安倍首相はその政策として「世界で一番企業が活動しやすい国にする。」,「岩盤のように固まった規制を打ち破るには,強力なドリルと強い刃が必要だ。自分はその『ドリルの刃』になる。」と発言している。自分がドリルとなって打ち破るべき岩盤規制の主要な一つとして労働法制を考えていることに疑問の余地はない。
しかし,今の労働法制は産業革命以来300年以上の歴史を経て人類の知恵として築かれてきたものであるし,我が国について言えば日本国憲法27,28条に基づくものあって,岩盤には岩盤たる重い理由がある。安倍政権が狙う労働法改悪は,目先の利益に目がくらんだ乱開発というべきものである。
安倍政権が狙う労働法改悪には,次の特徴がある。
① 経済学では破綻が明らかになっている「トリクルダウン(おこぼれ)論」を基礎にしている。
② 規制改革会議の委員(企業家)などは個別的労使関係と集団的労使関係の区別や,現行労基法における有期契約規制の内容など労働法制の現状を理解しないまま,「制度創設」を提唱するなどといった混乱を引き起こしており,厚生労働省がその動きに引きずられている。それが労働政策審議会の軽視にもつながっている。
③ 政府と派遣会社パソナグループ会長竹中平蔵など一部企業家が一体化して(政策決定過程の公正さが失われている),全てがビジネス中心の発想で,労働者は完全になめられている。
① 1995年日経連「新時代の日本的経営」の 総仕上げ
そこで計画されたⅰ 長期蓄積能力活用型,ⅱ 高度専門能力活用型,ⅲ 雇用柔軟型の区分の徹底と,ⅲの労働者層の一層の増大,普遍化,固定化を図ることが狙われている。
② 労働者分断による団結の無力化
労働法改悪によって労働者の差別化と分断を制度的に促して,労働者間の競争を激化させる。そして,労働者同士が反目し合う関係に仕向けて,団結の基礎を失わせていく。
③ 戦争が現実化する中での兵員確保
安倍政権の集団的自衛権行使容認とリンクしていることも見落としてはならない。戦争のリスクが高くなれば,自衛隊員の確保に困難を来すことは確実である。そこで固定化した大量の貧困層を形成していけば,米国のように,有利な奨学金や高給をアメにして,リスクの高い兵員の安定的な給源にすることができる。ハードルが高い徴兵制導入ではなく,経済的に志願に誘導していくという巧妙な手口であり,労働法制だけの問題ではない。
現在既に法案や骨子案の形で具体化しているものは次のとおりである。
① 労働者派遣法改正
派遣可能期間の上限をこれまでは業務ごとに判定されていたのを,人ごとの判定に変えることなどで,ある業務について派遣労働者の差し替えを行いさえすれば,その業務はずっと派遣労働者にさせておくことができるようになる。つまり,派遣はあくまで臨時的・一時的で,常用労働を派遣に置き換えることは許されないという常用代替禁止原則を放棄するもので,実質は派遣の恒久化を可能にする。上記3①ⅲの雇用柔軟型の一層の増大,普遍化,固定化を図るものである。
平成26年臨時国会では衆議院解散のため廃案となったが,再提出は確実である。
② 労働時間規制の緩和=残業代ゼロ法案(労 基法改正)
「『時間ではなく成果で評価できる仕事』に関する新たな労働時間制度」として,前に失敗したホワイトカラーエグゼンプションを再構成したものが厚生労働省による骨子案として出されている。厚労省は「高度プロフェッショナル労働制」と名付けたが,「残業代ゼロ制度」の方が分かりやすく適切だ。その対象労働者については,時間外労働や深夜・休日労働に対する割増賃金の支払義務や労働時間の管理義務がなくなるとされている。
対象を「高度の専門的知識を要する」業務などに限り(金融ディーラーやアナリスト業務など),一定の高年収層(有期契約の期間制限に関する労基法14条1項1号に基づく厚生労働省告示で年収1075万円以上とされていることの流用が予定されているらしい)について,労使委員会の4/5以上の多数決議,対象労働者の書面による同意を制度導入・適用の要件とし,4週4日以上かつ年104日以上の休日取得の義務付けなどの長時間労働防止措置が必要とされている。
しかし,経団連はこれまで年収400万円以上を主張していたし,労働者派遣法が1985年に制定されて以降規制緩和の一途をたどり実質的な派遣自由化がされてきた歴史(小さく産んで大きく育てる)を見れば,一旦労働時間規制が緩和されてしまうと,年収基準がだんだん引き下げられて適用労働者が拡大されていくことは火を見るよりも明らかだ。2014年11月1日施行の過労死防止等推進法と矛盾し,過労死促進法というべき超悪法である。
③ 裁量労働制の拡大(労基法改正)
裁量労働制は,自分の判断で専門的な仕事をする労働者の労働時間について,実労働時間にかかわらず,労使が予め合意した時間だけ働いたと見なす制度で,見なし時間を超えて働いても残業代はでない(深夜割増は必要)。現在は,「専門業務型」と「企画業務型」の2種があり,このうち「企画業務型」は,企画,立案,調査,分析の4業務とされており,厚労省告示では営業は「企画業務型」に該当しない業務とされている。
これを「法人を顧客にした企画立案型の営業職」については「企画業務型」に該当することに改めるというものであり,やはり規制緩和の拡大である。また現行では事業場ごとの労使委員会設置と労基署への届出とされているのを本社一括に手続要件も緩和するとされている。ただ働きの合法化とその導入手続の簡略化がそれらの内容である。
④ フレックスタイム制の管理の緩和(労基法改正)
現行は,1か月を清算期間として,その期間中の労働時間が平均して1日8時間,週40時間を超えない範囲で,1日,1週の労働時間を労働者が自主的に決めて働くとされている。
骨子案は,この清算期間を最大3か月に延ばすというもの。繁忙期の残業代不払いを正当化することが狙いだ。しかし,人は日々寝て,働いて,食事や家族との時間をすごしていくものであって,機械ではないから,例えば6週間は休みなしに2倍働いて,次の6週間はずっと休日にして回復するなどということはできない。
まだ具体化されていないが,ジョブ型正社員論と解雇ルールの変更も計画されている。「行き過ぎた雇用維持型の政策から労働移動支援型の政策へ」転換を図るとし,「労使双方が納得する雇用終了の在り方」を検討するとして,規制改革会議の中の雇用ワーキンググループにおいて,「勤務地・職務の限定」をした正社員制度による解雇の容易化と解雇の金銭解決制度が関連づけられながら検討されている。
平成27年通常国会に提出される可能性がある。
このページのトップへ2015年2月13日に恒例の春闘学習会が行われた。当日は,兵庫労連の春闘決起集会と重なり,出席が少ないのではないかと心配されたが,多数の会員に参加していただき活気のある学習会にすることができた。
本年は,「アベノミクスがつづくなかで労働者の生活をどうやって守っていくのか」というテーマで京都から関西勤労者教育協会副会長の中田進先生に来ていただいた。
非常に大きなテーマであるにもかかわらず,多数のデータを駆使しながら,現在労働者が置かれている状況を解明していただいた。機関銃のようにいろいろな話が飛び出して,あっという間の2時間であった。
以下に,その内容をご紹介する。
(1)かっては所得税の最高税率が75%であったのが50%に下がり,さらに40%まで下がっている。証券譲渡益には10%しか課税されない。
大企業はケイマン島などに子会社を作って税負担を逃れ(タックスヘイブン),利益を隠している。大会社は,株主に高配当,役員に高報酬を支払っている。
(2)他方,非正規労働者はこの20年で倍増し,2000万人を突破した。
民間労働者で年収200万円以下は1120万人(安倍内閣で30万人増えた)。100万円以下が421万人。非正規短期労働者の実に74%が年収200万円以下である。その上,消費税8%により生活費の負担は年額8万5000円増えている。
安倍内閣はさらに労働法の規制緩和(派遣法改悪,解雇の金銭解決制度,ホワイトカラー・エグゼンプション,限定正社員制度)を予定している。
(3)社会保障の改悪も進行している。格差拡大による生活保護受給者の増大に対してはバッシングで対抗。患者負担増,年金額削減,年金支給年齢繰り延べ介護保険改悪,介護報酬削減等々,弱者の負担が増している。
(4)学費が高騰する中,奨学資金が貸与制であるため,非正規労働者などは卒業後の支払不能に陥っている。にもかかわらず,強権的な取り立てが行われている。
(5)このように安倍内閣は大企業の利益擁護のために国民を犠牲にしていることがますます明白になっている。
2 労働組合への期待大企業は今や509兆円もの内部留保を抱えている。その2%を取り崩すだけで労働者の賃上げ2万円、時給の最賃1000円が可能になる。さらに,不払い残業を根絶し,年休の完全取得,非正規の正規化などにより国内生産は45兆8800億円増加し,GDPは4.6%伸びるという。
労働組合が大幅賃上げを勝ち取れば,景気も回復し好循環を可能にする。
(1)経済闘争だけでは不十分。政治の仕組みを変える取り組みが必要である。
昨年末の総選挙で自公は衆議院で改憲発議に必要な3分の2(317)を上回る326議席を獲得したが,参議院では3分の2に達していない。安倍首相が頼みの綱とした第3極といわれる政党が大幅に議席を減らし,次世代の党は19議席から2議席になった。
(2)社会保障を切り捨てる一方,公共事業5兆9711億円。原発立地交付金は1251億円計上し,原発の海外輸出調査費や「もんじゅ」にも196億円の予算を付けている。軍事費も4兆9801億円と,安倍首相は国民の暮らしを切り捨てる一方大軍拡路線を突っ走ろうとしている。
労働法制の改悪(派遣法,残業代ゼロ法),消費税増税など今後も国民に犠牲を強いる施策が予定されている。
(3)共産党が大幅に議席を増やし,沖縄では辺野古基地建設に反対する県知事が誕生し,同じく反対勢力が衆議院でも小選挙区を独占(これに対して,政府は沖縄振興予算を162億円減額した)するなど,国民と自公政権との矛盾が広がっている。
(4)戦後70年,あらためて平和の尊さを考える年である。
歴史認識をめぐっては,本年の8月に戦後70年「安倍談話」が出されることになっているが,過去の植民地支配と侵略を認めて謝罪した河野談話や村山談話をほんとうに継承したものになるのかが注目される。
労働条件の向上のための闘いと併行して,労働組合には政治の仕組みを変えるための闘いをしなければならない。
(1)人間らしい生活をするためには月額男性23万円,女性25万円が必要だといわれている。多数の若者が20万円に達しない低賃金に甘んじており,なかなか結婚もできない。今や日本経済は両親,祖父母が支えているといっても過言ではない。
(2)経済闘争と政治闘争を結びつけて闘うことは労働組合にしかできない。頭を使って,右手で賃上げ,左手で政治闘争をしなければならない。職場から、語りかけ,一つひとつの課題にみんなで取り組み,学習をしなければならない。
原発,沖縄など多くの人が関心を持っている。
インターネットをはじめ通信媒体を駆使し,広く若者に対して訴えよう。職場ではどんな小さな法違反も許さず,そして,小さな成果を積み重ね,それを宣伝しよう。
(3)たった一度の人生なのだから,家と職場を往復する人生ではなく,職場にもうひとつ居場所(=労働組合)を作って「明るく・楽しく」トリプル人生を生きよう。
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