兵庫県労働委員会の労働者委員は、第31期まで総評3、同盟3、中立1の割合で任命され、地方労働委員会の任命手続きを定めた第54号通牒(昭和24年労働省発)に沿うものでした。しかし、労戦再編で兵庫労連・連合兵庫に分かれた後の第32期以降、労働者委員7名全員が連合兵庫推薦委員で独占され、18年間非連合推薦委員は排除され続けてきました。
県は、連合兵庫推薦委員であっても「労働者委員に任命されたからには労働者全体の利益を守る」はずだから問題ないと主張しています。しかし、労働者委員の「連合独占」により、連合系と非連合系の違う系統の労働組合が併存する同一産業や企業で、非連合系の労働組合が不当労働行為からの救済を求めて申し立てた場合、連合推薦労働者委員との密接な協議等ができず信頼関係が築けないため、非常に不利な立場で審議を進行せざるを得ないなど、その弊害が顕著となっています。
労働審判制度が06年4月に施行され、労働審判申立から平均で約2ヶ月ほどで公正な解決が図られていることから、評判が良く労働審判制度利用者は激増しています。
一方で兵庫県労働委員会は、解決までに数年かかり、しかも使用者側に偏向した命令が多く、使い勝手が悪いといわれ申立件数が激減、兵庫県労委に対する不信から大阪府労働委員会へ申立をする労働組合さえあります。
08年2月27日、第40期労働者委員任命取消訴訟第1回弁論期日が神戸地方裁判所204号法廷で行われました。第37期より裁判闘争を始め、第39期補欠委員選任を含めて今回で第5次の裁判です。
被告兵庫県に対して証拠書類の提出を求める釈明処分について、被告代理人弁護士は「必要ない」としましたが、裁判長は「必要ないとは言えない」と提出を命じる考えを示しました。
原告代理人を代表して意見陳述に立った羽柴弁護士は、「何度敗訴しても兵庫県の労働者委員選任について異議を申立、同種訴訟を提起するのかについて、その想い」を訴えました。
2月8日から取り組み始めた裁判所宛「公正判決を求める要請書」団体署名は、当日までに19団体分が集まり、弁論が始まるまでに第6民事部書記官室に提出しました。その後、県内22組合、県外14組合分が寄せられています。
団体署名取り組み目標は、第2回弁論期日までに50団体、第3回弁論期日までに100団体としてます。前回裁判(第3次、第4次併合)と同じ民事第6部(橋詰均裁判長)で審理されるため、短時日で結審する可能性があります。全ての組織で取り組みの強化をお願いします。
このページのトップへ日本マクドナルドが直営店の店長を「管理監督者」として扱い、残業代などを支払わないのは違法として、埼玉県内の同社直営店店長、高野広志さん(46)が同社に未払残業代や慰謝料の支払い等を求めた訴訟で、東京地方裁判所は、平成20年1月28日、同社の店長は労働基準法の「管理監督者」に当たるとは認められないと判断し、同社に対し未払残業代など約755万円の支払を命じました。
(1) 高野さんは、昭和62年に日本マクドナルドに入社。平成11年10月に店長に昇格後、埼玉県内の直営店を転々と異動しました。
(2) 最も多忙を極めたのは、平成16年7月東松山市内の店舗に移った後、正社員の部下が一人もいない状態となった時期であり、特に同年12月に入って頼りにしていた店員の一人が他店に移ったため、高野さんの労働環境は更に厳しいものとなりました。高野さんは、開店時間に間に合うよう午前6時すぎに店に出、自らも調理・接客を担当。途中で仮眠・昼食を取りながらアルバイトの教育や売上金管理などの店長業務もこなしていました。午前0時頃まで働くのが通常で、同年12月の残業時間は137時間にも上り、休日はありませんでした。
(3) 平成17年2月に現在勤務する熊谷市内の店に異動となりましたが、アルバイトが過労で入院してしまい、高野さん自身が人手不足を穴埋めせざるをえなくなりました。また、同社には、店長に店舗運営について指示する「コンサルタント」、さらにそれを統括する「マネージャー」がおり、高野さんは人件費削減等を常に求められ、自らシフトに入らなければなりませんでした。
(4) 手にしびれが走るようになり、お札を数える指がつったように動かなくなったため、医師の診察を受けたところ、脳梗塞の可能性を指摘されます。
高野さんは、命の危険を感じて現状を打破するべく活動を開始しようとしましたが、当時日本マクドナルドには労働組合がなかったことから、同年5月に個人で入れる労働組合「東京管理職ユニオン」に加入し、12月に提訴に踏み切りました。
なお、日本マクドナルドでは、正社員4,500人余りのうち、1,715人が店長の立場にありました(平成19年9月現在)。
(1) 本訴訟の争点としては、判決では6項目挙げられていますが、主な争点は、店長である原告が労働基準法41条2号「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」という。)に当たるか、という点です。
(2) これまでも、「管理監督者」に当たるかという点は裁判上多く争われてきました。「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、名称にとらわれず実態に即し判断するべきと解されています(菅野和夫「労働法第七版)が、これも解釈の余地が大いにあるところで、過去の裁判例等でもその解釈基準が示されています。
(3) 本訴訟では、まず、管理監督者が労働基準法の労働時間等に関する規定の適用を除外されている趣旨として、「管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られて」おり、保護に欠けるところがないという点を挙げた上で、「管理監督者」といえるためには、実質的にこの法の趣旨を充足するような立場にあると認められなければならない、との解釈基準を示しました。
したがって、本訴訟において、「管理監督者」と言えるか否かは、@経営者と一体的な立場において、労基法上の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないといえるような重要な職務と権限を付与されていたか、A賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られていると言えるか、の2点で判断されることになります。
上記のような基準を示した上で、裁判所は以下のとおり認定をし、職務の内容・権限及び責任の観点からしても、その待遇の観点からしても、日本マクドナルドの店長である原告は管理監督者には当たらないと結論づけました。
(1) 店長の職務・権限についてア 店長は、アルバイトの採用・時給の決定、アルバイト内部での昇格、アルバイトの人事考課・昇級の決定に関する権限を有している。
しかし、社員を採用する権限はなく、一定の社員(内部では「アシスタントマネージャー」と言われる立場の者)に対する第一次評価者としてその人事考課に関与はするものの、その後、二次評価・三者面談・評価会議等、店長の関与しない手続を経て最終決定に至るのであり、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとは言い難い。
イ 店長は、店舗従業員の代表者との間で時間外労働等に関する協定を締結するなどの権限を有し、店舗従業員の勤務シフトの決定や努力目標として位置づけられる次年度の損益計画の作成、販売促進活動の実施等について一定の裁量を有し、また、店舗の支出についても一定の決裁権限を有している。
しかし、店舗の営業時間、メニュー、原材料の仕入れ先、商品の価格設定は本社の指示に従わざるを得ないし、企業全体の経営方針等の決定過程に関与しているという事実は認められない。
ウ 以上のことからすると、店長の職務・権限は店舗内の事項に限られ、経営者と一体的な立場において、労基法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
(2) 賃金・勤務態様において優遇措置が取られているかア 日本マクドナルドでは、各店舗の営業時間帯には、必ずシフトマネージャー(店舗の各営業時間帯に商品の製造・販売を総指揮する者)を置かなければならず、これが確保できない時間帯は店長自ら務めなければならない。店長としての固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要する上に、上記シフトマネージャーとしての職務を行わなければならず、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされる立場にあるから、店長に労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
イ 全店長のうちの10パーセントの年額賃金は、店長より下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より11万円余り低額である。
また、全店長のうちの40パーセントの年額賃金は、ファーストアシスタントマネージャーの平均年収と比較して44万円余りしか高額ではない。店長の長時間にわたる労働時間と併せて考慮すると、店長の賃金は、労基法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては不十分である。
権限や裁量を伴わない「名ばかり管理職」は外食産業以外にも広がっているとされています。管理監督者の認定を厳格に判断したこの判決は、日本マクドナルドのみならず国内企業での管理職の在り方に一石を投じたものといえるのではないでしょうか。
実際、日本マクドナルドでは、本件提訴をきっかけの一つとして同社に独自の労働組合ができ(「日本マクドナルドユニオン」)、更に、高野さんに続き、同社の元店長だった2名の方が、在職中管理職として扱われ残業代が支払われなかったのは不当として、未払残業代の支払いを求める訴訟を提起することが予定されているとのことです。また、今回の判決を受け、セブン−イレブン・ジャパンが直営店店長に対し残業代支給を決め、東日本で和風レストランを運営するカルラが人事制度を見直し、平成21年3月を目処に店長に残業代支払い、店長の職務内容を見直して管理職から外すことを決める等店長に対する待遇改善の動きが外食産業大手にも広がっています。
また、政府が導入を目指したホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の規制除外)の議論が再燃することがあれば、本判決は大きな影響をもたらすことになるのではないでしょうか。
このページのトップへ戦前からJR兵庫駅前の山側には、小型船舶エンジンを製造していた神戸発動機という会社があった。1976年(S51年)当時、この神戸工場では300人、長崎工場では400人の工員さんが働いており、各工場にはそれぞれ独立した労組があって(神戸250人、長崎300人)、上部団体もなく純然たる企業内活動に終始していた。この年の3月、会社は年間16億円もの経常利益を出しながらも、突然、神戸工場の縮小という合理化案を発表した。「市中にある神戸工場では、騒音や臭気、排水で近隣に公害を発生させており、将来的な不況に備えて工場をスリム化しておく必要がある」というものだった。会社の本音は神戸工場を閉鎖し、今後の生産をすべて長崎工場に集中させて生産性の向上を図る点にあったが、長年のぬるま湯的労使関係に浸っていた組合は、会社の合理化案を楽観視し、数度の生産協議会を持っただけで、「……技術部を長崎工場に主体を移し、積極的な受注活動と新機開発の体制を確立し、……仕事量を確保して雇用の安定を計り、神戸・長崎工場の存続に会社として最大限の努力をして行く」なる美辞麗句に惑わされ、早々に確認書を交わして技術部門の長崎移転を認めてしまった。これにより神戸工場は、重要な頭脳部分が切り離され、胴体だけの工場になってしまった。
案の定、半年後の10月末になるや、会社は再び動き始め、「来年3月に神戸工場を閉鎖し、全員を長崎に転勤させる」旨の提案をしてきた。当時、殆どの工員が地元出身者だっただけに、簡単に長崎へ転勤できる筈もなく、殆どの人が退職に追い込まれるのは必至であった。会社は、怒る組合を目前におきながらも、相変わらず団交でノラリクラリ言葉をもて遊び、時間切れを狙っていた。追い込まれた組合幹部は、企業閉鎖闘争で経験豊かな全国金属労働組合兵庫地本に協力を求めた。早速、組合と兵庫地本幹部(柳田委員長)、それに法律顧問の私と羽柴弁護士が参加して対策会議が持たれた。そこでは、工場閉鎖・長崎移転反対で意思統一を図り、同種産業の労組に呼びかけ神戸発動機支援共闘会議を結成して闘うことが決められた。そして闘争戦術として、組合員全員に対し、@決して個人的な対応をしない旨を徹底させ、更に、A交渉権限をすべて組合に委譲する旨の《誓約書※1》を書かせ、B《団結メモ※2》用紙を全員に配布することとし、直ちに@〜Bが実行された。すぐ団交の申入れがなされ、その席上で、組合は集約した誓約書コピーを会社に渡し、「今後、会社が組合員個人に配転の説得や退職勧奨を行う等の肩叩きをすれば(個別交渉)、それは組合の闘争戦術(窓口一本化)に対する支配介入、団交拒否の不当労働行為になる」旨を警告した(※3)。
しかし会社は、組合が上部団体もなく資金力も乏しい単立組織であることを甘く見、早々に組合が移転絶対反対から退職条件協議へと闘いをトーンダウンしてくるものと予測し、組合の警告を無視して公然と個別勧奨を働く等、組合に揺すりを掛けてきた。早速、私達は11月8日、これが不当労働行為に該当するとして兵庫県地労委に救済申立を行うと共に、支援共闘会議の力を借り、地労委に幾度も早期救済の申入れを行いプレッシャーを掛けた。こうした圧力を受けた地労委は、12月4日の第1回審問期日、双方に「労使双方は懸案事項について早急に団交などにより自主的な解決を目指す」旨の和解案を示して受託を勧告した。双方とも、この文言が抽象的であるだけに異論のあろう筈がなく、直ちに和解案を受諾する事になったが、私達は、表面的には兎も角、この程度で事を納める訳には行かず、すぐ地労委に対し「従来から会社側は、団交中でも個別勧奨を働くなど既成事実化を進めるので、団交を再開するに当っては、合意に達するまでは工場閉鎖を実施しないこと、交渉中は組合員に個別的な勧奨をしないことを会社側に口頭勧告すべきだ」と圧力をかけた。地労委もこれを受けて会社側にその旨を口頭で勧告し、会社側も漫然とこれを了解した(その後、私達は、会社側が口頭勧告を了解したむね記述した審議録を入手)。これによって組合は、閉鎖反対闘争で将来に向け、新たな橋頭堡を築くのに成功したのである。
尤も会社は、この程度の和解条項で不当労働行為の審査が終了したのに気を緩め、年明けと同時に密かに個別交渉を再開し、更に転勤候補者名や退職条件を公表したり、団交を形骸化する等して組合員を動揺させ、工場閉鎖に向け既成事実化を進めた。こうした会社の執拗な攻撃に耐え切れなくなった組合は、もうこれ以上、単立組織で闘うことが無理だと判断し、77年1月、産別組織の全金に正式加盟した。案の定、加盟直後の1月末、会社は組合に対し「エンジンを造るに必需な治工具や機械設備を2月中旬から長崎工場に運び出し、神戸工場の生産計画を大幅縮小する」と通告してきた。いよいよ闘いの正念場にかかってきた。私達は、満を持し準備していた今までの抗議文や地労委の和解書、その審議録などを総合し、直ちに「団交の期間中は、組合の了解なしに神戸工場を閉鎖しない旨の合意が成立しており、ましてや今回の会社の行為は団交権の否認でもある」と主張し、治工具などの持出し禁止仮処分(妨害排除)を申請した。裁判官は私達の説得に納得し、数日後の2月22日、申立てどおりの認容決定を出すに至った。
こうなれば、闘いの錦の御旗が組合側にある事は明白となり、組合員は俄然、自信を持って行動し始め、神戸市などの官庁に地場産業保護の行政指導を要求したり、エンジンの試運転を実力阻止し、更に工場内広場を利用して支援共闘会議の労働者1,000名による大抗議集会を開催し、大株主の大洋漁業鰍ネどに抗議行動を掛ける等、縦横無尽に走り廻り始めた。もうこうなっては、次第に世論も組合側に付き始め、会社は急速に孤立無援の状態に追い込まれて行った。こうした活動を背景に、組合は団体交渉で指導権を握り、遂に5月14日、@神戸工場の存続と雇用の保障、A今後の生産計画に組合の意見を反映させる、などを会社に約束させて協定化する事に成功し、神戸工場閉鎖方針を撤回させて闘争に勝利した。それは丁度、我が家の庭に芍薬の花が咲き始めた頃だった。
その後、会社は組合と協議を経て1982年、神戸工場を西神工業団地に移し、更に2006年には明石市二見町に移転させたが、この組合との協議のきっかけを作ったのが、この神戸工場の閉鎖反対闘争であった。
さて、これまで《労働事件随想録》を読んでこられた人には、既に判っておられる事と思うが、労働組合が相当な資本力を持つ会社を相手に闘うことは、これが本来、使用者に頭の上がらない従業員で構成した組織(企業別組合)であるだけに、容易な事ではない。せめて3.40%の組織率を持ち、しかも、8.90%でスト権を立てられる程の団結力が組合には必要である。それでも尚、単立労組の力は資本力と比べて著しく劣るのである。《随想録》に収録した過去の輝かしい勝利例は、いずれも産業別労組や地域共闘組織が大きな力を発揮した場合であって、純然たる単立労組だけで闘って短期に勝利した例は少ない(※4)。やはり短期間で確実に勝利して行くには、同種産業や地域の労組を巻き込み、闘いの「錦の御旗」を組合が握り、世論大衆を大きく引き寄せる以外にはない。神戸発動機事件はその顕著な例である。
「芍薬の 一夜のつぼみ ほぐれけり」(久保田万太郎)
※1 文言は「今回の長崎転勤問題に関し、交渉権限をすべて闘争委員会に委譲し、個人的に会社とは交渉しません」との内容。
※2 管理職が組合員に長崎行を勧奨した場合、組合員はその内容をすぐ団結メモ用紙に記入し組合に提出する。組合はこれを通して会社の動きを把握し、抗議行動を起こして会社をけん制する。
※3 私は、こうした闘争方法を全金東洋機械金属事件でも利用し、会社による一方的な退職者募集に歯止めをかけたことがある(判例時報780-109、尚、SGS事件につき労働判例487-36)。その理論的根拠については、光岡正博「団体交渉権の研究」472頁以下、東大労研「注釈労組法」(1)417頁以下を参照されたい。
※4 組織力の弱い組合の場合、錦の御旗を組合が握り、世論を味方に付け、資本に厭戦気分を抱かせるには、相当の時間が必要で、粘り強い闘いが求められる。
このページのトップへ1 労働組合法第7条2号では、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」、すなわち使用者の団交拒否が不当労働行為として禁止されています。さらに、労働委員会、裁判所では、労組法第7条2号の解釈から不誠実な団交は実質的に「団交拒否」とみなされるとして、使用者に誠実団交義務を課しています。
団交拒否類型、不誠実団交類型についての、裁判例は多数集積されており、その検討をすることは、団交拒否・不誠実団交が行われたときの拒否の正当性、団交の誠実性の判断の基準につながります。
そこで、今回の講座では、団交拒否・不誠実団交に関する判例をできるだけ数多く引用し、今後の団交における目安・基準にしていただこうと考えました。
2 団交拒否類型に関しては、交渉主体・当事者(労働者性、少数組合、被解雇者等)、交渉担当者(上部団体役員、会社側担当者)、交渉方式(書面方式)、交渉事項(人事に関する事項、経営に関する事項、団体的労使関係の運営に関する事項)、交渉ルール(人数、氏名の明確化、日時、場所、時間の設定)、組合の対応に関する拒否事由があります。
ことに近時の雇用形態の多様化、複雑化(請負、委任、業務委託、営業譲渡、親子会社、派遣)に伴い、労働者側当事者について、「使用者が雇用する労働者」の代表者といえるかということについての争いが増えており、最近の裁判例でも労働者性について判断がなされているものが少なくありません。裁判例においては、基本的に、請負、委任などの形式が取られていたとしても、組合員に対し実質的に指揮命令をなし、対価たる「賃金」を支払っているケースについては労組法上の使用者とみなしています。
3 不誠実団交については、使用者は単に組合の要求や主張を聞くだけでなく、それら要求や主張に対しその具体性や追求の程度に応じた回答や主張をなし、必要によってはそれらにつき論拠を示したり必要な資料を提示する義務があるとされています。ただし、譲歩義務まではありません。
最初から譲歩意思の全くない交渉態度、交渉権限のない者の出席、日時時間等の限定等の交渉方式、要求に対する提案・対案への固執、説明・説得・企業情報の開示の欠如、合意された協定書への調印拒否等が不誠実団交の類型として挙げられます。
4 最後に、近時の判例の事案を簡単に説明し、会場の参加者の方に、団交拒否といえるか否かについての判断をしていただきましたが皆さん裁判所と同じ判断となりました。
裁判例では、団交拒否が正当か否かについて、事実認定を積み重ねて判断しています。組合側が団交拒否の正当性に関して争う場合には、丁寧な事実の拾い上げが何より重要となると考えます。
このページのトップへ1 不当労働行為がなされた場合には、組合の運動で跳ね返すのが基本ですが、組合自身の力では対抗、解決できない場合には、救済制度を利用することになります。労働委員会の利用と、裁判所の利用が考えられますが、本稿では主に労働委員会について説明します。
労働委員会とは、「集団的労使関係」について、「労働組合法」及び「労働関係調整法上」の権限を行使する独立行政委員会です。労働組合法の権限というのは、いわゆる救済申し立て、イメージでいえば裁判に近いものです。つまり、事実を証拠より認定し、不当労働行為を認めた場合は、強制力をもつ「救済命令」を出すというものです。そのほか、労組法の権限としてはいわゆる資格審査があります。
「労働関係調整法上の権限」というのは、イメージでいえば、調停や和解、つまり話し合いの場を設けて話し合い成立に向けて働いてくれるというものです。後述のあっせん手続は、「労働関係調整法上の権限」として行われています。
労働委員会には、都道府県労働委員会(兵庫県ではいわゆる「県労委」)と中央労働委員会があります。救済申立は、県労委に行い、そこでの決定に不服があれば、中労委ということになります。
A 労働委員会の特色労働委員会には、裁判所による司法的解決と異なった特色があります。
まずは、裁判所では、必ずしも労働現場の実情を知らない職業裁判官が審理を担当するのに対し(なお、労働審判においては労働審判員が審理を担当します)は、労働委員会では、いわゆる労使委員が参与します。命令を出すのは公益委員(審査委員)ですが、審議の過程では労使委員が、尋問をしたり、和解の際のパイプ役になったり、公益委員に意見を述べます。建前上は、現場を知る労使委員により、労働現場の実情を踏まえた適切な解決がなされることになっています。
次に、救済方法について、原状回復すなわち不当労働行為がなされる前の状態に戻すために最も適切で効果的な救済命令を裁量で出すことができます。しかも、迅速になされることになっています。法は、労働委員会が、迅速かつ効果的な救済をすることを予定しているのです。例えば、組合員のみを昇格させないという取り扱いを例にあげると、裁判所が出せるのは、一般的には昇格した場合との賃金の差額と慰謝料の支払いを命ずる判決ですが、労働委員会の救済命令では「○○を、○長に昇格させ、または昇格させたものとして取り扱わなければならない」という命令が出すことができます。そのほか、陳謝文(ポストノーティス)の掲示、交付を命じることなどもできます。
労働関係調整法が定める調整の手続きには、「あっせん」「調停」「仲裁」の3つがあります。「あっせん」というのは、両当事者の合意に向けて互いの言い分を聞いて、必要に応じて説得をするなどして、妥協点を見出す手続きのことです。調停もその延長ですが、自主的解決を待つだけではなく労働委員会が一つの解決案(調停案)を出して、それを受け入れるよう勧告する点が異なります。あっせんより一方踏み込んだものですが、両当事者が受諾しなければ効力が生じません。仲裁は、労働委員会が一定の判断を示しこれに従わせるというものです。仲裁もあくまでも「判定」手続きではなく「調整」手続きなのですが、一定の案を示し強制的に従わせるというもので、調整の中では、もっとも強力な手続きです。
この3つのうち実際用いられるのは、殆どがあっせんです。調停、仲裁は当事者双方が申し立てない限り開始されないからです。
あっせんは、ごく簡単な申請書を作成すれば申請できます。申請の際には、県の事務局職員が、口頭で事案や要求の内容を聴き取ってくれます。そして今度は被申請者(申請された方)に、経過と主張の要点、あっせん手続きに応ずるかを聴取します(事前調査)。事前調査の後、あっせん活動が開始されます。あっせん員が両当事者から、事情や言い分(主張)を聴き取り、折衝や説得を繰り返し、両当事者の歩み寄りを促し自主的な解決を導くように努力するというものです。場合によっては、「あっせん案」(いわゆる和解案)が提示されることもあります。もし歩み寄り合意が成立すれば、あっせんは終結し、歩み寄りがみられず解決の見込みがなければ打ち切りとされます。
このあっせん手続きは、使用者が無視したり頑なに譲歩しなければ、打ち切りとなります。しかし、組合のことをなめきっていた使用者の中には公的手続きの申請をされて驚く者もあるでしょうし、単に無知な使用者であれば、あっせん員から法的な観点からアドバイスを受けることにより態度を変える可能性もあります。実際に解決した例も報告されているところです。
不当労働行為救済制度は、不当労働行為があった場合に、労働委員会により、迅速、柔軟、効果的に救済する制度です。不当労働行為がなされる前と同様の状態に戻し、組合の団結権、団体交渉権を実質的に保障することを目的としており、この点が裁判による解決と異なる最大の特徴といえます。
@ 申立てについて申立てができるのは、不当労働行為があった場合です。つまり、組合関係の事件のみです。もちろん組合員に対する不利益取り扱いが組合に対する不当労働行為になる場合には申立てができます。
申立てに際しては、資格審査(例えば、民主的な規約があるか)がなされますので、労組法適合の労働組合であることを疎明する資料を添える必要があります。ただ、審査は、手続きに並行してなされ、また規約等については補正命令が出された場合に応じればよいので、資格審査に通るかを心配して救済申立を躊躇することはありません。
申立てができる期間は、不当労働行為があった日から1年以内とされています。ただし、継続する行為にあってはその終了した日から1年内で、例えば、組合員の差別を企図してある時点において組合員に不利な査定がなされ、以後その査定に基づき賃金が支払われという事例では、当該査定に基づく最後の賃金の最後の支払いのときから1年以内に申立てを行えばよいと解されています。
申立てがあったら、公益委員の中から、通常1名の審査委員が選任されます。この審査委員が審査を担当することになります。そして、労働者側、使用者側から、参与委員が参与します。参与委員の役割は前述の通りです。
A 調査手続き調査手続きとは、一言でいえば、争点と証拠の整理です。お互い主張を記した書面を提出して、口頭で補足しながら、お互いの主張をつきあわせ、スポットライトをあてるべき争点をしぼりこんでいき、また同時に書証も提出させて、その争点のうち、書証等によって簡単に認定できる争点はもう実質争点ではないとして省いていって、本当に重要な争点を絞り込むのです。そして、その争点の立証のために、どのような人証を調べるかを決定します。最後に審査計画が立案されます。
B 審問手続きそうして、人証が決まれば次に「審問」手続きです。これは公開の手続きで、まず調査手続きの結果を踏まえて、双方が言い分を述べた上手続きに入ります。救済手続きのクライマックスともいえます。傍聴を組織して、会社側に団結力を見せ付けて震え上がらせる必要があります。
C 最終陳述そして最終陳述を行います。これは、証人・当事者尋問などの証拠調べの結果を踏まえて、双方が意見を述べ合うものです。
このような手続きで顕出された資料を踏まえて、公益委員会会議が行われ、そこで不当労働行為の成否及びどのような命令をなすべきかが決定されます。この公益委員会会議の前には、労使参与委員から、事前に意見聴取がなされます。
講義では実効確保措置、和解、不服申立、救済命令の効果についても説明しましたが、紙幅の関係で省略します。
労働委員会のように、具体的にこの地位にあるとして扱えとか、ポストノーティスなどを命じることはできず、裁判所による救済は融通がきかないものといえます。実際には、司法の判断の方が重みがあることもあるかもしれませんが、法は、司法的救済では必ずしも十分ではないので、第一次的には労働委員会により救済しようとしたのです。
このページのトップへ団交拒否、団交拒否類型、交渉担当者に関する事項、交渉ルール、不誠実団交類型、他について過去の判例を参考に様々な事例について説明を受けました。
過去に様々な労働組合が使用者側と交渉してきた歴史と勝ち取ってきた権利の数々を知る事ができ、感慨深い想いがすると共に、これらの判例があるために今現在、使用者と労働者が安心して交渉に臨めるのだと思いました。また、過去の判例を理解、熟知し活用する事が今後の団体交渉を有利に展開、または職場をより良いものにする上で必要な事であると言う認識を持ちました。
「不当労働行為の救済手続」労働委員会、斡旋手続、不当労働行為救済制度等について、そのメリットや特長、流れ等を詳しく教えて頂きました。
不当労働行為について使用者側と係争になった場合、裁判所の判決を求めるより労働委員会に斡旋、調停、仲裁を求める方が簡便で時間が短縮でき、柔軟かつ効果的な解決が得られることがよくわかりました。
不当労働行為にどんなものがあり、どのように対処すべきなのか、斡旋、調停、仲裁それぞれはどのように開始され、調整者は誰で、方法・効果としてどのようなものがあるのかがよくわかりました。
使用者側の不当労働行為は、許されないものであり、その種類・内容によってどのような手段で対抗すべきなのか、どの手段が一番簡便で効果的なのかがわかり、今後の団体交渉で効果的に利用していきたいと思いました。
不誠実団交は、実質的に「団交否定になる」この誠実性においていろいろ判例が具体的に示され勉強になりました。また、不当労働行為があった場合や、団交を行っても話し合いが平行線の場合、救済手続、調整、あっせんなど解りやすく説明して頂き勉強になりました。
このページのトップへ2月22日の春闘学習会は、「成果主義賃金」の実情と労働組合の対応課題と題して、浪江巖氏(立命館大学名誉教授)を招いて学習をしました。
「成果主義賃金」は、公務員の制度・給与改革や雇用形態の多様化に伴い、近年、再び導入への動きが活発になってきています。しかし、その一方、大企業などすでに導入済みの企業では、制度の見直しが問題となっています。
私たち私学の現場でも、人件費の削減を狙いとした「成果主義賃金」が、幾つかの学園で導入(月例給に反映はさせず、一時金だけに留めている)されています。これに対して、私教連としては、教育現場において個人の責任に帰属する成果主義は、いたずらに個人間の競争意識を煽り、元来、学園全体で取り組まなければならない教育を破壊し、結果的には学園の教育システムの破壊に繋がるとして、「成果主義賃金」の導入に反対しています。
今回の春闘学習会は、日頃から疑問としていた、@「成果主義賃金」の成果とは何か?A賃金は成果に対する対価なのか?Bなぜ今、導入をしなければならないか?という問いに対し、明確な回答を得ることが出来ました。
それは、業界・職種を問わず、@個人の成果を評価し、個人の責任に帰属させることは困難である。A賃金は成果に対する対価としての面もあるが、労働力の確保や生計費原則の面もあり、成果だけが特化することは、極端で妥当性に欠ける。B絶対評価ではなく相対評価であるため、人件費の削減を容易なものとして出来る。と言うことです。
このように「成果主義賃金」の実体とイデオロギーを再認識でき、今後の取り組みに大いに活用出来る知識と知恵を得ることができ、とても充実したものとなりました。
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