《第624号あらまし》
 国家公務員の定年延長
 5.16コロナ問題緊急労働相談ホットライン
     解雇・休業補償・安全対策・ハラスメント・コロナ問題の困りごとはすぐ相談



国家公務員の定年延長

弁護士 増田正幸


1 はじめに

国家公務員の定年を65歳に段階的に引き上げる国家公務員法(国公法)の改正と検察官の定年を63歳から65歳に延ばす検察庁法の改正を内容とする一括法案が今国会で審議入りしていた。

検察官の定年延長については,検察官の政治的中立性を損なうものとして,多数の国民の厳しい批判を浴び,政府は一括法案の今国会での審議を断念した。

しかし,以下にのべるとおり,国家公務員の定年延長は検察官の定年延長とはその改正趣旨が全く異なり,そもそも検察庁法改正と抱き合わせにすることに合理的な根拠はなかった。


2 一般職国家公務員の定年制

裁判官や自衛隊員には定年が定められていたが一般職の国家公務員に定年制が導入されたのはようやく1985年3月になってからである。それまでは退職勧奨(退職金の割増しがあった)により57,58歳で自主退職し,管理職はそれより早く50歳代の半ばまでに退職する慣行が続いていた(これが民間企業や外郭団体への天下りの一因となった)。

しかし,人口構造の高齢化の中で高年齢まで就業したいという要求が高まり,勧奨が機能しにくくなったため,1985年に60歳定年制が定められた。


3 改正法の内容

改正法は,①一般職の国家公務員の定年(60歳)を2022年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ,2030年度に65歳にする。②人事の停滞を防ぐため60歳に達すると原則として管理職から外れる「役職定年制」を取り入れる。③60歳以降の給与は当分の間,それまでの給与の7割とする,というものである。


4 改正の背景

(1)少子高齢化がますます進み,年金財政確保の観点から,厚生年金,共済年金等の公的年金のうち,老齢年金の定額部分の支給開始年齢が平成13年度から平成25年度にかけて段階的に60歳から65歳まで引き上げられた。これに伴い60歳定年を前提に65歳の年金支給開始までの雇用と年金の接続を図る仕組みとして平成13年度から再任用制度が導入された。

さらに平成25年度以降,公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引上げもなされることになり,60歳定年のままでは年金の支給が開始されるまでの5年間に無収入となる期間が生じることになった。

(2)他方で,65歳以上の人口比率は29%に達し,さらにその比率は伸びており,若い世代の社会保障負担が増大し,経済成長に必要な労働力の確保が困難になることが危惧される。

そこで,高齢者に就労機会を保障することが焦眉の課題となった。

(3)民間企業については,1994年に高年法が改正され,60歳定年の努力義務規定が強行規定となった(施行は1998年度から)が,60歳以降の雇用継続については使用者に努力義務が課せられるにとどまっていたところ,2004年の改正により,65歳までの高年齢者雇用確保措置が「義務」に格上げされた。ただし,現在でも民間企業の大半が継続雇用制度(有期雇用)を採用しており,雇用確保措置の内,定年延長や定年の廃止は普及していない。

(4)ところで,民間企業における再雇用制度が定年前の仕事内容を継続しているのとは異なり,国家公務員の再任用制度の場合は,厳しい定員事情などにより,定年前よりも職責が軽く補完的な職務で,かつ約8割が短時間勤務を余儀なくされていて,仕事の内容の変動や待遇の低下が大きい。このまま再任用職員の割合が高まると,職員の能力・経験が生かし切れず,公務能率の低下が懸念されている。

(5)高齢化のますますの進行に備えて,現在,70歳までの就業機会を確保しつつ年金の受給開始年齢の選択肢の幅を75歳まで拡大することが検討され,本年3月末には高年法の改正によって,民間企業に対して,70歳まで雇用する努力義務が課されたが,公務員においても高齢者の就労機会を確保するとともに安定的で質の高い行政サービスを提供し,雇用と年金の確実な接続を実現するため,今回の定年延長が提案されたのである。

また,国家公務員の定年延長を契機として民間企業にも定年延長を促すということも期待されている。

(6)法案では国家公務員の定年年齢を2年に1歳ずつ引き上げ2030年4月で制度を完成させることになっているが,そのことによって定年退職が発生しない年が2年に一度生じることとなる。国家公務員の定員は総定員法で定められており,総人件費抑制方針の下,毎年2%の定員削減が職場に課せられている現状に鑑みれば,おそらく新規採用は2年に1度しか行えなくなる。他方,制度完成までは現行の再任用制度と同様の「暫定再任用制度」が続くが,前記のとおり約8割が短時間勤務であるという現状は変わらないため,法改正が実現したとしても高齢の公務員が直面する問題が解決するわけではない。高齢者の就労機会を確保と生活の安定,安定的で質の高い行政サービスの提供を実現するためには何よりも柔軟な定員管理を可能とすることが不可欠である。

また,60歳超職員の生活維持はもとより,若い世代を含めた職員のモチベーションや民間企業への影響などをふまえれば,年齢を理由に給与水準を7割に引き下げることは重大な問題であるし,一律の引き下げ自体が同一労働同一賃金に矛盾するおそれがある。

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5.16コロナ問題緊急労働相談ホットライン
解雇・休業補償・安全対策・ハラスメント・コロナ問題の困りごとはすぐ相談

兵庫県労働組合総連合・兵庫労連労働相談センター 北川 伸一


未曾有の危機の中で

5月16日「5.16コロナ問題緊急労働相談ホットライン」を全国いっせいに実施しました。日本社会を覆うコロナ禍の中、解雇・休業補償・安全対策・ハラスメント、コロナ問題の困りごとはすぐ相談を、と呼びかけました。文字通り「緊急」の取り組みになったため、従前は県内数カ所で取り組むのですが、今回は兵庫労連労働相談センター(兵庫労連内)のみの実施となりました。緊急事態宣言が出され、在宅勤務、休業要請(自宅待機)や事業所閉鎖が相次ぐなど、誰もが経験をしたことがない状況下での取り組みでした。


自粛(休業)と補償(手当)はセットで

当日は、約3年半ぶりに民法協の先生方の協力を得て取り組みました。しかし、相談件数は低調でした。独自宣伝の弱さがあったのと同時に、「マスコミ報道」が少なかったことが要因だと思います。当日の要項、結果は以下の通りです。

実施日時 5月16日(土)10:00~18:00
電話台数 2台(フリーダイアル)+α
相談員 16名(弁護士7名含め)
相談件数 7件(電話)
内訳
性別 男性2名、女性3名、不明2
年代 30代3名、60代~1名、不明3名
雇用形態 パート・契約・アルバイト4名、その他(日雇い)1名、不明2名
相談内容(重複あり) 解雇・雇止め2件、賃金・残業等未払3件、パワハラ・セクハラ1件、その他1件

〔相談事例〕 相談内容と回答(アドバイス)

①日雇い・男性・30代

3~4箇所で仕事を受けている。仕事があれば連絡が来るという形になっているが、現状は仕事がない。今後どうなるのか。助成金はもらえるのか…。

●回答・アドバイス→助成金の支給は厳しいかもしれないが、労働局に問い合わせすること。

②パート・60代~・女性

パートの保育士として勤務中。4月20日から特別保育のみとなり仕事が休みとなった。5月末まで仕事がない予定となっている。この間の給料がない。どうしたらよいか。

●回答・アドバイス→同じ立場にある人と繋がって、給与の請求を。資金がないと言われたら雇用調整助成金の申請を経営者に求めること。対応しないなら、改めて労働組合に相談を。

③パート・30代・女性

保育所が休みのため子を預ける先がなく休まなければならなくなった場合、現在、職場の規定上は週2日までしか賃金補償されない。契約上は週3日勤務となっている。

●回答・アドバイス→一般論として「自己都合休暇」は自分の有給休暇で対応するが、現在は特別休暇を決めている会社もある。国の指針はあるが、どのような制度にするかは会社判断で、週2回という縛りも法的問題にするというのは難しい。

④広告業・事業者

コロナの影響で休業中。2月から試用期間で採用している人を雇い止めできるか。

●回答・アドバイス→その従業員に今後も雇用の期待があるかを先ず問うべき。

⑤営業事務・パート・従業員9人の事業所

身分はパートだが「フルタイム」(9~17時30分)週5日勤務が週2~3日になった。正社員含め、2チームで交代勤務しているが、電車に乗るなと言われている。4月は有休で処理したが…今後は不明。

●回答・アドバイス→本来、全額の賃金を請求できる。少なくとも休業手当の請求は可能。


コロナ口実の、労働者いじめは許されない

兵庫労連労働相談センター、そして幾つかの地域組織では、今回のような集中した取り組み(ホットライン)とは別に、日々相談活動を続けています。この何年かは1ヵ月の相談件数は50件程度でしたが、コロナ問題が顕在化した後は急増しています。具体的には、1月(47件)、2月(45)件、3月(71件)、4月(120件)、5月(108件)、となっています。3月以降は直接・間接に関わらず、コロナ問題に関連する相談が主となっています。中には、明らかにコロナ問題を悪用した事例(企業対応)もあります。その事例(相談内容のみ)の幾つかを紹介します。

①女性・20代・パート・ホテルの受付補助

コロナの影響で店が暇になり4月から休んでほしいと言われ自宅待機。いつ仕事に復帰できるのか連絡なし。休業手当てのことも一切話しはない。パートでも休業手当は請求できるのか。

②女性・パート

学童保育で働いている。社会保険にも加入しているが、身分はパート。従前は春休み中、朝から休憩なしで18時まで働いていたが、コロナ対策で半日勤務になった。時間給なので基本契約の18時までの補償もなく、会社に相談しても補償しないと言われた。

③男性・50代・派遣

派遣で大企業製造業(下請け)の工場で働いている。コロナの問題が出てきて、直雇用のパートや派遣が解雇・雇い止めになる。会社は、県内での就業先(派遣先)はないが、四国ならあると言い、1週間で行くか行かないか決めてくれと言われた。そして、行くなら4月中は「自宅待機」とするが、行けないなら雇い止めになる、と言われた。社宅(借り上げ)に住んでいるので、クビになれば出て行かなければならない。

④女性・40代・契約社員

契約社員で大手企業に勤めていたが、求人情報で正社員募集があり応募。2月に内定をもらい4月から就業する予定だった。しかし、連絡がないまま4月が迫り問い合わせると今探しているが就業先がない、と言われた。「正社員」になれると思い前職を退職した(自己都合)が、実際は関連企業への派遣だった。会社には二重三重に裏切られた。

⑤女性・60代・パート

1年契約を更新し続け10年近くパートで働いている。4月始めに、コロナの影響で4月中旬から5月末まで休業という連絡があった。その後連絡がないので休業が続くのかと思っていたら、事業所を閉鎖するという。そして、パートは一旦契約を切り(雇い止め)落ち着いたら(コロナが沈静化したら)改めて面接をして就職(雇用する)できるかどうか決めるという。この間の「休業手当」を出すかどうかの明確な返答なし。


世論と運動が政府を動かした

それにつけても思うことは、政府の対応の拙さです。唐突に小中高の学校を2週間臨時休校にしたかと思えば、来月の家賃も払えないといった具合に国民生活が危機に陥っているにもかかわらず、「お肉券」や「お魚券」の構想が出てきたり、と信じられないことが続きました。その後、世論の高まりと野党の追及で政府を動かしました。雇用調整助成金(特例、日額上限の引き上げ等)中小企業などへの持続化給付金や家賃補助等、遅ればせながら対策が進みました。しかし、まだまだ「遅い、少ない、届かない」という状況が続いています。手を緩めず、政府や自治体に施策の改善・充実を迫らなければなりません。


「コロナ」は弱者に重くのしかかる、格差をなくす働き方の実現を

心配されるのが、今後、製造業を中心にさらに派遣切り・雇い止めが進められようとしていることです。厚生労働省によると派遣労働の解雇等見込み労働者は5月22日時点で710人。これには「自己都合」退職は含まれていません。労働力調査では3月の派遣労働者数が前年同月比で2万人減少しています。既に深刻な事態にあるということです。

「いま起こっているコロナを口実にした『派遣切り』は、2015年派遣法改定時に安倍首相が雇用を安定させる改正だとしていた建前がうそだったと教えてくれたものです。08年のリーマン・ショックのときに『派遣切り』を生んだ教訓から、12年の派遣法改正を実現しました。しかし、15年施行の1日前に安倍政権によって再び改悪されて延長が可能となったため今回も防げなかった。もう一度派遣法を抜本的に改める動きを起こさなくてはなりません。『派遣切り』によって生活が苦しい派遣労働者が声をあげることは大変ですが、労働組合に加入するなどして、声をあげてください。私たちも支援します」

(しんぶん赤旗6月1日掲載「非正規労働者の権利実現全国会議の村田浩治弁護士の話」の抜粋)


貴男も貴女も、老いも若きも労働組合へ

上述した「相談事例」にも現れていますが、コロナ禍は立場の弱い非正規雇用労働者を直撃しています。特に女性は深刻です。紹介した今年1月~5月の相談件数は391件ですが、そのうち女性の相談数は227件です。そして、正社員の相談件数は136件、パート・契約・派遣など非正規雇用者の相談は220件を超しています。

前出の「村田浩治弁護士の話」にもあるように、本当に今こそ労働組合の出番です。相談活動の充実はもちろんですが「一人で悩まず、労働組合に加入して一緒に問題を解決しよう」の声を広げ、あちこちで労働組合が話題となるように頑張っていきます。そして事態を「傍観」し、悪用さえしている大企業へ要求を突きつけ「貯まりに貯まった内部留保を吐き出し、労働者・国民のいのちと暮らしを救え」の運動を共同して取り組んでいきたいと思います。  

最後に、今回の「労働相談ホットライン」は久しぶりに兵庫民法協の先生方に全面協力をしていただきました。紙面をお借りしお礼を申し上げます。ありがとうございました。日常の相談活動へのご協力始め、今後ともよろしくお願いします。  

ご協力いただいた兵庫民法協の先生方 *敬称・事務所名略

八木和也(中神戸)相原健吾(神戸合同)與語信也(神戸花くま)萩田満(中神戸)本上博丈(中神戸)白子雅人(あいおい)増田正幸(神戸あじさい)

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