第39期県労働委員会の委員選任が昨年7月27日行われ、非「連合」9組合が推薦した統一候補、鳥居氏は選任されず、労働者委員はすべて「連合」推薦者で独占されました。
それから約3ヶ月、子会社の取締役になりながら報告もせず、労働者委員に居座り続けた「基幹労連」出身の某委員に代わって選任された「電機連合」出身の大西氏は、一度も参与として活動もせず辞任しました。辞任理由を「一身上の都合」としか言えず公に出来ないような人物が、元々労働者委員としての資質があったのか非常に疑問であり、このような人物を選任した県知事の責任は重大です。
12月2日に公告された委員補充募集にたいし、「連合」は2人、非「連合」は統一候補として佐野旦氏(兵庫労連幹事・県医労連書記長)を推薦していました。県担当者は「出来るだけ早く選任したい。選任まで約1ヶ月ほど」と言っていましたが、1ヶ月過ぎても何の音沙汰もなく、2ヶ月過ぎた3月17日にやっと結果を伝えてきました。
結果はまたしても「連合」推薦の白田春雄氏(三菱重工労働組合高砂製作所支部執行委員長)で、産別組織としては「基幹労連」です。「基幹労連」からは、大森唯行氏(新日本製鉄広畑労働組合組合長)が、第38期(平成15年7月22日〜)から選任され、39期も再任されています。
県労政福祉課課長補佐は神戸地裁への陳述書(乙第10号証)で、候補者の年齢・学歴・職歴・勤務先、公職歴、労働組合における役職歴、所属労働組合の規模、産業分野等を総合的に判断したとしています。中でも、候補者が所属する労働組合の産業分野については、「任命された労働者委員の所属する労働組合の産業分野が、特定の産業分野に偏らないようにし、かつ、できるだけ兵庫県下の産業構造を反映する形になるように考慮した。」と述べています。わずか定数7人という少ない枠の中で、なぜ「基幹労連」から複数選任という「特定の産業分野から偏った選任」をしたのか。「総合的判断」では常識ある兵庫県民を納得させることは出来ません。
県労働委員会は、9期18年にわたり「連合」独占、偏向任命が続いています。参与委員となった労働者委員との密接な打合せ・協議や労働者の立場に立った意見陳述が「連合」独占以前には行われていましたが、「連合」独占以降行われなくなり「労働者全体の利益を守る」労働委員会の機能を喪失し「使用者全体の利益を守る」機関に変質した感があります。そのため、県労働委員会に申し立てても何の役にも立たないと、年々申立件数が減少し続けています。平成16年度の不当労働行為救済申立件数はわずか6件、総取扱件数も170件で、平成16年度に終結した救済申立事件9件中5件は棄却命令であり、県労働委員会の存在価値が問われる危機的な状態となっています。
県労働委員会の現状は、「@連合加盟の川崎重工労組は、38期まで永年にわたってその役員が労働者委員に選任されていましたが、同労組内の少数派組合員の賃金差別について、同労組は申立人労働者の苦情申立に全く耳を貸さず、非協力の態度を貫きました。しかし、県労委は組合内少数派に対する賃金差別を明確に認定し、申立人労働者の全面的な勝利命令を出してその命令は確定しました。A同様に連合加盟の神戸製鋼労組内の少数派組合員が賃金差別を申し立てた事件では、その川重労組出身の労働者委員が参与委員であるにもかかわらず非協力的態度をとったことが問題視されたこともご承知の通りです。その後も、B宝塚映像事件では被申立人会社の連合加盟産別出身の労働者委員が参与に指定されたり、C労働者委員の中に組合役員退任後も会社経営に関与しながら労働者委員の職にあり続けた者がいたこと等、労働者委員を連合出身者が独占することによる不都合や労働委員会に対する信頼を損なうような事例がたびたび起こり、労働者委員の連合独占が労働委員会の活性化を阻害していることは明らかです。」と補欠委員補充選任に当たっての申し入れ書(06年1月23日)でも指摘しています。
その後、棄却命令を不服として2006年3月9日に神戸地裁に提訴したみのり農協労組は、「労働委員会の対応については、審問の過程から疑問を抱かざるを得ないような状況もあり、救済機関として正常な労使関係をを確立するという基本的な役割を本当に果たしているのか、という問題意識」をもっていたと、提訴した理由を述べています。
このような県労働委員会の現状を見れば、憲法28条に基づき労働者に認められた労働三権を実質的に保障するためにもうけられた労働者・労働組合の救済機関という、本来の役割を果たすことができない「機能不全」状態に陥っていると言わざるを得ません。
県労政福祉課課長補佐が神戸地裁へだした陳述書(乙第10号証)で「労働組合法は、労働委員会の権限の行使に際し、労働者委員は労働者を代表する者として、特定の労働組合利益のためでなく、労働者一般の利益を反映させることを所期しています。」と述べ、いかにも私たちが「特定の労働組合の利益のため」に争っているかのように描き出そうとしていますが、私たちは、県労働委員会が先に述べたような「機能不全」状態から一刻も早く、本来の「労働者一般の利益を守る」労働者・労働組合を救済する機関に再生させたいだけなのです。県知事こそ、「連合」という「特定の労働組合」の利益のために、労働者委員ポストを利用して、自らの支持基盤の維持を図るのはいい加減に止めるべきです。
このページのトップへ1 その1で本上弁護士が労働審判制の概要について説明しましたが、その2では、労働審判制の手続きについて説明します。
2 労働審判では、最大3回の期日の中で、争点整理や証拠調べが行われて、その上で調停が試みられ、調停が成立しなければ審判が言い渡されます。
以下、手続きの概要を説明いたします。
@ 申立労働審判の申立は、書面(申立書)でしなければなりません。そして、申立書には、申立の趣旨および理由のほか、予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実の記載と、予想される争点ごとの証拠の提出が求められます。3回以内の期日で審理を終結しなければならないことから、労働審判委員会が早期に争点と証拠を整理することができるようにするためです。また、当事者間でなされた交渉やあっせんその他申立に至る経緯の概要を記載することも求められています。これは労働審判手続きにおいて試みられる調停についての情報となります。
第1回期日は、申立日から40日以内の日が指定され、民事訴訟の30日よりも10日ほど長くなっています。これは、申立人が、(第1回期日までに提出される)答弁書、相手方提出の証拠を検討した上で第1回期日に臨むための準備期間を考慮したものです。相手方の答弁書の提出期限は、申立人が第1回期日までに準備するために必要な期間(第1回期日の10日前が目安)をおいて定められます。答弁書にも、予想される争点およびその争点に関連する重要な証拠、予想される争点ごとの証拠、申立に至る経緯の記載が要求されます。
労働審判手続は、申立人、相手方とも紛争の実情について労働審判委員会が十分に把握できるよう、当初から必要十分な主張立証をすることが求められています。主張や証拠を小出しにして、相手方の反応を見ながら対応するというやり方は予定されていません(もちろん「追って答弁」などという答弁は許されません)。このようにして、当事者双方が、事前に相手方の主張に対する反論を準備した上で第1回期日に臨み、第1回期日において実質的な審理が行われます。
A 第1回期日第1回期日においては、申立書及び答弁書の記載を前提にしながら、労働審判委員会が、当事者双方の陳述を聴き、当事者双方から提出された証拠(主に書証、場合によっては当事者等の人証)について証拠調べをしながら、何が争点であるかを確定し、事案解明(争点に対する判断)のために必要な証拠方法を確定することとなります。
通常の訴訟でも早期に争点と証拠の整理がなされることが目標とされているものの現実には必ずしも十分に実現されていません。これに対し、労働審判においては、3回以内に審理を終えることから、第1回期日に実質的な審理の上争点と証拠の整理がなされることになります。第1回で人証も決定されることから、当事者は、誰を人証にするかについて予め決定し、その必要性に関する意見についても十分に準備しておく必要があります。実質的な審理がなされることから、審理時間は、通常訴訟のように短時間ではなく、おおよそ1時間以上の時間が想定されています。
第1回期日以降は、主張反論は口頭によって行われることとされており、書面での主張反論はできません(ただし、口頭での主張反論を補充する書面の提出は第2回期日まで提出可能)。即座にその場で、労働審判委員会からの発問に答えたり、相手方の主張立証に対する反論をしなければなりませんので、十分に準備した上で期日に臨む必要があります。
3回より短期で審理を終えることは可能ですから、事案によっては第1回期日から調停が試みられることもあります。また、単純な賃金未払いのような事案で調停の成立が見込まれない場合は、第1回期日に労働審判が出されることもあります。
なお、労働審判は原則として非公開ですが、労働審判委員会は「相当と認める者」の傍聴を許すことができます。「相当と認める者」としては、申立人の加入する労働組合の役員、当該事件の担当オルグ、当該事件に関与して事情を知っている企業の人事担当者などが考えられます。
B 第2回期日通常、第1回期日で決められた証拠(主に人証)の取調べが行われることになります。
通常の民事訴訟では、当事者主義の採用により、当事者が主張立証を行い、これによって得られた心証に基づき裁判所が判断を下します。これに対し労働審判制においては、3回以内の期日で迅速に審理を終了させなければならないことから、当事者の主張立証を待つだけではなく、審判委員会が主導的に事実関係の調査をし、証拠調べをすることができるものとされています。これは証拠(人証)調べの方式にも影響します。民事訴訟においては、人証を申し出た当事者が主尋問をし、相手方当事者が反対尋問をして裁判所が補充的に尋問をすること(交互尋問方式)が原則とされますが、労働審判の場合は必ずしもそのような方法で行われるとは限りません。労働審判委員会の裁量により、先に労働審判委員会から尋問(質問)を行い、補充的に当事者が尋問する方式がとられることもあります。
期日の記録について、裁判所書記官は、期日における「経過の要領」を記録上明らかにすればよく(例外的に、労働審判官が命じた場合には手続き調書を作成)、当事者や証人の証言内容は、調書化されません。人証調べの結果をいかにして記録するかが課題となるでしょう。
そして、人証調べの結果を踏まえた上で、各当事者は人証調べの後、口頭で、自らの主張が正当であることの意見を述べることになります。第3回期日に最終準備書面を提出することは予定されていません。今まで以上に、即座に的確な意見を述べるための能力と準備が要求されます。
C 第3回期日第3回期日においては、まず調停が試みられることになります。労働審判委員会は、必要に応じて他方当事者を退席させた上で、各当事者から意見を聞いて、双方の意見を調整することになるでしょう。通常の和解手続や調停手続きをイメージしていただければよいと思います。
調停が成立しない場合は、審理の終結が宣言され、その場で労働審判が言い渡されるか、後日審判書が送達されることになります。労働審判は、「審理の結果認められる当事者間の権利関係」及び「労働審判手続きの経過」を踏まえて行われ、「財産上の給付を命じるほか、その他個別労働関係民事紛争を解決するために相当と認める事項を定めることができ」ます。当事者間の権利関係を踏まえなければならないため、単なる折衷案的な審判を下すことは許されません。ただし、判決と異なり、法律の要件効果で決定される当事者の権利関係だけを判断する通常訴訟(例えば、解雇であれば有効か無効だけ)とは異なり、より事案の実情に則した適切な解決(例えば、解雇は無効でも労働者側が望んでいる場合には金銭解決をすることなど)をすることができます。「相当と認める事項」とは、例えば、解雇が有効でも職場復帰を命じる審判を下せるかなどが問題となりますが、この「相当と認める事項」でどのような審判が下せるかについては、実務の運用の開始に伴い議論が深まっていくことになると思われます。
D 労働審判が出された場合労働審判が出されてから2週間以内に異議が出なければ確定判決と同様の効力が生じます。
異議が出れば、労働審判は失効し、労働審判申立時点で地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされ、事件は通常訴訟として係属することになります。この場合、申立書のみが、訴訟に引き継がれることになります。
3 審理が迅速であること、書面作成等の負担も少なく容易に利用しうること、審判員の知識・経験が生かされること、事案の実情を踏まえた解決が可能であること、使用者の行った行為が違法又は無効であるといえなくとも一定の救済を望める可能性があることなどから、特に組合等の援助を受けられず孤立した状態で紛争を抱える労働者にとっては大いに活用できる制度であると思われます。どんどん活用して労働者にとって有用な制度にしていきましょう。
このページのトップへ静岡フジカラー社(以下「会社」)は、富士写真フイルムの系列で、フジカラー販売社の100%子会社です。カラーフィルムの現像処理が主たる業務で、70名ほどの社員を抱えていました。また会社には労働組合があり、ストライキなどを活発に行っていた時期がありました。
2000年、会社は、フジカラー三島(フジカラー販売社の子会社。以下「三島」)への営業全部譲渡と会社解散を予定している(必要な人材を三島で採用する)と発表しました。これに対して組合は、営業譲渡を口実とした不当労働行為として営業譲渡の撤回を求めましたが、2001年3月に営業譲渡と解散が実施されました。
組合員16名は三島への採用面接を拒否し、会社と三島に対して雇用関係確認等請求およびフジカラー販売者も含めて損害賠償請求の訴訟を提起しました。
争点に関する組合の主張は以下の通りです。
(1) 営業譲渡・解散は偽装であり、組合つぶしを目的としている。それに伴う解雇は無効・違法である。なぜならば、会社も三島も経営状況は同じで両社とも経営状況は悪くない、静岡こそ県内拠点であり、組合のない三島への統合はおかしい、看板を書き換えて静岡の店舗を三島がそのまま使っているだけである。
(2) 偽装解散による解雇であるが、この解雇は整理解雇の4要件を満たさない。
(3) 労働契約が三島に承継される。なぜなら、会社と三島は同一系列のもので一体の会社で、営業譲渡ならば社員全員を三島が承継するべきである。
これに対して、裁判所は、以下の理由で組合の主張をすべて退けました(ページの関係上、解説者が説明用にコンパクトにまとめたものです。かならず原典にあたって下さい)。
(1) 偽装解散ではなく、不当労働行為でもない。なぜならば、近年、デジカメ、プリンタの普及で業界全体の経営が悪化していたもので、会社は悪化の一途をたどり、三島は曲がりなりにも利益を出していたから、三島への統合は不自然ではない。また、最近は労使関係が比較的安定していたので不当労働行為ではなく、組合員を雇わなかったのは組合員が採用面接に応じなかったからである。
(2) そのうえで、念のため整理解雇について判断すると、本件では整理解雇の4要件を満たしている。
(3) さらに、念のため労働契約承継について判断すると、同一系列にはあっても両社は独立的であるから、かならずしも承継されない。
争点は偽装解散につきるはず(偽装解散でなければ解雇も当然有効となり、契約承継の論点もないはずだから。)ですが、本判決は近年の裁判例の流れに沿って整理解雇要件を検討しています。思考過程としては何とも分かりづらいような気がします。
(2) 判決認定の問題裁判所は会社の言い分をほとんどすべて認めた格好になっていますが、本件では完全な系列会社の問題となっています。系列会社・グループ会社の場合、財務会計を会社の都合のよいように操作することも可能だと思いますし、グループ会社なのにそれを一体としてみないで各会社ごとに経営状況を考えるとしたら、恣意的な会社閉鎖・組織再編ができることになってしまい、問題があると思われます。研究会では、こうした意見・質問が出ました。
近年こうした組織再編がらみの事件が増えているので、要注意の判決だと思われます。
(3) 組織再編と裁判所の判断会社の消滅が絡んだ場面で、消滅会社の従業員の雇用関係について整理すると、おおまかにいえば以下の通りになるので、参考にして下さい。
@ 会社が単に解散消滅する場合は、解雇は原則有効になりうる(東芝・東芝アンペックス事件(横浜地裁S58.1.28労判406−65))ものですが、近年は整理解雇4要件を用いて解雇が有効か判断する裁判例も近時は多いようです(シンコーエンジニアリング事件(大阪地決H6.3.30労判668−54))。
A 会社が別の会社に合併(吸収合併)する場合は、労働契約は当然承継されるものと考えられます(もっとも、その後労働条件を統一させるための就業規則変更等がありうる)。
B 会社が消滅して、その後新会社が営業を続ける場合、事案によっては「法人格否認の法理」によって、新会社にも雇用契約が承継される(新関西通信システムズ事件(大阪地決H6.8.5労旬1346−59))場合があります。
C 会社が他の会社に営業譲渡して消滅する場合には、雇用が当然承継されるわけではなく、偽装解散といえるような場合には「法人格否認の法理」が使える可能性があります。
このページのトップへ近年、能力主義の考え方・給与制度が拡がって来るにつれて、解雇事件においても、その理由として、不適格や能力不足が挙げられる場合がしばしば見受けられるようになった。世間の感覚では、それが明らかにこじつけというような場合でなければ、「能力不足なら、仕方がない」というように比較的容易に認めてしまう傾向があるのではないだろうか。しかし、裁判所は意外とそうでもない。少し古い決定例であるが、人事考課制度との関連でも先例となる判断を示しているので、労働判例研究会で取り上げた。能力不足を理由とする解雇の有効性判断の考え方、手法、有効無効の境界線を見る上で、大変参考になる。
なお本決定後に、判例理論であった解雇権濫用論が労基法18条の2として成文化されたが、解雇の有効性の判断基準等や本決定例の意義に変わりはない。
・業務用娯楽機械、家庭用ゲーム機器の製造販売を業とする株式会社
・平成10年4月時点で、資本金約392億円、従業員約3500名
(2) 債権者(労働者)平成2年 広島大学大学院社会科学研究科博士課程前期終了(イギリス史専攻)
同 年4月 債務者と期間の定めのない雇用契約締結、@人事部採用課に配属
同 年7月 3か月の試用期間を経て正式採用
同 年9月 A人材開発部人材教育課
平成3年5月 B企画制作部企画制作1課
平成5年7月 同課が解散されC開発業務部国内業務課に移管
平成6年9月 組織変更によりD第2設計部ソフト設計課
平成9年8月 組織変更によりECS品質保証部ソフト検査課
平成10年12月 パソナルーム勤務命令
平成11年1月26日付け書面で、同年3月末日をもって退職するよう勧告→拒否
同年2月18日付け書面で、就業規則19条1項2号(労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき)に該当するとして、同年3月31日をもって解雇する旨の通知。
・採用事務に就いたが、札幌での会社説明会について、予め現地でその準備をしておくことを命じられていたのに、寝過ごして乗るべき飛行機に乗り遅れ、空港でたまたま会った説明予定役員にその場で帰された。
2、A人材開発部人材教育課において・学卒者研修の進行管理を担当したが、悪天候のため、研修カリキュラムが大幅に変更される事態となり、トレーナーから苦情が出たりしたことがあったが、トレーナーや受講者に対するカリキュラム変更の説明を行うなど研修進行管理を的確に行えず、その直後に異動させられ、後任には新卒者が配置された。
3、B企画制作部企画制作1課において・イギリス史専攻ということで、その英語力に期待されていたが、期待されただけの英語力がなかったため海外の外注管理の担当にはならなかった。
・国内の外注管理を担当したが、担当した外注先が債務者に対し、債権者とはうまくコミュニケーションが取れずゲーム開発に支障があるので担当者を変えてほしいとの苦情を述べてきたため、外された。
4、C開発業務部国内業務課において・アルバイト従業員の労務管理などを担当し、アルバイト従業員の雇用契約書のひな形を作成したが、同課以外ではそのひな形は使用されなかった。
5、D第2設計部ソフト設計課では、特にない。・債権者が作成したホームページは、本件解雇後削除されている。
7、人事考課毎年3月、5月、11月の合計3回実施されている人事考課で、AからEまでの5段階評価及び0から10までの11段階評価(5が標準だが全体平均は5以下のなるように調整される。3以下は、4〜7%程度)がなされるところ、
・債権者は、平成9年3月〜4、5月〜3、11月〜4、平成10年3月〜3、5月〜3、11月〜2と低い評価がなされ、勤怠順位については、平成9年、平成10年5月及び11月のいずれも最高のA評価。
・「債権者は、人材開発部人材教育課において、的確な業務遂行ができなかった結果、企画制作部企画制作1課に配置転換させられたこと、同課では、海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと、ゲームアーツから苦情が出て、国内の外注管理業務から外されたこと、アルバイト従業員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかったこと、加えて、平成10年の債権者の3回の人事考課の結果は、それぞれ3、3、2で、いずれも下位10%未満の効果順位であり、債権者のように平均が3であった従業員は、約3500名の従業員のうち200名であったことからすると、債務者において、債権者の業務遂行は、平均的な程度に達していなかったというほかない。」
2、(有効性の判断基準)・「債権者が、債務者の従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効になるわけではない。」
・「就業規則19条1項各号に規定する解雇事由を見ると、『精神又は身体の障害により業務に堪えないとき』、『会社の経営上やむを得ない事由があるとき』など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、2号についても、右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効になると解するのが相当であり、2号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。」
3、(あてはめ)(1)「債権者については、確かに平均的な水準に達しているとは言えないし、従業員の中で下位10%未満の考課順位ではある。しかし、右人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。」
(2)「債務者は、債権者に退職を勧告したのと同時期に、やはり考課順位の低かった者の中から債権者を含む56名に対し退職勧告をし、55名はこれに応じている。このように相対評価を前提として、一定割合の従業員に対する退職勧告を繰り返すとすれば、債務者の従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、相対的に10%未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはあり得ない。したがって、従業員全体の水準が向上しても、債務者は、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となる。しかし、就業規則19条1項2号にいう『労働能率が劣り、向上の見込みがない』というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。」
(3)「債務者提出にかかる各陳述書には、債権者にはやる気がない、積極性がない、意欲がない、あるいは自己中心的である、協調性がない、反抗的な態度である、融通が利かないといった記載がしばしば見受けられるが、これらを裏付ける具体的な事実の指摘はなく、こうした記載は直ちに採用することはできない。」
(4) 「(B企画制作部企画制作1課に所属当時、エルダー社員に指名されたこともあり、C開発業務部国内業務課に配属されて以降、一貫してアルバイト従業員の雇用管理に従事してきており、ホームページを作成するなどアルバイトの包括的な指導、教育等に取り組む姿勢も一応見せている)ことからすると、債務者としては、債権者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には、債権者の試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては、このような教育、指導が行われた形跡はない)、いまだ『労働能率が劣り、向上の見込みがない』ときに該当するとは言えない。」
1、まず、就業規則において解雇事由についての規定がある場合は、その規定に照らして、判断基準を合理的に定立する(上記第4の2)。
2、能力程度についての主張が真っ向から対立する中で、事実認定はどのようになされるか。労働者側からすれば、会社側の悪口陳述書(証言)にどう反撃するか、という問題。
(1) 具体的事実に裏付けられているか否かという点
「債務者は、人材開発部人材教育課所属当時、債権者が業務内容を把握できず、把握しようという努力もしなかった旨主張し、陳述書には同趣旨の記載がある。しかし、右陳述書の記載についても、債権者は否定する上、その内容は具体性を欠いており、直ちに採用できない。」(上記第3の3コも同様)
(2) 客観的事実経過に照らして真実性を検討する
「(@人事部採用課に配属からA人材開発部人材教育課への異動は、債権者の能力不足が理由だったとの債務者の主張について)、その異動は、債務者に正式に採用されてから2か月後のことであることからすると、債務者に労働能力ないし適格性がないことを理由として行われたものであると認めることはできない。」(正式採用決定時点で必要な能力はあるとの判断が一旦なされているはずで、それからわずか2か月後に能力不足を理由に配転したというのは、経過が不自然)
(3) 会社も認めざるを得ないプラス評価の事実を出して、実態は能力不足だけの一面的評価ではなかったことを明らかにする(上記第3の3サ)。
(4) 単なる能力不足とは矛盾する事実を挙げる。
・上記第3の3サに関して、エルダー社員に指名されての「新入社員の指導は、債務者にとっても重要な事項であることは容易に推測できるところ、労働能力が著しく劣り、向上の見込みもないような従業員にこうした業務を担当させることは、通常考えられない。」
・具体的な指導や、教育訓練を施した事実の不存在(能力不足が真実なら、様々な指導や教育訓練が行われたはず)
3、人事考課結果をどう見るか・前提として、評価基準の合理性、評価方法の客観性、評価手続の一定の透明性(不服申立制度など)があるかないかは、その人事考課制度全体の信頼性に関わる。
・考課方式は、相対的か絶対的か(上記第3の3クケ)。→これが、本事件のように相対的であれば、制度上必ず一定割合の下位者がいることになるから、当然には解雇を正当化する能力不足とは言えないことになる。したがって、考課結果が悪いという事実だけでは解雇有効にはならない。
・但し、@相対評価の中でも、一般従業員集団からかけ離れた低評価の場合、あるいはA相対的でも低評価が相当期間継続し、かつその間指導や教育訓練が施されたにもかかわらず改善しなかった場合は、相対評価というだけでは反論として不十分である。
このページのトップへ1、いよいよ06年4月1日からスタートする労働審判を目前にして、日本労働弁護団が全国一斉(20都道府県)の電話相談を行い、当協会も参加した。臨時電話2回線を引き、午前10時から午後4時までの6時間、8人の弁護士が1〜2時間ずつ受け持った。その結果を報告する。
2、相談件数は8件で、例年6月と12月に行っている労働トラブル・ホットラインでは概ね30件前後あることと比べると、かなり少なかった。新聞やテレビニュースなどであまり報道されなかったことに大きな要因があったと思うが、「労働審判」ホットラインというネーミングが、取っ付きにくくさせたのかも知れない。
3、相談内容等を分類すると次のとおり。
◎不況を理由とするか否かでは、「する」2件、「しない」6件
◎相談の種類は、賃金不払い3件、いじめ・嫌がらせ・差別が3件で、解雇はなかった。
◎相談者の属性は、男性が5名、50歳代が4名で最多、正社員が4名、会社の規模はばらつきが多く、勤務先に労働組合がある所はなく、相談者8名全員が組合員ではなかった。
4、比較的相談の多かったいじめ等は、「客先との私的メールのやり取りをとがめ立てされて始末書の提出を執拗に求められる」、「上司が理由も言わないで『頭を冷やしてこい』などと言って担務換えを強行する」などというもので、ささいなことをきっかけに言いがかり的な報復をされるというパターンと思われる。労働組合のない職場では、このような職場環境に関する事項と言える問題について迅速かつ適切に解決できる仕組みがなく、上司の横暴がまかり通るという結果になってしまう傾向があるように感じられた。
5、労働審判制スタートに伴う事件掘り起こし目的の電話相談だったが、速やかに労働審判の申立を行うことが適切と考えられるケースはなかった。
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