2019年9月26日、第46期兵庫県労働委員会委員が任命された。
兵庫民法協が加入している「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」(連絡会議)は前・前回に引き続き医労連の門泰之さんを推薦した。
予想していたことだが、今期も労働者委員は連合独占となった。
独占と言って簡単に流せる程度のものではなく、第45期と全く同じ労働者委員なので、きちんと選任の作業をしていたのか疑わしく思える結果である。
10月半ばに、連絡会議は県当局から任命に関しての説明を受け、意見交換を行った。
これまで何回か同じような場で、任命手続きに関する説明を受けてきたが、今回も何ら変わることのない以下の説明であった。
①7月下旬から8月中旬にかけて知事に要請。②連絡会からの要請文に基づき連合独占が続いている事や、北海道をはじめ11都道府県で全労連推薦の委員が任命されていることを報告している③知事からは特に今回の任命に関して意見はなかった。
連絡会議から、知事への要請の際に何らかのレクチャーを直接するのかと問うと、職員が文書を持っていくだけで、知事と直接のやり取りをするシステムにはなっていない。(労働委員会以外の他の機関の任命に関しても同じ)との回答。連絡会からの要請文も目を通しているはずとの回答。
また、5つの基準①候補者の経歴(年齢・学歴・職歴・勤務先等)、②公職歴、③労働組合における役職歴、④候補者が所属する労働組合の規模、⑤候補者が所属する労働組合の産業分野を総合的に判断し、候補者の属する系統は一切考慮してはいないと回答している。
結局、元に戻って総合的な判断はどうやってするのかに行きつき、それは知事の裁量権であるとの結論になる。これでは何をやっても変わらないものである。
そこで、前々回くらいから出てきた※「環境の変化」について、どのようなことが起き、誰が判断するのかと問うと、組織率なのか法律の改訂なのかは、断言できないが、当局が判断して知事に報告するとの回答。
つまり、労働者委員の選任については、第一段階で当局がその時の状況を判断(連絡会が大きな環境の変化であることを訴えても当局が変化なしで済まされる)し、知事に報告し、知事は裁量(総合的判断)によって任命するということだ。
確かに任命権者にある程度の裁量は認められるとしても、知事の裁量が働く前段階の事務局サイドにおいて一定のバイアスがかかっているこの兵庫のシステムでは公正な選任をしているとは言えない。
また、なぜ全労連系の労働者委員が必要かを連絡会議から具体例を挙げて訴えたが、当局はそれは労働委員会の運営の問題であって、資質の問題ではないとし、選任又は再選任の判断基準には当たらないとした。
つまり、実際の問題として、組合の潮流や規模等による考え方の違いが、労働者委員と私たちの組合との間に存在し不利益を被ることがある。この基本的な労働運動の考え方の違いを当局は運営の問題とし、労働委員会の組織の問題に転嫁するものである。ここでも、私たちの訴えは届かない。
こうなると、連合独占はまだまだ続きそうだが、私たち労働組合はあきらめてはならない。
積極的に労働委員会を活用し、様々な意見を挙げ、当局も無視できないほどの「環境の変化」を引き起こし、私たちの推薦する労働者委員を獲得しよう。
※「環境の変化」とは、現在の連合独占を変える要因となるもの。
第46期 兵庫県労働委員会委員名簿 (任期:令和元年9月26日~令和3年9月25日)
区分 | 氏名 | 現職等 | 備考 |
公 益 委 員 |
大内 伸哉 | 神戸大学大学院法学研究科 教授 | 再任 |
大原 義弘 | 元兵庫県土地開発公社 常任監事 | 再任 | |
岡 秀次 | 元公益財団法人神戸いきいき勤労財団シルバー人材センター 北区センター所長 | 新任 | |
関根 由紀 | 神戸大学大学院法学研究科 教授 | 再任 | |
滝澤 功治 | 弁護士 | 再任 | |
林 亜依子 | 弁護士 | 再任 | |
米田 耕士 | 弁護士 | 再任 | |
労 働 者 委 員 |
奥村 比佐人 | 三菱重工グループ労働組合連合会神船地区本部 執行委員長 | 再任 |
尾野 哲男 | オークラ輸送機労働組合 組合長 | 再任 | |
熊野 隆夫 | 山陽電気鉄道労働組合 執行委員長 | 再任 | |
曽我 一樹 | UAゼンセン兵庫県支部 支部長 | 再任 | |
那須 健 | 関西電力労働組合 特別執行委員 | 再任 | |
服部 圭司 | 全日本自治団体労働組合兵庫県本部 副執行委員長 | 再任 | |
福永 明 | 日本労働組合総連合会兵庫県連合会 事務局長 | 再任 | |
使 用 者 委 員 |
河野 忠友 | カワノ株式会社 代表取締役社長 | 再任 |
草薙 信久 | 一般財団法人ひょうご憩の宿 理事長 | 再任 | |
白石 順 | 住友精密工業株式会社 顧問 | 新任 | |
坪田 一夫 | 神姫バス株式会社 常務取締役 | 再任 | |
村元 四郎 | 公益財団法人ひょうご産業活性化センター理事・統括コーディネーター | 再任 | |
吉田 達樹 | 日清鋼業株式会社 顧問 | 再任 | |
和田 直哉 | 近畿工業株式会社 代表取締役会長 | 再任 |
① 労働契約(使用者と労働者の個別契約で、これがないと雇用関係は生じない)
② 労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法など(労働者に対等な交渉力がないことを考慮して国が最低基準を強制)
③ 就業規則(労基法89条。「常時10人以上の労働者を使用する使用者」の作成義務。使用者が単独で定めたものが、労働契約の内容になるという異例の法制度。労使の集団性を考慮したもの)
④ 労使協定(36協定、変形労働時間制、賃金からの天引きなど、労基法の例外を労働者の過半数代表が許容する)
⑤ 労働協約(協約自治。労働者の団結によって対等な交渉力を有するようになった労働組合と使用者との集団的な労働条件合意。憲法、労組法が想定している労働条件決定方法)
(2)効力関係・ 就業規則より不利な個別の労働契約の効力は?→無効
・ 就業規則より有利な個別の労働契約の効力は?→有効
・ 就業規則より不利な労働協約の効力は?→有効
・ 個別の労働契約より不利な労働協約の効力は?→原則として有効
●朝日火災海上保険事件・最判平成9年3月27日労判713-27
① 労働条件の引き下げを内容とする労働協約も、原則として規範的効力をもち、組合員の労働条件を引き下げることになる。
② 「協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結された」場合に限って例外的に、労働協約改訂による労働条件の不利益変更を否定する。
※1 実質的な対等性を確保して労働条件決定をできるのは労働協約。但し、交渉はギブアンドテイクなので、不利部分も有効が原則。
※2 労働協約の効力は本来、組合員のみに及ぶ。労組法17条の一般的拘束力(事業場の組織率3/4以上組合の労働協約は非組合員にも及ぶ)は例外。
例えば、使用者が年末一時金を1.5か月と発表した後、団体交渉を経て組織率3/4未満労働組合と1.6か月との労働協約を締結した場合、組合員には1.6か月、非組合員には1.5か月の支給が正しい。この場合に、非組合員にも1.6か月にすることが実際には多いのかもしれないが、使用者が労働協約の内容を非組合員にも適用することは、非組合員は自分の労働条件向上のために組合に加入する必要がなくなるので、労働協約締結組合との関係で支配介入の不当労働行為になりうる。労働組合が非組合員にも1.6か月支給を認める、あるいは求めることは、組織拡大の折角の機会を失い、自分で自分の首を絞めることになる。
① 憲法28条「勤労者の団結する権利」
② 労働組合法2条本文「この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」
→① 労働者、② 2人以上、③ 目的、の3要件
(2)労組法上の労働組合(2条但し書きの除外と5条による資格審査要件)・ 上記3要件+自主性+組合民主主義
・ 自主性がないと定められている場合
① 取締役等の会社役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者等、使用者の利益を代表する者の参加を許す組合
② 組織運営のための経費につき使用者の経理上の援助を受ける組合
・ 組合民主主義の要請→労組法5条2項を参考にした組合規約にする必要。
(3)3要件のうち、① 労働者・ 労組法3条「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」
・ パート、アルバイト、嘱託、派遣、失業者、被解雇者は当然に該当。
・ 労働契約ではなく、請負契約、業務委託契約等による労務提供者も、労組法上の「労働者」に当たる場合がある。これまでの実例では、一人親方の大工・左官、NHKや民放と出演契約を締結している芸能員、水道メーターの委託検針員、NHKの委託集金人、車両持込運転手、自宅でヘップサンダルの賃加工を行う職人、音楽楽団員、業務委託契約によりトイレ等の修理等を行うカスタマーエンジニア、プロ野球選手など。
(4)組合員資格・ 労働者でありさえすれば、誰に組合員資格を認めるかは労働組合が自由に自主的に決めるべきこと。
・ 上記(2)①でも、「労働者」であれば、組合員資格を認めてもよい。実際、使用者の利益代表者と認められて、労組法上の労働組合であることが否定されることはほとんどない。
→ 「管理職」と呼ばれているものでも、少なくとも課長程度なら問題にならない。
→ 組合員相互の利害対立のおそれがないのなら、使用者の手先ではなく「労働者」であることの自覚を促す意味でも「管理職」にも広く組合員資格を認めた方がよいのでは?
●日本アイ・ビー・エム事件・東京地判平成15年10月1日労判864-13
「労組法2条ただし書1号は、本来労働組合が自主的に決すべき構成員の範囲について、労働組合の使用者からの自主性を確保するという見地から、使用者側の利益を代表する立場にあると評価できる一定の労働者をその対象外とする趣旨の規定であるから、その労働者が使用者の利益代表者に該当するか否かも、その者が加入することにより、使用者と対等の立場に立つべき労働組合の自主性が損なわれるかどうかの観点から、個別具体的に判断すべきである。」として、スタッフ専門職の専任以上の職位階層にある労働者について使用者の利益を代表する者に該当するということはできないとした。
① 意思決定機関(組合大会、代議員会等)
② 執行機関(執行委員会、三役等)
③ 監督機関(監査委員、監事等)
(2)組合大会の議決に関する労組法の規制① 規約改正(労組法5条2項9号)、役員選挙(5号)、スト権確立(8号)は直接無記名投票が必要。
~スト権を組合大会での挙手で採決して確立し、スト決行したことが、違法ストだとして、使用者から労働組合及び幹部が損害賠償請求された例がある。
② 組合解散(10条)、福祉共済基金の流用(9条)は大会専決事項。
(3)組合内部問題と司法的救済・ 上記(1)の諸機関による組合運営は、基本的には労働組合の自治に委ねられる。したがって自治の範囲内であれば、裁判所は不介入。しかし、組合員の重要な権利が侵害され、組合民主主義が脅かされるおそれがある場合、裁判所の審査の対象になる。
① 役員選挙関係
役員選挙にあたって平等な選挙権・被選挙権が保障されることは、組合員の最も重要な権利であり、しかも組合民主主義の不可欠の前提。そのため、選挙権・被選挙権を不当に制約する規約条項は無効であり、不当に制約する機関の決定も無効。
(例)
・ 役員選挙の立候補につき、各職場ごとに一定数の労働者の推薦を必要とする規定は、組合員の立候補の自由を著しく制約するから、無効。
・ 中央執行委員の選挙資格に支部委員長の推薦を要求することは、無効。
・ 役員選挙にあたっての選管による執行部批判のチラシの配布禁止に対する妨害禁止仮処分申立てを認容した例(全電通横浜支部事件・横浜地決昭和59年8月17日労判436-25。自由な選挙運動の保障)。
② 組合大会関係
・ 組合員多数の要求にもかかわらず、組合委員長が臨時組合大会の開催を怠っている場合は、委員長を債務者とする臨時大会の招集手続を求める仮処分申立が認容される(全金徳島地本光洋シカゴローハイド支部事件・徳島地決昭和58年10月11日)。
・ 組合員もしくは代議員の組合大会への出席や、組合大会での発言・議決権の行使などが妨害される場合、妨害禁止の仮処分が認められる。
③ 決議の効力関係
・ 組合員の重要な権利や労働組合の基本的なあり方に関係するとはいえない決議については、団結自治に委ねられる。
・ しばしば争われてきたのは、労働組合の特定政党支持決議など政治活動にかかわる決議の効力。
●三井美唄労組事件・最大判昭和43年12月4日~労働組合が政党を支持したりその他の政治活動・社会活動を展開することは自由であるが、それにもとづいてそうした活動に反対の立場をとる組合員に統制処分を加えたり、組合員から臨時組合費を強制的に徴収したりすることは制約を受ける。
・ 統制処分とは、規約に違反する行動に出たり、決定に従わない組合員に対して労働組合が課す制裁であり、具体的には除名、権利停止、戒告などからなる。
・ 組合員は、労働条件の維持と向上という共通の基本的目的をもって組合に加入しているが、政治的見解はもちろん身近な職場の問題を含めて、多様な意見を有しているのが普通。したがって、そのような組合員の多様な意見を吸収しうる日常的な組合民主主義の確立こそが、規約違反・機関決定違反の行動を防止する最大の保障。統制処分の発動は組合の団結維持上最後の手段であり、団結維持の最良の手段は討議を尽くすこと。
(2)統制処分の根拠●三井美唄労組事件・最大判昭和43年12月4日「憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲において、その組合員に対する統制権を有する。」(統制権の根拠を憲法28条の団結権保障に求める団結権説)
→ 内部関係における処分の正当性の根拠は、設立時ないし加入時に、組合員が一定範囲の団体の統制に従うことと、違反に対する一定の制裁を甘受することを合意したことにあるはず。
(3)統制処分の限界① 政治活動と統制処分
●三井美唄労組事件・最大判昭和43年12月4日~組合決定に反して公職選挙に立候補したり、組合が決定した特定政党へのカンパを拒否したり、組合の特定政党支持決議に反して他党支持の選挙活動を行った組合員への統制処分につき、組合員の思想・表現の自由という基本的人権尊重の必要を理由に、いずれも統制権の限界を超える違法なものとした。
② 執行部批判と統制処分
・ 一般に、組合の団結は、批判活動を含めた自由な言論と組合民主主義の保障のプロセスの上にこそ成立するものであるから、組合内の言論・批判活動はできる限り許容されるべきで、統制処分の発動には慎重さが要求される(同盟昭和ロック事件・大阪地判昭和56年1月26日357-18)。
・ 文書などによる批判活動については、判例は一般に、文書の内容、時期、配布対象などを総合して、団結、秩序維持に及ぼす影響を判断し、特に文書の内容が虚偽、事実の歪曲、組合もしくは役員に対する誹謗中傷を含んでいるかどうかが重視されている。例えば、暴力行為に抗議するビラ配布を理由とする権利停止処分につき、内容が真実と認められるビラについては統制処分を無効とし、虚偽ないし誇張歪曲を含むとされたビラについては有効としている。組合員による役員のリコール請求についても同様。
・ 組合方針への批判が、批判的言論にとどまらず、決定された方針の実施に対する現実的妨害行動の形態をとる場合(典型的には山猫スト)には、処分もやむを得ないと判断される。
・ 少数派による組合内独自組織の結成について、判例は、組織の目的、活動内容、活動形態などを具体的に判断して、それが実際に労働組合の統制を乱す意味を持っていたか否かによって、処分の効力を判断している。例えば、「守る会」を結成して同僚の遺族の労災訴訟を支援したことを理由とする除名・解雇は無効。研修手当要求のために、対立組合の講師を招いた学習会やそれを発展させた会で積極的な役割を果たした青年部役員の除名は有効。
③ ストライキと統制処分
・ 組合が適正な手続を経て争議行為としてストライキの実施を決定した場合、これに反対する組合員が組合を脱退せずにスト指令に反して就労することは、争議に対する重大な障害を生むもので、統制処分の対象となる。
・ 労働組合が指令する争議行為が現行法上違法であることが明らかな場合、それに従うことを組合員に強制することはできないから、従わなかった組合員に対する統制処分は無効。例えば、公務員組合の実施する争議行為は、現在の判例法理を前提とする限り、争議行為に参加した組合員に懲戒処分その他の不利益が及ぼされる危険性が高いので、やはり組合員に参加を強制することはできないと解すべき。
ア 組合結成と自主運営
イ 労働条件などの決定のための団体交渉
ウ 団交の結果、労使が合意に至ると、労働協約を締結する。
エ 労働協約の規範的効力(労組法16条)によって、組合員の個別の労働契約に優先する効力が発生し、協約基準に反する契約は無効となり、契約に定めがない部分には協約の定めが適用される。
ウ’ 団交が不調に終わると、労働組合はスト権を確立して争議行為に入りつつ、さらに団交を続ける。
※1 団結→団交→(争議)→労働協約の流れが基本
※2 団交を経ない争議行為の違法性が争いになることがある(違法となれば、免責が認められない)。
(2)狭義の団結権の保障・ 国は、労働組合の結成、運営について規制してはならない。
・ 使用者は、組合加入や組合活動を理由として解雇などの不利益取扱をしてはならず(労組法7条1号)、またその運営に支配介入してはならない(7条3号)
・ 従業員との関係では、ユニオン・ショップ協定の有効性が問題になる。ユ・シ協定有効とすると、個々の従業員の団結しない自由を認めないことになるから。しかし通説は、ユ・シ協定が団体交渉を中心とした労使自治の推進に役立つことを重視して、組合選択の自由は認め、非組合員である自由は認めないという意味で有効と解している。つまり、ユ・シ協定を締結している多数組合を脱退しても、他の組合に加入しさえすれば、使用者のユ・シ協定に基づく解雇は無効となる(三井倉庫港運事件・最判平成1年12月14日)。
・ 労働組合の存続にとって不可欠な日常的活動(組織運営、教宣、意思形成のための討議など)も団結権保障に含まれる。
(3)団体交渉権の保障・ 使用者は、団体交渉を拒否してはならない(7条2号)。→誠実交渉義務もある。
※ 本来の労使自治を徹底すれば、使用者に応諾するか否かの自由があるはず(英、独では応諾は任意)。
→ 我が国では組合に自主交渉を勝ち取れるだけの実力がないとの認識を前提に、国が組合を援助して、使用者に団交応諾義務を課した。
(4)団体行動権(その中心が争議権)の保障・ 争議自体が、社会秩序や使用者の利益と衝突する性質があるので、争議「権」を保障した。
・ 闘争時に使用者への圧力や第三者へのアピールを目的としてなされる活動(ビラ貼り、構内デモ、リボン・ワッペン闘争など)は団体行動権の行使に当たる。
(5)免責による保護① 刑事免責~団体交渉は強要罪、ストライキは威力業務妨害罪等に当たりうるが、正当な争議行為については刑事罰は科されない(労組法1条2項)。
② 民事免責~ストライキは民事上、参加者は不就労=債務不履行、指導者は組合員の債務不履行の助長=債権侵害による不法行為にあたるとして損害賠償責任が生じるが、正当な争議行為については損害賠償義務を負わない(労組法8条)。
③ 不当労働行為制度による保護~組合の正当な争議行為を理由とする不利益取扱は不当労働行為になる(7条1号)。
このページのトップへ皆様ご存知のとおり、神戸市立東須磨小学校の教員間のいじめ問題で、2019年10月29日、神戸市条例が改正されました。この条例改正は、有給休暇を利用して休職していた加害教員に対して給料が支払われていることに対して多数の苦情があったことが原因となったとされています。
改正された条例では「重大な非違行為があり、起訴されるおそれがあると認められる職員であって、当該職員が引き続き職務に従事することにより、公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合」に当該職員を「その意に反してこれを休職することができる」としたうえ(職員の分限及び懲戒に関する条例2条に3号を追加)、休職の期間中これに給料等を支給しないことができるとしました(神戸市職員の給与に関する条例21条4号を改正)。
それまでの神戸市では、本件のような場合に職員の意思に反して休職を強制することはできなかったのですが、今回の条例改正により、加害職員らを休職させ給料を支給しないことができるようにしたうえ、現に加害教員を休職させ給与の支払を差し止めたのです。
この神戸市の行為は、「加害教員の行ったことの重大性からすれば当然だ!」と思われる方も多数おられるかもしれませんが、法的にはどうなのでしょうか?少し検討をしてみたいと思います。
法律等が改正されても、改正される以前の行為については適用されないという原則があります。特に刑事罰を課す場合には、この原則は重要な意味を持ちます。
例えば、最高速度が80キロ制限だった道路の速度制限が60キロに変更されたとします。あなたは、その変更の1週間前に75キロで走行していたのですが、その行為が違反行為に変更になったから罰金を払えと言われたらいかがでしょうか?納得できないですよね?
このように法律等が改正されても、改正される以前の行為については適用されないという原則(「事後法の遡及禁止」「法の不遡及」などと言われたりします)が法的には当然のことなのですが、今回の神戸市の行為は、既に起こってしまっていた加害行為に対して、事後的に条例を改正して適用をしたように見えますので、この点が問題になりえます。
改正された条例は、「重大な非違行為があり、起訴されるおそれがあると認められる職員であって、当該職員が引き続き職務に従事することにより、公務の円滑な遂行に重大な支障が生じるおそれがある場合」に当該職員を強制的に休職させることができるとしているのですが、皆さんはこの文章を読んで、どのような場合に休職させられるか具体的にイメージできますでしょうか?この文章は抽象的なので、軽微な事案にまで適用できてしまう可能性がありそうです。
このように恣意的な運用がなされると市民や市職員が安心して働いたり生活したりできません。ですから、法律の世界では、不利益を課す法律や条例等はその内容を明確にしておかなければならないという原則があります(明確性の原則)。今回の条例はこの原則に反しないかという問題もあります。
現に、東須磨小学校の加害教員4人全員に今回の条例を適用してしまっていますが、本当に4人全員に「起訴されるおそれ」まであるのでしょうか?詳細が不明なのですが、「起訴される」ということは法律家から言わせると相当酷い違法行為ということになりますが、本件の加害教員4人全員がそれほどの違法行為に加担していたのかどうか問題となりえます。
公務員の仕事が政治の力によって偏ってしまったり、時々の政治情勢によってコロコロ変わってしまったりしては国民・市民が安心できません。また、公務員には民間の労働者には当然認められるスト権などが制限されていたりします。これらのことから、公務員の身分は通常の労働者より保証されるべきだという考え方があります。今回はまさに、民意を受けた政治の力によって、公務員の地位が脅かされているとも見えますが、この点からも検討を要します。
また、今回は、条例で公務員の身分に関する事項を定めたことになりますが、条例とは法律の範囲内でしか制定することができないので(憲法94条)、今回の条例が、地方公務員法等の法律の範囲内かという点も検討を要します。
さらに、加害教員に対して必要な弁解の機会が与えられたのかという点も問題となりえます。
以上のとおりであり、今回の条例改正とその適用は、かなり慎重な検討を要する問題点を多々含んでおり、現に弁護士等を含む審査会の意見は、本件への改正条例適用を「不相当」と意見しています。にもかかわらず、民意に押されてあっという間に決まってしまった感じがあります。
加害教員のしたことを考えれば当然であり法律は現実的ではないという意見もあると思いますが、世論が可罰方向に傾いたときにこそ、無実の人に対して過度の刑罰を科してしまうなどして大変な人権侵害を起こしてきたという人類の歴史があります。それを受けて、法律が整備されてきているのです。
本件に関しても、一部マスコミの刺激的な場面が報道されているだけで、加害教員がしたことの経緯・詳細については不明です。事実が冷静に分析され、それに応じた適切な処分がなされることが、今後、私たちが安心して生活していくために必要なことです。そうでなければ、マスコミ・世論に嫌われてしまったら何をされるかわからないという社会になりかねないですが、そんな社会でよいのでしょうか。。。。
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