本年は,兵庫県労働委員会の委員の改選期(2年に1度)で,第45期労働者委員が任命された。
兵庫民法協が加入している「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」(連絡会議)は昨年に引き続き医労連の門泰之さんを推薦した。
しかしながら,第45期労働者委員も連合独占が維持された。
第45期の労働者委員7名中,6名は再任,第44期のJAM東洋機械金属労組出身の労働者委員が退任し,新たにオオクラ輸送機労働組合出身者が新任された。
これまで兵庫県の労働者委員の出身労組は以下の7つの枠のいずれかに限られ,労働者委員は特定の労組の「指定席」となっているが,今回も全国金属労働組合兵庫地方本部内で委員の交代があったにすぎず,従来の枠はそのまま維持され,きわめて不当な結果となった。
① 全国金属労働組合兵庫地方本部
② 新日本製織広畑労働組合
③ 旧造船重機労働組合連合会を上部団体とする労働組合(三菱重工労働組合神戸造船支部および川崎重工労働組合明石支部)
④ UI(UA)ゼンセン兵庫県支部
⑤ 兵庫県交通運輸産業労働組合協議会を上部団体とする労働組合(神姫バス労働組合,全日通労働組合関西地区兵庫県支部及び山陽電気鉄道労働組合)
⑥ 全日本自治団体労働組合兵庫県本部を上部団体とする労働組合又はNTT労働組合(旧全国電気通信従業員組合)兵庫県支部
⑦ 関西電力労働組合又はクボタ武庫川製鉄所労働組合
今後連絡会議では兵庫県に対して今期の労働者委員の任命の経過とその理由を質していく予定である。
期 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 |
① | ナブコ | JAM山陽 | オークラ輸送機 | 〃 | JAM東洋機械金属 | 〃 | オークラ輸送機 |
② | 新日鉄広畑 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 連合兵庫事務局長 (新日鉄出身) |
〃 |
③ | 三菱電機→ 三菱重工 |
三菱重工 〃 |
〃 | 〃 | 三菱電機 | 三菱重工 | 〃 |
④ | UI(UA)ゼンゼン | 〃 | 〃 | 〃 | UAゼンゼン→ UAゼンゼン |
〃 | 〃 |
⑤ | 山陽電鉄 | 〃 | 神姫バス | 〃 | 山陽電鉄 | 〃 | 〃 |
⑥ | NTT | 連合兵庫事務局長 (NTT出身) |
〃 | 〃 | 〃 自治労 |
自治労 | 〃 |
⑦ | 関西電力 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 |
区分 | 氏名 | 現職等 | 備考 |
公 益 委 員 |
大内伸哉 | 神戸大学大学院法学研究科 教授 | 再 |
大原義弘 | 元兵庫県土地開発公社常任監事 | 新 | |
関根由紀 | 神戸大学大学院法学研究科 教授 | 再 | |
滝澤功治 | 弁護士 | 再 | |
塚本隆文 | 元兵庫県代表監査委員 | 再 | |
正木靖子 | 弁護士 | 再 | |
米田耕士 | 弁護士 | 再 | |
労 働 者 委 員 |
奥村比佐人 | 三菱重工労働組合神戸造船支部 執行委員長 | 再 |
尾野哲男 | オークラ輸送機労働組合 組合長 | 新 | |
熊野隆夫 | 山陽電気鉄道労働組合 執行委員長 | 再 | |
曽我一樹 | UAゼンゼン兵庫県支部 支部長 | 再 | |
那須 健 | 関西電力労働組合姫路地区本部 執行委員長 | 再 | |
服部圭司 | 全日本自治団体労働組合兵庫県本部 副執行委員長 | 再 | |
福永 明 | 日本労働組合総連合会兵庫県連合会 事務局長 | 再 | |
使 用 者 委 員 |
河野忠友 | カワノ株式会社 代表取締役社長 | 新 |
草薙信久 | 一般財団法人ひょうご憩いの宿 理事町 | 再 | |
佐野喜之 | セイコー化工株式会社 顧問 | 再 | |
坪田一夫 | 神姫バス株式会社 常務取締役 | 新 | |
村元四郎 | 株式会社村元工作所 特別顧問 | 再 | |
吉田達樹 | 株式会社神戸製鋼所 顧問 | 再 | |
和田直哉 | 近畿工業株式会社 代表取締役社長 | 再 |
安倍内閣が推し進める「働き方改革」は、法律案要綱案について概ね妥当という答申がなされました。
それを受けて、厚生労働省は、法律案を作成して国会提出をすすめていくとしています。
働き方改革を総合的かつ継続的に推進するための基本方針を定める。そのため、現在の「雇用対策法」を「労働施策の総合的な推進 並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称「労働施策総合推 進法」)に改める。
2 長時間労働の是正・多様で柔軟な働き方の実現「労働基準法」を改正して労働時間に関する制度を見直す(残業規制の関係)。
あわせて、「労働時間等設定改善法」を改めることでインターバル規制、「労働安全衛生法」等を改めることで産業医・産業保健機能の強化を行う。
3 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保雇用形態によって生じている不合理な待遇差を解消するための規定の整備を行う。
あわせて、行政による履行確保措置や裁判外の紛争解決手続を整備する。
これらのための法律上の整備として、これまで「労働契約法」にあった差別是正の規定を削除して「パートタイム労働法」の中に一元化して法律名称を改める。「労働者派遣法」も改正する。
働き方改革」は、もともと、過労死を生むような長時間労働を是正してほしい、正規社員と非正規社員の格差がひどすぎる、子育て・介護と仕事の両立を図りたい、といった国民の切実な希望に応えるかのような触れ込みで、鳴り物入りで始まったものです。
長時間労働の是正・同一労働同一賃金・ワークライフバランスの実現がキーワードだったはずです。
ところが、今回の法律案要綱では、本来の方向性から大きく外れ、経済成長をはかるための労働改革という実態に変質してしまったといえます。
その象徴が、1の基本方針=雇用対策法の改正です。当初、雇用対策法を改正する基本方針の話はまったくありませんでした。審議会の最終盤になって、突然、雇用対策法を抜本改正して労働施策総合推進法とすることが提案されたのです。だまし討ちです。
厚労省の要綱では、雇用対策法改正の目的等について「国が、経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実、労働生産性の向上等を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とするものとする」などとしています。
この目的を達するために、国が、いの一番にしなければならない施策として「各人が生活と調査を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することを促進するため、労働時間の短縮その他の労働条件の改善、多様な就業形態の普及、雇用形態または就業形態の異なる労働者間の均衡のとれた待遇の確保に関する施策を充実すること」を挙げています。
一見して奇異に感じるのは、雇用対策法はもともと雇用を安定させるための措置を決めている法律であったのに、なぜか、労働性の向上、経済発展が目的に追加されていることです。また、国が行うべき施策も、同一労働同一賃金を目指すことは掲げられず、その反対に処遇格差の激しい「多様な就業形態を普及」させることを挙げるにいたっています。「働き方改革」が、経済政策・企業の利益追求のための改革に変質しているのです。
そして、企業にとって「労働生産性=利益÷人件費」です。したがって、雇用・労働政策における「労働生産性の向上」とは、人件費を削減する以外に方法はありません。そうすると、今回の「働き方改革」の中心は、人件費の削減・抑制を通じて企業の利益を拡充することにしかありません。
こうした政府方針は、他のところからも分かります。
たとえば、厚生労働省は、「長時間労働の是正」と「多様で柔軟な働き方」がセット項目となっています。長時間労働是正をうたいつつも、一方で、残業代をゼロとすることができる制度を「柔軟な働き方」の美名で拡充しようとしています。
また、多様な就業形態(安い労働力)を広げていきたい経済界の要求と対立することから「同一労働同一賃金」の原則は結局採用せず、待遇を公正にしていくレベルに押しとどめています。
これらを合わせて考えると、残業代を払わなくてよい正社員を増やしつつ、同一賃金を保障しなくてもよい非正規社員も増やし、それによって企業利益を増やしていこうという姿勢が見え隠れしています。実際、この間の経済成長は、賃上げの成果が少ないまま企業利益のみが急成長しているものです。
長時間労働の是正・同一労働同一賃金・ワークライフバランスのスローガンは、換骨奪胎され、経済成長に奉仕するための方策にすり替わってしまっているのです。(つづく)
このページのトップへ【事案の概要】
本件では、合併のたびに職員組合代表との労働協約や、職員の同意書によって、退職金引き下げを同意していたことの効力が問題となりました。
本件では、具体的には、1回目の退職金引き下げに際しては管理職に概要説明して同意書にサインをさせ、かつ労組との間で労働協約を結びました。
2回目の退職金引き下げでは、各店の支店長が職員に概要を説明した上で、各職員から同意のサインを得ました。これら労働協約や同意書の効力が裁判で争われました。
【経過】
1審、2審の裁判所は、労働協約や同意書が有効であると判断して、退職金引き下げを認めました。
これに対して、最高裁は、破棄差し戻しました。
【最高裁の判断・要旨】
1.労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができる。就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合も同じ(ただし就業規則の変更は必要)。
2.労働条件の変更が賃金や退職金である場 合、変更を受け入れる労働者の行為があるとしても、その行為をもってただちに労働者の同意があったとみるのは相当ではなく、変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重におこなうべきである。
3.就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、変更を受け入れる労働者の行為の有無だけでなく、その変更により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者の行為がされるに至った経緯およびその態様、その行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等に照らして、その行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきである。
(注釈)
これまでの裁判実務感覚でいくと、裁判所では「同意書に署名とハンコがあるからすべて有効」と一蹴されることがほとんどでした。いわば「同意書至上主義」でした。
ところが、最高裁は、不利益変更を行う場合は、不利益変更を行う経営上の必要性だけでなく、労働者にとっての不利益の内容・程度を具体的に詳細に説明してそれらについて判断させた上で同意を得なければならない、と判断したのです。
そういう意味で、同意書至上主義を修正しようという姿勢は画期的です。
【本件への適用】
(1)第1合併
①退職金の額が本俸の月額 → 本俸の月額の2分の1など著しく低下
②職員説明会で同意書案を配布して、退職金計算方法を説明し、管理職に対して合併が実現できないと述べて、同意書に署名させた
③職員組合委員長とは労働協約
(2)第2合併
④合併までの退職金計算期間は自己都合退職の係数を使う、新制度前に自己都合退職した者には当該期間の退職金を支給しないなど
⑤支店長らは職員に対して、労働条件の変更について書面を読み上げて同意書に署名させた。
以上の事実関係をもとに最高裁は、
自由な意思に基づいて同意したと認めるべき合理的な理由が客観的に存在するかどうか審理を尽くすべきである、労働協約について執行委員長に協約締結権が付与されていたか審理を尽くすべきである、として、東京高裁に差し戻しました。
(注釈)
実際問題として、個々の労働者全員に対して、どれくらいの退職金になるのか具体的・詳細に説明するような会社は、ほとんどないと思われます。
そうすると、最高裁判所は、労働条件の不利益変更をするためのハードルを厳しくした、と考えることもできます。
【事案の概要】
月140~180時間働いた場合は割増賃金も含めて賃金は41万円。
月140時間未満の場合は、2920円/時間、を賃金から控除。
月180時間超過の場合は、2560円/時間、を上乗せ支払い。
【経過】
1審は労働者全面勝訴。2審で180時間未満の部分について逆転敗訴。
2審の理屈は、標準的労働時間である160時間を超え180時間までの分については、労働者が自発的に割増賃金請求権を放棄した、と判断して、180時間までの固定残業代をあわせて41万円であると結論づけました。
【最高裁の判断・要旨】
会社では「41万円の定額賃金額の中における通常支払われるべき賃金額(基本給など)と労働基準法37条1項によって支払われるべき割増賃金にあたる部分とを判別することができない。このような場合には、割増賃金が支払われていると認めることができない」と判断しました。
(注釈)
裁判所の伝統的な考え方では、
・固定残業代について、名称いかんは問わない
・基本給部分と残業手当部分が明確に区別していること
・固定残業代でカバーすべき労働時間がはっきり決まっていること
・固定残業代でカバーする範囲を超えた労働時間に対しては残業代をはらっていること
という要件を満たして初めて固定残業代制度を有効と判断しています。
この会社の場合、たとえば、基本給36万円、180時間までの固定残業代5万円、180時間以上の場合は1時間当たり2850円の手当を支払うなどとしっかり決めていれば裁判所の結論がかわったかもしれません。
しかし、本件は、あまりにも不明確であり、最高裁は許しませんでした。
【事案の概要】
平成9年から平成20年まで、更新を続けてきた有期雇用労働者が、リーマンショック後、会社から「次の期間満了後には契約を更新しない」という新しい雇用契約書を締結するよう言ってきたので、それにサインをしました。
そして、そのとおり、次の期間満了時点で雇止めになりました。
【裁判所の判断】
裁判所(1審・2審とも)は、
・労働者は不更新条項を真に理解した上で雇用契約を締結している。
・そのような場合には、雇用契約継続に対する合理的期待を放棄したもので、不更新条項の効力を否定すべき理由はない。
と判断しました。
(注釈)
有期雇用労働者が雇止めを争う場合、裁判所は、次の順番で、判断していきます。
(1)雇用契約継続の合理的な期待があるか?
裁判所は、まず、雇用契約継続の合理的な期待があるか判断します。
たとえば、「長く働いてもらうから」と社長から言われていた、とか、途中でやめる社員が全くいない、といった場合には、雇用契約が長く継続すると思うのが当然です。
このような合理的な期待がない場合は、契約を更新できない(雇止めは有効)と判断されます。
(2)雇止めに正当な理由があるか?
雇用契約継続の合理的な期待があるとされた場合は、さらに、雇止めに正当な理由があるか判断されます。
雇止めに正当な理由がなければ、雇止めは無効になります。能力不足、業務命令違反、経営環境の悪化などがあるかどうかについて詳しく判断することになります。
本件は、不更新条項が有効であると判断されました。つまり、(1)の段階で門前払いしたことになります。
ただし、不更新条項に合意したことについて、Ⅰの山梨県信用組合事件を考えると、合意が真摯なものか慎重に認定されるべきであったと考えます。
リーマンショック後は、人員削減のための雇止めが横行し、裁判例が蓄積されました。
これを簡単に紹介します。
Ⅲで述べたように、裁判所は、(1)雇用契約継続の合理的な期待があるか、(2)雇止めに正当な理由があるか、の順序で判断します。
また、経営上、人員削減のための雇止め(いわば整理解雇)が問題となる場合は、①人員削減の必要性があるか、②雇止め回避努力をしたか、③人選に合理性があるか、④手続が正当になされているか、を判断します(整理解雇の4要件、ないし要素)。
1.本田技研工業事件・東京高判H24.9.20労経速2162-3(前掲)
(1)不更新条項があり、雇用契約継続の合理的期待がない、と判断。
→雇止め有効
2.東芝ライテック事件・横浜地判H25.4.25労判1075-14
(1)不更新条項があったが、雇用契約継続の合理的期待がある、と判断。
(2)雇止めの正当な理由については、①人員削減の必要性、②雇止め回避努力、③人選の合理性、④手続の正当性を満たしているので、正当理由あり
→雇止め有効
3.日本郵便A契約社員事件・札幌地判H25.3.28労判1082-66
(1)雇用契約継続の合理的期待がある、と判断。
(2)雇止めの正当な理由については、①人員削減の必要性、②雇止め回避努力、③人選の合理性、④手続の正当性を満たしているので、正当理由あり
→雇止め有効
4.日本郵便B契約社員事件・札幌高判H26.3.13労判1093-5
(1)雇用契約継続の合理的期待がある、と判断。
(2)雇止めの正当な理由については、
1審は、①人員削減の必要性はるが、②雇止め回避努力が不十分であると判断。
→雇止め無効とした
2審は、①人員削減の必要性、②雇止め回避努力、③人選の合理性、④手続の正 当性を満たしているので、正当理由あり、
→雇止め有効とした
5.エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件・横浜地判 H27.10.15労判1126-5
(1)雇用契約継続の合理的期待が当然ある(通常の雇用契約と同視できる)、と判断。
(2)雇止めの正当な理由については、
①人員削減の必要性はない、として
→雇止め無効
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