《第561号あらまし》
 過労死を生むブラック企業 光通信事件
 追悼 竹嶋健治先生
 「3・6全国いっせい労働相談ホットライン」報告
 転載 アスベスト声明文
 新入会員弁護士の紹介


過労死を生むブラック企業 光通信事件

弁護士 藤原 精吾


光の反対は闇、すなわちブラック。若者がブラックホールに呑み込まれてしまった。

携帯電話販売の大手、光通信で働いていた33歳の労働者が過労死。この若さで、心臓冠動脈が75パーセントも閉塞し、心筋梗塞を起こした。この年齢では稀有のことである。

この事件は、ブラック企業で起こる過労死の典型を示している。

「ブラック企業」とは次のような特徴をもつ企業を云う。

1.長時間労働、ただ働き残業をさせる

2.大量採用、大量離職(求人広告のウソ偽り)、非正規労働者の多さ

3.パワーハラスメントがある

(「ブラック企業規制法案」要綱(2013年10月15日日本共産党国会議員団)

光通信には「上乗せ稼働」、「非稼働出勤」言葉があり、所定労働時間は9時~5時30分であるのに、役員からのメールでは、8時半より遅く出勤すると遅刻とされている。一日10時間、12時間働くのは当たり前とされ、頭痛が起こっても、午後9時まで残って仕事しないと「早退」と云われる。勿論残業時間の上限はない。昼休みはメール打ちながらコンビニ弁当を食べても1時間休憩を取ったことになる。夜は仕事にハッパをかけるための会社の「決起会」に出るのが社風となっているが、これは業務時間にはカウントされない。

新入社員の研修では富士山の麓の研修所に1週間程度缶詰状態とされ、30キロマラソンを走らされるなどするのみならず、新入社員同士を差し向かいにさせてお互いの悪い点につき罵声を浴びせあうなどの内容が課され、社員の定着率は著しく低かった。

深夜残業が続き、朝の出社が遅れた社員に対し、上司が他の社員の前で「お前は社会のゴミだ!」と罵倒したり、2004年に過労死した社員についても、亡くなる前日に具合が悪いから帰らせてほしいと訴えたにもかかわらず、上司がそれを許さず、何時間も立たせたまま罵声を浴びせ、病院に行かせず、その日の帰宅後に息を引き取ったという経過であった。

過重なノルマを設定させてその達成が不十分だと、大勢の前で罵倒する、達成状況を表にし、「降格予定者リスト」を社内メールで送信するなどして締め上げる。

「寝かせ携帯」(実際には使わないのに買ったことにする契約)問題を週刊文春(2009年6月)が報じているが、営業社員がノルマ達成に追われる結果、形だけの新規契約をとり、その料金請求が誤って客先にいくことにより客とのトラブルが発生する。とりわけ何百台も販売する大手法人とのトラブルが多い。

死亡した被災者は、会社で客からのクレーム処理を担当する課長だった。その精神的負担の強さは云うまでもない。

しかし、池袋労基署は、平成13年の脳・心疾患の業務上外認定基準を機械的に当てはめ、死亡前6ヶ月間の時間外労働が、認定基準の月80時間に達していないとして、不支給処分をした。2010年2月5日の死亡、同年8月に労災請求をして、却下、審査請求、再審査請求も2012年5月棄却され、同年9月、大阪地裁に不支給処分取消訴訟を提起した。

訴訟になってからは時間外労働が認定基準に達しないことに加えて、業務内容の精神的負荷についても全面的に争い、原告への反証として、職場の上司である部長を訴訟開始後4回にわたって聴取し、その上証人として呼び出し、却下処分を正当化するために躍起となった。

判決は、死亡から5年、2015年2月4日、5回目の命日前日に言い渡された。判決は、発病(死亡)前6ヶ月間の時間外労働が80時間を超えていないとしても、死亡前36ヶ月(3年)遡れば100時間を超えたことがしばしばあり、直近6ヶ月の労働時間や労働内容がそれまでに蓄積した疲労を回復できる状況では無かった、と認定し、心筋梗塞発症と業務による疲労との因果関係を認めた。またクレーム処理業務の精神的負担が著しかったことを認めた。被告抗弁の、被災労働者が酒好きで、喫煙をし、高脂血症だったのでそれが原因だという攻撃についても、それは心筋梗塞を起こす程度とは云えないと退けた。判決は認定基準の機械的適用を排斥し、労基署の判断を覆したのである。

この判決を不服として国(厚生労働省・池袋労基署長)は控訴し、決着は控訴審にまで持ち越された。使用者・光通信に対する安全配慮義務不履行の損害賠償を求める訴訟を2014年6月神戸地裁に提起しているので、今後事実上労基署と企業との二人三脚体制である。

この事件に勝利することは、過労死を引き起こした企業、これを容認放置した労基署の責任を追及し、過労死をなくすために必要なことである。とりわけ、無制限の時間外労働を法律で規制し、労基法の労働時間規制を守らせる運動に大きく関わっている。

控訴審と損害賠償裁判勝利に向けて遺族を支援する「光通信過労死裁判を支援する会」は、働く者の物心両面のご支援をお願いしている。

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追悼 竹嶋健治先生

弁護士 吉田 竜一


竹嶋先生が急逝されました。

まだ65歳でした。

2月18日、いつものとおり仕事をこなし、午後5時からの弁護士会議にも他の弁護士全員と一緒に出席し、何事もない1日を終えられたのに、翌19日朝、ご自宅で倒れられ、救急車で病院に搬送されたものの、2月20日にお亡くなりになられました。

突然の、あまりに突然の訃報に、姫路総合法律事務所の弁護士、事務局一同、ただ言葉を失うばかりです。いまだ事実として受け止めることができません。

竹嶋先生は、若い頃から八鹿高校事件や日新工機事件等で弁護団の中心として活動してこられました。

1990年、私が弁護士登録をしてからも、ネッスル配転事件、新日鐵広畑賃金差別訴訟等、この西播の地で起きた大型の労働事件や最近ではエコパーク網干の爆発事故で受傷された労働者の方々の代理人として起こした損害賠償事件等、多くの事件で、一緒に弁護活動をさせて頂いたのですが、事案の的確な分析のもとで、先生がたてる弁護方針の確かさに、いつも感心をさせられてきました。

弁護士として、竹嶋先生は、常に私の目標でした。

事件だけではありません。

竹嶋先生は、弁護士会、自由法曹団等を通じ、憲法、そして基本的人権を擁護するための様々な民主的活動にも積極的に取り組んでこられました。

日本評論社から発行されている「自由法曹団物語」の中にも書かれているのですが、阪神淡路大震災が発生した1995年1月17日、神戸市内が大混乱となって、自由法曹団の多くの事務所も電話やファックスが不通となっているさなか、団兵庫県支部の連絡先を姫路総合法律事務所に移して、震災発生1週間後の1月22日には、神戸市内に入り、団の各事務所に「頑張れ! 全国の団員が心配しています。自由法曹団 姫路総合」と書いた張り紙をして激励に回ったのが竹嶋先生でした。

震災発生後、まだ3週間たたない2月5日に自由法曹団が避難所となっている神戸市長田区の小学校で行った法律相談に竹嶋先生、前田先生、平田先生、私と、当時の事務所の弁護士全員で参加し、大阪、京都、岡山、広島等、他府県から駆け付けてくださった多くの団員の先生方と一緒に、小学校の教室の中で小さな机をはさんで被災者の方々の法律相談を受けたことも忘れることのできない思い出です。

また、一昨年の12月から毎月6日に姫路駅前で行っている特定秘密保護法の廃止を求め、集団的自衛権容認の閣議決定に反対する街頭宣伝活動に真っ先に駆けつけられるのも、いつも先生でした。

先生は、文字度通り、姫路総合法律事務所の大黒柱であり、弁護士、事務局一同の精神的な支えでした。

今年頂いた、先生からの年賀状には、「もう5年頑張って、あとは若手でお願いします」と書かれていました。

先生は、一番早く事務所に来て、一番遅くまで仕事をする、土曜日曜もほとんど休みなしで、事件の受任数も事務所の中で先生が間違いなく一番多かったのではないかと思いますが、先生の口から忙しいことについての愚痴を聞いたことは一度もありませんでした。

そんな先生に甘え、先生に頼り、先生を忙しくさせ続けてきたことが、先生の疲労を蓄積させてきたのではないかと、後悔の念に堪えません。

もっとゆったりとしたペースでいいから、あと10年、15年、先生と一緒に仕事がしたかった。先生から、まだ、いろいろと教えていただきたかった。

もっと一緒にお酒も飲んで、いろんな話もしたかった。

竹嶋先生、前田先生という二本の柱のうち、大きな一本の柱を失い、事務所の弁護士、事務局一同、正直、途方に暮れているところですが、こんな時こそ、弁護士、事務局が一致団結して、先生が率先して築いてきた、困っている人たち、社会的に弱者と呼ばれている人たちがいつでも気軽に利用できる事務所としての姫路総合法律事務所を守っていくことが、先生の御遺志にこたえる道だと思います。

その御遺志に答えられるよう、これまで以上に皆で力を合わせて頑張っていく決意です。

竹嶋先生のこれまでのお導きに心より感謝し、安らかに永遠の眠りにつかれる事をお祈りいたします。

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「3・6全国いっせい労働相談ホットライン」報告

兵庫県労働組合総連合 北川 伸一


ひとりじゃない、相談するという選択がある

3月6日、全国一斉で「労働相談ホットライン」を取り組みました。県内では尼崎、西芦、東播、西播、宝塚の各地域組織(労働相談所)、そして兵庫労連労働相談センターの6カ所で実施しました。

今回の取り組みは、年度末を前にして解雇や雇い止め、賃金を始めとした労働条件の一方的な切り下げが予想される中、誰にも相談できずに泣き寝入りするしかない、そんな労働者を一人でも救済できるよう計画しました。また、一人でも多くの方の相談を、と兵庫労連労働相談センターは当日、2名の相談員、役員、そして今回も兵庫民法協の先生方に協力いただき、どの時間帯でもどんな相談にも応じられる体制をとり臨みました。

アベノミクスは薔薇色?

「『どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない』という日本経済の課題を克服するため、安倍政権は、『デフレからの脱却』と『富の拡大』を目指しています。これらを実現する経済政策が、アベノミクス『3本の矢』です。すでに第1の矢と第2の矢は放たれ、アベノミクス効果もあって、株価、経済成長率、企業業績、雇用等、多くの経済指標は、著しい改善を見せています。また、アベノミクスの本丸となる『成長戦略』の施策が順次実行され、その効果も表れつつあります。 企業の業績改善は、雇用の拡大や所得の上昇につながり、さらなる消費の増加をもたらすことが期待されます。こうした『経済の好循環』を実現し、景気回復の実感を全国津々浦々に届けます」

少し長い引用になりましたが、この文章、なんだかお分かりですか?実はこれは首相官邸ホームページ(アベノミクス「三本の矢」)に記載されているものです。またこの中で”成果、続々開花中!”として、賃金引上げ−平均月額:過去15年で最高水準、夏季賞与:過去23年で最高水準、有効求人倍率−引き続き高水準(2015年1月 1.14倍)女性就業数−政権発足後、91万人増加(2015年1月 2,744万人)・・等々アベノミクスの「成果」を強調しています。

しかし、実際はどうでしょうか。賃金が増えたと言うけれど一部大企業のそれも正社員が中心。しかも「実質賃金は」19ヶ月連続減少しています。また、求人倍率や就業者数が改善したり増えたりしたと自慢。しかしその中身を見てみると、総務省の労働力調査(2015年1月30日)によると正規の職員・従業員は3287万人と,前年に比べ15万人減少(7年連続の減少)。非正規の職員・従業員は1962万人と56万人増加(5年連続の増加)中でも15~24歳の若年層は非正規が半数近くを占め、若者が正社員になりにくい状況が続いている、というのが実態です。

労働現場は「岩盤規制」どころか違法のオンパレード

安倍首相は「世界で一番企業が活動しやすい国」にするため、TPPへの参加、そして医療・介護、年金、生活保護、福祉(税と社会保障一体改革)農業などを保護するため設けられている「規制」を緩和あるいは撤廃することを公言しています。そして労働法制はその中心になっており「岩盤規制」と位置づけ、躍起となっています。しかし、それがいかに現実と乖離しているか、今回の相談の内容をいくつか紹介し検証します。


相談事例

公立中学校教員(息子さん)の家族から相談

毎朝7時過ぎに出勤、帰宅するのは24時頃がほとんどで早くて22時頃。こんな働き方を続けていると「過労死」してしまわないかと心配している。

関西で展開するチェーン店

タイムカードの改ざんが常態化(8時45分→9時等)また、会社が認めた場合「残業」がつくが、それ以外はつかない。

息子さん(金属加工業・正社員27歳)の相談

ここ1年ほど、8時に出勤し帰宅は23時頃。女性を主にパート約30名、男性4~5名。パートの人は20時までに帰るが男性は残っているよう。息子はやっと正社員になったが、このままでは体が心配。

一般社団法人で働く59歳の女性

今年1月に法人の「収支表」を見せられ(経営が大変だと)正社員から嘱託への降格を言われた。長年働き定年間際になって酷い仕打。


このように、現場は「岩盤規制」どころか、労基法など現にある法律さえ守られていない職場が多くある、というのが実態です。


今回の取り組みの概略を紹介
実施日時 2015年3月6日(金)10:00~19:00
会場 兵庫労連労働相談センター (兵庫労連事務所)
電話台数 4台(内臨時電話2台)
相談員 兵庫労連労働相談センター相談員、兵庫県民主法律協会・弁護士8名
相談件数 14件(電話12、面談2)
(内訳) 性別 男性7名、女性7名(内面談2)
年代 ~20代1名、40代3名、50代3名、60代3名、不明4名
雇用形態 正社員5名、パート・アルバイト・契約6名、派遣・請負1名、その他1名、不明1名
相談内容
(複数回答)
解雇・雇い止め2、退職強要・勧奨1、賃金・残業代未払い3、社会・雇用保険1、  労働時間・休暇2、パワハラ・セクハラ2、労災・職業病1、その他3

人間らしく働き暮らせる社会をめざして

今通常国会では、二度に亘り廃案となった労働者派遣法「改正」法案(生涯派遣)や「高度プロフェッショナル労働制」(残業代ゼロ法案)「裁量労働制度の対象拡大・手続き緩和」「フレックスタイム制度の精算期間の延長」など労働時間法制を根底から崩す法案が上程されようとしています。安倍首相、自公政権が進める「大企業だけ成長戦略」にNO!を突きつけ、労働者いじめの悪法、雇用破壊を許さない闘いを強めていきます。

「世界で一番企業が活動しやすい国」とは結局、大企業の利益のみを追求することであることは明白となっており、それに対し私たちは、人間らしく働きがいのある仕事(ディーセントワーク)の実現、まじめに働けば普通に暮らせる社会を目指して奮闘します。ナショナルセンターや立場の違いを超え、大多数の未組織労働者の皆さん、とりわけ非正規雇用労働者の皆さんと連帯・団結して地域から運動を興し、安倍暴走政治阻止の運動につなげていきたいと思っています。同時に、企業の無法に対して誰にも相談できずに悩んでおられる方、「今、目の前で困っている労働者」に寄り添い問題解決を一緒に進めていくため「労働相談活動」の充実にも努めていきます。そして、「組合に入って一緒にガンバロウ」の声を広げていきます。

*今回も兵庫民法協の先生方に全面協力をしていただきました。紙面をお借りしお礼を申し上げます。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

協力いただいた兵庫民法協の先生方*敬称略

増田正幸(神戸あじさい法律事務所)守谷自由(神戸あじさい法律事務所)坂本知可(神戸あじさい法律事務所)本上博丈(中神戸法律事務所)吉田維一(神戸合同法律事務所)大田悠記(神戸合同法律事務所)八木和也(中神戸法律事務所)西田雅年(中神戸法律事務所)

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転載 アスベスト声明文


アスベストによって、クボタ工場周辺の住民が中皮腫になって死亡した事件で、周辺住民がクボタと国を訴えていた訴訟について最高裁の判断が示されました。以下は弁護団の声明文です。

     
 転載
声  明  文   

          2015年2月19日
          尼崎アスベスト訴訟弁護団      
          アスベスト被害からいのちと健康を守る尼崎の会  
 
 最高裁判所第三小法廷は、平成27年2月17日付けで一審原告及び一審被告クボタからの上告受理申立に対し、不受理と決定し、あわせて一審被告クボタからの上告を棄却した。
 
 これにより、平成26年3月6日付けで言い渡された大阪高等裁判所の判決が確定し、一審原告山内との関係でクボタの加害責任が確定するとともに、一審原告保井との関係でクボタの責任が否定され、一審原告双方との関係で、国の責任が否定された。
 
  クボタは、2005年6月のクボタショック以降、旧神崎工場周辺でアスベスト関連疾患が多発したことと自らが使用し続けてきたアスベストとの因果関係は明らかでないとして、法的責任を否定し続けてきた。しかし本最高裁決定によって、上記大阪高裁判決が確定することとなり、その結果、クボタはその利潤行為のためにアスベストを旧神崎工場周辺に飛散させ、かつそのアスベストが同工場周辺住民に中皮腫など死に至る深刻な健康被害をもたらしていたことが法的に確定することとなった。
 
 クボタは今回の決定をすみやかに受け入れ、同工場周辺住民らへ法的責任を認めて公式に謝罪し、クボタの上から目線も甚だしい「救済金制度」を、加害責任を前提とした賠償金制度へと改めることをここに求める。
 
 もっとも、上記大阪高裁判決はクボタの法的責任範囲を旧神崎工場から300m以内の地域に限定しており、最高裁はこの点の是正を求めた一審原告保井の上告受理申立を受理しなかった。  旧神崎工場周辺における住民の被害は、現在でも増加の一途をたどっており、その被害の範囲は優に1500mに及んでいる。上記最高裁決定は、この歴然とした事実を無視するもので不当であり、弁護団及び「アスベスト被害からいのちと健康を守る尼崎の会」としては到底受け入れることはできない。
 
 また、本決定は国との関係において、一審原告らの上告受理申立を認めず、国の責任を否定した上記大阪高裁判決を是認した。
 
 昨年10月9日、最高裁判所第一小法廷は、いわゆる大阪泉南アスベスト訴訟において、一定の範囲で石綿労働者に対する国の法的責任を認めたものの、他方では、工場近隣で曝露した被害者に対する国の法的責任を否定した同訴訟一陣大阪高裁判決を是認していた。
 
 本決定は、この最高裁判断を踏襲するものであるが、国は、1989年の大気汚染防止法改正に至るまで、工場周辺住民を健康被害から守るための飛散防止規制を怠り続けていた。1960年代後半には公害問題への国の対応の遅れを反省して公害対策基本法等が立法化され、1972年にはIARC(国際がん研究機関)がアスベストによる工場周辺住民への深刻な健康被害を指摘していたことからすれば、国が飛散規制を行う以外にはその生命・健康を保護することができなかった石綿工場周辺住民を守るためには、遅くとも1972年ころまでには国が飛散規制措置を講じるべきであったことは明らかであり、15年以上もその規制措置を遅らせた国の怠慢は明々白々である。もとより、工場の塀の中か外かで国の責任を区別し、命の重さに格差を設けること自体明らかに不合理である。当弁護団及び「会」は、国が1989年までおよそ何の規制措置も執っていなかったという石綿公害問題の最大の特徴を不問に付した裁判所の判断を受け入れることは到底できないし、その誤りがいずれは明らかになるものと確信する。  
 
 アスベストの被害は決して過去の問題ではなく、今なお中皮腫等の健康被害は拡大しており、最高裁が示した一連の判断では国の責任範囲が不十分であることは明らかである。当弁護団、「会」としては、引き続き個々のアスベスト被害者の救済に鋭意取り組み、国・企業の法的責任の範囲拡大を目指し、活動を続ける所存である。 
   

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新入会員弁護士の紹介

豊岡合同法律事務所 弁護士 與語 信也

本年1月より豊岡合同法律事務所で弁護士をしております、67期の與語信也と申します。

與語の名字の由来は愛知県だそうですが、出身は大阪です。但馬地域には地縁等はありませんが、地域社会に頼られる弁護士になりたいという思いで勉強してきた私にとっては、豊岡合同法律事務所は私の思いと一致する事務所であり、素晴らしいスタートが切れたと感じています。

私は、大学で環境科学部に所属しており、その頃から環境問題に興味を持ってきました。法律の勉強を始めたのもそれが大きなきっかけとなっています。環境に関わる争訟は、かつての公害問題から現在では景観や地球環境まで幅広いですが、常に人権侵害が潜んでいます。私は、きっかけこそ環境問題でしたが、勉強をしているうちに、弁護士の存在意義は人権侵害と闘うことだと思うようになりました。

民法協は人権侵害と闘い続けて来た長い歴史があり、それはある意味で弁護士の存在意義そのものであると感じています。そのような団体に所属し歴史を学びこれからの活動に参加することで弁護士として修練を積んでいきたいと思います。

未熟かつ遠方であり、様々なご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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