《第426号あらまし》
 須磨学園事件・大阪高裁で解雇撤回の和解成立
 須磨学園・依藤闘争の和解解決について
 第10回公判貝原俊民前兵庫県知事を証人尋問
 またまた、労働基準法「改正」される(2003.6.27)
 緊急連載シリーズ「司法改革」 bS労働裁判が変わる??


須磨学園事件
  大阪高裁で解雇撤回の和解成立

須磨学園高等学校 依藤 薫

新潟県の越後湯沢で開かれていました全私研を初日できりあげ、平成15年7月29日に須磨学園と大阪高裁で和解交渉に臨みました。学園側2人と組合側3人と裁判官1人の6人で高裁第9民事部和解室において和解しました。

「控訴人(須磨学園)は、被控訴人(依藤薫)に対し、控訴人が平成13年3月31日被控訴人に対してなした、平成14年3月末日をもって解雇する旨の解雇予告の意思表示を撤回する」から始まる和解条項を見たとき、私はブルッ、ブルッと全身が震えたのをよく覚えています。解雇を撤回させ、退職日を平成15年7月31日とし、解決金支払いという内容でした。2年4ケ月前に学園長(当時校長)から屈辱的な言葉で解雇予告されたこと、泣く泣く学園を去っていった多くの同僚のことが思い起こされました。和解の話し合いが終わり、高裁の玄関のところで弁護士の本上先生はニッコリと微笑みながら「依藤さんは、よく頑張ったと思う」と言われ感無量になりました。

今回の解雇を撤回させた要因としては、ビラ・支援ニュース等で裁判の進捗状況が迅速かつ的確に私教連組合員・支援会員・支援団体に伝わり、同時に街頭宣伝や各戸配布も効果的に行われたことが挙げられると思います。残念ながら職場復帰を果すことができませんでしたが、私の解雇予告を契機として、18年間放置されてきた須磨学園就業規則等も全面改訂されました。須磨学園では創立以来、組合の結成が妨げられてきましたが、今回の闘争にあたって私学労組須磨学園分会を立ち上げ、団体交渉等の活動を行い「誰でも闘えば、ここまで出来る」ことを示し、学園内部にも大きな反響があったことを強く実感しました。今後は須磨学園の民主化に向け側面から応援していきたいと考えております。

ここまで出来たのは私一人の力だけではありません。兵庫私教連の組合員の先生方、支援する会のみなさん、小中高の公立学校(県高教組、市高教組、兵庫教組)の先生方、国民救援会をはじめとする各団体、川崎重工をはじめとする争議団のみなさん、板宿周辺地元のみなさんのお力添えがあったからです。しかも兵庫県内にとどまらず全国的な規模にまで拡がっていきました。須磨学園高等学校教諭依藤 薫をここまでご支援ご声援して下さいまして誠にありがとうございました。

最後に、途中何度も何度もくじけそうになった時いつも励ましてくれた妻と二人の息子に感謝したいと思います。

皆様、ほんとうにありがとうございました。


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須磨学園・依藤闘争の和解解決について

須磨学園・依藤先生の教壇復帰を支援する会
会長 美野 和夫

依藤先生が須磨学園西 和彦校長(現学園長)、西 泰子理事長から不当な言いがかりによって解雇を予告されてから2年余り、依藤先生と組合による話し合い解決の道を学園側が拒み、解雇を強行してから1年余り、この事件は「教師不適格」を争点とする解雇事件の一つの典型として、全国の注目をあつめてきました。

この間、須磨学園内外への情宣活動、教育界を中心とした団体署名の拡大等を背景に、代理人の綿密な立証によって学園が次々と繰り出した「不適格」理由はことごとく論破され、仮処分決定、一審判決において解雇無効の勝利を勝ち取ることができました。

7月29日、大阪高裁で成立した和解はその延長に立つものであり、解雇を取り消し、依藤先生の将来についても金銭解決としては、ほぼ最大限の譲歩を引き出した勝利的和解と考えられます。もとより、「支援する会」は正式名称に「教壇復帰」をかかげたように原職復帰を目的としてきましたし、依藤先生もそれを当然の目標としてこられました。その意味では課題を残した勝利であると言わねばなりません。

全国の裁判闘争の教訓から、職場復帰への最大の鍵は学園内部に当局の不当な政策への抵抗力を育てることにかかっていました。須磨学園教職員に依藤闘争が与えた影響には、大きな手応えがありましたが、依藤先生の復帰を実現するだけの状況にないと判断いたしました。

このような限界はありながら、依藤闘争は今後も頻発するであろう私学の「合理化」に対して、適切に闘えば必ず勝利できるという教訓を残したと考えられます。須磨学園の職場の中にも将来必ず芽をふいてくるであろう抵抗の種子を沈潜させていることでしょう。

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第10回公判貝原俊民前兵庫県知事を証人尋問

兵庫労連事務局次長 丸山 寛

神戸地裁大法廷は傍聴者でいっぱい

第10回公判は、当初7月15日に予定されていましたが、貝原前知事の都合で9月2日に延期されていました。公判は、神戸地裁101号大法廷を満席に埋めて、午前10時30分より開かれました。

前県知事の証人尋問とあって、9時過ぎから傍聴者がおしかけ、整理券を確保するため長蛇の列をつくり、関心の高さを示しました。連絡会からは、26団体から約60人が参加、滋賀労連からも杉田事務局長が傍聴にこられました。

連合は6団体、約17人の傍聴参加者を組織していました。

「記憶にない」を連発、はぐらかし答弁に終始!

使用者側に有利な機関に変質させた「任命責任」は重罪!

貝原氏は原告代理人弁護士の質問に、労働委員を選任するにあたり、「推薦者の中から労働者委員に最も適した人物」「推薦組合の規模、全体を網羅する分野、労働委員会活動を理解」「県の産業構造を考えて、特定の産業に偏らない」「第54号通牒は、単なる通達、一つの参考にすぎない」など、県独自の考え方で選任したことを強調していました。しかし、都合の悪いことには「記憶にない」を連発し、はぐらかし答弁など逃げの一手に終始しました。また、「労働者全体の利益をカバーするには大きければ大きいほど相応しい」とも答弁し、「大企業偏重論」を展開しました。

地労委を利用する大半が中小規模の労組や労働者で、「連合」に独占された労働者委員では、その切実な声・実態を理解できず、労働者救済機関としての役割を果たしていないのが実態です。地労委本来の役割を失わせ、企業・使用者側に有利な機関に変質させた前知事の任命責任は、非常に罪深いものです。

知事は決済印を押すだけ?

労働者委員は特定組合の指定席?これっておかしくない?

30期に金属関係から窪田さんと石本さんが任命されており、定数7人中2人も同じ産業から任命されている事実を指摘し、「特定の産業分野に偏らない」という答弁との矛盾を追及され、苦し紛れに「当時は非常に大きい組織」と逃げの答弁。34期にも金属関係から2人が任命されており、こんな答弁では説明不能です。

31期から37期まで、特定の労働組合から任命されていることが、資料で明らかにされました。この資料を突きつけられ、「ルールがあったということはない。結果としてそうなった」と言い訳しましたが、資料(別表参照)を見れば一目瞭然です。特定の労働組合枠が決まって指定席となっており、知事は決済印を押すだけ。誰が決済しても同じなのでは?とだれもが疑問を持つのではないでしょうか?

1 2 3 4 5 6 7
全国金属労組 新日鉄広畑労組 ゼンセン同盟 造船重機 兵庫県交運労協 自治労・NTT労組 関電労組・クボタ労組
30期
S62・4・1

H15・18
窪田鐵夫 稗田善治 (S62・12・25〜)
佐々木恵四郎
松浦寛 南吉正信 橋本伊三男
全国金属労組
兵庫地本委員長
・新日鉄広畑労組
組合長
・特別中央執行委員 ・三菱重工労組
神戸造船支部委員長
・山陽電鉄労組
特別執行委員
・関電労組
兵庫地本委員長
31期
H1・5・19

H3・5・30
窪田鐵夫 稗田善治 好城秀行 松浦寛 橋爪磴 小池光雄 橋本伊三男
・全国金属労組
兵庫地本委員長
・連合兵庫顧問
・新日鉄広畑労組
組合長
・西播地方労会議議長
・兵庫県支部長
・連合兵庫副会長
三菱重工労組
神戸造船支部委員長
連合兵庫副会長(会長代理)
・神姫バス労組委員長
・連合兵庫副会長
・兵庫県職労組
特別中央執行委員
・関電労組
兵庫地本委員長
32期
H3・5・31

H5・6・14
村上靖夫 生原修作 好城秀行 (〜H4・3・31)
松浦寛
田中穂積 薗田和夫 橋本伊三男
・全国金属労組
兵庫地本委員長
・全金労組兵庫地本ヤンマーディーゼル
尼崎支部委員長
・新日鉄広畑労組
組合長
・連合兵庫副会長
・兵庫県支部長
・連合兵庫副会長
・三菱重工労組
神戸造船支部委員長
・連合兵庫会長代理
・全日通労組
姫路分会委員長
・兵庫県交運労協議長
・自治労兵庫
県特別中央執行委員
・関電労組
兵庫地本委員長
・連合兵庫副会長
(H4・5・18〜)
井上一美
・川崎重工労組
明石支部委員長
・連合兵庫副会長
33期
H5・6・15

H7・6・22
村上靖夫 生原修作 好城秀行 井上一美 田中博文 福永保 橋本伊三男
・全国金属労組
兵庫地本委員長
・全金労組兵庫地本ヤンマーディーゼル尼崎支部委員長
・新日鉄広畑労組
組合長
・連合兵庫副会長
・兵庫県支部長
・連合兵庫会長代理
・川崎重工労組明石支部委員長
・連合兵庫副会長
・全日通労組兵庫県支部委員長
・運輸労連兵庫委員長
・全電通労組兵庫県支部委員長
・連合兵庫副会長
・関電労組
兵庫地本委員長
34期
H7・6・23

H9・7・1
(〜H7・12・21)
村上靖夫
生原修作 好城秀行 井上一美 熊澤省三 (〜H8・12・18)
福永保
杉浦芳雄
・全国金属労組
兵庫地本委員長
・全金労組
兵庫地本ヤンマーディーゼル
尼崎支部委員長
・新日鉄広畑労組
組合長
・連合兵庫副会長
・兵庫県支部長
・連合兵庫会長代理
・川崎重工労組
明石支部委員長
・連合兵庫副会長
・山電労組委員長
・連合兵庫副会長
・全電通労組
兵庫県支部委員長
・連合兵庫副会長
・クボタ武庫川労組
組合長
・連合兵庫副会長
(H8・3・25〜)
中下恵司
・全金労組ナブコ支部委員長
・連合兵庫副会長
35期
H9・7・2

H11・7・5
中下恵司 北条勝利 堀井和美 井上一美 熊澤省三 入澤清 杉浦芳雄
・全金労組
ナブコ支部委員長
・連合兵庫副会長
・新日鉄広畑労組
組合長
・連合兵庫副会長
・兵庫県支部長
・連合兵庫副会長
・川崎重工労組
明石支部委員長
・連合兵庫副会長
・山電労組委員長
・連合兵庫副会長
・自治労兵庫
県特別執行委員
・西宮水道労組特別執行委員
・クボタ武庫川労組
組合長
・連合兵庫会長代理
36期
H11・7・6

H13・7・8
中下恵司 北条勝利 堀井和美 井上一美 勝浦勝 安富隆義 杉浦芳雄
・ナブコ労組顧問
・ナブコ健保組合理事長
・新日鉄広畑労組
組合長
・連合兵庫事務局長
・兵庫県支部長
・連合兵庫副会長
・川崎重工労組
明石支部委員長
・山電労組委員長
・連合兵庫副会長
・NTT労組兵庫県支部委員長 ・クボタ武庫川労組
組合長
・連合兵庫会長代理
37期
H13・7・9

H15・7・21
柳田忠 北条勝利 堀井和美 井上一美 勝浦勝 安富隆義 藤原久典
・ナブコ労組委員長 ・新日鉄広畑労組特別執行委員 ・兵庫県支部顧問 ・川崎重工労組明石支部委員長 ・山電労組委員長 ・NTT労組兵庫
県支部委員長
・関電労組姫路地本委員長
38期
H15・7・22

H17・7・
柳田忠 大森唯行 村上昇 井上一美 高本計廣 安富隆義 藤原久典
・ナブコ労組委員長 ・新日鉄広畑労組組合長 ・兵庫県支部長 ・川崎重工労組明石支部委員長 ・山電労組委員長 ・NTT労組兵庫
総支部特別執行委員
・関電労組姫路地本委員長


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またまた、労働基準法「改正」される(2003.6.27)

弁護士 増田 正幸

1 2003年の第156通常国会において労働基準法、労働者派遣法、 職業安定法が「改正」された。

従来、労働法制の改正は、労働大臣の諮問機関であり、労使の代表が参加する労働基準法研究会や中央労働基準審議会において労使の利害調整をしながら政策が立案されてきた。ところが,今回の「改正」は厚生労働省ではなく内閣府が設置した「総合規制改革会議」のイニシアチブにより政策が立案され、トップダウン方式により「改正」が推進された。「総合規制改革会議」の15名の委員は経営者、経済学者、商法学者から選任され、労働者代表や労働法学者は選任されておらず、そこにおける議論には労働諸団体の意向は全く反映されていない点が特徴的である。

「総合規制改革会議」が2002年7月23日に発表し「中間とりまとめ」では、「新規事業における人材確保を支援する規制改革」として、労働者派遣・有期労働契約の拡大,民間職業紹介事業者の許可基準の緩和を,「会社と個人の新しい関係に応じた規制改革」として、裁量性の高い業務についての労働時間規制の適用除外と解雇の基準やルールの立法化、裁量労働制の拡大を、それぞれ迅速に検討し結論を出すことが課題として掲げられた。しかも、解雇ルールの立法化にあたっては解雇の際の救済手段として、職場復帰だけでなく「金銭賠償方式」の採用が提案された。そして、その提案に沿った労働法制の「改正」が実行された。


2 「改正」の内容

* 有期雇用の限度期間の緩和

1998年の「改正」により、専門的知識、技術又は経験を有する労働者や60歳以上の労働者については、例外的に期間の上限を3年まで延長したのを、さらに5年まで上限を延長するとともに、それ以外の労働者についても1年から3年に上限を延長した。

限度期間の緩和により雇用期間に関する使用者の裁量の幅が拡がり、ますます不安定雇用労働者は増大するであろう。短期雇用契約の反復更新の場合の雇い止めを制限する判例法理の適用が困難になったり、事実上の若年定年制が可能になってしまう。

* 労働者派遣事業の規制緩和

労働者派遣法では、臨時的・一時的業務については派遣期間を1年以内に限り、更新も認めていなかったが、派遣期間の上限を3年に延長し、厚生労働大臣が指定する専門的業務(26業種)(派遣期間1年以内)の更新制限(2回)を撤廃した。さらに、製造業に関する派遣の禁止を解除した。

* 企画業務型裁量労働制の要件緩和

1998年労基法「改正」の際に労使同数の代表者からなる労使委員会の全員の一致を要件として、本社などの「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」における「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」について裁量労働制が認められた(企画業務型裁量労働制)。

今回の「改正」ではその要件を緩和し、

@対象事業場を「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」に限定しない。

A労使委員会の決議要件を全員一致から5分の4以上の多数決に緩和する。

B労使委員会の労働者代表委員の選任について労働者の信任手続を不要にする。

実労働時間とは無関係に一定時間働いたものと「みなす」という裁量労働制は、1日8時間労働制の原則を骨抜きにするものであり、いわばサービス残業の合法化であり、過労死、過労自殺の温床となる長時間のサービス残業をなくそうという時代の流れに逆行するものである。


* 解雇に関する一般的規定(解雇ルール)の新設

1)従来、実定法には解雇に関する一般的な規定はなく、判例上「解雇権濫用法理」が確立していた。「解雇権濫用法理」とは、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」(最判昭和50年4月25日日本食塩製造事件)というもので、その趣旨について、最高裁調査官は、「この考え方は、説明として解雇権の濫用という形をとっているが、解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返したようなものであり、実際の適用上は正当事由必要説と大差はないとみられる」(最高裁判例解説昭和50年民事編P175)とし、実際にも当該解雇が「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であること」を使用者が主張立証しなければならないものとして運用されてきた。


2)これに対して、解雇ルール(労働基準法18条の2)に関する政府原案は、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効である。」というものであった。

政府原案は、原則として解雇が自由であることを明記し、但書きで例外的にこれを無効とするもので,証明責任の分配に関する通説判例によれば、被解雇者の側で但書きに該当する事実(「当該解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、あるいは社会通念上相当であると認められないこと」)の証明責任を負わせることが可能になってしまう。従来は解雇に正当な事由があることを使用者が証明しなければならなかったのに対して、政府原案によれば正当な事由の不存在を被解雇者が証明しなければならなくなり労働者が解雇の効力を争うことが事実上困難になる。言い換えると、政府原案は解雇に関する規定を新設するとはいっても、その実体は「解雇権濫用法理」として通用してきた解雇規制を撤廃するという考え方に立つものであった。


3)当然、このような政府原案に対しては、連合、全労連をはじめ労働界が一致して反対したため、政府案は、以下のように大きく修正され、従来の判例理論を明文化することに落ち着き、解雇に正当な事由がないことを被解雇者が立証しなければならないという体裁は改められた。 修正後の18条の2

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして、無効とする」

このように当面、解雇の自由を明文化すること(解雇規制否定論)は阻むことができたが、今後も「金銭補償方式」の導入が検討課題とされているなど警戒が必要である。


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●緊急連載シリーズ「司法改革」bS
  労働裁判が変わる??

弁護士 増田 正幸

司法制度改革審議会の労働検討会では、8月15日に「中間取りまとめ」を公表し、労働裁判の改革について重要な提言をした。8月15日から9月12日まで、国民から意見を募集(パブリックコメント)した上、11月ころには最終案が示され、来年の通常国会で法案として提出される予定である。

以下に中間取りまとめの内容と問題点を報告する。


1「労働審判制度」の導入

@ 地方裁判所における個別労働関係事件についての簡易迅速な紛争解決手続として、労働調停制度を基礎としつつ、裁判官と雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者(裁判官と同じ権限をもって)が当該事件について審理し、合議により、権利義務関係を踏まえつつ事件の内容に即した解決案を決する「労働審判制度」を導入してはどうか。

A 労働審判制度においては、事件を審理しつつ、調停を試み、調停によって解決し難い事件について3回程度の期日で解決案を出すことが想定されている。解決案に不服がある場合は訴訟で争うことができる。

B 労働参審制(労使の関係に関する専門的知識を有する者を訴訟手続に裁判官として参加させる制度)については将来の検討課題として先送りされた。

C(評価)

@ 労働裁判の現状

 全国の地方裁判所の平成13年の労働事件の本訴の新規受理件数は、2,119件である。これに対して、ドイツの労働裁判所(第1審)の2001年の処理件数は598,732件であり、両者の件数は比較にならない(わが国はドイツの275分の1)。  このようにわが国における労働裁判の件数が極端に少ないのは、裁判に時間と費用がかかるなど裁判制度が利用しにくいということに加え、裁判所の判決の中には、職場の感覚・経験と異なった不適切な判断が見受けられることも一因となっていると考えられる。

A 専門性導入の必要性

 とくに労働関係紛争の中でも合理性・相当性・正当性等の一般条項の解釈適用が争われる場合には、多様な考慮要素に優先順位をつけたり、複雑な利益考量により労使間の均衡点をみいだすことが要求される。

このような判断には労使の現場感覚ないし労使の現場の体験に基づく雇用社会における経験則が必要とされる。そして、かかる専門性は学術的な知見とは異なるある種の感覚形成であって、労使関係について日々の体験により得られるものであるから、専門委員の活用によって補うことができるものではなく、労使関係について継続的に体験している者を裁判に活用することによって導入が可能となるものである。

それゆえ、労使関係に関する専門家が裁判に関与することにより、より的確な判断が可能になり、裁判所の専門性に対する国民の信頼も増すことができる。

B また、労働参審制は、国民が法曹と共に司法の運営に関与する制度として司法の国民的基盤をより強固にするものであり、司法制度改革審議会意見書の趣旨にもそうことになる。

よって、労働参審制の導入の先送りは極めて遺憾である。

C 労働審判制の評価

労働審判制は訴訟手続ではなく非訟手続として導入されるものであり、裁判所による最終的判断に専門性を導入することにはならないが、労使関係に関する専門的な知識経験を有する者が審理に加わることにより、労使関係の実態に即した適正で妥当な解決を図ることを期待することができること、迅速な解決が期待できることなど、労働者が利用しやすい紛争解決制度として評価することができる。

D 残された課題について

労働審判制が機能すれば、多くの紛争は訴訟に至らずに簡易迅速に解決することが期待できる。そこで、労働審判制がより実効性のある制度とされるために、「中間とりまとめ」で検討課題とされている点については以下のように考えるべきである。

@ 裁定を出すに当たって当事者双方の同意を 要するか否か

当事者双方の同意を要するものとすると、審理が進められても決定が出せないことになり、手続に費やしたコストが無駄になる。

現行の民事調停の場合でも調停委員会が当事者の意思いかんにかかわらず職権で調停に代わる決定をなしうる(2週間以内に異議申立があれば失効するが、異議申立がないときは裁判上の和解と同一の効力を有する)(民事調停法17条)ことと比較しても、当事者には利用しにくい制度になってしまい、制度の実効性を大きく削ぐことになる。

A 解決案は、審判による決定として理由を明記すべきである。

解決案は、権利義務関係を踏まえつつ事件の内容に即して決するのであるから、簡潔な理由を明記することにより、その決定内容の適正さを裏付け、当事者双方への説得力を有することになる。

B 非訟手続である以上、解決案に対して当事者に不服がある場合は訴訟手続による裁判を受けることができるが、その場合には労働審判における主張立証が訴訟手続でそのまま生かされるようにして、訴訟の迅速な進行を図るための方策がとられる必要がある。


2 固有の労働訴訟手続の要否

@ 労働関係事件について、より適正かつ迅速な裁判の実現を図るため、実務に携わる裁判官、代理人である弁護士等の関係者間において、今般の民事訴訟法の改正等を踏まえ、計画審理、定型訴状等の在り方をはじめ実務の運用に関する事項についての具体的な協議を行うこと等により、訴訟実務における運用の改善に努めるものとする。

A(評価)運用では限界があり制度化が必要である。

多くの労働者が、権利侵害を受けたときに泣き寝入りせずに裁判を利用できるようにするためには、特別な訴訟手続の整備がどうしても必要であるのに、運用改善のために協議するというような形でお茶を濁している点できわめて不十分である。

具体的には、労働事件について、裁判所に迅速に処理する義務を負わせる、計画審理を導入し使用者の引き延ばしを防止する、証拠提出命令の範囲を広げる、簡易な事件については1回の集中的審理で判決が出せるようにする等を法律で定めることが必要である。


3 労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方

@ 労働委員会における不当労働行為事件の審査の際に提出を命じられたにもかかわらず提出されなかった証拠が、救済命令の取消訴訟において提出される事に関して、何らかの制限を課するものとすることについて、引き続き検討する。

A(評価)裁判所は専門機関としての労働委員会命令を尊重するべき。

不当労働行為制度については、事実上の五審制、不当労働行為制度の無理解により権利義務関係として判断しようとする裁判所の対応、使用者側の労働委員会軽視の姿勢などが問題として指摘されている。しかし、「中間取りまとめ」は、「新証拠の提出制限」のみを取り上げ、審級省略や実質的証拠法則の導入などの検討課題を先送りした点できわめて不十分である。


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