桑の実園は、特別養護老人ホームの運営、デイサービス事業等を行っている社会福祉法人です。平成12年1月、高山哲生さんはデイサービスの正社員(利用者送迎運転手)として採用され、平成13年5月、松田満義さんは臨時職員(利用者送迎運転手)として採用されました。
しかし、平成15年1月31日付で、高山さんは解雇を言い渡されました。その理由は、@欠勤が多いこと、A勤務怠慢、成績が著しく不良であること、でした。また、同年3月31日付で、松田さんも解雇を言い渡されました。その理由は、雇用契約の期間が満了し、これ以上は雇用の継続をしないというものでした。
解雇に納得できない高山さんと松田さんは、それぞれ西播地域ユニオン労働組合に加入し、団体交渉を通じて解雇の撤回を求めましたが、桑の実園は拒否するのみでした。そこで、高山さんと松田さんは、同年5月7日、神戸地裁龍野支部に、従業員の地位保全と賃金仮払の仮処分を申し立てました。併せて、高山さんは、毎朝1時間半の早朝出勤による車両点検の残業代が支払われなかったとして、残業代支払請求訴訟を提起しました。
高山さんの解雇については、@確かに持病のために入院や早退をすることがありましたが、有給休暇を取得して休んだことが多く、そうでなくとも事前事後に届を出していました。また、A高山さんは無事故無違反で、利用者とトラブルを起こしたことはありませんでした。そしてなにより、桑の実園は、解雇の前には、高山さんに対して欠勤や勤務怠慢について注意をしたことはありませんでしたし、その後の団体交渉でも解雇を理由付ける具体的な事実を何ら説明しないのみならず、就業規則さえ開示しませんでした。かえって、団体交渉では、桑の実園の経営者側は、利用者とのトラブルや事故がなかったことを認める発言をしていました。
松田さんの解雇については、確かに1年ごとの雇用契約でしたが、桑の実園が松田さんに交付した雇用契約証明書には、「本人から退職の申出等、特別な事情がない限り更新を行う。」旨の回答がなされている上、実際にも桑の実園ではそのような運用がなされていました。したがって、松田さんは臨時職員ではあるものの実質的には期間の定めのない契約と同様の雇用契約を締結していたというべきだと主張し、解雇理由の開示を求めましたが、桑の実園からは何らの説明もありませんでした。 以上のような事実に基づいて、高山さんと松田さんは、解雇理由には何らの合理性がなく、解雇手続も著しく不当なものであるから、解雇は無効であると主張しました。
神戸地裁龍野支部における仮処分期日は、和解成立までに8回行われました。桑の実園側は、高山さんが無断欠勤・早退遅刻を頻繁に行ううえ、職場の規律を乱すなど、業務に大きな支障を来していたということを、従業員8名連名の陳述書を提出するなどして主張してきました。また、松田さんについては、公共職業安定所に提出した雇用契約証明書の記載について、あくまでも松田さんの利益のために記載しただけで、実態とは異なる事実を証明したものである、という主張を行いました。
これら職場ぐるみでの攻撃に対して、高山さんと松田さんは西播ユニオンの協力のもと、反論の陳述書を提出するなどして対抗しました。
双方の主張が出揃った段階で、裁判所から和解勧告がなされ、同年10月21日、それぞれの解雇時点で雇用契約が終了したことを確認するとともに、桑の実園が、高山さんに対しては基本給8ヶ月分、松田さんに対しては30万円をそれぞれ解決金として支払うとの和解が成立しました。このように、高山さんと松田さんに対する解雇の効力を不問にし、単に雇用契約が終了したという事実を互いに確認したこととなりました。
残業代請求訴訟については、まだ3回しか期日が開かれていなかったことから、上記の和解に残業代請求訴訟の和解も含めることで終了しました。
両名とも、職場復帰は実際には困難でしたので、金銭的に解決することを目標にしていましたが、ある程度の解決金の支払を受けられることとなりました。解雇無効の判断を得ることまでは出来ませんでしたが、桑の実園の今後の雇用管理の改善に対し、今回のお二人の裁判が何らかの良い影響を与えられることを願っています。
昨今、不況が深刻化して、リストラによる解雇というのはニュースにもならない悲惨な状況です。他方、使用者による悪質な解雇事件は後を絶たず、それに対して労働者が立ち上がるという事件も増えてきて、このニュースの読者も毎回のように目にしておられると思います。
今回は、女性ばかり8名が解雇されたという事件を紹介します。彼女らは、会社による「使い捨て」、「会社に逆らう者は許さない」という会社のやり口に怒り、労働組合を結成しただけでなく、仮処分で解雇を争うという闘争を行っています。
ヨシケイグループは、夕食材料等の宅配を主な業務として、全国展開しています。ここ兵庫県では、ヨシケイ・ナラという会社(以下、「会社」と略。)がFCとして事業を展開しています。文字通り、本社は奈良県にあります。会社には、奈良支店、こうべ支店、西兵庫営業所、北兵庫営業所、小野工場等があって、今回解雇された8名が勤務しているのは、西兵庫営業所(神戸市西区)です。同営業所は、宅配をする女性ドライバーは10名いたのですが、うち1名は事実上解雇され、残り9名が今回全員解雇され、彼女らはそのうちの8名です。会社では、お客さんは主に主婦で扱う物も食品ということもあって、女性を採用しています。
なお、同営業所は、解雇後の7月14日から閉鎖されていましたが、最近新たに人員を募集して業務を再開しています。
会社には、UIゼンセン同盟ヨシケイ・ナラ労働組合友愛会という労働組合があり(以下、「友愛会」と略。)、ユニオンショップ協定があります。但し、彼女らは今回解雇されるまで、友愛会が労働組合であることを知りませんでした。彼女らが入社する際には、管理職から友愛会は親睦会で、毎月600円の積み立てで、慰安旅行や焼き肉パーティーなどをするという説明を受けていました。
彼女ら8名は、いずれも2001年から2003年にかけて会社に入社し、同西兵庫営業所において勤務して、神戸市や明石市などへ夕食材料等の宅配をしている女性ドライバーです。そのうちの4名は母子家庭の母親です。なお、会社には2年以上勤めた女性ドライバーはいません。それだけ「厳しい」会社ということです。
彼女らは、友愛会を脱退し、2003年7月7日、全労連・全国一般労働組合兵庫県本部ヨシケイ分会(以下、「分会」と略。)を結成しました。
彼女ら8名は7月12日に解雇されましたが、会社の解雇を認めず出勤闘争を行いました。
彼女らはいずれも、会社の正社員になれる、やりがいの仕事ができる、ということで入社しました。
@就業時間は、入社の際の面接時には、午前9時30分〜午後4時30分と聞いていたのですが、実際には午前9時に出勤しないと配達業務に到底間に合わず、しかも退勤も通常午後5時以降であり、日によっては午後7時30分頃までの就業を強いられて、彼女らは毎日残業しています。中には午後11時頃まで残業した人もいます。そのため、保育時間の延長申請している人もいます。しかし、残業時間分の割増賃金については全く支払われていませんし、早出残業を含むサービス残業が常態化しています。
また、休憩時間については、彼女らの労働実態からすると休憩等全くできず、昼食もほとんどとれない状態です。さらに、会社は代替要員の確保をしないため、彼女らが有給休暇をとれば他の人に業務の肩代わりというしわ寄せがいくため、有給休暇をほとんど消化したことがありません。そのため母子家庭の人は、子供の保育所や小学校の行事に参加できません。病気になって、有休を取ろうとしても会社から診断書の提出が無いと許可されません。
A面接の際にノルマはありませんと約束されていましたが、過重なノルマが課されました。そして、ノルマが達成できなければ辞めろという退職強要も横行し、中には辞めていく人もおり、また病気になった人もいます。
B会社の管理職による異常なイジメや個人攻撃もあります。例えば、本社から主任が西兵庫営業所に着任した後、「二人(個人名を上げて)は気に入らないので辞めさせる」と公言したり、会社から命じられて、指導書(ノルマを達成できない場合は退職する旨)なるものを書かされました。そのうちの一人は会社から課せられたノルマを達成できず、事実上解雇されてしまいました。そして、主任や課長から、「あいつには何をしても、何を言っても構わない。嫌なら辞めろ。お前は要らない。」という罵声を事ある毎に浴びせられました。また、課長から、化粧について「水商売風だ」と言われたり、髪型について、「お前は何も似合わない」と言われたこともあります。さらに、課長はミーティングで、「上司は、従業員一人一人の気持ちまで考える必要はない」とか「上司の言うことに従えないのであれば、今すぐ辞めてもらってかまわない」とまで言ってます。
会社からの退職強要によって、事実上解雇された同僚の送別会を行うことになりました。退職する同僚に、花束と色紙を送ることが従業員の慣例になっていました。本人の挨拶と、主任や副班長からも送別の言葉を受け、最後に課長が挨拶をする番になりました。しかし、課長は、「何もない」と冷たく言い放つだけで、しかも彼女らに対して、「お前らもう帰れ!」と大声で怒鳴り出し、さらに「上司の言うことが聞けない奴らは辞めてしまえ!」と大声で怒鳴りながら、暴れ出しました。
翌日夕方のミーティングで、主任らは彼女らに対して、課長宛に謝罪文を書くように強要したのです。しかし、何故謝罪文を書くのか全く理解できないので、彼女らは真実謝罪する意思が無いのに謝罪文を提出することに強い抵抗があるので謝罪文の提出を拒みました。そうすると、謝罪文を提出するか退職するかの二者択一を迫りました。これまでの不当な労働実態や上司からの理不尽な命令等で、虐げられてきた彼女らは、謝罪文を書くという屈辱的な扱いを拒否して、あるいはまた課長の言動に怯えて、翌日、彼女らは仕方なく退職届を提出しました。なお、今回申立人の一人は病気療養中であったため、退職届は提出していません。
しかし、翌3日には、課長が、送別会の件について謝るどころか、「業績を上げなかった奴に花束は必要ない。結果を出せなかったから悔やみながら辞めていけばいい。」とまで言い切ったのです。これを聞いて、彼女らはこのまま上司の言いなりになることは嫌だと考え、その日の夕方、退職届の撤回を申し出ました。
その後彼女らは不安になり、全労連全国一般労働組合に相談し、1名を除いた彼女ら8名が、7月7日、分会を結成しました。 しかし、会社は、彼女らに、有給休暇を取らせると言う理由で、他の従業員等の研修をした、その研修期間が終了した直後、突然彼女らに対して、解雇通告を出したのです。
彼女らが解雇されてから、組合と団体交渉を何回か行いました。当初、会社は退職届を提出していない1名を含めて全員を解雇したと主張し、その根拠は「友愛会」を脱会したからと言ってました。すなわち、ユ・シ協定に基づく解雇であるとしていました。そして、会社は全国一般を脱会して、また「友愛会」に加入すれば解雇は撤回すると回答してきました。
当然、彼女らはこれを拒否しました。また、組合からは、残業代の未払分を請求したり、備品代の立て替え分の請求をしています。しかし、会社は残業については、タイムカードに打ってある時間分しか払わないし、本年4月からは「みなし労働」だから払わないと主張しています。
しかし、ユ・シ協定に基づく解雇は、新たな組合を結成しているため、出来ません、これは常識です。また、残業時間については、タイムカードは管理職が勝手に押しているものであって、到底認められるものではありません。実際に働いた分の支払を求めることは当然です。さらに、「みなし労働」については、法律に定める基準に合っておらず、認めることはできません。
このように、会社の主張は、ことごとく根拠の無いものです。
しかも、彼女らが勤めていた営業所を再開して、新たに人員を募集して現在営業をしています。会社側は、新たに人を雇ったから、彼女ら8名を職場に戻せないなどと言っています。しかも、新たに入社した社員や他の社員が署名した「嘆願書」なるものを提出して、「会社は良い会社だ」、「彼女らの方が悪いのではないか」、「彼女らが職場復帰したら自分たちの仕事が無くなる」とまで言っています。
現在、仮処分の審尋を2回行い、次回で結審の予定です。
なお、弁護団は西田、内海、萩田の各弁護士。
自治労連神戸水道サービス公社は、神戸市水道局からの水道検針業務などの委託を受けている水道サービス公社の女性検針員を中心にした、女性ばかりの労働組合であり、身分は一年雇用の嘱託職員とされています。一昨年末に当局の団交拒否・不当配転などの横暴な行為に関して、兵庫自治労連に相談が持ちかけられ、学習会、懇談会を重ね、自治労連神戸水道サービス公社労働組合が改名・結成されました。当初は7名の組合員からスタートをし、約200名の嘱託職員の中でも極めて少数派の労働組合でした。
また、サービス公社内には正規職員を組織をしている、全水道(連合)の労働組合もあり、組織的には「弱小」と扱われていました。
「弱小」と言え、職場での要求のアンケート活動や、交渉では職制によるセクハラ発言、暴言などをとりあげ、地道にそして労働者の共感を得る活動を進めてきました。
しかし、昨年末にサービス公社当局より賃金切り下げの提案がされ、交渉も「通告」の様相に終始し、労働組合の意見を聞こうとしませんでした。
この賃下げ提案は、昨年に実施された神戸市の職員に対する、市財政危機を理由とした一律賃下げをそのまま、賃金制度・体系が違う、勿論賃金水準は比較にならない、嘱託職員、しかも外郭団体の嘱託職員までにも同様・同率の賃下げを強行してきました。
具体的には、03年1月より、神戸市人事委員会のマイナス勧告分、そして4月より神戸市正規職員に対する一律削減分と合わせて、10000円近い削減にもなります。
1年契約(年度毎)の嘱託職員であるために、03年1月からの賃金削減は労働契約期間途中の一方的な賃下げになります。当局が年度途中に雇用契約の変更手続きを行うためには過半数を組織した労働組合との協議か、過半数の信任を得た「労働者代表」との協議・意見書が必要となります。
当局は自治労連神戸水道サービス公社労働組合との団体交渉は形だけにし、当局自作自演の「労働者代表」選挙を企てました。しかし、自治労連神戸水道サービス公社労働組合の奮闘により「不信任」の結果となり、またまた再度、当局自作自演の「労働者代表」選挙を行いましたが2度にわたる「不信任」の結果を得ました。
当局は嘱託職員の投票は信任を得られ、小数組合の影響力を無くし、思い通りに賃下げを強行しようとの思惑でしたが、見事職場の労働者はその、当局の思惑を見破り当局らに対して「ノー」の審判をくだしました。
「労働者代表」選挙を契機に、自治労連神戸水道サービス公社労働組合の職場での信頼が増し、組合員の数も飛躍的に増加しました。当初は7名の組合員が現在は40名を超えるほどになり、約6倍に達しています。 その信頼は、当局の横暴に対して、職場の労働者の意見を正当に述べる姿勢が評価をされています。
当局は団体交渉では、「オール神戸市で削減(賃下げ)している」「神戸市の財政難」としか答えず、賃下げが至上命令のような対応に終始し、委託元の水道局からの委託料が下げられる事をあげ、あたかも労働者の賃金が神戸市水道局において決定されるような答弁を繰り返しました。また労働組合の意見を聞こうとせず、「賃下げの答えは同じ」との態度でした。
兵庫自治労連と自治労連神戸水道サービス公社労働組合が山内弁護士、白子弁護士の指導と援助を頂き、これらの事が、団体交渉の当事者能力の問題をはじめ不誠実団交にあたり、不当労働行為であるとの見解を出すにいたりました。
当初は自治労連神戸水道サービス公社労働組合の中で様々な意見があり、「そこまでしなくても」「裁判は行き過ぎ」など消極的な意見も多く、学習会を重ね、「当局の嘱託職員に耳を傾けようとしない当局の姿勢・態度」に怒りと、「嘱託職員も一人の人間として意見を言うことの出来る同じ人間である」との立場で一致し、「嘱託職員の人権を守る」闘いと位置づけ、今回の地労委申立は申立を決意しました。
7月1日に申立を行い、この間地労委の調査が重ねられ、来る12月4日に証人尋問(主尋問)が行なわれます、また来年1月29日に反対尋問も予定され、いよいよ最終の山場に近づいています。兵庫自治労連として始めての地労委闘争であり、当然自治労連神戸水道サービス公社労働組合も始めての経験です。しかし当該労働組合の女性は日を追うごとに元気を増し、地労委闘争を組織拡大にもつなげています。
不況の中、全国で凄まじいばかりに行なわれている、一方的なリストラ・首切り・大幅賃下げの横暴を少しでも食い止め、攻勢に転ずるためにも今回の地労委闘争に勝利をしなければなりません。民法協をはじめ皆さんの一層のご支援をおねがいします。