現在、甲南電機は産機事業部と建機事業部の2事業部制で、全社売上げの約25%を建機が占めている。経営状況は過去7年間に、前年は経常黒字にはなったがその前年までは3年続けての赤字、またその前一期は黒字にはなったが希望退職等の経費削減、賃金抑制効果によるもので、その前年2年間も赤字経営に。この7年の間、賃上げは千円〜2千円台の低額、一時金は寸志1.5万〜15万程度しかなく年収ベースでも100〜200万の大幅減収、経営施策が従業員の賃金抑制策になっており、前期黒字にも拘らず銀行の借入金返済をしており、今春闘時も支払い能力がないと賃上げも低く年差分にも達していない、今年の夏一時金も1ヶ月しかなく、黒字とはいえまだまだ健全な状態とは思っていない。
こういった状況のなかで、今回の会社分割は新設分割で100%の株式交付で完全子会社として建機事業部を「甲南建機株式会社」とする(新会社に借入金はなく、これまでの債務は甲南電機が負う。新会社の総務業務は、当分の間甲南電機が請け負って業務委託費、土地建物の賃貸料を甲南電機に支払う)@建機業界の経営環境の変化に即応できる体制にするAグローバル化、企業名を甲南建機に変え海外市場の知名度を上げるB社員に独立自主自立の経営意識を持たせるC労働契約承継法に基づく会社分割であるとの会社説明であった。これに対し組合は建機事業部にて職場集会を行い意見聴取、民法協にて法律的な事柄のアドバイスを受け、会社へ質問状として提出し団体交渉を開催した。また、民法協の本上弁護士による説明会を神戸工場(建機事業部)にて開催した。団交は@会社は事前に十分な資料、計画を説明して理解を得るように努力したのかA何故、今、分割なのかB新会社は黒字化できるのか、組合員の不安の解消を目的とするものであったが、適確な回答が得られず、黒字化については信頼性に乏しく不安感を残す事になった。よって組合は分割後、組合員に一定の担保となる「会社分割に係る協定書」、「事前協議協定書」の協定締結を要求した。協定書の内容は組合と会社側で幾度も書き換えを行い、5回目の団交で「会社分割に係る協定書」を締結する。「事前協議協定書」は名称にまでこだわり、8回目の団交まで双方で書き換えが続いた結果、「基本協議協定書」(+覚書)で締結に至った。会社側は人事権及び会社専権事項については「同意」とか「事前に十分協議する」と云う文言を極力排除する姿勢での対応で、そのあたりを組合側がどのレベルまで持っていくかと云うものであった。会社は臨時株主総会を6月26日に開催し、9月1日で会社分割が株主承認された。今後、組合は会社が転籍者に対して実施した個別協議の内容をフォローする、次回団交を開催の予定です。
このページのトップへ本年7月28日、井戸兵庫県知事は兵庫県労働委員会の第39期労働者委員を任命しました。
第39期の労働者委員の任命については,解決されるべき問題点が2つありました。第1点は、もちろん非「連合」の労組が推薦する労働者委員の任命を勝ち取ることであり、第2点は、従来、労働者委員としての適格性について問題のあった井上委員を再任させないということです。
第1点については,残念ながら第39期も「連合」独占が維持され、「連合」結成後の第31期(平成元年5月)以降、実に9期18年間にわたり「連合」独占が続くことになりました。
民法協は「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」の一員として第37期、第38期の労働者委員の任命取消訴訟を闘い、これまで地裁、高裁で3回判決が出されています。
とくに、第38期の労働者委員選任処分取消訴訟の2005年3月18日付け神戸地裁判決は、「連合」結成後、@全国金属労働組合兵庫県地方本部、A新日本製鉄広畑労働組合、Bゼンセン同盟兵庫県支部、C造船重機労連加盟労働組合、D兵庫県交通運輸産業労働組合協議会加盟労働組合、E全日本自治体労働組合兵庫県本部加盟労働組合ないしNTT労働組合兵庫県支部、F関西電力労働組合ないしクボタ武庫川製作所労働組合から各1名が必ず任命されており、そのことが「全て偶然の結果によるものとは考え難」いと認定し、「任命結果をみると、連合兵庫に加盟する労働組合が優遇されているといえる」と述べています。
すなわち、上記神戸地裁判決は、知事が労働者委員の選任にあたり、事実上「連合」所属の特定の労働組合の任命枠を設けて、長期にわたってその任命枠に沿って、「連合」所属の特定の労働組合を優遇する任命を繰り返してきたことを明確に指摘したのです。
第39期においては、上記Cの造船重機労連加盟労組に代わり、新たに電機連合加盟労組から労働者委員が選任されましたが、これはAの新日本製鉄広畑労働組合の上部団体である鉄鋼労連とCの造船重機労連が2003年9月に合同して日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)を結成した結果、基幹労連加盟労組から2人の労働者委員が選任されているという不正常な事態を解消したに過ぎず、前記神戸地裁判決が指摘した任命枠は第39期においても基本的には維持されました。このように井戸知事は第39期の労働者委員の任命にあたって、上記神戸地裁判決の指摘を全く無視し、またもや「連合」に対する優遇を繰り返したもので、第39期労働者委員の任命が偏向していることは明白です。
第2点については、井上委員は再任されませんでした。井上委員が属する川崎重工業労働組合の組合内少数派が申し立てた賃金差別事件は全面勝利命令が出されて確定しましたが、同労組は組合内少数派の賃金差別を容認し非協力を貫いたという経緯があります。また、同委員が神戸製鋼賃金差別事件に参与として関与した際に、申立人らに対して自らの職場でも同様の組合内少数派による賃金差別事件が起きていることを理由に非協力的な態度を取ったことなど、同委員が考え方の異なる労働者に対して非協力的であり、労働者委員の適格性に欠けることは従来も問題になっていました。さらに、これらに加えて同委員は組合役員を退任した後、2004年11月から2005年3月まで川崎重工業の関連会社の取締役に就任していることが判明しました。不当労働行為からの救済を求めている労働者、労働組合に取締役として経営者側に身を置いている労働者委員を信頼せよというのは無理な話です。また、その事実を知りながらこれを黙認していた県や労働委員会の姿勢も大問題です。結局、井上委員は再任されませんでしたが、私たちの具体的な事実を指摘した追及の声を知事も無視できなかったものとして、私たちの闘いの成果であると思います。
このように第39期も「連合」独占の打破はできませんでしたが、労働者委員の任命の不公正はますます明らかになっており、少しづつ、しかし、確実に知事を追いつめていると思います。
10月7日には第38期の労働者委員選任取消訴訟の高裁判決が言い渡されます。また、第39期の労働者委員の選任についても取消訴訟を提起することになると思います。闘いは着実に前進しています。今後もご支援をお願いいたします。
このページのトップへ再び神戸弘陵です。今号(446号)が出る頃には、今争っている4名の教職員の懲戒解雇事件の一審判決(7月22日判決言い渡し)が出されます。すでに懲戒解雇そのものは4名とも撤回され、職務についていますが、懲戒処分を決めた当時の理事会の理事各人の責任(損害賠償)を問うています。重大な決定に理事個々人がどう係わりその責任を負っているのか、これについて裁判所がどのような判断を下すか。まだまだワンマン経営が多い、そして無責任に引き受けている理事の多い法人の、今後の私学運営のあり方の指針ともなるものと考えています。
今年も資金繰りはたいへん厳しく予断を許しませんが、神戸弘陵の教職員は過去に3回の給料遅配を余儀なくされました。第一回目は1993年7月でした。浅野先生が教壇復帰した翌年、参議院選挙に出馬したM理事長は惨敗しました。関連企業・法人の職員が選挙違反で逮捕されたり、莫大な借金がマスコミでも報道されるようになり、私学労組神戸弘陵分会(当時10名)は、92年秋頃から学園債務の実態等の追究を始めていました。同時に所轄庁(兵庫県)に対し、学園への指導強化を要請しました。こうした取り組みの一方で、分会が知り得た情報を元に、全教職員を対象に職場集会を開き、教職員の団結の必要を呼びかけました。開校10年目でしたが、まだまだ理事長の縁故採用等の影響力が強く、しかし、ことの真相を自らの力で明らかにするために、もっとおおきな労働組合結成の必要を訴えました。そして6月17日、神戸弘陵学園高校教職員組合が正規教員の過半数(30名)を組織して誕生し、やや異論を唱える方もありましたが、兵庫私教連への加盟も決定しました。残念ながら結成直後の7月分賃金の遅配も明らかになりました。巨額債務もさることながら、県からの経常費補助金の交付が留保され、運転資金の短期融資が受けられなくなったことに大きな要因がありました。苦しいが教職員の責任ではない、まして生徒や父母に責任はない、教育活動だけは手を抜かずにやっていこうと意思統一しました。この年には軟式野球部が全国大会に出場しましたが、応援にきた父母から「給料でてへんのに先生方は頑張ってくれている」との声も掛かりました。8月ついにM理事長は辞任に追い込まれ、4月から校長に就任していたH氏が2代目理事長に就任しました。教育上の校務運営体制は、M理事長時代とは比べ物にならないほど民主化され始めましたが、巨額債務の後始末には数年を要し、特に、財政・経理関係の処理の近代化が遅れました。そのことが、第2次解雇撤回闘争や理事会混乱の遠因にもつながりました。
浅野先生の解雇を第1次とすれば、第2次の解雇しかも懲戒解雇は、職場復帰した浅野先生と執行委員長・書記長そして組合加入したばかりの事務職員の4名に対し、2002年10月1日に発令されました。H理事長就任後、2000年3月までの約7年間は、教職員組合は生徒・父母の動揺を鎮め、教育活動の立て直しに力をそそぐ一方で、理事会に協力しながら巨額債務の後始末に知恵を絞りました。再建の中心にあった事務長が辞職した頃から、二代目理事長兼校長の専断的校務運営が目立ち始め、組合は教育活動の中心になる校長職と理事長の分離を要求し、2000年4月には新たな校長が実現しました。こうした中で一事務職員による使い込みが発覚し、組合は理事会責任の追及と再発防止策の確立を求め、全教職員に呼びかけた運動を組織し始めました。2002年5月に第3代目の理事長(元PTA会長・会社経営)が誕生しましたが、私学財政についての不理解や従来の労使関係無視の学校運営を強行する理事会と、組合・教職員との乖離・対立が激しくなりました。
4名の懲戒解雇通知には、「経営を妨害」し「職場規律を乱し」「服務規律違反」と理由付けし、平成14年8月31日の理事会で「理事総意により決議し…懲戒解雇する」とあります。そして理事会は校門付近に守衛室を設けて4名の入校を阻止しようとし、「立入禁止の仮処分」を申し立てました。4名は毎日他の教職員に守られて出勤し、通常通り職務に尽きながら、「地位保全の仮処分」で応訴しました。未組合員を含む圧倒的多数の教職員の賛同を得て、この間の事情を父母に知らせる父母集会を学外で開き、7割に近い父母が「4名を職場に戻し、学園を正常化せよ」の署名に賛同しました。翌(2003)年6月には、地位保全決定がおりました。この間に、3代目理事長就任とほぼ時を同じくして校長に就任したK氏は、保全決定直前に理事会を開いて3代目理事長の解任を決議し、自ら校長兼4代目理事長の職務につきました。この6月に教職員は第2回目の「給与遅配」に遭遇します。やはり「補助金の交付留保」で「短期融資」が受けられず、運転資金の枯渇によるものでした。
学園の混乱、正しくは学園理事会の混乱は、4代目理事長K氏のもとで、その窮みに達します。圧倒的な教職員・父母そして卒業生を敵に回し、学園運営の主導権を握れないと見たK氏は、監督庁(県)をも騙しながら、自らの経済的利益優先で、肩代わりする経営者捜しを行い、話を持ちかけていたようです。このことは、懲戒解雇発令時の3代目理事長が、裁判での証言で暴露しました。
原告代理人「要するに、あなたが解任される前に、Kさん(4代目理事長)、それから、Hさん(2代目理事長)、Kさん(当時の教頭)、その3人で、神戸弘陵学園を第3者に売るという話が進められつつあったということですか。」[( )は和田の注釈]
被告証人「そうです。」
代理人「その売却によって、さっき5000万から1億が入るという話がありましたね。」
証人「はい。」
代理人「これは誰のものとして入るという意味なんですか。」
証人「理事長も校長も、5000万ずつ入るというてましたね。」
04年の年明けから表面化しました。その後遺症が現在も続いていますが、04年3月に選任された5代目理事長(法人登記せず)と04年6月に選任された6代目理事長(5代目登記上の理事会)の間で、5代目が6代目の職務執行停止仮処分を申し立てました。現在はその決定を受けて、所轄庁(県)による「仮理事4名」の選任を受け、5代目理事長とともに就任した新校長S氏を新たな理事長とする理事会で運営されています。補助金の交付は、その対象となる法人が明らかでこそ行えます。神戸弘陵のような理事会の混乱は、補助金の受け皿が特定できず、教育活動が正常に行われていても交付が留保され、04年8月から11月まで給料なしという,最も深刻な第3回目の「給与遅配」を経験することになりました。
理事は変われど法人は継続します。厄介なことですが、4名の「懲戒解雇」問題を含めて、法人を被告とする訴訟が3〜4件継続しています。仮理事を含む現在の理事会には、開学以来の学園生え抜き職員や理事はおりません。何度となく学園の危機を、時には理事会に協力しながら乗り切ってきたのは、教職員組合を中心とした教職員の団結です。しかし「腹の問題」は、「頭の問題」に優先させざるを得ないときがあります。時には「変な妥協」もありました。所轄庁との関係もしかりです。05年度に入って、過半数組合を組織して以来の執行委員長が教頭となり、自らの力で学校と教育を守る気概をもって、「腹の問題」もガマンしながら、教職員一丸(?)となって学校再生に向けた活動が始まっています。まだまだ解決しなければならない難問を多く抱えながら…。
なおこの訴訟では、第38回総会(2000年)で創設の決まった「スクラム基金」第2号の適用を受けています。ちなみに第1号は、全日検のたたかいでした。
このページのトップへ2005年6月17日、民法協では、公務員問題にも力を入れようと、公務職場の実情調査などをしてきたが、指定管理者制度の導入とその問題点について、兵庫自治労連副委員長の田中達夫氏をお招きして学習した。
(1) 国は、一方で地方交付税、国庫補助負担金を削減し、自治体スリム化のメニューを豊富に提供している。たとえば、独立行政法人化、指定管理者制度、任期付公務員制度の導入などである。
(2) 従来は、自治体は「公の施設」について「自治体が出資している法人、公共団体もしくは公共的団体」に「管理委託」ができるにすぎなかった。法改正により、「法人その他の団体(出資法人でなくともよい)」に「管理を行わせる」ことができることになった。
しかも、「公の施設」について06年9月までに直営にするのか、指定管理者制度を導入するのかを振り分けを行うよう迫られており、今後、各自治体において急激に制度の導入がはかられると思われる。
指定管理者制度の対象になると当該「公の施設」で勤務していた職員は職場を失うことになる。その場合、当該職員が専門職の場合には分限免職の可能性もある。
(3) 対象となる「公の施設」は、保育所、児童館、特別養護ホーム、障害者施設、図書館、公民館、病院、文化会館、ゴミ処理場、国民宿舎など多岐にわたっている。
(1) 当該「公の施設」管理に住民や議会のチェックが働かなくなり、情報公開の対象にもならないために、不正や癒着の監視が困難になる。たとえば、首長や議員の兼業禁止が働かないので、首長や議員が関与する企業が指定管理者となって不適正な運営がなされるおそれがある。
(2) 利用許可や料金設定が管理者の裁量に委ねられ、公正、適正な運営が歪められる。
(3) 体育施設などは、スポーツジムの経営など特定企業が独自の収益事業をもくろんで算入してくる可能性がある。
(4) 法律上、管理者を指定する際に指定期間を定めなければならないことになっており、3〜5年を指定期間の目途とされていることから、労働者の雇用が不安定になるし、サービスの継続性、安定性、専門性が損なわれる。
(5) 管理経費の削減を目的とすることが条例上明記されているから、サービスの低下や労働条件の低下が必至である。
3 兵庫県では市町村合併が進んでいる。合併をすれば合併特例債の起債が認められるが、起債の使途は庁舎建設や道路などの開発事業に限られ福祉や教育には使えない。
にもかかわらず、十分な見通しのないままに合併特例債を発行し大規模事業を行った結果、篠山市などは財政危機によるリストラが問題になっている。
人件費を浮かせて大規模事業に投資をするが、住民サービスは決して向上していない。まさに自治体が食い物にされ、自治体を「住民の奉仕機関」から「財界の奉仕機関」に変質させるものである。
国民の生活や福祉を国の責任から自治体の責任に転嫁し、国民の自助に委ね,公共サービスを民間企業のもうけ口にするというのが指定管理者制度の本質である。
4 前記のとおり、06年9月に向けて、直営か指定管理者制度かの選択が行われるので、指定管理者制度をどんどん導入し、管理業者を入札により選定することにより大幅なコストダウンをはかることが危惧される。
そこで、「現在の直営施設を指定管理者制度の対象にさせない。現在、出資法人が管理を委託されている場合には指定管理者制度の適用は避けられないとしても当該出資法人を指定管理者にさせる。」という取組みが必要である。
最近、住民の自治体公務員に対する目は厳しいが、人件費コストが下がったとしても、そのことが住民の税負担の軽減やサービスの増大に決してつながらない。浮かせられた金はどこに行くのか。そこが覆い隠されていることが大問題である。
このページのトップへ1 第11回の労働判例研究会が7月13日、あすてっぷKOBEで開催され、独立行政法人N事件・東京地裁平成16年3月26日判決(労働判例876号56頁)を石田真美弁護士が、ネスレ姫路工場不当配転事件・神戸地裁姫路支部平成17年5月9日判決を私が報告しました。
2 独立行政法人N事件は、私病により休職していた労働者が、休職期間満了時に治癒していなかったとして解雇された事案です。
病気や怪我のため長期間会社を欠勤せざるを得なくなった場合、労務の提供ができないわけですから、普通解雇されることになるのは止むを得ません(但し、業務上災害の場合には労基法上、解雇の時期等につき一定の制限があります)。もっとも、少なからぬ企業は就業規則で休職制度を定めています。これは病気や怪我のために一定期間欠勤せざるを得なくなった場合、直ちに解雇するのではなく、一定期間休職をさせて、休職期間満了時に治癒していれば解雇することなく復職させるが、治癒していなければ解雇するというもので、いわば解雇猶予制度ということができます。判決も独立行政法人Nが就業規則で定める休職命令は「解雇猶予のために設けられた制度」と理解しています。
そうすると、つぎに問題になるのは、何をもって「治癒」とみるべきかということですが、この点について、判決は「当該休職命令を受けた者の復職が認められるためには、休職の原因となった傷病が治癒したことが必要であり、治癒があったといえるためには、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要するというべきであるが、そうでないとしても、当該従業員の職種に限定がなく、他の軽易な職務であれば従事することができ、当該軽易な職務へ配置転換することが現実に可能であったり、当初は軽易な職務に就かせれば、程なく従前の職務を通常に行うことができると予測できるといった場合には、復職を認めるのが相当である」と判示しました。
復職の要件である「治癒」を、原則として「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき」と理解しながらも、完全な治癒に至っていなくとも、当初は軽易業務に就かせればほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶりである場合、原職復帰が困難であっても現実に配置可能な業務がある場合には復職を認めるべきという判断は、近時の判例の傾向にも合致するもので(前者につきエール・フランス事件―東京地判昭59・1・27判時1106号147頁、全日本空輸事件―大阪地判平11・10・18労判772号9頁、後者につきJR東海事件・大阪地裁平成11年10月4日判決・労働判例771号25頁)、概ね妥当なものといえると思います。
もっとも、判決は、神経症に罹患している「原告が休職前に従事していた業務が、上司の資料作成の手伝いとしての書類のコピー、製本、書類の受け渡し、単純な集約作業、会議等のテープ起こし等の機械的作業であった」ところ、「原告は、このような機械的単純作業をこなすことも困難で、KないしSにおいて既に恒常的に業務上の支障が生じていたものであることからすると、本件においては、原告の復職に当って検討すべき従前の職務について、原告が休職前に実際に担当していた職務を基準とするのは相当でなく、Sの職員が本来通常行うべき職務を基準とすべき」で、原告はその程度にまで治癒しているとは認められないから、解雇は有効と判断しました。
確かに、本件原告が相当程度にまで「治癒」しているといえるのかについては問題がないわけではなかったようですが、ただ、判例が原則論として、軽易な労務に従事させればじきに本来職務に復帰できることが見込まれる場合、他に従事する業務に配置可能な場合には「治癒」として復職を認めるべきとしながら、本件においては、その原則論が妥当しないという論理には若干飛躍があるのではないかとの疑問がないわけではありません。
尚、議論では、判例が「治癒」の程度を緩和する傾向にあるといっても、現実には、休職してしまうと人員の補充がなされ、特に中小企業の場合、従事すべき業務がなく、解雇止むなしとされる事態が往々に生じるとの指摘がなされ、極めて悩ましい問題であると思いました。
3 介護、援助を要する同居の家族を抱える労働者2名に対する茨城県稲敷郡の霞ヶ浦工場への配転命令を無効としたネスレ姫路工場不当配転事件・神戸地裁姫路支部平成17年5月9日判決については、既に民法協ニュース444号で報告しており、研究会でもこの報告に従ってお話をさせて頂きましたので、ここでは繰り返しませんが、姫路支部判決後の動きについて報告させて頂きます。
会社は判決を不服として控訴したのですが、それに止まらず、なんと判決が命じる賃金仮払について強制執行停止決定を得て、原告両名に対する賃金の仮払いをストップするという暴挙に出ました。
原告両名は直ちに第2次の仮処分申立を行ったところ、ここで会社は、第1次仮処分、本案1審判決と2連敗しているにもかかわらず、給与がほしければ霞ヶ浦工場で働けという主張を恥ずかしげもなく展開するだけでなく、原告両名は一定の資産を有している筈だから、仮払いを認めて欲しいのであれば資産状況を明確にせよとまで主張してきました。
原告両名は、第1次仮処分、本案1審判決で完全勝利している以上、仮払いが当然に認められるべきで、資産状況など明らかにする必要はない旨を反論したところ、6月27日、裁判所は、原告両名に何ら資産状況を明らかにさせることなく、第1次仮処分と同じレベルの仮払いを控訴審判決まで継続するよう会社に命じる第2次の仮処分決定を下してくれました。
これで原告両名も取り敢えず経済的な心配をすることなく控訴審を闘うことができますが、2度の司法判断をも何とも思わない会社の姿勢には驚愕せざるを得ません。弁護団としても控訴審で会社を完膚なきまでにたたきのめすべく決意を新たにしている次第です。
このページのトップへ