民法協に新たに入会された弁護士(新人)会員向けに4月25日、労働分野の基礎的知識の研修会を開催しました。講師として、神戸合同法律事務所の増田祐一弁護士に講義をしてもらいました。
増田弁護士からは、主に労働者側の労働事件の代理人という立場から、法律相談の段階、使用者との交渉、裁判手続きなどの選択肢や進め方を網羅的に説明してもらいました。特に、残業代やパワハラなど、最近多い事件の取り扱い方を中心に、具体的な進め方、必要となる証拠、それらの収集方法について解説がありました。
補足的に、私の方から、弁護士が取りうる手段は訴訟などの裁判手続きだけでなく、労働組合と協同することも大切な手段であることを踏まえ、労働事件における労働組合の関わり方、その重要性を解説しました。
この他、参加者からは、実際に現在関わっている事件の対処方法や見通しなどについて質問もあり、議論する中で、初動の重要性や手段選択の判断の難しさを再認識しました。
このページのトップへ4月25日弁護士(新人)研修会が開催され、増田祐一弁護士と與語信也弁護士の講義がありました。私は、労働法は全く勉強をしたことがなく、二回試験終了後から、少しずつ労働法の勉強を進めています。また、e-learningを使って、労働法関係の動画を視聴し、実務を学んでいます。基礎的な知識がまだあやふやな私でも、非常に分かりやすい講義でした。
増田先生の講義では、労働者側の労働事件の初回相談時から訴訟に至るまで、網羅的に、ご経験を踏まえながらの解説がありました。また、「きょうとソフト」という私にとって初めての単語の解説もありました。大変分かりやすい講義で、なんだか私もすぐに労働事件の訴訟を担当できそうな気になりました。
與語先生の講義では、団体交渉や労働者の要望を叶えるための手段についての解説がありました。労働者一人で労働組合を作る方法や労働委員会の使い方など、書籍や動画からは得られない実践的知識ばかりでした。この知識を活用できる場面がきたら、是非実践したいと思います。
2月下旬、私に対して、パワハラ被害の労働事件の相談がありました。私はその事件に関していくつか疑問点を抱えていました。そこで、その疑問点を今回の研修会で質問したところ、先生方はご自身のご経験を踏まえた回答をしてくださいました。大変有難かったです。また、おかげさまで、私の頭の中で散らばっていた労働法の知識が有機的に関連し始めた感覚になりました。
この研修会に参加していた同期の新人弁護士たちの近況や事件報告も聞けて、有意義な時間でした。また、研修会の資料は、すぐに役立ちそうな情報が満載で、これから重宝しそうです。
これからも積極的に民法協の研修会に参加します。そして、いつかは、自分が講師役を担えるように精進してまいります。
このページのトップへ2024年の春闘は、大手企業などは満額回答、要求越えが相次ぎました。そのようななか民法協の会員組合の春闘はどうだったのかご報告をしていただきました。以下に掲載します。
【阪神タクシー労働組合】
3月26日に春闘妥結となりましたので報告差し上げます。
基本給800円昇給と一時金5000円の支給に留まりましたが、会社側要求として歩合のノルマ上昇を要求されましたが、拒否することが出来ましたので今回はなんとかなったかなぁという感じです。
組合員さんからもある程度労いの言葉も戴けましたので、良かったと思います。
【JAM木村化工労働組合】
妥結日は4月15日、協定書は3月29日付けで締結(遡及効の為)しました。
以下にご報告致します。
・当組合の要求について
例年、賃上げを要求していますが、定期昇給以上の賃上げは固定費の増加となり、将来の不安があるということで、定昇以外の賃上げは行われておりませんでした。
しかし、物価は上昇していますので、何かしらの補填はしてほしいということで、一時金の上乗せを要求しました。平均して約13万円の上乗せになります。
・回答について
上記に対して回答は一律20万円の上乗せとなり、満額以上の回答となりました。(本年度が当社の100周年ということもあるためです)
また、初任給についても2025年度新卒者に対しては改定を行うことも決定しました。(賃金構造維持のためにベアが行われることとなります)
【東熱労働組合】
4月22日3回目の団交が終わり、賃上げ、一時金ともに妥結いたしました。
組合としては、物価高と組合員のモチベーション維持のため、「賃上げ:15000円(定昇含む)」「一時金3か月」を要求いたしました。
会社側は最近の円安と燃料高の影響をまともに受け、収益が厳しい旨の説明を行い団交がスタートいたしました。
4/5に1回目、4/15に2回目、4/22に3回目、最終的には、「賃上げ10000円(定昇含む)「一時金2ヶ月マイナス7万円」で妥結いたしました。
組合としては賃上げに重きを置き臨んだ団交でございましたので、賃上げ結果には満足しております。
また、金額としては約30年ぶりの5桁賃上げとなりました。
一時金につきましては、もう少し欲しいところではありましたが、賃上げが高水準であったことと、昨今の会社の情勢を加味し、妥協した形となります。
以上、ご報告をさせていただきます。
【日東物流労働組合】
24春闘状況を未妥結状態(4/26現在)ではございますがお知らせいたします。
・ベースアップ要求=標齢(入社からの年数)を年差分改訂したうえで、ベースアップ1万円(2024.3.12要求)
第1回会社回答=2024.3.25団交 ①年差分改訂を行う、②ベースアップを検討中。
第2回会社回答=2024.4.24団交 ①年差分改訂を行う、②ベースアップ金額として平均5,000円
組合返答=①に対し評価。②に対し、満額回答を再要求、また平均ではなく一律ベアを再要求。
・一時金要求については、後日要求書提出するが、夏季一時金を3.0か月要求決定している。
・その他諸条件については、要求していない。(※ベア獲得一本での交渉に臨むため。)
このページのトップへ大阪地裁(審判官:蒲田祐一裁判官)は、2023年11月 29日、大阪府の高石市社会福祉協議会に対する残業代請求等の労働審判において、当事者の意思に反して、口外禁止を命じる審判を出した。
民主法律協会では、Web申込みによる無料労働相談を実施しているところ、本件は、民法協のWeb相談に寄せられた事件である。
申立人の女性であるAさんは、高石社協において障がい福祉計画相談支援業務などに従事し、2022年4月からは定年後の再雇用として勤務を続けてきた。
高石社協では始業時刻前に朝礼等を実施していたが、労働時間として扱われていなかった。終業時刻後の残業についても、30分単位での切り捨てがなされていたものと思われる。
また、高石社協は、未払残業代についての交渉中、Aさんに対して、期間満了を理由として、2023年3月をもって雇止めする旨を通知した。
Aさんは、早期円満解決を図るべく、大阪地裁に労働審判を申し立てた。
審判委員会からは、高石社協がAさんに対して解決金を支払うとの調停案の提案があり、Aさんは受け入れる意向を示した。高石社協も調停案を受け入れたが、口外禁止条項を要望した。Aさんが口外禁止条項には応じられないと拒否したところ、調停での解決が困難となり、審判委員会は、主文において、「申立人と相手方は、本件に至る経緯及び本件手続の内容(本審判主文を含む、ただし、本件手続が審判により終了したことは除く。)を正当な理由なく第三者に口外しないことを相互に約束する。」として、口外禁止条項を含む労働審判を行った。
Aさんは、高石社協において残業代未払という違法行為が是正されることを強く願っており、口外禁止条項が付されたのでは高石社協が違法行為を是正しないと考えた。とりわけ、社協は、高齢者や経済的な弱者への支援や社会福祉の増進を目的とする団体であり、Aさんは、このような公益性の強い事業主において残業代未払という違法行為が横行していれば、社会から残業代未払がなくならないとも考えていた。
また、Aさんは、本申立てにあたって支援を受けた同僚らに報告や御礼を述べたいとも希望していた。
口外禁止に応じられないとのAさんの心情はごく自然なものである。
当事者の意思に反して口外禁止義務を負わせる法的根拠はない。本件申立ての対象は残業代請求や雇止め無効であり、口外禁止は申立ての対象である権利関係に関する実体法上のルールとはまったくの無関係で合理的関連性もない。口外禁止条項は裁判所による「ロ封じ」でしかない。
口外禁止を命じた労働審判に関して、長崎地裁令2.12.1判決は、当事者の意向に反して、労働審判で口外禁止を命じることが労働審判法20条に反すると判示した。同判決以降、全国的に労働審判で口外禁止を命じないという運用が暗黙のルールとしてなされていたのではないだろうか。
口外禁止条項が付されたのでは、使用者による違法行為是正の可能性は低く、むしろ違法行為を助長させることになりかねない。本件では、あたかも口外禁止が当然であるかのように、審判委員会から申立人への説得が続き、審判官からは「他の労働者のことまであなたが考える必要はない」との発言までなされた。口外禁止に関する審判官の誤解は甚だしい。
毎日新聞が2023年12月22日に、「大阪地裁が異例の「口止め」命じる残業代未払い巡る労働審判」との見出しの記事を掲載し、「解決金の件が外に漏れなければ、雇用主にメリットが大きい、裁判所はなぜ、雇用主の肩を持つような判断をしたのか。」と裁判所を批判した。この記事が契機となり、本件審判の不当性が全国に広がり、全国の労働弁護士から多くの支援の声をいただいた。現在、国賠訴訟についても検討中である。
Aさんは労働審判に異議を申し立て、通常訴訟に移行した。Aさんは、2024年3月8日の第1回弁論では、「異議申立てをすることは私にとって大きな負担でした。しかし、高石社協が残業代未払を是正するためにも、高石社協で働くすべての労働者のためにも、口外禁止には応じることができなかった。」と意見陳述をした。
労働者にとって訴訟提起や労働審判申立のハードルは高く、多くの労働者が泣き寝入りを余儀なくされている。口外禁止を拒み闘い続けることは、労働者にも経済的にも精神的にも負担が大きく、不本意ながら甘受している労働者も少なくないであろう。口外禁止条項が蔓延した原因の一つとして、私たち労働者側の代理人が使用者側の要求に安易に応じてきたことも否めない。あたかも労働者の弱みにつけこむかのような口外禁止を阻止すべく、労働弁護士として抵抗を続けていきたい。
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