《第582号あらまし》
 労働法連続講座
     第3回 労働契約法第4章「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)」
 第3回 過労死等防止啓発シンポジウムの報告
 北海道労働委員会第42期労働者委員任命,連合独占を打ち破る!
 12・9 働き過ぎ・不払い残業なくせ!全国いっせい労働相談ホットライン


労働法連続講座
第3回 労働契約法第4章「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)」

弁護士 本上 博丈


1 労契法第4章の全体像

有期労働契約に関する法律規定としては,民法626条,628条,629条のほか,労基法14条に有期労働契約の契約期間は原則として3年までとする規制があり,労働契約法(以下,労契法)の2012年8月改正前は,労契法17条のみで,17条1項は契約期間中の解雇の禁止,2項は労働者を使用する目的に照らして,契約期間の必要以上の細切れをしないよう配慮する義務を定めていた。

2012年の労契法改正によって,労契法18条から20条までの3か条が追加された。18条は無期契約への転換,19条は有期労働契約の更新等による雇い止め制限法理の明文化,20条は無期契約と比べて有期契約であることによる不合理な労働条件の禁止を定めた。改正法の施行日は,19条は改正法公布日である2012年8月10日,18条及び20条は政令により2013年4月1日である。


2 全く不十分な有期労働契約に対する規制

有期労働契約は,期間満了の都度雇い止めリスクがある不安定雇用であり,また正社員(無期労働契約)と比べて著しい低賃金であることが一般的である。企業にとっては,低い賃金コストで使うことができ,しかも雇用調整しやすい労働者だから,誠に都合がいい。こんな理不尽がまかり通っている理由は「契約自由の原則」の名の下に,有期労働契約に対する規制がほとんど行われてこなかったからである。

2012年の労契法改正に際しては,入口規制,すなわち有期労働契約は仕事自体が臨時的であるなどの合理的理由がある場合に限って許されることにする規制が望まれたが,それはかなわず,若干の出口規制が制度化されるにとどまった。


3 第17条(契約期間中の解雇等)

(1) 第1項関係

① 契約期間中の解雇につき,「やむを得ない事由」があるとして有効と認められるのは,解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合(=無期契約の解雇が有効となる場合)よりも狭いと考えられている。契約期間について合意している以上は,その合意は守られなければならないという契約原則に基づく。

② 有期労働契約において契約期間中の解除権(解雇権)が留保されている場合でも,条項上のその留保解雇権行使事由があるというだけで当然に労契法17条1項の「やむを得ない事由」があると認められるわけではなく,実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的に判断される。例えば,期間1年の有期労働契約で,「遅刻を2回以上したとき」は契約期間中といえども解雇する旨の特約がある場合において,5分程度のわずかな時間の遅刻を2回しただけで業務への支障も特になかったというときには,形式的には特約の解雇事由に当たるものの,実質的には中途解雇が許容されるほどの「やむを得ない事由」に当たるとは到底考えられないので,その特約に基づく解雇は無効となる。

(2) 第2項関係

短期雇用の濫用防止の趣旨に照らし,期間の定めについて配慮を欠く場合には目的(現実に就労した業務内容やその必要期間)との関係で雇止めの無効を主張する論拠の一つになりうる。


4 第18条(無期契約への転換)

(1) 第1項関係

ア 概要

無期契約への転換請求権を定めた18条1項は,

①同一使用者との間の2回以上の有期契約の通算契約期間が5年超となったときに,②現在の有期契約期間の満了日までに,③無期契約締結の申し込みをした場合に,無期契約に転換することとし,④転換した無期契約の労働条件は,転換申込み当時の有期契約の労働条件と同一とする,と定めている。附則2項により,通算契約期間は,2013年4月1日以後に初日が来る有期労働契約からカウントする。したがって第18条の転換権を行使できる有期契約労働者が現れるのは,2018年4月1日以降となる。

このように有期労働契約の通算契約期間が5年超になると単純な雇止めはされなくなるが,賃金や勤務時間等の労働条件は変わらないから,無期転換しても正社員になれるわけではない。また18条2項は,空白期間が6か月以上ある時は空白期間前の契約期間は通算契約期間に参入しないとする,いわゆるクーリングオフ期間を定めている。

イ 注意点

① 「同一の使用者」はまず,事業場単位ではなく,契約主体単位なので,Y社の甲工場で6か月,乙工場で6か月,別々の有期労働契約であっても,通算される。また使用者が無期転換申込権の発生を免れる意図をもって,派遣形態や請負形態を偽装して,労働契約の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は,第18条1項の通算契約期間の計算上は「同一の使用者」との労働契約が継続していると解される。これが言える場合は,第18条2項のクーリングオフ期間の問題にならない。

② 無期契約への転換は自動的になるわけではなく,労働者が転換を申し込む必要がある。転換申込みは,通算5年超となる契約期間の初日からその期間満了日までの間に行うものとされているので,転換申込み時点で通算5年超でなくてよい。但し,無期契約に転換するのは転換申込みをした時ではなく,有期労働契約の期間満了日の翌日である。

③ 最初に5年超となる契約期間中に転換権の行使をしなかった場合でも,クーリングオフ期間を満たさずに次の有期労働契約を締結したときは,次の契約期間中に改めて転換権の行使が可能になる。

④ 無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に,転換権の行使をしないことを契約更新の条件とするなど無期転換申込権を予め放棄させることは労契法18条の脱法で公序良俗違反なので,その放棄の意思表示部分は無効と解される。

⑤ 無期転換権を行使した労働者について,使用者がその(最後の)有期労働契約の期間満了時に雇用契約関係を終了させるためには,無期転換権行使によって既に無期労働契約が成立しているので,その無期労働契約を解約=解雇する必要があり,労契法16条の規制を受ける。

⑥ 副作用=転換回避のための5年直前の雇い止めを防止する措置としては,第19条しかない。

(2) 第2項関係

原則として空白期間が6か月以上ある時は,空白期間前の契約期間は通算契約期間に参入しないとするクーリングオフ期間を定めた規定である。非常に複雑なので,労働契約法全体のリーフレット「労働契約法のあらまし」p36の図表で,その都度確認して下さい。

18条2項の空白期間によるクーリングは,国会審理の中で「例として,育児や介護といった労働者側の事情により離職をした後にそうした事情が解消して,過去の職務経験を生かすために同じ企業に復帰しようとするケース」や「生産の減少,繁忙期と閑散期というような事例など使用者側の事情により離職をした後,また仕事量が増えてきたとか生産量が増えてきたというようなことで,再び前と同じ仕事をしていた人に復帰してもらうような例」,つまり空白期間の実質的理由がある場合を想定されている。そもそも労契法改正の目的が有期契約労働者の雇用の安定にあり,新18条はその方策として無期転換制度を導入したことからすれば,クーリングの悪用による無期転換制度の脱法は許さない解釈をしていくべきである。

またクーリングオフ期間の計算をする前に,「同一の使用者」の脱法事例でないかを必ずチェックして下さい。


5 第19条(有期契約の更新等)

(1) 概要

労働契約期間満了による雇用関係終了=雇止めを一定の場合に規制する最高裁判例を法文化したもの。2つのタイプがあり,ア)反復更新型は東芝柳町工場事件・最判昭和49年7月22日に,イ)合理的期待型は日立メディコ事件・最判昭和61年12月4日に,それぞれ基づく。

内容は,①ア)「過去に反復更新して,雇止めが無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合」またはイ)「労働者の更新期待に合理的な理由がある場合」で,②「期間満了日までに労働者が有期労働契約の更新の申込みをした場合」または「期間満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした場合」であって,③使用者が②の申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と言えない時は,④従前の有期労働契約と同一条件で,更新等したものとみなす。

(2) 注意点

① 判例法理の明文化と言われているが,「期間満了日までに労働者が有期労働契約の更新の申込みをした場合」または「期間満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした場合」は新たな要件付加。雇止めされたらすぐに「雇止めには不服がある。雇用継続を求める。」旨の文書を提出する(提出日を記載したコピーを残す)。

② 合理的期待型の「満了時」における合理的期待の有無は,最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間のあらゆる事情が総合的に勘案される。したがって,一旦,労働者が雇用継続への合理的期待を抱く事情があったにもかかわらず,契約期間満了直前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言しても,それだけで直ちに合理的期待が否定されることにはならない。


6 有期契約の雇用継続のツール(これまでのまとめ)

① 契約期間中の解雇に対しては,労契法17条。

② 5年超までの雇止めに対しては,労契法19条の雇止め制限法理。

③ 5年超になれば労契法18条の無期契約への転換請求。

④ 期間に関係なく更新手続きが特にないまま雇用関係が続いている場合には,民法629条1項に基づく黙示の更新による無期契約化。

⑤ 期間設定の目的が適格性評価の場合(特に新卒者)は,試用期間。


7 第20条(不合理な労働条件の禁止)

(1) 概要

同一の使用者に雇用される無期労働契約の労働条件と有期労働契約の労働条件が相違する場合において,期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するもの。

規制の内容は,①有期契約の労働条件が,無期契約のそれと相違する場合,その相違は,②業務の内容及び責任の程度(併せて「職務の内容」),その職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,③不合理であってはならない。

(2) 注意点等

① 厚生労働省の解釈では,「通勤手当,食堂の利用,安全管理などについて労働条件を相違させることは,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由のない限り合理的とは認められないと解される」としている。

② 労契法20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり,その労働条件は無期労働契約の労働条件と同内容のものと解されるようになる。

③ 厚生労働省の解釈では,「定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては,定年の前後で職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば,特段の事情がない限り不合理と認められないと解される」としている。

④ 労契法20条の解釈適用をめぐる最近の著名事件として長澤運輸事件(民法協ニュース第578号)がある。定年後,会社との間で有期労働契約を締結して嘱託社員として就労していたXが,期間の定めのない労働契約を締結している定年前の従業員との間に,不合理な労働条件の相違が存在すると主張して,当該不合理な労働条件の定めは労契法20条により無効であり,一般の就業規則等が適用されることになるとして差額賃金等の支払いを求めた事案。東京地判平成28年5月13日労判1135-11は,定年後の嘱託再雇用の有期契約労働者である原告Xと,正社員との間に,職務の内容,当該職務の内容および配置の変更の範囲にまったく違いがないにもかかわらず,賃金の額に関する労働条件に相違を設けることを正当と解すべき特段の事情が認められないとして,Xの請求認容。しかし,東京高判平成28年11月2日(労判1144-16)は,期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁じた労契法20条は定年後の再雇用における有期労働契約にも適用されることは認めたものの,定年前と業務内容などは変わらなくても,定年後の雇用継続に際して一定程度賃金が減額されることは一般的で,社会的にも容認されていると考えられるなどとして,「不合理であるとは言えない」とし,東京地裁判決を取り消し,Xの請求を棄却した。

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第3回 過労死等防止啓発シンポジウムの報告

過労死等防止対策推進兵庫センター 事務局長 弁護士 今西 雄介


2014年11月1日の「過労死等防止対策推進法」(以下、「過労死等防止法」といいます)の施行から2年が経過しました。この法律では、過労死等が社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等の防止のための対策の推進が国の責任であることが明記され、具体的には厚生労働省が過労死や長時間・過重労働などの防止対策を効果的に推進するために大綱を作成し,民間の団体が行う過労死等の防止に関する活動を支援することなどが規定されています。

そして、兵庫県においても過労死等の撲滅を願う遺族と弁護士らが中心となって、2014年11月12日に過労死等防止対策推進兵庫センター(以下、「兵庫センター」といいます)が結成されました。兵庫センターはこれまで、過労死等防止全国センターや労働局とも連携して,過労死等防止対策の具体化を推し進めてきました。

特に、第3回となる2016年11月22日の過労死等防止啓発シンポジウムの開催に当たっては、主催者である国(労働局)、兵庫県、神戸市などと半年前頃から打ち合わせを重ね、同シンポジウムのアピールのための兵庫センターによるティッシュ配りには、兵庫県の公認キャラクター「はばタン」と、神戸市職員の方も応援に駆け付けて下さいました。過労死等防止法で謳われた、国が主体となって取り組む過労死等の防止対策に、地方公共団体や民間団体が連携を取って協力するということがまさに実践されたのです。

また、同シンポジウム開催の直前である2016年10月に「電通社員の過労自殺」という衝撃的なニュースが飛び込んできたこともあり、世間的にも過労死への関心が高まっており、同シンポジウムも360名という兵庫県民センターの定員を超える参加があり、立ち見の方も出るほどの盛況でした。

内容としても非常に充実しており、最初に上記電通事件の遺族代理人を務めておられる川人博弁護士による基調講演がありました。川人弁護士は戦前からの過労死の歴史などをわかりやすくお話しいただくとともに、電通事件の実態などもお話しいただき、参加者に衝撃を与えました。

次に、兵庫労働局から兵庫県における過労死及びその撲滅対策の実態について報告があり、兵庫労働局としても過労死撲滅に全力で取り組むとの力強い言葉がありました。また、労働者の時間管理を徹底した結果、時間外労働の削減にも繋がったという兵庫県の企業「SECカーボン」からの報告がありました。

そして、10分程度の休憩を挟み、落語家の桂福車さんによる過労死問題や過労死等防止法をテーマにした落語「エンマの願い」が披露されました。ユーモアを交えながらも難しい過労死や労働法関連の知識を取り入れて、そして思わずホロリとさせられる遺族の悲しみなども交えており、非常に素晴らしい落語でした。その後も兵庫センターの代表である西垣廸世さんからの兵庫センターの活動報告、過労死遺族の願いなど盛りだくさんの内容でした。

前回のシンポジウムが200名程度の参加だったことを考えると、今回の360名という参加者からすれば今回のシンポジウムも大成功だったといえます。

もっとも、電通のように過労死等の発生を繰り返してしまう企業の存在や、その後の武蔵野大学の教授による「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない。」等といった、過労死等の被災者や遺族等を徒に傷つけるような発言の根底には、過労死等に対する社会の理解がまだまだ進んでいないことにあると考えています。過労死等防止法や大綱にも書かれているとおり、「過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の関心と理解を深めること」が重要なのです。

我々兵庫センターは、これからもシンポジウムへの協力はもちろん、継続的な過重労働相談、高校や大学での過労死防止授業など、過労死撲滅に向けた様々な活動に精力的に取り組んでいきます。最後になりましたが、シンポジウムにご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました、今後も兵庫センターへのご支援をよろしくお願いいたします。

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北海道労働委員会第42期労働者委員任命,連合独占を打ち破る!

弁護士 増田正幸


すでに民法協ニュース(第580号)でお知らせしたとおり,2016年7月11日に札幌地裁が2014年12月の第41期労働者委員について道労連推薦候補者を選任せず,連合推薦候補者だけを選任したことを違法とする判決を出しました。

その後,北海道知事は2016年11月15日,12月1日付けで第42期北海道労働委員会の労働者委員として道労連が推薦する赤坂正信道労連副議長を任命することを発表しました。

兵庫県と同じく,北海道でも1989年の労働界再編までは,総評・同盟・中立労連の各系統から労働者委員が任命されていました。ところが,1990年の第9期以降は第41期まで,12期24年間にわたって連合独占が続いていました。

これに対して,道労連は第37期から第41期に至るまで労働者委員の偏向任命について,10年間にわたり裁判闘争を展開し,第39期から第41期までの任命についてはこれを違法とする判決を勝ち取ってきました。

そして,とうとう第42期に至って連合独占を打破しました。

北海道は,兵庫県と同じく労働者委員の定数は7名です。組織労働者32万8000人中,連合24万(73.4%),労連1万9000人(5.8%),その他が6万9000人(20.8%)です。

これに対して,兵庫県は組織労働者39万人,その内連合兵庫27万9000人(71.0%),兵庫労連1万6000人(4.1%),その他が9万7000人(24.9%)となっています。

なお,北海道では労働者委員の選任の方法として「労組法及び54号通牒の趣旨,労働界の原状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,第一段階として,系統別及び産業分野別の組合員数の割合を基に,労働組合の推薦を受けた候補者から北海道を代表する者として選任した場合の組み合わせを想定し,再任候補については,労働者委員としての経験,紛争の解決努力等の職責の遂行状況も加味し,労働者委員として円滑で的確な職責の遂行が期待できる者かどうかを検討」するとしており,兵庫県の選任基準とは異なっています。

北海道では,選任に当たって54通牒という労働省の通達(系統の違いを考慮することを要求)も考慮することを明記しており,「系統の違いは一切考慮しない」という兵庫県の建前とは異なっているため,札幌地裁の判決をそのままあてはめるだけでは兵庫県における連合独占を破ることは困難です。北海道の成果を励みに,また,北海道の闘いに学んでさらに運動を強化しましょう。

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12・9 働き過ぎ・不払い残業なくせ!全国いっせい労働相談ホットライン

兵庫県労働組合総連合・兵庫労連労働相談センター 北川 伸一


いのちと健康を守るために

12月9日、「12・9 働き過ぎ・不払い残業なくせ! 全国いっせい労働相談ホットライン」を実施しました。全労連全体で取り組み、全国47都道府県・32地域、79ヶ所、133台の電話、254人の相談員が対応しました。

県内では尼崎、西芦、東播、但馬の各地域組織(労働相談所)、そして兵庫労連労働相談センターの5カ所で実施しました。

今回の取り組みは、電通で過労自死という痛ましい事件がおきるなど長時間過密労働が大きな社会問題となる中、実施しました。また、年末を前にして解雇や雇止めなど労働トラブルが増えることが予想され、一人でも多くの労働者の悩みを解決できるように取り組みました。


働き過ぎではなく「働かせ過ぎ」が現実

当日、兵庫労連労働相談センターは従来通り臨時電話を2台増設し、民法協の先生方の協力(8名)を得るなど、体制を整え準備しましたが、件数的には低調でした。県下の他4ヶ所も同様でした。独自宣伝の弱さがあったと同時に、「マスコミ報道」が少なかったことが要因だと思います。次回以降の改善を期しつ、兵庫労連労働相談センターの具体的な報告を記します。

実施日時 12月9日(金)10:00~19:00
電話台数 4台
相談員 12名(弁護士8名含め)
相談件数 7件-すべて電話
相談者 男性3名、女性4名 (父親と母親から子どもの相談各1件)
年代 20代2名、30代1名、40代2名、60代1名、不明1(聞き取り忘れ)
雇用形態 正社員1名、パート・契約・アルバイト3名、派遣・請負1名、不明2(同)
相談内容
(重複あり)
賃金・残業代未払い2、労働時間・休暇3、パワハラ・セクハラ1、労災・職業病1、メンタル不全・疾患1
〔主な事例①〕 母親から息子さん(25歳)の相談
関電の関連会社 勤続3年 正社員 現場管理者
相談内容 連日、長時間労働が続いている。朝6時過ぎに出て帰宅は翌1時2時になる。神戸市内の寮にいたが、現在は現場が近くなので自宅から行っている。いくら残業しても月20時間の固定残業制度ということで支払なし。11月は休みが3~4日だった
アドバイス 過労死ラインを超す勤務(残業)息子さんに「異常な勤務状況」だということを自覚してもらい早急な対応が必要。弁護士事務所の電話番号を伝え再相談を勧めた。
〔主な事例②〕 父親から息子さん(40代)の相談
入社3ヶ月目 ハローワークの求人で入社 バス運転手
相談内容 朝5時から21時迄勤務している。求人票にあった「手当」が付いていない。残業代も付かない。土・日も休みなし。
アドバイス 労基や職場の組合に申告・相談してはどうか、と勧めた。しかし、この取り組みの趣旨が理解してもらえなかったようで「労基や組合・会社に直接連絡してくれないなら、『ホットライン』の意味なし」と電話を切った。

あきらめないで、組合に入って共に解決しよう

兵庫労連そして幾つかの地域組織は、今回のような集中した取り組みとは別に、日々相談活動を続けています。また、まだまだ人数的には少ないですが、相談から組合加入し団体交渉をして解決した例も少なからずあります。今年(1~11月)の相談の現時点での結果は以下の通りです。(各項目の合計数は相談者の意向もあり聞き取れないことがあり一致しません)

相談件数 532件
内訳 男性258名、女性264名
年代 20代・76名、30代・102名、40代・148名、50代・106名、60代~・44名
雇用形態 正社員237名、パート・契約・アルバイト197名、臨時・嘱託10名、派遣・請負45名、その他11名
事業所規模
(従業員数)
~29人・200名、30人~99人・94名、100人~299人・64名、300人~999人・25名、1,000人以上・41名
相談内容
(複数回答あり)
パワハラ・セクハラ・いじめが72件、賃金・残業代未払いが71件、解雇・雇い止めが70件、労働時間・休暇が42件(ここまで昨年と同じ順番)、労働条件切り下げ28件、退職強要・勧奨が23件
〔事例を紹介〕
        尼崎
A新聞とB新聞の販売所統合に伴うAの配達員全解雇について。配達員は高齢者が多い。また、副業(掛け持ち)している人もいる。経営者は20代。組合に加入し、統合先に全員を雇用をすることを求め、団体交渉を予定。
西芦 アパレル関係(販売)に勤務する20歳代女性。パワハラが酷く、本人は退職を決意。しかし、有給休暇取得の申請を認めないこともあり、組合加入し社長と組合役員が面談協議。後日、有休取得を認め円満退職に。
西播 姫路駅近くにある食堂勤務(勤続約7年)の女性。11月始めに「解雇通告」を受ける。理由は「上司の指示に従わない」というもの。従業員の出入りが激しく、新しく人が入っても3ヶ月位で辞める人が多い。人間(労使)関係が悪化している中で、働き続けるのは難があり、有給休暇の「買取」と解決金(退職金制度がないのでそれに代わる物として)を要求することを検討中。
神戸 労働相談から地域労組神戸に加入。上司の暴言(パワハラ)や12連勤するなど過重労働により、メンタル不全に。昨年12月中旬から休養、本年4月から休職。会社は10月始めに休職期間満了による「自然退職」を通告。規定(就業規則)によるとしているが、周知徹底されておらず、本人にとっては「寝耳に水」。労災申請も視野に入れながら、休職期間の延長(雇用関係の継続)を求め(現時点で会社は条件付きながら応諾)労使関係(団体交渉等)での解決を模索中。

アベ「働き方改革」を許すな!運動で展望を開く

安倍首相は「働き方改革」を、現内閣の「最大のチャレンジ」と位置づけ、9つのテーマに取り組むとしています。その中には、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現、最低賃金の引上げなど、労働組合が長年掲げてきた課題も含まれており、多くの労働者が注目していると言われています。しかし、検討中の政策の内容をみると、およそ労働者の要求には程遠いもので、それどころか、真逆の方向を目指すものと言わざるを得ません。例えば「残業時間の上限規制の検討」を掲げていますが、実際に厚生労働省の検討会で議論されているのは「柔軟で弾力性のある規制」というもので、中身は労働時間の規制が適用除外される「柔軟な働き方」を導入し、「残業代ゼロで働かせ放題」(高度プロフェッショナル制度=残業代ゼロ法案)を合法化しようとしています。私たちも、無法な「解雇」に対し、その撤回を求め職場復帰の実現に向けて裁判を闘った経験が少なからずありますが、アベ「働き方改革」では裁判で解雇無効とされても一定の金銭を払えば解雇ができてしまう「解雇自由法制」の実現も目指しています。

例を挙げれば切りがありませんが、「働く人の立場に立った改革」(9月26日の首相所信表明)という安倍首相の言葉には強い疑念を持たざるを得ませんし、本音は「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりのため、労働法制・雇用政策を経済(グローバル大企業の利益)に従属させ、産業・企業の新陳代謝(再編)と一体で、雇用のさらなる流動化、非正規化をはかろうとしていることにあるのは、明らかであると思います。

しかし、自分の将来(働き方)に希望を見いだせない人たち、とりわけ若者・非正規雇用労働者の中に、「労働者のためのように装っている」この「働き方改革」に期待を寄せている人が少なからずいることも事実です。暴走を加速させている安倍政権の支持率が、思ったほど落ちない(高止まり?)ことの要因にもなっているのでは、と考えます。  

労働者のやるせない気持ちに付けいり幻想を振りまいている、このまやかしの「働き方改革」の本当の中身(狙い)を早急にそして広く知らせなければなりません。今臨時国会では成立を見送ったようですが、次期通常国会で「強行可決・成立」させる意図が強く見えます。私たちは運動を強め、共同の輪を広げ、廃案に追い込むため奮闘していきます。 

*今回の「労働相談ホットライン」も兵庫民法協の先生方に全面協力をしていただきました。紙面をお借りしお礼を申し上げます。ありがとうございました。日常の相談活動へのご協力始め、今後ともよろしくお願いします。     

ご協力いただいた兵庫民法協の先生方

*敬称略

今西雄介(神戸合同法律事務所) 守谷自由(神戸あじさい法律事務所) 坂本知可(神戸あじさい法律事務所) 野田倫子(花くま法律事務所) 八木和也(中神戸法律事務所) 萩田 満(中神戸法律事務所) 本上博丈(中神戸法律事務所) 大田悠記(神戸合同法律事務所) 以上

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