本年の記念講演は全労働省労働組合兵庫支部から「労働基準行政への取り組み」と題して,労働基準監督官(以下「監督官」という)の業務とその実情についてお話しをいただいた。
監督官の業務というと私たちにはまず労基法違反の是正指導ということが頭に浮かぶが,実際にはその業務は多岐にわたっている。
(1)監督・調査業務① 監督官の主要な業務はもちろん労基法や労働安全衛生法(以下「労安法」という)の違反に対する監督である。
監督業務といっても,さまざまなことを契機にして事業場に立ち入りを行っている。過去の監督指導結果、各種の情報、労働災害報告などである。毎年度、年間計画を立て,対象事業場を訪問して,関係者から聴き取りをしたり資料を提出させて違反がないかどうかを調査し,法違反が認められた場合は是正勧告書を交付している。
事前の予告なしに訪問するので,会社と衝突することもしばしばあるが,8割近くに法違反が見つかっている。安全装置のない機械を使用していたり,アスベストを使用している現場で養生不十分であったり,高所作業で墜落防止措置が不十分である場合などは是正勧告を行い、是正されるまで機械の使用を禁止したり現場への立入の禁止を命ずることもある。
是正勧告をした場合は実際に違反の是正がなされた旨の資料(報告書や写真)を提出させて確認するほか,法違反が重大な場合は再度監督を実施して是正状態を確認する場合もある。
② 労働者や労働者の家族等からの情報提供にもとづいて監督官が事業場に赴く場合がある。申告する場合は、申告時に本人が事実関係を明確に申し立てることが望ましい。
③ 労働災害が発生したときはその発生状況や発生原因を調査するために監督が行われる。ただし,被災者が死亡したり,重大な災害の場合には詳細に調査が行われ,法違反がある場合には刑事事件として司法処分をおこなうこともある。(監督官は労基法や労安法に定める罰則に違反している場合には警察官と同様に逮捕したり,証拠を押収したり,取り調べを行う権限を有する)。
④ 平成26年における兵庫労働局管内の監督実施件数は4763件,実にその78.3%(3729件)に法違反があった。
また、平成26年には、48件が刑事事件として送検されている。
実際には労基法違反より(生命身体の安全に直結する)労安法違反で送検することが多い。
(2)許認可業務労基法20条3項は「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に,行政官庁が「労働者の責めに帰すべき事由」に基づくことを認定(解雇予告除外認定)した場合には解雇予告を要しない旨定めている。
最低賃金法7条は,障害により著しく労働能力低い者,試用期間中の者,軽易な業務に従事する者などについて,使用者が労働局長の許可を受けた場合には最低賃金を許可の範囲まで減額することを許容している(最低賃金減額特例許可)。
労基法41条3号は監視または断続的労働については使用者が行政官庁の許可を受けた場合には労働時間,休憩,休日に関する労基法の規定の適用除外を受けることができる(断続的労働・宿日直許可)。
これらの認定や許可の業務はいずれも申請から2週間が標準処理期間であるため、最優先で処理される。
監督官は「労働者の責めに帰すべき事由」の有無,「著しく労働能力が低い」か否か,「監視または断続的労働」か否かを調査しなければならない。
(3)未払賃金立替払業務事業場が閉鎖したり,倒産した場合に労働者の未払賃金を国が立て替えて支払う。
事業場が破産した場合には要件を充たすことは明らかだが,事実上の倒産の場合に資産を調査して事業場に未払賃金の支払能力が欠けるか否かの調査をする。未払賃金の金額も調査し確認する。
(4)相談業務労基法,労安法,最賃法に関するものは監督官が応対する。
労災保険に関するものは労災課,労働者派遣法違反は労働局需給調整事業課,男女雇用機会均等法,育児介護休業法,パート労働法に関するものは労働局雇用均等室,雇用保険や求人・求職に関するものはハローワーク,パワハラは労働局企画室ないし監督署の総合労働相談コーナーと相談の内容によって窓口が異なる。
解雇の正当性など労働契約法をめぐるトラブルについては,監督官の権限発動はできず、主に総合労働相談コーナーで相談員が対応する。
労働基準監督官は全国で約4000名,兵庫県内には兵庫労働局と11ヶ所の労働基準監督署があり,100名強の監督官が配置されている。その中には、管理職員や他の業務に就く者も含まれているため、実際の監督業務に就くものは,もっともっと少なくなる。
前記のとおり,事業場に赴いて監督を実施すれば8割の事業場で違反が見つかるが,監督官が少ない上に監督業務以外の業務の負担も大きいので,年間に監督を実施できる事業場に限りがあり,結果として労基法や労安法違反への対応が追い付かない。
「ブラック企業」など法違反が蔓延していることが話題になり,近時厚労省は監督官の採用を増やしているが,技官や事務官の採用を減らしているので,監督業務の強化には繋がっていない。全国的にハローワークも含めた労働行政職員は、政府の定員削減計画によって年々減らされている。とくに兵庫では定員が大幅に削減されているが、大幅な増員が必要であり、今の10倍の人数でもおかしくない。
お話を聞いて,そういえば監督官はこんな仕事もしてたのだなあということに気づき,監督官がいかに仕事に追われているのかがよくわかった。監督官が労基法や労安法違反の是正に真面目に取り組み,多くの事業場で違反を是正させているということもよくわかったが,事業場の数に比べて監督官の数が少なすぎて,成果が市民の目に見えていない。講演でも言われたように兵庫の監督官が10倍になれば,もう少し監督官の活躍が見えるようになるのだろうと思う。
また,今後,労基法が改悪され,高度プロフェッショナル制度が導入されると,賃金の未払いを申告した労働者が同制度の対象となるか否かの調査をしなければならなくなり,かりに同制度の対象とすべきでないということになっても,実際の労働時間の把握が非常に難しくなり監督が困難になるという指摘は重要である。監督官が根拠とする法規制が緩和されてしまったら監督官の権限も役に立たなくなってしまう。
総会決議 1 |
|
涯ハケンの強要,正社員ゼロ,派遣労働者の首切り自由をもたらす派遣法改悪に反対する決議 | |
衆参厚生労働委員会委員 各位 | |
2015年7月4日 兵庫県民主法律協会 第53回定時総会 |
|
「正社員ゼロ」「生涯ハケン」をねらう労働者派遣法「改正」案の採決が,6月19日,衆議院厚生労働委員会と同本会議で相次いで強行され,自民,公明両党などの賛成多数で可決された。維新の党は,派遣法改悪案には反対したが,実効性のない「同一労働同一賃金推進法案」と引き換えに採決に手を貸した。 労働者派遣法「改正」案は,派遣は一時的・臨時的業務に限られるという原則を実質的に放棄し,労働者派遣を無期限に使用できるようにするもので,派遣労働制度を根底から変更する。つまり,業務ごとの派遣期間制限を廃止し,現行法の直接雇用申込みみなし規定を縮小,廃止し,労働組合の意見を聞きさえすれば期間制限なく派遣受入可能にするというのだから,「改正」法案が常用代替防止原則と「派遣は臨時的・一時的業務に限る」との原則を廃棄するものであることは明白である。 そして企業が派遣労働者を受け入れることができる制限について,これまで例外としてきた専門業務の区別もなくし,企業は派遣労働者の入れ替えさえすればどの業種でも何年でも派遣労働者を受け入れられるようにするものであり,「正社員ゼロ」の事態が一気に進むのは明らかである。 また,派遣労働者個人に対する期間制限を守るという名目で派遣先による労働者の選別が行われ,派遣先による実質的な事前面接という派遣法違反の行為を生み出す欠陥法案でもある。 以上のように「改正」案は,企業が,派遣労働者を入れ替えれば永久に派遣労働を使い続けられるようにするものであり,「常用代替の禁止」という大原則を根底から崩し,これまでの派遣法改悪の中でも文字通り歴史的な大改悪である。 2008年11月のリーマン・ショックでは大量の「派遣切り」が行われたが,今回の改悪が実施されれば大規模な派遣切りが行われることは想像に難くない。労働者の安定した雇用という願いと人間らしく生きる権利を踏みにじり,究極の不安定雇用を広げることは許されない。 本派遣法「改正」案に断固反対する。 |
総会決議 2 |
|
労働時間規制の体系を崩壊させる労働基準法「改正」案に反対する決議 | |
衆参厚生労働委員会委員 各位 | |
2015年7月4日 兵庫県民主法律協会 第53回定時総会 |
|
政府は,労働時間規制の全面的な適用除外制度(高度プロフェッショナル制度)の創設,及び企画業務型裁量労働制の見直しを含む労働基準法等の改正法案を今国会に上程している。 1.まず高度プロフェッショナル制度については,政府は「時間ではなく成果に応じて賃金 を支払うもの」だと説明している。しかし「改正」案の労基法第41条の2は,「労働時間等に関する規定の適用除外」との表題が付され,その名のとおり,制度内容も労働時間 規制の適用除外が設けられているだけで,使用者に対して何らかの成果型賃金を義務付ける規定もなければ,それを促すような規定すら含まれていない。 そして「改正」案では労働時間規制が全面的に排除され,事業主は時間外労働に対する 割増賃金を支払う必要がなくなるから,現状でも長時間労働が蔓延し,過労死及び過労自死が後を絶たない深刻な状況にある中で,長時間労働に対する歯止めがなくなり,更なる長時間労働を助長する結果になることは必至である。 法案では職種を限定し年収1075万円以上などとしているが,制度が導入されればどこまでも広がる危険は明らかである。現に,塩崎厚労相は,「残業代ゼロ」制度である「高度プロフェッショナル制度」を「とりあえず通すことだ」と述べるとともに,「小さく産んで大きく育てる」という目的をあけすけに語っている(4月20日に日本経済研究センターの会合)。 2.企画業務型裁量労働制の対象業務拡大については,その対象業務を限定する実効性はないうえに,労働の量や期限は使用者によって決定されるため,命じられた労働が過大である場合,労働者は事実上長時間労働を強いられ,しかも労働時間に見合った賃金は請求できないということになるから,やはり歯止めのない長時間労働を生じさせることが明らかである。 3. 8時間労働制は,1日を三分して,8時間働き,8時間休息(睡眠)をとり,そして8時間の自由時間を享受するという人間として重要な原則である。ヨーロッパやアメリカの労働運動は,長年の血のにじむような努力の結果,8時間労働制を獲得してきた。現在,EUでは残業を含めて週48時間が最高限度になっている。 これに対し我が国では,かねて長時間労働が蔓延し,家庭責任を全うすることを困難にするばかりか,過労死,過労自死という社会問題まで生じており,今,必要なのは,いかにして長時間労働に歯止めをかけ,8時間労働制を現実のものとするかである。本「改正」案は,この課題に逆行している。 労働時間法制の大系を根本的に覆す,労働基準法「改正」案に断固反対する。 |
総会決議 3 |
|
違憲の「戦争法案」の即時廃案を求める決議 | |
我が国及び国際社会の 平和安全法制に関する特別委員会委員 各位 |
|
2015年7月4日 兵庫県民主法律協会 第53回定時総会 |
|
来る8月15日に,アジア太平洋戦争終結から70年を迎える。 我が国は,アジアと日本国民に甚大な被害を及ぼしたことを反省し,憲法前文に「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」決意を明記し,憲法9条で戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認をうたい,戦争を起こすことができない国を作り上げてきた。 その間,日本国民は一度も戦争を行わず,戦争で一人も殺さず,一人も殺されることはなく,そのことは世界に広く知られ,平和国家として一定の評価を得るに至った。 しかし,安倍内閣は,これまで政府見解でも違憲としてきた集団的自衛権の行使に関する憲法解釈をねじ曲げ,憲法違反の「戦争法案」を今国会で成立させようと企てている。 安倍政権が進める「戦争法案」の中身は,アメリカなどが始めた戦争に自衛隊が「後方支援」の名で弾薬の補給や武器の輸送まで行うことを認め,とりわけ日本が攻撃されてもいないのに海外で武力を行使する集団的自衛権の行使は,歴代政府でさえ憲法上許されないとしてきたものである。 安倍政権が突如として憲法解釈を変え,集団的自衛権行使を認めたのは,まさに,憲法に対する“クーデター”そのものである。衆院憲法審査会では与党推薦の参考人さえ「集団的自衛権が許されるという点は憲法違反」だと批判し,「戦争法案」の違憲性を浮き彫りにした。 また,我が国に対する武力攻撃がなくても,政府が「存立危機事態」と判断すれば,集団的自衛権に基づいて他国とともに武力を行使すること,政府が「重要影響事態」や「国際平和共同対処事態」と判断したときに,武力の行使を行う外国軍隊への支援活動を戦闘行為の現場以外の場所で行えるようにすることは,これまでなかった海外での武力行使に至る危険性が一気に高まる。 そして,国際平和協力業務の安全確保業務や駆け付け警護,在外邦人の救出活動で「自己保存のための武器使用」という限定を外し「任務遂行のための武器使用」を可能にすることも,不可避的に武力行使に転化し,要は,我が国が平和国家から殺し殺される国に転落することである。 安倍政権は,国会の会期を9月まで大幅に延長し,「戦争法案」の成立に並々ならぬ執念を持っている。 しかし,憲法は公務員などの憲法尊重擁護義務(99条)を定め,憲法に反する法律は「その効力を有しない」(98条)としており,憲法に違反した「戦争法案」の強行自体,憲法にもとづく立憲主義に反するものである。 世論も8割が,今国会での法案成立には反対である(時事通信調査)。憲法研究者はその85.2%が「戦争法案」を違憲とし,12.7%が違憲の疑いがあると回答した(報道ステーションアンケート)。 日弁連は6月18日の理事会で,安全保障関連法案は「違憲」だとして,意見書を取りまとめたが,全国52の弁護士会の会長を含む役員85人の全会一致で法制定に反対した。 「流れ」は変わりつつある。反対の世論をできるだけ持続させ,盛り上げることが強行採決に対する最大の抑止力である。 我が国を“殺し,殺される国”に転落させてはならない。 「戦争法案」の即時廃案を断固求める。 |
弁護士会主催の6.21大集会&パレードに多数ご参加、ご協力をいただきまして、誠にありがとうございました。
ご承知のとおり、当日は主催者の予想を遙かに上回る9000人にものぼる市民に参加いただきました。
当日の東遊園地(神戸市中央区)は「集団的自衛権反対、秘密保護法反対」の1点でまとまった市民によって埋め尽くされ、多くの人が公園から溢れていました。
参加者は、各種の団体メンバーにとどまらず、子連れ、家族連れの個人参加も相当な割合を占めており、運動の広がりを実感いたしました。
集会では、弁護士によるリレートークが行われましたが、伊藤真弁護士による「最高裁判所は憲法の番人ではない。最高裁判所裁判官を罷免できる国民こそが憲法の番人である」との発言は、私たちの運動に確信をもたらすものであり、歴史的な名フレーズと言っても過言ではないと思います。
集会後のパレードは3つに分かれて行われましたが、市民の列は延々と続き、すべてのグループの行進が終了するまでには1時間以上もの時間を要しました。
「違憲の法律作るって?」「それ本気で言ってんのー」の掛け合いコールは、賛否が分かれましたが、幅広い市民の参加を目指した弁護士会パレードの掛け声として考え出されたものであり、さらに試行錯誤を続けていきたいと思います。
サンテレビや神戸新聞など地元メディアでは集会の様子が大きくとりあげられ、兵庫県から安倍政権に対する抗議の声をしっかりと伝えることができたのではないかと考えております。
ひとえに、皆様方からの物心ともどものご支援、ご協力の賜物かと存じます。本当にありがとうございました。
いよいよ安保法制の審議が山場を迎えつつあります。この間の運動を通じ、安保法制は憲法違反の法律であるということが国民に広く浸透いたしました。
兵庫県弁護士会では、引き続き安保法制を廃案に追い込むための運動を続けていく所存です。引き続きご協力のほどよろしくお願い致します。
このページのトップへ