《第498号あらまし》
 日本トムソン正社員化訴訟
     神戸地裁姫路支部が仮処分で不当決定
 引き続き闘っていきます
 全国一斉「労働相談ホットライン」開催
     もしもし、こちら労働相談所、あなたの悩みは何ですか?
 全国一斉労働トラブルホットラインの結果報告
 実務研修会(2009.12.12)
     脇田滋教授講演報告
     脇田滋教授講演感想


日本トムソン正社員化訴訟
神戸地裁姫路支部が仮処分で不当決定

弁護士 吉田 竜一

1 建設機器のベアリング等を製造する東証一部上場の企業である日本トムソンの姫路工場で2004年4月から2008年12月までの間に、順次、姫路工場で就労するようになった15名の派遣労働者が2009年3月末での派遣切りを宣告されたところ、内9名の派遣労働者がJMIU日本トムソン支部に加入し、正社員組合の支援のもと、派遣先日本トムソンと派遣元プレミアラインの双方に労働者派遣法違反、職業安定法44条違反を認定した労働局の「雇用の安定」を図るための措置を講じるようにとの是正指導を得て、直接雇用を勝ち取りました。この直接雇用を勝ち取ったこと自体が一つの大きな成果でしたが、トムソンの提示する直接雇用案が期間を2009年9月末日までとする有期契約で、しかも更新が原則とされていないため、9名の労働者は、期間の定めがあり、更新が原則とされていないことに異議を留めて契約書を提出し、2009年4月24日から就労を開始するとともに、4月28日に正社員化を求める訴訟を提起したところ、本訴が進行中の本年8月26日、日本トムソンは直接雇用した9名全員に対し9月末で契約更新をしないと雇止めをしてきました。

2 そのため、通常のケースとは逆になりますが、本訴の進行中に仮処分の申立を余儀なくされたところ、本訴では松下(パナソニック)PDP事件の大阪高裁判決をベースに就労間もない段階で黙示の労働契約が成立していたとして正社員化を求めていますが、当時、最高裁の上告受理はまだ明らかになっていなかったとはいえ、仮処分で黙示の労働契約の成立を認めさせるのは困難ではないかとの判断のもと、仮処分では既に直接雇用を勝ち取っている利点を活かし、是正指導を踏まえて実現した直接契約を更新拒絶したことの違法性を問う構成を採りました。

3 「雇用の安定を図れ」との労働局の是正指導によって実現した契約が有期契約である場合、数か月先の初回の契約更新時に雇止めをすることが許されるのかということを正面から問う仮処分でしたが、11月20日に下された決定は、本件では継続雇用の期待は認められないから解雇法理(労働契約法16条)は類推適用されないとして、9名全員の申立を却下するというものでした。決定が解雇法理の類推適用を否定する論拠は、①労働局の是正指導によって「雇用の安定」を図る措置として実現したものであっても、日本トムソンの直接雇用案(6か月の有期契約)を労働局が受理した以上、②日本トムソンが労働局にも労働組合、労働者にも「更新は難しい」と最初から説明していること、③直接契約を締結するに際し、労働者が期間の定めがあり、原則不更新となっていることに異議を留めたとしても、それは契約内容を変更するものではないこと、大きくは以上の3点に集約されます。

しかし、これでは偽装請負等の事案で派遣期間制限の違反が認められることを理由に労働局が派遣先に直接雇用を指導しても、数か月の有期契約を締結して最初の更新時に雇止めしてしまう企業が続出することになるでしょうが、そのような直接雇用が「雇用の安定」を図る措置であったなどと言えるものでないことは明らかです。今回の決定は、裁判所が労働者派遣法の脱法行為を慫慂する決定との批判を免れるものではありませんし、製造業派遣の禁止や「みなし雇用」制度を導入するなどして労働者派遣法を業法から労働者保護法へ抜本的に改正するための法案が来年の通常国会に提出されることが確実となっている社会情勢に逆行する不当極まりないものと言わざるを得ません。

却下決定に対しては、11月25日、大阪高裁に即時抗告の申立を行いました。今後は神戸地裁姫路支部に係属中の本訴と大阪高裁の仮処分の抗告審で引き続き日本トムソンに対し地位の確認を求めていくことになります。

4 2009年11月18日、最高裁で松下(パナソニック)PDP事件の弁論が開かれ、当事者の吉岡さんは、「必死に生きようとしている人間を否定する社会は間違った社会です」と意見陳述をされたようですが、日本トムソンで働いていた労働者たちの気持ちも吉岡さんと全く同じです。

この原稿が記事になっている頃には既に松下(パナソニック)PDP事件の最高裁判決が下されている筈で、もしかしたら日本トムソンの決定と同じような不本意な判決が出ているのかもしれません。

そうでないことを願っていますが、仮にどのような判決が下されようと、必死に生きようとしている人間が救われる当たり前の社会を実現するため、裁判闘争と立法闘争を車輪の両輪にして全国で立ち上がっている労働者と共に頑張っていきたいと思いますので、どうかご支援をよろしくお願い致します。

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引き続き闘っていきます

JMIU日本トムソン支部委員長 前尾 良治


日本トムソン株式会社によって、9月末で解雇された期間社員は、正社員化を求める本裁判と共に、地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てていましたが、11月20日、神戸地方裁判所姫路支部は「全面却下」の不当決定を下しました。「トムソンに2度首を切られ、今回、裁判所にも首を切られ、この1年間で、3度首を切られた思い・・・」と怒りで声を震わせています。

職安法44条と派遣法に違反した日本トムソン株式会社には、何らおとがめもなく、派遣社員として、期間社員として、一生懸命働いてきた労働者の生活もいのちも脅かす、血も涙もない決定です。

しかし、9月末で解雇された期間社員は、本当にこの1年間頑張ってきました。9月の日本トムソン支部の第34回定期大会においては、2人の期間組合員が、執行委員に立候補し、久しぶりに執行部に若い、新しい風を吹き込んでいます。又、兵庫中央労働学校の第120期姫路教室には5名が参加し、無事課程を修了(9月?12月)。普通に生活できる日本を築くための担い手としてのきっかけをつくろうとしています。

地域はもとより、全国で同じように派遣切りと闘っている仲間や青年たちとも一緒に連帯の絆を深めてきました。

私たちは、大阪高等裁判所へ抗告すると共に、現在、神戸地方裁判所姫路支部で係争中の正社員としての地位確認・賃金仮払請求等事件で勝利決定を勝ち取り、争議の早期全面解決をはかるために、全国の仲間と共に全力で闘う決意です。

引き続きご支援・ご協力をよろしくお願いします。

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全国一斉「労働相談ホットライン」開催
もしもし、こちら労働相談所、あなたの悩みは何ですか?

兵庫県労働組合総連合事務局長 北川 伸一


共同態勢で的確な相談活動が

11月30日、12月1日、と2日間に亘り全国一斉「労働相談ホットライン」が実施され、兵庫労連も民法協の全面的協力を得て取り組みました。2日間の結果は、

11月30日(月)
10:00~20:00
12月1日(火)
10:00~18:00
相談員 兵庫労連5名
民法協弁護士5名
兵庫労連5名
民法協弁護士5名)
相談件数 15件(再相談1件含む) 8件
内訳
性別 男性12名、女性11名
年代 ~20代4名、30代5名、40代3名、50代3名、60代~5名、不明3名
雇用形態 正社員7名、パート・契約・アルバイト6名、臨時嘱託3名、
派遣・請負3名、不明4名
相談内容 解雇2、退職強要・勧奨4、賃金・残業等未払5、配転・出向・転籍1
労働時間・休暇1、セクハラ・いじめ1、労災・職業病、
その他(最賃等)7、不明2

以上の様な内容でありました。個別には「2年前の賃金を未だに支払ってくれない。請求権がなくなる前に何とか取り戻したい」「社内でおきた横領事件に加担したような疑いをかけられ解雇されようとしている。自分は潔白。本当は気に入らないから首を切りたいだけのこと。理由にならない理由で解雇されるのは納得できない」「派遣の仕事だが、時給は最賃ギリギリ。遠方の現場に行くときは交通費は持ち出しに (自腹を切る)なる。これって最賃違反にならないのか」等という 深刻且つ回答するのに難しい事案もありました。しかし、先生方の協力があったおかげで混乱もなく適切なアドバイスができたのではないかと思っています。

「年越し派遣村」の再現は見たくない

一部輸出製造大企業の業績回復が報道されたのを目にしましたが、雇用を始めとした労働環境は厳しさを増しています。政府の有効な経済対策・雇用対策がなければ「年越し派遣村」の再現は必至です。寒空に職もなく住むところもなく、飢えに苦しみながら彷徨う。そんな情景を想像するだけで心が痛みます。しかし、想像するだけでは何も変わらない。私たち労働組合、組織労働者の真価が問われている、そう思っています。

労働組合に入って闘おう、社会に目を向けよう

私たちはこれからも「労働相談活動」を続けていきます。相談所、相談員も増やし態勢の充実を図りたいと考えています。そして、相談活動にとどまらず「労働組合に入って共に闘おう。企業の無法を許さず、まじめに働けば普通に暮らせる社会に変えていこう」と、呼びかけていきます。幸いなことに、民法協の先生方から日常的な相談活動への「協力態勢」を取っていただいています。今までのご協力に感謝しつつ、変わらぬご支援・ご協力を改めてお願いいたします。

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全国一斉労働トラブルホットラインの結果報告

弁護士 本上 博丈


1 相談件数

日本労働弁護団(兵庫県は当協会)は12月5日を中心に全国29都道府県31か所で恒例のホットラインを行い,全国の相談件数総計は221件だった。全国規模でのテレビ報道がなされなかった影響もあり件数は例年より少なめで,東京30件,大阪14件,兵庫県6件だった。愛知、福岡、北海道は比較的多かった。兵庫県では20件くらいが平均的な件数なので,今回はかなり少なかった。新聞での小さい案内記事だけでは,なかなか知ってもらえない。

2 全国の内容的特徴

全国的には解雇と賃金不払いの相談が多く,解雇の中でも整理解雇、賃金不払いの中でも残業代等ではなく月例賃金そのものの不払いが多いことなどは、前回の今年6月実施のホットラインと同じ傾向である。昨年秋から始まった世界的不況は、日本では回復傾向にあるという報道もなされているが、相変わらず労働者の不安定な雇用環境は続いており、企業の先行き不安な状態のツケが弱い立場の労働者に押しつけられた形となっている。

いじめ・嫌がらせ・差別の相談も多い。これらは、経営上の都合から嫌がらせをして退職に追い込もうという意図があったり、また全体的な労働環境の悪化によるストレスが嫌がらせ・いじめといった形でより弱い者に向けられている例が多いと思われ、不況に伴う雇用不安と密接に関連した問題といえる。

雇用形態の別では、今回は正社員の相談が多かった。今年6月も正社員の相談が多く、雇用不安の問題は,非正規労働者のみならず正社員も含めた労働者全体に広まっている状況がうかがわれる。

3 兵庫県の内容的特徴

兵庫県の6件の内訳は,解雇3件,退職勧奨1件,賃金不払い2件,賃金カット1件で(重複あり),少ないながらも傾向は全国と同じである。不明な1名を除いて全員が管理職でない正社員であり,40歳代が4名で,相談者6名全員が非組合員だった。いくつか紹介する。

① 印刷会社営業職の40歳代男性は,朝7時35分に家を出て,帰宅は翌日午前1?2時という異常な長時間労働であるのに,残業代は夜8時以降しか付かない。

② バス会社の40歳代男性運転手は,同僚と隊列を組んで運行中の走行順序をめぐって休憩したSAでケンカになったが,その日の内に謝罪した。3日後に出勤すると,社長から事情を聞かれ素直に認めると,ETCカードと車両のカギを返せと言われ,その翌日には私物がまとめられた段ボールを持って帰れと言われたが,解雇とは言われておらず,解雇通知も離職票の交付もなく,解雇予告手当ももらっていない。

③ 化学製品メーカーの40歳代男性事務職は,もともと会社では有給休暇を使うと皆勤でなくなるばかりか賃金を減額されていたが,本年9月,子供がインフルエンザにかかったことを報告すると休業を命じられた。ところが,勝手にその日は有給休暇をとったことにされ,賃金減額までされた。

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実務研修会(2009.12.12)
脇田滋教授講演報告

弁護士 和田 壮史


1 この度の実務研修会では脇田滋龍谷大学教授による講演「派遣・非正規労働をめぐる法規制と連帯の課題」がおこなわれました。派遣労働問題の第一人者である脇田先生の講演ということで,研修会会場となった勤労会館会議室は大勢の聴講者がつめかけました。

講演は,グラフや図をふんだんに使ったレジュメを基に,現状報告と分析が交互におこなわれ,非常に分かりやすく示唆に富むものでした。なお,以下にご紹介する内容は,筆者の理解を表したものであり,筆者の理解力不足等により先生の講演内容が正確に反映されていない可能性がある点については,あらかじめご容赦願います。

2 内容の概略

(1)まず現行労働者派遣法の制定や「改正」の経緯が,語られました。先生は,派遣法制定や「改正」の狙いは①偽装請負合法化②労働分野における性差別の雇用形態における差別へのすりかえ③中間労働市場論④労組弱体化・(非正規と正規の)労働者分断,にあったという分析をされていました。現状では,残念ながら,このような狙いは達成できてしまっている感があります。派遣法を性差別の問題として捉えるという視点は筆者にとって新鮮でした。

(2)次に,現行法の問題点について検討がおこなわれました。現行派遣法により,正規雇用がいかに破壊され非正規雇用が激増したかということが,具体的なデータとともに語られました。さらに,日本では半ば常識のようになってしまっている派遣労働者と正規雇用労働者との間の差別待遇が,世界基準で見ると非常識であること,また,このような差別待遇は「社会的身分による差別」として憲法14条違反になりうること,などという指摘がなされました。

(3)その後,現在検討されている法改正の行方についての現状報告がおこなわれました。現行派遣法が業法であるのに対して改正法は労働者保護法であることを明示すること,改正法では製造業派遣原則禁止が明記されること,改正法では26専門業務以外は常用雇用のみとすること,改正法では派遣先が期間制限を超過して派遣を受け入れた場合等に派遣労働者が派遣先に直接雇用を通告することにより労働契約が成立するという直接雇用みなし制度を導入すること,派遣会社にマージン率公表を義務づけること,などが検討されているとのことでした。

もっとも,派遣法改正がなされて派遣先の直接雇用義務が明記されたとしても,有期雇用についての規制がなされない限り,派遣先は労働者を短期間有期雇用した後に雇止めをすればよいということになる可能性があり,抜本的な解決にはつながらないという指摘もなされました。

(4)講演内容は,その後,労働運動の連帯の課題に移っていきました。企業別(正社員)組合が主の日本では,労組が非正規労働者の受け皿になり得ていないこと,そのことにより労組は労働者代表としての正当性を持ち得ていないこと,その結果として労働運動が不調になってしまっていること,などがデータを交えて語られました。また,「扶養者」が企業から扶養手当を含めた賃金を貰い,そこから教育・医療・介護といった社会保障サービスを購入していた従来の日本モデルから,社会保障サービスは原則として公的負担でまかなう,というモデルに転換することを考えるべきではないかという主張もおこなわれました。

(5)最後に,先生が近年交流を深めている韓国の労働運動の現状について報告がおこなわれました。韓国では企業別組合が産別にするために解散して,産別組合を結成し,非正規労働者を取り込んだ労働運動が展開されているとのことでした。また,韓国の派遣法にあたる非正規職保護法においては,制限期間超過受入れについては派遣先に直接雇用義務が生じるとされているなど,日本の議論を先取りしたような法制度になっているとのことでした。

(6)講演終了後には,会場から盛んに質問が出され,活発な質疑応答が続きました。

3 この講演により,現行派遣法の抱える問題について認識を新たにすると同時に,改正において注目すべき点がよく分かりました。今後の活動に活かしていきたいと思っております。

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実務研修会(2009.12.12)
脇田滋教授講演感想

全港湾阪神支部 硲  富雄


派遣労働とは資本の都合のいい労働力と私は思っています。言葉は悪いですが、労働者を物と考えて必要に応じて使ったり切ったり、彼らの多くが急増している年収200万円以下なのであろう。ダブルワークをしないと食べていけない為、過労をし心身ともに疲れ果てて、体や心を壊す人も少なくないと思う。

私には、今2歳の女の子と嫁のお腹の中に二人目の赤ちゃんが居ます。この子達が大人になればどのような世の中になっているのか、今より悪くなってないか不安で仕方ないです。

又脇田先生が言っておられたように労働運動と政治は連動していなければいけないと思う。国の考えを変えないと前進はないだろう、日本では政権が交代して派遣法の見直しがされて、韓国では政権が変わって派遣の規制緩和が進んでいると先生は言っていましたが、まさしく政治がこのような結果を生んでいると思う。

以前阪神支部の実務研修会に民法協の増田正幸先生が講師に来ていただいた時に、フランスでは労働組合がストライキを決行する時に未組織労働者も協力してくれると話されていました。脇田先生も、全ての労働者の為の労働運動がそのような信頼関係を築くと、本来の労働組合とはそのようなものではないですかと、言っておられたように思います。今回の研修会は先生の熱弁に聞き入ってメモも取るのを忘れましたが、気づかせて頂いた事が沢山ありました。

脇田先生ありがとうございました。

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