バンドー化学は,1906(明治39)年に,同社の神戸工場がある神戸市兵庫区で操業を始め,1970年には東証1部上場をおこない,現在では,日本各地及びアジア,欧州,北米に拠点を置く老舗の企業です。初代社長である榎並充造氏は,昭和3年に神戸の地にブラジル移民のための「移民収容所」を作るために私財を投じて奔走した,篤志家として有名な人物です。
しかし,2009年に同社は,創業の地にある神戸工場を閉鎖するとして,同社に直接雇用されていた準社員達の雇止め及び日系ブラジル人が多数いた派遣労働者らについて派遣の打切りを通告しました。
バンドー化学の企業組合は,正社員だけの組合で,準社員や派遣社員の加入は認められていませんでした。そこで,準社員らと派遣労働者らは文化や言葉の違いを乗り越えて連帯し,労働組合を結成し,全労連を始め各団体の支援を受けながら,雇止めや派遣の打切りの撤回を求めて団体交渉を重ね,1か月に及ぶストライキも敢行しました。(争議の詳細は,本誌第499号(2010年1月20日発刊)掲載の八田直子弁護士の報告をご覧下さい)。そして,団交等を重ねる一方で,法的手段にも訴えることになりました。具体的には準社員5名について,仮処分の申立をすることになったのです。弁護団は,本上博丈弁護士,増田正幸弁護士,八田直子弁護士と和田です。
どのような内容の申立をしたのか,以下に概略を記します。
(1)申立の趣旨(何を求めたのか)@準社員5名が労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることと,A2009年12月以降の賃金の仮払いを求めました。簡単に言えば,従業員の地位であることの確認(@)と,労働者であることを前提に支払われるべき賃金を支払うこと(A),を求めたのです。
(2)申立の理由(根拠)ア 契約更新への合理的期待
5名のうち2名は製造業務への派遣が全面的に禁止されていた2000年,神戸工場で派遣社員として働き始めました。また,うち2名は2004年4月と2005年12月に業務請負社員として働き始めましたが,実態は派遣でした。すなわち,この時点でバンドー化学は派遣法違反(すなわち職安法違反)をしていたことになります。
5名は,クリーニングブレードというコピー機に使われる部品の製造・検査過程で勤務していました。いずれも,高度な技能や経験が必要とされる部署でしたが,5名共に精力的に仕事に取り組んでおり,バンドー化学からも評価されていました。そして,バンドー化学神戸工場の現場責任者から請われて,直接雇用の期間社員になり,3か月経過後は,契約期間1年の準社員になりました。
彼らは,会社側から「頑張ったら正社員になれる」「これまでどおり頑張って,定年の60歳まで準社員でやって」などと言われて準社員になりましたし,準社員として働いている間もこのようなことを言われ続けてきました。また,神戸工場では5名の他に準社員で20年近く働いている人もいました。さらに,期間更新の方法は基本契約書の別紙に押印するというだけの形式的なものでした。さらに,会社は,2009年4月の時点で,5名を含む準社員達を集めて「契約更新については心配しなくても良い」などと説明していました。
このような環境で働いていたので,当然のことですが,5名は,自分たちは定年までずっとこの工場で働くのだと思って仕事をしており,まさか2009年11月で解雇(雇止め)されるとは思っていませんでした。
すなわち,5名の契約の契約更新に対する期待は合理的であったと言えます。このような場合は,判例法理で,解雇権濫用法理(労契法16条)が類推適用されます。
イ 整理解雇要件なし
それにも関わらず,2009年5月に会社は,経営不振のため神戸工場を閉鎖することに伴って,5名を含む準社員を雇止めにすると通告しました。
このように,使用者側の一方的な都合による解雇(雇止め)は,「整理解雇」といって厳格な要件(@解雇の必要性,A解雇回避措置の実施,B解雇人員選定の合理性,C適正な解雇手続の実行)をみたしていないと,解雇権濫用として無効とされます。今回の5名に対する雇止めは,この整理解雇の要件(4要件)をいずれもみたさないものでした。
まず,@については,会社のデータによっても,経営状態は悪いとまでは言えず,むしろ中国向け輸出の回復により回復基調とも言えるものでした。
Aについては,希望退職者の募集も全く行なわれていませんでした。なお,会社は足利工場への転勤を求めていましたが,何の縁も所縁も無い地に,有期雇用の身分のままで行けというように,不可能を強いていることが明白でした。
Bについては,本件では他の工場からヘルプで呼んでいる従業員を,本来の工場に帰すことなく5名を雇止めにしているのであり,組合員に対する狙い撃ち解雇(雇止め)であると疑われるものでした。
Cについては,2009年4月に会社は5名を含む準社員の契約期間を1年から半年に変更をしたのですが,そのときに雇止めを心配する準社員の質問に答えて「更新については心配しなくても良い」などと説明して契約期間変更を納得させていました。なお,後から分かったのですが,会社が半年に変更させたがった理由は,半年経過後に準社員を雇止めするために行なったことが明白でした。さらに,5名や派遣社員が結成した労働組合は,粘り強く団交を続けましたが,会社は具体的な解決案を示したり組合の提案を真剣に検討することなく,「足利工場へ移らなければ雇止めをする」と述べるばかりで,誠実な態度をとっているとは到底言えないものでした。
このように,本件では整理解雇の要件を全くみたしていないので,5名の雇止めは解雇権の濫用であり無効であることが明らかでした。
私達の申立に対する会社の反論は,要するに,リーマンショックに端を発した経営危機により,神戸工場閉鎖やこれに伴う雇止めは正当化されるのだ,という一点のみでした。しかし,この時期,会社は中間配当を行なっていました。5名を含む準社員は,雇止めされる前に賃下げを受入れていたのですが,会社は,賃下げや雇止めをして浮かせたお金を原資として株主に中間配当を行なっていたということになります。
また,我々の方は,新たに,本件で2009年4月に行なわれた契約期間の変更は,会社の「更新については心配しなくても良い」などという虚偽を告げて行なったものなのだから,有効な合意があったとは言えない,または錯誤無効であるので,会社が今回おこなった雇止めは,雇止めではなく期間途中の解雇にあたるという主張を展開しました。
前述したように,本件仮処分はあくまで運動の一環であって,仮処分の手続の一方で,様々な支援を得ながら組合による団体交渉や運動が粘り強く続けられました。その結果,裁判所による仮処分の決定を待たずに,本件仮処分の当事者となった5名の準社員だけでなく,14名の派遣社員を含む組合員全員についての勝利的和解が結ばれ,仮処分手続は終わりました。
今回の事件の主役となったバンドー化学の組合員の皆さんは,それまで全く組合活動などを経験したことが無い皆さんでした。そして,全員が企業別組合から排除された非正規労働者でした。その皆さんが,文化や言葉の違いを乗り越えて,知恵や労力を出し合って団結し,結果的に勝利的な解決を勝ち取ったことは,同じような立場にある人達に勇気と希望を与えるものとして,非常に意義深いものであると思います。
報告集会に出席された組合員の皆さんの晴れやかな笑顔が印象的でした。
なお,今回の解決に至るまでは,様々な方々から実に多くのご支援をいただきました。お礼申し上げます。
このページのトップへ2月12日神戸地裁において、兵庫労連・バンドー化学一般労働組合とバンドー化学株式会社は、争議和解の労使協定に調印し、争議は終結しました。
和解内容は協定により非公開となっておりますが、金銭での解決です。解決の水準は組合員が満足できる金額には達しませんが、組合員14人全員が失業状態であることを考え和解しました。とは言え会社に解雇に対する解決金を支払わせることができ、勝利的和解と考えています。
バンドー化学一般労働組合は嘱託やパートなど非正規労働者の労働条件改善を求め、連合組合に加入を申し入れた所、正規しか加入出来ないと拒否されたことから兵庫労連に相談し、結成しました。そして結成時には、直接雇用の非正規労働者だけでなく、外国人を含めた派遣労働者も参加しました。非正規労働者、派遣労働者の労働条件の改善要求を準備している最中、突然、神戸工場閉鎖の発表があり、主要な要求が雇用の安定の闘いとなりました。
会社は、正規労働者には足利工場への転勤を「業務命令」し、非正規労働者には「現地採用なので業務命令はしないが、足利工場へ転勤しない場合は、雇い止めする」、「派遣労働者は雇用関係が無いが足利に行けば働く事が出来る」と通告しました。非正規労働者や派遣労働者も足利に行けば雇用が継続するかのように聞こえますが、実際には足利に行ったとしても1年間だけの期間雇用であり、多少の猶予はあるものの「解雇」を前提とした提案でした。組合員の中には、父親の介護をしている者、難病の母親のいる者や4人の子どもがいて妻の仕事を考えると足利に行けない者が多く存在したため、転勤を断り、加古川工場や関連企業での就労を求め争議状態になりました。
会社は、製造業への派遣が解禁される以前から派遣労働者を受けいれていました。組合は労働者派遣法40条違反で労働局に是正指導申告を行い、是正指導を勝ち取りました。
バンドー化学一般労組は、31日間のストライキを決行しました。組合員の中には7人の日系南米国籍の労働者がいました。ストライキ中は、その日の到達、職場の反応、労働局の対応などを日本語が出来る組合員の通訳で長い時には4時間の意思統一を行いました。
ストライキでも会社の態度が変わらない中、不安やいらだちも有りましたが、その都度納得いくまで論議を重ねたことが、勝利和解まで一人の脱退も出さずに闘い続けられた力となった考えています。
そして同時に、兵庫労連傘下組合、全労連傘下の組合さらには、地元神戸市内の民主団体からの支援が組合員を大きく励ましました。
バンドー化学争議は、2008年末の年越し派遣村でクローズアップされた、派遣切り・非正規切りの闘いであると同時に、企業による事業所の一方的な閉鎖、派遣法違反さらには外国人労働者の差別と様々な問題に対する闘いでした。争議そのものがマスコミにも大きく取り上げられ、派遣法の改正、非正規労働者の待遇改善の必要性を社会的に大きくアピールしました。
また、直接雇用の労働者と派遣労働者、外国人労働者がともに要求を一致させて闘ったのは全労連でも初めてのことで、労働組合が要求で一致して闘うことの意義を再確認させる闘いでした。同時に、非正規労働者の要求を代弁しない連合組合と全労連組合の違いを明確にしました。
バンドー化学争議は、労働者派遣法の抜本改正など働くルールの確立の闘い、さらに今後の労働組合運動に大きな足跡を残したと考えます。
このページのトップへ賃下げや工場閉鎖問題で団体交渉やストライキなどを通し、不当解雇に対して地位保全の仮処分をもとめて闘って参りましたが、2月12日に神戸地裁において、兵庫労連・バンドー化学一般労働組合とバンドー化学株式会社は労使協定に調印し争議を終結しました。
和解の内容は協定により非公開ですが、既に工場を閉鎖したことから職場復帰を断念して金銭による解決に至りました。組合員14名全員が解雇されていましたが、誰一人欠けることなく団結を保ち解決に至ることが出来たのもみなさんのご支援あったからこそです。みなさんのこれまでのご支援に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
この闘いの中での、私たちの一番の収穫は、何もしなければゼロだったものから謝罪はなかったものの元派遣の人たちを含め会社に解決金を支払わせることが出来たこと、そして2008年末に派遣切りされた人を「一生懸命働けへんからや。自己責任やからしょうがない。」とテレビに向かって言っていた自分が恥ずかしく思い、学習することにより自己責任ではないことに気付けたこと、そしてなにより団結することで組合員ひとりひとりが労働者として大きな力を発揮し、正規・非正規・外国人労働者に分断され搾取強化を繰り返す資本家を許さず、少しでも社会発展のために前進できたことだと思います。
これからは、兵庫県内を中心に全国で闘っておられる方々の支援や労働者派遣法の抜本改正をはじめ、人間らしく働くルールの確立にむけて奮闘して参ります。引き続きご指導をよろしくお願いいたします。
このページのトップへ1 派遣切りされた日本トムソンの派遣労働者が、JMIU日本トムソン支部に加入し、「雇用の安定を図る措置を講じるように」との労働局の是正指導を得て、直接雇用を勝ち取ったものの、日本トムソンの提示する直接雇用案が、期間を2009年9月末日までとする有期契約で、しかも更新が原則とされていないため、2009年4月に正社員化を求める訴訟(本案)を神戸地裁姫路支部に提起したこと、日本トムソンが本訴進行中の2009年8月26日付で9月末で契約更新をしないと雇止めをしてきたため、是正指導を踏まえて実現した直接契約を最初の更新時に雇止めしたことが違法であるとの主張を骨子にした地位保全の仮処分の申立をしたところ、神戸地裁姫路支部は仮処分を棄却する不当決定をしたため、大阪高裁に抗告したことを民法協ニュース第498号で報告させていただきました。
その後、残念ながら、大阪高裁も本年1月19日、抗告(不服申立)を棄却する不当決定を下しましたので、大阪高裁決定の問題、今後の運動の取り組み方、日本トムソンの訴訟の展望等について報告させて頂きます。
2 神戸地方裁判所姫路支部が、仮処分事件において雇止めを有効と判断した最大の理由は、日本トムソンが直接契約を締結する当初から更新は難しい旨を当事者、組合、労働局に説明しており、労働局もそのような説明を前提に日本トムソンの直接雇用案を受理したというものでした。
しかし、そのような理由で雇止めを認めるのであれば、偽装請負などを行って労働局から是正指導を受けた多くの企業は、その場しのぎの短期の有期契約によって派遣労働者を直接雇用した後、最初の更新時に雇止めをして労働者を企業から放り出すでしょう。しかし、このような実質解雇を僅か数か月先延ばしにしただけの措置が、「雇用の安定」を図る措置と言えるでしょうか。常識的に考えれば“NO”であることは明白で、このようなやり方は労働局の是正指導を実質的に無視する脱法行為と言わざるを得ません。
日本トムソンの労働者たちは、仮処分の抗告審(大阪高裁)では、この点を最大限強調したのですが、大阪高裁は、「相手方は、労働者派遣法所定の派遣可能期間の制限を超えて派遣労働者を受け入れたこととなり、同法40条の4の規定に基づき派遣労働者に雇い入れの申込みをする義務を負っており、相手方が抗告人らとの間で本件各期間雇用契約を締結したのは、上記のような労働者派遣法に定められた義務を前提としたものと評価できる。もっとも、労働契約を有期のものとするか期間の定めのないものとするかは、法令に抵触しない限り当該当事者間で決定されるものであり(労働基準法14条参照)、本件各期間雇用契約が上記の経緯を経て締結されたからといって、当然に期間の定めのない労働契約となると解することはできないし、本件各期間雇用契約の期間を超えて、雇用継続の合理的期待が生じたということもできない」と判断して、抗告を棄却しました。要するに、現行法上、有期契約を締結することに格段の規制がない以上、労働局の指導によって実現を余儀なくされた直接契約を企業が有期契約として実現することが違法とは言えないというのです。
3 このように裁判所が実現される直接契約は有期契約でも構わないという、非正規労働者の問題を解決するのに何の役にも立たない解釈に固執するのであれば、法律で、期間制限違反等の違反があった場合には、派遣先と派遣労働者との間で期間の定めのない直接契約が実現されたものとする「みなし雇用」の規定を設ける他ありません。「みなし規定」が改正法で実現されても、それが有期契約でもよく、しかも初回で更新拒絶してもよいということになれば、規定が骨抜きになってしまうことは明らかで、「みなし」規定が創設される場合、成立とみなされる直接契約は期間の定めのないものでなければ本当の「雇用の安定」は実現できないのです。
ところが、2009年12月28日に出された労働政策審議会の答申は、「違法派遣の場合、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるよう、派遣先が、以下の違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当である」と、「みなし規定」の創設の必要性を認めながらも、そこで成立する直接契約は、「派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約」、従って、当然に「有期契約」でよいとしています。
しかし、それでは派遣労働者の「雇用の安定」は図られないことは、トムソンの仮処分事件における神戸地裁姫路支部、大阪高裁の決定からも明らかです。
したがって、労働者派遣法の改正に際しては、「みなし規定」によって実現される直接契約が、期間の定めのない契約であることを明記させるための運動、労働者、労働組合の巻き返しが必要不可欠です。
4 もっとも、答申がこのように述べる根拠は、直接契約を締結している有期契約者は何度契約を更新しても有期契約のままなのに、直接契約を締結していない派遣労働者が違法派遣があると期間の定めのない契約になるというのはアンバランスとの判断が存するものと考えられるのですが、これは解釈論としてもあり得る解釈であることは認めざるを得ません。日本トムソンの仮処分の抗告審で大阪高裁の「有期契約に対する法的規制がない以上、労働局の是正指導に基づいて実現される直接契約を有期とするか期間の定めのないものとするかは当事者の自由」だと述べたのも同じ発想です。
そうすると、問題の根源が有期契約に対する規制を放置している現行法にあることが明らかです。従いまして、労働者派遣法の改正で、期間の定めのない「みなし規定」制度を創設するためには、そして、抜本的に、大企業に「安定した雇用」を保障する社会的責任を果たさせる、とくに“非正規社員から正社員への雇用転換”をすすめるルールをつくるためには、労働者派遣法を業法から真の労働者保護へ抜本的に改正するとともに、有期契約についても、諸外国のように利用可能事業の制限、規制違反に対する期間の定めのない契約とみなす民事制裁制度の導入など、その立法的規制を並行して検討していくことが必要不可欠であると思います。
民法協でもおなじみの西谷敏先生は、最新の労働判例(994号)に執筆されたコラム「労働法における脱法(的)行為」で、「最近、労働法分野で脱法行為や脱法的行為が目立っている」が、松下PDP事件の最高裁判決等、「問題は、判例がこうした脱法(的)行為に適切に対応しきれていないことである」、「そこでは、法規の形式的な理解や、契約形式と企業の形式的な取扱いを過度に重視する姿勢によって、脱法(的)行為が容易に見過ごされているのである。脱法(的)行為の効果的な規制のためには、法規の趣旨の実質的な理解を踏まえ、労働関係の現実、とりわけ、労働者が脱法的な使用者の提案を事実上拒否しにくい状況におかれていることを適切に洞察した法解釈が不可欠である。脱法(的)行為を禁止する立法的整備も必要となろう。いずれにしても、脱法(的)行為の放任が労働法上の法規と判例法理の空洞化を進めていることに、もっと危機感を持つべきではなかろうか」という指摘をされておられますが、西谷先生の指摘されるとおり、非正規雇用の問題の抜本的解決を図るためには、企業の脱法行為は許されないという視点で、立法闘争と裁判闘争を車輪の両輪にした闘いを全国の労働者、労働組合が連携して展開していかなければなりません。
5 尚、日本トムソンの訴訟(本案)についてですが、仮処分事件の地裁、高裁で連敗しても、労働者、労働組合、弁護団は闘いを諦めていません。
西谷先生も批判されておられる昨年12月に下された松下PDP事件・最高裁判決は、吉岡さんの「真面目に働いている人間を否定する社会は間違っている」との訴えに耳を傾けることなく、松下PDPの雇用責任を免罪する不当判決を下しましたが、松下PDP事件における吉岡さんの闘いは、事前面接等の派遣先に採用への関与があった場合に派遣先との間の黙示の労働契約の成立が認められる余地があることを最高裁に明らかにさせただけでなく、偽装請負が不法行為を成立させる違法行為であることを明確にするなど大きな成果も挙げました。
幸いといってはなんですが、神戸地裁に係属している日本化薬、日本トムソンの事案は、松下PDP事件と異なり、両方とも派遣先が労働者派遣法26条7項の禁止する事前面接を行なっているケースで、最高裁判決を前提にしても、派遣先に採用の関与があったとして、派遣先の雇用責任を認めさせる可能性が十二分に残っています。
日本トムソン、日本化薬を被告とする神戸地裁姫路支部での正社員化訴訟(本案)においては、松下PDP事件で吉岡さんと弁護団が獲得した成果を最大限に利用し、その成果を発展させるべく奮闘していく決意です。
このページのトップへ今回は、失業者のみに開かれたセーフチィを紹介しようと思います。
窓口は福祉事務所その他自治体窓口 なお、実施主体は都道府県、指定都市、中核都市、市町村
(2)貸付対象者次のいずれにも該当する者
@2年以内に離職した者
A離職前に、自らの労働により賃金を得て主として世帯の生計を維持していた者
B就労能力及び常用就職の意欲があり、公共職業安定所への求職申し込みを行う者
C住宅を喪失している者又は喪失するおそれがある者(収入額や預貯金額で判断)
D類似の貸付け又は給付を受けていない者
(3)支給額地域ごとに上限額設定。生活保護の生活扶助特別基準と準拠。
(4)支給期間6ヶ月間
(備考)
申請時点では住居は失っていない方も対象となる
貸付ではなく給付である
一定の資産があっても支給される。生活保護の住宅扶助とは異なる
まずハローワークへ相談、その後貸付は労働金庫
(2)貸付対象者次のいずれにも該当する者
@事業主都合による離職に伴って住居喪失状態となっている離職者
A常用就職の意欲が認められ常用就職に向けた就職活動を行うこと
B貯金・資産がないこと
C離職前に主として世帯の生計を維持していた者
(3)貸付内容住宅入居初期費用、家賃補助費など最大186万円
(4)貸付利率年利1.5%
(備考)
信用情報機関への事故情報登録者でも多くの場合は貸付可能。多重債務者であっても弁護士・司法書士への受任を条件に貸付可能。
すでに離職していても申し込みの時点で住居を失っていない場合には貸付の対象にならない。
自己都合退職の場合には対象にならない。
ハローワーク 貸付については労働金庫
(2)貸付対象者次のいずれにも該当する者
@ハローワーク所長のあっせんを受けて、基金訓練または公共職業訓練を受講すること
A雇用保険の求職者給付、職業転換給付金の就職促進手当および訓練手当を受給できないこと
B世帯の主たる生計者であること
C年収200万円以下、かつ、世帯全体の年収が300万円以下
D今住んでいるところ以外に土地・建物を所有していないこと
(3)貸付内容月10〜12万円の給付+貸付け
さて、前回、今回とセーフティの紹介をしてきましたが、いかがだったでしょうか?困っている方がおられましたら、このセーフティ一覧で、何か使えないか一緒に検討してあげましょう。
しかし、このセーフティにも、生活保護同様、水際作戦がなされ、窓口の職員が適切に貸付け等をせずに、相談者を追い返したりすることがあるようなので、要注意です。
これまで、とりあえず、思いつくセーフティを紹介してきました。もう思いつかなくなったので、この連載は、今回で終わりということになります。
結局、雇用保険があり、次に、様々な貸付や給付を行ってくれるセーフティがあり、最後に生活保護があるというように考えてもらったらいいと思います。
この3重のセーフティを駆使して、再び、きっちり稼げる時代が来るまで、耐えしのぎましょう。
このページのトップへ今回は,過労死事件についてのご報告です。
総合住宅設備機器(システムキッチン)の大手メーカーで勤務していた当時39歳の男性社員が,平成16年2月に神戸市内の自宅で心臓性突然死した事件です。
平成17年11月2日,神戸西労働基準監督署で労災認定を獲得し,会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求して示談交渉をしましたが,話し合いではまとまらなかったため,神戸地裁に企業責任訴訟を提起し,平成21年6月30日に和解が成立しました。この事件は,明石の渡部吉泰弁護士,姫路の立花隆介弁護士と私で取り組みました。
被災者の妻は事件の前に病死していたため,依頼者は,たった8歳でお父さんを亡くした女の子でした。被災者には婚約者がいて,女の子とも親しくしていたのですが,お父さんの突然の死により,一度に2人の家族(父とその婚約者)を失ってしまったのでした。そして,少女は,神戸から,おば(被災者の姉)が住む長野へ引越しました。
被災者は,昭和63年に入社し,平成13年に神戸支店営業課へ転勤し,平成14年12月に課長代理に昇進しました。そして,課長代理として班員の管理をするとともに,一営業マンとしての外回りなどの営業活動をし,ほぼ毎日,朝から午後6?7時ころまで,担当の代理店や販売店への営業活動,商品の取付施工現場の訪問などを行っていました。外回りは,主として自動車を運転していくつもの遠方の取引先を回るなど身体的負担の大きなもので,しかも,代理店や販売店,施主である客との間の調整やクレーム処理など,精神的な負担がかかる業務もありました。帰社後は,資料の作成,日報の作成・管理などをしていたため,帰宅時間は遅く,午後9時ころに就寝する一人娘とは平日に会話をすることはほとんどありませんでした。土・日曜日には,自社商品の展示会などが頻繁に開催され,その展示会の準備や営業活動をも行っていました。そのため,展示会のない週末だけが,父娘の交流の時間で,普段は被災者の母が少女の世話をしていました。
昇進当初は,営業課長の下に,被災者を含めて課長代理が2名おり,それぞれ4?5人程度の班員をまとめていましたが,頻繁に人事異動が行われ,平成15年12月にはもう一人いた課長代理が転出して課内の班が3班体制となり,被災者以外の他の2班の班長は経験の浅い主任が就いたため,被災者は,自分の班のみならず,他の班長に対するアドバイスや他の班の班員に対する指導,管理などの業務をも行わなければなりませんでした。
被災者は,仕事に対する責任感が強く,人柄も誠実で,顧客からの評判や同僚の評価も非常に高い営業マンでしたが,平成15年12月ころから体調を崩すようになり,平成16年1月には体重が減っていき,「腕が上がらない。腕が痺れて痛い。」「お腹をこわしている」等と様々な体調の変化を訴え,眼科を受診するようになりました。死亡の数時間前の婚約者に対する電話では,「しんどい。携帯電話を持つのがやっとだ。」とも訴えていました。
会社には,タイムカードなど,使用者が労働時間の適正な把握のために備えておくべき資料が存在しなかったため,婚約者とのメールや電話の記録,被災者の母の証言等から労働時間を割り出していったのですが,会社側は,被災者が婚約者と頻繁に会っていたと主張して時間外労働時間数を争いました。
最終的には,会社に対する訴訟は,証人尋問を経た後に裁判所から和解の勧告が出されたため,将来分の労災給付との調整を考慮して,和解での解決を選択しました。和解調書には,会社が謝罪の意を表し,本件を教訓として再発防止に努める旨の6行にわたる長文の謝罪条項が盛り込まれています。
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