昨年同様、今年も「おめでとう」とは言えない気持ちです。アメリカでのトランプ大統領の誕生(今年1月20日就任)、中東におけるシリア内戦、イラクのIS掃討作戦、新年早々のトルコ・イスタンブールでのテロなどなど。我が国では沖縄で新年早々から辺野古の海の埋め立てが始まる、沖縄で闘う山城さんの長期拘留は昨年から今年を跨いで続いており、正月休みも心が安まることはありませんでした。「去年今年貫く棒のごときもの」(高浜虚子)。去年も今年も丸抱えして貫流する天地自然の理(ことわり)を詠んだとされていますが、今の心境は天地自然ではなく自分の心の中のいじけた気持ち、何も変わらんやんけ。
労働者・労働組合をとりまく厳しい情勢も変わってません。今年の毎日新聞の社説は元旦早々から「歴史の転機」と題して、政治経済に関する社説を掲載、4日は「グローバル経済・保護主義には戻れない」でした。勿論、トランプ占いです。曰く。
「グローバル経済で恩恵を受けているのは、工場を海外展開して安い労働力で利益を稼ぎ出す企業(トヨタなど製造業)、一部の経営者は巨額の報酬を獲得,金融技術・投機性を高めた資金は獲物を求めて世界を巡り富裕層にますます富が集中する。格差が拡大する中で没落する中間層が取り残される。しかし反グローバル経済で中間層が復活、格差社会が是正されるのか。されない。安い輸入品(海外展開した企業が母国へ輸出)を締め出せば、消費者の暮らしを圧迫、生産の最適化を求めて世界を横断している生産のネットワーク・サプライチェーンを分断すると生産は格段に落ち込み・・国内で一から作る製品は割高になり、海外での競争力は失われ待っているのはじり貧であろう。経済成長どころかマイナス成長に落ち込みかねず,そうなれば中間層の苦境はいっそう深まる。だからそうじゃなくて、先ず富裕層から中間層への所得配分を進めるため適正な課税を実現、そこから得られた財源で失業対策や職業訓練などを実現すべきだ」
んなことで本当に格差社会の是正、中間層の生活が変わると思ってんやろか。そもそも安い輸入品を締め出すと消費者(中間層?)はじり貧になり、中間層の苦境はいっそう深まるのか。平成27年度の役員を除く雇用者は5284万人、正規の職員・従業員は3304万人、非正規の職員・従業員は1980万人、平均給与は正規が473万円、非正規が168万円です。この人達が消費者(中間層)なんでしょ。平均年収168万円の非正規労働者が2000万人近くいる訳で、この2000万人が正規雇用者の給与水準も引き下げていることははっきりしてます。安い商品が締め出されることによる苦境と年収200万円未満の労働者の苦境は比較にならんでしょうが。そろそろ経済成長という呪縛から解き放たれてもええのと違うかな。 新年妄言
このページのトップへ新年あけまして、おめでとうございます。
昨年12月、兵庫春闘共闘と医労連関西ブロックの春闘討論集会で、お二人の弁護士の記念講演を拝聴しました。お一人は中村和雄氏(日弁連・労働法制委員、同・貧困問題対策本部委員)、もう一人は尾藤廣喜氏(同・貧困問題対策本部副部長)。それぞれ「アベ働き方改革」、「貧困・生活保護政策」をテーマにお話をされましたが、エンディングは一致。日本の社会保障が貧弱だということでした。
憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」 2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」 |
9条とならび、解釈改憲が進められてきた条文です。安保法制に先立ち、2012年の社会保障制度改革推進法により、自助・共助を優先することが明文化されました。
(先のお二人は「教育」「住居」も、ヨーロッパのように社会的に保障されるべきだと提言されていました。)
“健康で文化的な最低限度の生活を営む権利”−この条文は、GHQの草案や政府案にはなく、大衆運動の到達として国会審議で盛り込まれた日本オリジナルの条文です。
憲法施行70年を迎える今年、貧困と格差が進む時代にあらためて、国の責任による社会保障のあり方や抜本的な充実を、労働組合の運動として考えてみる必要があると思います。
国民主権を行使し、国や地方自治の果たすべき役割を根本的に正せば、必然的に社会保障は変わり、カロ-シはなくなり、安保法制は不要になるでしょう。
民主的な法律の運用をめざし、ともにがんばりましょう!
このページのトップへ所定労働時間とは、会社と労働者との間の労働契約に基づいて、労働者が労働を提供すべき義務を負っている時間で、通常は、就業規則に、始業時刻・終業時刻・休憩時間が明記されている。
これに対し、残業代等、労働時間の計算は、この実労働時間でなされ、法定労働時間について、通説・行政解釈は、労働時間を「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」と定義しているところ、三菱重工業長崎造船所事件で、最高裁平成12年3月9日判決も、労基法32条の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である」と判示している。
その上で、最高裁は、入門-(歩行)-現場到着-(着替え、作業準備)-作業開始という労働の開始にかかわる一連の過程のうち、どの時点を労働時間の開始時点とみなすかという問題について、入門後に更衣所まで移動する時間は労働時間ではないが、「実作業に当たり、作業服のほか所定の保護具、工具等(以下『保護具等』という。)の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下『更衣所等』という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった」との事実関係のもとでは、「作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである」と判示した。
したがって、作業にあたり作業服や保護具等の装着が義務づけられている場合には、更衣所においてそれらを装着する時間およびその後の作業場まで移動する時間は労働時間に含まれることになる(西谷敏「労働法〔第2版〕」289~290頁)。JR東日本では、上記最高裁判決後、就業規則を改訂し、制服に着替えるための行為時間5分を所定時間内に認めたと言われている。
黙示的にでも使用者の指揮命令下にあれば労働時間であるから、着替え等だけでなく、本来の作業に必要な準備や後始末は、具体的な指示命令がなくとも労働時間である。
もっとも、上記最高裁判決が、「休憩時間中における作業服及び保護具等の一部の着脱等については、使用者は、休憩時間中、労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足りるものと解されるから、右着脱等に要する時間は、特段の事情のない限り、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえない」、作業後の洗身(入浴)についても、「実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったという」場合には、洗身(入浴)時間は労働時間ではないと判示している点には注意を要する。
このページのトップへ労基法が規制する「労働時間」は、「休憩時間」を除いた時間であり、現に労働させる時間である。「労働時間」には、現実に作業に従事している時間のみならず、作業途中で次の作業のために待機している時間である「手待時間」も含まれる。このことは、労基法41条3号が手待時間の特に多い労働を「断続的労働」として特別扱いしていることからも明らかである。
「手待時間」と「休憩時間」の区別は、前者が、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間としてその作業場の指揮監督下に置かれているのに対して、後者は使用者の作業場の指揮監督から離脱して労働から解放され、労働者が自由に利用できる時間であるという点にある。なお、労働基準法34条3項では、休憩時間は自由に利用させることが義務づけられている。
仮眠時間は、不活動時間であるが、このような不活動時間が労働時間にあたらないというためには、単に実労働に従事していないというだけではなく、使用者の指揮監督下にないこと、つまり労働からの解放が保障されていることを要する。
実際、手待時間、仮眠時間について争いとなった裁判例を紹介する。
(1)警備員・守衛等の仮眠時間(大星ビル管理事件:最高裁平成14年2月28日判決)ア ビルの警備員で、毎月数回、午前9時から翌朝同時刻までの24時間勤務において、連続7~9時間の「仮眠時間」が与えられた。外出は原則禁止され、飲酒禁止、仮眠時間中はビルの仮眠室で電話の接受、警報への対応等が義務付けられていたが、そうした事態が生じない限り、睡眠をとってもよいとされていた。
イ 仮眠時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは、不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる。不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて指揮命令下に置かれていないと評価される。
本件では電話や警報に対し直ちに相当の 対応をする必要が皆無に等しいとはいえず、仮眠時間であっても指揮命令下に置かれており、労働時間にあたる。
(2)ドライバーの入庫待ち停車時間(横浜地裁相模原支部平成26年4月24日判決)ア 工場で荷物の積み込みを待つ出荷場のトラックの停車時間について
トラックを停車させる場所は、出荷場へ向かう行列の途中であるから、行列が前に進む毎に自分の運転するトラックも前進させなければならないため、停車中はトラックを離れることはできなかった。
出荷場には、トラックが20台程度待機しており、荷物が滞留しないようにするため、常に荷出し担当者に注目し、自分が担当する荷物が出て来た時は、遅滞なく自分のトラックに荷物を運び、また、自分以外の被告の従業員の担当する荷物が出て来た時にも、その荷運びやラップ作業等を手伝ったりしていた。
イ 出荷場における待機時間は、いずれも待ち時間が実作業時間に当たり、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる。
以上のとおり、手待時間・仮眠時間が労働時間に当たらないといえるためには、手待時間・仮眠時間とされている時間について、労働からの解放が保障され、使用者の指揮命令下に置かれていないといえることが必要となる。
このページのトップへ(1) 通勤時間は原則として「労働時間」として取り扱われることはない。
(2) 現場作業に直行直帰する場合でも原則として「労働時間」とは取り扱われていない。
(判例)① 会社の寮から工事現場までの往復時間は、「通勤時間の延長ないしい拘束時間中の自由時間というべきもので、原則として賃金を発生させる労働時間にはあたらない」(高栄建設事件・東京地判H10.11.16労判758-63)
(1) 移動時間が「労働時間」と認められなかった裁判例
② 出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費す時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起り得ないと解するのが相当である。(日本工業検査事件・横浜地裁川崎支部決定S46.1.26労判194-37)
③ 長距離トラック運転手がフェリーを利用する場合の乗車時間を労働時間ではない、とする(立正運輸事件・大阪地判・S58.8.30労判416-40)
④ 国外出張の移動時間を労働時間ではないとする(横川電気事件・東京地判H6.9.27労判660-35)
(2) 移動時間が「労働時間」として認められた裁判例
⑤ 建築現場に出向く前に、時刻を指定して会社事務所に出勤するように指示されていると評価できるような状況があり、その後の車両による移動時間も、上司と組みになって、打ち合わせなり、指示に基づいて現場に赴いているような場合や、また作業終了後には会社事務所に戻ることが原則化している状況があって、帰社後には道具の洗浄等が義務付けられているような場合には、例え移動時間であっても、労働時間と解される(総設事件・東京地判H20.2.22労働判例966-51)
⑥ 物品の運搬自体が出張の目的である場合は、移動時間も労働時間と解される(ロア・アドバタイジング事件・東京地判H24.7.27労判1019-89)
⑦ 自ら自動車を運転して出張先に赴く時間は「労働時間」である(シニアライフクリエイト事件・大阪地判H22.10.14労判1019-89)
(3) まとめ
以上をまとめると、裁判例の傾向では、移動時間は、労働拘束性が低い・自由利用ができることを理由に、原則として「労働時間」とは取り扱われていない。その反対に、労働拘束性が高い事情があれば、労働時間として取り扱われている。
行政通達も、そのような考え方に基づいている。「出張中の休日は、その日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない。」(S37.3.17基発461号、S33.2.13基発90号)
なお、労基研第2部会中間報告(S59.8.28)は、次のような考え方にたって移動時間を労働省令で定めるべきと提言したことがあった。
労基研第2部会中間報告(S59.8.28)
① 移動時間の取扱い
ア 始業前、終業後の移動時間
(a)作業場所が通勤距離内にある場合は、労働時間として取り扱わない。
(b)作業場所が通勤距離を著しく超えた場所にある場合は、通勤時間を差し引いた残りの時間を労働時間として取り扱う。
イ 労働時間の途中にある移動時間は労働時間として取り扱う。
② 通常は事業場内で労働する労働者の宿泊を伴う出張の場合の労働時間の算定
労働時間の全部又は大部分が算定可能でない限り、全体として所定労働時間労働したものとみなす。
(1) 労働時間かどうかが問題となるのは、主に残業代請求の場面と労災認定の場面であり、ほとんどは残業代請求の場面である。逆にいえば、所定労働時間内に行われた移動は、一般的に「労働時間」として取り扱われるのが実務であり、労使で対立することは比較的少ない(就業規則、出張規程上、所定労働時間としているケースもある。)。理論的に説明するとすれば、結局のところ所定労働時間内のことであり労働拘束性があると言いやすいからであり、また、移動時間を外勤と同じように「労働時間を算定しがたいとき」にあたるとして、事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)を適用する裁判例もある(ロフテム事件・東京地判H23.2.23労経速2103-28)。
(2) 移動時間が所定時間外に及んだ場合には、実務的に、出張規程などで、出張手当を支払う旨を規定したり、みなし労働時間制を適用することが多い。このような実務が合理的でない(つまり「相当な賃金が支払われていない」)として訴訟となって争われるケースが多い。
(1)要件
・ 労働者が労働時間の全部または一部について事業場施設外で業務に従事したこと
・ 労働時間を算定しがたいこと
(2)効果
・ 所定労働時間だけ労働したものとみなす。
・ ただし、当該業務を従事するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。この場合において、労使協定があれば、協定に定める時間を当該業務の遂行に通常必要とされる時間とみなす。
(3)問題となる場面
・ 「労働時間を算定しがたいこと」のハードルは高い(特に、電子機器の発達、時間管理方針の徹底通達)(ほるぷ社事件・東京地判H9.8.1労民48-4-312など多数)
・ みなし労働時間数は実際の労働時間数と乖離していてはいけない。
このページのトップへ厚生労働省労働基準局長の平成13年4月6日付け基発第339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(労働時間適正把握基準)で,基本が定められている。
(1)労働時間管理の責任は使用者にあることこの点は,労働時間適正把握基準の冒頭に,「労働基準法においては,労働時間,休日,深夜業等について規定を設けていることから,使用者は,労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。」と記載されている。
(2)管理方法のルールア 労働日ごとの始業・終業時刻それぞれの記録が必要。
イ 記録の原則的方法
① できるだけタイムカード,ICカード等の客観的な記録によること。
② 使用者の現認による場合も,該当労働者からも併せて確認することが望ましい。
ウ 自己申告制について
① イの原則的方法が採れないやむを得ない場合に限られること。
② 適正な自己申告を行ったことにより不利益な取り扱いが行われることがないことなど,事前の十分な説明。
③ 適正な申告を阻害する目的で,時間外労働時間数の上限を設定したり,割増賃金に係る予算枠を設定したりしてはいけない。
④ 定期的な実態調査。
⑤ 自己申告制が適用されている労働者や労働組合等から労働時間の把握が適正に行われていない旨の指摘がなされた場合,実態調査を行う必要がある。
エ 労使協議組織の活用
① 労働時間管理の現状を把握の上,労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。
② 安全衛生委員会等の労使協議組織がない場合には,新たに労働時間短縮推進委員会等の労使協議組織を設置することも検討すべき。
① 厚労省の平成13年12月12日付け「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(いわゆる過労死認定基準)
発症前6か月間にわたる蓄積疲労による過労死=労災を承認し,1か月の残業時間が45時間を超えると,残業時間が増えるほど過労死の危険が高くなり,月間80時間以上の残業があった場合は,その業務と脳・心臓疾患との関連性は強いと考えられる,としている。
② 厚労省の平成14年2月12日付け「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」
過労死等を予防するために労使で取り組むべきことについて。
(2)賃金不払い残業の根絶厚生労働省労働基準局長の平成15年5月23日付け基発第0523004号「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針について」
賃金不払い残業分の残業代をきちんと支払わせることの意味を考えると,例えば,時間単価2千円の労働者につき,毎月1時間の賃金不払い残業分の残業代をきちんと支払わせるようにすれば(1日10分間として,6日分),それだけで2500円のベアを獲得したのとほぼ同じ結果になる。組合はベアなし春闘をなげく前に,残業代の完全支払に取り組もう!
労組は,その前提として,組合員への定期的なアンケート調査や会社からのデータ提供によって,時間外労働がどの程度なされているかの実情を正確に把握しなければならない。
普段からこのような実情把握をしていれば,リストラ提案が出てきたときにも,検討や反論の基礎資料になる。
ア 労働日ごとの処理
残業時間の端数を1残業ごとに切り捨て,または切り上げて,10分単位や30分単位に整理することは違法で,切り捨て分につき賃金全額払い原則(労基法24条1項)違反となる。例えば,13分→10分,28分→20分 というように10分単位に切り捨てることは 違法で,1残業に分単位の端数が生じてもそれをそのまま1賃金計算期間ごとに集計すべき。最近では,店員の労働時間を15分単位で切り捨てていたセブンイレブンに対して行政指導が行われたことが報道されていた。
イ 1賃金計算期間全体の集計結果の処理
30分未満の端数を切り捨て,30分以上を1時間に切り上げることは「常に労働者に不利になるものではなく,事務簡便を目的としたものと認められるから」労基法24条及び37条違反としては取り扱わないとされている(昭和63年3月14日基発150号)。 例えば,1か月間の時間外・休日・深夜労働の各々時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に,30分未満の端数を切り捨てて,それ以上を1時間以上に切り上げることとして,例えば,時間外労働:23時間14分→23時間,休日労働:11時間45分→ 12時間,深夜労働:8時間33分→9時間という処理をすることは許されている。
(2)時間単価の計算からの除外賃金残業代計算の基礎になる時間単価を月給から計算する際に,手当等で計算外にしてよいものとしては,労基法37条5項,労基法施行規則21条に次のように定められている。
① 家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,賞与は除外される。
② 但し,家族手当や通勤手当と称されていても,扶養家族の有無・数や通勤費用額などの個人的事情を度外視して一律の額で支給されている場合は,除外賃金に当たらない。
③ 「住宅手当」名目であっても,賃料額やローン月額による変動がなく,一定額を支給するもの(持ち家居住者は1万円,借家居住者は2万円など)は除外賃金にあたらない(平成11年3月31日基発170号)。
このページのトップへ(1)長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等
① 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
② 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
(2)多様で柔軟な働き方の実現として,
① フレックスタイム制の見直し
② 企画業務型裁量労働制の見直し
③ 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
2 「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)(1)同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善
(2)長時間労働の是正
(3)高齢者の就労促進
2008年に労基法が改正され,月60時間を超える時間外労働については割増賃金率は5割以上とされた。ただし,法改正時に中小企業については経営への負担を考慮して「当分の間」適用を猶予するとしたまま今日前8年間も放置されていた。
このような中小企業への猶予措置を廃止するという「改正」である。ただし,猶予措置が実際に廃止されるのはさらに3年後とされている。
2 一定日数の年次有給休暇の確実な取得(規制強化)最低5日の年休所得の義務化(労基法39条の改正)
年次休暇のうち5日は使用者が時季を定めて(強制的に)取得させなければならないこととする(39条第7項)。ただし本人が自分で取得した日数や計画的付与(夏季の一斉取得等)で与えた分は除く(8項)ということなので,年休を5日取得していない労働者に最低5日は強制的に取らせるということになるだけで,年休が増えたりとりやすくなるわけではない。
3 フレックスタイム制の見直し(規制緩和)労働日の始業時刻・終業時刻を労働者が自分で決めることを許す制度で,清算期間を平均して週40時間以内であれば,特定の日の労働時間が8時間を超えても残業扱いしなくてよい。
現行法が清算期間を1ヶ月以内としているを3ヶ月以内に延長する「改正」を行う。
清算期間を3ヶ月と決めた場合,そのうちの特定の月の週平均が50時間となっても割増賃金は発生しないことになり,繁忙期に残業代を支払わなくてよくなるという意味で規制緩和である。
4 企画型裁量労働制の見直し(規制緩和)(1)裁量労働制は業務遂行の時間配分などについて労働者の裁量に委ね,使用者が具体的指示をしない制度である。実労働時間に関わらず,労働者はあらかじめ労使協定などで決定された時間だけ労働したものとみなされるので,事実上残業規制が及ばなくなる。それゆえ,裁量労働制は,業務の遂行方法を大幅に労働者自身に委ねるのにふさわしい業務に限って認められる。
(2)現行法では,「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務であつて,当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため,当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(労基法38の4Ⅰ①)に対象業務を適切に遂行するための知識,経験等を有する労働者が就く場合」(労基法38の4Ⅰ②)にのみ適用されるとされているのを,対象業務を拡大する。
(3)具体的には,「企画,立案,調査及び分析」に「事業の運営に関する事項について繰り返し,企画,立案,調査及び分析を行い,かつ,これらの成果を活用し,当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務」と「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析を行い,かつ,これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務」を追加する。
(4)たとえば,「企画・立案された事業の実施についての管理や実施状況の評価を行う業務」に,店長や現場での生産管理や品質管理に従事する一般労働者にまで対象労働者が広がるおそれがある。また,商品の販売・役務提供の勧誘と契約は「営業」の業務ということができるから,広く「営業」にも適用対象が広がるおそれがある。
(5)さらに,法は,対象とされた労働者の健康及び福祉を確保するための措置をとることを要求し,現行法では6ヶ月以内ごとに1回と行政官庁への報告が義務づけられている(労働基準法施行規則第24条の2の5,附則66条の2)が,改正案では6ヶ月ごとの定期報告は不要になり,制度を導入した最初の6ヶ月後に1回報告しさえすればよいという規制緩和が行われる。
5 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設(規制緩和)(1)意義
職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が,高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に,健康確保措置等を講じること,労使委員会の決議や本人の同意等を要件として,労働時間,休日,深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
(2)対象業務=「高度の専門的知識等を必要とし,その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」として厚生労働省令で定める業務。
(3)労働者の範囲
① 職務範囲が明確であること
② 年収要件
1年間当たりの賃金が年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること(1000万円程度)
などが要件とされている。
(4)改正法は対象労働者に対して,健康管理措置を講ずることを義務づけているが,たとえば,予定されている健康管理措置の一つは「1年間を通じ104日以上,かつ,4週間を通じ4日以上の休日を確保する」というもので,週休2日さえ確保すれば祝日,盆,正月も働かせることが可能となるというもので,きわめて貧弱な規制である。
(5)高度プロフェッショナル制度は,成果で報酬を支払うことを目的として,労働時間と報酬のリンクを完全に切断するものである。
しかし,現行法によっても成果にもとづいて報酬を支払うことは可能である(現に多くの企業で成果主義賃金制度が導入されている)し,そもそも労働時間規制は労働者の健康を保護するためのものであるから,成果に基づいて報酬を支払うことは労働時間規制をはずす理由にならない。
(6)そもそも残業は例外的に許容されているにすぎず,時間外割増賃金は企業に対する一種のペナルティーなのであり,使用者は所定労働時間内で「業績」を上げるようにすべきところ,その努力を怠り,時間外労働に依存した経営を常態化させた上で割増賃金の支払いを免れるというのは本末転倒。
今回の制度についていままでなかった「成果に応じて報酬払う制度」を「新たに」導入するために,労基法の適用除外が必要なのだというような説明がなされているがこれは極めてミスリーディングで不当である。
(7)さらに,収入要件を引き下げることにより対象の拡大するおそれがある。
榊原経団連会長は「全労働者の10%には適用されるような制度を」と述べて要望しているし,経団連の2006年の提言では,年収400万円以上を対象と考えていた。すでに同様の制度が普及しているアメリカでは収入要件は週休455ドル(労働者全体の21%)とされている。
6 労働時間の上限規制(1)現行法は法定労働時間を週40時間としているものの,労使協定を結べば無制限に残業をさせることができるため,その上限の規制が検討されている。
(2)上限を直接規制する方法
① 現行の告示に強行的効力を付与し,特別条項による例外を許容しないという方法
② 変形制を採用した場合でも1日10時間という最長労働時間の上限を設定する方法(ドイツ)
③ 休息時間制度
終業から翌日の始業までの間に一定のインターバル(休息時間)を設定する
(3)労働時間の上限をどのような方法で規制するかはまだ具体的には明らかにされていない。
7 以上のとおり,労働時間の上限規制等,労働者保護に繋がる規制強化の面が強調される中,実際には大幅な規制緩和が予定されている。今後の国会の動きに警戒を要する。
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