《第466号あらまし》
 第39期労働者委員選任処分取消等請求事件判決
 労働審判を経験して
     雇い止め無効事件
 《連載》労働事件随想録@
 労働判例研究会報告(07年3月29日)
     @三都企画建設事件
     A黒川乳業事件(労働協約解約の効力等)
 新人弁護士会員の紹介


第39期労働者委員選任処分取消等請求事件判決

世間知らずの裁判官!労使一体の大企業職場は無法地帯!
労働者・労働組合の不当労働行為申立を救済できない状態を放置できない

公正・公平な県労働委員会を実現する兵庫県連絡会議 事務局次長 丸山  寛


兵庫県労働委員会の労働者委員が長年にわたり「連合」推薦労働者委員に独占任命され続け、労働者・労働組合の救済機関としての本来の役割を果たせず、機能不全に陥っているとして、その原因である「連合」独占をやめ、「非連合」推薦委員を任命すべきと、裁判に訴えて闘ってきました。

3月13日、神戸地方裁判所第6民事部の橋詰裁判長の下で判決が言い渡されました。判決について、連絡会議として検討・確認されたものでなく、あくまで私個人の検討結果、意見をまとめてみました。


1.原告適格について重大な事実誤認、判断に瑕疵がある。

総評・同盟・中立という労働組合の潮流があった時代には、当然行われていた組織比率に応じた労働者委員数の配分と任命。不当労働行為からの救済を求めて申立た労働者・労働組合が、その潮流から任命された労働者委員と申立以前から綿密に相談しながら、労働者委員が助言をしたり意見を述べる、意見書を提出するなどして、「労働者の代表」としての役割を果たしていました。

それが、連合兵庫と兵庫労連、どちらにも加盟しない労働組合という形に再編されて以降、労働者委員は、県知事によって意図的に「連合」推薦者によって独占任命され、第31期から39期まで18年間延々と続いてきました。

その結果、不当労働行為からの救済を求めて申し立てた労働者・労働組合関係者が「3人のうち誰が労働者委員か解らない、みんな使用者側委員のようだった」と感想を述べるように、「労働者の代表として、労働組合および労働者の利益や立場に配慮し、公益をも加味した上で、自主的解決を促す役割」を喪失してしまったのです。

それもそのはず、任命された労働者委員は「連合」大規模企業労組出身者で占められています。「連合」大規模企業職場では、労働組合役員から闘う労働者を排除するため、中間管理職を使って組合役員選挙に介入し、会社言いなりの役員体制を作り上げ、労働者要求を押さえ込む役割、会社の労務対策組織になりさがっている状態です。長年執行委員長を勤め上げ、会社の合理化等に協力した見返りには、定年退職した後に関連子会社の重役のポストが約束されています。川重明石から労働者委員に任命されていた井上氏は、任期中に関連子会社の重役に就任。私たちが抗議をしたのを受けて、子会社重役を辞任、県当局の配慮で県中央労働センター館長に就任させる「不当労働行為」まがいの行為が公然と行われています。中小労組も組織する友愛ゼンセン同盟は、労働組合結成推薦者に会社社長をはじめ幹部役員が名前を連ねるなど、会社丸抱えで労働組合づくりが行われています。

このような労働組合出身の労働者委員に、「労働者・労働組合の立場に立ち、不当労働行為の救済ができるのか?」「労働者全体の利益」を守るより「経営者全体の利益」を優先するだろうことは火を見るより明らかです。

私たち推薦労組や候補者や所属する労働組合が不当労働行為の救済を求めて申したてた場合、参与労働者委員と相談もできず助言も受けられず、労働者側の立場に立った意見陳述も意見書提出もしてもらえず、実体法上の権利・利益を直接的に侵害されてきたのであり、今後も侵害され続けるのです。

その上、県知事は、団体交渉に使用者側交渉員として出席、大阪府労委の事件に使用者側証人として参与するなど、公益委員としてあるまじき行為を行う小嶌典明氏を5期10年も公益委員に選任し続けています。

労働組合の資格審査は公益委員のみが参与し、不当労働行為事件の審査等については、公益委員のみが権限を行使、救済命令をだせることになっています。公益委員の選任には労・使委員の同意が必要であり、このような公益委員たるに適しない非行を行う人物に対して不同意権を発動しない「連合」出身の労働者委員に独占されている事態が、労働委員会の変質と機能不全を招く要因であり、県知事の「裁量権の逸脱濫用」は二重の意味で重大です。


2.損害賠償請求について、重大な事実誤認、著しく不合理な判断があった。

54号通帳が40年前の通達だと切り捨てられたが、川重出身の井上委員の関連子会社役員就任問題を合理化するため県当局が持ち出したのは、昭和23年2月9日労発第62号労政局長発、高知県知事宛通牒58年前のものでした。54号通牒は無効であるという通牒も通達も見あたらないのになぜなのでしょうか?

公職に就く機会を奪われ、差別されている兵庫労連・中立労組に、「公職歴を持った候補者を推薦できない」でしょ。こんなことを任命基準として兵庫労連・中立労組を差別していて「著しく不当とまで言えない」はないだろう。

「大規模労組は専従という形で組合活動に専念できるため…かつ、地域の労働運動の指導的立場にある」?これはどこから導き出されたのか?小規模労組であっても組合員の努力によって専従を抱え、未組織労働者の相談活動を活発に進め、地域の労働運動の指導的立場になれるところはあるが、それを意図的に排除しているのは誰か?

原告主張の任命基準に従えば「連合」独占になり、任命枠が固定されるように見えるのは当たり前だ。「連合」独占、任命枠固定を合理化するために任命基準を後から考えたのだから。私たちが裁判に提訴するまでは、定数枠内で「連合」内の調整が行われていたが、裁判提訴後は、定数枠を超える候補者を推薦し、あたかも多数の中から選任した形を整え、裁判対策を講じたことは許し難い。それでも、「著しく不合理でなく、裁量権の逸脱・乱用があると任命基準や選考方法が認められない」と言えるのか。


3.最後に、私が県当局との折衝の中で、感じたことを述べておこう。

第39期補欠委員の選任については、原案では佐野旦原告が指名されていたのが上層部の判断で覆されたと確信している。木戸証人は、県職員としての職責と人間としての良心の呵責とのせめぎ合い、心の葛藤があったに相違ないが、心ならずも偽証せざるをえなかった。 ある会合で、知事が木戸証人の両手を握り感謝の意を表したという。県職員に「良心に反して労働者の利益を踏みにじらせ」、自らの保身を図った県知事の責任は大きい。


4.いずれにしても、大阪高裁での闘いが続き、第40期の労働委員会委員の選任公示が4月下旬に迫っており、「非連合」統一候補を擁立して、労働者の利益を守る労働委員会へ再生させる取り組み、闘いに全力を挙げることを表明する。

※注:アンダーライン部分は、判決文から引用


日本労働弁護団が、小嶌氏の罷免を求める申入れをしました。3月20日に羽柴、増田弁護士が兵庫県庁労政福祉課木戸係長にその申入れを提出しました。以下に転載します。
兵庫県労働委員会公益委員小嶌典明氏の罷免を求める申入れ
2007年3月10日
日本労働弁護団
会長 宮里 邦雄
兵庫県知事
 第1.申入れの趣旨
 兵庫県労働委員会公益委員小嶌典明を、労働組合法19条の7第2項、同法19条の12第6項に基づき、罷免されたい。
 

 第2.申入れの理由

 1.事実の経緯
 (1) 小嶌典明氏(以下、小嶌委員という)は、97年に兵庫県地方労働委員会(当時)の公益委員に任命され、現在5期目にあたり(07年7月27日任期満了)、会長代理の職にある。
 
 (2) 日本労働弁護団は、昭和32年(57年)に労働者・労働組合の権利擁護を目的として総評弁護団の名称で発足し、89年に現名称に変更して、現在全国の弁護士約1500名で構成される労働弁護士の任意団体である。
 
 (3) 小嶌委員の勤務先である大阪大学(以下、阪大という)は、04年4月独立行政法人に移行し、これに伴い同委員が中心となって就業規則の制定作業がなされた。同作業においては、従来から存在した非常勤職員に関しても非常勤職員就業規則が制定され、非常勤職員は60歳に達した日以降は契約更新しない旨(事実上の定年制)が新たに規定された。
 阪大には非常勤職員数名で組織された関西単一労働組合が存し、同組合員に対する非常勤職員就業規則に基づく定年制の適用につき、労使の見解が対立していた。両者間では団体交渉が開催されていたが、進展せず、阪大は小嶌委員を人事労務室員に任命し、04年6月9日以降、同委員が団体交渉に交渉委員として出席するようになった。
 その後、団体交渉は決裂し、関西単一労働組合は、06年2月、阪大を被申立人として、60歳を超えた組合員に対する06年3月31日の雇止め、この件等を巡る不誠実団交等が不当労働行為に該当するとして、救済申立を大阪府労働委員会になした(大阪府労委平成18年(不)第7号)。
 同事件につき、小嶌委員は、被申立人の補佐人の許可を受けて審理に出席するとともに、被申立人の申請に基づき証人として採用され、同事件第2回審問(07.1.19)及び第3回審問(07.2.19)にて証言し、現在証人尋問続行中である。
 
 2.「委員たるに適しない非行」の存在
 労働委員会は、「労働者が団結することを擁護し、及び労働関係の公正な調整を図ることを任務」(労組法19条の2第2項)とする行政委員会である。労働委員会の最大の権限である不当労働行為救済申立事件の審査は、公益委員の審査指揮の下に準司法手続によって行われる。従って、公益委員は、労働委員会の公正を疑わしめる行為は厳に慎むべく、「職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行」(同法19条の7第2項、同19条の12第6項)がある場合は罷免することができるとされている。
 小嶌委員は、自治体が異なるとはいえ、県労働委員会の公益委員(しかも、会長代理である)であり、かかる地位にある者が、現に発生している集団的労使紛争に人事労務室員の名称で使用者側の当事者として関与することは、公益委員、ひいては労働委員会の公正を疑わしめ、これへの信頼を著しく損なうものであって、「(公益)委員たるに適しない非行」に該ると言わざるをえない。小嶌委員としては公益委員という自らの地位の重大な職責に鑑みれば、本件労使紛争への関与は回避すべきであり、もしどうしても勤務先との関係上、本件労使紛争に関わらざるをえないとすれば、公益委員を自ら辞すべきであったと思料する。辞任をしないまま、既に2年近くにわたり使用者側の立場で本件紛争に関わり続けていることは公益委員としての職責を軽視した常軌を逸した行動である。
 
 3.結論

 兵庫県労働委員会についてのみならず、労働委員会制度自体に対する信頼を回復するため、速やかに申入れの趣旨に沿った判断を任命権者としてなされたく、本申入れに及ぶ次第である。

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労働審判を経験して
雇い止め無効事件

弁護士 野上真由美


1 事案の概要

申立人は、平成9年3月から相手方の商品の陳列、受注、発注、飾り付け等を担当するマーケティングスタッフ(MS)として勤務していた。相手方との雇用契約は約半年間の期間の定めがあるもので、毎年9月と3月に契約更新していた。ただし、3月更新の契約終了時(大体8月10日ころ)から9月の更新までに約3週間ほどの空白期間が設けられていた。申立人は、約9年半計18回にわたり相手方との契約を更新してきたが、平成18年8月1日、突然、相手方から9月に契約を更新しない旨を伝えられた。申立人は、相手方に理由を教えてほしいと何度も交渉したが、相手方から納得のいく説明は得られなかった。

そこで、申立人は、従業員としての地位の確認と復帰までの給与を求めて労働審判を申し立てた。


2 申立てから調停成立まで

(1) 第1回期日

申立人側は、申立書において、申立人が約9年半にわたって18回も更新を繰り返してきたこと、更新の際に行われる面談及び手続きが非常に形式的なものであったこと、更新拒絶を示唆したことがなく相手方が更新を予定する対応をしていたこと、MSの仕事内容が営業を含む重要なものであったという点等から、東芝柳町事件及び日立メディコ事件の解雇権濫用の法理が類推適用され、更新拒絶は合理的理由がない限り許されないとの論理を用いて雇い止めの無効を主張した。

これに対し、相手方は答弁書において、期間の定めがある契約である上、1年の間には3週間ほど契約のない期間があること、更新時には必ず更新されないことがあることを説明していたこと、MSの仕事は商品陳列が主な仕事で、いわゆる「主婦のパート的な仕事」であること、MS削減には経営上の必要性があり申立人担当地域の店舗数が激減したこと、申立人はMSとしての活動水準を満たしていないなどから解雇権濫用の事案でなく、更新拒絶にも合理的理由があると反論した。

しかし、更新の際に行われる面談はたった10分ほど、契約更新の意思確認と会社に対する要望を聞くという形式的なものであり、契約更新されないことがあるなどという説明を受けたことは一度もなく、申立人が雇い止めにあった後も申立人担当地域の店舗はほとんど残っていて経営上の必要性があったと判断することが困難であり、申立人は相手方からMSの仕事ぶりが悪いなどと注意を受けたことが一度も無かった。そこで、第1回目までに答弁書に対する反論をする必要があるということで、約10日の間に申立人と打合せをし、反論の準備書面を作成して提出した。申立人がMSとして非常に頑張っていたという点については、他社のMSや個店の担当者から上申書を書いてもらい、証拠として提出した。

第1回期日では、労働審判委員から、MSの仕事内容、契約更新の手続の仕方(更新拒絶についての説明の有無)、経営上の必要性など、書面の内容をさらに詳しく口頭で確認された。特に、委員は経営上の必要性がなかったら、MS削減の理由がないということから、経営上の必要性を重点的に確認していた。

しかし、相手方が提出した証拠は全て店舗名が伏せられた状態であり、その証拠に記載がある店舗が申立人が担当していた店舗なのかすら確認出来ないものであった。最後まで店舗名を出すことを相手方が渋っていたため、結局、次回までに相手方が経営上の必要性、申立人の担当店舗が途中で減った経緯を主張し、提出可能な証拠があれば提出するということになった。

(2) 第2回期日

申立人側には、特に宿題が出されたわけではなかったが、審判期日に口頭で質問があったことを書面にしておいた方がいいとの判断から、MSの仕事内容と申立人担当地域で現時点で残っている店舗名を実際に調べ、さらに具体的に補充して主張した。

相手方も準備書面を提出したが、経営上の必要性については抽象的な主張を繰り返したのみであったが、その代わりに申立人の人格攻撃にでた。申立人は相手方が注意しても全く聞かず逆ギレする、あの店は担当したくないとわがままを言って営業職を困らせる、などなどあげていけばきりがないが、そんなにひどいMSなら9年半も契約しないでさっさと辞めさせればいいではないかと半ばあきれかえる書面であった。営業職の社員から、申立人がいかに手のかかる大変な人物であったかという内容の陳述書も多数提出された。

あきれかえっていても事実として書かれている以上、反論をしておく方がよいということで、続けざまに準備書面と申立人の陳述書を提出した。

第2回期日では、委員から提出した両当事者が提出した準備書面に基づいて、さらに口頭で質問があった。その日の期日では、今回の雇い止め直前に行われた面接で更新拒絶について説明が何もなかったことが前提に話しが進んでおり(当然、相手方は全力で反論していたが)、どうしてきちんと説明しなかったのかと、特に使用者側の委員から相手方は厳しく追及されていた。

その後、審判委員会が調停案をだすということで交替で話を聞いた。審判委員会は、今回の契約形態が判例にいうところの「合理的期待」には至っていない、しかし、9年半という期間は長く、今回の雇い止めを有効とは言いたくないとはっきり言っていた。審判委員会から示された調停案は、一定の金銭(給料の約1年分に該当)を支払って解決という形をとるが、契約終了は平成19年2月28日とし(平成18年8月での雇い止めは無効と評価されたことになる)契約終了についての相手方の事前の説明が十分でなく、申立人の雇用継続に対する期待を裏切ることになったことについて遺憾の意を表明させるというものであった。

申立人は、あくまでも現職復帰を強く望んでおり、当初はお金はいらないから戻りたいと審判委員に対しても話していたが、審判委員からも相手方とこんな風な関係になってしまった以上、現職復帰するよりも申立人の力量を生かして別の仕事についた方がいいのではないか、と申立人の心情を酌みつつの説得があった。代理人とも話し合った結果、申立人は平成19年2月28日終了で、遺憾の意を示すという条項が入るならよいと納得した。

この日は、双方が調停案について検討し、次回調停成立を目指すことになった。

(3) 第3回期日

労働審判委員会から提示された調停案について、審判委員会と交代で話し合いがされた。相手方は遺憾の意を表明するのは勘弁してほしい、契約終了は平成18年8月にして解決金の額も下げるよう要求してきた。申立人側は、労働審判委員会が提示した調停案で最大の譲歩であると抵抗したが、折り合いが付かないので、申立人とも話し合い、「遺憾の意を表明する」ことだけは絶対に譲れないと線を引いた。これだけ相手方のために頑張ってきたのに、こんな裏切り方は許せないという気持ちが申立人は非常に強かったからである。

相手方もこれを受け入れ(といっても、「事前説明が十分なかった」こと、「期待を裏切ることになった」という表現は削られ、緩和された表現になった)、解決金105万5760円(給料の約1年分に該当)、平成18年8月10日の契約終了を内容とした調停が成立した。

調停が成立した際、使用者側の労働審判員から相手方に対して、人を辞めさせるときには人を雇う時の何倍も気を遣わなければならない、今後はこのようなことがないようにと厳しく言われていた。


3 雑感

労働審判は、第1回目までで勝負がほとんどついてしまうと聞いていたが、まさにその通りだったと思う。委員は、心証を有る程度もった状態で第1回目に臨み、第1回目はその心証を確認する場とすら感じられた。したがって、それまでの準備が非常に重要で、特に、その事案について知らないことはないというくらいまで、依頼者と打ち合わせて事実を確認・把握し、書面で十分に主張しておき、期日には口頭で即座に答えられるようにしておく必要がある。かくいう私も、把握が甘かった点もあったのだが、依頼者がとてもしっかりした方で、審判委員の質問にてきぱき答えてくださって助けられた。

委員についても、労働審判が始まるまでは使用者側の委員は使用者に有利な考え方をするのだろうと思っていた。しかし、意外にも使用者側の委員の方が相手方に対して厳しい見方をしていた。自分の使用者としての経験からしても、相手方のやり方はおかしいと言い切っていた。体験に基づいたものの見方が反映される点は、労働審判ならではの良さがでるところではないかと思う。

申立人のような、いわゆるパートと呼ばれる方は、雇い止めにあったとしてもパートだからと自分であきらめてしまう人が多いのだろう。しかし、今回の申立人のように自分の権利を主張する方たちが増えれば、企業も考え方を変えざるをえなくなってくると思われる。労働審判は、そのような人たちを救済する場になる可能性が大いにある。

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《連載》労働事件随想録@

弁護士 野田 底吾

長年にわたり民法協事務局長を務められ、労働事件を数多く手がけられた野田底吾弁護士に今までのご活躍等を振り返って「労働事件随想録」をご執筆していただき連載としてご紹介させていただきます。

1971年(S46年)4月に弁護士登録して以来、労働者側の弁護士として多くの法廷闘争を担当してきたが、99年秋、大病を患って入院し、2年後にやっと復帰できた。しかし1日4〜5時間ほどしか働けない厄介な身体になってしまった。そんな折、民法協事務局から「労働事件の想い出話を書いてくれ」との依頼。昔、扱った事件の記憶もかなり薄れてしまっているので、結局、思い出すままを(随想)書くことにした。

48年(S23年)4月、名古屋の小学校で入学式となった。前夜、母が作ってくれた布製のランドセルを枕元に置いて眠った記憶がある。嬉しかった! 翌日は満開の桜を背景に「鼻たらし小僧」が校庭に集合し写真を1枚だけ撮った。物が無かった時代である。

77年(S52年)春、兵庫県庁9階の地方労働委員会審問廷。10名ほど労働者が座っている傍聴席から、窓際の審査委員の背に六甲山、諏訪山公園の新緑が輝いて見える。そこでは、不当労働行為による偽装閉鎖で全自運(建交労)神戸トラック事件の証人調が淡々と行われていた。担当の主任弁護士が入院した為、急遽、私がリリーフとして応援に入り、既に3ケ月になる。何となく気迫にかけマンネリ化した雰囲気が審問廷に漂っていた。と言うのも、2年前に職場を潰され、10名がアルバイトをしながら延々と法廷闘争を続けている以上、止むを得ない雰囲気かもしれない。企業閉鎖事件は短期に集中的に力を結集し、敵の心臓に楔(クサビ)を打ち込まなければ、労働者側が干し上がってしまう。それを2年間も続けているのだから、感心と言えばそうかもしれないが、やがてボロボロと脱落者が出、展望は決して明るくはない。

当日の審問が終ってから、私は傍聴者の皆に言った。「君たちは、去年もその前も、この審問廷から諏訪山の花見をしてきたが、来年もここで花見をするのか? 不当労働行為の命令や判決など貰ってみたところで、最高裁まで行くにはまだ5年はかかるのだ。来年こそは、桜の木の下で祝い酒を飲む為に、今日からもっと力を集中しようではないか!」。皆が目頭を熱くした。

それからは、毎週土曜日の晩に全員が組合事務所に集まって戦術を討議する様になり、地労委の傍聴者を確保する為のパンフや署名用紙を作り、全員がオルグとなって多くの職場に飛ぶ様になった。親会社や取引先会社の周辺にビラを貼り、抗議電話を掛け、母ちゃん達も会社役員の妻宛に手紙を出したり、子供を連れて訪問したりし、家族丸抱えの闘争へと発展して行った。それからというもの、毎回の審問廷は応援の仲間や子連れの奥さんらで熱気むんむんの状態となり、審問廷が活気を帯びてきた。相手方の会社役員もおどおどしている。さあ、和解解決のチャンス到来である。それから半年後、ついに会社側から、職場の敷地、建物、トラック類一切を組合に無償で渡し、解決金を支払うという和解案が示され、77年末、3年にわたる闘争は勝利し解決した。

さくら、さくら、弥生の空は…♪♪♪ 思い出すのは神戸トラック事件である。

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労働判例研究会報告(07年3月29日)
@三都企画建設事件

弁護士 濱本  由

こんにちは。あいおい法律事務所の濱本由です。

去る3月29日、三都企画建設事件(大地18.1.6)を題材に判例研究会を行いましたので、その報告をいたします。

冒頭の場をお借りして、解説者という立場にありながら労働法のことがほとんどわかっていない私に逆に解説をしてくださった本上先生、つたない解説に暖かくおつきあい下さった皆様方に心から感謝申し上げます。


1 事案の概要

この事件は、一級建築士等の資格を持ち被告派遣会社Yに登録していた原告Xが、派遣先B社のなした派遣要員交代要請によって、派遣期間の途中でその就労を中止することとなったため、Y社に対して残賃金等の請求をした事案です。


2 Xの請求

XはYに、第1に派遣期間満了までの賃金支払を、これが支給されないときは休業手当の支給を求めました。


3 争点

まずはじめに、派遣期間の終了に合意があったかが争点になりました。もし合意があれば派遣契約は合意によりすでに終了していることになり、未払い賃金の問題は発生しないからです。つぎに、原告の勤務状況に解雇事由があったかが、争点になります。もしあればXの解雇は有効となり、やはり未払い賃金の問題は発生しないからです。


4 結論

裁判所は、合意の存在も解雇事由の存在も否定しました。したがって、理論的にはXとYの派遣契約は派遣期間満了まで存続し、YはXに賃金支払い義務を負うことになるはずです。しかし、裁判所はXの未払い賃金請求を棄却し、基本的に休業補償の支払のみ認めました。


5 裁判所の判断理由

なぜこのような結論に至ったか、裁判所の判断を以下に記します。

被告(Y会社)は、原告(X)の派遣先での勤務状況について、これをよく知る立場になく、派遣先の主張を争うことは極めて困難である。このような状況下では被告は、派遣先による原告の交代要請を拒絶し、債務不履行事由の存在を争って派遣代金の請求をするか否かを判断することもまた困難である。

そうすると、被告が派遣先との間で債務不履行の存否を争わず、原告の交代要請に応じたことによって原告の就労が履行不能となった場合、特段の事情のない限り原告の被告に対する賃金請求権は消滅すると言うべきである(民法536条2項の適用はない)。

一方、被告の判断により、派遣先との紛争を回避し、派遣先からの原告の就労拒絶を受け入れたことにより、派遣先における原告の就労が不可能となった場合は、原告の勤務状況から、被告と派遣先との労働派遣契約上の債務不履行事由が存在するといえる場合を除き、労働基準法26条にいう「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、原告は、被告に対し休業手当の支給を求めることができる。

→Xの残期間の賃金請求権は消滅しているが、休業手当の支給は請求できる。


6 検討

本判決は、民法536条2項を適用せず、Xの未払い賃金請求を認めませんでした。

皆さんもよくご存じのとおり、民法536条とは危険負担について定めた条文です。危険負担とは、双務契約上の債務の一方(本件では労働債務)が、債務者(本件ではX)の責めに帰すべき事由なくして消滅した場合に、他方の債務(Yの賃金債務)も消滅するのか存続するのかという問題です。民法の基本、債務者主義をとっており(民法536条1項)、他方の債務も消滅する(本件ではYの賃金債務も消滅する)こととなります。

しかし、536条2項によると、「債権者の責めに帰すべき事由に因りて履行をなすことあたわざるに至りたる時は債務者は反対給付をうくる権利を失わず」となっています。

つまり、本件で言うと、労働債務の債権者Yの責めに帰すべき事由によってXが労働債務を履行できなかったときは、Xは反対給付である賃金債務を受ける権利を失わないこととなります。

そこで、本件にYの責めに帰すべき事由があるかが問題となりますが、この点について、裁判所はないと判断しています。その理由は、5で述べたとおりです。

したがって、結局XのYに対する賃金支払い請求は認めらませんでしたが、裁判所は、労基法26条にいう「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当すると判断したので、休業手当の支払いは認めました(→労基法26条は民法536条2項より適用範囲が広い:ノースウェスト航空事件最二小判昭62.7.17参照)。


7 感想

研究会のときも皆さんの非難が爆発していましたが、この判決は、派遣労働者にとってあまりに厳しすぎると思います。5のような理由で、派遣元の賃金支払い義務が消滅するなら、派遣元が派遣先とぐるになって気に入らない派遣社員をクビにすることはとても簡単です。派遣社員の地位の不安定さを改めて思い知ることとなりました。また、一級建築士という専門的な資格を持った人間が派遣形態で働いている現状にも改めて驚きました。

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労働判例研究会報告(07年3月29日)
A黒川乳業事件(労働協約解約の効力等)

弁護士 瀬川 嘉章


1 事案の概要

(1) 当事者

被告黒川乳業株式会社は近畿圏で牛乳アイスクリーム等を製造販売する会社である。

原告は、関西単一労働組合(関西地方の個人加盟の合同労組)、同組合黒川乳業分会(構成員4名)(以下「分会」という)及び分会員である。被告会社には、原告分会のほかに、黒川労組(構成員90名)が存し、同分会は、少数組合である。

(2) 就業規則より有利な労働協約の締結

原告分会は、昭和47年11月に結成された後、昭和50年までの間に、次々と原告分会にとって有利な労働協約(以下「本件各労働協約」という)を獲得していった。概要は以下の通りである。「協約」と表記している@はそれ自体が独立の労働協約であるが、「条項」と表記しているA〜Fはある労働協約の一部(例えば、当該年度の賃上げ協定の一部)の一条項である。

@会社事務所貸与協約

A病欠有給条項(当時就業規則上、病欠は無給であり、主に有給となる点が就業規則より有利である)

B生理休暇3日条項(当時就業規則上、生理休暇は無給であったが有給とするとの労使慣行が存在しており、その慣行を協約化したものである)

C産前産後等休暇有給等条項(就業規則上は無給であり、主に有給となる点が就業規則より有利である)

D休暇等による一時金不利益査定禁止条項(病気欠勤、自己都合欠勤等を一時期査定の事情としないとされた。就業規則上規定なし)

E健康保険料・年金労働者3割負担条項(就業規則上規定なし)(なお、保険料負担条項は、健康保険法161条1項、厚生年金法82条1項で、使用者と労働者が半額ずつ負担すると定められている)

F遅刻30分容認条項(当時、30分以内の遅刻を容認する(賃金も支払われる)との慣行があり、これが協約化された)

(3) 使用者による労働協約の解約申し入れ

被告会社は、平成11年7月21日付で、本件各労働協約について、概要、以下の申入れをした。

@事務所貸与は、廃止。

A病欠は、無給とする。

B生理休暇は、無給とする。

C産前産後等休暇は無給とする。

D休暇取得によるマイナス査定を認める

E負担割合を5割ずつとする。

F遅刻30分容認条項は廃止。

その後、多数回の団体交渉を経て、被告会社は平成13年9月4日付で、同年12月10日をもって、ケ@〜Fについて解約を申入れた。この解約申入れは、@については労働協約の全部解約の申し入れとなるが、A〜Fについては労働協約の一部の条項のみを解約する申し入れ(一部解約の申し入れ)である。

(4) 労働解約申し入れに伴う就業規則の変更

被告会社は、労働解約申し入れの後、平成13年12月11日から新就業規則を適用した。また、同時に退職金規程を創設した。その内容は、概要、上記(3)で会社が主張した通りである。

(5) 分会員に対する処分

被告会社による新就業規則の制定後、分会員3名が遅刻をしたところ、被告会社が、新就業規則に基づき届出書提出の命令を発した。分会員が、遅刻容認条項が効力を有することを前提に拒絶したので被告会社は、分会員らに対し懲戒処分をした(当初訓戒・始末書の提出、その後出勤停止)。そして、出勤停止を受けた分会員が、賃金減額処分を受けた。

(6) 以上の経緯のもと

ア 労働協約及び就業規則の変更について

A 原告組合らが、被告会社による労働協約の解約は無効であることの確認請求

B 分会員らが、労働協約の解約は無効であるから、従前の(労働協約に従った)労働条件によってのみ就労の義務があり、新たな労働条件によって就労義務のないことの確認請求

イ 新就業規則に基づく懲戒処分、賃金減額処分について

C 分会員らが、懲戒処分が無効であることの確認請求

D 分会員らが、減額された賃金の給付請求

などの訴えを提起した。


2 争点及び各争点に対する判示の内容

本件は、長年にわたる複雑かつ継続的な労使紛争が発展した事件であり、論点も多数に及ぶ。以下では、確認の利益、労働協約の一部解約の可否の論点について重点をおいて紹介する。

(1) 争点1 確認の利益

裁判においては、訴訟要件として、訴えの利益(判決をすることの必要性、実効性があること)が必要とされる。訴えの利益がなければ、(通常中身についての判断がないまま)訴えが却下される。本件ABCのような、「…せよ」という訴え(給付の訴え)ではなく「…であることを確認してくれ」という訴え(確認の訴え)においては、判決が出ても強制的に「…せよ」といえず(執行力がない)紛争解決機能が弱いことや、確認の訴えを認めるとありとあらゆることが訴えの対象となり得ることなどから、特に、訴えの利益(確認の利益)の吟味が必要とされている。

確認の利益の吟味の視点としては、T 対象選択の適否(原則として、「自己の」「現在の」「権利法律関係の」「積極的確認」の場合にのみ訴えの利益が認められるとされる)、U 即時確定の利益(法的地位に不安が現存している場合にのみ訴えを提起できる。将来の不安があるにすぎない場合は原則として認められない)、V 確認訴訟によることの適否(給付訴訟によることができる場合は原則として給付訴訟をすべき)、が一般的に承認されている。

以下では、ABCのうちAの訴え(Tが問題となる)に関する判示内容について紹介する(Bの訴えはUが、Cの訴えはVが問題になるが、一審、控訴審とも、基本的には確認の利益を認めている)。

形式的には、本件各協約は@事務所貸与協約を除き組合自身ではなく他人である分会員の権利義務を規定したものであるので、組合が本件解約が無効であることを確認する請求は、「自己の」法律関係ではなく「他人間」の法律関係の確認である。他人間の法律関係の確認が原則として認められない。というのは、例えば、甲さんが、乙さんと丙さんとの間の争いごとに首をつっこんで、乙さんと丙さんとの間の法律関係について確認の裁判をしてみたところで、判決は紛争当事者である乙さんや丙さんには及ばず紛争は解決しないし、通常紛争当事者ではない甲さんには裁判をしてまで乙さんと丙さんの法律関係を確定する利益はないからである。

この点、地裁判決は、「法律上の紛争は、実質的には…組合員と被告会社との間に生じている…訴えを認めたとしても…組合員に対して既判力等の法律上の効力を及ぼすものではなく、紛争解決の方法としても適切なものということはでき」ないとして、形式論、原則論に従い、@事務所貸与協約を除き確認の利益が認められないとした。これに対して、控訴審は、判断を変更した。すなわち、確かに、「具体的な権利義務に関する紛争は組合員に生じるものである」が、組合と会社は締結当事者として相互に誠実な履行を求め、誠実に履行すべき義務を負う法的地位に立つし、本件紛争は労働協約の解約の効力、解約が有効であることを前提に制定された新しい就業規則の効力をめぐって生じているのであるから、その締結当事者である組合と被告会社との間において労働協約解約の当否を争わせることが紛争解決にとって直裁、有効であるし、これを確定しなければ今後の健全な労使関係を構築することも困難となる、組合が受けた判決については組合員らに対しても反射的に判決の効力が及ぶことになるなどと判示した。

一審は形式的に判断をしたのに対し、控訴審は、どの当事者間でどのような確認がなされることが一連の紛争解決にとって有効であるかについて実質的に踏み込んだ判断をしたと評価し得る。

(2) 争点2 本件各労働協約の解約は有効か

Aの訴え及びBの訴えの当否の判断のためには、本件各労働協約の解約が有効であるかが問題となる。

この点法は、有効期間の定めがない労働協約については、当事者の一方が、署名又は記名押印した文書により90日以上の期間をおいて解約の申入れをした場合は、期間経過により解約の効力が生じると定めている(労組法15条3項、4項)。

本件各労働協約は期間の定めがない労働協約であって、被告会社の解約申入れは、署名又は記名押印した文書により90日以上の期間をおいた解約申入れがなされていることから、原則として、申入れで指定された平成13年12月10日において解約の効力が生じることになると思える。

ただ、本件で解約申し入れがなされたのは、@事務所貸与協約を除き労働協約の一部の条項である。このような労働協約の一部のみの解約申入れについては、労働協約のうち自分が解約したい一部だけを取り出して解約することができるのかという問題がある。なお、本件解約については一部解約であることのほかに、解約権の濫用又は不当労働行為にあたり無効であるということも主張され(分会の否認、黒川労組との差別を主張する)、この点についても詳細な事実認定がなされているが、本稿では割愛する。

この点について、第1審は、「労働協約は、利害が複雑に絡み合い対立する労使関係の中で、関連性を持つ様々な交渉事項につき団体交渉が展開され、最終的に妥結した事項につき締結されるものであり、…一方当事者がその一部のみを解約することは、他方の当事者が労働協約の締結時に予想していなかった不利益を被るおそれがあるから、原則としてその一部のみを解約することは許されない…当該条項が、労働協約の締結に至る経緯やその内容自体にかんがみて、ほかの条項と対比して独立しており、一部のみを解約することによって他方の当事者に労働協約の締結当時に予想していなかった不利益を与えないなどの特段の事情が認められる場合に限り、例外的に一部のみの解約も許される」とした上で、個別の条項ごとに検討した。結論としてはA病欠有給条項以外の一部解約は有効とした。Aの具体的検討が参考になるので紹介すると、「原告組合らはかねてから組合員の労働条件に関し、割増賃金の増額、労働時間の短縮、固定祝日、年次有給休暇の増日、精勤手当の基本給への組み入れ、日給制から月給制への変更等を要求してきたところ、被告会社は、これに対し、固定祝日、年次有給休暇の増加、精勤手当の基本給への組み入れや月給制への移行には同意したものの、パートタイマーについては日給月給制とすると主張したため、原告組合らは、月給制とする要求を取り下げ、すべての従業員につき日給月給制とする代わりに、病気や怪我による欠勤については有給とするよう要求した結果、…締結されたもの…病欠有給条項のみの解約を認めることは、他方の当事者に同協約の締結当時に予想していなかった不利益を与えるというべき」と判示している。控訴審でも、判断の枠組み、具体的検討とも、基本的には第1審が維持された(より具体的な検討がなされている)。

(3) 争点3 就業規則の不利益変更の効力

仮に労働協約の解約の有効性が認められてしまった場合に、分会員がそれでも労働協約の内容にしたがった労働条件のままであるとの主張をしようという場合に、考えられる法律構成としては、ア 労働協約の内容が分会員と被告会社の個々の労働契約を変更(いわゆる「化体」)していたから労働協約が解約されていたとしても労働協約で定められていた内容と同じ労働契約関係が存続している(そして、就業規則より労働者に有利であるから個別の労働契約が優先する)、イ アが認められないとしても、本件労働協約解約を前提に制定された就業規則が従来の就業規則より不利益に変更されているところそのような就業規則の不利益変更は許されないという主張が考えられる。

このうちアについては一般的に余後効と呼ばれるが、これまでの裁判例においては否定されているところであり、本件でも否定されている。

次にイについては、就業規則の不利益変更となるF等について、基本的には最高裁判決の枠組みにしたがった上で個別に検討し、結論として変更を有効とした。

(4) 争点4 懲戒処分の有効性(C、Dの訴えについて)

Fについての就業規則の変更が有効であるとされたことから、分会員に対する懲戒処分も有効とされた。

なお、「始末書の提出」を要求しこれに従わなかったことによって懲戒処分をしたことは、労働者の改悛・反省という内心にわたる事項を強制する点で許されないのではないかという点も問題となり得る。この点については、始末書の内容が事態を報告し、陳謝の意思を表明する程度を超えるものであれば人格権を制限するものとして許されないとした上で、本件ではそのような事情は認められないとした(控訴審、第1審も結論は同様)。

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新人弁護士会員の紹介

弁護士 野上真由美


この度入会しました59期の野上真由美と申します。

弁護士になって約半年経ちましたが、弁護士の責任の重さを段々感じるようになった今日この頃です。

今回、挨拶文と合わせて労働審判事件について書かせていただきましたが、この事件を通して依頼者の思いを代弁しながらも、訴訟や審判の流れをみながら依頼者と話し合い、依頼者にとって最良の解決策を見つけだすことの重要性を体験することができました。また、企業などの大きな法人に、労働者が立ち向かうというのは精神的にも非常に辛い闘いだということも感じました。

私が労働事件に関わったのは、この労働審判が初めてでしたが、これをきっかけに労働事件もやっていきたいと思っています。

これから、民法協を通して生きた勉強をし、実践でどんどん生かしていこうと考えておりますので、よろしくお願いします。

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