《第631号あらまし》
 2021年新年挨拶
 年頭のあいさつ2021年
 マリスト国際学校分会結成の経緯と不誠実団交
 マリスト国際学校労働委員会救済申立と団交拒否について



2021年新年挨拶

代表幹事 弁護士 羽柴 修


1 「おめでとうございます。」というのが憚(はばか)られるような正月です。私は1949年丑年生まれ(恥ずかしながら菅首相と同じです)であり、当たり年は良いことではなく、どちらかと言えば禍福の「禍」が要注意ですが、新型コロナ「禍」だけには当たりたくありません。

2 さて2020年新年「あいさつ」で、米国トランプ大統領による「イラン革命防衛隊・コッズ部隊ソルメイニ司令官の殺害事件」に触れていますが、この原稿を書いている8日の前日、即ち7日(現地時間6日午前)、トランプ大統領支持者数千人が米国連邦議会に押しかけ、同議事堂に侵入、死者まで出すという事件が報じられました。同議会ではアメリカ大統領選挙の結果を公式集計する上下院合同会議が行われており、「選挙を盗んだ」と訳の分からないことを主張するトランプ大統領が直前の集会で「議事堂に行け」と支持者を煽動したことも報じられています。我が国であれば、それこそテロ行為(騒乱罪)として「共謀罪」で同大統領は引っくくられてもおかしくない事態です。銃で撃たれた女性他4名が議事堂周辺で死亡したとのことであり、合衆国憲法はどこへ行ったのか、アメリカの民主主義の崩壊の予兆を垣間見る事態で、暴力容認の風潮が蔓延するのが恐いです。

3 中国では既に無許可集会煽動罪で禁固10月の判決を受け服役中の周庭さん他「香港民主派」に対する刑事弾圧が続いていますが、6日、元立法会(議会)議員や現職の区議ら53人が「国家安全維持法違反容疑」で香港警察に逮捕されました。昨年9月に予定されていた立法会議員選挙に向け、同年7月に共倒れを防ぐために立候補者を絞り込む予備選挙を行ったことが「国家を転覆させようとした」ことになるんですって。「選挙をしたから逮捕されるなどということは、およそ文明国では考えられない」と共産党の志位委員長は厳しく指摘しています。

この指摘は、至極真っ当なことを言っていると思います。戦前の治安維持法による弾圧と同じことが、いやもっと酷いことが行われているのです。中国は最早、文明・文化国家ではない、人の命や個人の尊厳を無視するファシズムが台頭していると言わざるを得ない。こうした事態について我が国の政府は何も言わない(「遺憾」ではいかんぜよ)、そういう宰相が率いる我が国も文明・文化国家とは言えません。

4 学術会議問題も然りです。学術会議は、科学者が、人道に違反する兵器開発に、「その意思に反して」協力させられてきた歴史を繰り返さないために終戦直後の1949年に設立されました。「日本学術会議法」では「科学者の総意の下に、我が国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し(法律前文)、「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透(政府からの諮問に対する答申と政府への勧告)させることを目的(第2条)」として独立した活動が保障されています。設立当時会員(特別職の国家公務員)は、全国の科学者の選挙により選出されていたのですが、1983年に「推薦に基づく任命制」に変わりました。変わりはしましたが、この場合でも学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考して内閣総理大臣に推薦」(17条)、「推薦に基づいて」会員が任命されます。選考基準は「優れた研究又は業績」のみであり、この判断が出来るのは科学者(学術会議)だけであり、1983年学術会議法改正時、中曽根首相も「推薦に基づく内閣の任命」は形式的な発令行為であると答弁しています。

それを菅内閣は105名の推薦会員中、6名の任命を拒否しました。菅首相は学術会議会員の任命について「総合的・俯瞰的」という学術会議法にない選考基準を持ち込みました。法令に定めのない基準による任命拒否は違法であり、理由を説明しなくてもいいのであれば、意に沿わない学者の任命拒否が自由にできることになり、良心に基づいて真理の探究をする「学問の自由」(憲法23条)が大きく損なわれます。このようなことが許される国家は、最早「文明国・文化国家」ではないですし、この問題を軽視することは戦前の「滝川事件」「天皇機関説」事件による学者の弾圧の後、全面的な思想弾圧、戦争に突き進んだ歴史を繰り返すことになります。

5 今年は新型コロナ禍における「労働者の現状と課題」に触れることをしませんでした。又、別の機会にしたいと思います。今年も宜しくお願いします。

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年頭のあいさつ2021年

代表幹事 兵庫県医療労働組合連合会 書記長 門 泰之


新年あけまして、おめでとうございます。

昨年末より、新型コロナの第3波感染が拡がりつつあります。みなさん、感染予防には十二分にご留意ください。

さて、人類はウイルスに勝てるでしょうか? 答えはNOです。

新型コロナに対しては、ワクチンが開発され、日本でも2月末の接種開始に向け準備が進められています。やがて特効薬も開発されるでしょう。しかし、変異種が出現しており、予定どおり抑え込めるかは不明です。

問題は、人間が自然界に働きかける中で、必ず新たなウイルスと遭遇するということです。“宇宙開発から”ということもありうるでしょう。

付き合い続け、悪さをするウイルスなら、そのつど抑え込むしかありません。(なお、ウイルスには悪気はありません。他の生物の中でしか増殖できないのですから。) 

ただし、日本には憲法25条があります。先人の知恵です。

第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

②項に基づき、国が保健所や病院等の設置の「向上及び増進に努め」ていれば、今般のコロナ禍はもっと小さなもので収まっていたでしょう。

ディーセントワークの前提となる、安心して暮らせる社会をめざし、今年もがんばりましょう!

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マリスト国際学校分会結成の経緯と不誠実団交

兵庫県私立学校教職員組合連合 副執行委員長 永島 徳顕


1 昨年9月にマリスト国際学校で、再び組合が結成された。

事の発端は、昨年の春、理事の解任、複数の評議員の退任、PTA会長の退任など、不穏な動きが相次いだ。新学期を3週間後に控えた7月末、教職員に何の前触れもなく、校長が突然解雇された(校長は2018年に無期契約に転換されたが、何故か委任契約の期間満了とされ事実上の解雇)。

教職員の間には不安と動揺が広がり、その一週間後、理事会が教職員の質問に答えるオンライン会議があった。そこでは理事の一人が文面を読み上げるのみで、「秘匿情報」を理由に何の説明もされなかった。


2 校長は正当な手続きを経て解雇されたのか。自分たちの無期転換契約とはどのような意味を持つのか。個人的にメールをしても理事会から回答は無かった。そんな時、3、4人の教職員から「労働組合を結成しよう」という声があがった。

欧米の国々で労働組合の経験が豊富な教職員はいても、日本の労働組合について知識がある者は皆無であった。新聞記者・学校関係者・組合経験者などから聞き取りをしたり、インターネットの組合サイトを比較したりと、リサーチをした結果、8月4日に兵庫私教連に相談に来た。

新たな組合結成よりも、3年前に事務系中心で組織された組合を引き継ぐ形(前回の組合と学園との合意書を有効活用するために)で、活動を再開してはどうかとアドバイスし、再活動のために組合員を増やすように伝えた。その結果、組織率8割の組合ができ、9月4日に学園に組合活動再開の通知書と団交要求書を提出した。


3 団交前に受取った学園からの回答書はすべて、「応じかねる」の一言で済まされ、何ら理由の説明がない回答であった。


4 10月22日の第1回団交では、わざわざ兵庫私教連加盟の組合として活動再開の通知をしたにもかかわらず、前回の合意書について、理事長はじめ団交に参加した理事及び弁護士の誰一人知っている者はいなかった。

その場で合意書を弁護士に渡し、誠実団交義務を記した条項を英語に訳し校長に伝えるように言ったが、「これを全部翻訳するのもばかばかしいので、趣旨からおっしゃってください」と弁護士らしかぬ発言をした。

そして、理事長に至っては、合意書を前提に交渉するなら、「もう今日は交渉する必要は無い」と言い早々に団交を終えようとした。

また、基本的要求事項の「誠実な団体交渉と身分、賃金、労働条件について労使双方同意の上円満に実施すること」に対して、「応じかねます」の一言しか回答しないことは、団体交渉を否定し、不誠実団交ではないかと問うと、弁護士は「団体交渉には応じますが、要求していることに関しては応じかねますと言っている。」や、「応じられません」という回答だけで団交は成立するのかの問いには、「団体交渉の場をもっている。話し合いをしている。」と回答した。

元校長(兼理事)の解雇に関連して、理事会の議事録や理事報酬規程を出してと要求(法的に何ら問題のない)しても、根拠条文も示さず「出す必要がない」と回答した。

組合がカール・ツァイス事件の判例を引き合いに出して、不誠実団交ではないかと指摘しても、「今回の件は当てはまらない」と言い切り、回答に窮すると「話がつながらない」や「何を言っているか分からない」と言い、交渉どころか普通に話も出来ない状況であった。

また、「組合は子供たちのためを思って取り組んでいる」との訴えに対して、理事長は「要求事項は自分たちのことばかり」と組合敵視とも言える言葉を放った。


5 兵庫私教連としては、このような不誠実な対応は、今後団交を重ねても変わらないと判断し、12月17日に労働委員会に救済の申し立てを行った。

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マリスト国際学校労働委員会救済申立と団交拒否について

弁護士 與語信也


1 マリスト国際学校で校長が突然解雇されたことを発端に、昨年9月、教職員を中心に組合が再結成され、学校に対し団交の申し入れがなされました。しかしながら、学校側は組合の要求に対し書面で回答を要しないと伝え、ようやく開催された団交においても、全く実質的な対応をしませんでした。その後も、書面のやり取りが行われたものの、2回目の団交開催の目途はたっていません。そうしたことから、昨年12月、不誠実団交を理由に労働委員会に対し救済申立てがなされました。


2 労組法7条2号は、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を、不当労働行為として違法とし、禁止しています。もっとも、形だけ交渉に応じれば適法というわけではなく、使用者は誠実に交渉に応じる義務があります(誠実交渉義務)。当然、使用者は組合の要求に全て応じる義務があるわけではありませんので、交渉の場で、どの程度の議論・交渉をすれば、「誠実交渉義務」を果たしたことになるのかが問題となります。


3 会社が負う「誠実交渉義務」の内容、程度は、カール・ツァイス事件(東京地判平1・9・22)で、「使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉にあたらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなど努力するべき義務がある。」と判示されています。

具体的には、以下のようなケースで、不誠実団交が問題となります。

・労働組合の要求に対して、解決済みであるとの態度に終始する。

・労働組合の要求の具体的な内容を検討せず、必要な資料の提供を拒む。

・団体交渉を始める前から、既に結論を決めており変更する気がない。

・労働組合の要求を拒否するにあたり、拒否理由の説明が一切ない。


4 団交拒否にあたり違法と認定した最近の裁判例として、以下の事例を紹介します。

(1) 学校法人大乗淑徳学園事件(東京地裁平31・2・21)

学部廃止による解雇に関する団交拒否の不当労働行為該当性が争われた事件で、学校側が交渉場所を学外とする開催条件に固執して団体交渉に応じなかった点について、裁判所は、団交拒否で違法と認定しました。

(2) 日本郵便(晴海郵便局)不当労働行為救済命令取消請求控訴事件(東京高判令元・7・11)

組合員に対するパワハラについて会社に謝罪要求した団交申し入れを、会社が拒否したことが、義務的団交事項に該当するかが争われた事案で、東京高裁は、不当労働行為に当たらないとした一審を取り消し、「組合員へのパワハラに対する謝罪の要求の方が従たる交渉事項であったとしても,・・・会社が組合員へのパワハラに対する謝罪の要求に係る団体交渉を拒む正当な理由を見出すことはできない。」として、団交拒否と認定しました。

(3) その他、不誠実団交に関する過去の裁判例としては、交渉権限のある者が出席しない(大阪特殊精密工業事件 大阪地裁昭55・12・24)、文書交換による主張のやり取りに固執し直接交渉に応じない(清和電器産業事件最判平5・4・6、大阪赤十字病院事件最高裁平4・11・26)、団体交渉の出席人数の制限、交渉開始に至る手続問題などに固執し交渉開始を遅延させる(商大自動車教習所事件最判平元・3・28、文英社事件最判平4・11・26)などが、団交拒否ないし不誠実団交として違法とされています。


5 本件の被申立人の団体交渉における対応は、

・団体交渉に先立ちだされた「回答書」で、理由をほとんど示すことなく、要求事項や資料の提出に応じかねるとの回答を行い

・掲示板や組合事務所の設置、会議等の場合の学園施設及び機器の使用、年俸上限設定についての見直しの要求についても、拒否する理由を述べず、資料を提示することなく、単に応じられないとのみ述べ

・組合員へのパワハラ行為について、団体交渉の議題ではないとして協議を避け

たというものであり、上記の裁判例に照らした場合、今後の調査において、これらのことが団交拒否ないし不誠実団交に当たると認定されることは明白であると思われます。

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