11月16日、アステップKOBEで、18年間続いている兵庫県労働委員会の連合独占を、2007年4月に公募される40期にはなんとしてもやめさせようと、決起集会が開催されました。集会には平日の夜にもかかわらず70名が参加し熱気のある集会になりました。
滋賀大学教授の大和田敢太氏の講演は「労働委員会の意義と選出のあり方:団結権保障の意義と具体化」と題して、労働委員会が労働者の救済機関として機能するためには、選出の基準が明確になる事が必要、行政(知事)の任命・自由裁量権は間違いと指摘されました。例として教育委員会は公選制が任命制になってから機能しなくなってきていることなどの具体例を挙げ、労働委員会でも前中労委の会長が、「三者公選が空洞化している、その原因は、労働側の連合独占により、企業側の利益代表となってしまっていることにある」と労働側の問題を指摘せざる得ない現状が問題と指摘されました。情報公開を利用しての具体的な事例として、埼玉労働局が、労働者災害補償保険審査委員の関係労働者を代表する候補者の選出で同一系から選ばないと、審査官の決定に支障をきたす場合が考えられること、また、運営についても円滑に進行されない場合があるから、結果として連合系の候補者を選出し、連合の独占になった例を挙げました。
最後に、労働者代表の憲法的な役割は「団結権の保障の具体化」が求められており、労働委員会の連合独占状態は、連合労働組合員のための労働組合でしかなく、労働者の代表としての労働組合でないことが、労働委員会を機能不全にしていると指摘しました。
引き続き行われた「シンポジウム」は羽柴弁護士(兵庫県労委訴訟弁護団長)をコーディネーターにシンポジストに村井豊明弁護士(京都府労委訴訟弁護団長)、兵庫県労委の機能不全の具体例として高橋伊久夫氏(みのり農協労組)三浦鉱氏(宝塚映像労組)の3氏から、連合独占の県労委の実態を告発して頂きました。
村井弁護士からは、京都における府労委訴訟の経過の報告をして頂き、裁判の争点は、「原告適格、処分の違法性、損害」を中心に進めてきたこと、処分の違法性では差別意志の存在として組合員数では連合約10万人、京都総評約7万人にもかかわらず、8期連続で京都総評を排除してきたこと、その他の差別として、メーデーの援助金の違い(連合100万円・京都総評30万円、連合加盟組合のみの大会の挨拶・祝い金の実施など)が明らかにされました。裁判では、原告適格、処分の違法性、損害でも不当判決となりましたが、「…労働委員が専ら連合のみから任命されるという事態が長期間にわたって継続すれば、偶然の結果によるものとはにわかに認め難く、労働者委員の任命が公正公平に行われているかどうかについて疑念が生じかねないとも言わざるを得ない」との判決文を引き出し、京都府からの「今後の労働委員会委員のあり方について検討する協議の場」に京都総評が参加するよう申し入れがあり、これを受け入れ41期(2008年7月)での連合独占を打ち破り、「公正・公平」な任命を実現する取り組みが始まっているとの報告を受けました。
実際に兵庫県労委に不当労働行為での救済を申し出た、みのり農協労働組合の率直な感想は、労働者委員が何も行わず、どちらが労働者委員かすらわからない。公益委員の働きかけもほとんど何もしない事が明らかになりました。また、証人申請については、公益委員が「兵庫県労働者委員会では、労働組合からの敵性証人申請は採用しない事になっている」また、県労委担当者も「兵庫県では過去に敵性証人を認めた例はない」などと、県労委の存在価値を放棄したような対応が行われました。兵庫民法協の抗議行動で事実上撤回しましたが、本当にひどい実態が明らかになりました。
また、宝塚映像での申し立てでは、親会社の組合と同一の上部組織に属する組合出身の労働者委員が選ばれましたが、その労働者委員が行ったのは、支援の傍聴者が抗議など表現すると組合役員に注意する、組合との接触をさけ実態の理解を行わない、和解についての調査中組合の見解をゆがめ、他の委員に誤解を与える発言をするなど、労働組合の立場に全く立っていない、全く役割を果たしていないなど、ひどい対応に終始しました。
このように労働者の救済機関としての機能を全く果たしていないのが連合独占の労働委員会の実態です。
兵庫県労委訴訟は、12月22日結審の予定で、2007年3月までには判決が予定されています。現在の機能不全の労働委員会を変え、労働者の救済の機能を果たす事の出来る労働委員会にするためには、どうしても連合独占の状態を変えなければなりません。非連合の労働者委員の実現を目指して、運動を広げることが求められています。
40期にはなんとしても非連合の労働者委員を実現しましょう。
このページのトップへ06年11月16日コ、「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」主催の「何で連合だけやねんパートV」、『STOP「連合」独占!「非連合」から労働者委員の選任を』のシンポジウムがアステップ神戸で開催され、18団体70名が参加しました。
シンポジウムの基調講演として滋賀大学教授・大和田敢太先生には「労働委員会はどうあるべきか」のご講演を戴きました。
ご講演の後、シンポジウムが行われ、羽柴修氏・労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会代表をコーディネータに、シンポジストとして高瀬伊久夫・みのり農協労組。三浦紘氏・宝塚映像労組。村井豊明氏・京都地労委訴訟弁護団長にご発言を戴きました。
県労委・労働者委員の選任については、第31期(1989年)からの「連合」独占による偏向任命が続けられてきました。その中で具体的には01年3月に「第37期労働者委員の公正な選任を求める申し入れ」を県労政福祉課に行い「会」はスタートしました。
そしてこれまでの偏向任命に対し、労働者委員選任処分取消を求めて、第37期(01年〜03年)第1次訴訟、第38期(03年〜05年)第2次訴訟、第39期(05年〜07年)第3次訴訟、第4次訴訟・第39期補欠選任(06年6月)をたたかってまいりました。
これらの訴訟の公判では兵庫県は、労働者委員任命は、例え「連合」であっても「労働者一般の利益を代表するもの」であると主張し、私たちの「非連合」推薦の原告をしりぞけてきました。
シンポジウム・パートVでは、7名の労働者委員の「連合」独占・偏向任命が18年間におよび、その問題で今「県労委はどうなっているのか」を検証しました。結果は、労働委員会の本来果たすべき役割と任務が果たされず、機能不全状態であることが明らかにされるシンポジウムとなりました。
労働委員会はどうあるべきかでは、労働委員会は三者構成であり、三者構成はILOの精神に基づいたもので「平等」「公正なルール」が主旨であることが大和田先生から問題提起されました。
従って労働者委員の選任にあたっては、@労働者全体の代表であること。Aそのポストは平等でなければならず労働者全体の意見の繁栄であること。B労働者代表よる労働者委員選任の合意が必要であること。Cローティションの必要があること。D県労委の円滑な運営と進行には公正・公平は欠かす事が出来ない必要要件であること。E委員の選任基準ルールが必要であることらが立法の主旨に添うものであることを明らかにすることができました。
一方、県労政福祉課と県労委の当初からの主張は、@知事に自由な任命権がある。A「連合」の労働者委員は特定の利益を代表するものではないというもので、公判でもそのように主張しました。しかし、県労委が本来の機能を完全に発揮できていないこと、それが現実のものとして明らかになっています。
さらにシンポジウムでは、現実に県労委の労働者委員偏向任命によってどんな弊害を発生させているかと検証し、@三者構成に権限の不平等を発生させていること。A労働者の団結権の保障にならず団結崩壊が生じていること。B労働者代表機能を幅広く発揮できず労働運動の弱体化が生じていること。C労働者委員が労働者の立場に立たない、立てない実態があること。D公益委員の質の低下にも及んでいること。などが指摘されました。
それでは「非連合」から労働者委員が選任されたらどうなるのだろうでは、@労働者のおかれている立場を理解してもらえることになる。A労働現場の実態が県労委に知ってもらえる。B県労委が労働者の要望に応えていけるものになる。C県労委の活性化につながるというものです。
では「連合」だけの労働者委員のままでは、@県労委では労使紛争は解決しない。もし解決しても権利内容の低いレベルのままである。A救済命令がなかなか出ない。B時間だけが長くかかる。C労働者委員が存在していると思えない。D県労委には公正な命令を期待できない。こうした声が県労委を活用したシンポジストから報告されました。
長淵満男先生・羽柴修弁護士を代表委員に、原告は和田邦夫氏・私教連、鳥居成吉氏・全港湾、佐野旦氏・医労連に引き継がれた長期にわたる公正なる「非連合」労働者委員選任実現運動です。弁護下さる弁護団は羽柴修弁護団長、増田正幸弁護士、本上博丈弁護士、白子雅人弁護士です。
私たち労働組合の紛争は、当該で解決することは大切です。しかし労使間で処理できなくなった際、労働者の期待に応えられる紛争事案の解決は必要です。
正規雇用、非正規雇用労働者個人では解決できない問題でも、労働組合を結成したり、労働組合に加入することで解決できることは山ほどあります。それが労働組合の魅力であります。兵庫県はこうしたことに関心を示す責任があります。
県労委は公判(01年9月28日提訴)が開始されると、第37期からは期ごとの訴訟の事情によって労働者委員の選任理由を方便とご都合主義的にパズル合わせしてきました。それは@知事の自由裁量権を切り札に使い。A組合が小さい。B公職歴がない。C総合的な判断と、理由にならないことを大きな理由に上げて、労働組合運動強化や分野別、潮流間の検討については改めようとせず逃げてばかりいるものです。
今後は県労委がILOの三者構成の選任基準精神を取り入れ、また選任基準を情報公開し、県民に明らかにすべきです。特に労働者委員の選任にあたっては単に「労働者一般の利益代表」と主張するだけでは現実性がありません。
18年の長期にわたる「連合」だけの労働者委員を「労働者一般の利益」だという県労委の主張は県民が支持できないものになりました。
「連合」だけでは、憲法や労働法より経済性が優先され、委員の経営思考が「労使関係」の判断基準になってしまうからです。
また「公職歴がある」とか、「大きな組合がよい」論は、労働組合は企業経営でないのだから、そもそもはおかしなことを県労政福祉課が主張していることになります。
労働者委員の選出については、労働者団結権ら労働3法の基本法制に基づくものでなくてはなりません。そのために、@労働者の本当の代表の人なのか。A労働者の団結権を守り、育てられる人なのか。B労働者から信頼されている人なのか。C労働者と労働組合の連帯を作り上げられる人なのか。これらを選任基準に入れるべきです。知事の自由裁量権が知事の一方的なものであってはなりません。県民によく説明できるものにすること、このことが大切です。
また県労委を活性化させる責務が兵庫県知事にあります。兵庫県は労働団体へのあからさまな差別行為があるのではと、労働者委員の選任問題だけを見ても県民にそのような疑念を持たれる問題は改めなければなりません。
労働委員会制度は、憲法、労働組合法に基づき、使用者による不当労働行為から労働者・労働組合を救済するもので、労働争議の調整・斡旋を行って解決させるものです。そのため労働者の労働基本権、労働組合の団結権を求めるための制度であり、県労委を充分に機能させるには、労働委員会を構成する委員の選任は公正・公平が必要条件です。
「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会」の運動は、正規、非正規を問わずに民間職場と地域から団結を強め、労働組合員を増やすとともに、労働運動を強めて「不正常」を「正常」に改めさせるものであり、かならず解決させなければならないものであることを、今日の労働者の労働事情を見ても明らかです。
今回のシンポジウムでは、県労働委員会の在り方が問われました。兵庫県は労働者委員選任にあたって「連合」「非連合」と区別した差別があれば許されないもので、今後、運動を強化し、公判闘争の勝利と次期の第40期(07年〜09年)「非連合」統一推薦労働者委員の実現をめざす決意を固めてシンポジウムを締めくくりました。
このページのトップへ「労働行政のビッグバン」だとして労働行政の規制緩和が日米の大企業のいいなりになって進んでいる。次に狙われているホワイトカラーエグゼンプション、解雇の金銭解決、企業の一方的裁量による労働条件の不利益変更など、「ふざけるな」と怒鳴りたくなる内容である。
労働者委員のいすが、連合の組合幹部への勲章に成り下がっている。連合独占が労働委員会機能を低下させていることがいろんな角度から証明されたが、これだけ不正常な状況が続くと連合幹部によって労働委員会制度そのものが崩壊に導かれていると断定せざるを得ない。
日米の大企業による労働行政のビッグバンに連合幹部が一役買っていると思えてくる。
このページのトップへ去る2006年12月2日午前10時から午後4時まで、日本労働弁護団の行う「全国一斉労働トラブルホットライン」の一環として兵庫民法協でも会員弁護士8名により電話相談を実施した。
当日は、全国23か所で合計333件の相談があったが、兵庫では合計8件にとどまった。事前の報道がほとんどなかった影響であると思われる。
8件の内訳は、解雇2件、労災4件、いじめ・嫌がらせ2件である。具体的には、
・上司が口をきいてくれない、無理難題を押しつけられ、できないと辞めろと言われ、体調を悪くして通院している。
・厳しいノルマを課せられ、達成できないとペナルティがあるためそのストレスで胃潰瘍になった挙げ句うつ病になって治療中である。
・派遣労働者であるが口臭を理由に解雇された。
・商品である80円のガムを持ち帰ってしまい懲戒解雇された
等である。
解雇はいずれも軽微な事情を理由とするものであり、労災の内2件は嫌がらせによる精神疾患を内容とするもので、職場におけるいじめ・嫌がらせが深刻な問題となっていることを示している。
このページのトップへ人員削減措置の実施が、不況、斜陽化、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること、ないしはやむを得ない措置と認められることが必要とされています。
(2)人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性解雇ではなく、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集などの他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務を負うものとされています。
(3)被解雇者選定の妥当性(1)(2)から、整理解雇がやむなしと認められる場合であっても、使用者は被解雇者の選定については、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行うことが必要であるとされています。
(4)手続きの妥当性使用者は、労働組合または労働者に対して、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るために説明を行い、さらにそれらの者と誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負うとされています。
4つの「要件」と解すると、論理的には、4つの事項を、いわばハードルとしてすべて乗り越えなければ解雇が有効とならないことになります。
これに対し、4つの「要素」と解すると、これらの諸事情を総合的に判断して解雇の有効性の判断をすることになりますので、例えば、解雇回避の努力をしていなくとも解雇が有効と判断される可能性が生じることとなります。
つまり、(事案へのあてはめ方によりますので実際の結論には必ずしも直結はしませんが)4つの「要件」と解すると解雇は厳格に判断されることになり、4つの「要素」と解すると解雇の有効性が緩やかに判断される余地が生じることになります。
(2)裁判所の判断の流れ裁判所は、概ね、これらの四つの事項については、4つの「要素」ではなく、4つの「要件」と解してきました。
しかし、バブル崩壊後の長期かつ深刻な経済変動のなかで、従来にない広がりと多様性をもって人員削減が行われている様相に接して、4つの事項を「要素」と理解することにより、解雇の有効性を緩やかに判断する裁判例が増加してきました。
その一つが、「角川文化振興財団事件(東京地裁平成11年11月29日)(労判780号67頁、労旬1482号39頁)です。平成11年以降、東京地裁では解雇を緩やかに認める裁判例が相次いで出されました。この裁判例は、「要件」ではなく「要素」であると解する手法を用いることにより、解雇を緩やかに認めた裁判例といえます。
(3)角川文化振興財団事件【事案】角川書店から大辞典の編さん業務の委託を受けた角川文化振興財団(以下「財団」といいます)が、長期かつ多くの人員を要する編さん業務を行うために編さん室を設置し、主に編さん業務を行わせるために従業員を雇ったが、角川書店から委託が終了したため、編さん室を閉鎖することを決定し、編さん業務を行わせるために雇った従業員全員を解雇したというものです。財団は、被解雇者との説明協議を一切していませんでした。
【判断内容】解雇は本来自由であるから解雇権の濫用について労働者側が主張立証責任を負わせるという異例の判断をした上で、
○編さん業務の終了に伴い編さんに携わる目的で雇用した従業員を解雇するのであるから、解雇回避努力を問う前提に欠ける、たとえ労働者の主張するように解雇回避努力を行わなかったとしても解雇は無効とはいえない
○編さん業務の終了に伴い編さんに携わる目的で雇用した従業員を解雇するのであるから、説明協議を尽くさないとしても解雇が無効となることはないと判断しました。
【評価】4つの「要件」と解した場合には、「編さん業務を行うために雇っていたところ、編さん業務が終了した」という事情があったとしても、やはり他の部門への配転等について解雇努力が問われることになり、初めからそのような努力を怠った事案では解雇は有効とされないと思われます。また、上記事情により解雇にいたる使用者側の事情が明らかであるとしても、使用者において一切説明・協議を行わなければ、やはり解雇は無効となると思われます。
なお、営業の大部分を廃止するに至った事案において廃止部門の全従業員を解雇した事案においても、解雇回避努力、説明・協議は必要であるとた上で、これらの義務を怠ったことを理由に解雇を無効とされた例があります(山田紡績事件・名古屋地裁平成17年2月23日判決)。
「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」(平成18年6月27日)においては、「解雇事由の中でも整理解雇は、…解雇権濫用の判断の予測可能性を向上させ紛争を未然に防止するためのルールを明確化する必要がある。そのため、整理解雇は、裁判例において考慮すべき要素とされている4要素(人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、解雇に至る手続)を含め総合的に考慮して、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするものとする。」と、あります。「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」(平成18年12月8日)においても、四要素と考えるべきという点に変化はありません。
労政審は、使用者側の利益に配慮しているといわざるを得ません。これまでの裁判例では、平成11年以降の東京地裁のような4つの「要素」と解する流れもありましたが、全体としては未だに4つの「要件」と解する流れが主流でした。労政審は、そのような裁判所の立場に反し、あえて使用者に有利な枠組みを設定しようとしているのです。法律が「要素」と定めると、角川文化振興財団事件の裁判所のように解雇の自由を強調したい裁判所においてはこれまで以上に自由に(恣意的に)解雇を認める判断をしやすくなり、他方で、労働者側の利益を重視し解雇を制限しようという考えをもった裁判所も、特定の事項を満たさないことを理由に解雇を無効であると言い切ることが難しくなると思います。
「要件」か「要素」かは、一見すると小さな違いのようにも見えますが、実際は、今後の裁判の流れに大きな影響を与えかねない問題です。「要件」であることを明確にする立法を要求しなければなりません。
このページのトップへ12月9日、午後1時40より2006年度民法協実務研修会が、神戸市産業振興センター901会議室で開催されました。冒頭、増田事務局長(神戸あじさい弁護士事務所)より主催者を代表しての挨拶があった後、「労働契約法制及び労働時間法制のあり方」を題目に、事務局の弁護士の方々から以下7点について講義がありました。
長時間労働を規制する観点から発生した法制度(刑法)で、労働者側のニーズとしては、過労死等を防止する観点から行政機関による法制度の強化が存在している。反対に、経営者側のニーズとしては、労働者の自己責任(健康管理等)により法制度の緩和を望む意見が存在している。現況としては、自由主義経済の推進による、労働時間規制の緩和等、経営側優位の傾向にある。
A 労働契約法制労使の対等性を確保し、労働契約における平準性を示した法制度(民法)で、労働者側のニーズとしては、契約内容や解釈基準の明確化が存在している。経営者側のニーズとしては、解雇事件等に対するリスク削減を望む意見が多く存在している。このように、労使双方で、労働契約法制定の必要性についてはほぼ一致しているが、その内容については、同床異夢の様相を呈している。
B 立法作業の現状労使の激しい対立と、厚生労働省による拙速な対応により、作業は遅れていたが、11月10日以降になってようやく「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点」の第2素案が厚生労働省より示された。今後は12月18日〜27日の期間、労働条件分科会での検討を経て2007年2月の通常国会に、労働契約法案・労働基準法「改正」法案の提出が予定されている。
C 第2素案の主な問題点契約法制の論点としては、ク就業規則の効力と個別労働契約との関係、ケ整理解雇の有効性の判断、コ解雇の金銭的解決、サ有期契約の濫用に対する規制の4項目が、また、時間法制の論点としては、ク時間外労働規制、ケ「自由度の高い働き方にふさわしい制度」の創設、コ企画業務型裁量労働制の対象業務拡大、サ管理監督者の要件緩和の4項目が第2素案の主な問題点として存在しているが、何れにせよ、労働条件分科会の議論では労働保護法制を緩和・撤廃しようとする流れにあることは間違いない。
多数派労組が合意した、「賃金制度(選択定年加算金制度の再制定等)」に対し、少数派労組の組合員が、「不利益変更」に反対して争った事件である、『みちのく銀行事件』を例題として、検討会素案・具体的論点ク素案・裁判例において照会した場合の結論から、問題点を類推。労働契約と就業規則の関係では、合理性の立証責任が使用者に存在するとする裁判例に対して、検討会素案等では労働者側に反証責任が存在しているとする等、労働者不利の結論がだされる可能性がある。また、就業規則との関係においても、検討会素案では過半数組合が就業規則の不利益変更を認めている場合は、個々の労働者についても就業規則改悪の合意を推定している等、裁判例では認めていない労働者に不利な判断がなされる可能性がある等、多くの問題点が存在している。
厚生労働省は、有期労働契約が労使にとって「良好な雇用形態」であるとの前提に立ち、その活用に支障の無い範囲でルールを明確化しようとしているが、有期労働契約については、その「3つの機能」における、人身拘束・自動終了の機能等から類推した場合、労働者にとって明らかに不利な契約といわざるを得ない。また、残された雇用保障の機能についても、一見、労働者に有利な機能に見えるが、解雇濫用権の法理により無期労働契約においても実質的には雇用保障は確保されていることから、労働者にとって大きな意味を持つものではない。
「今後の労働契約法制のあり方研究会」では、「試用雇用契約」についても有期労働契約の中に盛り込む方向で議論される等、最高裁判例を否定する内容の「中間とりまとめ」が報告されていた。最終的なまとめの段階において、「試用雇用契約」の文案については削除される等、問題点については一定クリアすることができたが、労働者保護の判例を否定した内容の法整備を図るべく、議論がなされていることから、今後の動向について注視していく必要がある。
「角川文化振興財団事件」を例題に、要素説・要件説の両立場に立ち、整理解雇の有効性の有無についての解説があった。当事件については、「整理解雇の4要件(人員整理の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・協議説明義務違反)」を満たしていないことから、要件説の立場に立った場合、「整理解雇無効」との判断がなされる事案であったが、「解雇回避努力・誠実協議については信義則違反にあたるということの一要素に過ぎない。」との要素説の立場に立った判断がなされたため、「整理解雇有効」の判決が出されることとなった。「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」の目的としては要素説の立法化にあり、法律で要素説の有効性について、お墨付きを与えることになった場合、企業側に有利な判断が出されることとなる。
厚生労働省は、紛争コストの削減・解雇の経費化を目的に、労働契約関係の合理的規律を捻じ曲げ使用者の利益保護を最優先に、「解雇に関する労働関係紛争の解決手段」として、金銭的解決を図れる仕組みを確立しようとしている。
「第2次神戸弘陵学園4名解雇事件」では、経営者側の内部分裂により懲戒解雇撤回・4名の地位確保が結果としてなされたが、解雇の金銭的解決制度が確立されていた場合には、経営者批判を実行した場合において、解雇の可能性がより一層高まることとなるため、生徒・保護者の利益保全を目的とした正当な経営者批判の行動であっても、実効の可能性は極めて低いと思われる。
ホワイトカラーエグゼンプションとは、ホワイトカラー労働者に対して、労働時間規則の適用を免除しようとする制度である。日経連の提言では、年収400万円か全労働者の平均所得以上の者にもこの制度を適用するように要求がなされていたことから、「小さく産んで大きく育てる」の論理に立ち、ホワイトカラー労働者以外の労働者に対する「適用範囲の拡大」についても視野に入れての制度確立を目指そうとしている可能性が大きい。現在の適用除外の例としては、管理監督者の労働時間(労基法41)や裁量労働制(みなし労働時間制)が挙げられるが、原則として、労働時間そのものの適用までは除外していない。諸外国における適用除外要件においても管理職が中心となっており、現在の日本の裁量労働制とほぼ同等の制度となっている。
現在審議されている、ホワイトカラーエグゼンプションが導入された場合、労働時間増加に対する歯止めの欠如により、サービス残業の合法化に繋がる等、労働者の自己責任化を名目に「過労死」を助長する温床を作ることに繋がりかねない。また、11兆5,851億円(114万3,965円/人)の残業代金の消失に繋がるとの結果が、労働運動総合研究所の試算において出されていることから、内需の冷え込み等により、非正規雇用者の雇用状況にも大きな影響を及ぼすとの懸念も出されている。
管理監督者の範囲については、厚生労働省の通達において、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」との規定はあるが、現在、「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点」の素案において、スタッフ職の範囲を「ラインの管理監督者と企業内で同格以上に位置づけられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するものである…」と規定しようとする動きがある。また、「賃金台帳への明示」等により、より明確化しようとする動きがあるが、特に賃金台帳への明示については、実体が伴わなくても「管理監督者」と規定されてしまうことにより、残業手当の不払い等、サービス残業を助長する制度改悪に繋がる可能性がある。
裁量労働制についても、「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点」の素案では、企画業務型裁量労働制の中小企業における対象労働者の要件緩和や報告手続きの要件緩和等が含まれている等、その動向について注視していく必要がある。
以上の内容について、報告並びに講義を受け、「2006年度実務研修会」は午後5時に終了しました。
このページのトップへ今回の実務研は、労働政策審議会において審議されている「労働契約法制及び労働時間法制のあり方」について、6名の弁護士が講演をしました。
はじめに、本上弁護士から情勢報告と「労働契約法制及び労働時間法制」とは何かという説明がありました。労働契約法制とは、規制ではなく法の解釈を規定するもので、労使間の自治の基準・標準を定めるもの。労働時間法制では、不払い残業や36協定の形骸化という現状の問題点を棚上げにし、日本版ホワイトカラーエグゼンプション等の導入により、事業主の「働かせ方」を緩和するものとして、問題点を挙げました。
具体的には、
1.労働契約法制は、@労働者の同意を得ることなく、就業規則を容易に労働者にとって不利益な変更を可能にし、
A前回の労働基準法改正で葬り去られたはずの解雇の金銭解決制度を再び持ち出し、
B不安定な地位と身分保障を改善することが要求される有期雇用について何ら歯止めとなる改善策を打ち出していない。
2.労働時間法制は、@日本版ホワイトカラーエグゼンプションを導入し、際限のないただ働きを合法化し、
A管理監督者の要件を緩和し、裁量労働制の対象義務を拡大する
など、最悪な「規制緩和」策となっています。
続いて、各弁護士から現状と審議会での具体的論点の報告がありました。1.「3/4組合の合意した不利益変更と少数組合への影響」(萩田弁護士)2.「期間の定めのある労働契約について」(増田弁護士)3.「整理解雇について」(瀬川弁護士)4.「解雇の金銭的解決」(本上弁護士)5.「ホワイトカラーエグゼンプションについて」(白子弁護士)6.「管理監督者の範囲の明確化」(内海弁護士)。このようにそれぞれが、かなり専門的な問題でしたが、とてもわかり易く工夫されていて、すんなりと身につくものでした。そして、特に「解雇」問題についての審議会素案が、労働者保護を後退させ、解雇を金で買うことが可能となるため、私たち労働者にとって強く懸念される内容となっていることが解りました。
現状では、整理解雇の4要件(@人員整理の必要性 A解雇回避努力 B対象者選定の合理性 C労働者側との誠実協議)という法理が確立しつつあるが、審議会素案では、要件ではなく要素として捉えるとしています。「要件」と「要素」の違いは何かといえば、「要件」として捉えるならば、@〜Cまですべて満たさなければならない。しかし、「要素」と捉えれば、それらが欠けても必ずしも解雇権の濫用に当るとは限らなくなり、四要素以外の事情も含めることになり、判断が曖昧になります。結果、事業主側に有利になり、これまで四要件を必要としていた裁判所も、要件が欠けることを理由に解雇を無効と言うことが出来なくなります。注:角川文化振興財団事件(東京地裁平成11年11月29日)では、解雇回避努力、協議説明が不要とされた。
また、「解雇を金で買う制度」とは、審判又は裁判において解雇が争われ、労働者の職場復帰が困難な場合には、金銭で迅速に解決できる仕組みのことです。これが現実のものとなれば、単に解雇後の処理の仕方の問題に留まらず、多少の金を払えば解雇が可能となります。事業主は、解雇を予算化し手軽く解雇できることとなります。
以上のように、本来ならば労働者の権利と健康を手厚く保護しなければならないのに、これまでの法理・判例に反する労働契約法制や労働時間法制の制定が、着々とすすんでいます。今回の実務研は、3時間半の間に5分の休憩が1回という、とてもタイトなスケジュールでしたが、この一連の労働者いじめの法制を阻止するうえでも、重要で有意義な研修会でした。
このページのトップへ