《第500号あらまし》
 過労自殺未遂事件
 5回連載:過労死・過労自殺事件
     〈第1回〉姫路警察署公務災害事件
 労働相談センターからの報告
 「労働法制の連続講座」に参加して
 新人弁護士会員の紹介


過労自殺未遂事件

弁護士 八田  直子


1 事件の概要

Aさんは、昭和58年4月からB社に営業職として勤務し、昭和62年4月からはC社に出向しC社で勤務していました。そして、平成14年10月には、C社東京支店の支店長に昇進しました。

しかし、東京支店では継続的に他支店と比べて売上高達成率が低迷していたため、Aさんは、支店長就任直後から過大な売上高達成目標を設定されました。また、そのような状況のなか、支店従業員7名の希望退職を募ったうえで約2、3名の肩たたきの実行を求められました。Aさんが希望退職者を募集すると、C社の予想外に、女性1人を残して部下全員が退職を希望し退職するに至りました。

しかし、同支店での売上高達成目標の設定は変更されず、十分な人員補充がなかったため、Aさんの業務量は激増し、時間外労働が1カ月に100時間にも及ぶ月もあるという状況になりました。そして、Aさんは、心理的ストレスと慢性的な肉体的疲労により、うつ病発病に至りました。

Aさんがうつ病に罹患したことにより、一旦は出向先が変更され、営業職から管理部門に職種が変更されました。

しかし、C社の事業再編が予定されるようになると、Aさんは、平成16年3月1日付けで出向を解かれB社ではリストラ部屋と呼ばれていた総務部付への異動となりました。Aさんは、将来への不安感を煽られるとともに、毎日、有言無言でリストラを迫られる極めて厳しい立場に置かれました。Aさんのうつ病は悪くなり勤務できる状態ではありませんでしたが、上司から、転籍・退職ではない方法で総務部付(リストラ部屋)を出たければ、医者に復職可能との診断書を書いてもらえと言われました。そのため、Aさんは追い詰められて、現在復職可能である旨の診断書を医師に書いてもらいました。Aさんが上司に診断書を提出すると、B社は職場復帰を段階的に進めるという本来の手順を一切踏むことなく、いきなり同年3月18日付けで、4月1日からのB社四国支店土木グループへの転居を伴う営業職への異動を内示した。

その結果、Aさんは、3月22日、高松市内の宿泊先ホテルで縊死自殺未遂をしました。その結果、頚髄損傷となり、脊髄損傷による高度の四肢麻痺(第1級の3)という後遺障害が残る状態となりました。

以上のように、Aさんがうつ病に罹患し自殺未遂をして高度の四肢麻痺となったのは、勤務における過重労働等による肉体的精神的負担や転籍・退職等リストラの強要が原因であり、これはB社及びC社の安全配慮義務違反によるものであるとして、AさんはB社、及びC社から営業の全部譲渡を受けたD社に対し、損害賠償請求を求めて平成21年8月に提訴しました。

なお、Aさんのうつ病罹患と頚髄損傷による四肢麻痺が業務上災害に当たることは千葉労働基準監督署長によって認められています。

2 今後について

現在、第2回が終了し、B社からは過重労働ではなかったことや因果関係が存在しない等といった反論がなされております。また、D社からは、営業譲渡の中に損害賠償債務が含まれないという主張がなされています。

B社に対しては、労基署の資料やAさんからの話等により、当時の勤務の実態や自殺未遂に至った経緯についてさらに明らかにし、責任逃れができないように反論していく予定です。

D社に対しては、営業債務には、個々の労働契約等とは異なり、不法行為等に基づく損害賠償債務は含まれるとの判例がある以上、特に損害賠償債務についての除外規定がない限り、D社に同債務も移るのが原則です。従いまして、既に、D社に対しては営業の全部譲渡を受けている以上責任を逃れられないとの反論をしております。

Aさんは、四肢麻痺により、首から下は全く動かない状態となり私生活の苦労は大変な状況です。また、咳やくしゃみをする肺活量もないため、夜中でも痰の吸引をしないと生死に関わる状態になっておられます。会社がAさんの体調に配慮し、勤務時間や業務量を調整し、退職強要をしなければ、Aさんがこのような状態にならなかったことは言うまでもありません。Aさんは真面目に勤務し一生懸命勤務していただけです。会社の責任逃れは決して許されません。

第1回弁論では、Aさんの奥さんが意見陳述をなされました。会社に対する怒り、介護の苦労等を語って下さいました。

Aさん及びAさんのご家族の気持ちが少しでも晴れるように、尽力していきます。

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5回連載:過労死・過労自殺事件
〈第1回〉姫路警察署公務災害事件

弁護士 土居 由佳


先日,民法協の事務局から,この2,3年間で過労死・過労自殺事件で業務上認定または勝訴をした事件を連載で報告してもらいたい,というご連絡がありました。そこで,過去2,3年間を振り返ったところ,報告できそうな事件が5件ありましたので,これから1事件ずつ報告をさせていただきます。

第1回は,平成19年3月9日,地方公務員災害補償基金兵庫県支部審査会で,公務外認定処分を取り消す裁決を得た事件です。藤原精吾弁護士,渡部吉泰弁護士と私で取り組みました。

この事件は,姫路警察署で自動車警ら隊勤務に就いていた57歳の男性警察官が,平成12年6月22日,姫路ゆかた祭りという暴走族の暴徒化を予想した特別警備体制下で,緊急通報を受けて傷害事件の犯人を単独で追跡し,犯人と一対一で対峙して格闘した末に逮捕したものの,その直後に,急性再発性心筋梗塞,ないしは,心筋虚血に由来する心原性ショック或いは心室細動を発症して死亡した事件でした。

地方公務員災害補償基金兵庫県支部への申請は,被災者の妻本人が手続きをしていましたが,申請から約5年後の平成17年10月17日,心肥大,高血圧などのもともと抱えていた基礎疾患による死亡だとされて,公務外認定を受けていました。

そこで,被災者の妻が審査請求を行った後の段階で,受任をすることになりました。私たちは,本件発症の原因となる逮捕業務が,同僚の警察官が,「特異」かつ「異例」かつ「困難」な職務,「過激な実力行使」であったと評価するほどの職務であり,この業務が精神的・肉体的負荷となって本件疾病を発症させたこと,被災者の健康状態は,通院治療と合わせて職場で継続的に健康管理指導を受けることにより改善し,被災した年には健康管理区分の指定解除を受けていたから,通常の業務に耐えられる程度の状態にあったと強く推定されること,従って,逮捕時の格闘行為によって被災者の基礎疾患が急激に悪化させられたと考えるべきであること,を強調しました。

その結果,審査会は,私たちの主張が事実であると認定し,「本件は業務上たまたま急性陳旧性心筋梗塞が発生したものではなく,本件逮捕業務の過重性により,心筋虚血の急性増悪によって発症した心原性ショックとそれに続発した心室細動が生じたものと認められる」として,基金支部の決定を取り消し,公務上認定をしました。

ご遺族の約7年10か月にわたる思いがようやく遂げられたのでした。公務災害認定後,ご遺族は殉職者の遺族として表彰され,お元気に新たな人生を歩んでおられます。

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労働相談センターからの報告

兵庫労連相談センター 岩見 洋子


「12月労働相談内容」(抜粋)

1.12月1日 労災の相談(労働相談ホット ライン・担当松山弁護士)

◇ヤマト運輸・パート

◇同僚からセクハラ(心療内科に通院中)職場の配置転換を申請したが、逆に退職勧奨を言われ退職届けを11月11日提出。

◇先生からのアドバイス・対応

セクハラとその後の因果関係が問題、労災申請は姫路の労基署へ。

◇12月9日また同じような相談内容の電話。とりあえず先生のアドバイスどおり労基署にまずいくことを伝える。14日3回目の電話。労基署は労災申請受理は無理と断わられたとの報告を受ける。断わられた理由を聞いてみると新たな事実が発覚。すでに労働局雇用均等室にセクハラの件で相談し粉砕金(解決金)で印鑑を押している。また退職金も受け取っていたことが判明した。今後は、給料明細と源泉徴収書の金額の違いを弁護士さんをたてて交渉していく旨伝えられたので相談者が納得いくまでどうぞということを申し上げ相談打ち切り。

1.12月1日 退職勧奨の相談(労働相談ホ ットライン・担当野上弁護士)

◇介護職・娘の事で父親が代理相談。

◇個別面談@やる気がない、成果が出なかったらやめろ。個別面談Aシフトも減らされ、他の仕事が向いているのではと退職勧奨。当事者は仕事の続行を希望している。12月3日親も含めた面談。

◇先生からのアドバイス・対応

退職の意志がないことを明確に伝える。あまりしつこい場合は内容証明の送付。会話の録音。

◇12月10日面談の報告。思いやりがなく、効率重視で面談中も酒臭いとかの言いがかりややりとりがあったようですが、一応継続勤務となり解決。

2.12月8日、14日2回 賃金未払い

◇現在は赤穂の会社で働いている。以前鳥取で働いていた会社での賃金未払いの件で相談を鳥取・しまねの労連に相談、鳥取労連の担当者が会社と話し合う中で、相談者の相談内容と会社側との手続き上の行き違いがあることが判明し解決は無理と判断され、何とかしてほしいとこちらの相談センターに相談が入った。相談センターとしては、現在働いている赤穂での相談は受けられるが県外の事でもあり2県連の労連が動いた結果であり無理ですと答えると、話しだけでも聞いてほしいと今の生活状況のことまで話がおよんだ。最後に鳥取でのことはいい勉強になったと受け止めて頑張ってくださいとエールをおくって終了。

3.12月14日 経営者からの個人債務、資金 繰りの相談

◇会社は大阪にあるために兵庫県商工団体連絡会より近くの民主商工会の紹介を依頼。

4.2009年4月9日来所 休職中の退職勧奨 (相談継続中)

◇ 2008年11月ストレスによる自立神経障害で病欠90日。2008年12月24日に退職勧奨を受けるが応じず。その後2009年2月20日から休職にはいる。2009年4月9日来所休職期間中の解雇は無効。毎月診断書を内容証明で送付することをアドバイス。その後毎月のように診断書を送付したことの電話がはいる。2009年12月に医師より復職の許可がでたためどうしたらいいのかの相談があり復職の診断書をもって学園に出向き復職に向けて話し合うように伝えたが診断書を学園に郵送。学園の担当者が相談者の近くまで出向いてきて退職勧奨の話が出されるが相談者はあくまでも復職の意志を伝える。2010年1月にもう一度話し合う事でその場は一旦打ち切り。休職期間は2010月2月で終了する。

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「労働法制の連続講座」に参加して

全日本建設交運一般労働組合兵庫合同支部 執行委員 秋武 和雄


2010年1月14日に第1回の講座が開催され「懲戒」について前半を白子先生が総論を、後半に八田先生が具体的な判例について述べられました。全体で14名の参加でした。

白子先生は、「不当な解雇の口実を与えない」をテーマに懲戒の有効性や種類を説明されました。懲戒の事由となる企業秩序違反については、日常的に起こりうる業務命令違反など具体例をあげて、対応策を述べられました。

懲戒処分の有効要件では、就業規則に定めのない処分はできないが、言いがかりとしか思えない事由での解雇が非常に多いとのことでした。私たち労働者は、企業からの不当な処分を受けない、また不当な処分を防ぐためにも、より多くの法律・労働法などの学習を積み重ねて、労働組合運動にいかしていく必要があると感じました。

後半の八田先生は、「懲戒の総論に関する判例」を紹介されました。様々な懲戒処分に対して無効とした判例を説明されました。判例文を見るだけでは、内容がなかなか理解できない事案でも分かりやすい解釈の説明で、大いに勉強になりました。

今回のような講座は、より多くの労働者が参加すべきだと感じました。次回からは、支部としても大いに参加を強めていきたいと思います。

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新人弁護士会員の紹介


神戸あじさい法律事務所 弁護士桑原  至

この度,民法協に入会させていただきました,神戸あじさい法律事務所の桑原至と申します。

大学,大学院,司法修習時代を通じて慣れ親しんだ神戸の地で弁護士としての第一歩を踏み出せることを大変嬉しく思っています。

甚だ未熟ではありますが,日々研鑽を怠ることなく,自身の向上に努めていく所存でございます。

何卒,温かいご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願いいたします。


神戸あじさい法律事務所 弁護士坂本 知可

新62期の坂本知可と申します。

私は,以前,知人が,病気で倒れ,一時期社会との繋がりを断たれて落ち込まれていたけれども,再び働く場所を得られて,時を経るうちに瞳がいきいきと輝くようになっていかれたのを身近で目にしたことがありました。

労働は人間にとって欠くことのできないもののうちの一つなのだと実感しました。

事務所には、労働に関する問題を抱えた方々がたくさん来られ,労働事件についての関心は、日毎に増しておりますので,今後、労働事件にも一生懸命取り組んでまいりたいと思います。

社会経験もなく,甚だ未熟な身ではございますが,今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。

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