過労死・過労自死は許せないと頭では分かっていても,自分や家族がそうなるかもとリアルに感じることは容易ではない。しかし実例を見ると,特殊な会社や労働者に起こっていることではなく,どこにでもある普通の会社,どこにでもいる真面目な労働者に起こっている。本上が関与して労災認定に至ったここ10年くらいの例を見ても,中小企業はもとより,東急ハンズ,古野電気,JFEグループ会社,ゴンチャロフ製菓など著名企業も少なくない。ましてや,「働き方改革」と称して労働生産性向上を目的とする法改正がなされ,高プロを初めとして労働時間規制が解除・緩和されていくというのだから,その危険性は一層人ごとではなくなる。
そこで民法協では,過労死・過労自死をできるだけリアルに感じていただく一助として遺家族の声を連載していくことにしました。その声を聞き,もしそれが自分や家族に起こればどう感じるか,大いに想像力を働かせて下さい。
第1回は,民法協ニュース601号(2018年7月20日発行)で八木弁護士が報告したゴンチャロフ過労自死事件の母前田和美さんの手記です。
私の息子、前田颯人(はやと)は若干20歳にしてこの世を去りました。
息子は真面目で、責任感が強く、そしてとてもやさしい子でした。周囲を笑わせることが大好きで、冗談を言っては場の雰囲気を和ませようとしたり、自ら進んで家事を手伝ってくれたりする、本当に自慢の息子でした。
なぜ息子が死ななければならなかったのか、どうしてこのようなことが起こってしまったのか、そして今後こんなことが起きないようにするにはどうすればいいのか、私なりに思っていること、考えていることをお伝えします。
阪神淡路大震災の翌年、颯人は生まれました。震災で大きな被害を受けた神戸を元気にしていきたいと望み、授かったのが颯人です。夫とは離婚をしてしまいましたが、颯人の姉と、親子3人でいろんなことを乗り越えてきました。
そして高校を卒業後、神戸を代表するゴンチャロフ製菓に入社しました。颯人自身も、家族も大喜びでした。その後に起こることは誰も想像すらしていませんでした。
工場のチョコレートの製造現場に配属された息子は、入社2か月目から特定の上司に目を付けられパワハラの標的にされました。
挨拶無視から始まり、皆の前でフロアー中に響くほどの大声で怒鳴りつけ、時には二時間にも及ぶほど説教や、廃棄商品が出た際には「牛のエサつくっとんか」などと息子にだけ言い放ちました。
それは冬のチョコレートを作る期間中頻繁に繰り返されました。入社2年目の冬、19歳だった息子は、多い時で14人ほどのパートや派遣社員の指導を任され、そこで起こったミスなどの責任も追及されました。
朝は就業時間の40分ほど前に出社していても「社長出勤やなあ」などと言われ、お昼の休憩もまともに取ることもできず、おにぎりやパンなどを駆け込むように食べ、すぐに現場に戻る。そのうえ終業後は雑用を命ぜられ思うように帰ることもできず、息子はじわじわと追い詰められていきました。
そして3年目のチョコレート製造日程が7月からだと発表され、それが始まる6月の24日、出勤途中に電車に身を投げ、自ら命を絶ちました。
会社での指導や在り方に問題があったことを息子から聞いていた私は、会社側と話をしましたが、一貫してパワハラや時間外労働などはなかった、と回答してきました。
私は、事故後の会社内での聞き取り調査の内容を事前に同僚たちに聞いており、上司のことも話したと数人が答えてくれていたにもかかわらず、誰もそのような事は言っていないと会社側は答えたのです。
認めないということは改善する気がないということです。このままでは第二、第三の息子のような被害者が出てしまう。こんな辛く、悲しいことが繰り返されてはならないと私は決心をし、平成29年9月27日労災の申請をし、すべてを公表しようと思いました。
2月から会社の最寄り駅であるJR六甲道で毎日曜日、労災認定を求める署名活動を始めました。いろいろな団体へ出向き、署名への呼びかけ、お願いをしました。
新聞やテレビなどでも報道され、たくさんの人々の目に留まり、署名は6月には18000筆を超えました。その署名の数や温かい励ましの声は母親である私の心の支えにもなってくれました。
そして6月22日、息子颯人の死は労災であると認められました。
時間外労働も概ね100時間前後あり、上司とのトラブルもあり、それが原因で鬱を発症し自死に至った労災事案だと認められたのです。
これで会社側も自分たちの間違いに気づくであろうと思っていましたが、いまなお従業員たちに話す言葉は「なぜ労災が認められたのか分からない」なのです。会社の在りかたがおかしいことが未だ分からないのです。
私の願いは息子へ、私たち遺族、間違った対応をしてきた従業員へ謝罪し、二度とこのような痛ましい事が起きることのないよう、会社の改善を約束してもらうため、今後話し合いを進めていきたいと思っています。
このページのトップへ1 2018年8月25日,県労委対策会議は兵庫勤労市民センターにおいて,大阪府労働委員会の実情について,きづがわ共同法律事務所の冨田真平弁護士を講師として迎えて学習し,兵庫県労委の現状について意見交換した。
2 冨田弁護士のお話
大阪府労働委員会においては,かねてから連合大阪と大阪労連が候補者調整をして,労働者委員9名中1名を大阪労連の推薦にもとづいて選任している。
現在は大阪労連の議長の川辺和宏さんが労働者委員に選任されている。調整事件にせよ救済申立て事件にせよ,大阪労連所属の組合が大阪府労働委員会を利用する場合は川辺さんを指名し,労働委員会もその指名を尊重している。
不当労働行為救済申立て事件の場合,事前に川辺さんに事案の概要を説明し,川辺さんが参与委員に選ばれると,調査期日が終わるたびに労働委員会の控え室で川辺さんと当事者が打ち合わせをする。その際,期日前に公益委員,使用者委員,労働者委員,事務局によって行われる三者の打ち合わせの内容(公益委員や事務局が関心をもっていることやどのような疑問を持っているか等)を聞いて,主張や立証を補充する。
期日間に労働委員会の手続と平行して事者間の団体交渉が行われる場合にはその状況を川辺さんに報告し,三者協議の際に公益委員に伝えてもらう。
和解の際にも,使用者側が何を言っているか,使用者側がどんな意向を持っているか等の情報提供を受け,妥協点をさぐることができる。
終盤では,三者協議などを通じて川辺さんが感じた事件の見通しなどについても聞くことができる。
このように申立て前から審問にいたるまで,頻繁に労働者委員と情報交換しているので,審問の際も適切な補充尋問を期待することができるし,最終的に公益委員会議に提出する労働者委員の意見書にも組合の意見を十分反映してもらうことが可能になっている。
また,調査期日において,会社に資料を提出させることによって,組合の手元になかった新たな証拠の収集も可能になり,手続を有利に進めることができたという経験もあるので,不誠実団交などの不当労働行為があれば,どんどん労働委員会を活用し,必要な資料を収集すべきである。
3 感想
信頼できる労働者委員がいるのといないのでは労働委員会の利用価値に格段の差があるということをあらためて認識した。
冨田弁護士が指摘するように,不利益取扱いや支配介入に比べて不誠実団交は主張立証が比較的容易であるし,労使の紛争には必ずといってよいほど不誠実団交を伴うのだから,不誠実団交があれば直ちにあっせんや救済申立てをすべきである。
大阪の現状はとても新鮮だった。労働者委員にどんな働きを期待できるのか,私たちのイメージはとても貧困である。
兵庫県の労働委員会も労働者委員も労働者委員のありかたについて認識を改めてもらわなければならない。そのためには労働委員会をもっと利用しないといけない。
私教連からは労働委員会の運営にどんどん文句を言うようになったら少し労働委員会の対応が改善されたという報告があったとおり,労働者委員の連合独占打破という悲願を実現する前でもできることから労働委員会の改革をしないといけないと思った。
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