あけましておめでとうございます。
昨年の臨時国会で「特定秘密保護法」が強行可決され、成立しました。それに先立ち、日本版NSC設置法が成立、国家安全保障局が設置されて動き出しました。今年の通常国会には国家安全保障基本法案が上程され、国会では集団的自衛権の行使は憲法9条に違反しないという内閣法制局長官の答弁が行われる予定です。我が国が攻撃されていないのに自衛隊が軍事力を行使する(戦争する)体制が憲法9条を変えないで作られる訳で「立法クーデター」と言うべきものです。
安倍内閣の暴走はこれにとどまりません。
アベノミクスやらという「3本の矢」が放たれ、その内の1本「成長戦略」が政府の下に設置された「経済財政諮問会議」「日本経済再生本部」(産業競争力会議)「規制改革会議」といった会議で議論されています。そこでは「成熟産業から成長産業への雇傭の流動化」の実現のための解雇規制緩和、労働時間規制緩和、派遣規制緩和といった労働規制の全面的規制緩和が検討されています。非正規雇用労働者の全体の労働者に占める割合は、 05年では32.6%、12年では38.2%と高まっており、これ以上派遣労働者・非正規雇傭労働者を増やして労働者全体の賃金があがるはずもなく、女性や若年(青年)労働者の使い捨て状態が是正されることもありません。一方でトヨタを始めとする大企業はこの1年間のみで内部留保を5兆円増加させたようです。女性や若年(青年)労働者の使い捨てで得た利益で貯め込んでいる訳で、私に言わせればこうした大企業こそがブラック企業(親玉)と言うべきです。
暴走安倍内閣との闘いを含め、今年も私たちは困難な闘いに挑戦しなければなりません。憲法と平和を守る闘いも労働者の闘いも民主主義を回復する闘いであり、憲法の基本的人権は私たちの不断の努力で守り抜かなければなりません。「民主主義は永久革命」(丸山眞男)であるとの言葉を噛みしめて頑張るつもりです。
このページのトップへ新年あけまして、おめでとうございます。
昨年末は、非常にあわただしく かつ 騒々しく過ぎていきました。特定秘密保護法の強行採決、韓国軍への弾薬の提供、首相の靖国参拝、沖縄県知事の辺野古埋め立て承認・・・政府は集団的自衛権行使に向け、しゃにむに突き進んでいます。
新年を迎え、特定秘密保護法を施行させない闘い、解釈改憲を許さず憲法9条を守る闘い、大いに奮闘する決意を固めているところです。
特定秘密保護法・強行採決のどさくさに、社会保障プログラム法というものも成立しました。これは、憲法25条の解釈改憲を進める工程を定めた法律です。
現憲法が施行された直後の1950年、政府に対し「社会保障制度に関する勧告」が出されました。25条の生存権を具体化するため、学者・専門家による社会保障制度のあり方を提言した勧告です。その序説には、『国民の生活は…あまりにも窮乏…問題は、いかにして彼らに最低の生活を与えるか…人権の尊重も、この前提がなくしては、紙の上の空語でしかない。』とあり、当時の世情が反映された、実に生々しく、同時にわかりやすい説明がされています。そして勧告の本文は、25条の条文を冒頭に記述した後に、『これは国民には生存権があり、国家には生活保障の義務があるという意である。』とズバリ、言い切っています。現在の政府の社会保障政策は、自助・共助を前提に、足りない部分を公助で(=国が)補うとしており、大きく後退しています。
医療・介護の労働運動に携わるものとして、憲法25条を守る闘いも大いに奮闘する決意です。
政府は、教育への介入も強めようとしています。様々な分野での憲法擁護の闘い、ともにがんばりましょう。
このページのトップへ特定秘密保護法が、多くの国民、各界各層の人たちの反対にもかかわらず、参議院で与党のみの賛成多数で昨年12月に成立した。しかし、法律は成立したが、施行は1年以内とされており、施行までに政府の秘密指定を監視するための国会法改正、特定秘密指定基準を作成するための専門家による検討など、ハードルがある。そして、法律は成立したが、反対運動は下火になるどころか、広がりを続けており、神戸でも1月5日の大丸前の特定秘密保護法の廃止を求める宣伝行動には、お正月休み最後の日曜日にもかかわらず、100名を超える人が集まり市民への訴えをした。安倍首相など政府や自民党は、市民の不安を打ち消すために、「特定秘密」は、一般の国民の生活には全く影響がない、特定秘密の漏えいが処罰対象となるからといって、一般の人が逮捕されることはない、報道の自由や国民の知る権利が制限されることはない、政府が都合の悪い情報を隠すことはない、などと説明している。しかし、本当にそうだろうか。これから一層反対運動の輪を広げ、施行前に廃止させるために、特定秘密保護法の内容と私たちの暮らしへの影響を検証してみたい。
① 秘密の範囲が広範で曖昧
行政が保有する幅広い情報をその行政機関の長(大臣など)が特定秘密として指定する。
② 特定秘密は国会や裁判所に提供される保障がない
特定秘密として指定された情報は、情報提供を受けられる機関が限定される。国民の代表である国会や裁判所にも情報が提供されない場合がある。
③ 適性評価制度
特定秘密として指定された情報は、これを扱うための適性評価制度に合格した職員のみが扱える
④ そのため適性評価制度が重要で、職員の素行調査が徹底して行われ、対象となる職 員は、公務員に限定されない。その対象には職員の家族も含まれる。調査の過程で交友関係なども調査対象となるから、広く一般の市民、私人が調査対象となる。
⑤ 法律違反の場合の法定刑が重罰化しただけでなく、過失による漏えい、秘密を取得しようと相談する行為(共謀罪)など処罰される行為の範囲が格段に広げられている。共謀罪は、行動に出なくても話し合ったこと自体で処罰される。行政機関が保有する行政が違法に集めた情報を内部告発としてマスコミなどに流した場合にも内部通報者を保護する規定もない。
行政機関の長(各省の大臣など)の判断で様々な情報を秘密として指定することができる。法律では、① 防衛情報、② 外交情報、③ 特定有害活動というスパイ活動などに関する情報、④ テロ防止に関する情報、などと一応の種類分けは定めているが、石破氏が思わず本音を漏らしてしまったように、拡声機を使用した「大音量」の街頭宣伝活動もテロリズムと同視されるなど、いくらでも拡大解釈して秘密の範囲を広げることが可能である。そして、その中には、自衛隊の活動や基地への兵器の配備など平和に関する情報、原発事故の情報など国民の安全に関わる情報、TPP交渉など私たちの暮らしに直結する外交交渉に関する情報、公安警察などによる違法な市民監視活動に関する情報など、非常に広範な我々の暮らしにかかわる情報を秘密として指定することが可能となる。
しかも、30万件とも40万件ともいわれる秘密情報を一々大臣がチェックして指定することなどできるはずもなく、結局は官僚が秘密としたいと考えた情報はフリーパスで特定秘密とされ、官僚にとって市民に知らせると不都合な真実は国民の目から覆い隠され、市民が行政を監視することが非常に困難となる。震災時に放射性物質の拡散に関する情報が政府によって隠されたように、政府や行政に都合の悪い情報を隠すことが制度的に保障されてしまう。
成立した法律では、行政機関から独立した第三者機関でのチェック体制は想定されていない。国民の代表である国会が、チェックすることを保障する制度すらない。
それでは裁判所がチェックできるのか。最高裁の判例(西山記者事件)では、保護される「秘密」とは秘密として法的に保護に値する情報のみであり、違法な秘密を漏らしても処罰されない。実際に西山記者事件では、問題となった情報が憲法などの視点から法的保護に値するかが争点となった。そして、最高裁判決では、秘密として法的に保護する必要があるか否かは司法(裁判所)が判断する、としている。しかし、特定秘密保護法では、行政機関が裁判所に対して必ず「特定秘密」を提供すること義務がないから、裁判所も「特定秘密」が何か分からないまま裁判することになり、裁判所のチェックも及ばない。私たちは、そこまで大臣や官僚を信頼して情報を独占させ、何が秘密かを指定することまで白紙委任してよいのだろうか。
安倍首相が情報交換をしたいと願っている米国では秘密指定されても、暗号など特別の情報を除けば25年の経過で情報公開される。皆さんも米国の公文書を通じて政府が隠していた我が国の外交交渉や密約が明らかになった例をご存じだと思う。ところが特定秘密保護法では一旦特定秘密として指定された情報は、最長で60年は秘密とされるのみならず、60年経過しても必ずしも全てが開示されるとは限らず、秘密のままで廃棄される情報もある。60年後に公開されて、歴史的に検証しようとしても、殆どの関係者は墓の下であろう。安心して官僚は都合の悪い情報を隠すことができることになる。
特定秘密を取り扱う者に対して秘密を扱う適性の調査(適性評価制度)を行うことが認められている。調査の対象者は特定秘密を扱う当該職員だけではなく、その家族についても行われ、調査事項も私生活にわたる事項に及ぶ。しかも、適性評価の調査の対象は民間企業の社員にも及ぶし、実際に秘密を扱う職員のみならず秘密を扱う「可能性がある」職員、更にその家族にも及ぶ。調査事項には「テロリズムに関する事項」「飲酒の節度」「信用状態その他の経済的な状況」などが含まれる。職員や家族が所属している団体、交友関係など私生活(趣味の会を含めて全てを調査しなければ、職員がテロに関係しているような団体や人物と接触しているかどうか判定できない)、日常生活に関する素行が調査対象になってくると考えられる。実際に既に防衛秘密を扱う自衛隊員の適格性を判断するための適性調査がされているが、隊員に提出させる「身上明細書」では、交友関係(氏名、住所、国籍、職業、勤務先、カラオケ仲間など関係性などを記載させる)、所属団体については過去に所属していた団体も含めて宗教、趣味のクラブまで記載させ、必要に応じてポリグラフ検査を受けることを承諾する誓約書まで提出させている(朝日新聞13.11.12朝刊)。
しかも、適性評価制度に一度合格しても、適性に疑いが生じた場合には、再調査される。ということは、常日頃から職員やその家族は、監視の対象となり、適性に疑いを持たせるような人物と最近交際していないかどうかを監視され続けるということになる。交友関係が調査されるから、職員の友人、知人、恋人など一般市民の素性も知らない間に調査されることになる。あなたの情報が知らない間に調べ上げられていないとは限らない。そして、このような調査自体が秘密裏に行われ、調査内容や調査結果は特定秘密に指定されるだろうから、違法な個人情報の収集がされていてもチェックできない。
秘密の漏えいについては最高10年以下の懲役と重罰化するのみならず、過失での漏えい、秘密を取得しようとする行為、秘密を提供するように説得する行為(教唆)、秘密の取得や秘密を提供するように説得する行為を相談する行為(共謀罪)など幅広い行為が処罰対象となる。
秘密を取得しようと相談する段階から処罰対象となるので、原発に反対する市民が原発事故や原発の安全性に関する情報を取得しようと相談すること、平和運動をしている市民が自衛隊の活動内容や基地に配備されている兵器など装備に関する情報を取得しようと相談すること自体も処罰対象となる。何が秘密かが分からないから、知らずに特定秘密に該当する情報を入手しようと相談することだってあり得る。もしかしたらその情報は特定秘密に指定されているかも知れないが、重要な情報だから何とか入手できないか(未必の故意)、と相談しただけで「共謀」したとして警察から捜査対象とされる。そして、通常はこのような相談は「密室」(要は特定の人との日常的な会議)で行われるから、「共謀」段階で捜査しようとすれば、捜査機関が、特定の市民、報道機関を常に監視して、場合によって電話や会話の盗聴、メール交信の取得などを行うことが必要となり、それを可能とするような法律の制定も今後検討されることになるだろう。関係者による密告や謀略による弾圧事件も起こり得る。
特定秘密をマスコミが特ダネとして報道すれば、その記者は連日情報の入手経路について取調を受け、接触する人物を探るために尾行され、記者の携帯電話の通話履歴が電話会社から押収され、特定秘密取得の共謀罪や教唆の疑いで、その報道機関が捜索され取材メモやパソコンデータが押収されることも充分にあり得る。そのような可能性があるということで、報道機関や記者の取材活動が萎縮してしまう、公務員も取材に応じなくなる。法律は現に濫用されなくても、濫用される余地があるような杜撰な法律が存在するだけで萎縮効果としては充分である。
確かに防衛上、あるいは外交交渉上、秘密にしておくべき情報はあることは否定できない。問題は、知る権利や報道の自由という重大な人権が侵害される恐れがあるにもかかわらず、法律を制定する必要があるのかである。最近10年間で情報漏えいで捜査対象となったのは8件で、そのうち殆どは違法性が低いとして起訴猶予となっている。政府は、秘密保護法は世界の常識のような宣伝をしているが、今でもわが国には国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法など情報の漏えいを取り締まる法律はある。しかも、国会審議では、わが国が他国と比べて情報の漏えい件数が多いかどうかの調査すら政府がしていないことが分かった。つまり現行法でも罰しなければならない情報漏えいは処罰できるし、重大な秘密漏えいは殆どない。諸外国に比較して日本が情報漏えいが多いということもなく、ウイキリークスの例からも分かるとおり、厳しい情報管理をしているはずの米国などでも内部告発により情報は「漏えい」される。
この法律の致命的な欠陥は、情報が国民のものである、国民がその情報に基づいて権力を監視することが、結局は、国民の安全につながるという民主主義の大原則への理解に欠いていることである。法の危険な内容に気づいた多くの国民、マスコミ、政治的立場を超えた各界各層の幅広い人々から反対の声が上がっている。法律を施行させないために反対の声を上げ続けたいと思う。
このページのトップへ非正規労働者の雇用安定と地位、待遇改善をめぐる法政策的争いは、政府・財界の強烈かつ執拗な攻撃と労働側の反攻の中で容易に決着がつきそうには無い。民主党政権下でわずかに得られた労働者保護的な修正も、自民、公明党政権下では派遣法制の根本を新たな考え方(業務単位の派遣期間制限から、個人単位・派遣先の組織単位での制限へ)に切り替え、更新手続を過半数代表からの意見聴取で(公益委員案)無制限の更新も可能となるように改悪しようとしている。依然として非正規雇用、とくに派遣労働法制をめぐる資本側と労働側の攻防が、最大の焦点であることにはまちがいない。
しかしながら、今回は直接非正規・有期雇用の問題を取り上げるではなく、これと関連しつつも独自の問題化しつつある解雇法制の改変論について取り上げることにしたい。その理由は、1000万人を超える派遣、2000万人を超える非正規労働者が存在するという現実が労働者全体の労働条件引き下げの引き金となり、正社員の地位と処遇に大きな影響を及ぼしているからである。解雇法理(判例法理を含む)を適用しても解雇が容易な「正社員」を多数つくりだすことにより、不法・不当な整理解雇に対して解雇無効=現職復帰、を認めてきた判例法理・現行法理の適用域を狭め、安定した雇用という労働者保護の根幹を揺り動かそうとしている。
解雇改革と称して、限定正社員を産み出し、「解雇紛争の金銭解決」制度の導入を説く声を無視するわけにはいかない。
パート労働者をはじめ派遣、その他有期雇用労働者の格差是正=待遇改善要求の高まりと企業側の人材確保の必要性とのからまりのなかで、企業内の正社員を区分し、従来型の正社員のほか、それと異なる限定された意味での正社員を人事制度上に位置付け、それに対応した処遇を唱える議論が一定の勢いをもってきた。経営・労働関係紙誌等においても導入した企業の実例が散見される。
区分の指標は、例えば担当業務の種類、内容や責任の程度という日々の企業運営に直接関するものから、出向、転籍、転勤、グループ企業内派遣など、多様な内容が考えられ、労働者がそれに応諾できるかどうかで地位や処遇に格差がつけられる。
しかしながら、どのような指標を定立しても企業の限定正社員化制度は、企業のねらいが、正社員に格差をつけ、総賃金を抑制し、整理解雇を容易にするということにあるから、一部の学者や厚労省官僚がいうようなワーク/ライフ・バランス論に支えられた労働者保護の制度にはまずならない。例外的に、導入の過程で労使交渉・協議が十分機能し、労働者側の要求を十分盛り込み納得を得た制度化も空想できないわけではないが、代表的大企業の倫理を捨てた貪欲さと労働運動の実情からは、正社員の中に「限定正社員化への恐怖」を産み出すことになろう。
なお、限定社員化は、多くの企業で主として女性労働者に行われている一般職・総合職の区別と差別的待遇を広く男性正社員にも拡大しようとするに過ぎない、との見方もあるがそれ以上に、人員整理を容易にする可能性を重視すべきであろう。→後述。
違法な解雇が行われたとき、当事者が和解等の過程を経て最終的には金銭的補償をもって紛争を解決する例は実際にもかなり行われてきた。被解雇者が解雇無効の判決等を得たときでも、長期の裁判中に起きた職場組織、人間関係、業務遂行方法の等の変化から、必ずしも原職復帰を望まなくなり、企業側が一定期間労働者の生活を保障するという意味の補償金支払いと引き換えに労働者は職場を去るという場合は決して少なくはない。法的にはいったん復職=労働契約上の地位を確認し、それと同時に辞職ないし合意解約という形式をとることになる。
しかし、解雇改革論者や企業側が導入を目指して唱える「金銭による解雇紛争の解決」制度は、上述したような内容のものでは決して無い!
彼らの意図するところは、補償金の支払いをもって解雇の有効または無効を争うこと自体を回避することである。現行法制下の和解等による解決は、解雇の有効・無効の認識、判断が和解金の算定に影響を及ぼす場合が多い。しかし、構想される制度は、企業が定型化された金額、または簡明に算出された低額を補償金として支払うことにより、労働者に解雇を受け入れさせ、司法判断を避けて通ることができるようにすると云うのである。おそらく、補償金は法律またはその委任に基づく規則で定めると想定するのであろう。被解雇労働者が満足できる金額とは、ほど遠いものになる公算が大である。だが、労働者にとってそれだけではすまない。金銭補償さえすれば正社員の解雇でも簡単におこなえる道が拓かれる!
学界では、解雇紛争の金銭補償による解決が制度化されても、「違法・不法な解雇が違法でなくなるわけではない」として、議論の混乱を云う見解もあるが、問題の所在を取り違えていると思われる。
(2)次の問題は限定正社員の件と関係する。学界の一部や厚労省関係にみられるジョブ型正社員論は、ジョブ=一定範囲のまとまった業務、を遂行するために雇用された正社員、つまり、限定正社員、の整理解雇が整理解雇の4要件を簡単に通過できるようにとの魂胆である。企業間の利潤獲得競争が激化する状況の中で、一方では企業業務の種類と内容の改変が急ピッチになり、他方では配慮される労働者も知的能力や技術、知識、経験等のレベルが問われ、これらの要素を生かせる業務の変容は激しい。そのため、企業運営上必要なジョブが存在する範囲で雇用を継続し、ジョブの縮小・改廃は直ちに雇用の縮小・改廃と結びつく。欧米の企業に一般的な雇用はジョブ型であると云われるが、ジョブと雇用の改廃が最もストレートに結合するのはアメリカの場合である。他の諸国では一定の範囲で「多能工化」を取り入れたこともあり、ジョブと雇用の連結度合いは薄められている。
このような雇用を前提にすれば、ジョブが存在しての雇用であるから、ジョブが縮小・消滅すれば雇用もそうなるのが当然となろう。整理解雇の4要件は、簡単にクリアするだけでなく、企業に対し事前に求められる希望退職の募集等解雇回避の努力義務なども軽減されかねない。しかし、生産現場は多能工、事務は一般事務職として雇用するのが通常の日本企業では、ジョブ型限定社員は普及しにくくその他の型の限定正社員がつくられる可能性が大きい。全労働者的視点からの吟味が必要である。
このページのトップへ第1部として、NPO法人POSSE事務局長川村遼平氏を講師にお招きして「『ブラック企業』問題をどう生かすか」と題する講演を開催した。POSSEは、「ブラック企業問題」に2006年頃から取り組んでいる、20〜30代の若者が中心になって運営する特定非営利活動法人である。
そもそも「ブラック企業」とは何か、民法協事務局の間でもいろいろ意見が分かれていたが、川村氏の説明は端的に「長期雇用を匂わせておきながら労働者が望んでも長期間勤めることができない会社」ということであった。要するに若者・労働者を「使い捨て」にする会社である。こうしたブラック企業の特徴は、短期間で社員が辞める(辞めさせる)ことを見越した上で多数の社員を採用する「選別排除型」、社員の燃え尽きや心身の不調を厭わず徹底的に酷使する「消耗使用型」などというものであり、徹底的な「若者使い捨て」を織り込んだ労務管理を行っている。ユニクロやワタミなどは、こうした手法で業界トップに躍り出たというのであるから、悪質であり、まさに「ブラック」といえよう。
では、なぜ、最近になってこうした「ブラック企業」がクローズアップされるようになったのか。川村氏の講演を自分なりに咀嚼すると、従来から「会社人間」、「過労死」、「闘わない企業別労働組合」が社会問題になっていたことを考えると、「ブラック企業」はこうした日本型企業社会のもっとも醜悪な側面が肥大化し発展を遂げ、社是にまで格上げされた企業形態といってよいのではないか。反対に、「ブラック企業」と言われない会社であっても、日本の労働現場は誇れるような職場ではなかった。
「ブラック企業」の背景にも触れながら、川村氏は、ブラック企業対策についても解説をする。川村氏が「ブラック企業」対策として挙げたのは、「逃げ出せる世界の創出」、「強力な指揮命令の抑制」、「被害者ネットワークの創出」の3点である。たしかに、日本型企業社会のままでは解決が困難であり、まずはその外側に解決方法を求めなければならないだろう。
そうした当面の課題だけではない。いまや、インターネットなどでも「ブラック企業」が指弾され、社会各層の関心を呼んでいる。「ブラック企業撲滅」を社会的な運動として発展させていけば、日本の雇用システムを変革することにつながる可能性がある。また、POSSEが、「ブラック企業」問題を梃子に、若者の労働運動への参入を促そうとしているということを聞いて、なるほどその通りだと思った。民法協としても、ブラック企業対策を積極的・戦略的に取り組んでいこうという決意がわいてきた。
つづいて第2部として、民法協加盟の各組合や弁護士が取り組んだ事件報告である。建交労からは業界そのものがブラックではないかと思わんばかり多数の事例が紹介された。なお、この中で、「ブラック企業」の定義等について兵庫労働局も、川村氏のような見解に立っていることが挙げられていた。ついで、いのちと健康・兵庫センターからは「職場上司によるパワハラ うつ発症し休職中」の事例が、兵庫労連・神戸地域労組からは「アテック事件」の詳細が報告された。最後に、本上弁護士から、昨年のブラック企業選考にエントリーした「東急ハンズ」過労死事件の経緯及び神戸地裁判決の説明がなされた。
時間が若干足りなかったが、有意義な研修会となった。
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