学校法人マリスト国際学校(被告)は、アメリカのカリキュラムに従ったカトリック系学校であるマリスト国際学校を設置している。原告はアメリカ国籍で、平成16年8月1日に被告に常勤の美術教員として雇用され、2回契約更新されたが(教員全員が有期雇用契約である)、平成19年7月31日付けで「雇止め」処分を受けた。
原告は、平成19年3月13日に結成された兵庫私立学校教職員組合マリストブラザーズ分会の分会長であり、組合を嫌悪した被告から授業不適格等を名目にして「雇止め」処分を受けたという不当労働行為の事案である。
(1) 平成19年1月16日、原告は校長らから次年度(平成19年8月1日から翌年7月31日)は雇用契約を更新しないと一方的に通告された。原告が、雇止めを撤回するように求めたが、校長は組合結成者とは徹底的に闘うと発言し、教職員に誰が組合員なのか尋ね回るなどしていた。
その後、組合から団体交渉や雇止め理由説明書の交付を要求したが、被告は拒否するなど不誠実な対応を継続し、その後送付された「雇止め証明書」でも、やっと開かれた2回の団体交渉でも雇止め理由の詳しい説明はなく、被告からは雇止めは撤回しないという回答しか得られなかった。
組合が7月に3回目の団体交渉を要求したが、被告は自主的な解決は望めないとして団体交渉を拒否した。
(2) 組合が被告とのやり取りを進める中、原告の地位確保手段として労働審判を選択することも検討されたが、原告が全くと言っていいほど日本語を理解できないため、口頭でのやりとりが中心になる労働審判には向かないであろうということで、本訴請求を選択し、平成19年10月17日に地位確認等請求事件を提訴した。
また、日本には原告を支援する親戚もおらず、給料が得られないと原告はたちまち生活に困窮するため、平成19年11月7日に地位保全と賃金仮払いの仮処分を申し立てた。
原告は英語しか話さず、私たちは日本語中心のため、私教連の方や通訳者に打合せの度に通訳をしていただく必要があった。書面に関しても、英文の証拠には日本語訳を添付し、日本語の提出文書は英文に翻訳し、原告本人に確認してもらって提出するという作業が必要になるため、提訴までにやむをえず時間がかかった。また、意思疎通に関しても、通訳を介してのやりとりは直接会話をするのと違い、もどかしさを感じる面も否定できない。
しかし、言語の問題は避けて通れず今後も続くものであり、通訳を介しての議論等にも慣れていく必要がある。訴訟はまだ始まったばかりなので、粘り強く活動を続けていきたい。
このページのトップへ神鋼機器工業鰍ヘ、神戸製鋼所の系列会社で、鳥取県倉吉市に本社工場(従業員300人)、明石市大久保町に明石工場(200人)を有する資本金3億円の株式会社で、LPガスボンベの製造で全国一の生産を誇っていた。1970年(S45)頃は、国労から鉄労が分裂した如く、社会党系総評の主だった組合が資本による分裂攻撃に晒され、各地で民社党系同盟の御用組合が相次いで誕生した。県下でも大和製衡や吉原製油などで分裂攻撃があり、神鋼機器でも会社の肝いりで第二組合が誕生した。当時、総評全金の神鋼機器支部(以下「支部」という)書記長・宮脇氏は、専従期間を終え協約に従って元の職場に戻るところを、会社の嫌がらせにより全く別のシャーリング(鉄板の切断作業)職場に不当配属されてしまった。そして配属直後の71年9月13日、彼は慣れぬシャーリング作業により左手指3本を切断した。支部は、これを不当労働行為の結果と位置づけ、藤原弁護士を主任に立て労災による損害賠償訴訟を提起した。この弁護団に参加した私は、これが契機になって、以降、明石工場が閉鎖になる79年末まで、この支部と付き合うことになった。当時は、連合赤軍や革マルなどの内ゲバ事件で裁判所も「荒れる法廷」となっており、国鉄では動労が実力行動を伴う「鉄労解体」路線を取っていた為、全金神鋼機器支部もこの影響を受け「第二組合解体」闘争を行っていた。
労災訴訟では、裁判所の現場検証に全組合員がストを打って鉢巻、腕章、ゼッケンを着け、プラカードを掲げて裁判官を現場に迎え、会社側代理人を震え上がらせたし、門前ピケでは第二組合員を取り囲んでこずき廻す、管理職を罵倒する等の実力行使を平気でやり始めていた。この様に騒然とした中、74年9月13日午後1時(丁度3年前の同日同時刻に労災事故発生)、労災訴訟で勝訴の判決―判決文には過失相殺25%という問題はあった―が言渡され、これが第二組合解体闘争に一層、油を注ぐ結果となり、以降、支部は第二組合幹部に対する猛烈な嫌がらせの実力行使と、平組合員に対する執拗な復帰工作を仕掛け、遂に77年頃には第二組合を崩壊させ解体してしまった。然し、この時の第二組合に対する実力行使が、暴行、監禁等の犯罪を構成するとして刑事訴追を受け、神戸地裁と鳥取地裁で刑事裁判が始まった。私が主任となり山内弁護士と君野弁護士(鳥取)とで弁護活動を行ったが、毎回「荒れる法廷」の連続で、例えば、胸にゼッケンを着けた組合員が傍聴席全部を占拠し、傍聴席の不規則発言はしょっちゅうで、裁判官と喧嘩する。ゼッケン取外し命令が出ると、激励文を染め抜いたシャツを上から被ってゼッケンを隠す(裁判官はシャツを脱げとは言いにくい)。被告人の発言チャンスを捉えては延々と大弁論をする。特に鳥取地裁では東京から公安事件専門の裁判官が転勤と称して就任し、法廷から正門までロープを張って通路状態にし、その部分も法廷の一部だと強弁し法廷警察権を拡張、公道でのシュプレヒコールを「法廷での審理ができない」と称して閉廷する、傍聴席の3分の1を記者席と称して空席にし傍聴者を制限する等の権力的訴訟指揮を強行した。弁護団はその度に裁判官の忌避申立を行い対抗したが、本当に毎回の刑事法廷では大汗の連続であった。私は月1回のこうした刑事裁判の為、姫路からバスに揺られて3時間、戸倉峠を越えて鳥取まで数十回も弁護活動に赴いたが、丁度この時期は、解同による八鹿高校事件とも重なり、私も山内弁護士も豊岡市での解同対策活動を済ませた足で、鳥取に向かう等し苦労した。
結局、刑事事件は神戸、鳥取地裁とも有罪判決(執行猶予)で終ったが、その後、明石工場では会社による労務管理が次第に困難となり、折からの不況も重なって工場閉鎖の問題が発生。支部も「会社は組合が明石工場内にある別紙図面の組合事務所、広場、建物を組合活動のため使用することを妨害してはならない」との仮処分決定を得て、工場敷地の売却を阻止する戦術を取り抵抗したが、結局、解決金を取ることで工場閉鎖を認める結果となってしまった。
刑事裁判を取組んでいる最中、倉吉と明石の組合員が中間点の戸倉峠に集まり、泊り込みで裁判対策会議を開いた際、夕食後の懇親会で組合員が鳥取民謡「貝殻節」を歌ってくれたが、今もこの民謡を聞く度、私は当時の全金神鋼機器支部の闘いを思い出している。帆立貝を採る労働はつらい。
♪♪ 何の因果で 貝殻漕ぎなろた カワイヤノー カワイヤノー
色は黒うなる 身は痩せる ヤサホーエーヤ ホーエヤエーエ ヨイヤサノ サッサ ♪♪
このページのトップへここ10年くらいの間に労働者派遣の原則自由化を初めとして,「雇用形態の多様化」と称する労働者の権利破壊が急速に進んでいる。人間の尊厳まで踏みにじられるワーキングプアが増殖している所以である。
実際は労働者として働かせながら、労働者としての権利保護義務を免れるための脱法としてしばしば使われるのが「請負契約」や「委託契約」を装う手口である。契約の打ち切り(雇止めもしくは解雇)、残業代不払い、有給休暇の取得や労災保険の適用などが問題になる場合は、労基法上の「労働者」と認められるか否かという問題になる。これに対して、労働組合に加入もしくは結成して団体交渉申し入れを行うと相手方(「注文主」「委託者」)に応諾義務があるか、あるいはまた組合加入した「請負人」「受託者」との契約解除が支配介入になるかなどが問題になる場合は、労組法上の「労働者」と認められるか否かという問題になる。プロ野球選手が結成する選手会がストライキ(=労務提供拒否)をした時に、球団が損害賠償請求できるかという論点があったが、これもプロ野球選手が労組法上の「労働者」に当たるか否かという問題である。
この労組法上の「労働者」性に関する労委命令を2例、紹介する。
(1) 事案の概要
本件は、イナックスメンテナンス株式会社(以下「IMT」と表記)と「業務委託契約」を結んで働くCE(カスタマーエンジニア)と呼ばれている労働者が、2004年9月建交労INAXメンテナンス近畿分会を結成・公然化し団体交渉を申し入れると、IMTはCEとの「業務委託契約」を口実に「CEは『個人事業主』であり労働組合法上の労働者でない」として団体交渉を拒否したため、団体交渉拒否は不当労働行為であるとして2005年1月27日に大阪府労働委員会へ不当労働行為救済申し立てを行なったものである。
IMTは、大手住宅設備メーカー鰍hNAXの100%小会社で従業員は正規社員が約200人、CE約550人、資本金は2000万円の株式会社である。業務は主にINAX製造のバス・トイレ・台所等給排水設備の修理・維持管理等で、現場でこれらの業務に携わっているのはCEであり、IMTはCEを会社組織にまるごと組み込んで成り立っている。
IMTは、「CEは労働者でない」との口実を労働組合否認・団体交渉拒否の唯一の理由としていたが、府労委命令では、それが明確に否定され、CEの労働者性が認められた。CEの労働条件は「委託契約書」、「CEハンドブック」、「CEライセンス制度」等によって全国一律に決められており、一方的に改悪されることはあっても一人ひとりが会社と交渉して改善された例はなかった。
(2) 命令の意義
命令が示した基準は、「労働組合法上の労働者とは、使用者との契約の形態やその名称の如何を問わず、雇用契約下にある者と同程度の使用従属関係にある者、又は労働組合法上の保護の必要性がある者と同程度の使用従属関係にある者」というものであり、従前の基準を踏襲したものであった。さらに本件では、CEが指揮命令下にあって使用従属関係があることや報酬は対価に相当することまで認定しており、今後労基法上の「労働者」として労働契約上の保護を求める論拠にもなりうる認定である。形式にとらわれず実態を捉えたこと、出社退社をしないで個人宅から現場に出向く形態でもPDAなどの機器を使っていることなど指揮命令が及んでいる根拠としている。
(1) 事案の概要
メトロコマースは、東京メトロ(かつての営団地下鉄)の構内で営業している売店『メトロス』を経営している会社。この売店では、夫婦との間で「業務委託契約」を締結し、その店舗の売店業務を夫婦に任せて営業してきた。
メトロコマースが経営している売店は約150店舗、そのうち40店舗弱がこの「業務委託」によるもので、夫婦が交替して店に入っている。これらの夫婦は「委託販売員」と言われている。その他の店舗は社員やアルバイトが入っている直営店。こうした業務委託契約は、1年契約とされているが毎年更新されてきており、十数年夫婦で売店をやってきた人も珍しくない。
これらの売店の夫婦が東京ユニオンに加入して支部を結成し、メトロコマースに対して、会社と「商品販売の委託契約」を締結した委託販売員との契約継続等を議題とする団体交渉を求めてきたが、会社は「労働契約ではない」としてこれを拒絶してきた。そのため、東京ユニオンは2005年9月に団交拒否の不当労働行為救済命令申立をした。
本命令は、「労働契約ではない」との会社側の主張を基本的に全て退け、組合員ら委託販売員は労組法3条の労働者であると認め、会社に対して団交拒否の不当労働行為を認定した。
(2) 判断の要旨
@ 委託契約の性質〜会社は、委託販売員が長くこの仕事に携わることを期待し、また、予定しており、実際に委託契約は長期間にわたり何度も更新されているので、委託販売員の会社への専属性は高い。
A 労働時間〜会社は、委託販売員2名と委託契約を締結し、契約上、休店日と販売時間を定めているが、委託販売員それぞれの労働時間については定めておらず、委託販売員2名が販売時間の中でどのように時間配分を行っているかを管理することもしていない。
しかし、会社が明示的に労働時間を定めていなかったとはいえ、委託販売員は、実際には、長時間の販売業務に就かなければ委託契約を守ることができない状況に置かれており、会社は、売店の販売時間という形で、実質的に委託販売員が業務に従事する時間を制約しているものといえる。
さらに、委託販売員は、委託契約上は禁止されていなかったものの、長時間の販売業務を行う必要があるため、到底他業務に就くことはできない状況にあり、拘束性も非常に高い。
B 報酬〜委託料の大部分を占める委託料は、月の実売上高に対して、商品の種類によって異なる一定の率を乗じて算出されており、委託料は、委託販売員2名それぞれの口座に半額ずつ支払われている。その限りでは、委託料は、委託販売員各個人の業務従事時間に対応して支払われているわけではないといえる。
しかし、委託販売員が委託料すなわち売上高を伸ばそうとしても、その方法は非常に限定されている。そして、販売設備等は会社が用意していることから、委託販売員には経費圧縮等の努力を行う余地が存在していない。
その他、委託販売員が委託料で生活を成り立たせていたことなどの諸事実を総合すると、委託料は、実質的には、販売時間の遵守が規制されている売店における販売業務に一定時間従事したことへの対価であるとみるのが相当である。
C 業務に対する指示〜会社の委託販売員に対する詳細な指示は、委託業務の性質から必要とされる範囲を超えているものということができ、委託販売員は、会社の指揮の下で販売業務に従事していたといわざるを得ない。
D 結論〜以上のとおり、1)委託販売員の専属性の高さ、2)委託販売員との協議等の不存在、3)委託販売員の労働時間の実質的な制約、4)労務提供への対価である委託料、5)委託料のみによる家計の維持、6)委託契約等の性質から当然に業務及び就労に関して必要とされる以上の会社の詳細な指示などが認められることから、委託販売員は、労働組合法第3条にいう「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」に当たり、団体交渉の保護を及ぼす必要性のある労働者であるというべきである。
(3) コメント
この事案は、委託販売員それぞれの労働時間が決められていないこと、報酬が売上高のみに基づいて算定されることなどからすれば、かなり微妙なケースだったのではないかと思われる。それだけに、労組法上の「労働者」性を認めた根拠事実については、他の類似事例でも大変参考になろう。本命令からすると、労組法上の「労働者」性はかなり広く認められる余地があり、イメージ的には労基法上の「労働者」性よりも広い感じがする。
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