株式会社近畿道路資材(以下、「被申立人」といいます)は、尼崎に本店を置き、主たる事業として産業廃棄物の中間保管・運搬を行っています。
平成23年被申立人神戸支店に勤務する重機オペレーターとダンプ乗務員が未払い賃金の支払いや長時間過密労働の改善、会社都合の休業時に休業補償を支払わないこと、有給休暇が取れないことの改善を求め建交労に加入しました。
1)割増賃金等請求事件
被申立人が、未払い賃金について団体交渉において一切認めなかったことから、組合員らは、労働基準監督署に申告し、監督署は未払い賃金を認め、是正勧告を出しました。しかし、被申立人は、是正勧告書の受領を拒否し、その後の団体交渉においても未払い賃金を認めませんでした。
組合員らは、未払い賃金が時効で消失していくことから平成25年、神戸地裁に「割増賃金等請求事件」を提訴し、同事件は結審し和解協議が進められています。
同事件についてもこれまで団体交渉による解決を求めてきましたが、同事件の弁護人と団体交渉に出席している弁護士が異なることを理由に被申立人は、団体交渉における協議に一切応じませんでした。
2)会社都合の休業、有給休暇の取り扱いについて
組合結成以前、被申立人は、雨天時や閑散期の所定労働日に一方的に休みを指示し、欠勤扱いにして休業補償を一切支払っていませんでした。組合員らは、休業補償について労働基準監督署に申告し、是正勧告が出されました。被申立人は、勧告された特定の日については休業補償を支払いましたが、勧告後も被申立人は、新たに発生した会社都合の休業時に休業補償を支払うことはありませんでした。組合は、団体交渉において改善を求めましたが、被申立人は、就業規則を改正することで改善していくと回答するのみで改正時期や具体的な改正案の提示を一切行わず、全く改善されませんでした。
また、組合結成以前、被申立人は全く有給休暇の取得を認めていませんでしたが、組合結成以降、有給休暇は取得できるように改善されていました。しかし被申立人は、平成26年より病気欠勤時の事後申請を認めなくなり、これについても団体交渉で改善を求めましたが、被申立人は、病気欠勤時の事後申請の必要性を認めながら会社都合の休業同様に今後就業規則の改正をもって改善していくと回答するのみで具体的な改善は実現しませんでした。
3)平成26年(不)第3号事件
組合加入後、被申立人は、長時間労働の改善や有給休暇の取得を認めたものの重機オペレーターの組合員に全く時間外労働を命じなくなり、同じ重機オペレーターの非組合員と差別して取り扱うようになったことから、兵庫県労委平成26年(不)第3号事件(以下「第2次申立事件」といいます)を申し立てました。同事件は、組合員に必要が生じた際、時間外を命じるとの和解協定を締結し和解が成立しました。
しかし、被申立人は、和解成立直後から時間外労働の差別取り扱いについて数日を除いて改善することはありませんでした。その後、団体交渉で和解協定書の履行を求め、被申立人団体交渉員(代理人弁護士)は、和解協定書違反を認めて、即時改善することで合意確認しましたが、その後も改善されることはありませんでした。
4)以上のとおり被申立人における団体交渉拒否及び誠実交渉義務違反、組合員の時間外労働の不利益取り扱いについて、組合は、労組法第7条第1号・第2号・第3号違反とし兵庫県労委平成26年(不)第9号近畿道路資材事件(以下「本件」といいます)を兵庫県労働委員会に申し立て私が代理人になりました。
1)被申立人は、「第2次申立事件」における和解協定書を履行せず、組合員に対し、時間外労働を命じないという不利益取り扱いを行ったか。(争点1)
2)被申立人は、「割増賃金等請求事件」についての団体交渉を拒否しているか。(争点2)
3)会社都合の休業時の休業補償及び年休の取り扱いについての団体交渉における被申立人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか。(争点3)
4)被申立人は、和解協定書を履行せず、また、その履行を求める団体交渉における合意事項を守らず、誠実交渉義務に反したか。(争点4)
5)被申立人は、和解協定書を履行しないことによって、支配介入を行ったか。(争点5)
1)被申立人の主張
ア 争点1について
被申立人神戸支店には、組合員以外に1名重機オペレーターが従事し、事業所の施錠業務のため不可避的に時間外労働が発生している。従業員に時間外労働を命じる必要性が生じた場合、どの従業員に命じるかは、様々な事情を総合的に考慮して決しているのであり、何ら反組合的意図ないし動機はなく、被申立人に不当労働行為意思は存在しない。
イ 争点2について
「割増賃金等請求事件」に関する団体交渉を拒否した事実はない。当該事件における訴訟代理人間の交渉を優先してほしい旨を組合にお願いし、一定の了承を得ていた。その後、訴訟代理人に対し和解案を提案し、協議していることから、すでに救済の利益がない。
ウ 争点3について
休業時の取り扱いについては、就業規則の改正において疑義のない制度に是正する方針であると具体的に回答しているのであり、誠実交渉に違反する事実はない。
年休の取り扱いについても今後の就業規則の改正に併せて検討する方針であると具体的に回答しているのであり、誠実交渉義務に違反する事実はない。
エ 争点4について
団体交渉において、組合から、時間外労働の指示について不均衡がある旨指摘を受けて以降は、できるだけ偏りが出ないように業務を振り分けることに留意している。時間外労働の振り分けに際しては、賃金の均衡や居住場所と事業所との距離及び通勤交通手段等、様々な要素を総合的に考慮して、決定していることは当然である。
オ 争点5について
組合員が、実際に地位の得喪は勿論のこと、人事上又は経済待遇上の具体的な不利益を受けたという事実は一切なく、組合の運営に関して具体的な弱体化工作を受けたという事実もないのであるから、支配介入に該当する事実はない。
2)委員会の判断
ア 争点1について
和解協定締結以降、時間外労働は、組合員が6回、延べ約5時間であるのに対し非組合員は、ほぼ毎日の延べ約138時間であり、両人が公平に時間外労働を分担しているとは認めがたく、時間外労働の取り扱いは、和解協定書及び団体交渉での合意事項に反しているということができる。毎月、一定の量の時間外労働を恒常的に命じられ、時間外割増賃金が労働者の毎月の賃金の一定の部分を占めている場合において、時間外労働が命じられず、時間外割増賃金が支払われないことは、労働者にとって不利益と評価すべきである。
組合員の担当業務であっても、他の従業員に代替えさせることが可能な場合には、組合員に時間外労働を命じていないことが認められる。
組合員に時間外労働を命じる場合は、突発的な状況が発生した時や、変則的な業務が発生した時等、組合員以外の者に時間外労働を命じることができない場合に限られることが認められることから、会社には不当労働行為意思があるものと認められる。
会社が、組合員に対し時間外労働を命じないことは、組合員であるが故をもって行われた不利益取り扱いであり、労組法第7条第1号に該当する。
イ 争点2について
組合が使用者に団体交渉を求める場合、交渉事項を事前に使用者に対して明確にすることは、必要最低限であり、通例、これらの事項は団体交渉申入書において明らかにされている。本件において、組合が、団体交渉申入書において「割増賃金等請求事件」を交渉事項にしたいとする旨を被申立人に対して明確にしたとする疎明はないことから、同事件を交渉事項として団体交渉を申入れたとまでは認められず、労組法第7条第2号に該当しないと判断する。
ウ 争点3について
被申立人は、会社都合の休業及び年休の取り扱いについての団体交渉において、被申立人の交渉担当者は、改善の必要性を認めながらも、その旨を被申立人代表取締役に進言するとしたり、就業規則変更の際に是正するといった回答に終始していることから、被申立人の合意達成に向けた努力は不十分であることから、不誠実交渉であり、労組法第7条第2号に該当する。
エ 争点4について
争点1で判断した通り、被申立人が和解協定書第3項を履行せず、団体交渉における合意事項を遵守していないことが認められるが、団体交渉における合意事項を遵守しないからといって、直ちに会社の交渉態度が不誠実であるということにはならず、労組法第7条第2号に該当するとの組合の主張は、失当といわざるを得ない。
オ 争点5について
被申立人が、和解協定書第3項を履行せず、組合員の時間外労働に関して不利益取り扱いをしたことが認められ、このことは、組合員を威嚇し、動揺を与え、組合の運営を阻害し、組織を弱体化させようとした支配介入行為であると判断できることから、労組法第7条第3号に該当する。
1)被申立人は、時間外労働について申立人組合員であるXと被申立人のほかの従業員であるYとを、平成26年12月4日の団体交渉での合意事項を踏まえて公平に取り扱わなければならない。
2)被申立人は、Xに対し、平成26年12月5日から本命令書写し交付の日までの間にYに対し支払った時間外割増賃金の額の2分の1に相当する額を支払わなければならない。
3)被申立人は、申立人組合員らに係る会社都合の休業時の休業補償及び年次有給休暇の取り扱いについての団体交渉に、誠実に応じなければならない。
4)被申立人は、本件命令書写し交付の日から7日以内に、文書を申立人に交付しなければならない。
5)その余の申立は棄却する。
本件事件は、弁護士が出席し行われる団体交渉や、第2次申立事件直後から被申立人が和解協定書を履行しなかったことが不利益取り扱い及び支配介入に該当するかについて争いました。
私は、弁護士が団体交渉に出席することについて、すべてを否定するわけではありません。時には、法的知識の乏しい使用者との交渉においては、弁護士が出席することにより、早期問題解決が実現可能となります。実際、被申立人交渉員として出席している弁護士は、法違反について団体交渉において認め、今後改善していくとの回答を行っています。しかし、被申立人は、団体交渉にて改善するとした事案について全く改善を行いませんでした。誠実交渉か否かは、当該弁護士が、実質交渉権限を有しているか否かが問題となります。
本件において、有給休暇及び休業補償の取り扱いに関する団体交渉における団体交渉拒否(誠実交渉義務違反)について委員会は、被申立人の合意達成に向けた努力が不十分であることをもって不誠実な交渉であることを認定しました。しかし、私が本件における団体交渉拒否の具体的な事実として主張した点は、実質交渉権限を持たない代理人弁護士と被申立人管理職による交渉員の構成とその交渉の内容でありました。委員会は、交渉内容については前述の通り合意達成に向けた努力が不十分であると認定しましたが、交渉員の構成については何ら触れていません。確かに命令交付後、被申立人は、就業規則の改正案を提案し、現在団体交渉にて協議されるようになりました。しかしながら、本件命令を受けた団体交渉(有給休暇及び休業補償)について被申立人が、交渉姿勢を改めただけであり、実質交渉権限のない交渉員による団体交渉は、今後の交渉にも悪影響をもたらします。要するに交渉権限のない交渉員は、賃上げや一時金の団体交渉にて事前に用意した回答を説明する連絡係であって、組合の要求について経営状況を勘案し、決定することなどできないのです。本件において委員会は、この事実について何ら判断しなかったことは、不当労働行為救済制度が、労使関係秩序の確保や再発防止の観点から救済措置が出されるべきであることをから、本件命令は不十分な命令であるといえます。とりわけ不誠実交渉に関する救済命令は、団体交渉において具体的な交渉姿勢(例えば説明資料を提示説明するや会社役員が出席する等)に関して命令が出されなければ、再発防止とならず、交渉員の構成についても全く言及していないことから、今後も実質交渉権限を有しない交渉員との交渉を余儀なくされます。
一方、「割増賃金等請求事件」に関する団体交渉拒否について、委員会は、組合が交渉の可能性を質したり、交渉事項とすべきであるとの意見を表明したに過ぎないことをもって団体交渉拒否に該当しないと判断しました。しかし、組合は、団体交渉申入書にて同事件を議題とし申入れており、このことについて、私の疎明が不十分であったと反省しています。
また、私は、不当労働行為救済制度における和解について早期解決や労使合意による解決がその後の労使関係の正常化につながることから、メリットはあると考えていました。被申立人とは、これまで3件の不当労働行為事件において和解したのも早期解決や今後の労使関係の正常化を求めてのものでした。しかしながら、和解は、命令のような明確性がなく、本件のように労使いずれか一方の独自解釈により新たな紛争の要因となり得ます。委員会は、2004年改正労組法により和解を明文化したことから、積極的に和解を勧めています。現に私が、過去に関与した不当労働行為事件においても委員会は和解を推奨しています。本件は、和解後の協定不履行及び不利益取り扱いについて争うこととなったことから、今後の委員会における和解は、より一層慎重に労使一方の独自解釈がなされないように行わなければ、新たな紛争の要因となると感じました。
また、本件において、委員会は、団体交渉における合意事項を遵守していないからといって、直ちに交渉態度が不誠実であるということにはならないと判断し、争点4に関して棄却しました。しかし、一方で委員会は、主文第2項における救済の方法についてYに支払った時間外割増賃金の額の2分の1に相当する額としたことについて、団体交渉の合意事項があったことを勘案してとしています。委員会の判断は、不当労働行為と認めていないが、合意事項に基づいて救済を命じていることから、矛盾があります。団体交渉における合意事項が、履行されないことについて誠実交渉義務違反が認められなければ、団体交渉の実効性を失うことになり、憲法の保障する団体交渉権を阻害するものとなります。このことからも、委員会の判断に誤りがあると感じています。
労働委員会における不当労働行為救済制度は、組合の権利を守るために、有効に活用すべき制度であります。しかしながら、本件は、平成26年10月に申立て、命令交付に18ヶ月の時間を要しています。不当労働行為救済制度が、中央労働委員会への再審査申し立てを認め、司法による取消訴訟提訴を含めれば実質5審制になりかねず、長期化することが懸念されます。実際、本件命令について、被申立人は「不当労働行為救済命令取消訴訟」を提訴しています。長期化することにより、労使関係が改善されず新たな紛争が発生しかねないことから、より短期間での紛争解決にむけた制度改正が必要であると感じています。
私は、本件命令について、概ね組合の勝利といえるものではありますが、前述の通り、委員会の判断について不十分な点も多々感じています。今後も、誠実交渉義務違反について不当労働行為救済制度を活用し、委員会に対し正しい判断を求めていきたいと思います。一方、本件において互いに論点主張する中、自らの交渉経緯における反省点や、主張の不十分さについても自覚することができ、今後の組合活動に反映していきたいと考えています。
不当労働行為救済制度が、上部団体役員等に委任権を認めていることから、私は、これまで数件の不当労働行為事件代理人として、いずれも和解解決してきました。本件にて初めて命令交付を受けたのですが、取消訴訟を提訴されたことにより、今後は、弁護士に依頼し、補助参加にて勝利判決を目指していきます。
このページのトップへ6月11日、モロゾフ労働組合の第91回女性に関する懇談会において、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(いわゆる「女性活躍推進法」)の講義を行いました。この法律は、労働組合の取り組みとしても重要と思われるので、了承を得て掲載します。
「女性活躍推進法」は、企業に対して2016年4月1日までに、職場における女性活躍の現状を把握した上で、行動計画を策定し取り組みを実行することを求めています。また、民間企業による計画策定及び取組実施を促進するため、公共調達における受注機会の増大など優良事業者に対する優遇措置が予定されています。
法律制定の背景にあるのが日本における女性の就労状況です。女性の就労がふえる中で、1994年、閣議決定に基づき内閣に男女共同参画推進本部が設置され、1999年、男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)が制定されました。以来、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標の達成に向けて、様々な取組が行われてきました。しかし、管理的職業従事者に占める女性の割合については、2004年度時点で11.4%にとどまっており、国際的に見ても依然として低い水準です。そのほかにも、新規学卒者の採用や企業内配置等における性別の偏り、約6割の女性が第1子出産を機に退職していることなどが問題視されています。そして、この背景には、性別役割分担意識とそれと結びついた長時間労働等の働き方があるといわれています。
こうした中で、発足した安倍内閣の成長戦略、アベノミクスでは、女性の活躍を成長政略の中核をなすものと位置付け、「全ての女性が輝く社会」を実現するとして、「『2020年に指導的地位に占める女性の割合30%』の実現に向けて、女性の登用に関する国・地方自治体、民間企業の目標・行動計画の策定、女性の登用に積極的な企業へのインセンティブ付与等を内容とする新法を制定する」ことを目指すようになりました。こうして成立したのが、女性活躍推進法です。
ここで注意してほしいのが、本法の目的は、女性も男性同様に活躍しようという共同参画、平等、女性の働く権利の確保から、「日本再興戦略」つまり経済成長の起爆剤として女性をもっと働けるようにしよう、悪く言えば女性をもっと働かそうとういことに重点が移っているのではないかという危険性です。この点は法律制定の動機として、注意しなければなりません。
この法律で最も重要なのが「事業主行動計 画」の策定と実施です。
(1)企業・事業主は、自らが実施する女性の活躍推進に関する取組に関する行動計画〔一般事業主行動計画、特定事業主行動計画〕を、政府指針に沿って策定しそれを届出なければなりません(常時労働者300人以下の中小事業主は努力義務)。事業主行動計画においては、「計画期間」、「達成目標」及び「取組内容及び実施時期」を定めることとされています。
(2)こうした行動計画は、正しい状況把握と課題分析があって初めて生きてくるものであり、事業主は、事業主行動計画を定めるに当たって、事業における女性の活躍の状況把握・課題分析を行い、その結果を勘案することが求められています。
なお、状況把握・課題分析のための指標としては、本法においては、4つの必須項目として、①「採用した労働者に占める女性労働者の割合」、②「男女の継続勤務年数の差異」、③「労働時間の状況」及び④「管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合」が挙げられています。さらに、この4つのほか、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令」及び「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく特定事業主行動計画の策定等に係る内閣府令」において、いくつかの指標が挙げられています。
民間企業の場合の一般事業主行動計画に係る指標については、①~④の「必須項目(基礎項目)」のほか、「任意項目(選択項目)」として次の21項目が挙げられています。
⑤ 男女別の採用における競争倍率
⑥ 派遣労働者における女性割合
⑦ 男女別の配置状況
⑧ 男女別教育訓練の受講状況
⑨ 管理職や男女労働者の意識
⑩ 男女別の継続雇用割合
⑪ 男女別の育児休業取得率及び取得期間の平均期間
⑫ 両立支援制度の利用割合
⑬ フレックス勤務・在宅勤務の男女別利用実績
⑭ 労働者・派遣労働者の時間外労働・休日労働の合計時間
⑮ 管理職の労働時間
⑯ 有給休暇取得率
⑰ 各職階の労働者に占める女性労働者の割合及び役員割合
⑱ 昇進の男女差
⑲ 人事評価における男女差
⑳ 労働者・派遣労働者のセクハラ相談状況
㉑ 労働者の男女別の職種の転換・雇用形態の転換及び派遣労働者の男女別雇入実績
㉒ 男女別中途採用実績
㉓ 男女別職種・雇用形態の転換及び管理職登用実績
㉔ 男女別キャリアアップのための研修受講割合
㉕ 賃金の男女の差異
(3) こうした状況把握・課題分析を行った後、事業主は、数値を用いて、事業主行動計画の達成目標を定量的に定めることが求められています。数値目標を定めなければならないのが特徴です。
取り組みの中心的なものは、
・ 女性の積極採用に関する取組
・ 配置・育成・教育訓練に関する取組
・ 継続就業に関する取組
・ 長時間労働是正など働き方の改革に向けた取組
・ 女性の積極登用・評価に関する取組
・ 雇用形態や職種の転換に関する取組(パート等から正規雇用へ、一般職から総合職へ等)
・ 女性の再雇用や中途採用に関する取組
・ 性別役割分担意識の見直し等職場風土改革に関する取組
といったものです。
(4) 事業主は、この事業主行動計画を労働者に周知するための措置を講じるとともに、インターネットの利用等により公表することが義務づけられています。
そして、事業主は、事業主行動計画に基づく取組を実施するとともに、事業主行動計画に定められた目標を達成するよう努めることが求められています。
女性活躍推進法は、男女共同参画の理念からは概ね賛成を得ているものです。
しかし、30%の管理職に入るような立場にある女性はともかく、その他の女性に対する配慮は少ないと考えられます。女性が活躍し輝かない背景には、男女賃金格差(低賃金)・非正規雇用、長時間労働・仕事と家庭の両立にかかる問題があるのに、それらの解決策らしいものが少ないことは問題です。
労働組合として、この法律を役立てることは重要です。
ここで、もう一度、法律の目的を確認すると、究極の目標が「指導的地位にある女性の割合30%」になっています。したがって、計画策定を企業に丸投げして放っておくと、男性並みに働ける女性の地位向上のための行動計画の策定になる可能性があります。
したがって、現在の女性労働者の置かれた状況を踏まえて、いろいろな立場の女性の地位向上を目指す必要があります。とりわけワークライフバランスの視点、女性の貧困化を防止するという視点を「事業主行動計画」のなかに入れていく必要があります。男女共同参画の中でも言われる、「ダイバーシティ&インクルージョン」というのは単に多様な働き方を認めるだけではなく、人間ないし労働者として生活できる保障があって初めて意味があるので、その視点で取り組んでいってほしいと思います。
とりわけ、重要な課題を列挙すると、
・ 労働時間、過重労働防止
まず、労働時間は焦眉の問題です。長時間働けない、このままでは家事・出産・育児と両立できないというのが、女性がリタイアする最大の原因です。男性も含めて「働きすぎ」は国際的にも日本の労働条件の最も歪んだところです。女性活躍推進法の観点からすれば、もっとも行動計画を立てやすいところですから、思い切って、残業しないシステム、短時間勤務や、休みやすいシステムの構築を行動計画の中核におく必要があります。
・ ワークライフバランス
長時間労働の防止だけでなく、育児・介護休暇、短時間勤務等の制度を拡充することも、ワークライフバランスを考えるのであれば重要です。休暇、短時間勤務などの制度が整えば、女性が退職しなくてもすむようになるので、復職時の困難(労働条件の低下、正社員として勤務するところがない)がなくなります。まずは、正規社員が非正規社員になる道を防ぐことを重視します。
・ 賃金格差の是正、均等待遇
賃金格差の是正は、一部の輝く女性を目指す法理念からはなかなか出てきません。ワークライフバランスの視点を行動計画に入れるときに、賃金格差の是正や均等待遇をどうやって組み入れるかは最大の課題です。
・ 正規社員化(雇用の安定)
非正規雇用社員の正社員化システムも重要です。とくに、出産育児を契機に退職した女性が非正規社員として再雇用されることが多い現状では、非正規社員を正規社員化するという要求は、法律の理念に沿ったものといえます。ただし、注意すべきは、単に非正規社員を「無期雇用」とするだけでは不十分です。つまり、賃金等が低いままの有期雇用社員が無期雇用になっただけでは十分な生活給にはなりません。正社員化というのは賃金も含めて均等待遇の実現手段という趣旨で、行動計画に盛り込んでいくべきです。
最後に、こういった事業主行動計画が絵に描いた餅にならないようにするためには、行動計画の実施についてきちんとモニタリング調査、監視をすることが大事です。女性活躍推進を全ての労働者にとっていい物にするには、法律を利用しつつも、法律を超えた制度にしていくことが必要なので、労働組合が積極的に制度構築の提案をするなどが大事だと考えます。
質疑応答の中で、女性の管理職比率がなぜ日本が低いかという、問題提起がありました。
西アジアやアフリカでは社会的文化的背景から女性の社会進出が進んでいませんが、それらの地域を除くと、日本は女性の管理職比率が世界的に見ても極めて低くなっています。先進国と言われる日本で女性の社会進出が遅れている最大の原因は、長時間過密労働であると考えます。家庭と仕事を両立させられないほどの激務が続けば、職業をリタイアして家庭中心となる女性が増えるのは必然です。したがって、長時間労働の是正は、男女共同参画社会実現の上で、極めて重要です。
このページのトップへ7月2日、第54回の総会が神戸酒心館で開かれ、甲南大学の武井寛教授が「同一価値労働同一賃金を考える」とのテーマで講演してくれました。
現行法上、同一労働同一賃金原則を正面から定めた法律はなく、そのことが、同じ仕事に従事している正規労働者と非正規労働者に著しい賃金格差を生じさせている原因となっているのですが、安倍内閣は6月2日、「一億総活躍プラン」を閣議決定し、同一労働同一賃金の実現に向けた施策を打ち出しました。
講演は、安倍内閣が実現を目指す「同一労働同一賃金」が、企業横断的ではなく企業内の正規・非正規の格差是正を行うものであることについて説明がありました。前述したとおり、非正規労働者が正規労働者と同じような仕事をしているにもかかわらず、正規労働者よりも格段に低い賃金しか受取れていないことは公知の事実です。したがって、企業内にとどまるとはいえ、正規・非正規の格差が是正されること自体は望ましいことともいえます。しかし、あくまでも「同一労働同一賃金」原則が企業内での格差を許さないというものであれば、企業は、非正規の賃金を正規のレベルにまで大幅に引き上げることによって格差を是正するのではなく、非正規の賃金レベルを引き上げる一方で正規の賃金レベルを引き下げることによって両者の格差を是正することは明らかです。
したがって、安倍内閣の目指す「同一労働同一賃金」の実現に対し、正規労働者がどのような反応を示すことになるのか、また、正規労働者を組織する組合がどのような態度をとるのか、注目されるところといわなければなりません。連合は、正規労働者の処遇を下げて低位平準化を図るやり方は認めないとの方針を明らかにしているようで、内部留保を貯めこんでいる大企業に内部留保を吐き出させることができれば、非正規の賃金レベルを引き上げるだけでの「同一賃金同一労働」を実現することは可能と思われますが、企業にそのような決断をさせるためには、労働者、労働組合の相当な奮闘が求められることはいうまでもないことと思われます。
また、武井先生からは、「同一労働同一賃金」原則のもとでも、合理的な理由のある格差までは禁じられるものではなく、「同一労働同一賃金」は、「合理的理由のない処遇格差の禁止」原則のなかの賃金に関するルールと位置付けられるものであることの説明がありました。
そうすると、「合理的理由」が広く認められることになると「同一労働同一賃金」原則が骨抜きになることは明らかで、何が「合理的理由」なのかが、まさに問題となることになります。
ここで、「同一労働同一賃金」原則を、「同一価値労働同一賃金」原則と捉えれば、格差を容認する「合理的な理由」は狭められることになるのかというと、それは、「同一価値労働同一賃金」原則という概念をどのように把握するのかによるということが武井先生の説明だったように思います(私はそのように理解しました)。
日本経団連は、「同一価値労働同一賃金の考え方とは、将来的な人材活用の要素も考慮して、企業に同一の付加価値をもたらすことが期待できる労働であれば、同じ処遇をするというもの」で、熟練度、責任、見込まれる役割などは異なり、それらを無視して同じ時間働けば同じ処遇とすることは、かえって公正さを欠くと考えると、結局、責任や見込まれる役割が異なる正規と非正規の賃金は違ってよいのだということになって、「同一労働同一賃金」あるいは「同一価値労働同一賃金」原則は、ほとんど無意味なものになってしまいかねません。
武井先生からは、「同一価値労働同一賃金」原則の「同一価値労働」とは何なのかを判断するに際し、付加価値は考慮すべきではないというお話がありました。
講演では、イギリス同一賃金法下において、造船所で働く100ポンドの女性コックが、週給125ポンドの男性の塗装工、船大工、絶縁工と同一価値を主張して同一賃金を請求したヘイワード事件において、①肉体的負担、②環境、③企画、決定、④技能・知識、⑤責任の5つの要素で4職務の価値は等しいという職務評価専門家の報告書が提出され、最終的に、労働審判所で、女性に週約125ポンドを支払うこと等を内容とする和解が成立していることが紹介されましたが、このような観点からなされる客観的な職務評価を基礎に同一(価値)労働が判断され、その判断において付加価値は考慮されないということになれば、「同一(価値)労働同一賃金」原則のもとでも格差を容認する「合理的な理由」は相当狭められることになるようです。
このように、「同一価値労働同一賃金原則」は、異なる仕事でも、等しい価値をもつものには等しい賃金を帰結する原則である点で、「同一労働同一賃金」原則とは、微妙に違った原則といえることになりますが、「同一労働同一賃金」原則でも、「同一価値労働同一賃金」原則でも、合理的理由に基づく例外は許容されることになるところ、何が合理的理由となるのかは、同一(価値)労働をどのように理解するのかによって異なってくることになりますが、同一価値労働か否かの判断に際しては非客観的な付加価値的要素は考慮すべきではなく、その判断はあくまでも客観的な職務評価によって行わなければならないというのが武井先生のお考えでした。
また、もう一つ、重要な点として武井先生が強調されていたのは、「同一(価値)労働同一賃金」原則が、法規範化された場合、理論的にいうと、これまでとは立証責任が転換され、これまでのように「不合理」な格差であることを労働者が立証するのではなく、「合理的理由」があるか否かを使用者において立証しなければ、「同一(価値)労働同一賃金」原則違反が認定されることになるとの点でした。このこと自体、確かに大きな意味を持つのではないかと思います。
「同一労働同一賃金」と「同一価値労働同一賃金」との異同については、これまで真剣に考えたこともなく、その異同を明確にしてくれた武井先生の講演は大変意義深いものでした。特に「有期契約労働者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理である」と判示した、画期的な長澤運輸事件・東京地裁平成28年5月13日判決が登場したことに鑑みれば、これから、「同一労働同一賃金」あるいは「同一価値労働同一賃金」が争点となる訴訟、労働契約法20条違反を問う訴訟が増えていくことになることは必至です。民法協としても先頭に立って、この問題に取り組んでいかなければならないと思います。
もしかしたら、理解の十分でないところ、理解の誤っていることがあるかもしれませんが、講演の報告とさせていただきます。