《第568号あらまし》
 NHK神戸放送局事件控訴審判決
 姫路市駅前文化祭中止命令国家賠償訴訟
     -姫路市の全面謝罪により早期解決-
 改正労働者派遣法の概要
 第44期兵庫県労働委員会労働者委員の任命について


NHK神戸放送局事件控訴審判決

弁護士 瀬川 嘉章


1 事案の概要・争点

NHK神戸放送局で受信契約取次及び受信料徴収業務に従事していたFさんが、成績不良を理由に、「委託契約」を、契約期間の途中である平成24年3月1日をもって「途中解約」されたという事案です。

Fさんが労働契約法上の「労働者」であるかが最大の争点といえます。「労働者」であれば、「途中『解約』」は、「解雇」ということになり、期間途中の「解雇」に「やむを得ない事由」を要求する労働契約法17条1項が適用されることになります。


2 経過

平成24年7月3日に神戸地裁に提訴し(民事第6部に係属)(八田直子弁護士が報告・539号)、平成26年6月5日にFさんが労働者であることを肯定する勝訴判決が言い渡されました(八木和也弁護士が報告・552号)。

NHKが控訴し(控訴審係属につき羽柴修弁護士が報告・559号)、平成27年9月11日に控訴審判決(大阪高裁第3民事部)が言い渡されました。Fさんが労働者であることを否定する不当判決です。


3 労働者性の判断基準

従来から、形式上は委託契約等とされているものの企業側の指示を受け従業員(労働者)と同様な業務実態がある場合に、「労働者」といえるか否かが問題とされてきました。例えば、証券会社・生命保険の外交員,訪問販売員,電気・水道・ガス・NHKの集金員,宅急便・バイク便の配達員,雑誌の記者・編集者,報道カメラマン,デザイナー,手間請大工,ダンプトラック運転手,俳優,音楽実演家,漁船員,プログラマーなどです。

この点に関する最高裁判決はいまだありませんが、昭和60年12月19日に労働基準法研究会が発表した「労働基準法研究会報告」(以下「労基研報告」といいます)が実質的な判断基準として裁判でも概ね機能してきたといえます。労基研報告によれば、労働者であるか否かは、⑴「指揮監督下の労働」(①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③時間的・場所的拘束性、④代替性の有無)、⑵「報酬の労務対償性」を中心とし、⑶「労働者性」の判断を補強する要素(事業者性(機械、器具の負担関係等)、専属性の程度等)をも考慮して総合的に判断するとされます。


4 NHKの受信契約取次及び料金領収業務に従事する者に関する過去の裁判例

東京地裁八王子支部H14.11.18判決(NHK西東京営業センター事件)は労働者性を肯定しましたが、この控訴審である東京高裁H15.8.27判決が労働者を否定して以降、盛岡地裁H15.12.26判決(NHK盛岡放送局事件)、この控訴審である仙台高裁H16.9.29判決、千葉地裁H18.1.19判決(NHK千葉放送局事件)、この控訴審である東京高裁H18.6.27判決、前橋地裁H25.2.6判決は、いずれも労働者性を否定しました(前橋地裁の事件では労組法上の労働者性も争点となっており、判決は労組法上の労働者であることは肯定しました)。

もっとも、これらの事案は、業務の実態が本件と同じというわけではなく、ナビタン(後記)の利用や特定の日の稼働を要請するなどの点で本件の方がより指揮監督関係が強いといえます。


5 業務の実態

本件Fさんが途中「解約」された当時のNHK神戸放送局における業務の実態は次のようなものです。

・Fさんを含む地域スタッフの業務は、契約取次または料金領収。

・NHKは神戸放送局内の地域を複数に多数 に分割した上、2か月を一つの期間として(「期」と呼ばれます)、「期」ごとに各 スタッフが担当する受持地域を指定し、地域スタッフに決定権はない。

・NHKが特定のスタッフの受持地域につき、他のスタッフと競合させることは可能である。

・目標数は、NHKが一方的に決める。

・NHKは、地域スタッフに、概ね毎月1日、10日、20日ころの月3回、局まで赴むかせ業務報告をさせる(そのほか局まで赴かせない中間報告もさせる)。毎月1日には、全体会議、チーム会議といった会議へ出席させる。

・各報告日の間の10日間(「週」と呼ばれる)ごとの目標数も、それまでの達成度に応じてNHKが決める。

・NHKは、特定の期間、特定の日の稼働の有無や、稼働時間帯、稼働方法等を要請した。

・スタッフはナビタンという機器(各地域スタッフがいつどこを訪問し、その結果はどうであったかが記録される)を用い、その情報を毎晩NHKに送信しなければならない。

・NHKはナビタンから送信された情報を翌朝に把握し、契約状況を把握するほか、送信された情報を利用して計画表に沿った稼働をしていないスタッフに対し、稼働していない理由を尋ねたり、計画表通りに稼働するよう「要請」を行う(なお、目標を達成していれば基本的に「要請」はなかった)。

・Fさんの場合、概ね20日から23日稼働していた(なお、目標達成している者の中には稼働日数、稼働時間が少ない者もいた)。

・NHKは、特定の地域スタッフの成績が目標より一定程度下回ると「特別指導」として、段階的に帯同指導、立入調査、受持数削減を順次行う。NHKは、平成19年度の途中からFさんを特別指導の対象とした。 特別指導を行っても改善に至らなければ、解約に至る。

・NHKは特別指導中、Fさんに「活動内容については、目標達成に至らない要因のひとつとして総数活動の点検・訪問数が少ない事が考えられます。休日の午前中や夜間など好適時間帯での活動を加重し、目標達成に必要な稼働量確保を強く要請します。万一今期の業績が…業績水準に達しない場合は、その翌期以降、委託業務を分割して交付することを予め通知しておきます。」「目標達成に至らない要因のひとつとして好適時間帯(特に夜間時間帯)の活動が不足しています。週間の中で時間帯を変えた現場活動を強く要請します。水準に達しない場合は、その翌期以降、委託業務を分割して交付することを予め通知しておきます。」などと「強く要請」している。

・「事務費」は出来高制とされているが、単純比例計算ではなく、一定の稼働・成績があれば段階的にある程度の金額が支給された(ただし1件の実績もない場合は0)。1件の実績もとれないことはなく、地域スタッフとしては実質的には最低額が保障されているとの認識であった。

・NHKは、独自に、健康保険、労災、退職金等に相当する制度を設けていた。

・NHKは、身分証、ナビタン及び送受信機、書式、FAX機能付かばん、アタッシュケース、プリンター、名前入日付印、クレジット収納のための機器などを、貸与していた。

・就業規則はなく、再委託、兼業は契約上可能とされている。

・スタッフは事業所得として申告していた。


6 第一審判決(神戸地裁平成24年6月5日)

「労働基準法研究会報告」が示した判断基準に従って判断し、その際に、名称や名目にかかわらず実質的に検討すべきであるとした上で、NHKが業務の内容を一方的に決定したこと、受持地域を一方的に決定したこと、勤務日などについて事前に指示があり、定期的に報告させていたこと、NHKがナビタンによって稼働状況を把握していたこと、把握した稼働状況をもとに稼働について地域スタッフに助言や要請を行ったこと、特別指導を背景に要請等には相応の強制力があったこと、報酬は基本給部分があったと評価できること、などを認定又は評価し、Fさんが労働者であることを認めました。


7 控訴審判決(大阪高裁平成27年9月11日)

これに対し控訴審判決は「労働基準法研究会報告」が示した判断基準に従って判断しましたが、その際に、名称や名目にかかわらず実質的に検討すべきであるかは明示的に判断しませんでした。

その上で、地域スタッフが取次等を包括的に受託しまたNHKが特定の世帯につき個別に指示を行うことが予定されていない以上個々の具体的な業務について個別に実施できるか選択できなくとも諾否の自由がないということにはならない、地域が変更されることは契約内容となっているので諾否の自由がないということにはならない、業務日などに関する要請は特別指導があったとしても強制力があるとはいえない、ナビタンの活用も契約状況のデータを収集することを主たる目的としていた、NHKは稼働時間を定めておらず実際に各スタッフごとに区々であった、目標を達成している限りにおいてスタッフは指導を受けることはない(指導を受けるとしても、スタッフは目標の達成に努めるべきであった)、実績が0の場合には基本額が支給されないことからすれば基本給部分があるとまではいえない、再委託が自由とされていたことなどを理由に、Fさんが労働者であることを否定しました。

しかし、控訴審判決は、業務の客観的性質から当然に生じる拘束を超えてNHKがスタッフに指示を行い拘束していること、特に目標を達成しない場合には稼働日、稼働時間、稼働方法まで要請を行いこれが特別指導や解約により事実上の強制力をもっていたこと、実質的に労働の対価としての性質を有していたことを正視せずまた過小評価しており、実態を正しく評価しない誤った判断であり受け入れがたい内容です。

既に上告及び上告受理申立を行いました。

今後もご支援をお願い申し上げます。

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姫路市駅前文化祭中止命令国家賠償訴訟
-姫路市の全面謝罪により早期解決-

弁護士 吉田 竜一


1.姫路市の使用許可を得て、JR姫路駅前にある姫路市が管理する姫路駅北にぎわい交流広場で7月24日に実施していた姫路駅前文化祭と銘打った西播地域の文化団体の活動発表会を、「安倍批判がある。個人を批判している」などという理由で姫路市から途中で中止させられた兵庫労連傘下の西播労連は、8月11日、かかる中止命令が憲法21条等に違反するとして姫路市を被告とする国家賠償訴訟を提起していたが、姫路市から全面的な謝罪があったことを受け、訴訟を10月7日に指定された第1回期日前(9月30日)に取り下げた。

2.中止命令を発した直後は、姫路市の参事が、「批判的なことは全てだめ?」とのテレビのインタービューに、「そうです。好ましくないと判断します」と堂々と答える姿が映し出されるなど、姫路市は事の重大性を認識していなかったようであるが、市民からの抗議の声が姫路市に殺到したからであろう。8月4日、突然、市長は定例会見で「中止になったことは申し訳なかった」として、西播労連に謝罪する方針を明らかにした。しかし、記者会見における市長の発言は「申請目的にない行為だったが、きつい言葉遣いで注意したことや説明が不十分だったことを陳謝する」といったもので、姫路市が議員に配布した経緯を説明するペーパーにも「申請内容と、実際に行われた行事の内容が著しく異なるものと判断した」から中止を要請したと記載されるなど、そこでは、姫路市が憲法の保障する集会の自由、表現の自由を侵害するという違憲の行為を行ったという認識はまったく示されず、逆に、西播労連のやり方にも問題があったのだなどという事実を捻じ曲げた弁解がなされ、さらに市長は「不特定多数が不愉快な思いをするものは制限したい」などと、広く集会目的のための使用を認め、政治目的か否か、不愉快な思いをさせるか否かなどという理由で使用を制限していない条例、規則の見直しを始めるかのような発言までしていた。

3.このような状況下、西播労連は、本件中止命令が違憲・違法の中止命令であったことを棚上げした形だけの謝罪はいらないとの思いから、8月11日、国家賠償訴訟を神戸地裁姫路支部に提起したのであるが、提訴と合わせて、姫路市に対し、①本件中止命令が憲法違反であることを認めた上での謝罪、②姫路市及び三セクの職員らに対して憲法教育の実施等の再発防止策を講じること、③その前提として、条例、規則について、最高裁判例のもとで認められない集会の自由、表現の自由を不当に侵害するような改正は行わないこと、少なくとも姫路市の側からそのような改正案を議会に提出しないこと、④姫路駅前文化祭をやり直す機会を与えること、以上、4点についての申入れを行い、姫路市がこうした要求に真摯に対応するのであれば、訴訟を取り下げ、金銭請求も放棄する旨の申入書を送付していた。

4.提訴日が裁判所の夏休み中で、第1回期日がなかなか決まらなかったこともあって、上記申入れに対する回答もないままで、訴訟で決着を着けることを決断せざるを得ないと考えていた矢先の9月末、姫路市からの回答が送付されてきた。

その内容は、①本件中止命令を発したことで憲法21条に違反する事態が生じたが、そのような事態が生じた責任は専ら姫路市にあり、西播労連には、申請手続及び集会の内容において何らの問題はなかった、そのことについて西播労連と出演者に謝罪する、②泉佐野市民会館事件・最高裁判決が定立した基準は、公の施設等の管理運営を行う上で、非常に重要な意義を有するものであり、今後、庁内施設所管課の担当職員への徹底を図る、③参事及び市長の発言を撤回する。条例、規則について、市が好ましいか好ましくないかを判断して許可不許可を決めるような、集会の自由、表現の自由を不当に侵害する改正は行わない、そのような改正案を議会に提出することはしない、④西播労連から申請があれば、「駅前文化祭」のやり直しを許可し、使用料については、前回中止分の使用料の還付を検討する、というもので、西播労連の行った申入れにおける要望を、ほぼ全面的に、西播労連の要望どおりに受け容れるというものであった(唯一、やり直す駅前文化祭の冒頭で、担当者が会場にて謝罪することを求めた点についてのみ、口頭で「勘弁して欲しい」といわれ、これを了承した)。

5.回答は本件に対する反省と西播労連に対する誠意を感じることができるものであり、元々、金銭目的の訴訟ではなく、申入書でも西播労連の要望を受け容れるのであれば速やかに訴訟は取り下げる旨を約束していたこともあって、西播労連は、9月30日、姫路市役所内にて正式な回答書を受け取るとともに担当者からの謝罪を受けると、同日、訴訟を取り下げた。

6.本件は、単に集会を不許可にしたという事案ではなく、一旦は許可しておいた集会を、その内容に「権力批判がある」などというとんでもない理由で途中で中止させるという、まさに戦前の「弁士中止」を想起させる重大な違法性をはらんでいた事案であり、姫路市がこれを反省、謝罪したのは当然といえば当然のことである。

一方で、全国では、「政治的中立性」を盾に、さいたま市が管理する公民館で九条俳句の公民館だよりへの掲載を拒否したり、福岡市が市民団体が企画した反戦企画展の後援を拒否するなどの問題が相次いでおり、兵庫県でも神戸市は数年前から憲法記念日における九条の会などが主催する憲法集会を後援しなくなった。その根底には、姫路文化祭を中止させた職員の発想同様、「反対の意見もあるのだから、そうした意見を持っている人の感情を無視できない」という考えがあるものと思われる。

しかし、例えば福岡市では、百田尚樹の講演は後援しているようであるが、かかる対応自体矛盾であるというだけでなく、百田講演を後援して、反戦企画展を後援しないことの方が「政治的中立性」を阻害した処理であることも明らかであろう。

そもそも、「政治的中立性」は、反対の立場の集会も平等に許可する、後援することで十分に守ることができるのであるから(もちろん後援については何でも後援してよいということにはならないのであろうが)、ここで持ち出されている「政治的中立性」というのは、結局のところ、集会等を主催する人たちの思想と反対の立場の人たちの感情を害することのないように配慮しなければならないという考えに他ならない。ある意見に反対する意見もまた憲法上、保護に値することはいうまでもないものの、正当な意見に対する単なる反感、嫌悪感の類は正当な意見を制約する理由になどなり得ないことは明らかである。

憲法21条が保障する集会の自由、表現の自由は、単に国、地方公共団体に集会の自由、表現の自由を侵害してはならないということだけでなく、集会の場、表現の場を広く国民、市民に保障する責務をも課した規定である(地方自治法224条2項参照)。公の施設の不許可処分を違法と判断した上尾福祉会館使用不許可処分事件・最高裁平成8年3月15日判決が支持した、1審・浦和地裁平成3年10月11日判決は、「市民感情に対する配慮は、現実に反対の声が上がった場合、あるいは上がる蓋然性が高い場合に、市民に対し、集会の自由の重要性を説明するなどの方法によって行うべきであって、単に市民感情に反するというような漠然とした理由で使用を不許可とすることは、何事も平穏無事にしかずといういわば事なかれ主義的発想の表れであり、許されないというべきなのである」と述べている。

さいたま市、福岡市、神戸市などに見られる対応は、まさに「政治的中立性」を盾にした「憲法上、許されない事なかれ主義」であり、こうした自治体の対応は厳しく批判していかなければならない。

今後は、姫路市が本件を教訓に回答書で示した反省をきちんと実践しているのかどうかということを、西播労連や本件中止命令を問題視してくれた市民と一緒に検証をしていきたい。

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改正労働者派遣法の概要

弁護士 本上 博丈


1.はじめに

全労連,連合などの労働組合や自由法曹団はもとより,日本弁護士連合会及び各単位弁護士会も強く反対していた労働者派遣法「改正」案は,2015年9月8日に参議院厚生労働委員会で、翌9日に参議院本会議で、自民党、公明党等の賛成多数で可決され,その後9月11日、衆議院本会議で、自民党、公明党等の賛成多数で可決、成立した。「改正」法の施行日は、修正されて、2015年9月30日とされた。

「改正」法は、「派遣就労への固定化を防ぎ、正社員を希望する派遣労働者についてその道が開けるようにする」等の政府答弁に反し、派遣先にとっては正社員の派遣労働者への置き換えが法的に可能になり,派遣労働者にとっては生涯派遣を余儀なくされるものであり,派遣は一時的・臨時的業務に限られるという原則を実質的に放棄したものと言わざるを得ない。

なお労働時間規制の全面的な適用除外制度(高度プロフェッショナル制度)の創設及び企画業務型裁量労働制の見直しを含む労働基準法等の改正法案については,継続審議となった。


2.派遣期間制限の改正内容

(1) 専門26業務の例外の廃止

これまでは秘書,通訳などの専門26業務の労働者派遣には派遣期間制限がなかったが,「改正」法ではその例外が廃止され,以下の期間制限が適用されることになった。その結果,これまで専門26業務で派遣され,同一事業所の同一組織において長年にわたって派遣就労していた労働者が,「改正」法施行後,突如雇い止めされるという問題が多発することが危惧されている。

(2) 派遣先事業所単位の期間制限

派遣先の同一の事業所に対する派遣可能期間は原則として3年とされているが,制限日の1か月前までに過半数労働組合等から意見聴取しさえすれば何回でも延長できる。過半数労働組合等が期間延長に異議を述べた場合,派遣先は対応方針等を説明する義務があり,またその異議を尊重するよう努めなければならないとされているが,意見尊重はあくまで努力義務であり,最終的には派遣先事業主の判断で延長することができる。

(3) 派遣労働者個人単位の期間制限

同一の派遣労働者Aの,派遣先の同一の組織単位X(いわゆる課,グループなど)への派遣可能期間は3年が限度とされている。しかし,上記(2)の事業所単位の派遣可能期間の延長手続きを踏んでいれば,別の派遣労働者Bに変えて同一の組織単位Xで派遣を受け入れ続けることはできるし,派遣労働者Aも同一の事業所の別の組織単位Yに変えて受け入れ続けることができる。結局,組織単位Xでは3年ごとに派遣労働者を変えさえすれば,その業務を期間制限なく派遣労働者に行わせることができる,つまり,派遣による常用代替が可能になる。また派遣労働者Aは3年ごとに組織単位を転々とさせられて,生涯派遣を余儀なくされることになる。

以上のように(2)(3)とも尻抜けで,派遣労働者に利益な期間制限の意味は全くないが,次の場合などは期間制限は全くない。

① 派遣元に無期雇用されている派遣労働者を派遣する場合

② 60歳以上の派遣労働者を派遣する場合

③ 産前産後休業,育児休業,介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合


3.労働契約申込み見なし制度の概要

(1) 業務単位の期間制限違反の場合の廃止

これまでは派遣可能期間の制限は最大でも3年の業務単位で行われ,2012年の派遣法改正で業務単位の期間制限違反の場合に労働契約申込み見なし制度が導入されていた。その改正前は派遣先に申込み義務は課されていたものの,実際にはその義務が履行されることはなく,申込みがない以上はいくら違反があっても直接の雇用契約の成立には至らないという論理で直接雇用に結びつかなかったことから,2012年改正で,違反が生じた時点で派遣先が派遣労働者に対して直接雇用を申し込んだものと見なすことに改められた。ところがその改正部分の施行が3年先延ばしにされ,2015年10月1日からとされていた。

今回の「改正」法では,その施行日を前日の同年9月30日とすることによって,申込み見なし制度のうち,最も重要で直接雇用に結びつきやすかった「業務単位の期間制限違反の場合の労働契約申込み見なし制度」が1日も施行されることなく廃止された。

(2) 「改正」法でも労働契約申込み見なし制度 の対象となる違法派遣

以下の5類型の違法派遣では,労働契約申込み見なし制度が適用される。この場合,派遣先から派遣労働者に対する申込みだけが見なされるので,派遣労働者から派遣先に対する承諾は現に行わないと直接雇用契約の成立に至らない。したがって,派遣先が以下の違法派遣を行った結果労働契約の申込みをしたものと見なされた場合,その見なされた日から1年以内に派遣労働者がこの申込みに対して承諾する旨の意思表示をする必要があり,そうすれば直接雇用契約が成立する。

なおこれによって成立した直接雇用契約の内容は,派遣元との労働条件と同一内容とされている。

① 労働者派遣の禁止業務に従事させた場合

港湾運送業務,建設業務,警備業務及び病院等における医療関連業務(例外あり)はそもそも派遣労働禁止業務なので,派遣先が派遣労働者をこれに従事させた場合は,直ちに申込み見なしとなる。

② 無許可事業主から労働者派遣を受け入れた場合

無許可の派遣元から労働者派遣を受けた場合は,直ちに申込み見なしとなる。

③ 事業所単位の期間制限に違反して派遣労働者を受け入れた場合

前述のとおり,事業所単位の期間制限は制限日の1か月前までに過半数労働組合等から意見聴取しさえすれば延長できるが,

ア その意見聴取を行わずに期間制限を超えて派遣労働者の受け入れを続けた場合

イ 意見を聴取した過半数代業者が管理監督者だった場合

ウ 派遣可能期間延長のための代表者選出であることを明示せずに選出した場合

エ 使用者の指名等の非民主的方法によって選出された代表者の場合

は,制限日以降に派遣労働者を受け入れた時点で申込み見なしとなる。

④ 個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合

同一の派遣労働者Aを3年を超えて同一の組織単位Xで派遣労働に従事させた場合,その時点で申込み見なしとなる。

⑤ いわゆる偽装請負の場合

労働者派遣法等の適用を免れる目的で,請負契約等の契約を締結し,実際には労働者派遣を受けた場合は,直ちに申込み見なしとなる。


4.その他の主な「改正」内容

(1)特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別が廃止され,全ての労働者派遣事業が許可制となった。

但し,「改正」法施行日である2015年9月30日時点でそれまでの届出により特定労働者派遣事業を営んでいる者は,2018年9月29日までは許可を得なくても引き続き「改正」前の特定労働者派遣事業(派遣労働者全員が派遣元の常時雇用の場合)を営むことができる。これによると,2018年9月30日以降は無許可派遣元が相当数発生することが予想され,その派遣元から派遣労働者の受け入れを続けた場合は,上記3(2)②の申込み見なしが起こることになる。

(2)派遣元は,同一の組織単位に継続して1年以上派遣される見込みがあるなど一定の場合には,派遣労働者の派遣終了後の雇用を継続させるための措置(雇用安定措置)を講じることが必要になった。雇用安定措置としては,①派遣先への直接雇用の依頼,②合理的な新たな派遣先の提供,③派遣元による無期雇用,④有休の教育訓練や紹介予定派遣などその他の措置,とされている。雇用安定の実効性は疑問である。

(3)派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇を推進するため,派遣元は,

① 派遣先で同種の業務に従事する労働者との均衡を考慮しながら,賃金の決定,教育訓練の実施,福利厚生の実施を行うよう配慮する義務,

② 派遣労働者が希望する場合は,上記①の待遇の確保のために考慮した内容を,本人に説明する義務,がある。派遣元との関係ではあるが,団体交渉で派遣労働者である組合員の待遇改善を要求し,不均衡がある場合はその説明を要求する法的根拠になる。

(4) 派遣先は,派遣先職場におけるセクハラ,パワハラなど派遣労働者からの苦情に対しては,適切かつ迅速な処理を図ることが必要とされている。これまでは,派遣労働者と雇用関係があるのは派遣元であるという形式的理由で,このような場合も派遣元を通じた申し入れしか許さず,事業者間では派遣元は顧客である派遣先に苦情を述べることは実際にはできない,結局,派遣労働者は泣き寝入りを強いられるという構造的問題があった。この点で,派遣先の派遣労働者からの苦情受け付け及び対処義務が定められた意義は大きいと思われる。


5.最後に

根本的な問題のある「改正」法ではあるが,それでも実際の派遣労働現場のひどさ,無権利状態からすれば,活用できる規定は少なからずあると思われる。特に労働組合幹部は,しっかり学習して,同じ労働者仲間である派遣労働者の権利確保に少しでも注力してほしい。

なお「改正」法の概要及び労働契約申込み見なし制度の概要については,厚生労働省のホームページに解説がある。

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第44期兵庫県労働委員会労働者委員の任命について

労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会 事務局長 北島 隆


第44期労働委員会の委員が9月8日に兵庫県知事によって任命されました。

兵庫労連など、労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会は、前期同様に兵庫県医労連門泰之書記長を候補として推薦いたしましたが、結果は今回も連合独占の任命が行われました。

推薦にあたり、連絡会は7月28日に兵庫県労政福祉課と懇談を行い、「現に労働組合に潮流がある」「産別内に複数の潮流がある場合もあり労働委員会活用に実際の支障が生じている」こと等、これまでの考えを示した上で新たに同じく公正任命を求めている北海道労連の訴訟の判決を示して任命を求めました。

平成21年6月25日札幌高裁判決(平成20年(行コ)第26号)では、労組法19条の12第3項の趣旨について「労働組合の推薦を必要とすることで,知事による恣意的な任命手続きを防止すること」にあること、および「労働組合の組合員数の組織率の推移や労働組合の各系統の勢力関係の比率の状況,各系統から推薦された候補者の数及びその比率等のいかんによっては,特定の系統に属する労働組合の推薦に係る候補者を労働委員会に選任することを必要とする特段の事情が認められないにもかかわらず,この系統に属する労働組合の推薦に係る候補者のみが労働者委員に選任されることが繰り返された場合には,他の系統に属する労働組合が推薦する候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が任命されているとの推認が働くこともあり得るといわなければならない」と説示しています。

さらに、本年1月20日札幌地裁は、第40期北海道労働委員会労働者委員の任命処分の取消請求について「処分行政庁(北海道知事)が行った任命処分は、『裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるといわなければならないのであり、本件任命処分は違法である』」と認定し「(この違法性は)改めて道労委第40期労働者委員の選任をさせるため、本件任命処分を取り消すべきものである」と判示し、さらに踏み込んだ判決が示されています。この判決は、任命取り消しは認めなかったものの、北海道労連など原告の実質的な勝利判決と言えるものです。

この札幌地裁判決の説示からすると兵庫県においても「他の系統に属する労働組合が推薦する候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が任命されているとの推認が働」くといわざるを得ず、今回の連合独占の任命は「違法」であり「本件任命処分を取り消すべき」ものです。

労働組合の潮流の違いは、必ずしも「対立」だけではなく、結成された経緯や政党に対する立場や考え方の違いから起こるものもあります。対策会議は、「対立」している事は事実でありそのことで労働委員会の活用に不正常な実態があることは事実ですが、組合間の「対立」だけで非連合の委員の選出を求めているのではなく、現に潮流がある以上、一方だけを認め他方の存在を無視する様な任命は違法であると主張してきました。

今回の改選で任命を勝ち取ることは出来ませんでしたが、今後も全国対策会議と歩調を合わせ、公正選任を勝ち取るべく運動を進めて行きます。

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