《第438号あらまし》
 第38期地労委労働者委員選任取消等請求裁判第5回弁論
 〔連載〕思いつくままに@
 労組法が改正されました
 【判例紹介】渡島信用金庫事件
 入会のご挨拶


第38期地労委労働者委員選任取消等請求裁判第5回弁論
宮野元課長 選任過程の矛盾を露呈

「地労委の運営に理解と実行力がある」=「総合的に判断」ではわからん!

兵庫労連事務局次長 丸山  寛


10月21日水曜日の午後1時30分より、第38期地労委労働者委員選任処分取消等請求裁判の第5回弁論が神戸地方裁判所204号法廷で行われ、26人が傍聴しました。

証人に立った宮野敏明知事室長(元労政福祉課長)は、慎重に言葉を選びながら答えていましたが、増田弁護士、羽柴弁護士、本上弁護士が次々と鋭い質問を繰り出し、選任過程の矛盾を露呈しました。

産業分野が重複せず、バランスを考慮?してへんやないか!

被告代理人の石丸弁護士の「第38期の委員選任に先立ち、知事から指示があったか?の質問に、「『従前通りでよい』『組合の規模、あるいは産業分野のバランス』を考慮するように付言があった。」と答えました。

増田弁護士は、付言はあったが前任の貝原知事と考え方は変わっていないことを証言で確認した上で、産業分野のバランスについて質問。宮野氏は「県の産業分野をできれば幅広く網羅するとか、極端な偏り」がないように考慮したと答えました。第35期に新日鉄労組とクボタ武庫川労組が同じ産業分野と指摘され、「総合的に判断した結果」だ。「自分の担当した38期は重複はない。」と強弁しました。

さらに、被告が答弁書で「他の条件(年齢、学歴、職歴、勤務先、公職歴、組合役職歴、産業分野)が同じであれば、組合員数が多い労働組合に所属している候補者の方がより労働者委員にふさわしい」としていることを指摘し、「他の条件が同じ場合に組合員数の多い少ないを考慮する」ことを証言で確認しました。


再任の選考過程に重大欠陥!地労委審査委員としての活動に問題あったか全く調査せず

羽柴弁護士が労働者委員の再任に当たっての選考方法について質問したのに対し、「公職歴の一つ」であり、「これまで労働者委員としてどんな活動をしたかは全く調査していない」と答え、「地労委の運営に理解と実行力」があるかどうかを判断する一番大事な部分が抜け落ちていることが判明しました。しかも、38期労働者委員の選任が行われる前に、宮野元課長に対し「連合系の推薦委員だけでは非常に難しい事例がある。相談も出来ないケースがある。審問廷で一言も質問しない方が圧倒的であり問題がある」と申し入れを行っていたにもかかわらず、いっさい考慮しない県の選考過程に重大な欠陥があることが明らかになりました。

重ねて「3点セットだけで再任される労働者委員が本当に地労委の運営に理解と実行力があると判断できるのか?」との質問に、地労委の審問に立ち会ったり、傍聴した事は1回も無いのに「出来ます」と胸を張るとは!、あきれて開いた口がふさがらないとはこのことです。さらに神戸製鋼事件で労働者委員が面談を断ったことは「記憶にない」とまともに答えず、その労働者委員は「全く問題ない方だ」と憶面もなく言うなど厚顔無恥ぶりを示しました。


原案と知事の考えが一致する確立は360分の1の2乗「特定組合の任命枠」に基づく任命=偶然、結果的にそうなったにすぎない

本上弁護士は、連合結成後の31期以降、課長・係長が最初に作った原案がいつもいつも知事の意見と1回で一致していた事を確認した上で、原案と知事の考えが一致する確立は360分の1の2乗と極めて小さいと指摘し、毎回1回で一致する特別な理由について質問しましたが、「ないです。」だけでは誰も納得できないでしょう。

さらに、宮野元課長は、過去の任命状況を検討したこと。特定の組合枠出身者が任命されている事実を認め、「立派な労働者委員を選んだ結果としてそうなった。」本上弁護士の「結果的にそうなったにすぎない。偶然のものか」との質問に「偶然という表現、すぎないというのも好きでない。」と言いながら「結果的にそうなっている」と認めました。

原告が選ばれない理由として、「非常に小さな組合の分会長」「産業分野で大きくくくると運輸通信、他の大きな組合から選ばれている」などをあげ、H(情報通信業)とI(運輸業)が同一産業分野のように偽ってゴマカシました。「産業分野で大きくくくる」と製造業(F)では、ナブコ(F30)新日鉄(F23)川重明石(F26)と3つも重複しています。そして、港湾産業としての位置づけは全く考慮されていない事。地労委で扱われる事件のほとんどが小さい会社・規模の小さい組合の事件が多いことなどは、選考過程で一顧だにされていないことも明らかになりました。


裁判に勝つことだけに執着した宮野元課長/労働者救済機関としての地労委、本来あるべき姿に戻せ!

証人尋問全体を通じて感じることは、宮野元課長が都合の悪い部分には「記憶にない」などと逃げ、「港湾産業を大きくくくると運輸通信」などと偽り、原告側証拠に「調整事件に関しては問題ない」と地労委事務局回答があることを利用して「地労委が問題ないと言った」とすり替えるなど、ただただ裁判で勝つことだけに執着し、ハグラカシやゴマカシに終始した事でした。

私たちは、地労委労働者委員が「連合」のそれも大企業・大単産出身者で独占されているため、労働者救済機関としての役割を果たしていない事。役に立たない地労委を活用せず裁判所へ提訴する事態が増え、地労委そのものの存在意義が無くなりつつあること。憲法28条で保障された「勤労者の団結権」規定に基づき設置された地労委が変質していること。などを示して、それに県知事が手を貸したり、放置するのでなく、勇断を持って対処、改善するよう求めているものです。

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元民法協代表幹事の和田邦夫さんに、今までのご活躍等を振り返って回顧録をご執筆していただき、連載としてご紹介させていただきます。

〔連載〕思いつくままに@

元民法協代表幹事 和田 邦夫(元兵庫県私立学校教職員組合連合)


今年9月、兵庫民法協第42回総会で労働組合代表幹事を引かせていただきました。

少ない雇用保険の給付を受けるために、5月以来月数回ハローワークに通っています。私のようなキャリアでは、つける職業がありません。55才以上の年齢になりますと、ホントに職がありません。それ以下の働き盛りの年齢で、正規の職員でも、賃金は高くて30万円程度、ほとんどが15〜20万円です。これで一家を支えていける状況とは思えません。たいへんな社会を実感しています。

1975年の4月から、大学卒業後11年間つとめた私立高校の教育現場を退職して、組合専従となりました。学校にいるときから民法協の弁護士先生方には、私学の争議でたいへんお世話になっていました。当時、労働争議の多い分野は、車偏(現在の「建交労=当時は全自運」やタクシー労働者)と私学だといわれ、地労委や裁判を多く闘っていました。専従になったのち、民法協の労働組合側の幹事を仰せつかり、約30年、皆様方にお世話になってきました。労働運動の大先輩であった吉原製油の水田さんが引かれた後、その長さだけで代表委員の任につかせていただきました(正しくは、その後高教組が代表幹事の後、99年の第38回総会以後)が、実際には何もできずに、事務局の弁護士のかたがたの後についていくということにしかなりませんでした。

唯一のことといえば、今たたかっている兵庫地労委の労働者委員選任訴訟の原告代表として名前を出したことくらいです。しかし、要請される争議の裁判傍聴や支援行動には、時間の許す限り数多く参加させていただき、また、民法協の各種行事に参加させていただきました。これらから学んで、私学運動の糧とさせていただきましたが、これは役得といえることかもしれません。第37期の訴訟は、9月8日に大阪高裁での控訴審第一回公判が開かれました。第38期は、全港湾の鳥居さんにその代表原告をお願いしていますが、この公判は10月21日でした。

また、ご承知かと思いますが、一昨年来、またぞろ神戸弘陵学園で4名の先生の懲戒解雇事件が引き起こされました。これは昨年6月に「地位保全」の仮処分決定が出て、4名とも職場復帰し、教壇に立っていますが、創立者の溝田理事長時代の放漫経営に起因する問題の後遺症ともいえるものです。現在は、4名の懲戒解雇事件よりも、その後の理事会・理事長の選任を巡って、その正当性を争う混乱が学校運営を危うくしています。私学、神戸弘陵の経営は、生徒・父母の納める学費と兵庫県から受ける私学助成金を主な収入として成り立っていますが、全体の約4割を越えるこの助成金の交付が受けられず、教職員の8月分の賃金が遅配となっています。未だに賃金支払を受けておりません。労働組合が中心となって、教職員全体で団結を固めて教育活動を支えていますが、地労委選任訴訟を含め、これらの闘いを闘うとともに、今後は民法協の個人会員として、皆様方と一緒に係わり続けたと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。

概ね以上のようなご挨拶をさせていただきましたが、10月の初めに事務局の中西さんからお電話をいただき、機関紙に「回想」を書けとのことでした。私学での運動しか知らない私にとっては、たいへん荷の重いことです。手元に、2002年にまとめられた「40年のあゆみ」があります。主な事件の冒頭は兵庫高教組勤評闘争事件が、最後のページには建交労大和運送事件・宝塚映像事件とともに、須磨学園依藤教諭解雇事件が簡単に紹介されています。10年前にまとめられた「30年のあゆみ」では、主な事件の最後は、神戸製鋼賃金差別事件で、表紙写真には「自白強要・拷問のばなしの 拘禁二法を廃案にしよう 兵庫県法律団体五者協議会、県・中央区統一労組懇」の横断幕を持って、髪くろぐろとした羽柴弁護士がマイクを握っています(1982年のことです)。宣伝カーは、たぶん高教組のをお借りしているのでしょう。「教え子を再び戦場に送らない、すべての子どもたちにゆきとどいた教育を」の文字が見えます。これらを手がかりに、挨拶の中でも述べた民法協との係わりで、私学の権利・争議問題を中心に、思いつくままに何回かに分けて書かせていただきたいと思います。初回は「退任のご挨拶」でお茶を濁させていただきました。

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労組法が改正されました

弁護士 増田 正幸


2004年11月10日改正労働組合法が可決成立し、2005年1月1日に施行されます。

審査の遅延の解消や実効性を高めるために一定の改善がなされました。

以下に改正法の内容を紹介します。

 「地方労働委員会」の名称が「都道府県労働委員会」に変更されます。その結果、「兵庫県地方労働委員会」(兵庫地労委)は「兵庫県労働委員会」(兵庫県労委)に改称されます。

 兵庫県労委の使用者委員、労働者委員、公益委員の定数は政令(労組法施行令)で各7名と定められていますが、条例により各2人を追加することが可能になりました。

また、条例により公益委員のうち2人以内は常勤とすることができることになりました。

 県労委の審査は原則として公益委員全員の合議体で行うことになっていますが、条例で定めれば公益委員5人の合議体で審査を行うことができることになりました。

 公益委員の除斥・忌避の制度が設けられました。

 審問開始前に争点及び証拠、審問を行う期間・回数、尋問する証人数、命令の交付予定時期を含む審査計画を定めることになりました。

 労働委員会の証人等出頭命令、物件提出命令の制度ができました。

労働委員会は、職権又は当事者の申立により、当事者又は証人に陳述をさせるための出頭を命ずることができることになりました。

また、労働委員会は、職権又は当事者の申立により、事件に関係のある帳簿書類等の物件の提出を命ずることができることになりました。

この場合、証人等出頭命令、物件提出命令に不服のある当事者は、1週間以内に中労委に命令の当否についての審査を申し立てることができます。

尚、正当な理由なく物件提出命令に従わずに物件を提出しなかった当事者は、後に取消訴訟が提起された場合に、当該物件により認定すべき事実を証明するために当該物件を証拠とすることができないという制約を課せられることになりました。

 尋問の際には証人や当事者に宣誓をさせることになりました。宣誓した証人が記憶に反する陳述をしたときは罰則の適用があります。

 これまでも労働委員会が和解の勧告をすることがありましたが、和解勧告をする権限が法文上明記されました。

また、和解に金銭の一定額の支払を内容とする合意が含まれる場合は、当事者双方の申立により、当該合意について和解調書を作成することができることになりました。和解調書が作成されると、その和解調書を債務名義として強制執行をすることが可能になりました。

 問題点

(1) 公益委員の一部が常勤化されると、常勤委員が非常勤委員よりも影響力を持つことは必至ですから、どんな人が常勤委員に選任されるかがきわめて重要です。労使紛争の実態に通じ、労働者や労働組合に対して理解のある人が選ばれるとは限りません。裁判官退官者や官僚が給源となる可能性が大きいので、任命を公平かつ民主的に行わせる必要があります。

(2) 審問開始前に審査計画を定めることは短期間で充実した審査を行うためには重要なことですが、このような計画を立てるためには十分な専門的知識と経験が必要になります。その結果、事務職職員によほど力量がないと、労働者、労働組合は弁護士を代理人に選任せざるを得なくなってしまいます。

(3) 証人等出頭命令、物件提出命令の制度が設けられたことは画期的なことですが、この命令に対して裁判所に出訴して争うことを制限する規定を設けていないために、この命令の取消をもとめて処分取消訴訟が可能になってしまいます。もし、証人等出頭命令、物件提出命令に対して取消訴訟が提起されると、訴訟が決着しないかぎり、労働委員会における当該証人や当該物件の証拠調べができなくなってしまいます。

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【判例紹介】渡島信用金庫事件

札幌高裁2004年9月27日判決
解雇事件での労働者の就労請求権を間接的に実現することができる、株主(会員)代表訴訟の利用法

弁護士 本上 博丈 


1 はじめに

本件は、代表理事らがその不当労働行為としての懲戒解雇を無効とした仮処分決定等に基づいて賃金仮払いをする一方で、なおも就労させなかった場合について、信用金庫会員が提起した会員代表訴訟において、代表理事らに対して、支払われた仮払い賃金等約3000万円を損害賠償として信用金庫に支払うことを命じた裁判例である。

株主(会員)代表訴訟というのは、取締役が違法行為等を行なって会社に損害を生じさせた場合、その取締役はその損害を会社に賠償しなければならないことになっているが(商法266条)、その損害賠償が任意になされない時に、株主がその取締役を被告として、会社に損害賠償するよう命じることを求める訴訟である(商法267条)。会社の損害回復が目的なので、株主が賠償金を得られるわけではない。株式会社の株主と等しい立場にある信用金庫の出資者を会員というので、信用金庫の場合には会員代表訴訟という。

労働者が不当解雇された場合、主要な不利益は、@賃金が支払われなくなる、A職場で仕事をできなくなり組合活動や人間関係が破壊される(その結果、最終的に解雇無効となっても職場復帰が事実上困難となる)、の2点ある。@については、解雇を無効として賃金の仮払いを命じる仮処分決定を得ることができるが、Aについては、労働者が就労することは義務であって権利ではないから、労働者に就労請求権はない、つまり働かせろという権利はないというのが、判例通説の考え方である。そのため多くの解雇事件では、仮処分決定によって仮払い賃金は得られるようになるが、職場には戻れず(少なくとも解雇無効が本案訴訟で確定するまで)、使用者としては、就労させない者に仮払い賃金だけは払うという無駄はあるものの、目障りな労働者を職場から追い出すという目的は、仮処分で負けても維持することができるという実情にある。本事件も、まさにそうであった。

この点本判決は、就労請求権そのものを認めたわけではないが、会社役員が賃金の仮払い等だけを行って就労させない場合は、仮払い賃金相当額の損害を会社に生じさせたことになるとしてその賠償を役員に命じたから、役員が仮払い賃金相当額の賠償という憂き目に遭いたくなければ、就労もさせておく必要があるということになる。


2 事実経過の概要

従前、店舗数15、職員約170名で、ほとんどの職員が組合員。

97年ころ、理事らの組合攻撃により組合員23名に。

97年の伊藤理事長就任後、激烈な脱退工作により組合員5名に。

98年2月27日 窓口での不明過剰金26,900円の発生を金庫に報告しなかったとして組合副委員長Kを懲戒解雇。

98年12月8日 地位保全及び賃金仮払い仮処分決定。

98年12月21日 上記過剰金発生前日に窓口納付された保険料25,600円をKが横領していたとして第2次懲戒解雇(時期及び金額から、上記不明過剰金との同一性が推測される)。

99年5月7日 第2次解雇を理由とした、事情変更による仮処分決定取消申立却下。

99年8月26日 北海道地労委が、懲戒解雇を含め一連の不当労働行為を認めて救済命令(金庫が取消訴訟提起)。

02年2月12日 地労委救済命令が、札幌地裁、札幌高裁の各判決、最高裁決定を経て確定。

02年3月15日 組合の金庫に対する、一連の不当労働行為についての団結権侵害による損害賠償請求訴訟が、札幌地裁、札幌高裁の各判決を経て、220万円認容で確定。

02年6月13日 仮処分事件の本案訴訟が、函館地裁、札幌高裁の各判決、最高裁決定を経て、Kの解雇無効で確定。

03年5月8日 金庫がKに対して、支店勤務を命じる(解雇後それまでに金庫が払ってきた賃金・賞与等の3000万円超)。そこで、金庫の会員(出資者)4名が、金庫の代表理事2名に対し、理事としての善管注意義務、忠実義務に違反し、それによりKを就労させないまま支払った賃金等相当額について金庫に損害を蒙らせたとして、信用金庫法35条1項、39条、商法267条に基づいて、その賃金等相当額3000万円余の金庫への支払を求めて、会員代表訴訟を提起した。


3 札幌高裁判決の要旨

@ 信用金庫は、あらゆる法令を遵守すべきことは当然であり、その代表者である理事は、金庫の業務執行に関与する者として、金庫をして法令を遵守させる義務を金庫に対して負っているというべきである。Kに対する懲戒解雇は第1次、第2次とも労組の弱体化を企図してなされた不当労働行為にあたり、被告らには、金庫の代表理事として善管注意義務または忠実義務の違反がある。

A 一般に賃金は、労働者によって供給される労働の対価であり、賃金を支払う以上、それに見合う労働を受けない場合には、原則として、賃金相当分の損害が使用者側に生じているものと解するのが相当。金庫は、第1次懲戒解雇から支店勤務に復職させるまでの間、労働を受けないで賃金相当分を支払続けたのであり、他に賃金に相当する労働を受けないことを正当とする事情が認められない本件においては、賃金相当分は金庫にとって損害になる。

として、Kに支払った賃金全額を金庫に支払うことを被告代表理事らに命じた。


4 コメント

@ 理論的に直接には肯定されない就労請求権が、株主(出資者)保護のための株主代表訴訟制度を利用して間接的にであれ強制できるというアイデアはすばらしい。株主(但し6か月前から)等出資者の中で組合の正当性を理解して協力してくれる人がいれば、事業主が会社、組合、社団法人等出資者のいる団体であれば利用可能である。他方で、財団法人や学校法人では、このような制度は性格上設けられていない。

A 本事件では、懲戒解雇後の仮払い賃金等全額について賠償が認められたようだが、それは一貫して不当労働行為であったことが明白であったことによると思われる。代表訴訟はあくまでも株主(出資者)の利益保護が目的だから、例えば、賃金仮払い仮処分決定後でも、本案訴訟において解雇が有効と判断される可能性があり、かつ解雇した労働者を就労させれば事業遂行に悪影響を生じさせる可能性が客観的に認められる場合には、仮払い賃金の支払だけを行い就労させなくても、損害があったとは認められないこともありえよう。今後は、類似の裁判例が積み重ねられれば、どのような場合にどの段階からの仮払い賃金の支払について損害賠償が命じられるかの類型化が図られてくるものと思う。

 

B 本事件では請求していなかったようだが、金庫の組合に対する損害賠償金220万円も、理事らの金庫に対する賠償責任の対象になるものと思われる。この点は、組合が団結権侵害について金庫だけでなく不当労働行為行為者である理事の個人責任をも追及することと併せて、不当労働行為のやり逃げは許さないという意味で、不当労働行為抑止の意義があるものと思う。

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入会のご挨拶

弁護士 西部 智子


この度、民法協に登録させていただきました西部智子と申します。

10月に司法研修所をなんとか無事卒所し、兵庫県弁護士会で弁護士として登録することができました。10月6日から就職先であるひまわり総合法律事務所で勉強させていただいておりますが、1ヶ月たった今もまだ、右往左往、そもそも一般常識から勉強しなおす毎日を送っています。

民法協への入会は、お誘いいただいた際に送っていただいた、兵庫民法協の会報「民法協」のバックナンバーを読んで決めました。

私はもともと、自分の日常生活を送ること以上に、時間を使って社会問題に取り組むという生活には程遠い生き方をしてきました。ですので、民法協入会のお誘いを受けた段階では、入っても入らなくてもどちらでもいい、という程度にしか思わなかったのが正直なところです。ただ、私は中学生時分から、なぜか、「いつか戦争はなくせる」と信じていまして、そのための活動に関われる場所にいたいと思っていたので、今回入会申込書とともに送っていただいた「民法協」第432号の有事法制に関する松山先生の記事を読んで入会を決めた次第です。

また、家族経営の自営業の家で育ち労働問題には全く縁のなかった私でしたが、「民法協」を読ませていただき、過労自殺、賃金差別などの事件は、実はその事件限りの問題でなく多数の雇用される人々に共通の問題であること意識することができました。毎日を過ごす職場が居心地の悪いものであることは耐え難いという素朴な感情から、労働問題も本当は身近な問題なのだと意識した程度ではありますが。今後は法律家の視点から勉強していこうと考えています。

厳しい現実の事件を経験され、また、今も目前にされている会員の先輩方々にとっては、このような無知な者の入会でがっかりされたであろうとは存じますが、今後、勉強を積み重ね、意欲を持って取り組める人材となりたいと(遅ればせながら)思っています。

今後ともご指導の程、よろしくお願いいたします。

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