《第492号あらまし》
 三菱重工業内部告発事件
 内部告発に際限のない報復
 在日ブラジル人の不就学児をなくす「若弁会」の活動報告
 労働トラブルホットライン報告


三菱重工業内部告発事件

弁護士 本上 博丈


1 事件の概要

原告西村茂さんは、1954年5月20日生まれ、現在55歳の男性で、工業高校電気科卒業後、初めは主に現場作業を行う技能職として1973年被告三菱重工業に入社した。1980年ころから種子島宇宙センターで液体ロケット燃焼試験のデータ計測を担当するようになったことを契機に、1984年に主に設計や事務を行う事務技術職に職群変更となり、それ以後2004年10月までは電気工事関係の計画・監督を中心に、電気・機械関係の工事計画、工事監督、設計補助などに従事してきた。取得資格も、電気工事の施工・管理や電気装置の組立に関するものがほとんどである。

西村さんは、04年7月、三菱重工業神戸造船所において、建設業法上の監理技術者資格者証の不正取得が行われていたとして社内のコンプライアンス委員会に投書したが、是正が図られないまま投書2か月後に仕事を取り上げられ、その後もコンプラ委からは不正取得は確認できないとの不正隠蔽の回答しか得られなかった。そこで05年3月所管の国土交通省に内部通報、その後上司から迷惑行為だとして退職勧告されたことから、同年11月朝日新聞社にも通報したところ、12月8日同新聞1面トップで「監理技術者 三菱重で資格不正取得」と報道された。

その後06年6月には社員株主として株主総会に、監理技術者資格者証の不正取得に関する事前質問状を提出したり、会社監査役にも自身が不正取得させられた時の経験を含めて投書したが、回答はなかった。

他方で、同年7月、国土交通省は会社に対し、神戸造船所だけではなく全事業所対象の調査を指示し、07年5月17日はまたもや朝日新聞で「三菱重工 不正資格さらに234人 監理技術者 11事業所に拡大」と報道された。

会社は西村さんに対して、06年9月頃から出向を打診してきたが、その出向先では電気管理業務はないことが分かったことから、西村さんは断った。

ところが、上記朝日新聞報道直後の07年6月1日、関連会社への休職派遣(出向)を命じられ、そこでの業務内容は、社宅・寮等の保全業務と称して、実際は西村さんのそれまでの経歴や資格とは全く無関係の清掃業務のみだった。

2 救済請求の経過

(1) 08年2月、兵庫労働局に対して、原職復帰を求めるあっせん申請をしたが、3月、会社は原籍復帰を認めず、あっせん打ち切りとなった。

(2) 同年8月、弁護士本上が法テラスを通じて受任し、神戸地方裁判所に対して、@出向先で労務提供する義務のないことの確認、A慰謝料等110万円の支払いを請求する労働審判を申し立てた。

労働審判委員会は、会社に対し、現在の清掃業務から、従来の電気管理業務への変更を内容とする配転もしくは原籍復帰等の検討を求めたが、会社は応じなかったため調停は成立せず、審判となった。

同年11月18日の審判は、請求をいずれも棄却するとし、その理由として、「申立人は一連の処遇を正当な内部通報・公益通報に対する報復と主張するが、申立人が行ってきた内部通報等は、公益の保護を目的とするというよりも、過去の処遇に対する不満の表現手段であると認められ、その態様も執拗であり、企業の名誉・信用及びその秩序を脅かすものというべきである。申立人が意に沿わない業務を余儀なくされているとしても、それは、内部通報という形で相手方に対する敵意を表現し続けた結果、申立人の受入を許容する部署が減り、異動先の選択の幅が狭くなったことによるものであり、内部通報自体に対する報復ということはできない。」とされた。

(3) この審判に対して、西村さんは翌19日異議申立を行い、神戸地裁で通常訴訟として審理されることになった。本年9月には西村さん本人と、会社側の証人の尋問が行われる予定である。

3 労働審判の問題点

労働審判委員会は、西村さんがした内部通報は、公益保護目的ではなく、私怨をはらすためで、しかも執拗で、企業の名誉等を脅かすものだったという。

しかしまず、公益通報保護の先例と言えるトナミ運輸事件・富山地裁平成17年2月23日判決において、「会社に対する感情的な反発もあったことがうかがえるが、仮にこのような感情が併存していたとしても、基本的に公益を実現する目的であったと認める妨げとなるものではない。」と判示されているように、私怨が併存していたとしても、だからといって直ちに公益目的性が失われるかのように考えるのは誤りである。

しかも、西村さんの告発の流れは、数か月の間隔を置きながら、社内コンプラ委への投書→国土交通省への通報→新聞社への投書という順序だったのであり、執拗どころか、会社の立場にも配慮した極めて真っ当なものだった。仮に審判が言うように私怨をはらすためだけが目的だったなら、会社にとってダメージが大きい国土交通省や新聞社への投書をいきなりしたはずである。客観的な告発経過に照らして、審判の認定には何の根拠もない。

さらに会社の名誉等については、もともと会社が不正取得を組織的にしていたこと、西村さんから投書を受けた後も事なかれ、隠蔽に終始し、迅速に適正化を図ろうとしなかったこと、つまり西村さんの投書に対して真摯に対応しなかったことがキズを拡げた原因であり、西村さんのせいにするのは責任転嫁も甚だしい。

以上のように、労働審判は極めて不当なものだった。

4 訴訟での展望

基本的な事実経過については、概ね争いはない。西村さんに、なぜ清掃業務をさせるようになったかについて、会社は何ら積極的な説明をしていない。訴訟では、このもっとも基本的な所をしっかりと訴えていきたい。

なお本件については、毎日放送の番組である映像'09で09年4月26日「私は告発する?54歳、左遷された男?」として放映された。そのDVD映像がありますので、ご希望の方は、本上または民法協事務局までご連絡いただければ、お貸しします。

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内部告発に際限のない報復

三菱重工業内部告発事件 原告 西村  茂


私が内部告発を決意したのは、設計出身の元上司が部の要職である建設業法遵守委員長になって、部内の建設業法に関するのアドバイザー的立場で現地指導していることをある会合で知ったからです。元上司は入社以来設計業務を主に担当して、現地工事経験は皆無でしたが、それがなぜか現地工事実務経験を必要とする、監理技術者資格者証(機械器具設置)を不法保持して、なおかつその資格を生かして建設業法遵守委員長に納まっていたのである。監理技術者資格者証(機械器具設置)は公共性の高い大規模工事には元請が必ず所持すべき国家資格で、平成8年から実務経験のみで取得できるようになったため、本来実務経験不足で取得できない者まで会社の指示で架空の経歴書を偽装申請して、違法に取得したのである。内部告発されるまで9年間も不正に資格を取得し続けたものである。悪質なのは、さらに本来無資格者であれば監理技術者として配置できない公共性の高い工事を数年間に渡り引き請けてきたのである。これは建設業法違反であるのは当然である。ではなぜこの資格の取得に会社がこれほどまでにこだわるのかといえば、有資格者が増えれば会社としても建設業法上の経営事項審査の格付けに有利になるため、不正と知りつつ、積極的に推し進めたのである。つまり元上司のように実務経験がなくても、架空の経歴を事業主である社長が認めて、証明者になれば、いとも簡単に国家資格が取得できたのである。管理者でもある元上司が無資格で監理技術者として違法行為をするくらいだから、相当数の不正取得者がいるに違いないと思い、発足してまもない社内のコンプライアンス委員会へ内部通報したのである。ちなみに私も本資格を会社命令で平成8年に無理やり取らされ、すねに傷持つ身ではあるが、取得後すぐに返納したのである。これは実務経歴不実記載であり、かつ無資格工事で建設業法違反を繰り返してきた点で極めて悪質である。

内部通報を受けた社内のコンプライアンス委員会は不正を正すのではなく、不正を隠蔽しようとしたので、国土交通省へ公益通報したが、神戸造船所のみの限定した不正取得の実態調査だったので、新聞社へも通報したのである。

平成16年の7月に内部通報してから10月には元上司に担当業務を全て取り上げられ事務所内では何もすることがなくなった。干され、無視されることがこれほど苦しいとは思わなかったが、負けるものかと自分を奮い立たせて、半年間耐え抜いてきたが、職場八分の孤独な戦いには勝てず、精神的に追い込まれ長期休業を余儀なくされた。再出勤後はカタログ整理や、安全保護具の管理といった雑用しか与えられず、かつては現地工事責任者として、営業的なことから、安全管理、労務管理、試運転業務等を全て任されていたが、内部告発後は雑用に様変わりした。

内部告発の報復の総仕上げは、社宅の清掃作業員として屈辱的な業務が待っていた。設計ビル勤務から机もパソコンもない詰め所へ出向となる。清掃作業には終わりが無く、油で汚れたタイルをいくらきれいにしても、悪意の目で見れば、目地の汚れが落ちていないなどといくらでも指摘できる、内部告発者には報復として際限のない屈辱的な作業をさせるのが会社の目的である。

会社の規定によれば内部通報しても、不利益取扱いはしないし、秘密は保持するとあるが私の例からして、そのようなことはない。そもそもコンプライアンス委員会なる組織は独立しておらず、総務部の一組織であることが問題なのである。

本件出向が裁量権を大きく逸脱した不当なものであることを労働局へあっせん申請をしたが、会社は原籍復帰を容認しようとはしなかったので、労働審判の調停に希望を託したが、またしても会社が調停案を受け入れようとはせず、不調に終わったため、不当な出向の無効を求めて提訴したのである。

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在日ブラジル人の不就学児をなくす「若弁会」の活動報告

弁護士 和田 壮史


1 滋賀の在日ブラジル人派遣労働者について、ささやかながら支援をしていますので、その報告をいたします。

2 私たちは、主に同期を中心に、「在日ブラジル人等の不就学児をなくす若手弁護士の会」という会(以下、「若弁会」と言います)を結成し活動しています。会員は全国にいるのですが、主に、関東・東海・関西という単位で活動しています。私は、関西組に属しています。現在、関西組は滋賀のあるブラジル人学校と連携して、その学校の支援を当面の課題として活動しています。

若弁会としては、当初は、不就学の実態を調査し、その調査結果をもとに行政に支援を働きかけるということ等を目的にしていました。実際に、その方向での活動をそのまま継続している地域もあります。が、実際に現地に行くと、在日ブラジル人社会には生活・労働問題が山積しており、それに対する法的アドバイスや助力を求められました。そこで、関東組、関西組では、生活・法律相談会等を開いて、受任すべき事件は受任していくことになりました。子どもと生活(貧困)と労働の問題はリンクしていると言われていますが、まさにそれを実感した次第です。

3 聴取りをした在日ブラジル人労働者の多くは、派遣労働者でした。

派遣形態をとった理由は、第1に(日本人派遣労働者を使用する場合と同様に)派遣形態をとることで様々な責任を回避できるということのようでした。第2に、在日ブラジル人は日本語を喋れない人が多くまた独自の慣習等もあるので、派遣先企業としては、通訳がいるか代表者自身がポルトガル語に堪能でブラジル人社会の慣習等を理解している派遣会社に、労働者の管理を任せるという目的もあるように思われました。実際、派遣会社によっては、労働者の住居や生活の相談に乗ったりするなど、それなりにブラジル人労働者の生活に配慮している会社もあるようでした。しかし、多くの派遣会社の労働者管理はかなりずさんであり、労働契約書や就業条件明示書等は見たことも聞いたこともないというブラジル人も少なくありませんでした。

相談において私が感じたことは、まず、ブラジル人には言葉の壁があり、日本人なら多少なりとも知っている生活者・労働者保護の諸制度(生活保護・雇用保険など)を全く知らないか、誤解している人が少なくないということでした。(「ブラジルには労働者保護の法律があるけれど、日本には全くないので途方に暮れている」「制度はあっても日本人にしか適用が無いのでしょう?」「(弁護士に相談したりして)雇い主を怒らせたら、失業保険がもらえなくなってしまう」などということも、しばしば言われました。) 

また、在日ブラジル人の間では、ネットワークが強固にできているわけでもない様子で、近所同士のブラジル人の動向について全く伝わっていないということが多々ありました。あくまで推測ですが、在日ブラジル人には、将来的にブラジルに帰るということが前提になっている人が少なくないからなのかも知れません。

以上のように、とにかく彼らには必要な情報が届いていないというのが、一番の問題点であると思われました。

4 相談会における具体的な相談においては、派遣切りにあった人たちが、雇用保険の給付請求のやり方、生活保護の申請の仕方を教えて欲しいという事例が多くありました。また、国がおこなう帰国支援事業について聞きたいという相談も少なからずありました。

なお、滋賀県も、外国人労働者が多いことに配慮して、各ハローワーク等や区役所に通訳を配置する等の措置はとっているのですが、特に申請書の類について、どのように書けばよいのか分からないので簡単な申請もできないと言う人が少なくないという印象でした。

私たちは、生活保護制度や雇用保険制度について、ポルトガル語で説明したパンフレットを作成したり既にあるものを入手し、対応しました。不当な労働環境に置かれている人については、労働組合への加入も勧めることもありました。(協力してくれている労組には、日本人ながら、独学で(!)ポルトガル語に堪能な方がおられるのです。)また、相談の結果、必要と思われるケースについては各会員が受任をしています(おもに、民事扶助や日弁連の委託援助事業を利用)。若弁会関西組全体で受任に至ったケースとして、精密機器の製造販売をおこなっている某社に派遣社員として派遣されていた人が今年の4月時点で派遣切りを通告されているという事例がありました。

具体的な経過についてご報告することは控えますが、おおまかな話としては、直接雇用の指導を求めて労働局への是正申告をし、また、労働者には労組に加入してもらって派遣先及び派遣元と団交をおこないました。その後、労働局から派遣先に是正指導が出て、かつ、団交の結果、組合員を含むブラジル人労働者の直接雇用が実現しました。もっとも、あくまで期間雇用であり、かつ手取りもかなり下がるとのことなので、推移は注視していくつもりです。

また、この5月に入ってからも、某企業の工場で請負会社従業員として稼動していたブラジル人が、請負の中止により一斉に請負会社から解雇されたという相談が、彼らが加入した労組経由で寄せられました。この件に関しては、若弁会関西組の有志で弁護団を結成して対応することになりました。また、会員が大阪民法協の派遣研究会で報告をしたところ、先輩弁護士にも協力をしていただけることになりました。

5 今後の会の活動としては、何らかの形で継続的に学校を支援し、その中で労働や生活の問題についても、解決を図っていきたいと思っています。関西組は、私を含め多くの会員が大阪や神戸や京都に居るので、滋賀に通うのはなかなか負担が大きいのですが、滋賀の弁護士で賛同して参加して下さる方も出てきています。労組も支援して下さっています。また、各会員が所属する事務所や単位会の先輩弁護士で協力して下さる方もおられます。

諸団体との連携、言葉や習慣の壁等々、当初の想定を超えた様々な問題も出てきております。ですが、皆さんの協力を仰ぎながら、できることから実現していきたいと考えています。

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労働トラブルホットライン報告

弁護士 増田 正幸

去る2009年6月6日午前10時から午後4時まで、日本労働弁護団の行う「全国一斉労働トラブルホットライン」の一環として兵庫民法協でも会員弁護士8名により電話相談を実施した。

当日は、全国36か所で合計462件の相談があったが、兵庫では合計16件の相談があった。

全国の傾向としては、年末の相談では「派遣切り」「雇止め」など非正規労働者からの相談が多かったのに比して、正規労働者の相談が多く、会社の経営悪化にともなうリストラ、賃金の切り下げや不払いが目立った。

兵庫の相談の内訳は以下のとおりである。

内 訳 件数
解雇
希望退職・退職強要・退職勧奨
賃金不払い
労働条件切り下げ
いじめ・嫌がらせ
労働時間
その他

解雇や賃金不払いなどが多いことは全国的傾向と一致する。

また、いじめ嫌がらせが多いことも最近の特徴であり、パワハラや長時間労働により鬱病になったという相談が4件あった。

その他にも以下のような深刻な相談が寄せられた。

・正規従業員として雇われたのに仕事がないことを理由に時給制に変えられ、出勤日も半減したために、収入が半減した(ビルメンテナンス)

・一方的に中退金の掛け金を控除されるようになったり、有給休暇を取得したか否かをボーナスの査定の考慮の対象とすると言われた(リサイクル業)

・運転中に何度も携帯に「明日から来るな」と言われ、出勤しなかったら「勝手に自己都合で退職した」と言われている(タクシー運転手)

・社長が賃金を支払わないまま行方をくらました

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