《第622号あらまし》
 郵政20条第二次訴訟が提訴されました
 東リ伊丹工場偽装請負事件
     神戸地裁労働部の不当判決
 新型コロナウイルス労働問題全国一斉ホットラインの結果報告



郵政20条第二次訴訟が提訴されました

弁護士 増田正幸


1 郵政産業労働者ユニオンは2020年2月14日、日本郵便の有期契約社員が、正社員には支給される手当が、非正規社員に支給されないのは「不合理な格差」であり、労働契約法20条に違反するとして、全国7カ所の地裁に集団提訴した。提訴したのは郵便局などで有期契約社員として働いている組合員154人。総額約2億3230円の損害賠償を求めている。

近畿では大阪、京都、兵庫の組合員65名(内37名が兵庫)が大阪地裁に提訴した。原告らは、郵政産業労働者ユニオン(以下「郵政ユニオン」という。)の組合員である。

2 被告の日本郵便株式会社は、2019年3月31日現在資本金4000億円、正社員19万2889人、非正規社員19万1853人が勤務する株式会社である。なお、2019年4月以降は、期間雇用社員が無期労働契約に転換したアソシエイト社員が約8万4900人、期間雇用社員が約9万1200人となっている。年収は正社員が平均626万円に対して、非正規社員は231万円である。なお、被告会社には、別に最大労組の日本郵政グループ労働組合(JP労組)が存在している。

3 本件訴訟で求める労働条件の相違は、次のとおりである。

正社員に支給される①住居手当、②年末年始勤務手当、③夏期冬期休暇、④祝日給(年始のみ)、⑤病気休暇、⑥扶養手当、⑦寒冷地手当、⑧夏期・年末手当(賞与)が有期契約労働者には支給されないため、その手当相当分を損害として請求している。また、⑧夏期・年末手当(賞与)は正社員に比べて著しく低額の支給しかないため、その差額相当分を損害として請求している。

ご承知のとおり、すでに同じ争点について、3つの訴訟が先行し、いずれも高裁判決(福岡高判平成30年5月24日、東京高判平成30年12月13日、大阪高判平成31年1月24日)が出ている。高裁判決では、下表のとおり、各手当について、労働契約法20条違反の有無について結論が分かれた。いずれも現在最高裁判所第一小法廷に係属中であり、近々、最高裁判所の統一した判断が示されることが予想される。

(表) ○は不合理(労契法20条違法)、×は適法という判断

手当等 福岡高裁 東京高裁 大阪高裁
住居手当 請求せず
年末年始勤務手当 請求せず 雇用5年超のみ*1○
扶養手当 請求せず 請求せず ×(原審は○)
夏期冬期休暇 ○(損賠は×)*2 雇用5年超のみ○*3
有休の病気休暇 請求せず ○*4 雇用5年超のみ○*4
早出勤務手当 × × ×
祝日給 × × 年始・雇用5年超のみ○
夜間特別勤務手当 × × 請求せず
夏期年末手当 × × ×

*1 「雇用5年超」とは雇用期間5年を超えた者。

*2 労働条件の相違は不合理だが損害がないとした。
*3 一律に夏期・冬期各3日分の損害を認めた。
*4 10日間を限度で実際に休んだ日数分の損害を認めた。

郵政ユニオンは、先行訴訟の司法判断に基づき各種手当の差額を支払うよう会社に要求してきたが、まったく応じなかったため、今回の集団訴訟を提起した。

4 被告においては「新一般職」と呼ばれる正社員(窓口業務、郵便内務、郵便外務又は各種事務等の標準的な業務に従事する者であって、役職層への登用はなく、勤務地は原則として転居を伴う転勤がない範囲とする)がいるが、原告ら期間雇用社員と職務内容等、職務内容及び配置の変更の範囲は同じであり、本件各手当及び休暇制度の趣旨目的からすれば、「新一般職」に支給される各手当、制度として付与される夏期冬期休暇及び病気休暇を、期間雇用社員に付与しないことは、不合理な労働条件の相違にほかならず、労契法20条に違反することは明らかである。

5 とくに、格差が大きいのは夏期・期末手当(賞与)である。

(1) 期間雇用社員も新一般職の正社員と全く同じ業務シフトに組み込まれるなど手当の支給対象期間に同様の業務を遂行しているにもかかわらず、正社員に比べて、一律に賞与計算基礎賃金(基本給合計額の6か月平均)を3割に減じて計算されている。

(2) このような夏期・期末手当の格差について、先行する東京高裁、大阪高裁の判決は、以下のような理由により不合理性を否定している。

① 賞与は、一般的に、対象期間の企業の業績等も考慮した上で、月額で支給される基本給を補完するものとして支給されるものであり、支給対象期間の賃金の一部を構成するものとして基本給と密接に関連するもの

② 基本給と密接に関連するから、賞与支給の有無及び支給額の決定については、基本給の設定と同様に、労使間の交渉結果等を尊重すべきであるとともに、功労報償的な性質及び将来の労働への意欲向上へ向けたインセンティブとしての意味合いをも有するものであることも併せ考慮すると、使用者の人事政策上の広い裁量が認められる

③ 正社員と期間雇用社員の職務の内容等には相違があり、功績の程度や内容、貢献度等にも自ずから違いが存在すること、

④ 長期雇用を前提として、将来的に枢要な職務及び責任を担うことが期待される正社員に対する夏期年末手当の支給を手厚くすることにより、優秀な人材の獲得やその定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性があること、

⑤ 正社員の夏期年末手当は、年ごとの財政状況や会社の業績等を踏まえて行われる労使交渉の結果によって、その金額の相当部分が決定されること

(3)しかしながら、

ア 夏期・年末手当の趣旨は、当該手当の対象期間、業務を遂行し、会社に貢献したことの対価というべきところ、原告らは、正社員と同じ勤務シフトに組み込まれ、同じ対象期間、同じ職務の内容を遂行している。

イ 被告における夏期・年末手当の支給は、決して被告の裁量に委ねられているとはいえず、支給自体が制度化され、計算方法も定められ、年間の賃金総額において大きなウェイトを占めている。

夏期・年末手当は、正社員にとっても期間雇用社員にとっても、支給されるか否かわからないような補助的・恩恵的な賃金ではなく、月例賃金と同じく生活に不可欠な賃金として組み込まれている。

ウ 先行する判決が、正社員が将来的に重要な職務及び役割を担うことが期待されているという事情を考慮しているが、なにゆえ当該事情は夏期・年末手当に格差を設ける合理的な理由になるのかは全く不明である。そもそも、被告において期間雇用社員と正社員との賞与に極端な差がついている最大の理由は、期間雇用社員の手当の計算式において賞与計算基礎賃金(基本給合計額の6か月平均)に「0.3」が乗じられていることにあり、「0.3」という数字は、「コストの均衡」というもっぱら財政的理由で設けられたものであって、「期待される役割の違い」などといった抽象的かつ主観的な事情は考慮されるべきではない。

6 大阪地裁における近畿集団訴訟の第1回期日は5月20日に指定されている。これまでも労契法20条違反を問う訴訟は提起されているが、本件のような全国的規模の集団訴訟は初めてであり、これに勝利することは郵政労働者のみならず、有期雇用労働者の全体の待遇改善に大きな影響を及ぼすものと思う。

みなさんのご支援、ご協力をお願いします(兵庫は萩田、吉田(竜)、増田)。

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東リ伊丹工場偽装請負事件
神戸地裁労働部の不当判決

弁護士 村田浩治


1 それはないでしょう裁判長!

2020年3月13日、偽装請負で20年近く就労した後、労働組合を結成し偽装請負に気づいた労働者たちが労働者派遣法40条の6に基づいて就労先の東リに対して労働契約上の地位の確認を求めた裁判で、神戸地方裁判所の第6民事の三名の裁判官(裁判長 泉薫、横田昌紀、今城智徳)は、そもそも平成29年3月頃には、偽装請負(違法派遣)等の状態にはなかったとして請求を棄却する不当な判決を言い渡した。判決文を読むと「それはないでしょ!」という判断が展開されていた。


2 就労実態は派遣か請負か

(1) この事件は、巾木工程と化成品工程という製造課の二つの工程(東リには外にもいつも工程があるうちの二つ)において長年偽装請負が続いていたが、労働組合が出来て派遣法にもとづく直接雇用を労働組合の執行部が検討し始めた直後の2017年3月1日に巾木が、同年4月1日から化成品がそれぞれ、労働者派遣契約に切り替わったという経過がある。たった一日で請負から派遣に切り替えても何の混乱もなく、製造がされていた経緯からみれば、これが偽装請負でなくてなんなのかということになりそうであり、提訴当初の裁判長も「これは派遣契約に切り替わったということが重要なポイントですね」と述べていた。それにもかかわらず、ふたをあけると、そもそも「偽装請負状態」にはなかったというのである。これが驚かずにおられようかといいたいのは当然だろう。

(2) 判決は、派遣と請負について、本来仕事の完成を目的とする請負と労働者による労務の提供という契約の定義に言及しているが、派遣と請負の区別にあたっては、全面的に行政の基準にそって判断する言明し裁判所独自の判断基準は一切示さなかった。行政判断追従の姿勢が明らかで、脱法行為を許さず派遣労働者を保護するという観点はゼロである。

したがって、請負から派遣に切り替わっても何の問題もないという実態、すなわち労働者らが、東リの労働者と同じ工場組織に完全に組み込まれていたという実態には一切触れないまま、ひたすら東リの指示があったといえない。請負会社がしていた(とも断定していないが)との判断を展開しただけで終始しているのである。

(3) 具体的な指揮命の存否について、原告らの証言に対して、東リが否認した事実について、現場責任者の証人申請を原告らが求めたにも関わらず、東リが反証しない姿勢を容認して却下した。原告としては東リが立証を放棄したと判断するのかと考えたが、そうではなく、原告らの「供述は裏付けを欠き採用できない」と一方的に原告らの証言を否定するというなんともお粗末で不当な判断をしたにすぎなかった。これが許されるなら偽装者は、ただ否認だけですれば反証不要ということになる。公正な裁判所の事実認定とはとうていいえない。その一方で、無視しようがない「東リの製造課担当者から主任を通さない機械の掃除の個別労働者への指示」については、「機械を所有する東リが関心をもって指示をするのは不自然ではない」と具合に、指示があったことはどうするの?と思わず突っ込みたくなる判断を示し、行政区分で説明しようがない事実は理由もなく、無視するという具合である。

(4) 巾木製品は、大量の原料を溶かして金型をとおして製造するもので、材料も機械もすべて東リの工場のものを使用していた。材料の費用の精算などは全くされていない。また工場の1階から2階に設置された大規模な機械の月額賃料が2万円とただ同然であった。判決も請負会社が材料を提供するという契約になっているにも関わらず、その発注はすべて原告らが東リのパソコンを通じて行い、「被告が支給した原材料の費用について清算されなかった」「機械について2万円の賃料が定められている」など独立した請負会社が自らの器財を自ら準備しているとは言いがたい事実は認定した。

常識的に考えて請負会社が自ら機械を使用しているとの判断が出来るとはいえない事実のはずだが、常識的から離れ「請け負った業務を自らの業務として被告から独立して処理していたものということが出来る」等と理由なき断定をした。法律家としておよそ説得的に法の適用するために事実認定行うという法律家の最低限の見識すら放棄していると言わざるを得ない。

(5) 判決は、数え上げればきりがない強引な判断の連続であり、何がなんでも偽装請負があったと認めないというものと言わざるを得ない。過去の事実経過を無視し、派遣法における労働者保護の趣旨を生かそうとする姿勢は全くない判断である。


3 2012年派遣法改正の趣旨を貫徹させるための高裁での闘い

本件の争点である労働者派遣法40条の6、1項5号の「雇用申込みみなし規定」は、2007年のリーマンショックの時期に起きた2008年の大量の派遣切りがきっかけとなって誕生した民主党政権の下で、偽装請負の就労先の雇用責任をことごとく否定する裁判所の判断を変えるためにと労働者の悲願が結集して改正されたものである。制定時には、自民党、公明党も修正に加わり制定された派遣、偽装請負で働く労働者の保護を強め、労働者の労務により利益を得ている就労先に雇用責任を認めさせよという運動によって生まれた規定である。

労働者らは、非正規雇用という立場にありながら勇気を振り絞って意思表示をして、その直後の派遣契約を拒否されるという不当な扱いを受けた。労働委員会での闘いも強いられるという困難の中で、闘いを進めてきた。

神戸地裁の判決はこうした労働者らを保護するどころか、製造業での派遣が許されていない時代から長年にわたって偽装請負を続けてきた東リの責任を不問にしたのである。こんな派遣労働者を馬鹿にした判決はありえない。

「みなし規定」で保護されるはずが、偽装請負認定のハードルを異様に挙げて労働者の保護に背を向ける。このような判断が許されるはずはない。必ず大阪高裁で逆転勝訴を勝ちとりたい(弁護団は 村田のほか安原邦博、大西克彦の3名)。

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新型コロナウイルス労働問題全国一斉ホットラインの結果報告

弁護士 本上博丈


新型コロナウイルス問題のため、解雇・雇止め・内定取消し、派遣切り、休業と賃金不払いなど、深刻な労働問題が起こってきている。そこで、日本労働弁護団は4月5日(日)全国一斉ホットラインを行った。兵庫県では、全国に先駆けて4月2日(木)午後5~9時、事務局弁護士4名で実施した。

広報が読売新聞に出ただけだったこと、全国一斉と日程が違っていたことなどから、相談は2件にとどまった。いずれも読売新聞がきっかけだった。

2件とも飲食店の期間の定めのないパート労働者で、3月20日前後に、コロナ問題が落ち着くまでパートは休んで下さいなどと言われたというものだった。店自体は相談時点ではまだ縮小営業を続け、正社員に仕事をさせるために、パートを休ませたということのようだった。賃金支払がどうなるかの説明がなされず、不払いになれば生活に困るという深刻な相談だった。この場合の休業は、営業禁止命令が出されているわけでもないので、法的には使用者の責任による休業ということになり、民法536条2項に基づいて労働者は賃金全額の請求ができる。労基法26条に基づく休業手当は60%なので、なぜ労基法の方が保護が小さいのかという疑問を感じるだろうが、労基法に基づく休業手当の支払は罰則をもって強制されているので、少なくとも60%は確実に支払われるように定めたものと理解されている。労基署は労基法に基づく指導監督をするので、コロナ問題で休業させられて賃金支払が全くないと相談すると、労基法26条に基づく60%の休業手当の支払を事業主に指導してくれると思われる。100%ではないが、自分一人ででも簡易迅速に一定の支払を受ける方法としては、労基署への相談も選択肢の一つと考えてよいだろう。

本上は、今後、いつまで休業が続くのかが分からないから、職場で同じような立場の人が複数いるなら、みんなで労働組合に入って賃金全額支払いの要求を団体交渉で行った方がよいと助言した。団体交渉なら、雇用調整助成金の利用を協議することもできるし、万一整理解雇ということになっても退職金支払い交渉を行うなど継続的に臨機応変な対応を行うことが可能となるからだ。

東京では1日で121件、全国で412件の相談があった。東京以外に多いところは、大阪64件、愛知56件、北海道42件、神奈川24件、京都15件など。内容は、賃金不払いと休業・休暇が圧倒的に多く、労働条件変更、正規労働者の契約終了、非正規労働者の契約終了、派遣切りが次いだ。委託・フリー個人事業主からの相談も多い。現在の雇用状況の深刻さを表しているものとして、採用内定取消が12件もあり、予想以上に多いと感じた。

コロナ問題による休業や活動自粛はかつてない規模のもので、かつ現在進行形で終期も見えない。雇用不安の解消と生活できる安定した収入の確保は、命や健康の確保とともに最優先の課題であるはずだ。

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