もともとは郵便局の「ゆうメイト」,日本郵政公社民営化以降は「期間雇用社員」となって長年にわたり主に郵便配達業務を担当してきたベテラン職員3人(うち一名は平成19年10月の民営化前に一旦退職し,民営化後改めて雇用)が今年3月末で雇止めとなってしまいました。
現在,使用者である郵便事業株式会社に対し,労働者たる地位の確認及び雇止め以降の賃金支払いを求めています。
事の経緯は以下のとおりです。
労働者3名は,旧郵政省時代に団地作業所(特定の団地及びその周辺住宅への配達を専門に行う作業所)の期間雇用職員として入省しました。それぞれ雇用期間の延長を繰り返し,勤続年数はそれぞれ5年6ヶ月,12年2ヶ月,19年でした。
平成21年11月,使用者から3人が勤めている団地作業所の閉鎖が突然告げられました。3人を含む団地作業所員12名のうち11名が郵政産業労働組合神戸中央支部に加入し,分会を結成して団地作業所の存続を求めました。これが功を奏し,団地作業所廃止は撤回されました。
ほっとしたのも束の間,平成22年7月になって使用者はまたもや団地作業所の閉鎖を通告してきました。この際も存続を求めましたが結局閉鎖を強行され,3人は管轄支店へ異動となりました。支店では内務勤務となるため時給は大幅に下がることになりましたが,使用者からは「ペリカン便との統合により,仕事はいくらでもある」との説明があり,3人は今後も長期継続して勤務できるとの期待の下,支店への異動を了承したという経緯があります。
平成23年2月,使用者から期間雇用社員を対象に要員配置の見直しによる配置換え,勤務日数・時間の短縮を実施するとの通知がありました。使用者から希望業種の選択肢が提示されましたが,勤務が不可能なものや大幅な収入減となるものばかりで,いずれも受け入れられる内容ではありませんでした。更に,使用者からは分会員に対してのみ,「労働条件の変更には応じられない」という選択肢を付加した別の文書が提示され,これを選択した場合は雇止めとする旨告げられました。要するに,会社が一方的に提示した著しく不利益な労働条件で勤務ができないならば雇止めだということです。
3人は組合を通じ何度も団体交渉の申し入れをしましたが,個々の期間雇用社員との労働契約に係ることであり団体交渉事項には当たらないとして使用者はこれに応じず,かえって回答期限までに回答しない者については労働条件の変更を拒否しているものとみなす(すなわち雇止めとする)と通告してきました。労働条件を本人同意なしに不利益変更しないこと,労働条件変更に関する団体交渉に応じることをを求めて兵庫県労働委員会へあっせん申請も行いましたが,使用者がこれを拒否したため打ち切りとなり,結局3人は今年3月31日付で雇止めとされました。
本件の争点は,①解雇権濫用法理が適用ないし類推適用されるか,②されるとして,本件雇止めが解雇権の濫用といえるか,の2点です。
1 ①解雇権濫用法理が適用ないし類推適用されるか本件では,3名とも期間雇用社員であることから,有期雇用において期間満了に際して更新拒絶(雇止め)がなされる場合でも,常勤の場合に適用される解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用ないし類推適用されるかが問題となります(問題点1)。
また,本件の3人が郵政民営化前までは「公務員」であったところ,これまでの判例では解雇権濫用法理は公務員には当然には適用・類推適用されないと解されているため,3人が公務員であった時期の扱いが問題になります(問題点2)。なお,本件では郵政民営化に伴い,一旦免職となった後,郵便事業株式会社に新規雇用されたという形式が取られています。
(2)問題点1有期雇用であっても,実質において期間の定めのない契約と異ならない状態で存在する場合や有期契約の更新に対する合理的な期待がある場合は,解雇権濫用法理が類推適用されます(最高裁判決昭49.7.22,東京高判昭55.12.16など)。
具体的には,㈰職務内容・勤務実態の正社員との同一性・近似性,㈪雇用管理区分の状況,㈫契約締結・更新の状況(有無・回数・勤続年数),㈬更新手続の態様・厳格さ,㈭雇用継続を期待させる使用者の言動・認識の有無・程度,㈮他の労働者の更新状況といった事実関係が判断要素となり,これら客観的事情から,期間満了後も雇用の継続を予定しているという当事者双方の意思が推認されれば,解雇権濫用法理の適用または類推適用が行われると考えられます(土田道夫著「労働契約法」669頁参照)。
(3)問題点2これについては,今年2月に画期的な判決が出ています(広島高等裁判所岡山支部平成23年2月17日判決)。この事件は,郵便事業株式会社の期間雇用社員の男性が,郵政民営化後1回も契約を更新されることなく雇止めとなったという事案です。この判決では,公務員である期間について同法理の適用ないし類推適用は認められないが,民営化後の雇用関係について,公務員時代の雇用期間の延長が何回にもわたって行われ(雇用契約を含めると13回),通算4年10ヶ月余り雇用されていたことを指摘した上,職務内容が常勤職員と変わりなく,民営化前後を通じて業務に常時必要不可欠の存在で任用ないし雇用継続が強く期待されていたこと,民営化後の労働条件は公社時代の実績が引き継がれていること,他の期間雇用社員についても契約更新が常態化していたこと等を認定して,雇用継続に対する期待に合理性があるとして解雇権濫用法理の類推適用を認め,解雇を無効としました。本件においても大変参考になる判例です。
また,最高裁は,任用継続を期待することが無理からぬと見られる行為をしたというような特別の事情がある場合に損害賠償が認められる余地を認めており(大阪大学図書館事件・最高裁判決平成6年7月14日),下級審でも有期公務員の雇止めに関連して損害賠償が認められる例も増えてきています(東京高判平成19年11月28日中野区非常勤保育士事件ほか)。
(4)本件における検討本件の3人の勤続年数は,5年6ヶ月,12年2ヶ月,19年,契約更新の回数も最も少なく見積もっても(本件雇用契約時を含む)11回,25回,38回となります。民営化前後で労働実態や労働条件に変化がなかったこと,民営化後の賃金などの処遇は公務員としての勤務経験や働きぶりを評価し,それを反映したものであったこと,公務員としての団地作業所での郵便外務の内容及び責任は正社員と全く同じで,管轄支店に移ってからも,正社員と同様の内務業務を正社員と渾然一体となって行っていたこと,更新手続きは形式的で当然のごとく更新されていたこと,使用者側から支店異動後も仕事はたくさんあると伝えられていたこと等の事実も合わせて考えると,本件においても解雇権濫用法理が適用ないし類推適用されることは明白です。
2 ②本件雇止めが解雇権の濫用といえるか本件は郵便事業株式会社の経営不振に端を発していることから,いわゆる整理解雇4要件に該当するかが問題となります。
(1)要件1 人員削減の必要性各種メディアではペリカン便との統合や昨年起こった遅配問題による業績悪化を理由としてあげているようですが,それにより3名の勤務する支店が具体的にどのような影響を受けたのかは不明です。使用者側も全国的な人員削減の要請という説明に終始しています。郵便事業株式会社の組織的規模や郵便事業株式会社に政府の後ろ盾があること(郵便事業株式会社は政府が100パーセント出資する日本郵政株式会社の100パーセント子会社),3人を解雇直後パート労働者を急募していること等からすると,人員削減の必要性がなかったことは明らかです。
(2)要件2 解雇回避努力義務3人に事前に提示された労働条件は実現可能性の極めて低いものか,相当の減収を余儀なくされるものでした。広く従業員に対し,退職金の提供等の条件を付した希望退職の募集もなされておらず,それどころか3人が受け入れるはずのない代替案を提示して雇止めに追い込もうとしたことは明らかで,これでは解雇回避の努力を尽くしたとは到底言えません。
(3)第3要件 解雇される者の選定基準 及び選定の合理性組合分会員のみに対し,個別の面談や代替業務選択の文書への回答を求めており,組合差別の意図に基づく解雇者の選定であり,組合差別の意図に基づく人選の色彩が濃いといえます。
(4)第4要件 労働組合ないし被解雇者 と十分協議したこと使用者は,組合からの団体交渉の申し入れを頑なに拒み続けた上,雇止めをちらつかせながら労働条件の不利益変更を迫っただけであり,3人に対し協議・説明義務を尽くしたとは到底いえません。
(5)まとめ以上のことから,本件雇止めは無効です。
本件は,各種メディアでも報道されているとおり,今年3月全国的に行われた郵便事業株式会社期間雇用社員リストラの1事例です。本件と同様の裁判が全国で提起されることになると思います。雇止めとなった時期は異なりますが,前述した岡山での裁判も現在最高裁第2小法廷に係属中とのことであり,今後の裁判所の判断が注目されるところです。
このページのトップへ平成23年3月15日、萩田弁護士と増田で西神中央にあるJMIU神港精機支部の事務所を訪問させていただきました。よく頑張っておられると思いました。今後、新人の勧誘に力を注いでもらいたいと思いました。以下、概要です。
会社概要本社は神戸にあります。滋賀及び神戸に工場、東京にサービス場があるそうです。営業所として、東京支店・神戸支店があるそうです。
神戸の工場は、真空を使った小型の半導体関連装置を作っているそうで、西神工業団地でも古くからある工場とのこと。
社員は、全社で219人、それ以外に非正規職員が約30名おられるそうです。
神戸工場では、管理職を含めて50人くらいが働いているそうです。
組合概要2011年3月20日現在、組合員は、神戸で29人、滋賀で66人、東京で10人、神戸支店で18人の合計123人だそうです。過半数を上回っています。会社とユニオンショップの協定を結んでいるとのこと。
昭和50年に、150人の人員整理、神戸工場を廃止するとの会社の方針に対して、組合が反対をし、交渉をしたという実績があるそうです。しかし、最近は、団塊の世代が退職し、当時の闘争を知っているメンバーが減って、組合員の活動は30代が中心になってきているとのことでした。
組合の活動労使協議会というものがあり、勤務時間中に会社と交渉するそうです。交通費も出て、移動時間も労働時間に入るそうです。
また、月2回程度、会社のテレビ会議を利用して、執行委員会を行っているそうです。
年末と年始に旗じまいと旗開き集会をし、春には新人歓迎会で花見をしたりなどして、懇親を図っているそうです。
労働時間等8時15分から16時45分が就業時間で、12時〜12時45分が休憩だそうです。残業代・割増賃金も支払われるそうです。ただ、代休制度とからめて、残業代が支払われない場合があるらしく、その点の改善を求めて行っているそうです。
組合の悩み組合役員の担い手がいないことと、組合行動が少なくなっていることが気がかりな点だそうです。世代交代をうまく図る必要があるのでしょうが、これは、どこでも頭を悩ませる問題ですね。
話をしてくださった太田さんの人となり神戸工場で、電気の関係の資材の購入をしたり、工程の管理をされているそうです。勤続20年になるそうですが、若々しく、さわやかにお話をしてくださりました。
お忙しいところ、ありがとうございました!
このページのトップへ2011年3月24日に木村化工機労働組合を訪問しました。組合からは、五島執行委員長、大貫尼崎ブロック長、ブロック会計の木口屋委員が出席し、訪問したのは萩田、八木弁護士です。
木村化工機は化学プラントなどの設備工事やメンテナンスを業とする会社で、創業が大正11年という老舗企業です。本社は尼崎市杭瀬にあります。現在の従業員数は364名です。
木村化工機の組合はユニオン・ショップ制を敷いており、正社員は管理職を除いて全員が組合員(計135名前後)です。他に有期契約社員やパートタイマー社員、派遣社員も希望があれば加入できる規約になっており、以前は組合員もいたとのことです。
組合は、本部・支部制をとっておらず、尼崎ブロック、東日本ブロック、東海ブロック、中国ブロック、西条ブロック、愛媛ブロック、大分ブロックの7つのブロックに分かれて活動しており、本社所在地の尼崎ブロックにのみ事務所を置いているそうです。
執行部は、各ブロックから選出された執行委員と、執行委員長、副委員長(2名)、書記長、会計、会計監査役から構成されているということでした。執行委員長、副委員長(1名)、書記長、会計、会計監査役は尼崎ブロックから選出されているということです。
年に1回、中央大会を行い、2年に1回役員の改選があるとのことです。なお、専従職員はおらず、組合員の平均年齢は37歳ということでした。また、組合はJAMに加盟しています。
木村化工機の労働条件については、完全週休2日制(土・日)で、定時が8時半から5時まで(途中休憩が45分)、有給休暇、育児休暇、介護休暇はすべて法令に則った形で認められているとのことでした。有給休暇の取得率は60パーセントを超えており、取得日数が年間5日を下回る従業員に対しては、会社から指導があるとのことでした。その他、次世代育成のための制度として、子どもの授業参観等の学校行事への参加は(有給休暇ではなく)社用外出とみなす制度もあるとのことでした。
労働時間はタイムカードと自主申告とで管理されており、残業代はきちんと支給されているとのことです。
定年制についても、従前は60歳だったのが現在は62歳まで延長され、希望すれば年金受給年齢に達するまで雇用継続が可能という制度もできたとのことでした。
以上のとおり、執行委員長のお話では、会社は労働法規を遵守しているので激しい労使対立が起きることはなく、労使協調で上手にやってきているということでした。私たちの訪問時、すでに春闘は一部子会社の関係を除いて妥結しているとのことでした。
個々の従業員に対する労働問題もほとんどないとのことでした。
組合が直面する課題として、若手の育成の問題があるということでした。以前は職場委員会を毎週1回、昼休みに行っていたこともあるが、数年間中断していた時期があり、組合の意義を若手が勉強する機会が少ないということです。
そこで委員長より、民法協への要望として、組合の中央大会にて労働組合や労働法についてのイロハを学べるような講義をしてもらえればというお話がありました。
以上のとおり、木村化工機の労務管理は法令を遵守して行われており、かつ、休暇などについては先進的な取り組みも行っていました。もちろん、会社の意識を向上させるうえで労働組合の果たした役割も大きく、過去に取り組んできた成果であるということでした。
このページのトップへ神戸地方裁判所 第6民事部 平成21年(ワ)第913号事件 原 告 大橋豊 外2名 被 告 国 |
2011年5月26日 |
レッド・パージ国賠訴訟・弁護団声明 |
神戸地方裁判所は,本日(2011年5月26日),レッド・パージ被害者3名が国を被告として提訴していた国家賠償請求事件について,原告らの請求を全面的に棄却する判決を言い渡した。
原告らは,1950年に日本共産党員であることをただひとつの理由として解雇,免職処分を受け職場から追放されるとともに,レッド・パージによって社会から排除され,現在に続くまで継続的な人権侵害を被ってきた。このレッド・パージは違憲違法なものであることは明白であった。 このことは,2008年(平成20年)10月24日付日本弁護士連合会「勧告」,2010年(平成22年)8月31日付同「勧告」及び各地の弁護士会の「勧告」によって繰り返し認定されてきたものであるにもかかわらず,神戸地裁はこれらを一顧だにしなかったものである。 判決は,原告らが,被告国の責任について,被告国はレッド・パージの実施を回避することができたにも関わらず,自ら積極的にレッド・パージを実施したのであるから,これら一連の行為を先行行為として,条理上,1952年4月28日の講和条約発効後に,日本政府が自ら積極的に推進したレッド・パージの被害者らに対して,その被害を救済するべく作為義務が認められることは当然であるとの主張に対し,マッカーサー書簡の趣旨はレッド・パージを指示したものであると解釈した上で,原告らに対する免職・解雇は有効であり,講和条約締結後もその効力を失わない旨の旧来の最高裁決定(昭和27年,同35年)をそのまま踏襲したものである。 本判決は,明神勲証人(北海道教育大学名誉教授)が実証した「新事実」,すなわち,昭和35年4月18日最高裁決定(中外製薬事件)において判示された「顕著な事実」(注)が全く存在しなかったこと,レッド・パージが昭和24年7月22日の閣議によって決定されたものであったことについて,全く顧みようとせず,被告国の責任を認めなかったのは,司法の人権救済機能を放棄したに等しいものである。 (注)昭和35年4月18日最高裁決定(中外製薬事件) 「所論連合国最高司令官の指示が,所論の如く,ただ単に「公共的報道機関」についてのみなされたものではなく,「その他の重要産業」をも含めてなされたものであることは,当時同司令官から発せられた原審挙示の屡次の声明及び書簡の趣旨に徴し明らかであるばかりでなく,そのように解すべきである旨の指示が,当時当裁判所に対しなされたことは当法廷に顕著な事実である。」 GHQの指令が超憲法的効力を有するとした,かっての最高裁大法廷の決定は,日本国憲法を 無視するもので,その判断は司法の歴史に一大汚点を残すものと指摘されている。本件訴訟で,この汚点をぬぐうべき判断が裁判所に求められていたのであるが,本判決が,これにまったく答えることなく誤った判断に終始したことは厳しく批判されるべきである。 原告らは,すでに90歳以上の高齢の者もおり,レッド・パージで侵害された名誉を回復をする最後の機会として,本件訴訟を提起したが,本判決の結果は,原告らの人権の最後の砦たる司法に対する期待をまたもや裏切るものとなった。原告らの憤り,深い悲しみはいかばかりか,弁護団はこの裁判所の不当極まりない判決に強く抗議する。 弁護団は,国に対し,本判決如何にかかわらず,日弁連勧告の趣旨に従い,レッド・パージ被害者救済のための然るべき措置をとることを強く求める。 弁護団は,引き続き,レッド・パージ被害者の権利・名誉回復に向け,全力を尽くす決意である。 |
(連絡先)神戸あじさい法律事務所 弁護士 佐伯雄三(TEL 078-382-0121) |