《第539号あらまし》
 NHK受信料徴収者の労働者性に関する事件
 札幌地裁平成24年12月26日判決
     労働者委員の連合独占は違法!!
 新人弁護士会員の紹介


NHK受信料徴収者の労働者性に関する事件

弁護士 八田 直子


1 事件の概要

原告のAさんは、平成13年7月2日、NHK神戸放送局において、同日から平成16年3月31日までの期間を定めて、NHKとの間で、NHKの受信料契約の取次を内容とする契約を締結しました。形式的には委託契約となっていました。同契約期間満了の際には更新がなされ、合計5度の更新がなされました。5度目の更新時の契約期間は平成22年10月1日から平成25年3月31日でした。ところが、Aさんは目標ノルマの達成率が悪いことを理由に平成24年3月1日をもって契約を解約されました。労働組合による解雇(予告)撤回運動もなされましたが、NHKが解雇を撤回することはありませんでした。

そのためAさんは、実質的にはNHKとの間で労働契約を締結した労働者であるから解雇権濫用法理が適用され、Aさんの解雇は無効であるとして、神戸地裁に提訴しました。

2 労働者性について

NHKは訴訟において、これまでの判例をあげ、NHKと受信料契約の取次を行う者との契約は、委任ないし請負の性格を併せ持つ契約であり労働契約ではなく労働者ではないと主張しています。

しかし、労働契約法上の労働者といえるかについては、①仕事の依頼への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督の有無・程度、③時間的・場所的拘束性、④労務の提供に代替性があるか、⑤報酬の算定、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性の有無、⑦専属制の有無、を総合的に考慮して判断されることになります。

ところが、これまでのNHK受信料徴収者等に対する判例は、後述するような事情があるにもかかわらず、NHK受信料集金業務の公共性、及び、受信料収入が唯一の財源であることを強調し、結論において労働者性を否定しており妥当ではありません。

この点、Aさんの訪問地域は、NHKによって一方的に指定され、Aさんには就労環境を選択する余地がありませんでした。またNHKは、Aさんが達成すべき数値目標を一方的に設定し、AさんはNHKから一方的に設定される目標設定を前提に業務計画表をNHKに提出しなければいけませんでした。さらに、月に3,4回は業務計画表の修正を求められ、稼働量の増加を要請されていました。

他にもNHKは、ナビタンという携帯端末を貸与し、当該端末を使用して業務に就かせてその記録を日々送受信させることよって、Aさんの活動時間や訪問件数、訪問経路を把握していました。そして稼働時間や稼働日数が少ないと指示をしたり、訪問場所も戸建てをまわるように等と具体的に指示していたのです。

またNHKは、当期の目標数の80%に3期連続して達しなかった時や当期の目標数の60%に達しなかった時には特別指導を実施したり、書面で注意を行ったり、誓約書を書かせたりもしていました。さらに、職務上必要な物品をNHKはすべて貸与していました。

対価については、営業成績の多寡に関わらない部分と成績給の部分があったほか、報奨金という賞与の性質を有するものもありました。また、解雇予告手当や餞別金名目の退職金も存在しました。このように、受領金員は労務の提供に対する対価としての賃金の性質を有していたのです。

以上からすれば、形式的に委託の形式をとっていたとしても、NHKは、受信契約の締結及び受信料の集金にあたる者に対し労働者に対して行うのと同様の指揮命令を行い、労働者と同様の諾否の不自由、業務遂行上の指揮監督、時間的・場所的拘束を行っているといえるはずです。

3 最後に

現在、第5回の期日が終わりました。今後、尋問や意見陳述も予定しております。応援よろしくお願いします。 労働者委員の連合独占は違法!!(札幌地裁平成24年12月26日判決)

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札幌地裁平成24年12月26日判決
労働者委員の連合独占は違法!!

弁護士 増田 正幸


1 北海道では,平成22年当時,労働組合数  3508,組合員数35万2889人で,その内連合北海道が全組織労働者の74.4%にあたる26万3429人を組織し,他方,道労連は6.0%の2万1197人を組織していた。

2 北海道において,平成22年12月,第39期労働者委員の選任が行われた。  

定数7名のところ,第38期労働者委員7名とそれ以外の7名の合計14名が候補者として推薦された。

候補者の内,3名は次のとおり,道労連加盟組合の推薦候補であった。

候補者A 北海道勤労者医療協会労組元執行委員長,道労連元議長

候補者B ローカルユニオン結副執行委員長,道労連労働相談室長,自交総連北海道副議長

候補者C 建交労北海道本部特別執行委員,道労連事務局長,国民春闘北海道共闘事務局長

3 結局,第39期労働者委員は第38期労働者委員(いずれも連合推薦)が全員再任され,平成2年以降,11期22年間連続して連合北海道加盟組合の推薦候補が労働者委員を独占することとなった。

そこで,道労連,候補者ABCの各推薦組合,候補者A,B,Cがそれぞれ原告となって,第39期労働者委員任命処分の取消と損害賠償を求めて札幌地裁に提訴した。

4 北海道においては,道経済部労働局雇用労政課が候補者名簿を作成し,そこには「年齢,本籍地,現住所,最終学歴,賞罰の申告,所属労働組合及び地位,所属労働組合の所属地・構成員数・産業分類・加盟上級団体,労働組合関係等の主な経歴,推薦労働組合及び道労委の労働者委員歴」が記載され,知事はこれらを総合勘案して適格者を任命し,これに加えて,再任者については労働者委員としての経験,堅実な職務の遂行,誠実な労使紛争の解決努力を勘案することとしていた。

5 札幌地裁平成24年12月26日判決(以下「札幌判決」という)は,第39期労働者委員任命処分の取消請求については,原告らに原告適格がないとして却下し,損害賠償請求については損害がないとして棄却するという原告ら敗訴判決を下した。すなわち,

(1)各労働組合及びその加盟するローカルセンターには,個別の労働者委員の任命に具体的に関与するための権利としての推薦権が付与されているわけではなく,任命の前提手続である推薦制度を通じて,一般的に労働者の代表を選出するための手続に参加するにとどまり,それ以上に,具体的な労働者委員の任命について関与することのできる権利ないし法律上保護された利益を有するとはいえないから,自分らが推薦した候補者ではなく,他の労働組合の推薦した候補者の中から労働者委員が任命されたからといって,推薦組合である原告らの法律上の利益が害されるわけではなく,推薦組合には労働者委員任命処分の取消訴訟を行う資格はないということである。本件に限らずこれまでの多数の判例が同様に推薦組合の原告適格を否定しており,本件判決もこれまでの判例の考え方にしたがったものである。

(2)本件訴訟では選任されなかった候補者自身も原告となっている点が特徴的であるが,札幌判決は,本来労働者委員の選任は労組法の定める手続に従って知事の健全な裁量によって行われるべきでものある以上,個々の被推薦候補者は知事の適切な裁量権行使によって任命がなされるという一般的な期待を持つことができるだけで,それ以上の利益を与えるものではなく,他の被推薦者が労働者委員に任命されたとしても,被推薦者個人の法律上の利益が害されるわけではないとして,被推薦候補者にも労働者委員任命処分の取消訴訟を行う資格はないと判示した。

(3)このように労働者委員の推薦制度は個々の推薦組合や被推薦候補者の具体的利益を保護するものではなく,労働者一般の利益という公益の保護を目的とするものであるから,個々の推薦組合や被推薦候補者が労働者委員の推薦について有する利益は,事実上の利益にすぎず,法律上保護されるべき利益ということができず,他の労働組合推薦候補者が労働者委員が任命されたからといって原告らには具体的な現実の損害が発生したとはいえない,として損害賠償請求も棄却した。

6 しかしながら,札幌判決は判決理由中で第39期は第38期労働者委員を全員再任することによって,連合の推薦候補が独占したことについて,知事に裁量権の逸脱・濫用があると判示した。

(1)本件訴訟に先立ち,第37期労働者委員の任命処分について連合系の候補者により独占されたことを理由に取消訴訟が提起され,札幌高裁平成21年6月25日判決(以下「高裁判決」という)は,

① 本件任命処分がされた時点で北海道内における労働組合の組織率や各系統の勢力比,各系統から推薦された候補者の数及び比率から,「連合北海道を含めて特定の系統の労働組合の推薦に係る候補者のみを労働者委員に任命すべき比率にあるとはいえない」から,

② 労働組合の組織率や各系統の勢力比などが変わらないのに,特段の事情もなく今後も特定の系統の労働組合が推薦する者が労働者委員に任命される事態が続く場合には,連合北海道以外の系統の労働組合の推薦候補者を排除したという推認が働く余地があり得るというべきである

と判示した。

(2)札幌判決は高裁判決の上記判断を前提に,

① 第39期の候補者14名全員について,不適任だと思われる者はいなかったと判断していたこと,

② 道労連傘下組合員数が組織労働者の6.0%であるという推薦労働組合の所属人数等にしかるべき配慮払った形跡が見受けられないこと

③ 第38期労働者委員を再任するにあたって,労働委員会事務局に適格性の照会をしたというが,それは「堅実に職責を全うしているのか,職務上特に問題となるような事実がなく,また誠実に労使紛争の解決に努めてきたか」を問い合わせたというだけで「既に適格性を肯定されて任命を受けた労働者委員に関する照会であることを踏まえても余りにも形式的なもの」で,これに対する労働委員会事務局の回答も「各委員については堅実に職務を全うしていることから,委員の適格性に問題はないものと思慮されます」などと各候補者の具体的な職務遂行状況や資質等に言及するものではなく,一律に問題がないとするものにすぎず,第38期労働者委員の再任を前提に行動していること

④ 全員連合系の候補者である現職労働者委員を再任すべき特段の事情は窺われないこと,を認定し

⑤ 「高裁判決の説示を踏まえてこれを考慮した形跡がいささかも見受けられないこと」,「これまで相当期間継続している連合系候補者による労働者委員の独占状態」を併せて鑑みれば,本件任命処分は「再任を含めた候補者の適格性判断の実質に乏しく,結局労働者委員の経験の有無を重視し,現職の連合系労働組合推薦に係る労働者委員を再任する意図の下に行われたものであると評価されてもやむを得ない状況にあるといえる」と判示した。

⑥ このようにして,札幌判決は,知事は原告A,B,Cについて形式的には審査の対象としながらも実質的には全く審査をせず,連合北海道に属する推薦組合にかかる候補者のみを再任する本件処分に及んだもので,本件処分は労組法上の推薦制度の趣旨を没却するものとして裁量権の逸脱・濫用にあたると結論づけたのである。

7 札幌判決は,このように,連合とは系統を異にする道労連傘下組合員数が組織労働者の6.0%いることを重視し,連合推薦候補者が労働者委員を独占する理由がないとして,労働者委員の任命に当たって,連合以外の系統の推薦候補者に対する「しかるべき配慮」を求め,労働者委員を再任する場合には,当該労働者委員の具体的な職務遂行状況や資質を実質的に審査することなく,単に在任中問題なく職務を遂行したか否かという形式的な審査だけで適格性を判断するだけでは十分とはいえないことを明らかにした点で,従来の兵庫県における労働者委員の任命方法に大きな警鐘を鳴らすものといえ,私たちが非連合推薦の労働者委員の任命を実現する上で大きな武器になるものである。

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新人弁護士会員の紹介

あいおい法律事務所 弁護士 吉江 仁子


はじめまして。2013年4月より兵庫県弁護士会に登録替えをし、5月1日よりあいおい法律事務所で執務させて頂いています59期の吉江仁子(よしえきみこ)と申します。出身は宝塚市ですが、名古屋大学法学部を卒業したご縁で、平成18年10月に弁護士登録後、弁護士法人名古屋E&J法律事務所で6年半勤務して参りました、私事で恐縮ながら、昨年秋に結婚をし、それを機に地元に戻ってきました。そして、濱本由弁護士と同期だったご縁で、あいおい法律事務所に入所させて頂きました。民法協については、以前に、京都の同期の弁護士から、勉強会など多く開催され活発に活動していると、聞いたことがありましたので、この度、入会をお認め頂き光栄に感じております。

名古屋ではいわゆる普通の民事事件・刑事事件以外に、所属事務所の方針からいわゆる環境事件や、私自身が視覚障害者であることから社会福祉に関する事件なども扱って参りました。平成22年4月からは盲導犬を使用しており、「この人もしかしたら目が悪いんじゃないの?」という存在から、「この人、視覚障害者のようだけど、見えてるんじゃないの?」という存在に変身しました(笑)。なお、中心部は矯正で0.4まで視力があります。

趣味はミシンと旅行で、ワンを伴ってどこへでも行きます。名古屋も長かったのですが地元に戻ってきて空気が肌になじむ感覚を覚えています。兵庫ではどんな人、どんな事件と巡り会うことが出来るかと思うとワクワクします。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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