補給の40%を自衛隊が行っている(!)が、このような「兵站(へいたん)活動」を行う自衛艦に対して、攻撃が行われた場合、日本本国に「武力攻撃の発生するおそれのある場合」ではなくとも「武力攻撃が予測される事態」であるとして有事法制が発動されうる。そして、これらの認定を行うのは事実上、内閣総理大臣であり、これに権限が集中する仕組みである。

B「国民保護」法制については、戦争事態を前提とするものであって、なにも人権を手厚く保障しようと努めるものではない。戦争が起こらないようにすることこそ国民を守ることである点を銘記すべきである。


3 情勢と活動報告(「議案書」参照)

@企業再編によって雇用を喪失し、別会社に転籍させられる中で労働条件が大幅に切り下げられる「企業再編リストラ」にどう取り組むかについて検討された。

A雇用破壊と非正規雇用の増大のもとで、30歳代から40歳代前半の正規労働者の長時間労働が増大し、これらの層の約25%が週60時間以上(時間外労働・週20時間以上)の労働をしている。これは、厚生労働省が改訂した過労死の認定基準(発症前1ヶ月:時間外労働100時間以上、発症前80時間以上)に匹敵するものであり、いつ過労死しても不思議ではない状況である。

B司法制度改革

労働事件における「調停」の強制(調停前置)や訴訟費用の敗訴者負担導入の危険性について報告された。

また、労使紛争について、就業規則に「仲裁」を盛り込もうとする動きがあり、このことによって労働者と使用者の間で仲裁契約成立との効力が認められることになれば,訴訟提起する権利を喪失してしまうことになり大きな問題である旨指摘された。

C労働委員会の民主化問題

前総会後に行政訴訟を提起したが、訴訟の中で、県・労政福祉課が知事に決裁案を提出する段階で、既に候補者を絞り込み、知事の「選考」が形骸化していることが明らかになった。

今後、本訴訟自体の取組も強化しつつ、団体署名の取組を強め、来年行われる第38期労働者委員選任に向けて取組を進めるよう議論された。

D解雇規制立法

我が国には、解雇を規制する明文規定が無く、裁判闘争で確立された判例法理(解雇濫用無効、整理解雇4要件等)も、判例に止まるならば常に動揺の危険にさらされる。

政府の「総合規制改革会議答申」でも「解雇基準やルールの立法化」を提言しており、いまが立法化の好機でもある。労働弁護団では、解雇規制立法に関する詳細な提言を行い、今後、これを議論や検討のたたき台として活用し、適正な解雇規制立法への世論形成を行う必要がある。


4 総会において

民法協40年の歴史と経験を明日につなぐ活動を行う必要性が提起され、今後、幹事会において具体化することとなった。

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労働判例研究会報告
仙台セクハラ事

弁護士 高本 知子


事案は、社内の女子トイレ内道具置場に男性社員が潜んでいた事件があり、それを発見した女性社員(原告)が店長に適切な対処を求めたにもかかわらず、店長が、仕事を優先するなどの、初期の適正迅速な事実調査義務、誠実かつ適正な事実調査義務を起こった過失があるとして、原告女性が最終的には職を失ったことの精神的苦痛に対して、雇用契約上の職場環境配慮義務違反を理由に損害賠償320万円と弁護士費用30万円を認めた事件です。

裁判所は、原告女性の雇用契約上の地位や不当解雇であるとの主張は否定しましたが、被告の不適切な対応が重なって精神的苦痛を覚えひいては退職するに至ったと判断し、慰謝料として320万円を認めたものです。原告女性の請求額には到底及びませんが、セクハラ事案では認容額は高額部類に属すると思われます。本件はトイレに潜んでいた男性が問題とされたのではなく、原告の上司の対応が問題とされました。女性トイレに男性が潜んでいた事実よりも仕事を優先し、原告女性の方が過剰反応をしているかのような言動や、潜んでいた男性社員の肩を持つような発言をしたり、直ちに潜んでいた男性から事情を聴取しないなどの行為が問題とされたもので、まさに職場の環境を整備する義務に違反したことをもって慰謝料が認められました。

職場環境整備義務はセクハラに限られませんから、例えば高齢者労働者のいじめなどにも応用が利くと思われ、今後の参考になると思います。

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緊急連載シリーズ「司法改革」bP
司法が変わる、社会が変わる

弁護士 田中 秀雄


最近、政界や官僚のスキャンダルが相次いでいる。また食品業界を中心とする産地詐称の問題といった不祥事が新聞をにぎわしている。日本の社会はまだ十分に開かれていない不透明な社会である。透明で公正なルールが社会の隅々まで行き渡るような社会を作り上げていくことが、現在の閉塞状態を打ち破って活力ある社会を作り上げていくカギであろう。現在司法の世界でも民事裁判・刑事裁判ともに問題が多く、抜本的な改革が必要である。兵庫民法協の会員の最大関心事である労働裁判もなかなか勝てない状況にある。

いま司法改革が進行している。司法は透明で公正なルールに従って紛争を解決することが使命である。司法は市民の人権を守る最後の砦であるという位置を付けられてはいるが、これをもっと大きくし、市民の方々に身近でたくましいものにすることが今の司法改革の目標である。

1999年6月に内閣に司法制度改革審議会が設置され、同審議会は2年間にわたる審議の末、2001年6月に提言をした。

その提言の中の1つは「司法をもっと身近な大きなものにするということ」でその一つが法律家(弁護士、裁判官、検察官)の数を大幅に増やすことである。

これについては、2010年に現在の2万人強の法律家を3万人にし、2018年に5万人にすることが予定されている。そして人数が増えてもその質を低下させないために、法曹教育機関として法科大学院の開設が決まっている。

また弁護士費用や裁判費用のない者でも法的サービスを受けられるように法律扶助制度の拡充や逮捕された者が被疑者の段階から国の費用で弁護人の依頼権を確保することが予定されている。

さらに裁判の中身をもっと充実しもっと早くすることが提言に中に盛られている。

これに加えて最も重要なことはこの司法改革に市民が主体的に参加する制度をつくることである。その一つとして裁判員制度が予定されている。これは、刑事事件の重罪事件について、専門の裁判官と国民の代表の裁判員が一緒になって裁判を行う制度である。このように、市民が主体的に裁判に参加することによって、市民の皆さんの健全な社会感覚が裁判に反映される。そのことによって現在の閉塞状況にある刑事裁判に風穴が開き、刑事裁判が大きく変わることが期待される。

これからの21世紀にあるべき社会は公正で透明なルールが支配する社会であり、市民一人ひとりの尊厳、一人ひとりの多様な生き方が大事にされるような社会でなければならない。日本国憲法が保障している国民主権が社会の中に真に根付くような社会にしていかなければならない。司法も市民のために役立つ司法でなければ意味はない。

昨年12月政府に司法制度改革推進本部ができ、現在10の検討会に分かれて検討中であるが、2004年11月末には検討が終了することになっている。

ところが現在多くの検討会では官僚主導の検討が行われていてせっかくの審議会の提案が骨抜きにされようとしている。何十年に一度のこの司法改革の機を無駄にしてはならない。今、市民ができることは市民も声を直接司法制度改革推進本部に届けることである。ハガキやメールなどで市民の声を直接司法制度改革推進本部に届けることによって、少しでも良い司法改革ができるようにしなければならない。

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