《第555号あらまし》
 JAL不当解雇撤回訴訟
     控訴審も不当判決!
 追い詰められる、大阪・橋下市長
     ~中労委が思想調査アンケートを不当労働行為として断罪、確定


JAL不当解雇撤回訴訟
控訴審も不当判決!


弁護士 八木和也 弁護士 今西雄介 弁護士 杉野直子 弁護士 園田洋輔 弁護士 田中勇輝 弁護士 大田悠記


私達は,日本航空(JAL)不当解雇撤回訴訟の解雇の経緯や判決内容の不合理性について,広く知ってもらう必要があると思い,勉強会を開催し,裁判傍聴を行う,兵庫県内で支援共闘集会等などに応援に行くなどの活動を行っています。

今回、平成26年6月3日に客室乗務員に関する判決、同年6月5日にパイロットに関する判決が、ともに東京高裁で出されましたので、その内容を報告いたします。


1 事案の概要

JALは,平成22年1月19日に東京地裁にて会社更生手続きが開始され,片山英司弁護士と株式会社企業再生支援機構が更生管財人に選任され,平成23年3月28日に更生手続きが終結した。

平成22年1月21日の労組に対する管財人説明会では,早期退職や一時帰休などによって,人件費を削減し,いきなり整理解雇するというようなことをしないと明言していた。しかし,同年9月27日に突如として,各労組に対し整理解雇の人選基準案が発表された。希望退職制度には一定年齢以上という制限があり,希望退職対象者の年齢基準を下げておれば,希望退職応募者により人員削減目標の達成は容易であったにもかかわらず,更生会社は希望退職対象者の年齢基準を引き下げることはなかった。すなわち,労組の中心メンバーがベテランに集中していたために,更生計画を機に組合の弱体化を図るためであると思われる(客室乗務員の整理解雇人員84人のうち,71人がCCU(客室乗務員の組合:日本航空キャビンクルーユニオン)の組合員)。

そして,同年9月28日より,解雇人選基準案に該当の者に対し,順次退職勧奨の面談が実行され,対象者には自宅待機命令(白紙のスケジュール表)が下され(乗務外し),希望退職を強要した。当初約束していたワークシェアなどの解雇回避措置をとることはなかった。

CCUは,同年11月,争議権確立の一般投票に入ったが,管財人代理は,争議権が確立した場合には出資が受けられなくなって,認可決定が出なくなり,破綻の恐れがあるなどと発言をして,争議権確立に不当介入するなどした。

そして,本件更生の人員削減の目標達成時期は平成23年3月31日であったにもかかわらず,同日では,余裕をもって人員削減目標を超過達成してしまうためか,計画よりも3か月前倒しの平成22年12月31日に客室乗務員84名とパイロット81名に対する解雇を強行した(現実に平成23年1月から3月までの間に200名以上の客室乗務員が退職をした)。


2 原告側の主張と判決の内容

(1)原告側の主張

原告団と弁護団は,本件解雇が無効である理由として,①整理解雇の4要素のうち,特に解雇の必要性がなかったこと(解雇の時点で,会社の人員削減目標は既に超過達成されていて,解雇の必要性がなかった事実)と②解雇に至るまでの会社の信義則違反・不当労働行為の連鎖について,強調した。

解雇前,解雇時,裁判を通じて,会社側は削減目標が未達であった人員について整理解雇をしたと主張をするのみで,解雇時点(平成22年12月末日)で人員削減目標を達成していたことについては,一切具体的に数字(解雇時点の在籍数)を明らかにすることはなく,現在に至るまで秘匿したままである。控訴審において,原告団・弁護団が平成23年1月1日時点の総在籍者数をもとに,解雇時(平成22年12月31日)の想定有効配置稼働数を算定し,その数が必要稼働数を下回っていること(会社の主張は,有効配置稼働数のうち,必要稼働数を上回る人員を削減するという主張)を主張・立証したが,それでもなお,会社側はそれについて反証することはなかった。

また,会社は解雇当時,史上最高の営業利益を挙げていて,165名の解雇によるコスト削減は当時の年間営業費用の僅か0.13%に過ぎないものであることも明らかとなった。

さらに,原告団・弁護団は,①更生手続き開始当初,管財人が,ワークシェアなど雇用継続のための解雇回避措置を各労組に約束しながら,会社は後にその約束を破って乗務外しの圧力下の「希望」退職強要に終始し,肝心の解雇回避努力を一切放棄したこと,②解雇の人選基準も,労組の中心メンバーの狙い撃ちであることや,③争議権確立投票に不法介入や,④解雇時点の在籍者数(削減目標を超過達成していた筈)を隠蔽したままの解雇を強行などの信義則違反・不当労働行為は,これに先立つ過去何十年にわたる会社の一貫した労組分裂・差別政策と一体であることも併せて主張した。

(2)判決の内容

東京地裁も東京高裁も,更生手続下で更生管財人がした整理解雇についても労働契約法16条が適用されるものと解され,整理解雇が同条にいう解雇の「権利を濫用したもの」に当たるか否かを判断するについては,いわゆる整理解雇法理も適用されるものと解するのが相当と判断した。

しかし,「管財人がした本件解雇に係る人員削減実施が,被控訴人(会社)の事業を維持更生するという目的にかんがみ,本件更生計画の基礎をなす本件新事業再生計画に照らして,その内容及び時期について合理性が認められるときは更生会社である被控訴人を存続させ,これを合理的に運営する上でやむを得ないものとしてその人員削減の必要性が認められるというべきである」

「平成22年1月19日に本件会社更生手続が開始されると同時に機構の支援決定を受けるに至っており,このような経緯を踏まえて作成された本件更生計画の骨子は,株主に100%減資,債権者に約5000億円の債務免除をそれぞれ求め,機構から約3500億円の出資を受けるという内容であって,株主や債権者に巨額の損失を強いたばかりではなく,巨額の公的資金まで投入されて,破綻状態にある被控訴人を更生会社として存続させることが図られるものであって,債権者の同意を得て本件更生計画案が可決され,巨額の公的資金の投入が許容されるためには,更生会社である被控訴人が,現在破綻状態にあるにもかかわらず,将来にわたって公共交通機関として,航空事業を安定的・持続的に維持・運営することができる業務体制が確立される確実な見込があることが本件更生計画案の可決を左右する債権者ら,公的資金投入を左右する国民の多数から理解を得るために必要不可欠であって,そのためには,更生会社の事業規模を大幅に縮小し,これに応じて,上記判示の人員作成施策を実施することを内容とする本件新事業再生計画及びこれを基礎として上記人員削減施策を織り込んだ本件更生計画案を作成して,これを遂行することが必要不可欠であったと認められる」(以上,客室乗務員判決から引用。太字・下線は筆者による。)

として,必要稼働数を上回る有効配置数の人員を削減することについて必要性があり,解雇の内容も解雇の時期についても,管財人の判断には合理性があるとした。

しかし,解雇時点(平成22年12月31日)に,管財人の主張する人員削減目標が達成されたかどうかについて,裁判所は全く検証することはなく,むしろ,原告団・弁護団の人員削減目標が超過達成していたという主張・立証について,その内容の正確性に疑問があるなどと判断した。


3 まとめ

このとおり,判決は,更生手続下で更生管財人がした整理解雇についても整理解雇法理が適用されるとしつつも,会社更生手続下での整理解雇においては,整理解雇法理を形骸化させ,整理解雇法理とは無関係である債権者や株主,ひいては国民の利益までを比較衡量の対象にし,「更生計画ありき、よって解雇有効」という論理によって,無条件に解雇の有効性を正当化しています。

そもそも,165名の解雇によるコスト削減は当時の年間営業費用の僅か0.13%に過ぎないにもかかわらず,債権者が,解雇人員の数についてまで介入するのかどうかも疑問ですし,165名の解雇をしなければ,JALが航空事業を運営・維持できなかったどうかも大きな疑問です(その後,JALは人員不足により,多くの人員を採用しています)。

ましてや,裁判所の主張するとおり,更生計画の合理性を前提にしたとしても,解雇時点で解雇削減目標に達しているかどうかは,人員削減の必要性(解雇の有効性)にとって,最も重要な要素であるにもかかわらず,何も検証しないというのは,裁判所はその役割を放棄したと言わざるを得ません。

現在,客室乗務員・パイロットもともに,上告をしています。このような判決が前例となってしまうと,会社更生手続下の整理解雇においては,会社更生手続の開始決定さえされれば,無条件に解雇可能ということになってしまいます。

私達は,このような不合理な判断が前例となることのないよう,今後もJAL不当解雇撤回訴訟を支援していきます。

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追い詰められる、大阪・橋下市長
~中労委が思想調査アンケートを不当労働行為として断罪、確定


弁護士 萩田 満


1 大阪・橋下市長が 不当労働行為を謝罪

本年6月27日、中央労働委員会は、橋下市長が2012年に行った「思想調査アンケート」が不当労働行為に当たると断罪する命令を発しました。これは、2013年3月に大阪府労働委員会の命令に引き続くものです。橋下氏は、中労委の命令に対して訴訟をして争う意向を示していましたが、大阪市議会で訴訟提起の議案が否決されたため、中労委の命令は確定しました。その結果、橋下市長は8月6日、再発防止の誓約書を労働組合(大阪市労働組合連合会(市労連,自治労))側に手渡し「大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」と謝罪した様子がマスコミ報道されました。

ことの経緯は、大阪市長となったばかりの橋下市長が、市職員に対し,政治活動や組合活動あるいはそれらについての考え方について,「真実を記入して回答する」ことを職務として強制する質問用紙を配布したというものです。質問内容は、「あなたは,自分の納めた組合費がどのように使われているか,ご存じですか。」などの明らかな労働組合への支配介入(憲法28条違反)、「あなたは,この2年間,特定の政治家を応援する活動に参加したことがありますか。」などの思想・良心の自由(憲法19条)侵害という、異常なものでした。しかも、その質問用紙には橋下市長の署名入りで「このアンケート調査は,任意の調査ではありません。市長の業務命令として,全職員に,真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。」という、懲戒権を背景にした明確な踏み絵=思想調査でした。

この調査命令には、市職員だけでなく、弁護士会、法律家団体、労働組合などから広範囲に批判が集中し、大阪府労委は本件調査の続行を差し控えるようにとの実効確保の措置勧告を行うという異例の事態となり、最終的には調査は実施されたもの未集計のまま廃棄されたという。

当時の橋下市長は、日の出の勢いで、「独裁」宣言よろしく公務員攻撃・労働組合攻撃をすればするほど世論や特にマスコミの喝采を浴びるという状況でした。選挙で自らを支持しなかったことを街頭インタビューで話した市職員に反省文を書かせ、冒頭の思想調査アンケートを実施し、庁舎内での組合活動を一切認めず組合事務所の使用を不許可とし、「労使関係条例」を制定して管理運営事項に関する職員組合との団体交渉を拒否することを制度化し、公務員であっても認められる程度の政治活動さえ「政治活動制限条例」によって禁止する、……

そうした苦しい情勢の中、大阪市の労働組合は、市労連が頭書の不当労働行為救済申立を行い、大阪市役所労働組合(大阪市労組、自治労連)は民事訴訟を提起しました。こうした、組織の違いを超えて、それぞれが橋下市長の独裁に対して立ち上がり、そうした努力が今回、中労委命令の確定・謝罪という成果に結びついたのです。なお、組合事務所立ち退き問題等でも大阪府労働委員会の救済命令が発令されています。「思想調査アンケート」の民事訴訟のほうは次回10月の期日に証人尋問予定となっており山場を迎えており、橋下氏を次々に追い詰めているといった状況です。

まずは、こうした闘争に立ち上がった関係者の方に敬意を表したいと思います。


2 中労委命令の概要

さて、橋下市長が謝罪せざるを得ない状況に追い込まれた中労委命令は、(1)実施方法について(ア)懲戒処分を伴う業務命令であることを明示して、回答を強制する方法で行われたものであった上、回答者を特定できる記名式で実施された、(イ)「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動などについて次々と問題が露呈しています」というメッセージを載せて、あたかも問題が多く存在することを前提とするメッセージを発出されたことは、組合活動への参加を消極的にさせかねない、(ウ)組合活動に影響を与えることを知りながら、あえて市職員の大半を対象とする調査を実施したこと、(2)質問内容について(ア)あらゆる組合活動について回答を求め、違法、不適切な組合活動が行われていることを印象づける質問も含まれており、組合活動全般を牽制する意図を有していた、(イ)自主性に任されるべき組合内部の問題について敢えて調査しようとした、(ウ)組合が不正な人事介入を行っている・組合幹部が職場で優遇されている・組合が勤務時間中に政治活動を行っているという予断を抱いていると感じさせるような質問をした、等詳細な理由を挙げて、その支配加入の不当労働行為を断罪しています。(http://www.mhlw.go.jp/churoi/houdou/futou/dl/shiryou-26-0627-1z.pdf) 

中労委命令は、橋下市長の政治手法が、憲法違反、労組法違反であることを全面的に喝破し、その手法をことごとく断罪したものといえます。


3 公務員攻撃・労働組合攻撃とどう闘うか

さて、大阪・橋下市長の公務員攻撃、労働組合攻撃は、憲法違反・労組法違反が明確であり、労働委員会の命令等は至極当然の結果ともいえます。それにも関わらず、こうした憲法違反行為が繰り返されるわけですから、放置することはできない問題です。

民法協の総会議案書では、橋下現象について、市民の生活や雇用の不安・不満をあおりそのはけ口を公務員等に向けさせ攻撃するものである、橋下市長の姿勢は歴史が築いてきた民主主義を逆行させ破壊するものであると述べています。

こうした橋下現象を克服するためには、市民の生活や雇用の不安・不満の原因である新自由主義的な「改革」を批判的にとらえ直すとともに、官と民を分断しまた労働組合を既得権者として攻撃することがどういう結果につながるかを広く市民に問い、市民の生活、権利・自由を最優先と考える方策を実現することを粘り強く追及しなければならないのではないでしょうか。

今回の中労委命令を勝ち取るため奮闘した組合の皆さん、また、今も橋下市長の組合攻撃と訴訟内外で闘っている組合の皆さんから教訓を導くことも大切です。


4 追記

脱稿後の9月10日、組合事務所立ち退き問題について、大阪地裁は組合側の訴えを認め、組合事務所使用不許可処分の取消しと損害賠償を命じる判決を言い渡しました。報道によると、「橋下徹市長には職員の団結権を侵害する意思があり、退去を求めたのは裁量権の濫用で違法」と述べたとのことです。

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