《第513号あらまし》
 有期労働契約研究会学習会(前号のつづき)
     報告4 有期労働契約の終了(雇止め等)に関する課題について
     報告5 均等待遇、正社員への転換等について
     報告6 一回の契約期間の上限、その他
 労働法講座「労働安全衛生法」
     第1回(2月2日)感想
     第2回(2月24日)感想
 春闘学習会
     「2011春闘をめぐる情勢と労働運動の課題」を聞いて感じたこと
 春闘学習会報告
 「派遣村」は終わっていない
     解雇・雇止め、賃金・残業不払い「労働相談ホットライン」開催


有期労働契約研究会学習会(前号のつづき)
報告4 有期労働契約の終了(雇止め等)に関する課題について

弁護士 本上 博丈


1 契約期間の設定に関して

(1) 現状

労基法14条は,有期契約の期間の上限は原則3年,特例5年と定めている。但し,労基法附則137条で1年を超えれば労働者はいつでも退職できることになっている。これらの規定は労働者の足止め(拘束)防止を考慮したもの。

他方で,労働契約法第17条2項は,労働者を使用する目的に照らして,必要以上に短い期間を定めることにより,契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならないと定めている。これは雇用期間の短縮による雇用の不安定化を防止する趣旨。

以上から,契約期間に関する現行規定は,必要以上に短期にしてはいけない(努力義務),だけども最長は3年まで(強制),という定めになっている。

(2) 労使の利害対立状況

労組側は,1回の契約期間の短縮化(細切れ化)が進んでいる,つまり労働契約法17条2項に反する実情が広がっており,期間の細切れ化は労働者にとってリスクヘッジができず雇用が一層不安定となるから,それへの規制が必要との認識。

これに対し使用者側は,市場の需給変動の予想が難しくなる中で,短期契約にすることによって需給の変動に速やかに対応できるようにしておく経営上の必要性がある,と主張。ここでは,長期契約をしていると期間途中の解雇は困難であるが,短期契約だとすぐに訪れる期間満了による雇い止めが容易にできるという法理論を前提にしている。

労働者にとっては,契約期間は定めのない契約(無期契約。いわゆる正社員)が最も有利。定年になる前に使用者だけの意思で雇用契約を終了させるには解雇をするしかないが,解雇が有効となるためには合理的かつ相当な理由が必要(労働契約法16条)。労働者は簡単には解雇されないから,雇用が安定する。と同時に,労働者は自分の意思でいつでも退職することはできるから,足止めされる心配もない。

ところが,期間の定めのある雇用契約(有期契約)になると,その期間中の雇用は保証されるものの,同時にその期間中は自由に退職することもできなくなる。無期契約の場合とは違って,雇用の安定と退職の自由の確保とを両立させることができず,2つの利益をどのように調整するかということが問題になる。

(3) 研究会報告の概要

① 労働契約法の規定も踏まえ,必要以上に短い期間を定めることがないようにする方策を検討することが必要(※1)としているが,具体的には不明。

②(使への説得?)契約期間の設定を適切に行うことが,能力発揮,職業能力開発や職業生涯を通じたステップアップにつながるという視点も重要という。使用者への説得,あるいはこの点で何らかの規制を導入する際の補助金等での誘導案を提示したものかもしれない。

③ 更新回数の上限規制を講じる場合には,細切れ化への対応に取り組む必要性は相対的には低下する(※2)。

(4) 私見

① 足止め防止は確かに必要であるが,労基法附則137条を当面維持することで一応の対応は可能であり,現在の日本社会における主要課題はできる限りの雇用の安定確保だから,※1は評価できると考える。

② もっとも,不必要な有期契約や細切れ化は単に雇用不安定だけでなく,労使対等を基盤から消失させて労働者の使用者への従属を強化し,労働条件劣悪化や労働者の団結破壊につながるという視点も必要と思われる。このような視点を持てば,この問題が労働組合にとっても極めて重要なものであることを理解できる。

③ ※2については,労働者派遣の場合に派遣受入可能期間に関するクーリングオフ利用の実情があることからすると,単純にこのように言えるかは疑問。更新回数の上限規制と細切れ化防止はそれぞれ独立に必要というべきである。

2 雇止めの予告等

(1) 現状

実態調査(個人)では雇止めトラブルが41.4%ありと回答。

雇止めをめぐるトラブルの原因としては,「雇い止めの理由が納得できなかった」「雇い止めの予告がなかった,あるいは遅かった」

(2) 研究会報告

大臣告示に定める雇い止めの予告等についても,対象を広げることも含めて見直しの上,法律に基づくものとすること等について検討すべき。ここでいう大臣告示とは,「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年10月22日)」で,その第2条では,(雇止めの予告)として「使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第2項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。」と定めている。

3 雇い止め後の生活安定等=雇止め予告手当?の導入について

(1) 考慮事項について

現行の解雇予告(労基法20条)は,労働者にとって予期しない生活困窮を補償するという性格。

そうすると,有期契約について解雇予告手当に相当する手当を導入するとしても,無期契約の解雇と有期契約の雇い止めとは法的性格が違う。雇い止め=期間満了による契約終了だから,「予期できない」とは言えない,という(形式論理の話)。

フランスでは,不安定雇用への補償として,有期契約を反復更新する場合も含めて,期間満了時ごとに一定の手当の支払い義務を事業主に課している。無期契約に変更された場合はその手当の支払い義務がなくなることから,無期化を促進する効果も持つ(無期社員との均等待遇も実施されていれば,その手当分だけ有期社員の方がむしろ高コストになると思われる)。

(2) 研究会報告

① 契約終了時の手当について,雇用の不安定さへの補償や,無期化の促進の観点,あるいは,雇い止め時における無期労働契約との公平の観点を含め,様々な趣旨,目的や内容,対象などが考えられるところ,どのような趣旨,目的の実現のためにこうした金銭の支払い義務が有効なのかどうかを,他の採りうる政策手段との比較を含め検討することが必要。それらの趣旨に応じて,退職金や雇用保険との関係や,誰が費用を負担することとなるかといった点も含めて慎重に検討されるべきものと考える。

② なお契約終了時の手当の導入については,締結事由規制や更新回数や利用可能期間にかかるルールの導入の有無にかかわらず,検討しうる論点である。

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有期労働契約研究会学習会(前号のつづき)
報告5 均等待遇、正社員への転換等について

弁護士 瀬川 嘉章


1 報告書第5では、「均等待遇、正社員への転換等」が論じられています

前提として念のために説明をしますと、雇用契約は次の3つの観点で分類することができます。すなわち、①期間の定めがないか(←→期間雇用)、②フルタイムか(←→パートタイム)、③直接雇用か(←→間接(派遣)雇用)という点です。

②の点についてはパートタイム労働法が、③の点については労働者派遣法が規定しています。

本研究会の検討対象は、直接的には㈰の点ということとなります。

一般に「正社員」とは、㈰㈪㈫のいずれも満たす場合をいい、非正規社員とはいずれかを満たさない場合を言います。本研究会における報告書においてもこれを前提に論じられています。

2 最終報告書の内容

(1)正社員への転換について
ア 転換の必要性に関する分析

最終報告書は、①(高度技能活用型を除き)一般に待遇が低いという現状があり労働者は不満を抱いている、②有期契約においては頑張ってもステップアップが望めず労働者は不満を抱いている、③正社員に転換できる可能性が高いと考える有期契約労働者ほどインセンティブが高く、こうした意欲と能力のある労働者については、雇用の安定のみならず企業の生産性向上の観点からも正社員への転換等を促進することが効果的である、と現状を分析した上、正社員化が必要であるとしています。

イ 正社員化の方法

① 正社員化の方法としては、まず事業主に転換促進のための措置の義務付け、あるいは何らかのインセンティブを与える方法が考えられるとしています。

② 「正社員」だけではなく、勤務地限定、職種限定、など多様なモデルの必要性について

上記のように報告書は、正社員化が必要であるとしますが、他方で、転換先を「正社員」に限定することは適当ではないとしています。

すなわち、転換先を「正社員」に限定すると使用者にはハードルが高すぎるとしています。また、他方で労働者にとっても、職種や勤務地が限定されることを志向する労働者も少なくない、そのような労働者が取り残されるとすれば「正社員」となることを望む労働者と公平を欠くとしています。

そして、これらの事情から、「勤務地限定」「職種限定」など多様なモデルを選択することも視野に入れるべきと結論付けています。

(2)有期労働者と無期労働者の均等待遇について
ア 均等待遇の必要性について

最終報告書は、正社員化の所で述べたのと同様、①(高度技能活用型を除き)一般に待遇が低いという現状があり労働者は不満を抱いている、②有期契約においては頑張ってもステップアップが望めず労働者は不満を抱いているとして、「均衡」のとれた待遇の推進が必要としています。

イ 均等待遇実現の方法

このように均等待遇の推進を必要とした上で、報告書は、均等待遇を実現の方法として、①差別待遇を禁止する方法か、②正社員と同視し得る場合以外には均「衡」を考慮する(努力義務)方法の2つの方法を検討した上で、前者は日本には適合しないとしています。

すなわち、まず①EU諸国のように、有期労働者であることを理由として合理的理由のない差別を禁止する一般法を置き、具体的な適用は裁判所等が判断するという方法を紹介し検討を加えていますが、この方法については、近時は職務給的要素を取り入れる動きはあるものの我が国では職務ごとに賃金が決定されるシステムではなく、職務遂行能力を中核に据え、人材活用の仕組みや運用などを含めて長期間を見据えた賃金システムであるので、何をもって「合理的理由がない」と判断するのか難しいとして、消極的な評価をしています。

他方で、②正社員と同視し得る場合には均等待遇を導入し、その他は正社員との均衡を考慮しつつ、職務の内容・成果、意欲、能力及び経験等を勘案して待遇を決定することを促すとともに、待遇について説明責任を課すという方法を紹介した上で、この方法については、多様な労働者を対象とできる、努力義務について行政指導、当事者の交渉、当事者の創意工夫が可能となるとして積極的に評価されています。

3 若干の検討

正社員化については、労働者の不満については言及されているものの、企業側の生産性の観点から有期契約を残しつつ企業が「意欲と能力」を認める労働者のみ正社員に取り立てる制度を想定しているようにも思われます。

しかし、有期契約は、解雇制限の潜脱化(需給調整)に用いられこれにより有期労働者の地位がきわめて不安定(雇用の保障がなされない「解雇付保障」であるばかりかそのことによりあらゆる権利主張を控えざるを得ない状況にされている)となっており、必要なのは、根本的にはこのような事態を解決することであり、報告書はこのような視点が弱いといえます。

均等待遇については、有期契約と低賃金のセットで、多くの労働者が非常に厳しく希望の見えない立場に置かれている現状(他方、企業側はこのセットにより低賃金で使用する誘惑が大きい)を踏まえれば、入口規制、正社員化を図るとともに、少なくとも有期であることを理由とした差別待遇を禁止する方策がとられるべきと考えます。

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有期労働契約研究会学習会(前号のつづき)
報告6 一回の契約期間の上限、その他

弁護士 萩田  満


1 現行制度の沿革

(1)有期雇用期間の上限は、労働基準法制定時は、1年であった(労基法14条1項)。有期労働契約は例外なので、長い期間のものは労働者保護に逆行するという立法スタンスである。

しかし、使用者側は「中期的雇用を困難とし経営上の裁量が狭い」、つまり最大1年契約では使い勝手が悪い、という反感を常に抱いてきた。

こうした使用者のニーズを反映して、順次労働基準法が改定され、現在は、①専門技能労働、満60歳以上については上限5年、②その他は上限3年というように延長されている。

(2)また、有期雇用契約の場合、労使双方とも、契約期間途中で勝手に契約を解除することは許されないとなっていた。しかし、労働者からの解除(退職)が許されないとなると、不当な拘束を受けるおそれがある。そこで、有期雇用期間の上限を3年に引き上げる際、労働者は1年を超えた後いつでも退職できる(労基法137条)という規定をおかざるを得なかった。

2 有期労働契約研究会の考え方と、それへの批判

(1)研究会の報告では、1年超の有期契約利用が低調(14%)であるというヒヤリング結果を得た。せっかく使用者のニーズに応えて上限を延長したのに、あまりつかわれていないことに衝撃があったようだ。そこで、研究会報告は、(有期雇用期間の上限は)現状維持も1つの考え方である、という結論に落ち着いている。

しかし、そもそも利用されていないのならば、少なくとも有期雇用期間の上限は従来の「1年」に戻すべきだというのが当職の意見である。

また、研究会報告は「契約期間の上限は有期契約の上限規制(出口規制)との関係にも留意する」としており、有期雇用期間の上限問題を、出口規制(更新回数等)の問題とリンクするスタンスをとっており、注意が必要である。

(2)ついで、研究会の報告では、1年を超えた後いつでも退職できるという規定について、ヒヤリング結果を紹介している。契約期間中途での退職申出者は30%あったが、そのうち使用者から損害賠償を請求されたものは4%、というものである。つまり、研究会は、途中で辞めても労働者が困ることはないだろう、と考え、労基法137条の廃止も検討しているようなのである。

しかし、この研究会報告のヒヤリングは、損害賠償するぞと脅されるために退職できないでいる労働者が多いという実態を見過ごしている。こうした実態を考えれば、労働者側からはいつでも辞められるようにしておくべき、というのが当職の意見である。

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労働法講座「労働安全衛生法」
第1回(2月2日)感想

全労連・全国一般労働組合 兵庫県本部 浅野 憲雄


日常的にあまり馴染みのない労働安全衛生法の講座を受け、法律の条文を見て難しいな、そして船を漕いでしまうのか心配しました。

現在多くのメンタルヘルスで身近に療養している人を思い、近年学校の先生方にも多くの療養中の人がおられると聞き、大変重要な課題との思いが受講の動機です。しかし、現状は厳しい生活から経済的な要求に目が向き、本来健康的で働く事は大前提のはずが、なかなかこの課題に対する組織的な取り組みになり難いのが現状です。

労働安全衛生は事前の防止のはずなのに、日本では最近特に精神疾患が蔓延している状況です。肉体的健康は見た目にも理解されますが、精神的な疾患は見た目には解らないので余計に本人を追い込み重症化する傾向があるのではないでしょうか。

フィラデルフィア宣言は1944年5月10日に国際労働機関で宣言された、この中の第三項目の、一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。まさに現在の日本の現状であり進歩していない事を再認識しました。

労働基準法がなし崩し的に改悪されて、働く者の健康に関しての責任までも、事業者として企業責任を無くすよう、労働安全衛生法での責任の主体を「事業者」と定めている事を無くし、労働災害の企業の責任をなくすように執拗に改悪を企てている事に驚きました。まさに我々労働者を徹頭徹尾に働かせ、後の健康を害した時の責任を労働者に転嫁することを目論んでいる。

講義で法令等の周知で、就業規則と同様に作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けるその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならない。この事を知っている人はそんなに多くないと思います。自分の健康を守り、職場の安全等を総点検する為の良い機会と考え労働安全衛生法を学んで行きたいと考えています。

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労働法講座「労働安全衛生法」
第2回(2月24日)感想

東熱労働組合 書記長 西山 裕樹


2月24日労働法連続講座2回目に参加させていただきました。

今年の講座は労働安全衛生法(以後、安衛法)と言う事で、ケガ等の労働災害や安全衛生委員会の開催と私たち製造業にとっては、大事な法律であるということ、この法律の裏付けがあって、種々の安全活動が行われていることが話を聞く中でわかりました。さらに安衛法が施行されたことで、労働災害が減少してきたことも数字で示され、労働者の保護につながっていることもわかりました。労働組合が安衛法を理解していくことで、職場の環境、安全を要求していくことができことを教えてもらい、組合活動としての取り組み方に幅を持つことができそうです。最近では難しい交渉となる賃金やボーナス等の賃金闘争への取り組みよりも、労働環境を改善することでゆとりのある職場づくりを行う取り組みを行うことも新しい活動になると思い、多くの内容を次の要求に入れていきたいと思いました。

講師の本上、今西の両弁護士を始め、毎年労働法連続講座を運営して頂いている兵庫民法協にはお礼を申し上げます。

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春闘学習会
「2011春闘をめぐる情勢と労働運動の課題」を聞いて感じたこと

JMIU 藤田 和夫


2月16日に兵庫民法協が主催する春闘学習会に参加した。地本の主なメンバーが東京の行動に行ったり、支部の団交や大会があったりと参加できないこともあり、二宮先生の講演は、昨年末の県春闘共闘でも聞いていたが、19日にJMIU兵庫地本で春闘学習会を計画していることもあり、頭を整理するために参加した。

二宮先生が強調された「垂直型所得分配論」については、昨年の参議院選挙直後の雑誌の記事で拝見し、菅首相が消費税増税論をぶち上げて民主党が大敗北した後だっただけに、少々びっくりした。もちろん民主党だけでなく自民党もまた財界も、その上主要メディアさえもが消費税増税論を推進している状況のもとで、庶民増税の消費税はだめだ、金持ち・大企業から庶民に回す税システムが必要なのだという主張は時期を得たものである。にもかかわらず、財政危機対策が重要なのだという主張は、労働者の「賃上げ・雇用確保で内需を増やし景気回復を」という主張と関連はあるがずれるなあというのが率直な感想だった。

講義の後、「国債が800兆円とも900兆円とも言われている。しかし、日本は個人金融資産がたくさんあるので、ギリシャなどのように国家財政の破たんはしないといわれるがどうなのか」と質問した。先生は、「財政破綻の危険がある点は、一部あたっている。財政破綻したギリシャでは国債の70%が外国資本で賄われていた。日本では、国債の95%を自国民が引き受けている。国外からの借金は必ず返却しなければならないが、自国民からの借金は乱暴に言えばチャラにすることができる。実際、1789年のフランス革命では、国王の借金を革命政府は責任を持たないとチャラにした。1917年のロシア革命でも一部の借金を凍結した。革命といった大政変の時にはこういうこと可能である」と回答された。

世論調査によると、国民の40%が社会保障を維持するお金がないなら、消費税はやむを得ないと回答している。マスコミの世論誘導に乗せられているとはいえ、消費税を導入するときも、消費税を3%から5%に上げる時も、社会保障財源だと言いくるめそれが企業減税にまわされたことを国民は忘れているのだろうかと歯がゆくなる。

一方、二宮先生は、公務員を減らせば財政は賄えられるといって大量得票を獲得した「みんなの党」は、「おれおれ詐欺政党だ」と酷評される。国家公務員全員の首を切っても5兆円になるだけだ、自衛隊分を除けば3兆円に過ぎない。44兆円の赤字国債を賄えるはずがない、国民と公務員を分断して票をかすめ取っているに過ぎないという。そして橋下大阪府知事や河村名古屋市長などの小泉新自由主義の亜流との結びつきの危険を警告する。これらのグループは、減税を主張し票をかすめ取る。小泉は、社会保障制度は縮小し自己責任論で賄えばいいという「小さな政府」を推進した。二宮先生の講演後に小沢チルドレン16人が菅民主党に反旗を翻した。これらのグループが減税ポーズをとって一定の国民の支持をかすめ取る可能性もある。アメリカでも「ティーパーティー」グループが、中間選挙で「オバマの健康保険制度は、われわれの税金で貧困者を救済する制度だ」として共和党を大量当選させた。アメリカの「小さな政府」論グループだ。小泉新自由主義政治の破たんの後に出てきた民主党政権だが、二宮先生のいう「自滅過程に入った政権」となり果てるもとで、小泉亡霊がまたぞろ首をもたげた図(二宮先生は、「新たな妨害者の台頭と破壊勢力の復活」と看破された)と言える。

「労働者は、税金問題に無関心だ」と民商のみなさんから批判を受ける。二宮先生の話にうなずきながらも、労働者を納得させ、運動にするには困難が伴うなあと考え込む。それでも二宮先生は、「消費税は日本の保守勢力が乗り上げた暗礁だ、消費税増税にストップがかかっている限り、いかなる政権も短命内閣」と結論付けられる。とすれば、雇用・生活を改善させる政治的力関係を変えるためには、労働者も「消費税増税ストップ」に本気を出すしかない。

いま、チュニジア、エジプトに続いてリビアなどアラブ全域で、アラブ革命といわれる民衆の蜂起によって政治を転換させる情勢の激動が連日ニュースを賑わしている。春闘だというのに日本はこんなに静かでいい情勢かと自問しないで、外に出なきゃだめだよね。

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春闘学習会報告

弁護士 山西 保彦


1 今回は,「2011春闘をめぐる情勢と労働運動の課題」と題して,二宮厚美先生(神戸大学教授)に,労働者の生活をとりまく経済・政治情勢と今後の労働運動の目指す方向についてご講演いただきました。以下,講演録形式でお伝えします。

2 まず初めに,残念ではあるが,個々の企業における労使の力関係の変化に依拠しながら春闘を闘い抜くことは困難であり,労働運動全体としては,労働者の雇用・生活をめぐる政治的力関係を大きく変えながら個々の要求を実現する視点を持たなければならない。

3 この一年間の情勢の変化

(1)民主党政権は,当初,労働運動をする側にとって戦後初めて利用可能な政権であった。つまり,鳩山政権は,従来の構造改革路線とは距離を置き,「生活第一」をマニフェストの中心的内容とし,生活保護の母子加算の復活等を実現するなど格差社会の是正に熱心だった。鳩山政権打倒の声は皆無だったといっていい。

ところが,今年の2月の時点で内政・外交のどれをとっても菅政権の支持率が回復する見込みはなく,労働運動が放っておいてもつぶれる状況にある。

この流れは,「当面利用可能な政権」から「自滅過程に入った政権」への転換と表現することができる。

(2)菅政権がつぶれるにしても,どういう形でつぶすかをはっきりさせなければならず,それが労働運動の課題である。

どういう形でつぶすかの選択肢として,「垂直的所得再配分」への道と「水平的所得再配分」への道がある。「垂直的所得再配分」とは,「上」から取って「下」にまわすことである。つまり,大企業や大資産家から税金を取って低所得者層のために使うという,所得の再配分である。「水平的所得再配分」とは,国民の「右」からとって「左」にまわすことである。つまり,大衆から金をまき上げて,相互に融通しあうことである。

民主党政権は当初は,「垂直的所得再配分」による格差社会の是正を目指していた。しかし,現在では,法人税減税・消費税増税という「水平的所得再配分」の方向に向かっており,自民党等の保守勢力も消費税増税に必然的に向かって行く。

全国民,全労働者は,(以下で述べる理由から)「垂直的所得再配分」に全国民の目が行くような運動をしなければならないし,これが菅政権のあるべきつぶれ方である。

(3)ところが,明確に「垂直的所得再配分」対「水平的所得再配分」の構図になっているわけではなく,新たな妨害者が台頭している。それは,「みんなの党」と「橋下・河村一派」である。彼らは,公務員の人件費を削れば減税は可能だとしている。

しかし,国家財政が苦しいのは,無駄が多いからではなく入ってくる税金が少ないからである。公務員の人件費を削れば減税は可能というのは悪質なデマである。にもかかわらず,「垂直的所得再配分」を目指す共産党等は支持を減らし,「みんなの党」は逆に消費税が嫌だという国民の支持を集めているのは厄介である。

4 国民の暮らしをとりまく現代の3つの問題

(1) 貧困・格差社会の進行

雇用情勢の悪化から所得は減少し,消費も冷え込み,貧困・格差社会は進行している。貧困は,児童虐待の最大の原因ともなっている。つまり,母子家庭で貧困となると,母親が子育てに疲れて子供を虐待するということにつながる。

雇用情勢の悪化は,「無縁社会」も招いている。日本では年間約3万2千人が無縁仏になっているといわれている。企業で働くということは,単に収入を得る手段となっているだけでなく,そこで人間関係を築くということにつながっている。よって,企業で働けないことは,コミュニケーション関係の崩れを招く。

(2) 格差社会の進行と結びついた不況と地域経済の不振

格差社会の進行で消費は冷え込み,内需不振による長期不況が続いている。中小企業の経営は悪化し,地域経済は不振にあえいでいる。

(3) 社会保障・福祉の抑制圧力となる財政の危機

不況対策・貧困対策を行うためには金が必要だが,不況により税収は減少し,国や自治体は財政の危機に直面している。

5 労働者・国民の統一した課題と運動の視点

上記の3つの問題は,相互に密接に関係しており,悪循環を生んでいる。これを解決するためには,労働運動と政治の力で「垂直的所得再分配」を構築する必要がある。

6 以上が講演の概略です。現在の政治状況を経済学的見地から,「垂直的所得再配分」と「水平的所得再配分」という2つのキーワードを使って解説がなされ,経済学に疎い自分にとっては新鮮でした。

また,テレビ等で話題となっている「無縁社会」は,実は根底で雇用問題とつながっており,雇用が安定しないと人間関係まで希薄になってしまう,という話にも驚きました。私自身,雇用の安定に向けて何らかの形で微力を尽くしたいと思いました。

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「派遣村」は終わっていない
解雇・雇止め、賃金・残業不払い「労働相談ホットライン」開催

兵庫県労働組合総連合 事務局長 北川 伸一


共同の力で対応

出口の見えない「不況」、失業率が5%代で高止まりするなど厳しい労働環境が続く中、3月4日に全国一斉で「労働相談ホットライン」を開催しました。兵庫では兵庫労連労働相談センター、東阪神労働相談センター、西播労連労働相談センターの3ヶ所で行いました。今回も兵庫民法協の先生方(7名)の協力を頂き、面談・電話での相談に応じていただきました。以下、当日のまとめを報告します。

実施日時:3月4日(金)10:00〜19:00

相談者 18名(面談6,電話12),男性11,女性7
年代 ~20代1,30代4,40代5,50代1,60代~2,不明5
雇用形態 正社員10,パート・契約・アルバイト5,派遣・請負2,不明1
相談内容 解雇・雇止め4,賃金・残業代未払い6,社会保険2,転籍・出向1,労災関係1,
労働条件切り下げ1,その他6
特徴的な相談内容
○30代女性。派遣で働いている。派遣先の事業計画変更で(派遣から請負に変更さ せ、人員を整理・減少に)4月一杯で解雇だと言われた。派遣元に組合あるが(ユニ オンショップ制でご本人も加入しているようだが)……。派遣先の管理職から はいずれ「嘱託」で直雇用するといわれていたのに、次に働くところがあるか不安な ので何とか継続したい。
○30代男性。難民としてベトナムから日本に来て、今は永住者となっている。夜間 高校に通いながらNPO法人で働いていたが、そこを退職して現在のところで介護 (ヘルパー2級取得)の仕事(主に高齢者)をしていた。持病(てんかん)の事などあり介護から清掃の仕事にまわされた。しかし、解雇予告通知が出され(3月31日 まで)困っている。少しくらい給与が下がってもかまわないから働き続けたい。  *労組に加入し、団体交渉を申し入れ対応することになった。
○S市にある知的障害者の施設で働いている。突然降格(副主任剥奪)された(3月1日付辞令)そのことにより手当など下がり賃金も減になる。事前の説明もまったく ないし、納得できない。  *本人は労組に加盟。職場のなかまと相談もし、職場に組合(分会)を結成して組織 として闘うか検討することに。 ○会社は民事再生中、2月分の賃金が支払われていない。
○従業員30名の2月分賃金が支払われていない。職場に労組はあるのだが…。
○アパレルの営業で1年間働いているが残業代が時間通り出ていない。保険や年金もかけられていないので不安。また、新たに契約書にサインを求められている(直雇用から委託契約へ)  

相談から根本解決へ向けて

今回の特徴は「面談」での相談が多かったこと、前回と比較して相談者が増えたこと、労組に加入して闘うことを決意した人(2名が労組加入)が誕生したこと、逆に職場に労組があるのに機能していないことが改めて分かったこと。そして、相談内容の半数以上が解雇や賃金・残業代の未払い、という深刻なものであったこと、などが上げられます。尚、全国的には約250件の相談があったという報告がありました。今後は継続した相談を必要としている人たちの対応をしながら、労組に入ってあるいは結成して「職場と社会を良くしていくこと」を呼びかけていきます。幸いなことに、先生方も当日の相談者と継続して相談・対応をして頂いています。連携して進めていきたいと思います。また、相談活動の充実に向け「労働相談員養成講座」の開催や相談員の「交流会」などを開催していく予定です。兵庫民法協の先生方始め皆さまのご協力をお願いするものです。最後に、今回の取り組みに直接ご協力頂いた、八田・本上・増田(正)・西田・増田(祐)・白子・園田、の各先生方に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

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