2004年4月2日、大手人材派遣会社スタッフサービスの社員遺族が、昨年12月、弟が自殺したのは長時間労働と過酷なノルマによる労務管理、一方的な降格人事などによりうつ病に罹患し、これに対する配慮がなんらなされなかった結果であると会社責任者を労働基準法違反で大阪天満労働基準監督署に告発しました。告発代理人は藤原、大槻、高本知子(大阪)の3名。
被告発人株式会社スタッフサービスは大阪市北区に本社を有し、人材派遣業を営む株式会社であり、被告発人本岡はその関西営業本部副本部長として同社の業務全般、同社が雇用する労働者に関する事項を統括掌理する者である。
被告発人会社は傘下企業13社、従業員約4200人を有するスタッフサービスグループの基幹をなす会社であり、大阪に本社をもつ被告発人株式会社スタッフサービスの従業員は約100名である。
被告発人本岡は、被告発人会社の業務に関し、法定の除外事由がないのに、2003年1月より同年12月の間、前記事業場において、同社に勤務する労働者に、労働基準法32条に違反して1週間について40時間または1日について8時間を超えて労働させたものである。
被告発人本岡は、被告発人会社の業務に関し、2003年1月より同年12月の間、前記事業場において、労働者に1週間について40時間または1日について8時間を超えて労働をさせながら、これに対する労働基準法37条所定の割り増し賃金を支払わなかったものである。
被告発人本岡は被告発人会社の関西営業本部副本部長であり、同人は被告発人株式会社スタッフサービスのために、同社の雇用する労働者に関する事項について上記労働基準法違反の罪を犯したものである。よって被告発人会社は労働基準法121条1項により処罰されるべきものである。
同社では就業規則の定めは無視され、毎朝8時30分から朝礼を行い、夜は午後11時頃退社するまで業務を行なうのが日常であり、同社で働く労働者の事実上の実労働時間は毎日13時間を超えていた。
さらに、就業規則第19条には土曜日、日曜日は休日とされているのに、事実上は毎週出勤しなければ業務が遂行できず、休むことは許されなかった。
営業の仕事は企業を訪問し、派遣業務を受注してくるということである。営業職には標準営業職とサポート営業職の2種類があるが、標準営業職が新規企業を担当し、ノルマに従い作られた1日25〜30件の企業を訪問するのに対し、サポート営業職は既にスタッフを派遣している管理企業を対象に、派遣労働の開始や延長、派遣先企業からのクレームへの対応、派遣スタッフの苦情や退職希望への対応などに追われる。1人で管理企業を40〜50社、スタッフを120〜130人抱えている。
そして、被告発人スタッフサービスでは、訪問、受注、開始のそれぞれにつき毎日のノルマが設定されており、毎日その目標を達成しているかを厳しくチェックされ、終了件数を含め細かくデータ化されている。
副支店長という立場は、自ら営業活動をしながら同時に4〜5名の部下の数字も管理し、指導やフォローしなければならない立場である。
営業社員は大体午後6時から7時頃帰社し、全員がそろった時点でミーティングを行なう。帰社が遅いものもいるので、ミーティングは早くて午後8時30分から午後9時以降、大概は午後10時頃の開始になる。そこで営業目標達成のチェックを行い、支店長が演説する。会社を出るのは午後11時から11時30分になるのが常である。
被告発人会社は、人材派遣会社として、労働基準法を厳格に遵守すべき立場にある。ところが逆に労働基準法違反を日常茶飯事として行なっていたものであり、労働者を酷使しているもので、その情状極めて悪質である。
告発人の実弟は昭和46年6月27日生まれで、平成8年5月被告発人会社に雇用され、平成15年12月当時同社の広域第1支店副支店長として働いていたが、本件告発にかかる長時間労働と過重な業務負担のため、平成15年12月2日過労と精神的ストレスによるうつ病の発症により32歳の若さで自殺を遂げた。本件は同人が自殺する直接の原因となった過労と精神的ストレスをもたらした被告発人会社の長時間労働と過酷なノルマで社員を追い立てる同社の労務管理体制の違法性を摘発し、再発の防止を図ろうとするものである。
このページのトップへ保育士が組合結成(5名)を保育園側に通知公表した平成15年7月以降、園が度重なる支配介入、団体交渉拒否等を繰り返し、ついには平成16年1月に雇用継続を希望した組合員4名中3名を「雇い止め」にした事件です。
(1) すくすく保育園(東灘区)(以下単に「園」といいます)は、西日本初の株式会社経営の認可保育園として、平成13年7月開園した保育園です。園の定員は、乳児・幼児合わせて45人であり、平成16年4月1日現在フルタイム6名、パート2名が勤務しています。
(2) 保育士高橋美里さんは、現在満26才、保育士宮田佳代子さんは、現在満25才の女性で、それぞれ学校卒業時に保育士資格を取得し、お二人とも以後2つの保育所での勤務を経た後、高橋さんは、平成14年4月1日から、宮田さんは、平成13年10月1日から、園で保育士として勤務するようになりました。お二人とも組合(全国福祉保育労働組合兵庫支部すくすく保育園分会)結成の中心人物で、高橋さんは執行委員長、宮田さんは書記長を務められています。
宮田さんは、1年契約ということで園に採用され、園に採用された直後から、保育士経験をかわれて他の保育士と2人で1歳児クラスを任され、その後保育士としての働きぶりを評価されて、勤務開始半年後である平成14年4月には主任保育士に任命されました。宮田さんは、主任保育士となった後、園児の親との対外的な折衝など園の保育士の中心的役割を果たしていました。ところが、宮田さんが、より良い保育を目指し、園長に対し、保育に必要な備品・設備の充実や、食事・おやつの内容の改善などを提言をしたり、園児の親からのクレームを踏まえた保育内容の改善を提言し始めると(すなわち、経費、手間がかかる提言をし始めると)、次第に園長に嫌われ、平成14年9月をもって主任保育士を解任されました。
高橋さんは、1年契約ということで園に採用され、他の保育士と2人で2歳児クラス(園児14人)を担当しました。そして、園長に働きぶりを認められて、試用期間を予定より早い5月20日に満了する扱いを受け、同年10月からは、宮田さんの後任の主任保育士に任命されました。主任保育士に任命されてからしばらくは、園長から「あなたには、ずっといてほしい。これからもよろしくね」などとよく言われていましたが、備品・設備の充実、保育内容の改善を提言し始めると、次第に園長から嫌われるようになり、平成15年3月に主任を解任されました。
保育士の勤務日・時間は、平日・隔週土曜出勤、1日7時間30分(休憩1時間)ですが、実際には保育に追われ休憩をとることはできませんでした。保育士の人数は、認可基準ぎりぎりでしたが、保育士以外の職員が園にいない状態で保育士が保育以外の業務も負担していたため、保育士には過重な負担がかかっていました。また、賃金は、高橋さん、宮田さんとも基本給15万円、特別手当1万円であり、労働時間、仕事内容、負担からして、相当低いものでした。また、園の保育士は、全員が1年契約で不安定な地位に置かれていました。
園の施設・備品、給食は貧弱で、例えば、2歳児ないし4・5歳児クラスの部屋が、大部屋に仕切りを作っただけのものだったので、それぞれのクラスの声が響きあい大声でしゃべらなければ園児との会話もできない状態であり、園児も保育士も常に落ち着かない状態でした。また、子どもの玩具、絵本、楽器が殆どなく、みかねた保護者・職員の寄付で何とか間に合わせているような状況でした。さらに、園の給食・牛乳・おやつが少なく、園児から「おかわりをしたい」と求められても、おかわりをさせてあげられない状況にありました。また、労働条件の劣悪さ等から職員が常に変動していたことから、園児は保育士と安定した関係をもつことができず、落ち着きがありませんでした。
高橋さんと宮田さんは、主任保育士として、園長に上記のような園の問題点の改善を要望したのですが、園長は「そんなに文句があるんだったらやめたら良いのよ、この園に合わないならやめてもらっていいのよ」などと言うばかりで、まともに取り合ってもらえませんでした。
このような園の状況に耐えかねて、高橋さん、宮田さんが中心となって、平成15年6月にフルタイム保育士7名(当時)中5名が組合を結成し、7月に園に通告公然化するとともに、
@労働条件の改善、A保育施設の改善や保育充実、B保育士としての豊かな保育の実践を柱とする団体交渉を要求しました。
(1) 園長は、組合結成翌日から、組合員に対し、「労働組合は保育中に赤旗をもってやってきて保育を阻止するから保護者や子どもに迷惑がかかる」「組合に入ると次の就職が困難になる」「組合に入るということは親の顔に泥を塗るようなもの」などの発言を繰り返し、また高橋さんには、9月ころ「あなたが中心だったのね、ガンね、ガン!そんなにいやだったら辞めたらいいのよ」と発言し、非組合員に対しても「組合に入ることは困る」などの発言しました。
また、組合員に解雇をちらつかせたりもしたこともありました。
(2) 組合は、平成15年7月15日の組合結成通知と同時に団体交渉の申し入れをしその後も再三団交の開催を要請したのですが、第1回団体交渉がもたれたのは、9月4日でした。その後も、組合の再三の要求にもかかわらず、園は、団体交渉を拒み、第2回団体交渉がもたれたのは11月14日、第3回団体交渉がもたれたのは、平成16年2月29日でした。しかも、団体交渉には、専務が会社側代表として出席し、自分では分からないとか、園長に了解を取らないと答えられないと言って回答を避けることに終始し、園長は、平成16年5月現在まで1度も団体交渉には出席せず逃げ回っています。
(3) 平成16年1月16日、園は、それまでは雇用継続の意思の確認手続がとられたことがなかったにもかかわらず、雇用継続についての意思を確認すると称して組合員を含む保育士と面接を行いました。しかし、実際の面接の中身は、組合に関する質問と批判がほとんどでした。例えば、専務等の園側の面接担当者は、「組合活動は今後も続けていくつもりか、自分のことばかり考えている」などという発言をしました。
そして、平成16年1月31日、園は雇用継続を希望した組合員4名中高橋さんと宮田さんを含む3名に対し、「面接の結果」と題する書面で、3月31日をもって雇用契約の「更新拒絶」をする旨通告しました。
(4) その後、園は組合の求めに応じ、契約更新しない理由を回答しましたが、@業務上の指示命令に従わない、A職場の秩序を乱した等と、一般的な懲戒事由をそのまま写しただけのような回答に終始し、何ら具体的な理由を示すことはできませんでした。
また、その後組合の再度の求めに応じて園が示した理由も、当初の理由から大きく変遷した事実無根の理由でした。
高橋さんは、労働契約上の権利を有する地位の確認と賃金仮払いを求めて、平成16年4月22日に神戸地方裁判所に仮処分の申し立てを行いました。また5月中に、高橋さん、宮田さんが、地位確認、賃金支払い、損害賠償を求めて本訴を提起する予定です。
法律構成は、@黙示の更新による無期契約への転化、A更新拒絶への労基法18条の2の類推適用、B雇い止めは不当労働行為により無効であるという3つの構成です。
結成直後から始まった上記不当労働行為に対し、ビラまき、保護者への報告会、幾度にもわたる団交要求を継続しています。その結果、もともと園の保育の実情に不安を感じていた多くの保護者が、高橋さん、宮田さんら組合構成員が目指す、よりよい保育の実現に賛同し、支援活動を広げています。そして、現在は、組合、保護者が一団となって、園に保育内容の改善、保育士の地位の確保を訴えているといった状況にあります。
なお、弁護団は、本上博丈(中神戸法律事務所)、増田正幸、瀬川嘉章(神戸あじさい法律事務所)です。
このページのトップへ@事業目的から非営利の削除→利潤追求が前面に。
A事業の3柱〜郵便、貯金、保険、それぞれの収益性確保。特に郵便の黒字化。中期経営計画では、当初4年間で4兆円の内部留保(郵便500億円)を確保する。
B貯金、保険料による巨額資金の自主運用。
@身分はまだ国家公務員だが、給与法は適用されない。したがって賃金は、賃金規程、団体交渉で決まる。全逓、全郵政等とは、協約を締結している。
A過半数組合はない。職員28万人のうち、全逓13万人、全郵政7万、郵産労2000人弱(退職者が多く増えていない)、全労協、他に単独組合あり。
B全逓と全郵政は合併予定→3/4以上はないが、過半数組合にはなる。
※84年ころから、上にものが言えなくなった(国鉄の民営化、全逓が70年代の年賀状遵法闘争を郵政省に謝罪してから)。
@中期計画では4年のところ、2年前倒しの17000人削減。郵便課では、これまでは非常勤への置き換えだったが、これからは職員、非常勤の両方を減らす。手段は、定年による自然減+100万円ほどの上乗せによる勧奨退職。正職員だとノルマ等で大変なので、一旦退職した後アルバイトとして郵便局勤務を続けるという例もあり(その方が気楽だし勤務も楽とのこと)。
A郵便内務作業の夜間労働の条件悪化。10年前に1700〜900勤務(仮眠2時間。翌日は週休日)になってから、在職死亡が約100人。それがさらに04/2/8以降、深夜10時間勤務を4日続けるという形に。しかし、日中は眠れないので、2日目くらいからふらふら。しかも、休息時間の大幅短縮や、週労働時間の38時間から40時間への増加。健康問題(脳心疾患)が深刻。
B正職員につき、04/4/1から新給与制度。現在額は保障するが、昇給すれば現給保障給を減額して総額は一定にし、昇給が保障給を上回らない限りは総額増加にならない。
C非常勤(日々雇用で、2〜3か月の予定期間)にも成果主義導入により、勤務年数の長い人ほど賃下げという結果。しかも、勤務と担務がリンクしているため、現実にはスキルランクのアップはほとんど不可能。夜中だけ7時間働いて、1日約1万円。それでも、以前は学生アルバイトだけだったのが、リストラされた中高年層やフリーターがむしろ多数。
Dトヨタ方式(カンバン、立ち作業)を、処理時間を短くするためとして導入。1日の受け入れ郵便の40%が19:30〜21:30に集中するのに、現場の仕事の実情が分からないまま手順変更が強制され、かえって非効率に。そもそもトヨタ方式は下請けにしわ寄せすることで成り立っているが、郵便局は利用者の都合による受入になるので、そもそも無理。
E実態がよく分からない、100ぐらい持っている天下り法人(局長、課長以上の管理職のため。ポスタルサービスセンターなど)や、さらにその子会社の利益確保のため、職員に営業ノルマを押しつけ、さらに「ゆう郵パック」等を自腹で買わせる。
このページのトップへ前提 労働協約中に「事業の拡大、縮小、閉鎖あるいは機構の改廃等組合員の身分に重大な影響を及ぼす場合は、会社はその方針及び大綱に関し予め組合と協議する」旨の事前協議約款あり。
H15/1/14 会社が組合に、同年3月末日をもって会社解散し、全従業員を解雇する旨申し入れ。
1/22 団体交渉の結果、「会社と組合は労働協約に基づき誠実に協議し、合意なしに生産設備等の搬出をしないことを確認する」旨記載され、労使双方が記名捺印した本件議事録確認を作成。
3/9 会社が第三者所有の工作機械3台と金型を搬出。
3/12 組合が本件仮処分申立。
3/13 上記搬出についての組合の抗議を受けて、「会社は、今後客先などからの強い搬出の要望があった場合は、その都度、労働組合と事前に協議し、労働組合の合意なしには搬出しないことを確認した」旨記載され、労使双方が記名捺印した本件確認書を作成。
〜3/31までの間に合計10回の団体交渉が行われたが、組合は会社解散、従業員の解雇に同意しなかった。
3/31 株主総会で解散決議。
〜4/22までに、会社は再三、生産設備搬出の了解を求めたが、組合は拒否。
4/22 会社は、組合に搬出拒否をされていた第三者所有の金型を搬出。
4/25 会社は事業を停止し、事務棟以外の工場設備を含む施設を閉鎖。
※労組法14条「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名捺印することによってその効力を生ずる。」
(ア)会社の主張
本件議事録確認は、生産設備等の搬出について記載されたもので、「労働条件その他に関する」定めではない。
(イ)決定
「本件議事録確認は、(労使の記名押印がされている。)1項は『会社と組合は労働協約に基づき誠実に協議し、合意なしに生産設備等の搬出をしないことを確認する。』という内容で、労働協約の事前協議約款に基づくことを明記している。そして2項は『会社は、従業員の生活と雇用を守るため、最大限の努力を払うことを表明する。』という内容で、1、2項を併せてみれば、労働条件その他に関連する事項が記されていると認められるものである。従って、本件議事録確認は、その表題にかかわらず、団体交渉の議事内容を単に備忘的に記録したものではなく、会社と組合が、会社が打ち出した解散、従業員解雇との方策について、既存の労働協約に規定された事前協議約款を具体的に履践するための今後の協議についての指針を合意して確認したもので、労働協約にあたると認めることができる。」
(2) 本件議事録確認の有効期限。(ア)会社の主張
本件議事録確認は、3月末に解散するまでの労使間の協力を確認する趣旨で作成されたものである。
(イ)決定
「本件議事録確認の内容を改めて具体的に確認した内容となっている本件確認書は、会社が解散する予定の僅か20日足らず前に合意され、作成されたものであり、本件議事録確認にも本件確認書にも全く期限が定められていないのである。これらの事情に鑑みれば、本件議事録確認が単に3月末までの期間に限定されて確認されたものとは認められない。」
(3) 差し止め請求権の有無、特に第三者所有物件の場合(ア)決定の原則論
「(本件議事録確認等における合意なしに搬出しない旨の事項については)会社解散、従業員解雇という会社の方策の遂行にあたって、会社の生産設備等の処理に関して使用者である会社と労働組合との間でひとつのルールを設定したものとみられ、会社と組合の間の契約として債務的効力が生ずるといえる。従って、会社は契約当事者として、合意内容を遵守し、履行すべき義務(不作為義務)を負うといえる。他面、組合は、会社に対しその履行を請求する権利を有するものであり、会社が不作為義務に違反して、組合の同意なしに生産設備等を搬出しようとする場合、これの差し止めを請求することができると認められる。」
(イ)第三者所有物件に関する決定
「本件確認書は、会社が組合の同意なしに第三者の所有物件を搬出したことが問題となって、これを踏まえて作成されたもので、その文言からしても、第三者の所有物件もその対象としているとみることができる。」
「しかしながら、(@第三者所有物件については、組合はもちろん会社も全く処分権を有していない。A第三者は、会社の解散、事業閉鎖の事態に至って、いつでも任意に所有する生産設備等の返還を会社に求めることができるのであって、会社も組合もこれを拒むことができない関係にある。)したがって、同じ労働協約の対象となっているとしても、その効力に関しては会社の所有物件とは別異に考えるのが相当であり、第三者の所有物件については、組合において、本件議事録確認及び本件確認書の効力として、会社に対し搬出の差し止めを求めることはできないと解すべきである。」
(4) およそ組合の同意がないと、搬出ができないか。(ア)事前協議約款の効力に関する決定
「(事前協議約款では、組合の同意までは求められていない。)本件議事録確認及び本件確認書も労働協約に基づいて作成されたものであり、会社解散に関して組合との協議が尽くされたとみられる事態に至れば、組合の同意がなくても、会社の事業の閉鎖は効力を有することになり、そうであれば、組合の同意がなくても生産設備等の搬出ができると解することができる。」
(イ)同意権の濫用(?)に関する決定
「会社が生産設備等の搬出について、その必要性等の説明、協議、説得等を尽くし、これに同意することもやむを得ないと認められ、組合においてそれでもなお同意しないことが信義則に反すると認められるような場合は、組合の同意があったものとみなして搬出することもできると解することもできる。」 「しかし本件においては、未だいずれの事態にも至っているとは認められない(から、会社所有物件については、搬出禁止を請求することができる。)」
(1) 企業閉鎖等に伴う生産設備等の搬出について、一定の条件(本件では組合の同意)にかからせることを明示した労働協約があれば、差し止め請求できる場合があることを示した実例と言える。
逆に、事前協議約款だけの場合や、それもなく労働者として労働契約上の地位に基づくだけでは、機械搬出差し止め請求はまず無理だろう。
いざという時の実力行使を正当化するためには、
@少なくとも事前協議約款は不可欠
A事業所建物や敷地内に組合事務所の貸与を受けておく(会社解散後の継続占拠のため)
B本件のような重要な会社財産の処分に関与できる協約を結ぶ
C未払い賃金や退職金についての労働者各人別の金額確認書を作成(その先取り特権に基づいてすぐに会社財産の差押えができる)
などが必要となる。
(2) 労組法14条の労働協約とは、どのようなものか?また労働協約と認められるための要件は?
この点については、労使協定、確認書、議事録確認、覚書などの名称は関係ないことに注意しなければならない。そして、労働協約と認められるためには、労組法14条にしたがって、@労働組合と使用者又はその団体との間で、A労働条件その他に関して、B合意内容を書面に作成し、C双方が署名し、又は記名捺印することが必要となる。合意はできていても、その内容の書面化がなされていないというケースが結構多いので、気を付けてほしい。
(3) 決定の第三者所有物件に関する部分は疑問がある。組合が会社に対して、本件労働協約に基づいて、第三者所有物件であれ、搬出禁止を請求できるのは協約の効力として当然のことであり、その結果、会社は物件所有者である第三者に対して組合の承諾が得られるまで搬出を待ってもらうよう説得しなければならない。組合は協約の当事者でない第三者に対しては搬出禁止を請求できないから、第三者が搬出することは阻止できないが、搬出されてしまった場合は、会社に対して協約違反を問うことができる。
本件決定は、当事者間での協約の効力と第三者に対する効力とを混同していると思われる。
(4) 事前協議約款及び同意権の限界に関する判示部分には、注意が必要である。同意権の濫用論はおそらく通説的考え方なので、同意条項さえあればいつまでも拒めると考えるのは誤りである。但し、本件決定が、不同意の継続による支障の重大性などを含む諸利益の考量をせずに、会社による搬出の必要性の説明程度だけで信義則違反の有無を判断するかのように述べているのは、舌足らずである。
このページのトップへ民法協会員弁護士が代理人として関与している兵庫県地方労働委員会の「みのり農協事件」の調査期日において、同事件の審査委員長の小嶌典明氏が敵性証人は原則として採用しない旨の発言をしたことについて、民法協はその真意を質すべく質問書を送付しました(質問書は民法協ニュース432号に登載しています)。
しかし、兵庫県地労委は質問書に対する文書回答を拒否したために、電話で聴取した内容を確認するために下記の文書を送付しました。
その後、兵庫県地労委からは下記文書の内容について訂正等の申し出はありません。
ご通知 | |
1 | 前略、当協会は、貴委員会に係属中の「みのり農協事件」調査期日における小嶌審査委員長の発言に関して、貴委員会宛に2004年3月12日付け質問書を送らせていただきました。そして、上記質問書について同年4月6日に貴委員会事務局浜本審査課長とお電話をした際にお聞きしたことを、下記のとおり整理いたしました。 |
記 | |
(1) | 一般的に敵性証人は採用しないという方針はない。 |
(2) | 過去に敵性証人が採用されたケースでは被申立人の同意や双方申請のケースが多く、被申立人の同意なくして採用した場合に不出頭であったということがあった(民法協の上記質問書が指摘する過去の事例でも被申立人の同意なく敵性証人を採用したものの不出頭であったケースがある)。 |
(3) | 審理を円滑に進めるために、敵性証人を証人として採用するに当たり、できるだけ被申立人の同意を得るようにしているが、同意がなければ採用しないという方針があるわけではない。 |
(4) | 敵性証人であるか否かに関わらず、また、証人申請に対する相手方当事者の対応の如何に関わらず、証人の採否は審査委員の裁量に委ねられており、上記のような方針はない。 |
(5) | 上記のとおり、民法協が上記質問書で指摘するような方針ないし基準が存在するわけではないので、質問書に対する文書回答はしない。 |
2 | 上記質問書で質していることは、個別事件を超えた地方労働委員会の審査の一般的なあり方に関する事項ですので、当協会としては上記聴取結果を広く会員に知らせる必要があると考えております。そこで、会員への周知にあたり、正確を期したいと思いますので、上記の整理に不正確な部分や説明が不足している部分があればご指摘いただきますようお願いいたします。なお、ご回答は2週間以内にお願いいたします。以上よろしくお願いいたします。 草々 |
2004年4月19日 | |
〒650-0025 神戸市中央区相生町1−2−1 東成ビル3階 中神戸法律事務所内 兵庫県民主法律協会 事務局長 増田 正幸 |
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〒650-8567 神戸市中央区下山手通5丁目10−1 兵庫県地方労働委員会 会 長 安藤猪平次 殿 |