1 兵庫県芦屋市建設部下水道課に勤務する技術吏員・山崎武留(やまさき・たけるS17・10・9生)氏(当時維持係長)は、心房細動や糖尿病等の既往症を持ちながらも、阪神・淡路大震災による復旧・復興事業(ライフライン:下水道事業)に携わり、市役所での寝泊りを続けながらも市民生活の早期回復に向けて懸命に取り組んでいた。しかし、長引く震災後の困難な復興業務によって疲労困憊の状況に陥り、1997年1月10日に発作性心房細動及び不整脈発作が発病し、4回目の発作が起こった同年2月27日に死亡した。
この事案は,震災過労死と考えられるケースである。遺族が請求人となり平成10年10月に公務災害の認定請求を行なったが、地方公務員公務災害基金兵庫県支部及び兵庫県支部審査会の段階では、いずれも「公務外」とされた。しかし、遺族はなおあきらめず、地方公務員災害補償基金審査会に再審査請求を提出、今年4月の口頭意見陳述を経た今年7月、基金兵庫県支部長(県知事)が行なった公務外認定処分、及び支部審査会(池上徹会長)が行なった審査請求を棄却するという裁決をいずれも取り消すという公務災害を認める逆転裁決が下りた(代理人への通知は8月末)。
震災過労死として認定されるまで約8年という長期間を要したが、基金段階における久方ぶりの公務災害の認定であり、貴重なケースでもあるので、報告する。
事件を担当したのは、私と藤原精吾弁護士である。この事件は、当初自治労連芦屋市職労の事件として依頼を受けたが、芦屋市全体の協力と応援を受けるべく、組合色を抑えて、過労死問題の権威・藤原弁護士の応援を得て取り組んできたものである。なお、代理人には弁護士のほか、当時の組合執行部の2人にも加わってもらっている。
その効あってか、芦屋市役所幹部を含む1000名余の職員からの認定要請署名のほか、多くの事件カンパが寄せられ、市長自らも上京した際に、基金本部に公務認定の要請に行ってくれた。また、自治労の支援も受けることができ、中央の審査会段階では、大いに役立ったものと思われる。これらの状況も、逆転勝利認定に影響があったことは間違いない。
1998年10月22日 地方公務員災害基金兵庫県支部に対し認定請求
2004年6月23日 請求却下(公務外と認定)
2004年8月26日 兵庫県支部審査会に審査請求
2005年10月14日 請求棄却裁決
2005年11月24日 地方公務員災害補償基金審査会(中央)に再審査請求
2006年4月17日 口頭意見陳述
2006年7月10日 逆転公務災害認定裁決
2006年8月29日 遺族代理人に裁決書送付 審査会が下した請求却下の裁決をいずれも取り消すと決定
山崎氏は、震災から2年後の平成9年2月27日に発作性心房細動及び不整脈発作で死亡している。
弁護団は、心房細動や糖尿病の持病を抱えながら、震災以後長く震災の影響を強く受ける職場で震災復旧・復興事業に従事し続けてきたことが、安定していた持病が悪化して発病、死亡したものだと主張し、山崎氏の勤務状況や内容を詳しく証明する大量の資料を提出したほか、労働医学研究所の梶山方忠医師や東神戸病院の遠山治彦医師の医学的意見書も提出した。
しかし、支部の段階では、死亡直前の勤務状況から、年末年始の休暇もとり、その後の残業も他の職員と比較してそれほど多くはなかったこと等を理由に、被災者の体調管理不十分が原因であるなどと断定し、公務起因性を否定した。
支部審査会の段階では、支部長側の判断に使用された資料をすべて開示謄写させて検討したところ、支部の専門医は、公務災害を認定すべき事案だという意見を出していたのに、支部事務局が基金本部(総務省)の事務方と協議し、これを否定する方向での資料集めを行った上で、基金本部の匿名の医師の意見により、結局公務外の認定としたという経緯が判明した。口頭意見陳述では、補充主張のほか、それらの事実も強く指摘したが、不当にも、支部審査会もまったく同様の理由で審査請求を棄却した。
本部の審査会では、口頭意見陳述の機会に合わせて、自治労推薦の参与委員に対しても組合で要請や事情説明を行い、当時の実情を分かりやすく理解するためのまとめの資料も提出して、支部長や支部審査会の判断や結論は、この種持病を有する被災者の過労死に関する認定通達にも反するものだとも訴えた。
それらの結果、基金本部の審査会(高倉公朋審査長)は、死亡前1ヵ月間の勤務状況からだけみても、「一つ一つ(の業務)は、強度の精神的緊張を伴う状況等とまではいえないものの、本件のようにこれらの状況等がすべて重複した場合の職務は通常の職務とは異なる強度の精神的緊張を伴うものと認められる。したがって、本件疾病発症前1ヶ月間の被災職員の時間外勤務の状況及び同期間の強度の精神的緊張を伴う職務への従事状況を総合的に評価すると、被災職員は同期間中において過重な職務に従事していたものと認められる。」という判断を勝ち取り、逆転の公務上災害認定裁決となったものである。
基金の兵庫県支部長及び支部審査会は、被災職員は「発作性心房細動」により死亡するに至ったものであるが、原処分は「被災職員は、顕著な病的素質を有し、震災による勤務状況がなくても、いつでも心臓疾患を発症する病的状況であった」として、死亡の公務起因性を認めなかった。
しかし、既往の基礎疾患を有したものであっても、公務による負荷が過重であって、その疾患を「その自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷が加わって発症した場合、「公務が相対的に有力な原因であるとして」公務起因性を認めるのが認定通達の立場である。
原処分は@基礎疾患の病状・程度について、(実際は治療を受けながら日常業務を特段の支障なく遂行していたのに)、それが「いつでも心臓疾患を発症する病的状況であった」と誤認し、A震災後の公務における過重負荷についても時間外労働の時間数を引用したのみで「過重な業務が発症の直前まで継続していたとは考えられない」旨誤認し、その結果、B公務による基礎疾患の自然的経過を超えた増悪」を認めなかった。
これに対し、この度の裁決は、原処分を覆し、
@基礎疾患に関して、「(被災職員は)本件疾病を引きおこし得る素因を有していたと認められるものの、これらの数値は急性増悪の兆しもなく安定していたものである」とし、
A業務の過重負荷に関しては、「大震災から約2年が経過した時点においても、仮設事務所において、業務量が増加傾向にある中、職員が減員されている中で通常業務とは異なった多忙な業務に従事していたものであって、「本件のようにこれらの状況がすべて重複した場合の職務は「通常の職務とは異なる強度の精神的緊張を伴うものと認められる。」とし、
B「被災職員は過重な職務に従事していたものであり、これにより当該素因を自然的経過を早めて著しく増悪させ本件疾病を発症させたと認められることから、本件疾病は、公務が相対的に有力な原因となって発症したものと認められる。」との結論に達した。
本件裁決書に示された上記認定と結論は当然かつ妥当なものであり、公務災害における過労死認定のたたかいを大きく前進させるものである。
この逆転認定裁決は、同時に次のような問題点も浮き彫りにした。
(1)平成9年2月27日の死亡に係る公務災害補償請求に対し、平成16年6月23日の公務外決定、審査請求についての平成17年10月14日の棄却裁決を経て、ようやくこの度平成18年8月31日公務災害と認める裁決に至ったその歳月である。公務により死亡した遺族に対する補償が10年近くも後になされてよいものか。これを考える必要がある。
(2)また、基礎疾患を有していたと言うだけで安易に公務起因性を否定してきた災害補償基金の行政、形式的審査のみでその役割を果たさなかった審査会の責任は明白である。
この事件は、阪神淡路大震災のもたらした犠牲の一例であることを多くの被災者の方々とともに銘記しておきたい。それとともに、この事件は、公務災害認定のたたかいは、組合や組織の枠を超えた幅広い運動とともに取り組む必要がある場合もあることを教えていると思われる。
このページのトップへ1.6月27日に示された厚労省の「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」(以下「素案」という)は労働契約法を制定して「有労働契約をめぐるルールの明確化」を図るとしている。
2. ところで、素案は、有期労働契約が労使双方にとって「良好な雇用形態」であることを前提に、その「活用」に支障のない範囲でルールを明確化するという立場に立っている。
しかし、有期雇用は果たして労使「双方」にとって「良好な雇用形態」といえるのだろうか。
現在、正規雇用と非正規雇用の置き換えがどんどん進行している。非正規雇用は例外なく有期雇用であるが、有期雇用労働者の実態は、長期・安定的に働くことができないことと賃金・福利厚生などの処遇の面で正規労働者との間に著しい格差が設けられていることである。
非正規雇用を選択する労働者も存在することは事実であるが、正規雇用労働者が歯止めのない長時間労働を強いられている実態を前提にして、非正規雇用を選択をしているのにすぎず、有期雇用を積極的に望んでいるとは思えない。
すなわち、有期雇用は、主として、雇用調整やコスト削減という使用者側のニーズに根ざすものである。
3.したがって、有期雇用に関してまず規制されるべきは、有期雇用契約の締結自体であり、その上での均等待遇の実現である。
すなわち有期労働契約を締結するには、有期契約労働者を雇い入れる明確な臨時的必要性(たとえば長期病休、産休、育児休業の労働者の存在)があること等一定の限定された事由のある場合に限るという法規制が必要であるし、ILO100号条約が規定する同一価値労働同一賃金の原則を明文化することが最低限必要なのである。
4.また、素案は「ルールの明確化」として、契約締結時に「有期雇用とする理由」及び「更新の有無」を明示することを挙げているが、これらの明示内容を雇止めの効力判断の考慮要素とするという趣旨であるとすれば、使用者は明示さえしておれば容易に雇止めができるようになるのであって、継続的かつ安定した雇用を求める労働者の願いの実現は今までよりもいっそう困難となる。
使用者は契約書に「更新なし」と記載されれば更新を義務づけられることはないし、「更新あり」と記載している場合でも「有期雇用とする理由」として「業務の繁閑」などといった抽象的で使用者側の都合にもとづくことを明示しておけば、容易に雇止めができることになり、結局、使用者は自由に使い捨てができることになる。
このように素案の示すところは、使用者にとって有期雇用をますます活用しやすいものにすることにほかならない。
このページのトップへ併存組合があるという回答があったのは15社、内8社には連合加盟労組が存在し、連合加盟労組が併存する場合には連合加盟労組が過半数を占めている。残り7社中、3社には企業内組合や中立系組合が併存している。
併存組合があるのは運輸、港湾、金属機械関係の事業所が多い。
34組合から回答があったが、従業員数は11人〜2700人と千差万別である。正社員比率は概ね70%以上であった。
40組合から回答があったが、内20組合は組合員資格を正社員に限っている。ただし、内2組合は組合員資格を非正規に拡大すべく検討中とのことである。
また、半数の20組合では非正規労働者にも組合員資格を認めており、 嘱託社員、契約社員、同一職場の他社の労働者、派遣労働者にも門戸を開いている。
前項で正社員以外にも組合員資格を認めていると回答した20組合中、10組合では実際には非正規労働者の組合員がいない。4組合では10%以上を組織している。
現実に非正規労働者の組合員がいる組合10組合中、5組合で非正規の組合員の組合費の負担を軽減している。
@1人1人に配布されている | 21組合 |
A事業場に掲示してあり、いつでも自由に見ることができる | 7組合 |
B総務担当者が持っており、頼めば見せてもらえる | 6組合 |
Cあるらしいが、どこにあるか知らない | 0組合 |
D作られてない | 0組合 |
Eその他 | 3組合 |
就業規則は労働条件にかかわる重要な規則なのでそれを個々の労働者が理解していることは重要です。そのため使用者には周知徹底義務が課されています。
アンケート結果からは、@「1人1人に配布されている」という回答が21組合ありました。B「総務担当者が持っている」というのは周知徹底方法として十分でありません。なお、E「その他」には、パソコン上で見ることができる、というものもありました(このような方法も可)。
@ある | 34組合 |
Aない | 5組合 |
Bわからない | 0組合 |
ほとんどの組合が労働協約を締結しているようです。A「ない」と回答したところも、会社からの提案があり検討中のところのようです。
@パート・アルバイトも含め全員に交付されている | 19組合 |
A正社員には交付しているが、パート・アルバイトには交付していない | 7組合 |
Bパート・アルバイトには交付しているが、正社員には交付していない | 1組合 |
C誰にも交付していない | 6組合 |
Dその他 | 2組合 |
労働条件を明示した書面を交付していない職場6組合は、多い。実際に働いてみたら前の説明とは異なるという労働トラブルは結構多いので、組合としても改善するように使用者側に申入れするべきです。
@必ず守られている | 9組合 |
A基本的には守られている | 22組合 |
Bあまり守られていない | 5組合 |
C36協定の締結、届出をせずに残業をしている | 3組合 |
D法外残業は全くないので、そもそも36協定を結んでいない | 0組合 |
Eその他 | 1組合 |
時間外労働は過労死などの労災や賃金未払の温床となるので、組合としては残業がない職場、そうでなくとも36協定の遵守について真剣に取り組むべきです。しかし、アンケート結果を見ると、@「36協定が必ず守られている」というのは9組合にすぎず、そのほかのところでは36協定違反が発生していることになります。全体としてルーズな運用が心配されます。また36協定の内容についても、残業が1か月45時間を超えると過労死の危険が高まるという通達が監督官庁から示されており、組合は36協定の内容についても改善を目指すべきです
@タイムカード | 18組合 |
AICカード | 4組合 |
B上司が確認して記録 | 6組合 |
C出勤簿への押印だけで時間の記録は取ってない | 4組合 |
Dその他 | 13組合 |
E無管理 | 0組合 |
2003年5月23日、厚労省は「サービス残業解消対策指針」を出し、「始業・終業時刻の確認及び記録は使用者自らの現認又はタイムカード、ICカード等の客観的な記録によることが原則である」との通達を出している。こうした通達が出ているにもかかわらず、自己申告制その他の方法をとっている職場がまだまだ多いことが分かる(D「その他」も自己申告制というのが多かった)。時間外労働を客観的証拠によって明らかにすることは、未払残業を根絶するための手段となりうるので、組合としては通達も利用しながら、こうした機器の導入を図るべきである。
@あった | 13組合 |
A会社からの提案はあったが押し返した | 5組合 |
Bそもそも提案がなかった | 12組合 |
労働条件の不利益変更は、賃金引き下げという回答が多い。もっとも、組合の力で会社提案を押し返したところが5組合もあり、組合の本領発揮と言うところでしょうか。質問から漏れていたため、どういう方法(就業規則変更、労働協約の締結等)が用いられたかは分かりません。
回 数 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 6〜10 | 7 | 8 | 9 | 10 | 15 | 20〜25 |
組合数 | 3 | 1 | 3 | 1 | 1 | 4 | 4 | 1 | 1 | 2 | 1 | 10 | 3 | 1 |
・回数の少ないところは、労使協議会で労働条件交渉が行われているらしい
・印象としては、6回以下と10回以上に二極化している。
・団体交渉それ自体が目的ではないが、団体交渉を行うことが労働組合の最も基本的な役割であること、また組合員に対して見える組合活動をするという点から考えると、もう少し活発な団体交渉がなされても良いのではないかとの印象を持った。
(1) ストライキをしたことがあるのが、7組合/40あり、意外に多いという印象を持った。要求事項は、賃金関係が多いものの、合理化反対、定年などもあった。
また意外だったのは、団体交渉の回数とストライキの有無とは関連がなく、団体交渉の回数は少ないがストライキを行ったという組合もあった。
(2) ストライキ以外の争議行為をしたことがあるのが、7組合/40あり、ストライキとの重複は2組合だった。形態は、労働委員会・裁判が3組合、腕章等の示威活動が2組合などだった。
要求事項が、解雇撤回や誠実団交の場合は労委・裁判に、賃上げ等の場合は示威活動という傾向があった。
(3) スト権確立まではしたが結局争議行為にはならなかったというのが、10組合/40あり、意外に多いという印象を持った。春闘、秋闘において、団体交渉を有利に進めるためにスト権確立を利用しているものと思われ、やはり現在でもスト権が交渉上一定の役割を果たしていることが窺われる。
順調に育っている | 10組合 |
育っていないが、何とかなるだろう | 11組合 |
育っておらず、このままでは組合を維持できない | 18組合 |
民法協加盟組合の中で、かつこのような面倒なアンケートにお答えいただいた組合の約半数で、「後継者が育っておらず、このままでは組合を維持できない」というのは、極めて深刻。各単組あるいは各産別で何らかの後継者対策が検討されているのだろうか?民法協としても労働法講座など学習会には精力的に取り組んでいるつもりであるが、後継者養成の観点から、このような企画をしてほしいということが何かあれば、ご提案いただきたい。
具体的には、後継者問題、組合員減少、非正規化・退職者不補充による組合員対象者の減少、若年者が低賃金で組合費の負担が困難など。
組合の存続問題を解決し組合活動の活性化を図っていくためには、非正社員の組織化は是非とも必要ではないかと思われる。
(2) 労使関係 9組合具体的には、査定の導入、会社側労務担当者の労働法についての無知無理解、世情に迎合した不必要な合理化、賃金減額等労働条件切り下げ・合理化、定年延長、若年者の低賃金など。
挙がっている課題を見ると、たとえ少数組合であっても、団体交渉、労働委員会の積極利用で打開の可能性はあるのではないかと思う。
(3) 会社の経営難 4組合企業別組合がどう対応するか、極めて難しい問題。但し、本当の経営状態のきちんとしたチェックができているかを確かめる必要があると思う。
(4) 企業組織再編に関連した問題 4組合具体的には、会社合併に伴う就業規則の整備、併存組合の統合問題、企業組織再編に伴う非常勤職員の雇用確保など。
企業再編時には、それを口実にした労働条件不利益変更や組合活動の無力化が行われやすいので、十分注意する必要がある。
このページのトップへ