《第620号あらまし》
 実務研修会報告
     「働き方改革」の具体的対策(その2)
 民法改正と労働者の権利



実務研修会報告
「働き方改革」の具体的対策(その2)

弁護士 萩田  満


3 「同一労働同一賃金」関係

日本版「同一労働同一賃金」関係の内容は、大きく、

ⅰ)パート・有期雇用労働者と「通常の労働者」との「均等待遇」「均衡処遇」

ⅱ)派遣労働者の派遣先「比較対象労働者」との「不合理と認められる相違」禁止

の2つに分かれる。


ⅰ)パート・有期雇用労働者と「通常の労働者」との「均等待遇」「均衡処遇」

(パート・有期法8~9条)

労働契約法20条の有期雇用労働者の均衡待遇の規定がパート労働法に移動して「パート・有期法」となっただけでなく、+αがあることに留意が必要である。これを改正前・改正後の条文でチェックする。

旧8条(短時間労働者の待遇の原則) 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

新8条(不合理な待遇の禁止) 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。


旧9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止) 事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(第十一条第一項において「職務内容同短時間労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。

新9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止) 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。


旧10 条(賃金) 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者(通常の労働者と同視すべき短時間労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金(通勤手当、退職手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。

新10 条(賃金) 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。

以上のように、まず、新法では、「通常の労働者」との比較対象については、2014年通達を受けて、「業務」ごとに判断することになる。また、新法では、不合理な格差かどうかの判断について、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ」ごとに判断することが明記され、漠然と全体として格差が不合理かどうかという考え方をとらないことになった。

格差を設けることについては、「当該待遇を行う目的に照らして適切と認められる」ことが必要とされたので、その待遇格差を行う目的について明らかにしていく必要がある。使用者には「説明義務」(14 条)があるので、労働者・労働組合は積極的に説明を求めていくことができる。

そして、厚生労働省の通達(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針=厚生労働省告示第430 号[同一労働同一賃金ガイドライン])では、「事業主が、雇用管理区分を新たに設け、当該雇用管理区分に属する通常の労働者の待遇の水準を他の通常の労働者よりも低く設定したとしても、当該他の通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間でも不合理と認められる待遇の相違の解消等を行う必要がある」とされており、「すべての労働者」の職場における平等取扱い(処遇)が方向性として求められていると考えるべきであろう。


ⅱ)派遣労働者の派遣先「比較対象労働者」との「不合理と認められる相違」禁止

派遣労働者の「同一労働同一賃金」も、原則はパート・有期法と同じである(均等・均衡方式)。

(派遣法30条の3)(不合理な待遇の禁止等)

① 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

② 派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であつて、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。

ただし、派遣法の場合は、均等待遇を定めた上記制約から免れる道が用意されている。それは、次の条項による労使協定方式で、おそらく派遣会社はこちらでいこうとすることが予想される。

(派遣法30 条の4)

派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第四十条第二項の教育訓練、同条第三項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。ただし、第二号、第四号若しくは第五号に掲げる事項であつて当該協定で定めたものを遵守していない場合又は第三号に関する当該協定の定めによる公正な評価に取り組んでいない場合は、この限りでない。

一 その待遇が当該協定で定めるところによることとされる派遣労働者の範囲

二 前号に掲げる範囲に属する派遣労働者の賃金の決定の方法(次のイ及びロ(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものにあつては、イ)に該当するものに限る。)

イ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。

ロ 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること。

三 派遣元事業主は、前号に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たつては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること。

四 第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇(賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定の方法(派遣労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じることとならないものに限る。)


新法の新規定には積極面がある。すなわち、

・派遣先の派遣元への比較対象労働者に関する情報提供義務(26条7項)

・情報提供行わない場合の派遣契約締結禁止(26条9項)

・派遣先に対する派遣料金への配慮義務(26条11項)

・派遣元に対する特定事項明示義務(31条の2第2項1号)

・派遣元に対する措置内容説明義務(31条の2第2項2号、3号)

・派遣労働者から求められたときの派遣元の説明義務(31条の2第4項)

・派遣労働者に係る事項についての就業規則作成=「あらかじめ、当該事業所において雇用する派遣労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めなければならない」(30条の6)

このような積極的な規定が導入されたことにより、労働者・労働組合の運動の仕方によってはかなりのことが取り組めるはずである。


4 全体として

武井先生のまとめによれば、労働時間に関しては、新たな適用除外制度(高度プロフェッショナル制度)が入ったとはいえ、労働時間の使用者による把握が法律上の義務となったことは重要な点として押さえておきたい。三六協定の内容が法律事項となり、有効期間も限定された点は、具体的交渉において有力な足がかりとなりうる。

また、均等待遇・均衡処遇も、日本的雇用慣行を前提とする(同一企業内の均等・均衡にとどまる)とはいえ、派遣労働に関する均等・均衡処遇は、ことがらの性質上企業の枠を超える性質を有する。それを運動の観点からどう位置づけるか、この点も重要なポイントだと考える。

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民法改正と労働者の権利

弁護士 本上博丈


1 民法一部改正法が2020(令和2)年4月1日から施行される。この改正法の施行に合わせて関連法規の改正・施行もなされることが予定されており,その中には労働者の権利に大きな変化を生じさせるものもある。そこで,その概略を紹介する。


2 賃金請求権等の消滅時効

これまでは民法174条で1年の短期消滅時効が定められていたが,それでは短すぎて労働者の保護に欠けることから,労基法115条は賃金及び災害補償等請求権については2年,退職手当については5年と定めていた。

民法一部改正法によってその短期消滅時効が廃止され,契約上の債権の消滅時効は一律5年になったことから,そのままでは賃金等について労基法の方が短くなってしまうという逆転現象が発生してしまうことが問題になった。この点,今後,以下の労基法改正がなされて2020(令和2)年4月1日から施行されることが予定されている。

① 賃金請求権の消滅時効は5年とする。但し,当分の間,労基法109条が定める記録の保存期間に合わせて3年間の消滅時効期間とする。なお付加金については,賃金請求権の消滅時効期間に合わせて原則は5年としつつ,賃金と同様に当分の間は3年とする。

② 退職手当請求権の消滅時効期間は,現行の5年間を維持する。

③ 年次有給休暇請求権は,現行の労基法115条による消滅時効期間2年を維持する。年次有給休暇は,年休権が発生した年の中で確実に取得することが要請されているもので,消滅時効期間を長くすることは,その制度趣旨にそぐわないという考え方による。

④ 災害補償請求権も,現行の労基法115条による消滅時効期間2年を維持する。なお労災保険法に基づく補償請求権の消滅時効期間(療養補償給付,休業補償給付,葬祭料は2年,障害補償給付,遺族補償給付は5年)は変わらない。

⑤ 労働者名簿や賃金台帳等の記録の保存義務については,賃金請求権の消滅時効期間に合わせて原則は5年としつつ,当分の間は3年とする。

⑥ 賃金請求権の3年の消滅時効期間が適用されるのは,改正労基法の施行日である2020(令和2)年4月1日以後に支払期日が到来した賃金請求権からとする。付加金についても同様とする。

⑦ 賃金請求権の消滅時効期間を3年とする「当分の間」が具体的にいつまでかは明確ではないが,改正労基法の施行から5年経過後の施行状況を検討して必要な措置を講じることが予定されている。


3 遅延損害金の法定利率

これまでは民法上は年5%,使用者が会社などの場合に適用される商法上は年6%(商事法定利率)だった。しかし,低金利が20年近く続いていることから,今回の民法一部改正法で年5%だった法定利率が変動利率に改められ,商事法定利率の区別も廃止された。

具体的には,民法一部改正法の施行日である2020(令和2)年4月1日以後に支払期日が到来する賃金請求権については使用者が会社かどうか関係なく年3%となる。なおこの変動利率は3年ごとに1%単位で変動しうる。  

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