2016年8月27日、ヴィアーレ大阪にて、標記の講演とレセプションが行われ、私が兵庫民法協を代表してあいさつしてきました。
大阪民法協は、1955年、広範な弁護士、学者、労働組合、市民団体を会員とする権利擁護闘争センターとして発足しました。そして、ご承知のように、兵庫県の民法協はもともと大阪民法協の神戸支部でしたが、兵庫県にも学者、法律家、労組を結集した組織を作り日常的な学習や弾圧対策を進めようという声があがって、1962年に創立されたという経緯があります。
さて、当日の講演会では、まず、森岡孝二・関西大学名誉教授が「新自由主義の席巻は雇用関係に何をもたらしたか」と題して記念講演され、新自由主義的な規制緩和の結果、いまや、4割の非正規雇用となっている現状について告発がなされました。これを受けて、ミニパネルディスカッション「新たな運動の萌芽と展望」が行われました。非正規雇用がこれほど拡大した状況に対する活動として、NPO法人POSSEの活動に参加していた清水亮宏弁護士からは、問題を把握して活動する中でSNSなども含めて社会に広く訴えかける方法を見つけていく重要性が、川西玲子ASU-NET副代表は労働組合が正規労働者中心に構成されている現状は今や時代遅れであるとの鋭い指摘がなされました。それをうけて、林田時夫JMITU大阪地本特別執行委員からは労働組合の取り組みが報告され、豊川義明民法協副会長から今後に向けた取り組みの指摘がなされました。少し時間足らずの感はありましたが、50周年以降に極度に進行した非正規化への取り組みとしては良かったと思いました。
その後会場を移して、レセプションが行われ、各自懇親をいたしました。兵庫民法協からも来賓あいさつをということで頼まれ、羽柴代表幹事のあいさつを代読しました(下記)。来賓の方が多く出席されましたが、その方々のあいさつの中で特に注目したのは、大阪では2002年または2003年頃から、情勢への危機感を持って、労働組合の系統の違いを超えてタイムリーに集会・報告会等を開催してきたということです。大阪での運動の広がりは、これまでの共闘を踏まえたものだったというお話であり、兵庫県でも共闘の取り組みを進めなければいけないと痛感した次第です。
<羽柴代表幹事のあいさつ(萩田代読)>
1955年6月に大阪で民法協が結成され、当時兵庫は民法協神戸支部と称していました。その7年後の1962年に兵庫民法協が結成されました。兵庫は謂わば大阪民法協の弟分ということになりますが、なかなか兄貴にはついていくことができなかった記憶があります。例えば、毎年春闘時期に開催されていました権利討論集会ですが、兵庫でも大阪をまねて開催していましたが、規模も内容も到底比較になりませんでした。そんな事情から大阪民法協の幹事会か事務局会議を傍聴させて頂いたり、情報交換に努めた記憶もあります。もうそんな時代から長い時間が経過しましたが、最近の労働者をめぐる情勢には大変厳しいものがあります。大阪民法協がこうした状況を打ち破り、労働者の闘いを前進させるため、さらなる発展、活躍をされますようお祝いを申し上げます。
このページのトップへ各都道府県の労働委員会では公益委員・使用者委員・労働者委員の三者構成で不当労働行為救済制度が運営されている。連合結成前は労働者委員は総評・同盟・中立労連など労働組合の系統の違いを考慮して各系統から選任されていたが,連合結成後は全国の多くの労働委員会で労働者委員は連合推薦者で独占されている。
しかし,たとえば一つの企業内に連合系と労連系の組合が存在して,労連系の組合員に対する差別が不当労働行為に該たるとして労働委員会に救済申立てをした場合に,支援を仰ぐべき労働者委員が連合系であれば十分な信頼関係を築くのは難しい。労働者委員の連合独占の打破は労働委員会の民主化のためにどうしても実現しないといけない課題である。
兵庫県でも連合独占は違法であるとして37期から40期までの労働者委員の選任について4回にわたって労働者委員任命取消訴訟を提起してきたが,裁判所は労働者委員の任命については県知事に広い裁量権が認められており,労働者委員は労働者一般の利益を代表するものであるから系統を考慮する必要がないとして,連合独占の違法性を認めさせることはできず,今日まで連合独占が続いている。
北海道でも連合独占が続いている中,道労連推薦候補が任命されないのは違法であるとして37期から41期まで労働者委員の任命取消訴訟が提起されてきた。
北海道においては連合は組合員総数の75%を占め,連合と労連の比率は13対1(兵庫県は13.5対1なので,比率はほぼ同じ)で労働者委員の定数は7名(兵庫県も7名)なので,組合員数で割り振ると6.5人対0.5人ということになる。
37期の任命に関する札幌高裁平成21年6月25日判決が系統別に見ると連合推薦候補者のみを労働者委員に任命すべき比率にあるとはいえないから,特段の事情もなく今後も特定の系統が推薦する者だけが労働者委員に選任される事態が続けば,知事は意図的に道労連加盟労働組合の推薦候補者を労働者委員の任命から排除したとの推認が働く余地があると判示して以来,裁判所はあいついで連合独占を違法であるとする判決を出している。
(ただし,いずれの判決も行政事件の提起に必要な原告適格が欠けるとして取消訴訟は却下され,国家賠償請求訴訟は原告である道労連や道労連推薦候補者の法律上の利益が害されておらず損害がないとか,知事の任命過程に瑕疵はあるが故意・過失があるとまでは認められないとしては請求棄却されている。)
39期では38期の労働者委員が全員再任された結果,連合独占が維持されたが,39期の任命に関する札幌地裁平成24年12月26日判決は,知事が被推薦候補者の一部を全く審査の対象としない場合や,形式的に審査の対象としながらも実質的には特定の被推薦候補者について全く審査をせず,あるいは特定の系統に属する労働組合推薦の候補者であるという理由だけで労働者委員に任命しなかった場合も推薦制度の趣旨を没却するものとして裁量権の逸脱・濫用にあたるとした上で,39期の任命にあたり,知事が37期に関する札幌高裁判決の説示を考慮した形跡がないと指摘した上で,39期の任命は,38期の在任中の職務遂行状況や資質等の評価を十分しないで,労働者委員の経験を重視し現職の連合系労働者委員を再任する意図の下に行われたもので,道労連推薦候補者を形式的には審査の対象としながらも実質的には審査の対象とはしなかったとして裁量権の逸脱・濫用として違法である旨認定した。
40期の任命に関する札幌地裁平成27年1月20日判決は,再任候補者が前期の労働者委員としての実績を有していることを重視する余り,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行について必要な調査及び検討せず,それにより再任候補者の人格,識見の認定が十分なされなかった結果,系統別の選任割合が十分考慮されず,本件任命処分は重要な事実の基礎を欠くとして,裁量権を逸脱・濫用したものと認めた。
そして,39期,40期に続いて41期の任命についても本年7月11日に札幌地裁は道労連推薦候補者を実質的に審査の対象とはしていないとして,これを違法とする判決を下した。
このページのトップへ「第41期北海道労働委員会労働者委員任命取消裁判」判決にあたっての声明 |
札幌地方裁判所(民事第2部・谷有恒裁判長)は2016年7月11日、北海道を相手どり、道労連などが訴えていた「北海道労働委員会労働者委員任命処分取消等請求事件」(平成27年(行ウ)第13号)について判決を言い渡した。 判決は、第41期北海道労働委員会労働者委員の任命処分の取消請求について原告適格を認めず、国家賠償法上の損害賠償についても請求を棄却した。しかし、北海道知事が行った任命処分は、「原告道労連の系統に属する原告らを、他の候補者との関係で実質的に審査の対象としないこととなっていることは否定できず、労組法上の推薦制度の趣旨を没却するものとして、裁量権の逸脱、濫用にあたるといわなければならない」と認定した。実質的な勝利判決である。第39期、第40期裁判に続く、3度目の「違法」認定であり、直ちに違法な任命を是正して公正任命を行うべきである。 第一には、この間、道労連及び純中立労組に加え、連合加盟労組からも北海道知事及び関係部局に対して再三、判決内容を真摯に受け止めて変更任命を是正し、公正任命を行うよう求めてきたが、北海道知事は「違法任命」を繰り返してきた。この点について判決は、「連合北海道に属する推薦組合にかかる候補者の選任、再任が繰り返されることの問題点が指摘されていたのであるから、(中略)、連合北海道系と原告道労連系を6対1とする任命を真摯に検討すべき状況にあったというべきであり、(中略)その任命には裁量権の逸脱、濫用があるとの推認が働く」とし、「極めて恣意的であり、連合北海道系と原告道労連系が7対0となる選任をすることについての合理的説明があるとはいえない」と認定した。 この裁判は、道労連などが原告となり、13期24年もの長きにわたり繰り返されてきた特定団体による委員独占を是正するなど、労働委員会を民主化することを目的に、2006年任命の37期から41期までの10年にわたり行われてきたものである。もはや、どのような屁理屈を並べ立てようとも、説明がつかないことが司法の場で三度断罪された。団結権を擁護し、組合差別などの不当労働行為を救済する機関である労働委員会が本来果たすべき役割は重要だが、このような違法な任命行為を繰り返すことは、「労組法の趣旨を没却」するとともに、北海道労働委員会の社会的信頼を著しく失墜させるだけである。 第二には、どのような選任方法をとったとしても、道労連推薦候補から1名は選任することになる旨の指摘がなされたことである。委員を推薦する「分野別」や「地域別」などをその都度使い分ける言い逃れについて、個別の委員候補の選任の比較・検討において何ら合理性が示されていないことに触れ、判決は「系統別要素においては連合北海道と原告道労連が6対1、分野別要素においては医療等が1となり、地域別要素においては上川が2又は1、釧路が1又は0となるなど、各要素の均衡をはかりつつ、選任すること自体は容易である」と断言し、知事の「裁量権の逸脱、濫用」を糾弾した。 中央労働委員会をはじめ、すでに千葉、埼玉、神奈川、東京2、大阪、京都、宮城、長野、和歌山、高知など全国の10都府県の労働委員会では特定団体の独占が是正され、全労連(加盟組織)などが推薦する候補者を労働者委員に任命している。司法による「裁量権の逸脱・濫用」との判断を無視し続け、違法な任命行為を繰り返す北海道知事の傲岸不遜な姿勢は、憲法違反の「安保法制(戦争法)」を強行成立するなど独裁的手法で立憲主義を蔑ろにする安倍政権と重複する。 道労連は、北海道知事がこれまでの偏向任命を是正し、すべての働く人のよりどころとしての労働委員会の機能を回復させることを強く要求するとともに、公正任命を求めて引き続きたたかうことを表明するものである。 |
2016年7月11日 北海道労働組合総連合 北海道労働委員会任命取消訴訟弁護団 |
みなさん、共謀罪をご存じでしょうか。犯罪に向けた話し合い=「共謀」をしただけで犯罪となっててしまう罪のことです。
政府は2003年、2004年、2005年と計3回にわたって共謀罪法案を国会へ提出しましたが、弁護士会や野党の反対にあって、すべて廃案となりました。
その後2013年に成立した特定秘密保護法の中には、共謀罪を先取りする条文が盛り込まれるなどし、政府は再び共謀罪法案の提出機会を探ってきましたが、今秋の臨時国会(9月26日召集)でいよいよ共謀罪法案が「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変えて提出されると報道されました。
しかしながら、即座に日弁連が改めて反対の声明を出し、兵庫県弁護士会でも緊急の反対集会を開催するなどして、反対運動が盛り上がる兆しをみせたこともあって、共謀罪法案の提出は見送られることとなりました。
しかしながら、政府の法案成立への意欲は並々ならぬものがあり、早ければ来年の通常国会には提出してくることが予想されます。そこで、あらためて紙面をお借りし、共謀罪法案の危険性をご説明させていただきます。
私たちは、「犯罪」という枠の外で行動する限りは自由であるという大原則のもとで暮らしています(憲法13条)。言い換えれば、あらかじめ法律で禁止された行為をやったときのみ処罰され、その枠の外では国家権力から干渉されない権利をもっているのです。近代以降に出来た刑法は、権力が常に濫用されるおそれがあることを知っていたことから、「犯罪」の枠を広げないように考えられてきました。だから日本の刑法も「犯罪」は、被害が発生したときにのみ成立することを原則とし、したがって人の内心にとどまっている限りは処罰しないということになっています。
たしかに未遂の処罰はあり、例外的に予備といってもっと早い段階で処罰される犯罪もあります(ex殺人予備、強盗予備など)。しかしそれは被害がでる危険性が外からみてもある程度は高まったという段階で、処罰するものです(例えば凶器の準備など)。犯罪を計画したり、犯罪する意思を固めたり、他人との間で犯罪することを合意したりといった段階ではまだ処罰しない、それを行動に移したところで初めて処罰するというのが大原則だったわけです。
共謀罪というのは、この原則を打ち破るものです。単なる人と人との話し合いを「犯罪」としてしまうものなのです。しかも、これまで政府が提案してきた共謀罪法案は、対象犯罪を長期4年以上の懲役又は禁固の罪としており、皆さんにもおなじみの窃盗、詐欺、恐喝、横領、私文書偽造、傷害、覚せい剤使用などの罪がすべて入っております。
したがって、例えば友人とのメールのやりとりで、旅行の計画を立てた際に一部だけキセルで電車に乗ろうと計画してしまったら、たとえ実際には計画を中止して料金を払っていても、犯罪が成立してしまいます(詐欺罪の共謀罪)。知人との電話で、古本屋で好きなアイドルの写真集の万引きをしようと話し合ってしまえば、見つかることをおそれて止めたとしても、犯罪が成立してしまうのです(窃盗罪の共謀罪)。
人が内心で思い、それを口に出して他人に話をしたとしても、実際に行動へ移すまでにはすごく距離があることは皆さん、よくご存じかと思います。会社を辞めようと思うと同僚や家族に話したことがある方はたくさんおられると思いますが、実際に辞めるということを実行できるかというと、そう簡単にはいかないというのと同様です(もちろん、辞めることは罪ではないですが)。
友人に対して、実際には許されないこと、だから本心ではするつもりはないことでも思わず口に出してしまう、盛り上がって計画までしてしまう、それが弱さを抱えた人間であり、でも実際に行動を移さないかぎりは、誰にも迷惑をかけておらず、許されるべきである、少なくとも「犯罪」とされるべきでない、これが自由で活力ある豊かな社会であり続けるために必要である、と弁護士会は考えています。
いずれにせよ、共謀罪法が成立してしまえば、「犯罪」の範囲が飛躍的に広がり、私たちの自由が大幅に減ってしまうことになることは間違いありません。だから私たち弁護士会は共謀罪の創設に反対しています。
そして、もう一つ弁護士会が反対する理由があります。それは盗聴や監視社会化の問題です。上で述べたとおり、人と人とが犯罪について合意すること(=共謀)、これが犯罪となるとすれば、そのための証拠は、そのやり取りを示す録音データやメールになってきます。先の例でも、友人とキセルを計画した際のメールこそが証拠となります。写真集の例でも、友人と万引きの計画をした電話の録音データが証拠となるのです。
被害が発生した場合のみを処罰するとする原則をもつ現行の刑法であれば、例えば窃盗であれば盗んだ物が有力な証拠となるし、殺人であれば死体や凶器が重大な証拠となります。でも、犯罪被害という結果を生む前の段階で処罰する共謀罪では、こうした証拠はそもそも存在せず、会話そのものを処罰しようとすれば、その会話を直接押さえてしまうことが必要となってしまうのです。
折しも、先の通常国会では、通信傍受法が改正されました。いわゆる盗聴法として世論の反対にあいながら1999年に成立した法律ですが、これまで対象犯罪が薬物、銃器、密航、組織的殺人に限定されており、通信事業者(NTT)の立ち合いも要件とされていましたから、そもそも傍受の装置が東京にしかなく、年間数件程度しか利用されていませんでした。ところが、今回の改正で、放火、殺人、傷害、逮捕・監禁、強盗、窃盗、恐喝、詐欺、児童ポルノまでも対象となり、しかも通信事業者の立ち合いも要件から外されました。そこでこれからは全国の警察署で頻繁に通信傍受が実施されることが予想されます。そこに共謀罪ができてしまえば、私たちのメールや電話が際限なく捜査機関から盗聴されてしまう社会がやってくるのではないか、と危惧されるわけです。
また、近年町中に監視カメラが設置されるようになりました。いつのまにか公園や海水浴場にまでカメラが設置されており、私たちの私的な行動も監視下におかれています。またマイナンバー制度も導入され、一人ひとりに背番号が付けられてしまいました。私たちの個人情報を政府が一元的に管理していくための仕組みが整えられてしまっているのです。そこに、「共謀罪」が加われば、私たちの日々の行動が常時政府から監視される社会はもう目の前です。
兵庫県弁護士会では、9月11日に共謀罪に反対する市民集会を開催しました。ジャーナリストの斎藤貴男さんと坪井兵輔さんをお呼びして講演をいただきました。斎藤さんは、共謀罪の創設は、お互いがお互いを監視しあう社会へと向かうことになると警鐘を鳴らしていただきました。坪井さんからは、東ドイツの取材体験を通じ、子供が親を告発したり、妻が夫を告発したりして、人間性を破壊していく監視社会の恐ろしさを語っていただきました。
共謀罪の創設は、私たちのプライバシーを破壊するとともに、相互信頼という人間が人間らしくあるために必要不可欠な関係性をも奪い取ってしまいかねないのです。
以上述べてきたとおり、共謀罪の創設はわが国の社会の在り方を根本的に変えてしまう恐れがあります。政府はテロなどの犯罪を取り締まるためと強調しますが、そのためだけに利用されるかどうか、まったく保証はありません。そもそも、我が国ではテロ対策の法整備はある程度整っており、共謀罪の創設など必要ありません。子供たちの未来に責任をもつ私たちが、反対の声をあげ、共謀罪創設に反対しつづけねばなりません。
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