《第585号あらまし》
 春闘学習会報告
     非正規労働者の組織化への取組
 新しい労働時間適正把握ガイドラインについて
 JMITU日本水産姫路支部との懇談会の報告
 全国一斉労働トラブル(長時間労働&雇止め阻止)ホットライン報告

春闘学習会報告
非正規労働者の組織化への取組

弁護士 萩田 満


2017年2月13日に開催された春闘学習会のテーマは、非正規労働者の組織化への取組です。

近年、非正規労働者が急速に増加し、今や労働者人口の4割にも及ぼうとしています。しかも、パート、アルバイト、嘱託、派遣社員、偽装請負など雇用形態は多様化し、老若男女をとわず不安定な雇用状態に置かれています。労働組合としても、また、民法協としても、こうした非正規労働者の問題を座視するわけにはいきません。1つは非正規労働者の生活自体が脅かされますし、2つはひきずられるように正規労働者も労働条件が切り下げられていくからです。非正規労働者に労働組合に加入してもらって、一緒に権利を擁護し格差を是正したい、と考えていても、思うほど成果が上がっていないというのが多くの労働組合の実感ではないでしょうか。

そこで、こうした組織化の取組について先進的な例に学ぼうと、今回は、民放労連京都放送労働組合の副委員長・古住公義氏をお招きして、KBS(京都放送)における非正規問題についての取組についてお話を伺い、あわせて、民法協加盟の組合である建交労と全港湾からも組織化の取組をどのようにしているか現状報告をしてもらいました。


まず、京都放送労働組合の格差税制と組織化の取組です。

京都放送労働組合は、早くから非正規問題に取り組んできました。早くも1970年代には、偽装請負(職安法違反)があったのを改善して、正社員化を勝ち取るという成果を上げてきました。また、京都放送は、バブルのころの経営問題から放送事業免許の更新が困難な状況にありましたが、労働組合が会社更生法を使いながら会社の経営立て直しにイニシアティブを発揮し、その最中であっても、関連会社の労働者を契約社員化する・正社員化する取組を継続してきました。

こうした取組を踏まえて、その後も、直接雇用を勝ち取ったり、正社員化を勝ち取ったりしてきたそうです。

京都放送労働組合は、こうした非正規労働者の問題を解決するのとあわせて、非正規労働者を組合に組織化する取組を継続してやってきました。一人の要求を実現するために、属する部署にいる人全員を組合に組織化するよう意識的に取り組んできた、そういった取組をする背景に張る考え方は、非正規労働者が直面する問題は単なる個人の問題ではなく会社全体の問題であるからだ、というものです。それが、非正規問題の取組と組織拡大とにつながっているとのことです。

古住氏が、取組が成功した労働組合の教訓として12のポイントを挙げていました。①同一価値労働同一賃金の原則にもとづいて行動する、②闘いの蓄積とそこでの教訓を生かす、③組合規約に誰でも労働組合に入れることを明記しておく、④労働組合がリーダーシップをとる、⑤当事者が先頭になって闘う、⑥職場の支持を得る、⑦学者・弁護士などと協力をしてその成果を組合活動に生かす、⑧スト権を確立する、⑨世間の情勢をきちんと入手する、⑩非正規労働者を労働組合に入れる、⑪正社員の要求も組合の要求として掲げる、⑫会社の弱点を知る、というものです。

京都放送労働組合では、レター配布を強化し、非正規労働者を組織化するために目標をきちんと立て、組織化するよう努力したか点検し、組合活動の対象者や責任者を明確に定めることをしながら粘り強く組合作りに取り組んできました。

古住さんのお話を聞いて、日々の継続的な取組こそ、労働組合の拡大・活性化の特効薬であることが分かりました。古住さん、ありがとうございます。


ついで建交労の津村さんからは、建交労の取組、とりわけ、労働者供給事業を行う中で、労働者供給事業部からの社員化を進めていこうとしていることの報告がありました。特に海上コンテナに多いそうです。

つづけて全港湾の井ノ元さんからも、同じように、海上コンテナの部門など労働者供給事業を通じての組織化の取組や、神戸市の外郭団体が解散するのに伴って受け皿会社を作りその中で労働者を採用していった経過が報告されました。


今回の報告を聞いて、労働組合が「目的意識をもって意識的に組織拡大に向けて取り組んでいくことの重要さが分かりました。

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新しい労働時間適正把握ガイドラインについて

弁護士 本上 博丈


1 はじめに

2017(平成29)年1月20日,厚生労働省は,「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定めた。このガイドラインは,厚生労働省の長時間労働削減推進本部が,電通の高橋まつりさん過労自死事件を受けて,厚生労働省労働基準局長の平成13年4月6日付け基発第339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(労働時間適正把握基準)を16年ぶりにより具体化したもの。労働時間適正把握基準の概要については,民法協ニュース2017年1月20日発行583号で紹介した。

ガイドラインは基準と基本的に変わるところはないが,問題が多発している自己申告制を中心に,使用者が執るべき措置について,より具体的かつ詳細な準則を設けている。

ガイドラインそのものはA4版4枚で,それほど長いものではなく,厚生労働省ホームページの長時間労働削減推進本部のページに掲載されているので,是非ご確認ください。またガイドラインについての事業者向けリーフレットのデータも同じページに掲載されていますので,そちらもご覧ください。


2 主な内容

(1)趣旨

現状認識として,「労働時間の把握に係る自己申告制の不適正な運用等に伴い,労働基準法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど,使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられる」としている。

(2)労働時間の考え方

まず三菱重工長崎造船所事件最高裁平成12年3月9日判決に基づいて,「労働時間とは,使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい,使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。」としている。

そして,具体的な場面として,①「使用者の指示により,就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(掃除等)を事業場内において行った時間」,②「使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており,労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる手待時間),③「参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や,使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」は,労働時間として扱われなければならない,としている。

(3)労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

使用者が始業・終業時刻を確認し,記録する原則的方法は,①「使用者が,自から現認することにより確認し,適正に記録すること」,②「タイムカード,ICカード,パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し,適正に記録すること」としている。

自己申告制は「これを行わざるを得ない場合」に限られ,その場合は,①対象労働者に対して労働時間の実態を正しく記録し,適正に自己申告することについて十分な説明をする,②実際に労働時間を管理する者に対して,適正な運用,ガイドラインに従うべきことについて十分な説明をする,③自己申告時間が実際の労働時間と合致しているかについて,実態調査を実施し,労働時間の補正をする,そして,入退場記録やパソコンの使用時間の記録など事業場内にいた時間の分かるデータがある場合で,その時間データと自己申告時間との間に著しい乖離が生じているときには実態調査をしなければならない,④自己申告時間を超えて事業場内にいる時間について,その理由等を労働者に報告させる場合は,その報告の適正さを確認すること,⑤使用者は,労働者が自己申告できる時間外労働時間数に上限を設けるなど労働者の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないし,時間外労働時間の削減のための社内通達や残業代の定額払いなどが適正な申告の阻害要因になっていないかを確認する,とされている。

(4)賃金台帳の適正な調製

使用者は労基法108条及び同法施行規則54条により,労働者ごとに,労働日数,時間数,休日労働時間数,時間外労働時間数,深夜労働時間数を適正に記入しなければならず,その不記入や虚偽記入は同法120条により罰金刑があること,とされている。

(5)その他

①労基法109条により,出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類は3年間保存義務がある,②使用者は必要に応じて労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用して,労働時間管理の現状把握,管理上の問題点の解消策を検討すること,とされている。

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JMITU日本水産姫路支部との懇談会の報告

弁護士 吉田 竜一


1 日本水産姫路工場では,ちくわやカニかまぼこなどが製造されているのですが,食品を製造するために,生産ラインで働く従業員たちは,衛生服への着替え,衛生服等に付着している埃を除去するためのローラー掛け,静脈チェック,エアーシャワーでの埃の除去,手の洗浄等,念入りな準備行為を行わなければならないところ,この準備行為には20分はかかるのですが,会社はこの準備行為を始業時間前に行わせてきました。

すなわち,三菱重工業長崎造船所・最高裁判決は,「作業服及び保護具等の着脱等は,被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,右着脱等に要する時間は,それが社会通念上必要と認められる限り,労働基準法上の労働時間に該当するというべきである」と判示しており,この判例に従えば,日本水産姫路工場においては,当然に労働時間として扱わなければならない準備時間が労働時間から除外されていたことになります。

従業員らは,このような会社の違法な対応を是正するためにJMITU日本水産姫路支部を結成し,団体交渉によって,その是正を求めてきましたが,会社が抜本的な是正に応じないため,10名の組合員が準備行為が労働時間として扱われるべきものであることを前提に,過去2年分の賃金を請求する訴訟を神戸地裁姫路支部に提起しました。

2 組合の結成,団体交渉での対応につき,組合員が相談していたのは,民法協の幹事組合であるJMITU日本トムソン支部でしたが,このたび,日本トムソン支部の勧めもあって,JMITU日本水産姫路支部も兵庫民法協に加入することになり,裁判の第1回期日が行われた2月22日,期日終了後,引き続き姫路の弁護士会館で兵庫民法協との懇談会が開かれました。

懇談会には,JMITU日本水産姫路支部から執行委員長の白瀧さんをはじめ5名の組合員,さらには同じ西播地域の民法協加入労組で,裁判支援に駆け付けてくれたJMITUライフバランス支部の組合員3名が参加してくれたのですが,まず,事務局長の萩田弁護士から,兵庫民法協が労働者と国民の権利擁護と平和を守ることを目的とした労働者,労働組合,学者,弁護士で組織されているユニークな団体であり,裁判支援等の権利闘争や残業規制を求めたり,非正規の組織化を考える等々の学習を中心に活動していることの説明がなされ,その後,意見交換となりました。

JMITU日本水産姫路支部の最大の課題は,裁判を提起した,会社に準備行為を労働時間として扱わせることということになりますが,それ以外にも,従業員全員に給与明細票が配布されない(欲しい者はパソコンから自分の分をプリントアウトすることはできるが,人目もあって,プリントアウトすること自体が困難),人手不足のため,派遣社員の時給が契約社員の時給よりも高いという逆転現象が生じているなど,職場で抱えているいくつもの問題点が明確にされ,萩田弁護士からの,何か問題を抱えたとき,組合だけでの解決が難しいと感じたときは気軽に民法協を利用して欲しい,民法協の弁護士に相談して欲しいとの訴えで懇談を終えました。

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全国一斉
労働トラブル(長時間労働&雇止め阻止)ホットライン報告

弁護士 八木 和也


兵庫県では3月4日(土)午後1時~午後6時まで、労働トラブルホットラインを開催いたしました。相談は2件でした。1件は残業代の請求で、もう1件は契約更新に関する相談でした。最近、業務委託の契約で労働者と同じように働かせている企業が増えてきているようですが、残業代請求の相談はこの問題に関するものでした。委託か雇用かは契約形式だけでは決まりません。私たち弁護士が労働者への学習会を通じてこのことをしっかりと伝えていく必要があると感じております。

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