《第419号あらまし》
 仮処分全面勝利に思う
 須磨学園依藤解雇事件で仮処分全面認容
 地労委選任問題 
 権利講座報告
     @団体交渉のルール
     A労働協約の基礎
 リストラ・残業110番報告
 緊急報告 「解雇自由化法を許さない」


仮処分全面勝利に思う

須磨学園高等学校 依藤  薫


第5回公判を二日後に控えた11月11日いつものように出勤すると法律事務所から、仮処分の決定が出たのでファックスで送りますとの連絡あり、あまりにも突然のことで驚きました。書面を読み終えても何か信じられずただボーッとしていると「早よ、奥さんに電話したりや」と言われ初めて「勝ったんや」と実感がこみ上げてきました。

この仮処分申請のため6月より全国から教職員組合の団体署名を集めだし、11月には、県下の小学校、中学校、高等学校を回り(分会名を団体署名に書くほうが裁判官にインパクトを与えるとアドバイスをうけたので)終え、やっと300団体を超えて、11月1日と8日に裁判所へ提出したばかりでした。総数は358筆になりました。当然この11日も西宮、京都方面の学校回りに行く予定でした。そういうわけで11日は、全国私教連、各単組、争議団、各団体への報告やら、激励の電話やらで、大変充実した一日になりました。

帰宅後、何度も何度も書面を読み返し、こちらの言い分を裁判官は、すべて認めてくださったと思いました。やはり一番嬉しかったのは、西和彦学園長の発言「先生は病気ではないか、通院歴はあるか、生徒から不評を買っている、レポートを3度も書き直すような無能なバカな教員はいらん。」を「高圧的で債権者の人格を傷つける不穏当なもの」と書いてくれたことです。また書面の下書きを書くとき、お世話になっている二人の弁護士の先生から「反論は相手側の土俵に登ってから、しなさい」と言われたのが良かったと思っています。それに私教連の書記長から主文について支払いの期間が制約されていないのと「本案判決確定に至るまで」と書かれている、これは画期的な内容であると言われました。

11月13日の第5回公判には、平日にも拘らず23名(大私教、争議団、救援会、兵庫私教連、退職者、友人)もの傍聴がありました。学園側は相変わらず清井弁護士一人きりでした。

裁判長は仮処分決定を踏まえて双方で11月27日に話し合いをするようにと勧告しました。

注)11月27日から12月12日11:30に変更。

またこれとは別に、1月27日キ10:30より学園側証人と依藤本人の証言調べが行われます。

私は早期教壇復帰をめざし頑張ります。ご支援よろしくお願いします。

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須磨学園依藤解雇事件で仮処分全面認容

弁護士 萩田  満


1 経過

須磨学園依藤事件は、本年11月8日に仮処分全面認容決定が出された(神戸地裁第6民事部松村裁判官)。

本事件の経過は、既報(第406、411、415号)ではあるものの、ざっとおさらいしておくと、2001年3月下旬に風雲児のごとく学園校長に就任した西和彦氏(もと「アスキー」社長)が、3月30日突如、依藤薫先生に「1年間の自宅待機処分を命ずる。02年3月末日で解雇する」と異様な解雇予告をしてきたというものであった。

この間、依藤先生は、兵庫私教連に加盟し、解雇撤回の団交を求めてきた。しかし、学園側に団交を拒否されたため地労委に不当労働行為救済申立をしその結果団交が開かれたものの、解雇撤回には至らず、02年4月(解雇後)に解雇無効を主張して、本訴(神戸民事第6部水野裁判官)および仮処分を申し立てていた。

学園側の弁護士は、学内理事も兼務している東京の弁護士であった。

本訴も仮処分も同内容をもって展開された。学園側の主張(解雇理由書)は、職務適格性を欠くというものであって、数学の教科指導能力、クラス担任能力、業務を処理しない、共同的な業務に非協力的、服務態度が悪い、などが挙げられていた。

これら1つ1つについて詳細に反論をした訴状、仮処分申立書を提出した段階で裁判の帰趨は見えていたのかもしれない(書面作成は本上弁護士である)。学園側弁護士は、これらについてまともな反論ができない上、さらに依藤先生は縁故採用だったとか、学歴詐称だった等という主張までも追加してきたのであった。


2 決定内容の検討

数回に及ぶ審尋を経て、裁判所は、学園側の主張をほぼ一蹴し、仮処分を全面的に認容する決定を言い渡した。

その決定は、ほとんど依藤先生側の主張を認めたものであった。

(1)決定主文

・債権者(依藤先生)が債務者(須磨学園)に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める

・債務者は、債権者に対し平成14年4月1日から本案判決確定に至るまで月額賃金を仮に支払え

(2)解説

言うまでもなく、解雇無効を争う場合、労働者たる地位を仮に認めてもらうと言うことは容易ではない。本案で決着が付くまでは賃金仮払いだけで十分だろう、という理屈である。しかし、本件では、この労働者たる地位をも仮に認めるという点で意義がある。ここで、裁判所の理由付けは、「教職のスキル並びに社会保険の資格の維持、継続をはかるため」というものである。すなわち、教職とは生徒と日夜接し対話を続けることでスキルが維持されるのであって学校現場を離れてしまってはスキルが大幅に低下するおそれがある、また国保より有利な私学共済の被共済者の地位を継続するためには教職員(共済組合員)の地位を認める必要があるというのである。したがって、本決定は、仮の地位を認める申立をする際に大いに参考になるものではないかと思われる。

さらに、賃金仮払いも、近年の裁判動向を大きく踏み出して、本案判決確定(1審判決確定ではなく)までの仮払いを認めるというすばらしいものであった。


3 今後の展望

以上のとおり仮処分事件は完全勝利といえるものだったが、今後は本訴の証人(本人)尋問等が残されており、年度内には判決が言い渡される予定であり、また本訴裁判官が和解の可能性について打診している。

本事件の全面解決は、もちろん裁判・弁護士のみにゆだねられているものではなく、依藤先生の真実を訴える力、また、私教連を軸とした支援活動、その集積としての署名活動など幅広い裁判外の闘争に支えられている。

今後、本事件がどう展開していくかは、依藤先生を中心とした裁判内外の運動や情勢判断の中で決せられる。引き続きご支援をお願いしたい。

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地労委選任問題
労働者委員選任問題は偏向選任した行政の責任である。兵庫県地労委第38期労働者委員の選任は公平・公正な知事の任命を求める。

川重争議団 神野 忠弘


1、はじめに

「労働委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」は11月1日サ、「兵庫県地方労働委員会第38期労働者委員の公平・公正な任命を求める」要請を兵庫県に行いました。

この要請行動には建交労、港湾労組、JMIU、私学、国公、争議団など県下各地から当初の予想を上回る40名のみなさんが参加しました。

多人数であるとの理由で兵庫県は会場を中央労働センターに急きょ変更し、対応は労政福祉課労使団体係係長ら二名が対応しました。

突然の会場変更について県は、

@県庁舎内では5名以内の陳情しか受け付けていないこと。

Aこれまで若干は20名程度まで受け付けていたこと。

B30名以上になると庁舎管理上で問題。

C県庁内の研修室などの大部屋はあるが要請を受ける部屋ではない。と答弁しましたが会場の変更はどなたも納得しませんでした。

課長が対応しないことについて、

@労政福祉課長は外出していること。

A本日は第38期の要請であり、聞きおく。という回答でした。責任のある対応でないことに強く抗議をしました。


2、今回の要請行動

兵庫県地労委は労働者救済機関でありながら労働者委員は1989年・第31期より第37期までを「兵庫連合」が独占しており、こうした偏向選任は決裁案を兵庫県労政福祉課で起案し、知事の決裁を経て任命されることが公判で明らかにされました。

労働組合運動において、運動方針を異にする潮流・系統が存在する以上、労働者委員の構成においても「系統別の組合数および組合員数に比例させたり、産業別や地域を考慮すること」は必要なことであるにもかかわらず、少なくともこの14年間は考慮されませんでした。

「兵庫連合」推薦の労働者委員が推薦され、他の労組推薦候補が推薦されない理由は何なのか。あるとすれば、偏向的な推薦としか考えられないが如何なものか。

2001年9月に、第37期労働者委員の選任を取り消す行政訴訟を起こしたのは、労働省54号通牒が生かされないばかりか、凡そ公正・公平な選任がされたと言えるものが見当たらないという理由からで、「労働委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」が行政訴訟まですることの意味深さに理解を求めました。

兵庫県では、県総評と兵庫同盟が結成された後の1964年、第19期から1987年、第30期までの労働者委員の任命は県総評3名、兵庫同盟3名、中立系1名の割当が維持されてきました。これは潮流・系統別や多様性を考慮したものであります。

現在、県下の組織労働者は約47万人で兵庫連合は約28万人、59.3%であり、7名全員が連合推薦で占められることは理解しがたいというのは当然のことであります。


3、54号通牒を生かせ

兵庫県地労委では、申立人に対し「労働者委員が質問をする」。こうしたことは一度もなく誰が労働者委員なのか、存在感はまったくありません。さらに労働者委員から有効な助言や援助を受けることもありませんでした。

これは労働者委員7名の全てが「兵庫連合」であり、労働署の54号通牒が生かされていないためで、労働者と労働組合にとっては選任問題は民主主義の視点からも重要な問題になってきており、知事に直接お合いして訴えをさせて戴きたい。これが要請の主旨です。

今回の要請は、第37期の労働者委員選任問題は「公判」でたたかわれており、労働者委員選任は第31期からの偏向任命によるもので、選任した基準について、コメントをお願いしたい。と県側に回答を求めました。 兵庫県としては「公判」で争われておりコメント出来ない。第38期については「本年は選任を予定をしていないのでコメント出来ない。要請内容は上に伝えるが第38期については答えられない。」「任命作業についても答えられないが法令に基づいて手続きは行われている」と、回答しました。

県側の「労働者委員推薦候補の資格審査は公平にした」としているが、事実は労政福祉課が出した「決裁案」がそのまま採用されている。何が基準なのか明らかにされないままに決裁案が起案通りそのまま採用されており、非「連合」は蹴られても「兵庫連合」が蹴られたケースは一度もありません。

結果は第31期から37期までの14年間は「兵庫連合」が労働者委員7名を占めており、「兵庫連合」以外の推薦者には、あんたはダメと言われただけで、まともに答えられるものを県当局は持っておりません。

「公正な選任をしていると言うなら、54号通牒をどう扱ったのか説明してほしい」。「偏向選任では潮流間差別・組合間差別に地労委は機能しないことになります。」「あんたはダメでは理由にならない。公正・公正に選任したというなら、その判断基準を示して戴きたい。」

こうした兵庫の労働者委員選任がいいのか、悪いのか。これが良いというなら、「労働者が労働者委員に相談にいけない仕組みのどこが良いのか」。「県当局は労働者委員に相談に行けば良いと言われるが労働者委員に相談に行けない仕組みなっていることを認識してほしい」。

「兵庫県は労働組合の役割と機能を発揮できるように考えているとは思えない」。「偏向任命は民主主義を壊していると思わないのか」。「兵庫県は労働者委員に相談に行きたくとも行けないのに、相談に行け」と言っている。これは「労働者委員の責任だけではなく、任命権者の兵庫県の責任である」。


4、連合職場の差別の苦情処理

連合組合の反執行部派であるいう理由で、潮流間差別を受けており、現在、地労委にかかっている川重・賃金差別事件の場合ですが、18年間同じ格付けに据え置かれてきました。組合には苦情処理を申請してきました。組合から戻ってくる回答といえば、組合応接室に呼び出されて、これが回答だと川重からの文書をいつも一字一句読み上げました。

会社の文書を読み上げだけならコピーして渡してほしい、と言えば、それは出来ないと馬鹿丁寧に読み上げるのです。毎回、毎回、これの繰返でした。毎年の12月に苦情処理申請をするのですが回答は年が明けた7月頃から10月頃の間の忘れた頃に回答でした。問題を解決をしようとする気持ちはありませんでした。

会社の回答文に組合が付け加えて言うことは「グループ全体をまとまりが付きにくいように浸透させている。全体のこの傾向は変わっていない」「だから進級出来ない」。

「隔離され、仕事も与えて貰っていない」の回答でも、「会社は営利会社なので損なことはしない。勿体ないというより得策を考えているのだ」と回答するだけで、「会社は正しく純粋に処遇していると言っている。言っているから問題はない」と、回答してきました。

組合間差別でも潮流間差別と同じことが言えると思います。例えば国労採用差別事件を見ても、組合所属あるいは組合活動を理由の採用差別は明らかであり、所属組合の弱体化をねらったもので団結権の否定に等しい。その責任はJRと国が負うべきものでありますが、その責任を取らず解決に至っていません。

このように同じ人間同士なのに、職場では歯ぎしりするような差別がいっぱい起こっていて、それが職場支配の不当労働行為に繋がっているのです。


5、兵庫県と労政福祉課の責任

潮流間差別や組合間差別は「不当労働行為」であると申し立てても、職場内の「連合」組合は不当差別でないと経営者と歩調を合わせて、全面に出て握りつぶそうとする態度の中で、県当局が片棒を担ぐのではなく、「一歩、足を踏み出して労働者と労働組合の権利確保のために兵庫県も責任を持ってほしい。」「兵庫県が人間の心を持っているのなら、示してほしい。」「切実な要求をもって要請にきたことに理解を示してほしい。」と、今回の県側の態度のあまりに酷い態度に抗議をしました。

今回は、地労委が制度として「労働者救済任務を発揮してほしい」という要請行動でありました。潮流間差別の審問においても、組合間差別においても、申立人は参与労働者委員の拒否などは一度もしていません。その為か、甘く見ている県側の態度には驚きました。ともかく、労働者の誰もが権利の後退を喜ぶことはありません。そして地労委を活用する全ての労働組合と労働者は労働者委員と心から話し合いの場を持ち解決したいと望んでおります。

しかし労働者委員との距離は広がるばかりです。労働者委員と共同できることを望んでいますがそれもかなわず、労働者委員と話し合いのテーブルがあることがどんなに素晴らしいことかと、距離を縮める必要を痛感しています。

今回の要請行動は、労働者が相談できる労働者委員の実現を求めての要請であり、第38期労働者委員任命について検討をお願いするのは当然で、知事が現実味を持って受け止めて戴き、@地労委を質の高い公平・公正さを労働者に提供する労働行政の場にして戴きたいこと、A行政の常識と知性が結合した地労委にして戴きたいこと、B民主主義と労働者の人権が守られる地労委にして戴きたいということです。

要求実現まではどんな努力も惜しまずにがんばります。

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権利講座報告
@団体交渉のルール

弁護士 萩田  満


1 団体交渉

団体交渉とは、「労働者の集団または労働組合が代表者を通じて使用者または使用者団体の代表者と労働者の待遇または労使関係上のルールについて合意を達成することを目的として交渉を行うこと」と定義されています。

ここで「団体交渉」と「労使協議」の違いは、団体交渉が憲法で保障された労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)の1つであるのに対して、労使協議は労使間の合意や慣行などに基づく話し合いということになります。また、一般的に団体交渉は、争議行為などを前提とすることが多いようです(たとえば春闘)。


2 日本の団体交渉

日本の団体交渉についての法制度は、「助成型」・「複数組合交渉代表制」と言われています。

前者は使用者側に団体交渉義務が課せられているというもので、後者は、複数組合がある場合、組合は自己の組合員についてのみ団体交渉権を持つとともに、少数組合であっても団体交渉権があるというものです。


3 団体交渉の当事者と担当者

団体交渉の当事者は、主に単位組合、分会、組合支部ということが多いと思います。

まれに使用者が「組合である証拠を見せないと団交はしない」ということがありますが、もし組合員の特定を避けようと思えば、労働委員会の資格審査を経ておく必要があります。

また、上部団体にも交渉権限があるかといえば、それは組合の委任の程度によるということになります。

つぎに、団交の相手方すなわち使用者側の担当者は、当該事項につき処理権限(妥協権限、協約締結権限)がないとの理由で団体交渉を拒否できるものではなく、交渉に応じたうえ、妥結または協約締結に関しては権限者と諮って適宜の処置を執る必要があります(都城郵便局事件。最判S51・6・3労判254号20頁)。


4 団体交渉の対象事項

まず、使用者が任意に応じればどのような事項も団体交渉の対象となりうるのですが、中でも使用者が団体交渉義務を負うもの(義務的団交事項)というものがあります。使用者がこれらの事項について団交を拒否した場合、不当労働行為になります。

一般的に、義務的団交事項は「構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」と定義されており、組合員の労働条件その他の待遇、組合員の人事に関する事項(組合員の配転や懲戒の基準や手続、人事考課の基準・手続・運用、特定組合員に対してなされた配転、解雇などの撤回要求なども含む)、経営・生産に関する事項のうち、労働条件や雇用そのものに関係ある事項、団体的労使関係の運営に関する事項がこれにあたると言われています。


5 使用者の団体交渉義務

使用者は、組合の要求に対し、その具体性や追及に応じた回答をし、必要によってはそれらにつき論拠を示したり必要な資料を提供する義務があります(団交義務)。

他方、使用者には組合の要求を認めたり譲歩をする義務まではありません。

一般的に、合意達成の意思のないことを予め明確にした交渉態度、実際上交渉権限のないものによる見せかけだけの交渉、議題の実質的検討に入らない交渉態度、組合の要求に対する回答などの具体的対応の不足等が団交義務違反に該当すると言われ、他方、行き詰まりによる交渉決裂は団交義務違反とはいえません。

使用者が団交を拒否した場合、労働委員会を利用して@不当労働行為の救済申立、A労働争議のあっせん申請をすることができます。労働委員会は簡易迅速をうたっていますが、実際には手続が遅く救済手段としての有効性には多少疑問があります。

また、裁判で団交義務違反を争う場合、現在は、「組合に団体交渉を求める地位があること」を確認することまでしか認められていないといわれます。

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権利講座報告
A労働協約の基礎

弁護士 増田 正幸


1 労働協約とは

「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協定であって書面に作成され、両当事者が署名又は記名押印したもの」と定義されている。したがって、口頭の約束や文書でも当事者の署名・記名押印を欠くものは労働協約とはいえない。ただし、表題は「労働協約」ではなくとも「協定」「覚書」など何でもよいし表題がなくともかまわない。

なぜ、このような厳格な要件が定められているかといえば、それは、労働協約は協約当事者である組合と使用者との約束であるにもかかわらず、それが組合員(時には非組合員)を拘束することがあるからである。

労働協約で「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」を定めた場合、その効力は当然に組合員にも及び(労組法16条・規範的効力)、その基準に違反する労働契約の部分は無効とされ、無効となった部分や労働契約に定めがない部分は労働協約に定める基準によるとされている(これを規範的効力という)。

以下は、主として規範的効力について述べる。


2 従前の労働条件よりも下回る労働協約が締結されたり改定された場合、どうなるか。

この点、判例は、改訂労働協約が極めて不合理であるとか特定の労働者を不利益に取り扱うことを意図して締結されたなど、明らかに労組法の精神に反する特段の事情がないかぎり、労働条件を不利益に変更する労働協約も組合員を拘束する(規範的効力を有する)としている。

しかし、そもそも労働者は労働条件の維持改善のための活動を期待して組合に加入しているのであるから、組合が協約の締結を通じて労働条件を引き下げることはそのような期待に反する。

そこで、労働条件の不利益変更を内容とする協約の締結・改訂にあたっては通常の場合よりも慎重な手続を要するというべきである。たとえば、組合大会、代議員大会、全員投票など組合員全員の実質的な参加を保障する民主的手続による事前又は事後の承認を得ることである。そして、一部の組合員に甚だしい不利益を課すような協約条項はいかに民主的な手続を踏んで締結されたとしても規範的効力を付与すべきでない。


3 協約自治の限界

労働者の多様化により組合員間でも利害関係の相違が拡大している。また、労使協調体制の進展や組合運営の官僚化によって組合員全体の意思を反映しない協約条項や少数労働者の利益を甚だしく害する協約条項が個々の組合員を拘束するのかどうかが問題になるケースが増えている。

@ 協約等にもとづいて組合員が獲得した権利を労働協約により処理できない。

したがって、弁済期到来後の未払賃金や未払退職金の支払猶予や一部放棄を協約で定めてもいったん発生した賃金請求権や退職金請求権を左右することはできない。

A「使用者は業務上の必要により組合員を出向・配転させることがある」という協約条項が定められる場合がある。 

判例は、協約にこのような条項があると使用者に出向・配転命令権が付与されているものと取り扱う。その結果、今日では労働者が配転・出向により多大の不利益を被ることになっても出向・配転の効力を争うことは困難になっている(したがって組合は協約にかかる条項を定めるべきではない)。

B「使用者は業務上の必要により組合員に時間外労働を命ずることがある」という協約条項が定めた場合も同様の問題が生ずる。使用者が労働者に残業を命ずるためには労基法36条で定めた労使協定(「36協定」)を定めて労働基準監督署に届けなければならないが、これは労働協約とは異なるもので、36協定の締結・届出をすることによって、使用者が残業を命じても罰せられることがないという効果を生ずるにすぎない。すなわち、労基法上の36協定を締結するだけでは労働者は使用者の残業命令に応ずる義務は生じない。ところが、労働協約で上記のような協約条項を定めた場合、判例の考え方によれば、これを根拠に使用者が個々の労働者に対して残業命令を発することを認められることになる。


4 今日、経営側は、部門、事業場の実績に応じたコスト管理をするために職場毎に労働条件を分断することを企図している。

これに対して、統一的な労働条件を維持するために労働協約による労働条件の規制が重要である。

また、正社員の労働条件を守るためにも不安定雇用労働者の労働条件の協約化や不安定雇用労働者に正社員への途を開く協約や職場における不安定雇用の割合を制限する協約が必要である。

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リストラ・残業110番報告

弁護士 増田 正幸


(1)12月7日午前10時から午後4時まで、日本労働弁護団主催の全国一斉(今回は、全国26カ所で実施)リストラ・残業110番が実施され、兵庫県は民法協として参加し、当日は民法協所属弁護士12名が交代で対応した。

不況を理由としたリストラや労働条件の切り下げと同時に、事実上のコスト切り下げ方法としてサービス残業が横行している。厚労省は労働時間管理を厳重に行うよう通達し、最近は労基署も違法残業に対する指導を強化しているが、中小の職場では改善されていない。そこで、サービス残業や違法残業についての相談も重視するという趣旨で今回は「リストラ・残業110番」というタイトルで実施した。

近時は、毎年6月と12月の年2回に電話相談を実施しているが、最近の実績は以下のとおり。

2001年6月2日 全国556件 兵庫18件

2001年12月1日 全国630件 兵庫19件

2002年6月1日 全国604件 兵庫33件


(2)今回も2002年6月と同様,電話を置く間がないほど相談が相次いだ。

相談件数の合計は30件(延べ32件)。



内 訳
解雇 7件
希望退職・退職強要・退職勧奨 2件
賃金不払い 16件
労働条件切り下げ 1件
労災 1件
いじめ、嫌がらせ 1件
セクシャルハラスメント 1件

であった

相談者の年齢のわかっている25名中
20歳代 6名
30歳代 4名
40歳代 5名
50歳代 9名

と50歳代の相談が多いものの、どの年齢層からも相談があった。
 また、組合の有無が判明している24名中20名(83%)が勤務する職場には組合がなかった。

(3)相談の中には以下のようなものがあった。特に、退職金や残業割増手当の不払いの相談が半数を占めたのが特徴的である。

◆月60時間から80時間は残業しているが、時間管理は一切されておらず残業割増賃金が一切つかないし、有休もとれない(52歳女性)

◆残業割増賃金が一切支払われない(29歳男性・41歳男性・55歳男性)

◆8時に出勤しているのに出勤簿には9時と記入させられる(26歳男性)

◆定額の残業手当しか支払われずそれ以上はサービス残業(32歳男性・46歳男性)

◆月10時間以内の残業手当しか支払われない(25歳男性)

◆明石にある外資系の大手化学メーカーで退職勧奨に応じない労働者を隔離して仕事を与えないという相談が2002年6月の110番で寄せられていたが、同じ企業で2002年9月以降、さらに20%の人員を削減する方針を示され、全員面接の上、「君は下から20%以内の評価だから希望退職に応じて退職金の上積みをもらっておいた方がよい。拒否したら損をすることになる。」と言われた。もし退職勧奨を拒否して隔離部屋に入れられたら困るし、既定の退職金だけで解雇されるよりは退職金の上積みをしてもらった方がよいと悩んだ末、退職届を出した(39歳男性)

◆退職を勧奨されたが、拒否すると、今後、いかなる条件でも一生懸命勤務する旨の誓約書を提出させられた。間もなく、賃金を3年間で35%減給することと退職金金額頭打ちを通告された(49歳男性)

(4)相談者の多くは、相談はするものの弁護士に依頼して法的措置を取ることまでは決意がつきかねるという人が多かった。しかし、どの相談例も違法性は明白であり、労働組合が存在し機能していれば改善できるものばかりであり、組合が存在しない、ないしは充分機能しないために相談者が一人悩んでいるものであり、歯がゆい思いで相談を聞いた。

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緊急報告 「解雇自由化法を許さない」

弁護士 増田 正幸


厚労省は、2002年12月に解雇規制に関する労基法改正の考え方を示した。

新聞報道によれば解雇の要件を明文化することばかりが強調されているが、厚労省の方針は、以下に述べるとおり、解雇の自由化、不安定雇用の推進、裁量労働制の要件緩和などきわめて重大な内容を含んでいる。厚労省は、上記方針にもとづき2003年にも労働基準法「改正」を企図しており、早急に、民法協として取り組みを強化する必要がある。


1 有期労働契約の上限の延長

@ 有期労働契約が更新を繰り返していることにより一定期間継続して雇用されている現状にかんがみ

@ 有期労働契約の期間の上限の1年を3年に延長する。

A 公認会計士、医師等高度な専門的知識、技術又は経験を有する業務及び60歳以上の高齢者を雇用する場合は5年にする。

A 有期労働契約の締結・更新・雇止めについて使用者に対する指導、助言の基準を定めて、その基準には一定期間以上雇用された有期契約労働者に対して雇止めをするとき雇止めの予告をすることを定める。


2 解雇規制

@ 判例において確立している解雇権濫用法理に即して、「使用者は労働者を解雇できるが、使用者が正当な理由がなく行った解雇は、その権利の濫用として、無効とする」ことを労基法に規定する。

A 解雇を予告された労働者は退職の日の前でも使用者に対して解雇の理由を記載した文書の交付を請求できることとする。

B 解雇の効力が裁判で争われた場合において、裁判所が当該解雇を無効として、解雇された労働者の労働契約上の地位を確認した場合であっても、実際には現職復帰が円滑に行われないケースも多いことにかんがみ、裁判所が当該解雇は無効であると判断したときには、労使当事者の申立てに基づき、雇用関係を維持しがたい事由がある等の一定の要件の下で、当該契約を終了させ,使用者に対し、労働者に一定の額の金銭の支払いを命ずることができることとする。

この場合に、支払を命ずる金額は、労働者の勤続年数その他の事情を考慮して厚生労働大臣が定める額とすることを含めて、その定め方について今後検討する。


3 裁量労働制の要件緩和

@ 成果等が必ずしも労働時間の長短に比例しない性格の業務を行う労働者が増加するなど、働き方が変化していることにかんがみ、企画業務型裁量労働制の導入、運用を簡素化する。

@ 労使委員会の決議を全員一致制度から委員の5分の4以上の多数決に変える。

A 労使委員会の労働者代表委員について労働者の過半数の信任をあらためて得なければならない要件を廃止すること。

B 労使委員会の設置について行政官庁に届出を不要とする。

C 健康・福祉確保措置の実施状況等の行政官庁への報告を簡素化する。

D 労使委員会の決議の有効期間に係る暫定措置(有効期間を1年とする)の廃止。

A 対象事業場を現在対象となっている「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」に限定しないこととする。

B 時間外・休日労働等について、現在、労使協定に代えて労使委員会の委員全員による合意による決議を行うことができるとされているが、この協定代替決議についても、委員の5分の4以上の多数決で足りることとする。


4 とくに解雇規制については

解雇は原則自由であり、例外的に正当な理由のない解雇が無効であるという規定の仕方をされることによって、使用者に解雇の正当理由の立証責任を課すのではなく、労働者に解雇に正当理由のないことの立証責任を課すことになれば、事実上解雇の無効を争うことが困難になってしまうのではないかという危惧がある。

また、何よりも問題は、解雇に正当な理由がなく解雇が無効の場合でも、使用者は所定の金銭の支払いによって当該労働者を職場から排除することが可能になることである。

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