1 本件は、日本に3事務所を構える韓國の社団法人韓國船級に勤務する日本人女性職員Fさんに対する解雇事件である。
韓國船級は、韓國大田市に主たる事務所を置きヨーロッパ、アジア、アメリカ等に事務所を構え、船舶の登録、検査、満載吃水線の指定等を行う、船舶に関する諸般事項の進歩発達と技術振興を図り、人命及び財産の安全及び環境の保護を目的として事業を行っている社団法人である。日本国内には、神戸事務所、福岡事務所、東京事務所を構えている。
韓國船級の日本事務所に勤務する職員の雇用形態は、検査員・事務所長等は韓國から転勤でやってくる正規職員であるが、事務員に関しては現地採用の嘱託職員であった。
1987年10月14日、Fさんは韓國船級に嘱託職員として採用され、以後2004年4月1日に韓國船級から就労を拒否されるまで神戸事務所において勤務をしていた。
Fさんと韓國船級との間の雇用契約は、1989年頃から毎年契約書の更新が行われてきたが、実態としては期間の定めのない雇用契約であった。
2 2003年3月18日、Fさんは、神戸事務所内においてL検査員から胸を触られるというセクハラ被害にあった。
被害を受けた翌日、Fさんは、L検査員からセクハラ行為を受けたことを当時の神戸事務所長であったK所長に訴え、責任の所在を明確化することと、L検査員に謝罪をさせるように訴えた。しかし、K所長はFさんの訴えをきちんと聞き入れず、当事者同士での話し合いを勧めたり、Fさんの年齢を指摘してあたかもFさんが虚偽の申告を行っているかのような対応をした。しかも、Fさんがセクハラ被害を訴えた後、K所長はFさんに対し、L検査員から仕事の指導を受けるようにという配慮を欠いた業務上の指示をした。
神戸事務所がセクハラ問題に対し適切な対応をしないことから、Fさんは、韓國船級本社宛てに被害を申告する文書を送付した。2003年5月、定期監査のために韓國本社から来日した監査室長による事情聴取が行われたが、監査室長も「双方の言い分が食い違うため解決できない。」「Fさんは年寄りでしょ。」と言った類の発言をして適切に対処しなかった。
2003年11月、Fさんは兵庫労働局紛争委員会にあっせんの申立を行ったが、韓國船級が話し合いを拒否した。
2003年12月初旬、神戸における会議出席のため韓國船級の会長が来神したことから、Fさんは会長に対しセクハラを無くす等職場環境の改善について直訴した。
3 2003年12月中旬、韓國船級の本社から会長の名を受けた監査者が来日し、Fさんに対する特別監査が行われた。
2005年1月9日、FさんはK所長から、同年3月31日以後は契約を更新しない旨告げられ、その理由として、業務懈怠があること、勤務時間中に個人的な業務をしたこと、韓国語の能力がないこと、会社に対し不満が多いこと、1年毎の契約であること等を告げられた。
4 本件は雇用契約解除の無効、不当解雇に対する慰謝料及びセクハラ行為及びこれに対する会社の不適切な対応に対する慰謝料を求めたものである。
一審判決は判決期日が4回も延期になり、弁論終結から半年以上経って漸く判決を得ることができた。判決期日が何度も延期されていたことから期待をしていたのであるが、一審判決は完敗であった。
代理人としては、少なくとも解雇に関しては解雇権濫用が認めれると思っていただけに、一審判決はFさんだけでなく代理人としても相当なショックを受けた。
控訴審判決は、@解雇又は雇い止めは、権利濫用として無効と判断し、A不当解雇による慰謝料100万円さらに、L検査員のセクハラ行為を認定した上で会社の使用者責任に基づく慰謝料50万円及びセクハラの被害申告に対する会社の対応不備を認定し職場環境整備義務違反に基づく慰謝料150万円の合計250万円の支払いを命じた。
セクハラ行為の有無に関しては、FさんとL検査員の主張が対立していたが、控訴審判決では、Fさん、L検査員、K所長の各陳述書、及び各証言内容及び一審で提出した証拠を精査してL検査員によるセクハラを認定してくれた。
解雇無効の点に関しては、解雇の正当性を示す根拠として、会社は、@会社のシステム(2003年3月に導入されたハングルのPCシステム)を理解できず、ファイリング業務を行わない等業務懈怠がある、A勤務時間中に会社のパソコンで大量の私的文書を作成するなど個人的な業務をした、B韓国語の能力がない、C仕事に不満が多い、D1年ごとの契約であるとの理由を挙げていたが、控訴審判決では会社の主張はいずれも認められなかった。すなわち、@について、Fさんの勤務態度を問題視する会社の内部文書がセクハラ後に行われた特別監査の際に作成された文書しか存在しないこと、Fさんがこれまで複数の所長又は支部長の下で問題なく稼働してきたこと、ファイリング業務を行わなかったのは、所長がファイリング業務を重視していなかったからであってFさんの責任ではないと判断し、Aに関しては、他の媒体から会社のパソコンのハードディスクに移す可能性があることや、Fさんが早朝出勤していたことを重視し、Bについては、Fさんの行っていた業務が会計事務や日本の検査顧客との対応等日本語が必要であることを重視して、Fさんの勤務状況は概ね良好であったと判断した。Dについては、Fさんの業務内容を検討して「いわゆる正社員にかなり近い状況にあった」として「本件雇用契約は、期間の定めがない労働契約に準じて取り扱われるべき。」と認めた。
そして、控訴審判決は、「本件の解雇又は雇い止めは、根拠となる事実が認められない権利濫用として無効」として判断し、さらに不当な解雇又は雇い止めの意思表示及びこれに基づく就労拒絶を損害賠償上違法と認め、会社に対し慰謝料の支払いを命じた。
一審判決においては、Fさんの主張が一切認められず、L検査員及びK所長の陳述書及び証言に沿うように、証拠の取捨選択がされていたのであるが、控訴審においては、セクハラ被害を受けた女性の心情に配慮を示し、「このような被害を他の男性に言うのは、本来心理的に困難であると考えられるのに、被害にあったという翌日には上司に訴え、その後まもなく弁護士に相談するなど、さまざまな形で労力をかけて被害を訴えている。」点を重視して、セクハラ行為があったことを認定してくれた。また、会社側が縷々主張していた解雇事由に関しても、証拠関係を精査して、会社側の主張を認めなかった。
本件解雇の真の理由は、セクハラ被害の申告を受けた会社が事態を収拾できなかったことから、現地採用の嘱託社員であったFさんを解雇することで事態の収拾を図ろうとした点にあったと思われる。Fさんを解雇させるため、会社はとってつけたような特別監査を行い、その特別監査から1ヶ月も経たない間に、契約を解除する旨Fさんに伝えている点からすれば、本件解雇がセクハラ問題に端を発していることは明白であったと思われるが、1審判決は本件の本質を見抜けなかったためFさん敗訴の判決をしてしまったと思われる。
本件は会社側が上告をしているため、現時点では確定していないが、セクハラ被害を申告した女性社員が会社から不当に解雇されるようなことがあっては断じてならない。
このページのトップへ兵庫県労委第39期と39期補充労働者委員選任訴訟が大詰めを迎えました。10月20日には、被告県側・木戸証人と原告側・藤田証人の調べが行われ、当日予定の原告・鳥居証人、原告・佐野証人の調べは11月6日に行われました。次回12月22日午前10時から最終弁論があり、弁論終結の予定です。
裁判官は「54号通牒は生きているかどうか」と木戸証人に問いましたが、証人は「考慮しない」と切って捨てました。労働組合の潮流に配慮した「54号通牒」について、37期の安井陳述書は「任命の際に考慮すべき要素を例示」とし、37期の貝原陳述書は「判断するにあたっての一つの要素」といい、38期の宮野陳述書は「任命にかかる助言」とし、39期木戸陳述書も38期宮野陳述書と同じく「任命にかかる助言」を踏襲しています。同じようで微妙に変化しているように見えるのは、欲目でしょうか。
裁判官は同じく木戸証人に「鳥居さんは何番目だったか」と問いかけました。「順位はつけない」と答えましたが、39期補充選任のときの「佐野さんほど迷わなかった」と述べ、補充選任された白田委員と佐野さんは、「総合的に勘案」してもほとんど差異はなかったものと予測されました。それにもかかわらず、補充選任のときの「潮流」への配慮については、「知事は聞いていない」とも証言しました。
37期の貝原証言で初めて、総合的に判断する際の具体的な要素について、@候補者の経歴(年齢、学歴、公職、職歴、勤務先等)、A労働組合における役職歴、B当該労働組合の規模、C当該組合の産業分野が明らかになりました。39期訴訟でやっと「総合的に判断するための作成資料」が提出されました。徐々に任命に至る経過が明らかになってきましたが、やはり最後は「闇の中」という感じは否めません。こうした点を裁判所がどう判断するのか。
最近はどうか知りませんが、福岡県では代理人弁護士を立てずに審査事件を申し立てる労働組合もあったようです。こうしたとき労働者側参与委員の役割は大変重要になってきます。労働者救済の期間としての役割は、今も変わっていないはずです。労働者側参与委員が要請される「労働者一般の利益」は決して抽象的なものではなく、具体的労使紛争の中で保障されてこそ生きて来るのではないでしょうか。そのためにはまず労働者の言い分をよく聞き、申し立てから審理、そして最終意見から命令に至る全経過の中で、労働実態と労働者の気分・感情によりそうことが、労働側参与委員に課せられた任務といえましょう。こうした労働者委員こそ、労働委員会に求められています。
このページのトップへまず最初に県側証人である、木戸証人が県側の弁護人による質疑で、任命手続きから任命原案作成までの証言がなされたが、安井氏、貝原元知事の証言を元に作成されたような、貝原証言を踏襲する内容のものであり証言も連合、全労連との区別はなく公職歴、比較的総合的に判断した結果このようになり任命枠はないとの繰り返し発言であり、約1時間も原案作成の質問に終始し、選任の正当性を主張しようとした。
しかし原告側弁護士による選任メモなどの質問に、公職歴の確認はしていないなどの曖昧さが露呈するなどした。
裁判官の、中小の組合からの選任、54号通牒の質問についても、選任はない、54号通牒の潮流は考慮にないなど前回の貝原証言に矛盾することが出てきている、また今回の補欠選任時に新しい産業分野から推薦されたのに、なぜ新たな第三次産業から選ばなかったか、の質問にも明確に答えられず。
原告側証人の藤田氏は現状の労働者委員が連合独占では、非連合組合の労働者の利益を守るための機能が低下していると訴えました。
今回の公判では、裁判官の質問が所々に出て県側証人が適切に答えられず、場内から失笑が出るなど、任命枠はないとは言うものの県側の選任基準の曖昧さが明らかになったと思われる。
また今回の証人喚問には時間も2日間取り、今までにない裁判官の対応により前進した判決文が得られるのではと思われる。
このページのトップへ地労委の労働者委員の選任問題の裁判も、証人調べに入っていよいよ終盤を迎えてきました。
川崎重工では1994年6月に、賃金差別は不当労働行為と兵庫県地方労働委員会に救済の申立をして約10年間地労委で賃金差別を闘いました。多くの支援と弁護団の奮闘で画期的な全員救済の勝利命令を勝ち取りました。勝利したから良いようなものですが、私達の事件を担当した労働委員は新日鉄広畑製鉄所の労働組合の委員長でした。私達が賃金差別をして労働組合運動に介入していると訴えている反対側の立場の人です。(川崎重工労組も明石工場の委員長が前期まで労働委員に任命されていました)地労委の委員は「労働者一般の利益を守る」(木戸証人)とはいえ、組合の役員選挙で会社のインフォーマル組織の支援を受けた人が本当に労働者の利益を守れるのか大いに疑問になります。
実際に地労委の調査や審問の段階で相談することもないし、助言もありませんでした。労働側の委員と打合せすることになったのは最終盤の命令の出る段階で、進行状況をこちらから聞いた程度でした。
それだけに、この問題には大きな関心を持っていました。地労委の労働委員の選任問題をめぐる裁判はできるだけ参加するように心がけています。10月20日の裁判は第三次訴訟の終盤で証人調べに入りました。被告である兵庫県の証人は木戸労政係長で、実際に実務を担当する人でした。労働委員に立候補した鳥居さんや佐野さんを選ばなかった理由、組合が小さい、公職歴がないなどと選任しなかった理由を述べました。大きな組合の役員は多くの人からの選任を受けているとか、分野別や、潮流間については考えていないと本音を述べる場面も、労働省の54号通牒について裁判官から質問されて、考えていない、兵庫労連から選任しようとは考えていないと言い切りました。
二人目の証人は兵庫労連の藤田さんが証言台に立ちました。藤田さんは永い間兵庫労連の争議担当として、また川崎重工の争議では支援共闘の事務局長として争議の指揮をとってこられました。藤田さんは実際に地労委を活用しているのは小さな組合か、大企業でも少数派の潮流の人たちが申立を行っていること。大企業の委員ではわからないし、相談もしにくい、本当に労働者の立場に立った人が望ましいこと。労連系の労働委員が選任されているところでは、いろいろ相談したり助言をもらっていると証言しました。
原告の証言は時間の都合で次回になりましたが、早期に良い判決が出ること願わずにはいられない。
このページのトップへ厚生省素案についての今回のテーマは、管理監督者の範囲の明確化ですが、これは労働時間法制に関わるテーマとなります。
労働時間規制については現在労働基準法で定められておりますので、これらの素案は労働基準法の改正につながっていくものと考えられます。
今回の素案では、「次世代を育成する世代(30歳代)の男性を中心に、長時間労働者の割合が高止まりしており、過労死の防止や少子化対策の観点から、労働者の疲労回復のための措置を講ずるとともに、長時間にわたる恒常的な時間外労働の削減を図る必要があるとの共通の認識の下」、時間外労働の削減、年次有給休暇制度の見直し等が掲げられています。
その一方で、長時間労働や過労死の増加につながりかねない制度の創設が掲げられています。特に労働者側にとって問題となるのは労働時間規制の新適用除外(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)ですが、現在も労働時間規制の適用除外とされている管理監督者の範囲の明確化の問題も、管理監督者の範囲を広げ、これまでの違法な企業実務を追認して合法化する可能性があり大変問題です。
労働時間規制は、労働者の健康確保のために労働時間を短縮することを目的としています。現在の労働基準法においては労働時間規制の適用が除外される労働者が定められています。
このうち管理監督者は労働基準法第41条第2号で適用除外とされています。条文上、管理監督者については、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」としか規定されておらずその要件が明かでありません。
そのため従前より、労働基準局長通達において「一般には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であるが、名称にとらわれず、その職務と職責、勤務態様、待遇など実態に即して判断すべきである。」されてきました。
通達が「一般には部長、工場長等」と規定するように、対象となる労働者は、かなり高い地位にある例外的な労働者であると想定されています。
しかしながら、実際にはこのような高い地位にはないのに、管理職とされて、時間管理の対象からはずされ、割増賃金の支払いもされない「違法な管理監督者」が企業内にたくさんいます。
多くの違法な管理監督者は勤務時間を自律的に決定することなどできず、加重な業務量に追われ、長時間の勤務を余儀なくされています。
過労死・過労自殺の被災者の相当数もこの層が占めていると考えられています。
(2) 裁判例の状況管理監督者か否かが争われた多くの裁判例では、通達と同様の枠組みで判断がなされています。
この判断枠組みにより労基法41条第2号の管理監督者該当性が認められた例は数例程度と少なく、多くの事例で、管理監督者該当性が否定されてきました。
最近の裁判例としては、東建ジオテック事件(平成14年3月28日判決・地質調査会社の係長、課長、次長等)、風月荘事件(大阪地裁平成13年3月26日判決・カラオケ店店長)、育英舎事件(札幌地裁平成14年4月18日・学習塾営業課長)等がありますが、すべて管理監督者該当性が否定されています。
裁判例の具体的な判断を見てみると、たとえば育英舎事件においては、「雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか、自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか、賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうかなどの具体的な勤務実態に即して判断すべき」とし、職務の範囲、内容、裁量的権限の有無、経営への参画の有無、出退勤におけるタイムカードの記録、出退勤の自由の有無、役職手当の金額、給与面の一般従業員との比較など勤務実態を詳細に認定し判断をなしています。
このように違法な管理監督者の救済はこれまで多くの裁判例においてなされてきました。
しかし、前記のとおり現実の企業内では違法な管理監督者が後を絶たず、規制が空洞化しているのが現実です。
管理監督者の要件が曖昧であり、またその判断においては個別の勤務実態を詳細に把握する必要があるため、労基署による摘発が難しいようです。
(3) 素案今回の厚生労働省素案において、管理監督者の範囲については「サ 管理監督者の範囲については、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者として通達で規定しているところであるが、スタッフ職が多様化していることを踏まえ管理監督者の範囲を明確化するため、管理監督者の基本的な要件については労働基準法において規定することとする。」と記載されています。
また、「(5) 管理監督者の範囲の適切さの確保に資するため、管理監督者である旨を賃金台帳に明示することとする。」とされています。
たしかに、従来の通達が法律に格上げされ、管理監督者の基本的な要件について法律上明示されることは評価できます。
しかし、単に従来の通達が法律に変わるだけでは、多くの違法な管理監督者が長時間勤務を余儀なくされる現在の状況が変わらない可能性が大です。個別の勤務実態を詳細に把握しないと違法な管理監督者か否かの判断が難しいことに変わりはないからです。
更に言えば、法律上の要件が現在の違法な企業実体にあわせた要件となってしまう可能性も否定できません。「素案」が管理監督者の明確化の理由として「スタッフ職の多様化」を記載しているのは、従来の通達、裁判例よりも管理監督者の範囲を広げることを意図しているといえるでしょう。
また、管理監督者である旨を賃金台帳に明示したところで、必ずしも管理監督者の範囲の適切さの確保につながる訳ではありません。
いくら賃金台帳に明示されても、個別の勤務実態が一般社員と異ならないのであれば、違法な管理監督者であることに変わりはなく、それは賃金台帳からはうかがい知れないからです。
このように、素案における管理監督者の範囲の明確化は、通達・裁判例において現在狭く捉えられているはずの管理監督者の範囲を広げ、違法な管理監督者の合法化につながっていく可能性が高く、大変問題なのです。
さらに、素案は管理監督者の深夜業割増賃金について以下のとおり記載しています。
「(1) 管理監督者については、企業経営上労働時間等に関する規定の規制を超えて活動する必要がある一方、労働者としての健康確保が重要であることから、深夜業の割増賃金に関する規定の適用を除外することについては、健康確保措置の在り方も含め、引き続き検討する。」
この点、管理監督者に対する深夜業の割増賃金についても、従来以下の労働基準局長の通達があります。「本条(労基法第41条第2号)により労働時間等の適用除外を受ける者であっても、37条に定める時間帯に労働させる場合には、深夜業の割増賃金を支払わねばならないが、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明かな場合には、別に深夜業の割増賃金を支払う必要はない。」
この通達によると、管理監督者であっても深夜業の割増賃金は支払われるのが原則です。
しかしながら、素案では、「深夜業の割増賃金に関する規定の適用を除外することについて、…引き続き検討する。」とされており、深夜業割増賃金を撤廃したいという経営側サイドの要求にすりよる内容となっています。
以上のとおり、今回の素案は、一方で長時間労働の削減を図る必要があるとしながら、労働時間規制の適用除外の範囲を現在よりも広げようとしてます。素案は、適用除外の理由を「多様な働き方、自律的な働き方のため」としていますが、実際には、適用除外の対象とされる労働者の多くは、自分で業務量を調整し自律的な働き方をすることなど出来ていません。労働時間規制が及ばなくなれば、これらの労働者において今以上の長時間労働・過労死の増加につながることは必至です。
結局、労働時間規制に関する素案は、労働時間管理から解放されたい、割増賃金不払いを解消したい、人件費を削減したいとの経営側の要求に答えたものなのです。
このページのトップへ(1) 被告は、建設コンサルタントとして主に官公庁の土木設計などを行う株式会社で、原告が被告を退職した平成16年3月末時点で従業員約60名。
(2) 原告は、平成3年4月正社員として被告に入社、12年4月国土交通省に出向して同省木津川上流河川事務所で勤務、13年4月出向勤務を続けながら契約期間1年の年俸制契約社員になる、14年3月末契約社員更新、15年3月末契約社員更新、16年3月末契約期間満了により被告を退職した。
2、争点(1) 時間外勤務手当の支払い義務及びその額
@ 原告が自ら作成した勤務時間整理簿に基づいて原告の労働時間を認定することができるか。
A 被告からの命令ではなく原告の裁量で行われていた残業について、時間外勤務手当支払い義務が生じるか。
B 現場手当の名目で支払われていた手当に時間外勤務手当が含まれていたか。
(2) 退職金の支払い義務及びその額
@ 中途で契約社員になった時に一旦退職したか。
A 退職金は年俸の中に含まれて支払われていたか。
原告が本件事務所において勤務している間、タイムカードによる労働時間の管理はされていなかったが、原告は、毎月、勤務時間整理簿を作成し、勤務の開始時間、終了時間及び超勤時間を記載し、3か月に1回、上司に提出して、上司がこれを確認していた。本件整理簿は、原告の勤務先と被告との間での契約に関する資料となるものであったため、正確に作成する必要があった。
(判示)本件整理簿は、原告の勤務先と被告との間での契約に関する資料となるものであり、正確に作成する必要があったこと、原告の上司もその記載内容を確認していたこと、被告は本件整理簿中の個別・具体的な勤務時間について争っていないことからすると、本件整理簿の記載どおり残業を含む勤務を行ったものと認めることができる。
2、争点ク Aについての判示@)被告と授業員代表との間の年俸制における時間外勤務手当に関する協定書には「上記以外については年俸制規定第11条−コによる。」と記載されており、被告の給与規定(年俸制部分の章)第11条コには「会社所定の時間外勤務手当以外は、裁量労働、みなし労働時間制を適用する。」と記載されている。しかしながら、原告の業務内容が労働基準法上のいわゆる裁量労働に当たるのか否かは明らかではないし、被告も、労働基準法上の裁量労働に該当するとの主張をするものでもない。
A)被告の主張は、残業については被告の具体的な時間外勤務命令に基づくものではない旨の主張とも解されるが、原告は、上司に対し、時間外勤務をしたことの記載された本件整理簿を提出し、原告の上司はその記載内容を確認していたのであって、原告の上司も原告の時間外勤務を知っていながらこれを止めることはなかったというべきであり、少なくとも黙示の時間外勤務命令は存在したというべきである。
B)以上によれば、残業が個々の従業員の裁量で行われているために、被告が時間外勤務手当の支払い義務を負わないということはできない。
3、争点ク Bについて@)原告被告間の契約社員労働契約書には「基本年俸には住宅手当・家族手当・資格手当・現場手当(残業手当)を含む」旨の記載があり、原告に対しても、契約社員となる以前には、現場手当名目で月額2万5000円が支払われていたことが認められる。
A)しかし、被告の給与規定(年俸制部分の章)には現場手当に関する規定は存しないし、原告に対する給与明細書にも基本給についての内訳は記載されず、全て基本給の名目で支払われており、現場手当名目で支払われた金員はない。
B)原被告間の契約は、原告が契約社員となることによって年俸制の適用を受けるようになるなど給与形態も変わっていることに照らせば、契約社員となる以前に現場手当名目で月額2万5000円が支払われていたことをもって、契約社員となった後にも現場手当名目で月額2万5000円が残業手当として支払われていたということはできない。
(判示)そうすると、原被告間の契約社員労働契約書には、基本年俸には現場手当(残業手当)を含むものとするとの条項があるが、原告に対して、仮に現場手当の名目で残業手当が支払われていたとしても、その額は明らかではないといわざるを得ず、前記契約書の条項をもって、原告に対する年俸の中に残業手当が含まれているということはできない。
4、争点ケ @についての判示被告の就業規則上、契約社員となったことは従業員の退職事由として挙げられていないこと、年俸制に関する給与規定第27条には、年俸制を適用される社員の退職金制度については退職金規程に準じる取り扱いとすることが定められていること、原告が契約社員となった際に被告から原告に対して退職金が支払われていないことが認められることなどに照らすと、原告が契約社員となったことをもって被告を退職したということはできない。
5、争点ケ Aについての判示被告は、退職金については、年俸制の中に含めて支払うとの合意があり、これを支払った旨主張するが、原被告間の契約社員労働契約書にはその旨の規定はないのであって、そのような合意を認めるに足りる証拠はない。
1、年俸制という形態がとられていても、労基法の適用を前提として、就業規則(給与規定)や労働契約の解釈に関する問題であることに変わりはないことがよく分かる。
2、重要なのは、裁判所の判断2と3の部分。
(1) 裁判所の判断2
使用者の明示の残業命令・指示がない労働者の自発的な時間外労働であっても、当該従業員の職務、行われた残業の内容・実態および必要性によっては、使用者の「黙示の指示」により時間外労働が行われたものとして取り扱われる場合がある。
(2) 裁判所の判断3
・本件の判断とは逆に時間外手当が含まれていると認められる場合としては、その手当の額が本給と明確に区別されていること、その額が労基法に則って時間外賃金を計算した場合の時間外賃金合計額を上回っていることが必要。
・システムワークス事件/大阪地判平14.10.25労判844−79は、年俸制適用者には時間外手当てを支給しないとする就業規則の効力を否定した。
・創栄コンサルタント事件/大阪地判平14.5.17労判828−14(大阪高判平14.11.26労判849−157要旨)は、年俸制賃金において、基本給に時間外割増賃金などを含むとの合意があったとしても、基本給部分と割増賃金部分の区別が明確でない年俸賃金の定め方は労基法37条1項に違反する、とした。
3、本上担当事件でも、労働者本人が自分の業務手帳に個人的に記録していた時刻に基づいて 労働時間認定がされた例がある。
このページのトップへはじめまして。
このたび民法協に加入しました、あいおい法律事務所の濱本由(はまもとゆかり)と申します。
私は、司法試験の勉強をはじめるまで、国立大学の事務局や文科省などで働いていました。公務員だったので、民間企業の労働者よりも雇用条件は良かったとは思うのですが、それでも、女性だから昇進や昇給が同期の男性より極端に遅かったり、早く来てお茶くみ当番をさせられたりと、納得のいかないことを目にしたり、経験したりしました。つらいことがあっても上司に相談するわけにもいかず、いろんなことが嫌になって、結局3年ほどで仕事をやめてしまいました。同世代の女性には、留学や資格取得を理由に仕事を辞めてしまう人が多かったのですが、職場での有形無形の男女差別が遠因になっているケースも多かったのではないかと思っています。
女性がもっと安心して働けるような職場環境を実現できるよう、私も及ばずながらお手伝いしたいと思います。(もちろん、働くことは生活の基本なので、女性問題に限らず、労働問題全般に関心があります。)
労働法は今まで一度も勉強したことはありませんが、今から勉強します。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
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