あけましておめでとうございます。
今年は、年明けからイラクへの自衛隊派遣が具体化の歩みを速め、批判力を失った 報道機関・ジャーナリストがその雰囲気作りに動員されるという異常な幕開けになってしまいました。憲法の「戦争を放棄した平和主義」、教育基本法の「平和で民主的な文化国家」の建設、という根本的な目標の改変にむかって着々と準備が進められていく状況を見るとき、労働者・国民の「闘うエネルギー」の総結集へむけた努力を関係諸団体に求めてやみません。
今年はすべての国民にいつかは関係してくる社会保障、とりわけ国民年金について根本的な見直し=改悪が具体化する年ともなっていますが、国民運動・労働運動の側は、理論・政治・実際の行動のいずれにおいても大きく立ち遅れ、自民・公明両党や厚生労働省、および財界の一体となった「改変構想」ばかりが提示され、ことの重大さにもかかわらず民主主義と生存権を希求する側の「立ち遅れ」ばかりが目に付くというのは、どういうことでしょうか?
権利の担い手が国民一般・年金生活者等、すなわち、力の結集が容易でない層となってしまっている状態の克服を本気で考える必要があるのでは?具体的には労組のナショナル・センターが、理論・政治・組織・実践の全分野でもっと力を発揮してほしいものです。
労働者の権利闘争・権利確立をめざして活動することを主な目標とするわが民法協は地労委民主化闘争の一環として「地労委委員選任取消訴訟」において、ほかの団体との協力をもとに、中心的な役割を果たしたほか、個々の職場における権利闘争においても会員弁護士が中心になって一定の成果を上げてきましたが、ここ15年ほどの間に関与件数は激減し、その結果団体としての活気も減退してきました。タイガースだって18年の低迷を克服して優勝を獲得できたのだから、われわれだって…と行きたいものですね。
戦後数十年かけて構築されてきた「日本的労使関係」の基礎が壊され、雇用も賃金も組合もそれにくわえて老後の生活までも壊されつつある状況下にある「労働者の権利闘争・権利の確立」は、総資本と総労働の対決といった19世紀末を思い出させるような状況を作り出さない限り成就しないのかもしれませんが、19世紀末とは異なり、政治の分野で代表する勢力がある程度の力を持ち、各種の労働者の権利が保障され、担当行政機関もそれなりに機能している今日、「社会の深部」すなわち職場・産業や地域で作り出されるさまざまな不正義・不利益・権利侵害と対決する気概を失わなければ道は開拓できると信じています。職場で「窓際族」化し、定年の二文字がチラつく身になっても引退という文字を棚上げして「枯れ木も山の賑わい」ぐらいの役割ははたさなければいけないかと思い直す次第です。
このページのトップへ1994(H6)年6月、川崎重工・神戸工場、兵庫工場、明石工場で働く、16人の労働者が兵庫県地方労働委員会に「組合活動を理由に賃金差別など不当な扱いを受けている」として、職能等級の是正を申立てました。
9年間にわたる審問(調査12回、審問64回)の後、03年12月9日に兵庫県地方労働委員会は申立人16人全員の訴えを認め「全員を救済する」の、画期的な全面勝利命令が申立人各自に送付されてきました。
この勝利命令は、26年前に遠隔地配転を断ったことを理由に不当解雇された近藤正博氏のたたかい。1979年から二度にわたっての1万人の人減らし合理化へのたたかい。そして9年におよぶ地労委でのたたかいを支え、共にたたかった職場の仲間、全県、全国の仲間によって勝ち取られたものです。
兵庫県地労委の命令書によると、会社の行った申立人らへの行為は「労働組合法第7条1項による労働組合活動を会社が嫌悪して、職能区分・等級を恣意的に低く据え置いたことは伺える」としたものです。
その差別は「基準賃金、期末手当および退職金に格差をつくり出し、不利益な扱いを行ったことは伺える」としています。よって会社は、
(1) | 申立人16人の職能区分・職能等級を93年11月1日付けで是正する。 |
(2) | 申立人全員に対して基準賃金、期末手当、退職金については、その差額を支払う。 |
(3) | すでに定年退職している6人に対しては是正賃金による退職金のその差額を支払う。 |
(4) | 会社に在籍する申立人には労働組合活動を理由に昇進・昇給で不利な取扱いを行わない、 |
などとなっています。
命令のなかでは、人事考課については会社に相当程度の裁量権があることは認められる。しかし、会社が具体的な人事考課を評価する資料を出していない。従って申立人の能力と会社への貢献度を評価・評定するのは困難であるが、少なくとも年功序列的に運用されているものであるから、同じ勤続年数の者との比較で80%下位ランクに是正することは可能である、としています。(地労委は、同勤続年数の男子現業職のなかで下位5%以下が申立人16人中13人に及んでいると指摘しています。)
(1) | 職能等級格付けが3ランク上がる者1人、2ランク上がる者8人、1ランク上がる者7人で、16人全員が救済された画期的な命令です。 |
(2) | また除斥期間では、不当労働行為の「継続する意思」に基づいて、長年にわたり繰り返し差別的な賃金支払いが行われており、この累積差別を解消し、賃金を適正に是正するためには過去における会社の差別行為であっても審査の対象とすることができるとした命令で、これも画期的です。 |
(3) | また03年5月29日に地労委結審後、約6カ月という短期間で命令が出されました。兵庫県地労委の精力的な作業によるもので、これも画期的であると評価がされています。 |
会社は、統一派グループは特定できないと主張しました。地労委は、統一派グループは特定できるとし、申立人ら大多数は「近藤正博君を守る会」を結成してから昇進が顕著に長期化している事実が認められるとしました。
兵庫県地労委は争点として次のような項目を挙げています。
(1) | 申立人らが行った政党名のビラ配布行為や被解雇者(近藤正博氏)等を支援する活動等が正当な労働組合活動に該当するか。 |
(2) | 会社は申立人らが労働組合内において特定のグループを形成していたことを認識していたか。 |
(3) | 申立人らと申立人ら以外の現業職の従業員との間に職能区分・等級に関する格差が認められるか。 |
(4) | 申立人らの職能区分・等級に他の現業職に比して格差がある場合、その格差は会社の不当労働行為意思に基づくものか。 |
(5) | 本件審査の対象の範囲は、除斥期間との関係で、救済申立てが可能な期間中に支払われた賃金の算定基礎である職能区分・等級格付けで考慮された人事考課の範囲に限定されるか。 |
B、C、Dは前文で述べた内容の通りです。@とAについて会社は「申立人らは政党や下部組織のビラを配布している。」「近藤正博氏を支援するビラは同人を支援するためのものである。」「労働組合が機関決定で承認した合理化施策に反対しただけのビラである」などで、申立人らの活動は近藤正博氏支援であったり、政党活動であって「会社は申立人らの活動を労働組合のグループの活動とは認識していない」と主張しました。
地労委は、申立人らのビラは政党名で発行されていても内容は「会社の合理化施策に反対したり、希望退職募集に際して退職を強要しないよう要求したり、始業5分前に朝礼や従業員の同意のない配転に反対するなど、その職場の労働条件の維持改善や労働者の地位向上を主たる内容であり、全体として正当な労働組合に該当する」として、申立人らの活動は労働組合法第7条1項の保護を受けるべき労働組合の正当な行為であると認定しています。
そして地労委は、申立人らは組合路線を批判したり、会社の労務政策に反対する主張を公表したり、近藤正博君を守る会を結成し公然と支援および傍聴を継続しており、会社は申立人らのそのような諸活動を通じて、申立人ら各人が少数派グループに所属していることを認識していたものと推認することができるとしました。
また申立人らのグループについては、昭和42年に発行した会社の「管理者ニュース」で認識できるし、会社は「申立人らの活動には深い関心を抱いていたことを認めることができる」としています。(「管理者ニュース」は、立候補者を3グループに分け、二つのグループを「統一派」ら闘争主義であるときめつけ、会社派グループを健全な労使関係を目指していて良い結果であったと、記事にしています。)
地労委命令は報道ニュースになりました。支援の方々から「テレビで見たよ。」「新聞で読んだよ。」と祝福の電話や便りが届きました。全国の支援の方々も「人間の良心に沿ったもの」と大歓迎です。ビラ配布をしていても「ほんとうによかったね。」の声が届きます。
一方、職場では「統一派の労働組合活動が認められた」の声や、統一派の労働組合活動を「支持する」の声がありました。
そして「やっぱり差別は黙っていてはアカンというのが教訓だ」の声や、「私も差別されているから一緒に上げてほしい」の声もあり、会社の成果主義路線のなかで労働者の人権を守り育てる運動の必要を実感しているところです。
実は地労委に申立て後は、会社は統一派グループに攻撃を強めながら、個々の申立人には方針をもってそれぞれに労務対策を持ち、闘いを後退させようと攻撃を仕掛けてきました。申立人らの団結を崩そうと必死になりました。
こうした闘いの困難ななかで、16人全員が勝利できたのは「よかった。」の一言です。夜遅く休日にも3人、5人が組みになって「あの時はそうだった」と、思い出しながら全員が陳述書を書き上げました。公正な救済命令を求める要請署名は8000団体を超える全国の団体から戴き、地労委に提出しました。
これが出来たのは弁護団5人の励ましと行動が申立人の構えと争議運動を前へ前へと進めることができたからにほかなりません。
手弁当でお世話になる川重弁護団は、羽柴修、前哲夫、深草徹、松本隆行、山崎満幾美の各弁護士です。
もう一つは、申立人らの9年間の変わらぬ日常生活と日常活動です。私たちは社会倫理や社会の公共の秩序に善良に対応して川重活動家としての自覚を高めてきました。この全面勝利命令はこの間の生き方の表彰状です。
地労委関係者の方々と出会った時はこちらからご挨拶をさせて戴きました。審問廷終了たびに後かたづけ、机や椅子の整理・整頓、ゴミの持ち帰りなどは人間として当然の行動とし、審問廷では居眠りをしないように心がけました。
社内では統一派グループへの差別問題はタブー視されている面があり、誰も言葉にできず、言葉にすればご本人に被害がおよびました。地労委の方々にこの運動の困難を聞いて戴くだけでも有難いことで、コツコツとですが会社と対決できた審問廷は、申立人には人間として大きく成長をさせて戴くことができました。
会社は「企業の反社会的行為は企業そのものの存続を危険にさらす」と、違法行為は絶対に起こさないことを企業運営方針とするとして「コンプライアンス報告・相談制度」を03年6月に設立しています。
会社のコンプライアンス制度は「法令のみならず広く社会のルールを守ることで、社会と共生し、社会から信頼されることがなければならない」としています。
さらにこうしたコンプライアンスは「従業員は企業人として倫理観を持ち、問題が発生した時は真実を隠したり、虚嘘の報告をするといった保身的な対応をとったり、また不正に対しては見て見ぬふりをするとかでは企業として発展はない」としています。
そして「会社にとって最善であると誤って信じ込み、法令違反等とわかっている行為にあえて手を染めることは、結局は会社の社会的信頼を失い、法的制裁を受けるだけでなく、会社の存立をも脅かす結果になる」としています。
この制度に基づいて03年12月20日に川重争議団はコンプライアンス報告委員会に、地労委命令にある申立人らに対する労働組合法第7条1項違反の解決を要請致しました。
会社の不祥事は増加しています。そうした中で内部告発したり、会社を正したいと行動したり、発言した者が企業方針優先で切り離して被害者にされました。会社のいう「コンプライアンス報告・相談制度」が社会に対する申し開き程度のものか、それとも恥を外部に漏らしたと引き続き差別をするのか、それとも職場に憲法が入る制度になるのか。会社は変わると言うなら、職制だけがいばる労務管理制度を正常化し、働きやすい職場にしたいと行動したり、行動を起こさねば会社は少しも良くならないと活動した「統一派グループ」の手足を縛り、目に見える差別、見せしめ差別を繰り返した会社に自己責任があります。
従来から申立人らが純粋に会社の非民主的で法律違反のやり方に懸念を持ち、労働者の人権を守り、法律を無視しないでほしいと正常化を訴えると会社方針に水をさしたと、差別扱いをする伝統がありました。
本来の会社は、技術をもって社会発展に貢献し、労働者による創造的生産を最大のよりどころにしており、地労委命令に従い会社はまずもって社内を改善し、悪いことは悪いと従業員の誰でもが指摘できる風通しのよい職場秩序と企業風土を保持することです。
その意味でも二つの争議解決の実行が会社の健全な発展の第一歩となります。従業員の生き甲斐を育むためにも、会社はこれ以上争議を引きずることなしに、地労委の命令を尊重し、賃金差別是正と近藤正博氏の解雇撤回など、争議を早期に解決して社会的責任を果たすべきです。
川崎重工争議団は12月9日以降、争議解決に向け連日宣伝行動しています。この行動には暮れまでに延べ160人が参加しました。
また12月24日の夕暮れには「二つの争議を解決せよ」と、150人の支援者が本社前を包囲して要請行動をしました。
この行動のなかで、会社の中労委申立てを阻止することができました。引き続き04年1月5日の初出から宣伝行動を開始しており、1月21日には造船連絡会争議解決・中央省庁要請行動、2月13日には全県争議支援総行動と、川重争議団はさらに会社を追いつめ早期解決を闘いとるため奮闘し、勝利する決意です。
会社は差別を前提にした労務管理を改めなくてはなりません。申立人らは労働者の「普通の権利」を求め差別を受けてきました。近藤正博氏も「配転に応じられません。」と、労働者として「普通の権利」を求めて解雇されました。
会社は、長年にわたって「普通の権利」を求める統一派グループに「特別な差別」と「嫌がらせ扱い」がありました。その大本の一つに会社の一貫した経営拡大路線があります。会社はバブル期も、失われた10年といわれた時期も就業形態・勤務形態・多様な労働力の活用などに生産手段を切り替えながら経営拡大路線を取り続け競争力を唄い文句にしました。
こうした経営方針は、労務管理および人事管理に厳しいものがありました。各事業部は営業利益目標達成に必死でした。事業部は本社への責任利益上納金の工面に関連小会社のところまで金策に走ったし、経済情勢は事業部経営をますます危うくするし、社長査察の際は問答の台本まで作り、何度も練習して社長を迎えなくてはならず、強いリーダーシップが変形したことに誰もが気づかなかったのでした。
普通、社長査察は事業部の経営実態を正しく知って、対策の手を打つことにあります。
会社には異常が異常に見えない悲しさがあります。申立人らの「職場の自由と民主主義」を求める「普通の人権」が無視されてきたのです。普通に考えれば職能等級の滞留年数、苦情処理、男女均等、労災、時間管理、労働時間と拘束時間、複線型人事管理、労使・職制・守衛の企業防衛策等々の数々は会社にある制度として誠実に執行していますが、これらが世の常識とずれて「普通の人権」を脅かしていると気づかない異常さが会社の労務管理にあるのです。
会社がいま時代を先取りしているのは社会貢献でなく、自分だけの勝手な利益確保であり、地労委の審問廷を通して申立人の5名の弁護士が会社を諫めました。それは二つの争議解決が経営の再建に繋がるとしたもので、会社は教えを戴いたことに反省を加え感謝をすべきです。
また会社が申立人ら統一派グループを差別することは、会社が労働者の力を真二つに分断しようとしただけで、人間関係を良くしたいと望む従業員の期待に応えるべきです。
年が明けた1月9日に、会社は争議団と支援共闘会議に「不本意であるが地裁には行訴せず、地労委の救済命令には従う。これを完全実施することで紛争を終結したい」。「会社としては地労委以上のものは考えていない」と回答しました。
これで争議団の勝利は確定しました。しかしこれでは「金を払って罪を軽くして貰う」の会社の態度です。会社は罪から逃れようとするだけで社内の差別の垣根も残され、社会的責任を取ろうとしていません。
争議団は、会社が益々えげつない会社で、差別と格差を残して労働者支配を強めようと自らが宣言したとして、大量宣伝で包囲を強めながら、第2次提訴も視野に入れて闘い、社会的に包囲していく決意です。
賃金差別は人権侵害であり、歪んだ人権意識を植え付けようとした会社に重い責任があります。また地労委申立てで賃金差別にしぼったのは、差別実態を判りやすく資料も比較的多いとの理由からで、会社の潮流間差別が明らかになった今、会社は争議の全面解決の世論に背を向けることがあってはなりません。
会社は神戸商工会議所の筆頭企業として自覚がなく恥ずかしいかぎりです。地労委命令によって「労働者の権利を守るたたかいをしたことで差別され、申立人への差別攻撃が労働者全体を無権利にしていくテコになった」ことが判明しており、あくまでも地労委命令の精神にそって二つ争議の早期全面解決と完全実施を求めていきます。
このページのトップへ第428号で西田弁護士が報告したヨシケイ事件は、7月半ばに8人の女性ドライバーが解雇されてから、5か月間の短期決戦により和解解決しました。
ヨシケイの女性ドライバーたちは、6月末、同僚の送別会を開いたことが気にくわないといって上司から執拗にいじめを受けて退職届を書かされました。彼女たちは、その後すぐに退職届を撤回するとともに、全労連・全国一般に加入し分会を結成しました。分会が職場改善の要求を掲げると、お前たちは明日から来なくてよい、といって会社を辞めさせてしまったのです。
分会は、さっそく地位保全の仮処分を申し立てるとともに、未払残業代の支払いを求めて労基署に申し立て、また早期解決を目指すために職場前の宣伝や団体署名に取り組むなど、ものすごい力を発揮して闘ってきました。
分会は、この事件を事実上の解雇処分と位置づけ、その無効を主張して争ってきましたが、これに対して会社は支離滅裂な回答をしてきたのです。
(1) まず会社は、今回の事件は退職届を出したから自己都合退職であり、解雇ではないと言ってきました。
しかし会社は、病気療養中で退職届を出していないHさんを含めて職場復帰を認めないと言い張ってきていたので、今回の事件が退職届の問題ではないことは明らかです。
しかも、会社は、彼女らが全労連・全国一般の組合をやめて友愛会に復帰すればいいと公言してはばからなかったですし、また裁判所でのやりとりの中でも、全労連・全国一般は「共産党のカネせびり集団」などという陳述書を厚顔無恥にも提出してくるほどで、この事件の本質は、結局、無権利状態に置かれていた女性ドライバーたちが職場改善運動の先頭に立って分会を結成したことを嫌悪したものであること、すなわち不当労働行為(ユシ協定による解雇)であることも明白でした。
(2) また会社は、上司の横暴を糊塗しようと躍起になりました。もともと、この職場では、上司の気にくわないことがあると、辞めろとか、他の事務所へ転勤しろとか怒鳴りつける始末で、「ノルマを達成できなければ辞めます」といった念書を書かせること(退職強要)が常態化しているところでした。
こうしたなかで、6月末で同僚が辞めることからささやかな送別会を開いたことを嫌悪して、反省文を書け、辞めろと3日間も執拗に強要してきたのです。彼女らが開いた送別会は、終業時間外のものでしたし、短時間のものでした。また職場の上司も理解して、ずっと慣行として行われてきたものでした。しかし、某所長の虫の居所が悪かったという、それだけの理由で罵られ、退職届を書かされるに至ったのです。まさに慄然とする職場支配です。
彼女らが今回の闘争に立ち上がった背景には、こうした横暴を許せないと言う素朴な思いがあったことは間違いありません。
会社は、裁判所で、「上司が怒るはずはない」とシラを切ろうとしましたが、会社が提出した従業員の陳述書に、上司が怒鳴り散らした、とか机をバンバン叩いたといった供述があったため、その矛盾が白日の下にさらされてしまったのです。
(3) こうした会社の主張に理がないことは鮮明になりましたが、すると会社は、もう他の従業員を雇ったのでいまさら8人も職場復帰させることは出来ない、などと開き直ったのです。
しかし、こうした会社の主張も嘘でした。組合が、新聞折り込み広告に「従業員募集」のチラシを掲載していることを指摘すると、ついに反論不能となってしまいました。
こうして会社の主張は次々破綻していき、組合の裁判上の優位性は明らかでした。
しかし、一方で早期解決の要求は高く、また、未払い賃金の問題も解決しなければならないし、また裁判の長期化の危険など実際上の問題等を考え、分会としての最終結論は、早期和解に応じる、ということでした。
そこで、弁護士間での折衝を続けた結果、ヨシケイ事件は他の事件に比べても相当有利な条件で解決金を支払わせることで全面解決しました。
今回の勝因は、裁判で会社の主張のデタラメさを暴露するとともに、裁判外での旺盛な活動を続けることによって会社を追い込んでいったことにあると思います。彼女らのがんばりが、今回の全面解決の大きな力となったのです。私も今回の事件を通じて学んだことは大きかったと思います。
このページのトップへ2003年11月14日、神戸地裁姫路支部(菊井一夫裁判官)で、それぞれが同居の家族に要介護者を抱える従業員2名に対する遠隔地への配転命令をともに無効とする仮処分決定を得ましたので、ご報告します。
1 ネスレジャパン(以下「ネスレ」といいます。)は、ご存知のとおりスイスに本拠を置く世界最大の食品メーカーであるネスレSAの日本法人で、現在、国内では霞ヶ浦工場(茨城県稲敷郡)、島田工場(静岡県島田市)、姫路工場(兵庫県神崎郡)の3工場が稼動していますが、2003年5月9日、突然、姫路工場で行われているギフトボックス箱詰作業の廃止を発表し、ギフトボックス係に配属されている61名の従業員中、間もなく退職予定の1名を除く60名の従業員に、2003年6月23日までに霞ヶ浦工場へ転勤するか、あるいは特別退職金を受領して退職するかの二者択一を迫る業務命令(以下「本件転勤命令」といいます。)を発しました。
2 ネスレは、自ら発行している「90年のあゆみ」の中で、「金融不安と消費低迷が進むなか増収増益を記録」と記載しているとおり、その「売上高は日本の食品業界の雄、味の素の8倍、株式時価総額は味の素の15倍」(2003年6月20日付日本経済新聞)となるような莫大な利益を獲得し続けており、今般の姫路工場における部門閉鎖も、経営危機とは全く無関係の、あくなき利潤獲得のための合理化措置に過ぎませんでしたが、多数の従業員を組織する第二組合(ネスレ日本労働組合)が会社方針に服従し、組合員に対して「会社決定に協力するように」との見解を示したため、配転命令を発せられた60名の従業員のうち、9名は配転命令に応じて霞ヶ浦工場へ転勤していき、48名は特別退職金を受領して会社を退職していきました。
3 しかしながら、第一組合(ネッスル日本労働組合)所属のAさんは、地元の学校への進学を希望している受験を控えた高3、中3の2人の子どもを抱えているだけでなく、妻が非定型精神病のために介護が必要で単身赴任はできないし、生活環境の変化が生じた場合、病状が悪化することが予測されることから家族帯同で転勤命令に応じることもできないとして転勤及び退職を会社に拒否し、また第二組合に所属していたKさんも、地元の学校への進学を希望している2人の子どもを抱えているだけでなく、同居の79歳になる母が痴呆も進行し、自治体から要介護2の認定を受けているとして、第二組合を脱退して第一組合に加入した上で、Aさんと同じ理由で転勤及び退職を拒否する意思を会社に明確にしました。
そして、第一組合は、今般のAさん、Kさんに対する本件転勤命令がILO第156号条約、2002年4月1日施行の改正育児介護休業法26条に違反するとして兵庫労働局に是正指導の要請を行うとともに、会社との団交で本件転勤命令の撤回を求めたのですが、会社が、「事情は誰でもあるもの。同居の家族に要介護者や精神病を抱えていることは決定に変更を与える事情ではない」との姿勢に終始したため、2003年6月13日、神戸地裁姫路支部に本件転勤命令の効力停止等を求める仮処分の申し立てを行いました。
4 仮処分においては、リーディング・ケースである東亜ペイント事件最高裁判決の枠組みのもとで、業務上の必要性と労働者の被る不利益が争点となりました。
Aさん、Kさんは、経営危機とは全く無関係のあくなき利潤獲得を目的とする合理化に配転を命ずる業務上の必要性を認めることなどできないし、また同居の家族に要介護者を抱えている従業員に対する遠隔地配転が当該従業員に受忍し難い著しい不利益を被らせるものであることは明らか(医師が生活環境の変化が病状の悪化をもたらす可能性が高い旨を述べている以上、家族を帯同して配転に応じることはできないし、また要介護者を残して介護の中心を担っているAさん、Kさんが単身赴任に応じた場合、介護自体を担う者がいなくなる)と主張したのに対し、会社は、会社全体として高収益をあげていることと個別に収益の悪化している部署を廃止すべきかどうかという問題とは無関係であるし、霞ヶ浦にも病院はあるのだから家族を帯同して配転しても特に問題はない、単身赴任しても他の家族たちが介護を担うことは可能と反論したのですが、決定は、「使用者の転勤命令は、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合、又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合は、権利の濫用となる」と東亜ペイント事件の最高裁判決の判示を引用した上で、「本件転勤命令の業務上の必要性は優に認められる」としながらも、要介護者である妻や母親が、茨城県に転居することには危険が大きいし、Aさん、Kさんが単身赴任し、他の同居の家族だけで要介護者の世話をすることは、不可能とまではいえないにしても、相当な困難が予想され、現実には不可能であるとして、「本件転勤命令は、業務上の必要性が存するものの」、Aさん、Kさんの「いずれに対しても、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるから、権利の濫用にあたり無効というべきである」と判断し、霞ヶ浦工場で就労する義務のない地位を仮に確認するとともに、霞ヶ浦工場で就労しなければ給与の支払いを止める意向を示していた会社に第1審判決言渡しまでの給与の仮払いを命じました。
5 決定は、極めて簡潔なもので、余分なことはほとんど書いておらず、理由中でILO第156号条約や「事業主は、その雇用する労働者の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」と規定する改正育児介護休業法26条について触れるところはないのですが、この決定を得るについては、明治図書出版事件・東京地裁2002年12月27日決定が大きな力となりました。
申立後、改正育児介護休業法26条を根拠として、共働きで子育て中の労働者に対する配転命令を無効とした上記東京地裁決定の存在を知り、弁護団の志村新先生(東京法律事務所)にお願いして、決定文や資料を送付頂き、上記東京地裁決定が、改正育児介護休業法26条について、「同条の『配慮』については、『配置の変更をしないといった配置そのものについての結果や労働者の育児や介護の負担を軽減するための積極的な措置を講ずることを事業主に求めるものではない』けれども、育児の負担がどの程度のものであるのか、これを回避するための方策はどのようなものがあるのかを、少なくとも当該労働者が配置転換を拒む態度を示しているときは、真摯に対応することを求めているものであり、既に配転命令を所与のものとして労働者に押し付けるような態度を一貫してとるような場合は、同条の趣旨に反し、その配転命令が権利の濫用として無効になることがあると解するのが相当である」と判示している点を最大限に強調し、本件においては、会社は事前に個別の事情聴取等を全く行うことなく従業員の家庭の事情を無視して本件転勤命令を発し、その後、Aさん、Kさんが要介護者を抱えている家庭の事情を必死に訴えているのに、これに耳を貸そうとすらしなかったもので、かかる会社の対応は、まさに「配転命令を所与のものとして労働者に押し付けるような態度」であり、改正育児介護休業法のもとで、Aさん、Kさんに対する本件転勤命令が認められる余地はない旨の主張を大展開しました。
決定が、業務上の必要性は優に認められるとしながら、それでもAさん、Kさんの被る不利益が業務上の必要性を上回ると当然の如くした判断ことについて、上記明治図書出版事件の東京地裁決定が影響を与えていることはまず間違いのないところと思われます。
6 もっとも、決定が「業務上の必要性は優に認めることができる」とした点については問題がないわけではありません。決定は、会社が連結純利益を確保していることを認めながら、「厳しい競争にさらされている企業が不断に経費削減に努めることは当然」であることからストレートに「業務上の必要性」を肯定しており、長引く不況の中で、「企業も苦しんでいるのだから」という配慮のもとでリストラに手を貸そうとする今日の裁判所の一般的な姿勢をかいまみることができますが、経費削減の必要性と配転命令を発する業務上の必要性を混同しているとの批判を免れないと思いますし、殊に、ネスレの場合、大儲けをしているというだけでなく、2000年に兵庫県淡路島にあった広田工場を廃止する際にも、従業員に、霞ヶ浦工場へ転勤するか、さもなくば退職するかの二者択一を迫り、その結果、多くの労働者が遠隔地配転に応じることができずに退職していったという甘い経験を持っており(第一組合員がいないこともあって、業務命令を争う者も皆無であったようです)、今般の業務命令も、広田工場を廃止したときの経験から、霞ヶ浦工場への転勤か、退職を迫れば、多くの従業員が自ら退職していってくれることを見越してなされたものであったことは間違いのないところです。
従って、本件の実質は配転命令に名を借りた整理解雇といってよく、大儲けしている企業が整理解雇できないことはいうまでもないところですから、「業務上の必要性」を認めること自体が不適当な事案であったといわなければなりません。
7 仮処分決定後、会社は賃金仮払いには応じる意向は示しているものの、Aさん、Kさんの姫路工場での就労を認めていませんが、Aさん、Kさん、そして第一組合は、必ず姫路工場での復帰を実現し、介護と仕事を両立させることを改めて決意したうえで、2003年11月21日に本訴を提起しました。
本訴では、再度、ILO第156号条約、改正育児介護休業法26条を強調して、育児介護の問題を抱えた労働者に対する遠隔地配転が認め難いものであることとともに、本件のような整理解雇の実質を持った配転に業務上の必要性も認める余地のないことを明らかにするために、弁護団としても奮闘する決意です。
(労働弁護団通信より転載)
このページのトップへC型肝炎に罹患している20代の男性が、C型肝炎罹患を理由に勤務先から解雇されました。男性は、2003年12月9日、勤務先である人材派遣業者株式会社ジャパンクリエイト関西と、派遣先である大手薬品卸業者株式会社アズウェルに対し、C型肝炎罹患を原因とする解雇・差別的な取り扱いに対し損害賠償(慰謝料等)を請求する裁判を神戸地方裁判所に提起しました。
原告はC型肝炎に罹患してますが日常生活にほとんど影響はなく、これまでにも飲食店での調理・接客の仕事やその他の仕事を続けてきました。これまでの勤務先の上司や同僚も原告のC型肝炎罹患の事実を知っても、普通に接してくれ、むしろ体調が優れないときなどは配慮してもらっていました。
2003年5月4日、原告は被告株式会社ジャパンクリエイト関西が派遣人材を募集していることを知り、翌5日に電話をかけて被告株式会社アズウェルの仕事を紹介されました。募集されている仕事の内容は、薬品の配送助手、仕分けなどでした。原告は面接選考の上(健康状態についての質問は一切なし。)、ジャパンクリエイトに採用され、同月7日からアズウェルでの勤務が始まりました。
勤務初日、配送自動車内で他の従業員らとの雑談中、飲酒ができない理由を聞かれた原告は自分がC型肝炎に罹患していることを話しました。初日の業務を終え、体力的にも無理なく働くことができた原告は、この仕事で頑張っていきたいと思っていました。
翌8日、原告が出社するとすぐにアズウェルの課長から呼出しを受け「お前はC型肝炎にかかっているそうだが、ここは医薬品を扱っていて、皆の神経が過敏になるから、だまっとけ。」と恫喝めいた強い口調で言われました。原告は、それまで受けたことのないあまりに意外な差別的発言に驚きました。課長は、その発言以降、まるで腫れ物に触るかのように原告を無視する態度になりました。
翌9日、昼の休憩時間に、突然ジャパンクリエイトの面接担当者がアズウェルの支店に訪れ、原告に対し「申し訳ないが、C型肝炎で辞めてもらう。」「アズウェルから言われた。薬の卸をやっていて病院を回るから、まずい。」と言いました。
原告は、驚きと悔しさで頭が真っ白になりながら、午後の作業を終えました。原告は帰社する際に3日間の就労時間を書いてアズウェル課長に渡しましたが、課長は何も言いませんでした。
ジャパンクリエイトからの5月12日付退職証明書には「C型肝炎発覚により採用基準に達していなかったための採用取消」と記載されていました。
C型肝炎ウィルスは、主に血液を介して感染(血液感染)し、日常生活で感染することはほとんどありません。またC型肝炎に罹患しても直ちに労働に支障をきたしたり、もしくは労働のため病勢が著しく増悪するおそれはありません。
この点、C型肝炎と同様、HIVウィルスの血液感染により発症するエイズに関し、平成7年2月20日、労働省(現厚生労働省)は「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」を作成し、その解説において「HIV感染それ自体によって仕事への適性が損なわれることはないから、感染者がHIV感染それ自体によって不利益な処遇を受けることがあってはならない。」とされています。C型肝炎ウィルスもHIVと同様、日常生活ではほとんど感染せず、また罹患しても直ちに労働に支障を来さず、感染者、患者への偏見差別が根強いのですから、エイズと同様職場において不利益な処遇を受けないよう配慮されるべきです。
被告ジャパンクリエイトの原告に対する採用取消は、C型肝炎罹患を理由とする不当な解雇・差別にほかなりません。
また、被告アズウェルは、原告がC型肝炎に罹患している事実を知るや否や、課長が原告に対し、差別的で恫喝する発言を行ったのみならず、原告に無断でジャパンクリエイトに原告のC型肝炎罹患の事実を告げ、ジャパンクリエイトをして原告の採用を取消しせしめるに至っています。これは、原告のプライバシー権を侵害するとともにC型肝炎罹患により労働者を差別する不法行為にあたります。アズウェルは大手薬品卸業者であり、かつ製薬事業も行っています。当然C型肝炎ウィルスに関する正確な知識を有しており、むしろ社会に率先してC型肝炎患者に対する偏見差別を払拭していく責務を負っているのですから、その不法行為の違法性の程度は大きいと言わざるを得ません。
原告は、自分がC型肝炎に罹患しているだけで、被告らから差別的な取り扱いを受けたこと激しい憤りを感じ、提訴を決意しました。原告は、本件提訴に至った理由について、以下のとおり述べています。
「私と同じように、C型肝炎に罹患していることが理由で失業した人々は、たくさんおり、泣き寝入りする人もいるでしょう。そのような人々が、肝炎に罹患しながらも未来に悲観することなく、安心して生活できる社会を確立したい、この問題は、私個人の問題ではなく、私を含むC型肝炎に罹患している人々全ての問題であり、面と向かって闘わなければならないと考え、提訴に踏み切りました。」弁護団は、吉井正明、辰巳裕規、内海陽子です。
このページのトップへ昨年(2003年)10月20日、一貫した「連合」偏重の労働者委員選任処分取消等を求め、選任から排除された鳥居成吉氏(全日本港湾労働組合関西地方阪神支部・内外フォワーディング分会分会長、全日本港湾労働組合関西地方本部執行委員)と鳥居さんを推薦した9組合が、兵庫県と兵庫県知事を被告として神戸地裁に提訴した(神戸地裁民事6部に係属、事件番号:平成15年(行ウ)第35号)。
そして、同年12月24日、第1回口頭弁論期日において、鳥居氏により次の通り、意見陳述がなされ、「連合」偏重任命の不当性とそれが地労委の機能に深刻な歪みをもたらしていることを訴えた。
今回の訴訟に対し、被告らは答弁書で選任基準なるものを摘示してくるなど、従前のように「総合的に勘案して」決定したというお題目を繰り返すだけではしのぎきれないという状況になっている。訴訟と運動により、早期に公正な任命を実現させたい。
*次回期日:2004年2月26日(木)午前10時15分(地裁204号法廷) |
*なお、第37期の取消訴訟判決は3月31日 午後1時30分(地裁203号法廷) |
意 見 書 原告 鳥居 成吉 この度の提訴に当たり、原告らを代表して意見を申し述べます。 井戸敏三兵庫県知事は、2003年(平成15年)7月22日、兵庫県地方労働委員会の第38期労働者委員の選任に当たり、第37期に引き続き労働者委員7名全員を「連合」推薦委員で独占させる任命を行ない、非「連合」9組合が推薦した原告である私、鳥居を任命しませんでした。「連合」結成後の31期(平成元年5月)以降、何と15年以上、9期にわたり労働者委員の「連合」独占が続いております。 このような兵庫県における偏向任命を是正すべく、2000年3月に非「連合」の多くの労働組合と兵庫県民主法律協会が「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫連絡会議」を結成し、非「連合」の代表を労働者委員として任命するよう訴えてきました。 私は1968年に港湾産業の企業に入社し、1973年に企業内労働組合の執行委員となり、委員長になった1982年に港湾の産業別単一組織である全日本港湾労働組合関西地本阪神支部に組織加入し、現在関西地本の執行委員及び、阪神支部副委員長と、神戸港の港湾労働者の産業別労働組合である神戸港湾労働組合協議会の副議長を勤めております。また関西地本を代表して兵庫県民主法律協会の幹事を15年以上しております。そのなかで多くの労働事件を見聞しており、労働委員会での係争事件は特に関心を払うところであり、兵庫の労働委員会のあり方には、憂慮を禁じえないのであります。 2003年6月に私は全港湾関西地本執行委員会の決定により、関西地本傘下の神戸支部の推薦で労働者委員に立候補しました。また「連絡会議」加盟の8組合の推薦を受け、第38期の労働者委員候補として、県知事に対して所定の手続きを取り、第38期の労働者委員として全力で奮闘する意志を固めたのであります。しかし、第38期の選任に当たり兵庫県当局は、通常であれば7月上旬に任命するところを10日以上も遅い7月22日に「連合」推薦の7名を任命したのであります。またもや非「連合」推薦候補を排除したことに無念さと、憤りを禁じ得ません。 第37期選任をめぐる第1次訴訟での証人尋問で、貝原前知事は、労働者委員7人で兵庫県全体の産業分野をできるだけ代表するように選任したと、証言されました。しかし、私は兵庫県の重要産業である港湾産業の労働者として35年の長きにわたり従事し、港湾の労働組合の幹部として、港湾産業の民主化と、港湾労働者の生活向上のために少なからず寄与してきたと自負しております。貝原前知事の言う「多岐に渡る産業分野からの選任」と言うことであれば、日本の食料輸入が60%と、いわれており、その大部分を扱う港湾は国の重要産業として位置づけられています。にもかかわらず、私が選任されなかった理由は一切明らかにされていません。第一次訴訟の中で、労働者委員の選任について「連合」系組合の任命枠があることが判明しました。このようなことから、今回も私が労働者委員として適任か否かについて実質的な審査はなされず、「連合」に与えられた従来からの「指定席」を埋めるための「選任作業」が行われたとしか考えられません。 つい最近の報道によれば、東京都労委でも労働者委員13人のうち、非「連合」出身の労働者委員が従来の1名から2名に増えたということです。兵庫県の地方労働委員会が真に労働者、労働組合から信頼を寄せられ、労働者の救済機関としての本来の役割を果すためには、労働者委員の任命における知事の不当労働行為とも言うべき偏向任命が直ちに是正されることが不可欠です。裁判所が、行政といえども誤りは誤りという毅然とした判断を示されることを願います。 |
被申立人である日本ガイダント株式会社は、医薬品、医療用具の輸入販売等を目的として、平成6年に設立された、米国が本社の会社である。申立人は、平成11年3月8日に、仙台営業所の営業係長に配属された44歳の男性であり(中途採用)、給与等級はP3級(月額諸手当込61万9500円)とされた。
申立人の、平成13年2月〜7月までの、各月売上目標達成率46.5%〜62%であり(年間目標額は2億8400万円)、数字としてはP3級の中で最低ランクであった。
この申立人の成績に対し、以下のような執拗な退職勧奨が行われた。すなわち、仙台営業所の営業部長は、平成13年8月29日、申立人に対し、「この成績では…転職を考えた方がよいのではないか」と、同営業所責任者は、同年9月10日、「目標の70%に達しない者はやめてもらう、9月から12月にあと1億円の目標にせよ」と、同人らは、同年11月30日に、「あと1億円といっておいたが、全然届きそうにない。どうするつもりか」と述べた。申立人は、同年12月から平成14年1月中旬ころまで、大腸ポリープで入院したが、同年2月21日になって、同人らは「自身から身をひかれた方がよいのではないか。人材派遣会社の費用を3か月くらいは負担する。退職金も少しは上乗せする。(応じない場合は)成績不良を理由に解雇できる」と述べた。さらに、営業所責任者は、同年2月25日に、再度自主退職を迫り、申立人が自主退職を断ると、翌26日に、「解雇できないので、…仙台営業所の内勤となります」と告げた。また、28日には、法務部長、人事部長、営業所責任者が、申立人に対し、さらなる退職勧奨をし、申立人が断ると、被申立人は、同年3月6日、申立人を、営業職(PV級)から事務職(PT級月額諸手当込31万3700円)へ配転させる命令を下し、以後、申立人に対し仕事を与えなかった。
@ 使用者は、(就業規則等に規定がなくとも)労働者と労働契約を締結したことの効果として、労働者をいかなる地位に付かせるかを決定する権限(人事権)を有している。この人事権の行使は基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にわたるものでない限り、使用者の裁量の範囲内のものとして、その効力が否定されるものではない。
A 他方、賃金の決定基準である給与等級の降格の側面についてみると、賃金は労働契約におけるもっとも重要な労働条件であるから、単なる配転の場合とは異なって使用者の経営上の裁量判断に属する事項とはいえず、降格の客観的合理性を厳格に問うべきである。
B 配転と給与等級の大幅な降格の双方を内容する配転命令の効力を判断するにあたっては、配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、労働者の適正、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、降格の動機及び目的、降格の運用状況等を総合考慮し、従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、当該降格は無効と解すべきである。
C なお、降格が無効になった場合には、賃金減少の原因となった配転自体も無効となる。
@ 労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度
確かに、実績として、申立人の目標達成率は、PV級の職員の中で最低の部類であり、その成績には、申立人の営業能力の低さが影響している。しかし、目標達成率の低さは、入社予定の社員が実際には入社しなかったことなど、申立人の能力以外の他の事情も影響している。
したがって、賃金を半額にする程の帰責性はない。
A 降格の動機及び目的
被申立人が、申立人を退職に持ち込みたかったのに申立人が応じなかったことから配転命令を発したこと、被申立人が、申立人を営業事務職に値しない事務へ配転させていること、からすれば、被申立人は、申立人に再帰の可能性を与える目的で配転命令を下したのではなく、むしろ、申立人の給与等級を下げることを目的で配点命令を下したといえる。
B 降格の運用状況等
被申立人において、同等の降格(賃金減少)は認められない
結論:本件配転命令は無効
@ 使用者は、就業規則等による根拠規定がなくとも人事権の行使として配転命令が可能であるとしたが、他方で、業務上の必要、動機目的、労働者の不利益とを比較衡量した結果、権利濫用となるときは配転命令が無効となるという点は、これまでの裁判例を踏襲したものである。
また、配転に賃金減少を伴う場合には、労働者の不利益が非常に大きいことから、配転命令の効力を厳格に問うべきであるとする点でも、従来の裁判例を踏襲したものである。
A 本決定は、労働者の適正、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、降格の動機及び目的、降格の運用状況をある程度詳細に事実認定した上で、配転命令を無効にした点については、意義があると思われる。
B 本決定は、採用時の職種・処遇についての合意や、営業職と営業事務職の業務内容の異同等をしっかり事実認定しないまま、被申立人が、申立人を、営業職から営業事務職に配転させること自体については問題がないことを前提にしているようである。その背景には、異なる職種へ配転させることを問題にしなくとも、賃金切下の客観的合理性がないことを理由に、配転命令を無効にできるという結論を導き出せるということがあるかもしれない。
しかし、職種は(本決定が重要であると指摘する賃金と同様)労働契約内容における重要基本事項であるから、賃金切下の合理性を問う前に、まずもって、職種についていかなる合意がなされていたかについてしっかりとした事実認定がなされるべきであると考える。実際、これまでの裁判例でも、採用時の事情、配転前後の職種の異同を詳細に認定した上で、労働契約の内容(労働契約において職種が限定されていること)を根拠に、配転命令権を制限する例はある。
したがって、裁判所が職種限定の合意の認定を軽んじたことは大きな問題であると考える。特に、被申立人が外資系企業であり、申立人が、営業職のプロとして営業職の最高給与等級の条件で中途採用され(いわゆるヘッドハンティング)、募集広告・採用通知書にも、職種を「営業(部)」と記載されていたという事情があったにもかかわらず、軽んじられているのは、大きな問題である(このような事情のない一般の従業員に対する配転命令の裁量範囲の認定にも大きな影響を与えかねないと思われる)。
このページのトップへ本件は、賃金にかかる就業規則の不利益変更に関する事例です。
事案の概要は、就業規則賃金規定が年功序列型賃金規定から業績重視型賃金制度へ移行したことにより、4〜50才代と、高年齢層の従業員(組合員)である原告ら6名に対する賃金額(変更前は43〜44万5000円程度)が、それぞれ6〜7万円程度減額されたというものです。
原告ら6名は、就業規則賃金規定の不利益変更が認められないと訴え、賃金の減額分を請求しました。これに対し、被告会社は、会社の業績悪化や、年功序列型賃金規定により会社に生じている不都合(若い世代の労働者の不満が表出)などを主張しました。
本件第1審判決(東京地裁八王子支部平成14年6月17日判決)、控訴審判決(東京高裁平成15年4月24日判決)は、ともに就業規則新賃金規定のうち賃金減額の効果を有する部分の原告らに対する効力を否定し、原告らの請求を認容しました。
就業規則の不利益変更については、昭和43年12月25日最高裁判例(秋北バス事件)をはじめ、いくつかの最高裁判例により、判断の基準がすでに確立しており、その後の下級審裁判例も、最高裁判例の基準に則って判断がなされています。
本件裁判例も、秋北バス事件等の最高裁判例を引用して基準をたて、具体的にそれぞれの基準に事例を当てはめ、判断しています。その結果、本件においては経営上の必要性は否定しがたいものの、新賃金規定は、実施するために必要な原資をもっぱら原告ら高年齢層の労働者の犠牲において調達するものであって、総賃金コストの大幅な削減を図ったものとはいえず、また高年齢層に属する従業員については(業績評価の)格付けの上昇は一般に期待しがたく、かつ原告らは被告と長年にわたり対立関係にあり、会社に対する貢献も小さいものと評価されており、緩和措置にも見るべきものがなく、原告らの被る打撃は突然で大きなものであり、新賃金規定は、高度の必要性に基づいた合理的な内容であるということはできないとして、効力を否定しました。
本件のように能力給導入に関する就業規則の不利益変更の裁判例はいくつかありますが、その判断は分かれています。各事件の個別事情を詳しく当てはめ判断するからとも考えられますが、個々の裁判官の判断に大きく左右されているという印象も受けます。
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