転職して入社した会社で10年も勤務していたのに、会社から能力が新入社員と同程度であると判断され、しかも父親と二人暮らしで、その父親が病気のため身体障害者1級になったために、介護のため定時に帰宅したり、会社の親睦会に参加しないことを協調性が無いと判断されて、解雇されたという事件です。
本件は、このようなあまりに理不尽な理由で労働者をクビにしようとして、しかも証拠上からも会社の意図があからさまになったという事件です。
タクマ・エンジニアリング(株)は、主に環境プラント(ゴミ処理施設、リサイクル施設等)及びエネルギープラント等の設計を行う株式会社です。なお、会社は知る人ぞ知る、東京と大阪の証券取引所1部上場の株式会社タクマのグループ企業です。
労働者のAさんは、平成9年に入社して、入社当初はごみ設計部に配属され、その後平成17年にボイラー設計部へ異動となり、解雇されるまで、主に担当者の下でボイラードラム圧力計算書や手配書類の作成などの業務を手伝ったりしていました(30代の男性)。
Aさんは、何と会社の社長から、平成19年2月16日と9月14日の2回も呼び出されて、それぞれ退職勧奨を受けたのですが、いずれも応じないと回答しました。その後10月26日にも社長から退職勧奨を受けたのでAさんが断ったところ、社長から解雇を言い渡されました。
Aさんは、全労連全国一般労働組合兵庫県本部に加入して、解雇後、会社と2回にわたり団体交渉を行いましたが、平行線のままに終わりました。
社長から直々に退職勧奨を受けるのは余程のことですし、それも1回ではありません。そこで思い出したのは、平成18年1月頃、同僚数人と話しをしていたときに出た、休日出勤すると代休に振り替えられて給料を払ってもらえないという不満です。Aさん自身は、当時父親の介護などで休日出勤をしたことがありませんでした。
会社の同僚からは、振替休日と言っても実際に代休はほとんど取れない状態だということを聞き、結局休日手当が未払になっているということでした。これは何とかしてやりたいと、Aさんは、この件を尼崎労働基準監督署に出向いて相談をしたことがありました。当然、匿名でお願いしました。すると、4月頃に労基署の調査が入り、各社員に休日出勤分の賃金が支払われたということがありました。また、当時36協定も無かったので、協定も締結されました。
Aさんは、その頃から会社に狙われるようになったのではないか、と言います。実際に、会社の提出してきた証拠は、ほとんどが平成18年5月以降の日付ばかりです。
会社は、解雇の理由として、一つは、「労働能率がはなはだしく劣悪な者」に該当すること、二つは、「勤務または素行不良で改悛の見込みが無いと認められた者」に該当すると主張してきました。
(1)能力が著しく劣っているか平成18年10月には、Aさんの作業時間は早くないことをもって、上司の指示によって、「約束事」(作業能率を上げますとか、私用で携帯電話を使うときは事前に報告するとか、緊急に休むときには事前に連絡する等)という書面に署名させられました。
会社は、この書面に違反したと主張してきたのです。しかし、実際にAさんは、署名後に上司から具体的な指導や注意をされたことは一切なく、ましてや懲戒処分を受けたこともありません。しかも、給与は下がったことはなく、基本給は平成18年から毎年昇給しています。
団交の中でも能力を問題にされましたが、具体的な事例は一切指摘されなかったのです。
(2)協調性が無いのか会社は、Aさんが協調性を欠くと言います。具体例として、Aさんが先輩上司からの指導を誠実に受け止めず同じことを繰り返して質問することや、親睦会からの脱退を申し入れたことや親睦会の行事に参加しないと宣言したこと等を上げます。
事実ではないことが多いのですが、いずれにしてもこれだけで「協調性が無い」ことにはなりませんし、Aさんが「勤務または素行不良で改悛の見込みが無いと認められた者」に該当する訳でもありません。特に、親睦会については、組織変更に伴ってAさんが所属していた設計部の親睦会は既に廃止され、社内全体の親睦会は給与から自動的に控除されていました。また、Aさんの父親は、身体障害1級で要介護4の認定を受けているのですから、Aさんが父親の介護等のために親睦会の行事等に参加できないことをことさらに問題視することはおかしいのです。
また会社は、Aさんが5ヶ月間に5回も無断欠勤したと主張しました。しかし、そのような事実はありません。仮にそのような無断欠勤が実際に5ヶ月間に5回もあれば、何らかの懲戒処分がされるか、給与カットになるはずですが、いずれも無いということが逆に無断欠勤が無いことの根拠となります。労働審判では、Aさんの携帯電話の履歴を提出して、当日事前に電話していたことを証明しています。
本件は異例なことに、労働審判は4回開かれました。法律上は「特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。」とされていますので、4回もありです。実は、もう1回あったのですが、これは労働者側の審判員が、風邪で急遽欠席されましたので、実際にはカウントされていません。ただ最終の4回目は、審判の言い渡しなので、実質は3回です。
第1回目。審判員から当事者への質問がされました。この中では、審判官からかなりするどい質問が出され、しかも労働者側の審判員からは、会社にAさんの配転等を含めて十分な検討をした上での解雇なのかとか、Aさんの家庭環境を十分把握していたのか、という質問が出されました。これには使用者側の審判員も同調されていました(審判全体を通じてあまり発言はされなかったのですが、かなりAさんの「肩を持つ」発言がありました。)。
第2回目。こちらからは会社主張の能力不足という点への立証をしました。本来ならこれは相当難しいのですが、会社側はAさんの能力についてなりふり構わず、「いろんな証拠」を提出してきました。まず、全社員の昇給額を一覧表にしたものを出してきました(こんなの初めて)。会社は、これでAさんは一番低額だと言いたかったのでしょうが、それでも昇給していることは間違いありませんし、本来は額ではなくて率ですね。またかつての上司からの悪口のオンパレードの陳述書です。さすがに同僚のものはありませんでしたが、少しでも重なっていれば「上司」です。しかも、内容があまりにも極端で、例えばAさんの作図時間は2日もかかっているが、アルバイトは3時間で同程度の作図をしたとか、これが事実ならとっくに解雇でしょう。また気が付いたのは、会社側の証拠に、あちこちに手書きで「添付資料」とか、1/9、6/8とかの記載があるのです。どうやら、これらの証拠は、会社側でもともと作成していた資料についていたものだと分かりました。それなら、どうして全部出さないのか、という疑問が湧いてきます。こちらはそこを責めたのですが、審判官は相当疑いをもったことは確かです。
第3回目。ここで調停案のすり合わせです。本来、Aさんは復職を求めていたのですが、ここまで悪口を書かれて、仮に職場に戻っても、次はもっと陰湿な形でのイジメがあるかもしれないと、審判員の方も心配されて、Aさん自身もお父さんと相談され、まだ若いですし金銭解決の方向となりました。但し、Aさんとしては会社の解雇は納得がいかないので解雇を撤回させて合意で退職すること、解決金は会社が支払った退職金や解雇予告手当を含まない等の条件を付けました。しかし、そこから時間がかかりました。会社側は、自社の社長も弁護士も出席していたのでほぼクリアしたのですが、親会社の意向があるとのことで親会社との連絡でさんざん待たされて、最後は(当然午後5時過ぎ)「ではもう一回お願いします。」となりました。
これには、審判官もキレたようで、第4回目はいきなり審判の言い渡しとなりました。会社側はあっけにとられていました。会社側の代理人から、異議が無い旨の連絡があり、そのまま審判は確定し、会社から解決金が振り込まれて、本件はようやく解決しました。昨年12月に申し立て、4月に解決しました。
Aさんは、あちこちの就職セミナーなどを受講されて、就職活動に励まれ、現在までに数社から内定をもらっているそうで、7月1日から働く予定ということです。
本件では、復職する方が良かったのか、退職して金銭解決で良かったのか、どうだったのでしょう。いずれにしても、労働審判の手続を通して明らかになった会社の態度を見ると、労働者から愛想を尽かされたことは間違いありません。
このページのトップへ団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものと解するのが相当であるから、非組合員である労働者の労働条件に関する問題は、当然には上記団交事項に当たるものではないが、それが将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件と関わりが強い事項については、これを団交事項に該当しないとするのは、組合の団体交渉力を否定する結果となるから、これも上記団交事項に当たると解すべきである。
(2)使用者の賃金決定の仕組みから考えると、本件初任給引き下げは在職中の組合員の賃金を抑制する有形無形の影響を及ぼす事項であり、これが適用された平成11年当時は、新規採用者の少なからぬ者が短期間の内に加入していたと認められるから、本件初任給引き下げは短期間の内に組合員相互間の労働条件に大きな格差を生じさせる要因でもあって労使交渉の対象となることが明らかであり、したがって、本件初任給引き下げは義務的な団交事項に当たる。
非組合員の労働条件が義務的団交事項になるかどうかが、初めて真正面から争われ、その義務性が広く認められた極めて重要な判例である。意外なことに、これまでこの点に関するリーディングケースとなるような裁判例はなかった。
(2)地裁判決労働組合にとっては当たり前と思う結論かもしれないが、それほど単純な問題ではない。現に本件第1審の東京地判平成18年12月18日労判946ー74は義務的団交事項性を否定していた。その論旨は、次のとおり。
ア)非組合員に関する事項については、それが当該労働組合やその構成員である組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情がない限り、原則として義務的団交事項には当たらない。
イ)@毎年新規採用者の相当数が組合に加入している等の事実をもって、組合およびこれに加入している組合員の労働条件に対し、本件初任給引き下げが直接関連するものと認定することは困難であること、A病院・組合間にはユニオン・ショップ協定が締結されていないこと、B新規採用者は病院の提示した雇用条件に合意していること、C病院の賃金体系は新規採用者の初任給引き下げによって直ちに既採用者の賃金額に連動して不利益が及ぶような仕組みにはなっていないこと、D初任給額の決定について組合の合意ないし承認を要する旨の協約、労使慣行は存在しないこと等の理由から、上記特段の事情も認められず、義務的団交事項とは言えない。
(3)義務性の一般的基準非組合員の労働条件がどのような場合に義務的団交事項になるかの一般論の違いを見ると、東京地判は「当該労働組合やその構成員である組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情が」ある場合に限るとしているのに対し、東京高判は「将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件と関わりが強い事項」としている。高裁判決も述べているように現実の労使関係では、非組合員の労働条件が組合員のそれに有形無形の様々な影響を及ぼすことが極めて多い。そうであれば、できるだけ労使対等を確保し、団体交渉によって労働条件の維持向上を図らせるという労働基本権保護の仕組み(憲法28条、労組法)の下では、高裁判決のように義務的団交事項をできるだけ広く認める方向で解釈した方がその仕組みを活かすことにつながるはずである。
(4)残された課題高裁判決で少し気になるのが、本件において義務性を認める根拠の中で「新規採用者の少なからぬ者が短期間の内に加入していたと認められるから、本件初任給引き下げは短期間の内に組合員相互間の労働条件に大きな格差を生じさせる要因でもあ」るということを挙げている点である。この判旨からすると、組合の組織率の大小によって義務性が認められたり認められなかったり違いが出てくる場合があると考えているのかもしれない。少数組合であれば、非組合員の労働条件が少数組合組合員の労働条件に影響を及ぼすことは現実的には多数組合と比べれば少ないように思われる。
しかし、同じ事項が、多数組合にとっては義務的団交事項となるが、少数組合にとってはならないというのはおかしい。使用者の組合間差別を正当化してしまうことになるし、少数組合は活動範囲が狭められジリ貧に甘んじることを強いられる。したがって、東京高判が基準として述べた「将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件と関わりが強い事項」というのは、必ずしも具体的でなくても、抽象的にそのような関連性が認められればよいと考えるべきだ。今後、この東京高判の射程が問題になる事例が出てくるかも知れない。
(5)応用現在のような低組織率、劣悪な非正規労働の拡大の中で、まともな労働組合運動をやり、地道に組織拡大を図っていこうとするなら、例えば、賃上げ要求一つをとっても、組合員についてだけでなく、パート、アルバイト、嘱託、派遣など非正規労働者の賃金についても団交要求すべきは当然だろう。労働条件の格差が全体としての労働条件引き下げに利用されることは、身に染みて分かってきているはず。
あるいはまた非組合員の名ばかり管理職問題も、賃金不払い残業を許さず、きちんとした労働時間管理を使用者にさせるためにも、団交での取り組みが必要だ。
本判決を積極的に応用してほしい。
このページのトップへ6月7日(土曜)の午前10時から午後4時まで、日本労働弁護団による「全国一斉労働トラブルホットライン」と歩調を合わせて、兵庫民法協が電話相談を実施した。
当日全国(31箇所)では、合計592件の相談があったが、兵庫では、合計31件の相談があった。6時間の相談時間の間、相談が途切れる時間帯は殆どないような状態であった。今回は、新聞等で多く報道されたらしく、相談件数が回復しているものといえる。
相談の内訳は、解雇2件、退職強要2件、賃金不払い9件、労働条件切り下げ2件、労災2件、いじめ・嫌がらせ4件、人事1件、採用内定取り消し1件、労働時間9件、その他9件(複数の内容にわたる相談があるため31件を超える)。
長時間労働で苦しんでいる深刻な相談が多い。そこから派生して、残業代不払い、うつになって休んでいるといった職場ストレスの相談も多い。企業規模の大小、正規非正規の別、組合の有無等にはあまり関係がないようである。派遣の相談も見受けられるようになった。
具体的な内容は・朝10時から夜11時まで休みなしで働かされて いるのに、残業代も払われないし、休日も月 に1回しか取れない。
・上司2人からセクハラ、パワハラを受け、うつになって休んでいる。
・登録型派遣で働いているが、派遣される直前 に「派遣先の事情でキャンセルになった」と 言われたが、派遣先は今も派遣募集を続けて いる。派遣元も給料を払おうとしない。
・上司から、予告手当等もなく突然解雇された など。
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