《第448号あらまし》
 近藤氏解雇事件、賃金差別事件の川崎重工争議・勝利解決
 「有馬ビューホテル事件」「六甲カントリー事件」勝利和解報告
 第38期労働者委員選任取り消し控訴審判決
 JAM木村化工機労働組合大会傍聴記
 共謀罪の新設に反対しよう!


近藤氏解雇事件、賃金差別事件の川崎重工争議・勝利解決
1人の百歩より17人の一歩の団結

「お前は企業(川重)の人間じゃない」に27年の闘い

川重争議団 神野 忠弘


川重の不当解雇と賃金差別。二つの事件で27年闘い続けた川崎重工争議は05年9月21日に勝利解決させることができました。

これは川重争議団と弁護団、職場の仲間、支援共闘会議、家族が一体となって団結して最後まで闘い、ねばり強い不屈の闘いで勝ち取った歴史的な勝利です。

川重争議の勝利解決に向かって運動にかかわった労働者をはじめ、団結して闘う川重争議団に支援の手をさしのべて下さったすべての団体と個人の大きな成果です。

労働者が汗して働く労働現場の闘いは、資本は必ず職場に差別と弾圧、分断を持ち込み労働者の団結を壊そうとする。近藤氏不当解雇事件は27年9897日の闘いです。賃金差別事件は12年4481日の闘いです。

職場の労働組合活動が攻撃され、労働者の尊厳を侵す解雇と数々の不当労働行為および人権侵害に、川重争議団が真正面から闘いに挑んで勝ち取った勝利です。

この勝利を、川重110年の歴史の@労働争議で犠牲になった闘う労働者と先駆の活動家にささげます。Aそして多くの労働者の支援で勝利したことを後の世にも伝えます。そしてさらにBこの勝利を労働者とともに引き継ぎ発展させる決意です。

近藤氏不当解雇事件は、23歳の青年労働者の近藤正博氏が結婚を前に岐阜工場への配転命令を拒否した。それだけを理由に解雇され、婚約者と二人で神戸工場門前で「不当解雇に負けない」と手書きのビラを配布した。

争議はここから開始され、支援の輪は広がり、300名を越える会員の「近藤君を守る会」が立ち上がった。そして近藤氏の生活と闘争を労働者のカンパで支えながらの職場復帰闘争が職場の内外で展開された。

15年にわたる裁判闘争は仮処分で勝訴したが、原告弁護団の必死の弁護に拘わらず悪名高い「裁判官会同」の壁は厚く敗訴した。

近藤争議は敗訴したが、川重の第一次、第二次の大量人減らし合理化闘争と職場闘争で、労働者とともに闘い「近藤君を守る会」と支援共闘会議が職場闘争で大きな役割を果たした。

また裁判闘争を通じて、@日本企業の「単身赴任」を断罪し、A遠隔地配転にあたって家族的配慮義務を勝ち得たし、B「解雇4条件」の確立運動の道を切り開く一定の役割を果たし、C闘いは労働者の人権要求であり以後の労働者解雇の歯止めとなった。

賃金差別事件における地労委闘争は、職場の労働組合活動と労働者の人権を正常化する闘いでもあった。川重は労働者の職場活動を嫌って、川重争議団が伝統を繋ぐ「統一派」や「社会党系」を排斥し、1965年以後に「会社派」を育成してきた。

兵庫県労委審問では、川重は近藤氏不当解雇事件の公判について「法廷に誰が傍聴に来ているか。」「門前ビラ配布には誰が参加しているか。」「守る会に誰が加入しているか。」「カンパは誰が集めているか。」「職場復帰署名を誰がしているか。」これらすべては調査し報告される労務管理の対象であると証言した。

そのため地労委申立人らは、どんなベテラン労働者であってもペンヌリ、屋内外掃除、弁当運び、草ムシリ、スクラップの切り出しおよび川重版・人活職場への配転など意味のない仕事をさせて活動家に嫌がらせをした。

私も労働者から隔離され、仕事も与えられなかった。近藤争議の山場には川重も体制を構築し、多い時で総勢13名の職制たちが兵庫工場の門前に立ち並び威圧し、工場の門前で一人ビラ配布する私を妨害し、ビラを受け取り入門する労働者が会社と対峙した。運動は会社攻撃を跳ね返し、近藤氏の職場復帰はならなかったが申立人らを通常の職場に戻させ、川重版・人活職場は解散させた。

川重は兵庫県労委審問で明らかにしたことは、人事権を乱用して賃金で差別する労務管理をしたことだ。申立人らが日常世話役活動で身を粉にしていても「仕事に不熱心。」「協調性がない。」「残業が人より少ない。」と主張し、些細なミスを誇張して「無能者呼ばわり」し、成績査定を最低ランクにする理由にした。

兵庫県労委は9年に及ぶ審問(調査12回、審問64回)の後、03年12月に「川重は労働組合法第7条違反である」と不当労働行為を断罪し、「労働組合活動を会社が嫌悪して、職能区分・等級で恣意的に低く据え置いた」。その差別は「基準賃金、期末手当および退職金に格差をつくり出し申立人らを不利益な扱いを行った」と、申立人全員を救済した。

この勝利命令は、@川重の職場内の少数派労働組合活動に対する不当労働行為があったこと。A申立人の職能等級は勤続・年齢の年功序列で下位10%以下が13名(申立人16名)であり、下位20%まで引き上げとしたもので、3ランク昇格が1人、2ランク昇格が8人、1ランク昇格が7人で全員が救済されたこと。B除斥期間を認めず、川重の差別行為は過去ものまで審査の対象とするとしたことです。

この救済命令に対して、川重は中労委にも地裁にも提訴せず県労委命令を確定させた。命令後は命令どおり93年11月1日時点の職能等級差別の差額金(総額37,265,098円)のみを供託した後、県労委命令は杜撰であり到底受け入れがたいと主張した。

川重は、@職場に差別を残したまま幕引きを計ろうとした。大企業として社会的に許し難い行為にでた。A近藤氏には地裁勝利で5年間に支払った賃金6,050,664円を、延滞金加算して11,928,097円の返還を求め、02年末には法的手段だと差し押さえにでる悪質さで、自宅に数回執行官が派遣されてきた。B賃金差額は地労委命令どおり03年11月1日の時点の差額金を供託し履行したが、救済命令4項に示されている「以後差別をしてはならない」をまったく無視した。C公共工事を発注する自治体らへの争議解決要請行動に営業妨害だ処分すると一人づつ呼び出して脅した。D差別には反省も謝罪もなく職制も「これからは表だった思想差別はできなくなった」というものだった。従って川重は、E主文のみ形式的に履行して法的に決着したとの態度に出たのだ。

川重は運動を止まらせ終結させようとたくらんだが、むしろ川重争議団と弁護団、および支援共闘会議を川重資本の悪質な開き直りが火をつけ、燃え上がった包囲運動は県労委命令以後5回にわたる川重包囲総行動に組み、防衛庁を始め関係省庁に対して要請行動を繰り広げ、運動で川重をテーブルに就かせることが出来た。05年2月22日の全県争議支援要請行動を出発点に水面下で4月4日より争議団と支援共闘会議の二者との和解交渉が開始された。9月9日、第9回和解交渉で協定文書に合意し、21日に調印した。

和解交渉では、川重は当初は「社内的には法的措置は済んでいる。」と譲らなかったが最終的には「会社と従業員との間で争いや長年のわだかまりのある」ことを認めさせた。

これまでに川重争議団が闘って得た成果は沢山あるが、争議解決の話し合いのテーブルに就かせたことは県労委命令勝利と争議団運動の成果である。@争議団は27年間闘った誇りを持って解決させようと決断した。Aまた争議勝利和解を契機に情勢に合った新たな運動を職場と労働者の要求で構築させようという課題も組める。B差別を謝罪させ職場に自由と民主主義を旗を立てることこそ尊いものはない。この決意で交渉に望んだ。

和解協定は、@川崎重工は二つの争議の存在を認め、会社と従業員(元従業員を含む)との、このような係争がこれ以上続くことは望ましくないとの相互認識の上に立ち話し合いにより解決する。A会社は、憲法に定める基本的人権、労働諸法令を尊重して公平な人事施策を実行する。B近藤氏への仮払金の返還請求を放棄する。C和解金を支払う。

川重争議は、労働運動の歴史的流れの中で解決された。川重争議の終結は、レッドパージ以後の労働運動の集大成であり、レッドパージの目的が労働運動の右翼的再編成にあったことは明らかであり、60年安保闘争などの労働運動の高揚に危機を持った者たちがいたこと。我が国の自由と民主主義の発展には労働組合運動の建設的な発展が不可欠であったが、職場内の民主主義勢力を資本が攻撃し、活動家を異常に処遇し弾圧した。民主国家としてあり得ないこの行為がいま断罪され、近藤氏不当解雇事件と賃金差別事件を謝罪させ、16名全員の賃金は是正されて、川重争議は終結する。

いつも駆けつけ、労働者を励まし続けて下さった羽柴修、前哲夫、深草徹、松本隆行、山崎満幾美、野田底吾の各弁護士さんには長期にわたり大変お世話になりました。

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「有馬ビューホテル事件」「六甲カントリー事件」勝利和解報告
相次いで勝利和解で決着…でもまだまだ問題

弁護士 西田 雅年


1.報告が大変遅くなりましたが、既にご承知かもしれませんが、解雇事件である「有馬ビューホテル事件」と「六甲カントリー事件」は、いずれも勝利和解で解決しましたので、以下のとおりご報告します。

2.「有馬ビューホテル事件」は、労働組合の分会長が組合活動を活発に行っていることに、会社が目をつけ、期間満了を理由に1年の労働契約を更新しないという更新拒絶をされたため、仮処分を申立ていた事件です。

申立後、分会長の年齢ということもあり、和解で何とか解決するという方針を確認して、会社側が解決金を支払うということで、決着しました。

しかし、会社側は、従業員の未払残業代の請求に対しては、依然として残業は無かったというような回答を繰り返し、未解決のままです。今後、この未払残業代を巡って、新たな紛争が生じる可能性があります。

3.「六甲カントリー事件」は、これも労働組合の分会長が、組合活動を行い会社の意向に逆らったということで、7年も前の経歴書の不備を理由にして、懲戒解雇したというものです。これは、一旦仮処分事件で勝利決定が出され、本訴を提起していた事件です。

ところが、同社は本訴提起後、突然民事再生法の申請を行ったものの、その後会社更生法の申請に切り換えられ、事実上倒産してしまったというものです。

そのため、分会長は一旦は復職を考えていたものの、復職は断念し、既にアルバイトをしながらの生活も大変ということで、新たな就職先も見つけていたため、会社側(保全管財人)が解決金を支払うことで和解をしました。

しかし、その他の分会員は既に退職していますが、未払の残業代があるということで、現在も会社側に請求を求めていますが、未だに決着していません。

4.上記の両解雇事件は、経過は異なるものの、期せずして、復職せず解決金による解決という結果となりました。本来、不当解雇事件の解決は復職を原則と考えますが、現実はなかなか難しいものです。そこに、財界や政府は、労働基準法を改悪して、解雇については解決金で決着することを原則とし、その金額も予め低額に抑えようとしています。

様々な事情はありますが、不当解雇事件においては、できる限り復職を追求していきたいと考えています。

最後に、報告が大変遅れましたことを改めてお詫びするととも、両事件を支援していただいた会員の皆さんにお礼を申し上げます。

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第38期労働者委員選任取り消し控訴審判決
“あきれて開いた口がふさがらない”

第37期高裁判決に輪をかけた“いい加減な判決”

兵庫県労働組合総連合副議長 丸山  寛


2005年10月7日、第38期の県労委労働者委員選任取消訴訟の大阪高裁判決が言い渡されました。

私たちは、連合と全労連に労働運動の潮流が分かれる以前は、総評・同盟・中立と組織人数に応じて労働者委員が選任され、労働委員会が健全に機能していたが、連合と全労連に潮流が分かれて以降は、労働者委員が連合独占となって機能不全を起こし、人間で言えば危篤状態だから、適切な処方箋を出してほしいと裁判に訴えたのです。

長年にわたり労働者委員が連合に独占され、しかも7つの労働組合枠から代々選任され続け、労働者と話あわない、労働者の利益を代表して意見も言わない、意見書も出さない。不当労働行為を受け労働委員会に助けを求めても、これでは何の役にも立たないと、利用しなくなり、裁判で争う方法をとる労働者が多くなっています。

大阪高裁は、このような兵庫県労働委員会の現状を知った上で、この判決を書いたのでしょうか?

「地労委における労働者委員の役割の重要性を考え、労働者を代表する人物として、高い見識を有するかどうかが、第1に問われる」確かにその通り。組合役員を退任して子会社の取締役に就任した、労働者を代表する高い見識を持った労働者委員がわかっているだけで2人います。

組合員が賃金差別を受けたとして労働組合に救済を求めたが相手にされず、労働委員会で救済命令を受けました。不利益を受けた組合員を助けない労働組合から選任された労働者委員が6期12年も繰り返し任命され続けた事もありました。

このような労働組合の「後任者も前任者同様の能力を持つ人物としての評価を得て」、労働者一般の利益を代表する労働者委員として任命したのも、知事の「裁量権の行使として許されている」?…馬鹿言ってるんじゃないよ!。大阪高裁民事部には人間として普通に判断できる、まともな裁判官は居ないのでしょうか?

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JAM木村化工機労働組合大会傍聴記

弁護士 本上 博丈 


1.2005年9月20日、当協会会員であるJAM木村化工機労働組合の第45回中央大会を傍聴させていただいた。

民法協事務局弁護士は、具体的に事件処理を担当した労働組合や幹事会などでしばしばお目にかかっている労働組合の状況はある程度分かりますが、それ以外となると会員組合であっても、どんな労働組合で、今どんなことに取り組んでいるかなど姿・形がさっぱり分かりません。そこで、組合の実情に触れる機会を作っていこうという趣旨で、今期から、会員組合に大会傍聴をさせていただくことをお願いしていくことになり、その第1号がJAM木村化工機労働組合となりました。傍聴をお許しいただいた同組合には改めてお礼申し上げます。

2.木村化工機は、化学機械装置や原子力プラントの製造、設置等を行う会社で、北は秋田県から南は大分県まで全国に19の事業所、出張所、関連子会社があり、組合員も全国に散らばっている。昭和40年代前半には1400人の従業員がいたが、現在は約350人まで合理化され、組合員数は約230人、組織率約70%とのことで、大会には、全国の事業所から代議員(十数名)が参加されていた。

私が傍聴させていただいたのは、大会2日目で、役員選挙、運動方針案及び一般会計予算案の提案・質疑等が行われた。

3.運動方針案等では、使用者側に責任ある経営をいかにさせるかということが最大の問題であるように感じた。ここ数年の業績悪化により一時金等の労働条件ダウンが行われてきたが、その団体交渉の中で組合側が指摘した諸問題や実行を約束した経営改善策を経営側が誠実に実行せず、その場だけの無責任な対応にとどまることが多い経営への怒りが組合や組合員に強い。ところが、組合としてそのような無責任な経営側を十分攻め切れているかというと必ずしもそれができておらず、その点で組合の中にもいら立ち感があるように感じた。

高田智三郎委員長のお話では、このような経営側の意識改革を促すために、賃金要求と一時金要求以外では、単なる金額だけではなく考え方や趣旨から労使確認していくこととして、例えば住宅手当や営業手当についての交渉でも金額要求はあえてしないように改めたとのこと。金額要求すると、金額だけの交渉になってしまうが、そもそもどういう趣旨や内容の制度かというところから労使の共通認識を確認し、そのうえで金額の協議を行うようにしている。

大会中、同様の考え方から、一貫した賃金政策に乏しい会社に対して、賃金表の作成及び一時金原資算定根拠の公開を求めるとの動議が提案され、採択された。

4.ほかには、会社の会計監査の適正化に伴って組合への便宜供与の見直しが問題になっていること、労組法上は労働者にあたるにもかかわらず単に管理職だからといって会社が組合員資格を認めようとしない問題、厚労省通達等でも一般的に問題が指摘されている賃金不払い残業や過重労働の問題、組合役員の後継者問題等、様々な課題について取り組むことが、方針として採択された。

5.私が組合大会に臨席したのは今回初めてでしたが、やはり企業別組合の場合は会社の業績や経営者の姿勢いかんが労働組合の活動方針に決定的な影響を及ぼさずにはいられないのか、との思いを改めて強くしました。

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共謀罪の新設に反対しよう!

弁護士 増田 正幸


1.衆議院選挙で自民党の圧勝後の特別国会において、選挙前に2度廃案になった共謀罪の新設を内容とする改正法案の3度目の上程がなされました。正確には、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」といい、この法律案では、「組織的な犯罪の共謀」を共謀罪として罰することとしています。

2.共謀罪とは、長期4年以上の刑を定める犯罪について、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者を、5年以下(共謀の内容によっては2年以下)の懲役または禁固に処するものです。

すなわち、「長期4年以上の刑を定める犯罪」(殺人・強盗などに限らず、窃盗・詐欺や傷害などほとんどの主要犯罪を含みます)について、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀」すれば処罰されるのですが、対象犯罪は、刑法に定めるほとんどの罪を含む、実に600以上の犯罪類型に及びます。

3.「共謀」とは、犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議あるいは謀議の結果として成立した合意を言います。したがって、共謀罪は、犯罪の実行に着手することはおろか何らの準備行為をすることも必要なく、単なる犯罪の合意(意思の連絡)を処罰するもので、客観的な行為があって初めて犯罪が成立するというわが国刑法の大原則に反し、人の内心を処罰することにつながります。

憲法は19条で内心の自由を絶対的に保障しています。人の思想や意思を国家が規制することは絶対許されるべきではありません。

4.同じように、犯罪行為に着手もしていないし準備行為さえもしていないのに罰せられるといえば、戦前の治安維持法が想起されます。治安維持法は、「国体の変革と私有財産制度の否認を目的とする結社を組織したり、加入しただけで、10年以下の懲役又は禁固に処せられ、目的達成のための行動について協議をしただけで7年以下の懲役又は禁固に処せられることになっていましたが、共謀罪の場合は、特定の目的を要件としていませんので、治安維持法よりもはるかに処罰範囲は広くなります。すなわち、治安維持法よりも危険な法律ということができるのです。

5.また、共謀罪は人の「意思の連絡」それ自体を処罰の対象とするので、室内会話、電話、電子メールなどが捜査の対象として重視されることになり、盗聴やスパイの潜入といった捜査方法が正当視されることになります。合意を立証するために、取調は人の内心に踏み込むことになり、自白の強要を招くおそれもあります。

6.政府は、テロや暴力団・マフィアなどによる組織犯罪に対する国際的な協力関係を構築する「国際組織犯罪防止条約」の批准に必要な国内法の整備ということを共謀罪新設の理由としています。しかし、この条約では、適用範囲として、「性質上国際的(越境的)なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」であることが明記されており、共謀罪のような無限定の取り締まりを容認しているわけではありません。

たとえば、共謀罪の対象犯罪には不同意堕胎罪や不正行為による市町村民税の免脱罪などが含まれていますが、これらが「性質上国境を越える」とか「組織的な犯罪集団が関与する」とはいえないことは明らかです。

7.さらに、共謀罪は、国際的な犯罪を行う「組織的な犯罪集団」だけに処罰範囲を限定せずに、前記のとおり「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」という要件だけなので、一般の政党、労働組合、市民団体、NGOなども捜査の対象になり、これらの団体の活動に対する日常的な監視が強化されるおそれがあります。たとえば、市民団体が、マンションの建設に反対して工事の現場で座り込みをしたり、労働組合が妥結するまでは徹夜も辞さずに団体交渉を続けようと決めるだけで、威力業務妨害罪や監禁罪の共謀をしたとして処罰されるおそれがあります。

8.以上のとおり、共謀罪は私たちの思想信条の自由や表現の自由を萎縮せしめ、民主主義を脅かすものです。このような悪法の成立を絶対に許してはなりません。

9. 10月18日の新聞報道によれば、与野党の足並みが揃わないとして、政府は11月1日までの特別国会中の共謀罪新設を断念したとのことです。しかし、決して安心はできません。政府は、共謀罪の新設をしなければ「国際組織犯罪防止条約」の批准ができないという立場を崩しておらず、同条約の批准については与野党の合意ができているために、必ず、次の通常国会でも法案上程は必至です。引き続き警戒と反対運動が必要です。

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