《第641号あらまし》
 第47期労働者委員の任命について
 労働法連続講座(第1回)報告
     「労働基準法の総論」
 転載:東リ偽装請負事件(大阪高等裁判所令和2年(ネ)第973号)
     大阪高等裁判所判決を受けての弁護団声明



第47期労働者委員の任命について

弁護士 増田 正幸


2021年10月1日付けで兵庫県労働委員会の第47期委員が選任された。兵庫民法協が加入している「労働者委員の公正な選任を実現する兵庫県連絡会議」(連絡会議)は前回に引き続き、医労連の門泰之さんを推薦したが、今回も連合独占の壁を打ち破ることはできず、門さんの任命はかなわなかった。

これまで兵庫県の労働者委員の出身労組は以下の7つの枠のいずれかに限られてきた。

① 新日本製鐵広畑労働組合

② 自治労兵庫県本部又はNTT労働組合(旧全国電気通信従業員組合)兵庫県支部

③ 旧造船重機労働組合連合会を上部団体とする労働組合(三菱重工労働組合神戸造船支部および川崎重工労働組合明石支部)

④ 関西電力労働組合又はクボタ武庫川製鉄所労働組合

⑤ 兵庫県交通運輸産業労働組合協議会を上部団体とする労働組合(神姫バス労働組合、全日通労働組合関西地区兵庫県支部及び山陽電気鉄道労働組合)

⑥ UI(UA)ゼンセン兵庫県支部

⑦ JAM山陽を上部団体とする労働組合

連絡会議は改選の度に県に対して公正な選任を要請してきた。他県では県知事の交代期に非連合の労働者委員が任命された例があるため、県知事が交替後の第47期の選任については多少の期待はあったが、蓋を開けるとやはり連合独占が維持された。

労働者委員7名中、3名の委員が交代したが、いずれも組合内の役員交代に伴うもので、出身母体は第46期と全く同様である。

歴代の労働者委員の出身組合
39期 40期 41期 42期 43期 44期 45期 46期 47期
新日鉄 新日鉄 新日鉄 新日鉄 新日鉄 新日鉄 新日鉄
(連合事務局長)
新日鉄 新日鉄(新)
NTT NTT
(連合事務局長)
NTT NTT NTT
(連合会長)
自治労 自治労 自治労 自治労
三菱重工 三菱重工 三菱重工 三菱重工 三菱重工 三菱重工 三菱重工 三菱重工 三菱重工
関西電力 関西電力 関西電力 関西電力 関西電力 関西電力 関西電力 関西電力 関西電力
(連合事務局長)
山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄 山陽電鉄(新)
UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン UAゼンセン
JAM山陽 ナブコ オークラ輸送機 東洋機械金属 東洋機械金属 東洋機械金属 オークラ輸送機 オークラ輸送機 オークラ輸送機

兵庫県は、労働者委員の選任にあたっては、5つの基準(①候補者の経歴〔年齢・学歴・職歴・勤務先等〕、②公職歴、③労働組合における役職歴、④候補者が所属する労働組合の規模、⑤候補者が所属する労働組合の産業分野、を総合的に判断し、候補者の属する系統は一切考慮してはいないと説明しているが、上記のようなこれまで任命の経過を見れば、特定の組合の「指定席」になっていることは明らかである。

兵庫県の労働者の組織率はいまや20%を割っているが、そのうち連合加盟組合は73.9%、全労連加盟組合は3.6%であるが、不当労働行為救済申立てをする組合の大部分は非連合で組合員数199人以下の小さい組合であり、労働委員会を現に利用している組合の多くは中小規模の労働組合である。労働委員会制度が交渉力の弱さを補うという機能を有することから見れば、当然の結果である。

不当労働行為救済申立数
H27 H28 H29 H30 R1
9 5 10 12 7
77.8 100 70 83.3 57.1 199人以下の組合の割合

そして、労働委員会の敷居を低くして労働委員会を利用しやすい機関にするためには、労働委員会を現に利用している中小の組合が信頼をもつことができ、中小の労働運動の実情に詳しい人物が労働者委員に選任されなければならない。運動の路線について大きな意見の相違があり、時には同じ職場に双方の加盟組合が併存して争うこともある連合兵庫加盟組合の役員を信頼して、手続の進行や主張立証について腹を割って話をしろというのには無理がある。したがって、異なる系統からも労働者委員を選んでこそ、公正な任命といえるのである。

兵庫県の労働者の組織状況
組合数 組合員数 組織率 パートを組織している組合
組合数 組合員数
H27 2,111 392,736 20.2% 245 34,492
H28 2,054 387,674 19.6 233 32,448
H29 2,043 388,545 19.9 207 30,886
H30 2,032 385,869 19.5 236 33,489
R1 1,999 388,892 19.3 228 37,078
R2 1,956 391,095 19.8 242 44,671

兵庫県の労働組合と系統
R2年 組合数 組合員数 構成比
連 合 1,104 288,962 73,9%
全労連 273 13,975 3.6
その他 579 88,158 22.5
合 計 1,956 391,095

理屈はともかく、連合兵庫と兵庫労連の組織人員の違いは大きい。

また、非連合の組合の多数が労働委員会を利用していれば、利用者としての発言にも説得力が生じるが、実際には民法協加盟組合を含め、労働委員会を十分利用されているとはとてもいえない。その結果、労働委員会の民主化や労働者委員の公正任命を要求する声も決して大きくない。

交渉力の弱い小規模の労働組合にとって、労働委員会は要求を前進させるための大きな武器となりうるものである。もう一度、原点に立ち返って労働委員会制度について学び、民法協としてその上手な利用を考えなければならないと思う。

第47期 兵庫県労働委員会委員名簿 (任期:令和3年10月1日~令和5年9月30日)
区分 氏 名 現 職 等 備 考



浅田 修宏 弁護士 新任
大内 伸哉 神戸大学大学院法学研究科 教授 再任
岡  秀次 元 公益財団法人神戸いきいき勤労財団シルバー人材センター 北区センター所長 再任
関根 由紀 神戸大学大学院法学研究科 教授 再任
林 亜依子 弁護士 再任
余田 大造 元 (株)サンテレビジョン常勤監査役 新任
米田 耕士 弁護士 再任




安樂 雅枝 UAゼンセン兵庫県支部 次長 新任
奥村 比佐人 三菱重工グループ労働組合連合会神船地区本部 執行委員長 再任
尾野 哲男 JAMオークラ輸送機労働組合 組合長 再任
那須  健 日本労働組合総連合会兵庫県連合会 事務局長 再任
長谷川 尚吾 日本製鉄広畑労働組合 組合長 新任
服部 圭司 全日本自治団体労働組合兵庫県本部 特別執行委員 再任
森山 政行 山陽電気鉄道労働組合 執行委員長 新任
使



河野 忠友 カワノ株式会社 代表取締役社長 再任
白石  順 株式会社サージ・コア 顧問 再任
武井 宏之 学校法人武井育英会育英高等学校 理事長 新任
坪田 一夫 姫路経営者協会 相談役 再任
林  直樹 兵庫県経営者協会 専務理事 新任
吉田 達樹 日清鋼業株式会社 顧問 再任
和田 直哉 近畿工業株式会社 会長 再任

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労働法連続講座(第1回)報告
「労働基準法の総論」

弁護士 白子 雅人


11月9日に、労働法連続講座(第1回)が行われました。

この連続講座は、下記の構成で行われるものです。

【第1回】11月 9日(火)
   総則、労働契約、就業規則、監督機関、雑則、罰則、附則
【第2回】11月30日(火)與語信也弁護士
   賃金、労働時間(原則的な内容)
【第3回】12月15日(水)本上博丈弁護士
   賃金、労働時間(原則的以外の内容)
【第4回】2022年1月11日(火)萩田 満弁護士
   安全及び衛生、年少者、妊産婦等、労災補償、技能者の養成、寄宿舎

1 第1回は、労働基準法の総論です

労働基準法は、日本国憲法27条2項「賃金、就業時間、休憩その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」という憲法上の要請から定められた、直接、憲法に立脚する重要な法律です(また、労働組合法は憲法28条に立脚する法律です。)。

なお、憲法は、大きく分けて、人権保障の規定と統治機構の規定(国の仕組み)から構成されていますが、人権保障という目的のための手段として統治機構はあります。衆院選で改憲勢力の議席が増大しましたが、「憲法は、誰のために、何のためにあるのか」(憲法は、国民のために、その人権を守るためにある)ということを改めて意識しなければならないと思います。


2 労働者の権利義務は「(労働)契約」によって生じるものです

封建時代のように「身分」から生じるものではありません。あくまで、使用者と労働者の「合意」(=契約)によって生じるものです。

労働契約は、労働者の労務提供義務(使用者の指揮命令権)と使用者の賃金支払義務(労働者の賃金請求権)という二大要素からなります。これを労使が「合意」することから、使用者は労働者に業務命令ができ、賃金を支払う義務を負います。

ただ、「合意」といっても、個々の労働者と使用者との間には実質的な力関係に格差があり、これを放置すると、合意の名の下に劣悪な労働条件が定められてしまいます。そこで、最低限の労働条件を法律で定め、労使の力を対等にするために、労働者の団結権、団体行動権が保障されているのです。

労基法1条は1項で「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすものでなければならない。」と宣言し、また2項で「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから…この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上に努めなければならない。」と定めているのはそのためです。


3 「労働基準法(法律) > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約」という関係

労基法13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。…無効となった部分はこの法律で定める基準による」とし、労働基準法の水準を下回る契約を無効とし、かつ、同法の水準の契約がなされたものとして扱います(強行的・直律的効力)。

多くの職場には「就業規則」が定められています。就業規則は、使用者が一方的に定める(意見を聞き義務はある。)ものですが、多数の労働者の労働条件を画一的に、平等にに扱う必要性等から認められている職場内規則ですが、その内容は「合理性」がなければならず(労働契約法7条)、就業規則の水準を下回る契約は、その部分は無効となり、無効となった部分は就業規則で定める基準となります(同12条)。


4 「労働契約法」の制定

先に引用した「労働契約法」は2008年(平成20年)3月1日から施行されています。

同法第16条は、「合理的な理由」のない解雇は無効であると定め、第18条は、期間の定めのある契約が5年を超えて継続した場合に、労働者の申込により、期間の定めのない労働契約に転換することを認め、第19条は、有期契約が反復された場合や雇用更新に合理的な期待が認められる場合、その雇い止めは、「解雇」に準じる制約を課しています。

これらは、これまでの運動や裁判で形成されてきた基準が、明確な法律として定められたものです。


5 消滅時効期間の延長(5年(当分の間は3年))について

従来、賃金は、発生してから2年間で、使用者が時効を主張すれば消滅していました(なお、退職金請求権は5年)。

しかし、2020年4月1日以降に発生した賃金の消滅時効は「5年間」に延長されました(ただし、「当分の間」は3年間)。

未払残業手当を、裁判で請求する場合、請求する金額と同額の「付加金」も併せて請求しますが、これも5年(当分の間は3年)分が請求の対象となります。

なお、年次有給休暇の消滅時効は、従来どおり2年間です。

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転載:東リ偽装請負事件(大阪高等裁判所令和2年(ネ)第973号)
大阪高等裁判所判決を受けての弁護団声明


1 事案の概要

東リ株式会社(以下「東リ」)は、その伊丹工場(兵庫県伊丹市)において、主力製品である巾木(床と壁の繋ぎ目に使用される建材)を製造する巾木工程と、接着剤を製造する化成品工程で、1990年代後半頃から原告ら労働者を偽装請負で就労させてきた。

2015年夏に原告ら労働者は労働組合を結成し、2017年3月、組合員のうち執行部を中心に一部有志(原告ら)が先行して労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「派遣法」)第40条の6(直接雇用の申込みみなし規定)に基づく承諾通知を東リに送付し、同社に対して直接雇用に関する団体交渉を申し入れた。

折しもその2017年3月、東リは、当時同社に原告ら労働者を供給していた偽装請負会社に見切りをつけ新しく用意した派遣会社(株式会社シグマテック。以下「新派遣会社」)に原告ら労働者の雇用を引き継がせる手続き中であった。この移籍の過程で、新派遣会社が組合員だけを採用拒否するという事件が起きた。3月下旬、新派遣会社から各労働者に最終的な採用通知が送られる直前に、東リへ承諾通知を送った組合の中心メンバー5名を残して、16名いた組合員のうち11名が一斉に脱退した。そして、もともとの非組合員及び組合脱退者は全員が新派遣会社から採用通知を受ける一方、組合に残った5名は全員が不採用通知を受けた。かくして、偽装請負という不正義を糺すため行動をした原告ら5名は、その故をもって2017年3月末に東リ伊丹工場から放逐されたのである。


2 神戸地方裁判所(裁判官泉薫・横田昌紀・今城智徳)の不当判決

原告らは、2017年11月21日、東リに対し派遣法第40条の6に基づく地位確認等を請求する訴訟を神戸地方裁判所(以下「神戸地裁」)に提起した。

しかし神戸地裁第6民事部(裁判官泉薫・横田昌紀・今城智徳)は、2020年3月13日、原告らの就労実態は偽装請負ではなかったなどとして請求棄却の不当判決を言い渡した。原告ら労働者が就労していた巾木工程及び化成品工程は、東リ伊丹工場の有機的一体な一部として組み込まれ、東リが、組織的に、原告ら労働者を他工程(東リ従業員ないし派遣労働者で構成する工程)の労働者と同様に指揮命令していたことを示す数々の証拠(書面やメール等)が存在するのに、裁判官らは、それらを無視し、またそれら証拠の作成者であって東リの原告ら労働者に対する指揮命令における要の役割を果たしていた東リ従業員の尋問すらもせず、証拠が示すものと反対の事実を認定するという、あってはならない違法を冒したのである。


3 大阪高等裁判所(裁判官清水響・川畑正文・佐々木愛彦)の判決

しかし大阪高等裁判所第2民事部(裁判官清水響・川畑正文・佐々木愛彦)が本日言い渡した判決(以下「本判決」)は、東リが伊丹工場で原告ら労働者を偽装請負で就労させてきたと正しく認定し、さらに東リが派遣法等の規定(規制)の適用を免れる目的で偽装請負をおこなってきたこと等を認め、神戸地裁判決を取り消し、派遣法第40条の6を適用して、原告らが東リの労働者であることを認めて2017年4月以降の賃金を支払うよう東リに命じた。

本判決は、

① 偽装請負該当性の判断にあたっては、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に沿って判断し、東リが、日常的かつ継続的に、伊丹工場の他工程と同様に指示や労働時間の管理等をする偽装請負をおこなっていたと認定した。

② また、派遣先に派遣法等の規定(規制)の適用を免れる目的があったか否かの判断にあたっては、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」という基準を示し、主観的要件(派遣先の「派遣法等の規定~を免れる目的」)は客観的事情から認定されることを示した。

③ さらに派遣法によりみなされた直接雇用の申込みに対する承諾によって成立する契約内容、契約期間については、形式的に交付されていた有期労働契約書によらず就労の実態に即して派遣先(東リ)との契約内容を認定した。

以上の認定は、違法派遣、とりわけ労働者派遣の実態があるにも拘らず請負その他労働者派遣以外の名目で就労をさせて雇用責任を潜脱する事業者の責任を見逃さず、派遣法第40条の6(直接雇用の申込みみなし規定)の趣旨である労働者の雇用の安定を正しく保障する、裁判所の積極的な姿勢を示す先駆的な判断であると高く評価する。


4 結語

東リ及び新派遣会社により職場から放逐された原告らは、誇りにしていた仕事を奪われたこの4年7か月もの間、アルバイト等で生活を支えながら、労働委員会及び裁判所での闘争を余儀なくされてきた。長い者で19年、短い者でも4年以上、東リに直接雇用された労働者と変わりなく伊丹工場で懸命に働いて、東リが得てきた利益を生み出してきた労働者達である。

本件の争点である派遣法第40条の6(直接雇用の申込みみなし規定)が創設されたのは、リーマンショックにより起きた2008年の大量の派遣切りがきっかけであった。この規定は、偽装請負で搾取される労働者の保護を強め、それにより利益を得ている就労先に雇用責任を認めさせよ!、という労働者の悲願が結集して生まれた規定である。この規定が、本判決により創設以降初めて適用が認められ、ようやく労働者の保護が図られた。

我々は、本判決を歓迎し、本判決が、偽装請負・違法派遣の認定・指導に極めて消極的な立場をとっている行政(労働局等)への警鐘となることを期待する。今日では、偽装請負等の非正規労働だけでなく「雇用によらない」働かせ方も拡がり、雇用責任を潜脱しがなら利潤をかすめ取る手法がますます拡大している。我々は、今後も、働く者の権利を守り強めるために取り組んでいく所存である。

以上

2021年11月4日

東リ偽装請負事件原告ら弁護団(弁護士村田浩治・大西克彦・安原邦博)

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