《第495号あらまし》
 マリスト国際学校
     雇止め裁判で4連勝
 幼稚園に対する地位確認事件
 第41期兵庫県労働委員会労働者委員任命
     11期連続、20年以上にわたる「連合独占」の異常事態


マリスト国際学校
雇止め裁判で4連勝

弁護士 萩田 満

1 事案の概要

学校法人マリスト国際学校(被告)は、アメリカのカリキュラムに従ったカトリック系学校であるマリスト国際学校を設置している。原告ドーソン氏はアメリカ国籍で、2004年8月1日に被告に常勤の美術教員として雇用され、2回契約更新されたが(教員全員が有期雇用契約である)、2007年7月31日付けで雇止め処分となった。

学校では、教職員の待遇・処遇についての不満が以前から高まっており、それにむけて組合(兵庫私教連加盟)を結成しようとした矢先に、その中心人物を、教員不適格等を名目にして雇止めした。

2 本訴と仮処分

原告は組合の力を借りて団体交渉を求めたが、学校が不誠実な対応に終始したため、2007年10月神戸地裁に地位確認(雇止め無効)および損害賠償請求(不当労働行為)の訴訟を提起するとともに、11月には地位保全と賃金仮払いの仮処分を申し立てた。

仮処分事件においては、2008年5月1日、神戸地裁が原告側の主張をほぼ認めて地位保全・仮払いの仮処分決定(1勝)をなし、さらに、学校側が申し立てた保全異議事件についても仮処分決定の内容を維持した(2勝)。

本訴においても、2009年1月22日神戸地裁(合議)が、原告の地位を確認して賃金の支払を命じるとともに不当労働行為による損害賠償100万円の支払を命じた(3勝)。

学校は、さらに大阪高裁に控訴していたが、本年9月4日、大阪高裁は控訴棄却の判決を言い渡した(4勝)。

3 神戸地裁、大阪高裁判決の内容

(1)本件の争点は、@本件雇止めに対し解雇と同様の規制がされるか、A本件雇止めに解雇と同様の規制が及ぶ場合、本件雇止めは有効か、B不法行為の成否及び損害額である。

(2)1審の神戸地裁判決は、@について採用された経緯や、教員全員が有期雇用であること、就業規則に定年退職、定期昇給等、長期雇用と親和的な制度が規定されていることから、原告が労働契約の更新につき合理的な期待を有していたとみとめられ、本件雇止めについては、解雇と同様の規制がされると判断した。Aの争点についても、被告が主張する数々の雇止め理由について排斥し、最後に「本件雇止めは、不当労働行為に該当する」と判断して、雇止めを無効とした。その上で、B不当労働行為の損害賠償100万円を認定した。

今回の大阪高裁判決は、ほとんど1審判決を踏襲しており、控訴審で被告が提出してきた数々の証拠について丁寧に審理し、その全てを排斥した。

4 判決の評価

今回の判決は、原告の地位を確認しただけでなく、不当労働行為を明確に認定してその慰謝料の支払いまで認めたことに積極的意義がある。

訴訟の帰趨を決したのは、提訴前から組合・私教連が団体交渉の要求や証拠蒐集を丁寧に行っていたことである。組合は、団体交渉を通じて不当労働行為の調査を要求しており、その点が判決の中でも評価されて本件が不当労働行為であることを推認させる根拠となった。また、学校が原告の能力不足の根拠として父兄の悪口らしき手紙を証拠として提出してきたのに対して、父兄や卒業生にお願いして原告の教師としての力量について応援してくれる手紙を集めて裁判で提出することができた。

裁判外での活動を裁判の中で生かし切れたことが裁判で勝訴する最大の原動力となったと言ってよいと思う。

5 今後の活動

しかし、裁判で勝利したけれども、原告の職場復帰はまだかなえられていない。被告が最高裁に上告をした。また、本件係属後の団体交渉は拒否されたままだ。

今度は、裁判の勝利を、裁判外での活動に生かして真の勝利を勝ちとらなければならない。そのためには、弁護団も奮闘する決意である。(弁護士、小沢秀造、野上真由美、萩田満)

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幼稚園に対する地位確認事件

弁護士 八田 直子


1 以前に報告しました、幼稚園教諭のAさんが不当な退職勧奨の末解雇されたため地位確認を求めて労働審判を申立てた事件について、和解が成立しましたので報告致します。

2 事案の概要

(1) 退職勧奨

Aさんは、昭和63年4月、B幼稚園と期間の定めのない雇用契約を締結し、以来22年間、幼稚園教諭として勤務してきました。

しかし、平成20年12月、AさんはB幼稚園の理事長から保育中に呼び出され、保護者からクレームがきていることを理由に自主退職をほのめかされるようになりました。そして、Aさんは、年明けには退職届の提出を要求されました。Aさんは、幼稚園を辞めなければならない理由が分からず、対応に悩む日々となりました。

その後もAさんは、保育中に理事長から呼び出され、2月中に退職届を出すようにと告げられました。その際に理事長は、2月中に自主退職すればAさんにとって有利な配慮をなすが2月中に自主退職しないと何ら配慮はしない、と言って自主退職を勧めました。さらに理事長は、「あなたは教師失格だ」「2月中に退職しないと幼児の親を集めて説明会をしなければならなくなる」と言ってAさんを追い詰め、退職を急がせました。

(2)うつ病の罹患

Aさんは、平成20年10月ころから、幼児への対応や保護者からのクレームの対処によって、食欲が減退し朝起きて出勤することが辛い状態となっていましたが、12月からの不当な退職勧奨も加わって、Aさんの体調はさらに悪くなりました。そして、2月半ばには、自分は死んだ方が良いのではないかと考えてしまうようになり、20年間行っていた趣味のサークルも休むようになりました。Aさんは、2月26日、医師から「鬱状態であり休業した方が良い」と告げられましたが、頑張ってB幼稚園に行きました。しかし、理事長からの退職勧奨が続いたことから、Aさんは園長に対し、鬱状態と診断されたことを述べ、診断書を提出しようとしましたが、受取りを拒否されました。

(3) 解雇通告

その後も、Aさんに対する退職勧奨は続き、3月10日、Aさんは理事長から、3月末日で解雇する旨記載された解雇通知書を渡されたのです。Aさんは、その日「鬱病、少なくとも1ケ月間の休業の上、加療が必要である」旨診断されました。11日から13日、Aさんは体調が悪く起き上がることもやっとであったため、幼稚園に連絡の上欠勤することにし、16日に3月10日付けの診断書をFAXで幼稚園に送り休業しました。

3 労働審判の申立

Aさんは幼稚園に対し、解雇撤回及び解雇理由証明書の交付を求めましたが、幼稚園が解雇を撤回せず解雇理由書を交付しなかったため、Aさんは労働審判を申立てました。

4 労働審判について

労働審判では、解雇の不当性についての審尋が行われたのはもちろんですが、審尋の結果、幼稚園の就業規則が明らかになり、Aさんには多額の退職金が存在することが明らかになりました。幼稚園側は、就業規則を周知していない状況にありながら、退職金は請求されなかったため支払わなかったと述べていました。

そして第2回審尋後、労働審判委員会から具体的な金銭的解決の提案がありました。提案内容は、賃金1年分に退職金を加えた金額を幼稚園がAさんに支払うというものでした。

Aさんは、B幼稚園での復職か金銭的解決をするか悩んだ末、病気の完治後、幼稚園教諭として再び働くとしても新たなところでスタートする方が良いと考え、調停に応じることにしました。

もっとも、幼稚園は、調停条項の中に、今後Aさんが鬱病の罹患について損害賠償を行わないことを盛り込むようにと要求しましたので、調停案の金額に加算するよう求めました。

その結果、退職金及びAさんの賃金1年分に60万円を加えた金額を解決金として幼稚園がAさんに支払うことで和解が成立しました。

5 Aさんから

Aさんは、和解成立後、「一人で悩んでいるよりも、色々な人に相談した結果、和解という形で解決できて感謝しています。」と述べておられました。また、Aさんは、相談時から保護者からのクレーム内容及び保護者のAさんに対する意見を知りたいとおっしゃっていたところ、労働審判の審尋において、クレームが多数のクレームという程の内容や数ではなく、むしろAさんを味方する保護者の意見が存在することが明らかになり、Aさんは「知りたいと思っていたことが明らかになり、気持ちが楽になりました」と述べておられました。

Aさんは、当初、鬱病の状態が酷く当時のことを思い出し話をすることもやっとという感じでしたが、現在は病状も快方に向かい、再び幼稚園教諭として就業できるように、ボランティア活動をしながら準備を整えておられるところです。

6 今後について

Aさんと幼稚園との関係では事件は解決しましたが、労災認定との関係では未だ解決しておりませんので、さらに尽力していきたいと考えております。

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第41期兵庫県労働委員会労働者委員任命
11期連続、20年以上にわたる「連合独占」の異常事態

労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議事務局次長 丸山  寛


第41期兵庫県労働委員会の改選公示が4月28日に行われ、連合兵庫推薦で8人、非連合統一候補として福栄かをるさん(兵庫労連副議長・兵庫県医労連副委員長・兵庫民医労委員長)の9人が推薦されていましたが、兵庫県知事は、8月3日に連合兵庫推薦の7人を任命しました。これで第31期から11期連続で兵庫県労働委員会労働者委員を連合兵庫推薦委員が独占する異常事態となりました。

労働者委員選任に先立ち、労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議は、7月14日に「公正選任を求める県知事要請」を行い、あっせんにおける不適切な労働者委員の発言や行動を具体的に指摘し、中労委や京都・滋賀県で非連合労働者委員が実現した正常化への変化の流れにそった公正任命を行うよう申し入れていました。

しかし、兵庫県知事は、従来通りの7つの選任枠を踏襲し、和田利重氏(山陽電鉄労組特別執行委員)が退任し、栗山重治氏(神姫バス労組執行委員長)。柳田忠氏(JAM 山陽顧問)が退任し、宮内博文氏(オークラ輸送機労組顧問)を選任しただけで、労働委員会の活性化、再生に向けて真剣に検討したとはとても思えません。

労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議は、労働委員会活用パンフを作成するなど、連合独占という異常事態の下でも、積極的に労働委員会を活用する中で、労働委員会を真に労働者・労働組合を救済する本来の姿に再生させるため、全力をつくすことを表明するものです。

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