《第679号あらまし》
 2025年新年あいさつ
 年頭のあいさつ2025年
 実務研修会「職場における組合活動の権利と限界」
     <報告1>第1部 組合活動の法的性格と便宜供与
     <報告2>第2部 現場での組合活動(総論)、組合活動と施設管理権・・・



2025年新年あいさつ

代表幹事 弁護士 羽柴 修


1 本年も宜しくお願い致します。昨年の正月は能登の大震災、発災直後の被災地に救援物資を空輸する海上保安庁機と日航機が衝突、日航機が爆発炎上するというショッキングな事件で幕開け、新年のあいさつどころではないとのあいさつをしました。その後の能登の復興は遅々として進まず、被災地の状況は私たちの国の政治状況をそのまま、引き写していると言ってよく、NHKが毎朝、「NHKは誰もが取り残されない社会をつくるための報道に徹します」という看板アナのことばが空虚にひびくばかりでした。未だに電気や水道の復旧がない地域があり、輪島や珠洲では倒壊建物の解体さえ出来ていないのに、生活再建や被災地の援助は、地元行政(市町)の責任という石川県(知事)の対応や国の知らん顔もおかしい。生産性の低い地域の再生、そこへの資金投下は無駄と言わんばかりの対応について、NHK(だけではないが特に)は「誰も取り残されない社会」大キャンペーンを展開して、「能登は取り残されています。一人や二人じゃない。能登はいらんのですか」とニュース番組や「時論公論」で言ってよ、引っ越しをする時は必ず所定の手続(受信料)をお忘れなくって、毎日言ってるのに「そっちかよ」という気持ちです。

2 2024年の株価は記録ずくめ、「年末終値はバブル期を上回る3万9894円」。なのに「町の声」は株高なんて全く関係なく、生活に余裕なんて殆どなく、相対的貧困率(貧困線に満たない世帯員の割合)は米韓に抜かれて先進国中最悪(9人に一人が貧困)。給料が上がっても物価高に追いつかない。「こども食堂」は1万か所を超え、多くの国民の暮らし向きは最悪の状況で格差社会が拡大、国民生活は分断されています。こうした状況は、経済政策(アベノミクス等金融政策)の失敗・政治の責任であることは明らかです。先ずは最低賃金の大幅引き上げを始めとして、2000万人を超える「非正規労働者」の存在、ここにメスを入れて悪性腫瘍を取り除かないかぎり、ジェンダー問題も人口減少問題(特種出生率1.20 2023年出生数72万7277人)の解決など望むべくもないのに、メディア(特にNHK)は声をあげない。

3 時代の混迷ぶりも止まる気配がありません。気候変動による自然災害、「これまでに経験したことがない災害」が頻発、南海トラフによる大災害も想定されています。戦乱が収まる気配はなく、人びとの命、子どもたちの命がたやすく奪われています。生活を豊かにするはずの科学の進歩がかえって不安と不穏に拍車をかけています。SNSでも不確かな情報が氾濫しているようです。しかしこの不確かな情報については、その真偽を自分の目で確認する(考える)ことが必要です。「自分の言葉で考えたつもりが、実は他人の言葉をただ繰り返している場合が多い」(思考のコピペ)。そうした情報の真偽、まず疑い自分で書物や文献等の一次情報にあたり考える、意見交換をして考える、そういうある意味、面倒な作業をすることが今は、必要です。「民主主義とはそういうものであり、与えられるものではなく、自分たちの手でつくるもの」です。まだ未来と希望を諦める訳にはいきません。

4 最後に、労基法改正問題です。これについては本上弁護士が昨年の労働法連続講座で詳細に触れられています。本上弁護士によれば、当初は「新しい時代の働き方、労使自治を軸とした労働法制という美名のもと、労基法の根本改悪が進められようとしている」と「擦り半」(火事が近いと半鐘を乱打すること)警報でしたが、昨年12月10日付の「労働基準法制研究会報告書(案)」では、「労使自治を口実にした労働時間法制骨抜きの危険はなおあるものの、労側から見ても法改正による対応が必要な重要事項を含んでいる」ので、「単純に全部反対ではなく、しっかり検討して改正事項ごとに是非を判断する必要がある」とされている。この問題は今年度以降、民法協にとって意見交換、労働弁護団等との情報交換や国会対応など具体的行動が必要になると思われるので特に指摘しておく次第です。

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年頭のあいさつ2025年

代表幹事 兵庫県私立学校教職員組合連合 執行委員長 永島 徳顕


新年あけまして、おめでとうございます。

昨年は何はともあれ、大きな出来事に兵庫県知事選挙を挙げたいと思います。パワハラ問題を発端に4年の任期満了を待たずに、急遽、選挙が行われ、選挙終盤にはSNSを巧みに活用した今までにない選挙運動が行われたことです。この経緯や結果に対する評価についてはこの場では特に述べませんが、SNSと選挙運動が国会でも取り上げられるほどの話題となりました。

今回はこの場を借りて、SNSについて話したいと思います。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)とは、インターネット上で交流や情報共有ができるサービスのことで、主にX(旧Twitter)が挙げられます。

個人レベルでも全世界に向けて情報を発信し、様々な情報を得ることができるとても便利なツールです。しかし、その反面、多くの情報が氾濫しているために、何が本当で、ウソなのかを判断することは非常に困難となっています。

ネット上にアップされている動画や画像も、簡単なソフトで加工ができるため、いわゆるフェイク動画・画像が本物として扱われ拡散される事態となっています。

また、何気に見ているサイトの閲覧経歴にもとづいて、閲覧者が興味を示すであろうサイトや欲している情報を受け取りやすくしているために、非常に偏った情報であることに気付かない人が多くいます。

つまり、自分の都合の良い情報と居心地の良いコミュニティーにどっぷりと浸かってしまい、開かれたネット社会であるのに、逆に閉ざされたご都合主義で満たされたネット住民になっています。(誹謗中傷は別として、アンチコメントに対しては、ブロックして反対意見を受け付けない)

これらの影響なのか、最近特に思うことは、色々なところで交渉事をしますが、対話ができない人が多くいます。質問に対して答えずに、自分の言いたいことを述べたり、逆に質問をしてきたりする人たちです。この人たちは、何があっても自分の意見が正しいと押し通し、歩み寄りをしようとはしません。非常に厄介な人たちです。

そうは言っても、あきらめていては何ら解決にはならないので、今年は特に、相手が聞き入れざるを得ないほどの「話す力」を磨いていこうと思います。

巳年ということで、古い皮を脱ぎ捨て、新しい気持ちで物事に取り掛かり、万事が上手く行くように、本年もよろしくお願いいたします。

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実務研修会「職場における組合活動の権利と限界」
<報告1>第1部 組合活動の法的性格と便宜供与

弁護士 本上 博丈


第1 組合活動の法的性格

1 労働基本権の考え方

憲法28条(労働基本権の保障)は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と定めています。これは、労使の利害の対立を前提として、その利害の対立は、労側の交渉力強化のための団結体である労働組合による団体交渉と、それが行き詰まったときの争議行為によって解決、調整されるべしという憲法の基本的立場を表しています。

2 「狭義の組合活動」

ここでは、このような組合活動のうち、法的に独自の位置づけが与えられている団体交渉と争議行為を除いたものを「狭義の組合活動」とします。具体的には、

① 労働組合の日常的な組織運営のための活動(各種会議・集会の開催、連絡、組合費の徴収など)

② 組合員や報宣伝活動(ビラ・ニュースの配布、掲示板の利用など)

③ 闘争的活動(大量公衆などに対する情のビラ貼り、就業時間中のリボン等着用行為、企業内外の抗議行動など)

3 「狭義の組合活動」権の根拠

上記2の①は憲法28条による団結権保障に当然に含まれます。②、③は団体行動権によって保障されるとともに、労働者個人の表現の自由、集会の自由という面もあります。

4 「狭義の組合活動」権保障の効果

以下の(1)と(2)は争いなく認められていますが、(3)については判例は否定的です。

(1) 国家からの自由

合理的根拠なく「狭義の組合活動」を制約する法令は憲法違反となります。また正当な「狭義の組合活動」である限り、処罰されません(刑事免責)。

(2) 使用者からの自由

労働組合は、使用者の干渉を受けずに組合活動を自由にすることができ、組合活動を積極的に妨害する使用者の行為は違法となります。また正当な「狭義の組合活動」である限り、懲戒処分等の制裁は不利益取扱いの不当労働行為、妨害行為や報復行為は支配介入の不当労働行為となり、違法となります。

(3) 使用者の受忍義務

組合活動と使用者の権限が抵触した場合、使用者は一定の範囲内で組合活動による使用者権利の侵害を受任すべき義務があるという見解が学説では多数です。この点が問題となる例としては、企業施設内外でのビラ貼り、就業時間中の組合連絡・リボン着用等があります。判例は、企業秩序論によって原則違法としており、使用者の受忍義務を否定しています。

しかし「狭義の組合活動」の正当性が問題になるのは、使用者と対立状態になり使用者がそれら活動に許諾を与えない場合であるのに、その場合の正当性に使用者の許諾を要件とするのは不可能を強いるもので、憲法28条の団結権・団体行動権保障の趣旨を没却します。したがって、使用者の受忍義務という言い方をするかどうかは別として、組合活動権と使用者の諸権限(施設管理権、秩序維持権等)との調整の問題と捉えて、正当な組合活動は原則として民事免責(損害賠償や懲戒の対象にはならない)が認められると解すべきでしょう。


第2 便宜供与

1 そもそも労働組合法上の労働組合と便宜供与の関係

(1) 労働組合法の規定

労組法第2条は「この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」と定義して、自主性を要件としています。

そして同条但書第2号は「団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。」は自主性を満たさないとして労組法上の「労働組合」には当たらないと定めています。もっとも、これにはさらに例外があって同号但書は「労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。」と定めて、この例外に当たる便宜供与は受けていても労組法上の「労働組合」であることを失わないとしています。

また不当労働行為を定めている労組法7条でも、上記第2条と同じ内容で第3号において使用者が「労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。」は支配介入になるとして禁じられています(許される例外も同じ)。

このように労組法は、自主性を労働組合であることの基本要件として、使用者の便宜供与はこれを損なうものとして原則として禁じつつ、実際上の必要から一定の例外を許容するという立場を採っています。ここでは、労働組合にとって便宜供与は経済的メリットがあるものの、根幹である自主性と緊張関係にあるものだという点を理解しておくことが肝要です。

(2) 便宜供与の種類

ア 労組法が許容する、労働組合の自主性を損なわず、また使用者の経費援助に該当しない便宜供与

① 労働時間中の団体交渉・労使協議の有休保障

② 福利厚生基金への援助

③ 最小限の広さの事務所の供与

イ そのほか、慣行として行われている便宜供与

④ 在籍専従制の承認と部分的な給与負担

⑤ 組合掲示板の貸与

⑥ 組合事務所の水光熱費の負担

⑦ 組合費のチェック・オフ

原則として、労働組合に使用者に対する便宜供与請求権があるわけではないことに注意する必要があります。

(3) 便宜供与に関する紛争の検討ポイント

便宜供与に関する労使紛争は少なからずありますが、次の点が判断のポイントになります。

① これから便宜供与を受ける段階か、既に受けている便宜供与の維持や廃止が問題になっている段階(既得権は保護される)か。

② 複数組合併存の下では便宜供与の平等性。

③ 現に行われている便宜供与が労働協約に基づくものか、労使慣行によるものか。

以下では、便宜供与の種類ごとに見ていきます。

2 チェック・オフ

(1) 賃金全額払原則(労基法24条1項)との関係

済生会中央病院事件・最高裁判決平成元年12月11日は、チェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものにほかならないから、労基法24条1項但書の要件(過半数代表との書面協定)を具備しない限り、できないとしました。

この最判に従えば、過半数組合が書面によるチェック・オフ協定を締結している場合は、少数組合もチェック・オフを求めることができる。過半数組合がない場合は、従業員の過半数代表と使用者の書面協定でチェック・オフを認めることが必要、ということになります。

(2) 組合員の支払委任の要否

エッソ石油事件・最判平成5年3月25日は、使用者が適法にチェック・オフをなしうるためには、労働組合との協約・協定だけでは足りず、個々の組合員から、チェック・オフすることの委任を受けることが必要。チェック・オフ開始後も個々の組合員からその中止の申し入れがあれば、その組合員のチェック・オフを中止すべき、と判断しました。

仮に過半数代表との書面協定があって適法にチェック・オフができるのに、組合員がチェック・オフすることの委任をしない、あるいは委任の取消しをしたという場合、労働組合としては統制の問題になります。但し、その組合員がチェック・オフの委任はしないが組合費は自主的に納付を続けているという場合には、規律違反を理由にした統制処分を行うことは難しいと思います。

(3) チェック・オフの廃止

従前行っていたチェック・オフを合理的根拠なしに使用者が廃止することは、原則として支配介入になり、不法行為にもなります。

但し、従前行っていたチェック・オフが過半数代表との労使協定に基づいていなかったため、使用者が適法化を理由にチェック・オフの廃止を言う場合は不当労働行為になるかは難しいと思います。

3 組合事務所

(1) 貸与の法律関係

組合事務所の貸与は、基本的には労使合意に基づいてなされるべきもので、使用者は当然に組合事務所提供義務があるとは言えません。但し、複数組合併存の下で一方の組合が貸与されている場合は、他方の組合にも平等取扱いの必要があります。

公務員組合が庁舎内の施設を組合事務所として利用する場合は、行政財産の目的外使用を定めた国有財産法18条6項(地方自治法238条の4第7項)が根拠となりますが、国有財産法18条1項(地方自治法238条の4第1項)が行政財産への私権の設定を禁止しているため、労働組合の庁舎内施設利用権をどのように根拠づけるか困難があります。

(2) 返還請求

使用者が組合事務所として貸与していた施設を業務のために利用する必要性が高く、かつ代替施設を貸与する場合に限って組合事務所の返還請求ができます。この要件を満たさない返還請求は違法・無効であり、支配介入の不当労働行為ともなりえます。公務員組合の組合事務所も同様に解すべきだと考えます。

(3) 組合事務所の利用制限

組合事務所が使用者の管理する施設であっても、一旦労使合意によって貸与された以上は、使用者は防火、防犯、衛生など施設管理上緊急に必要な場合を除いて、労働組合の許可なく組合事務所に立ち入ることはできず、無断立入は支配介入の不当労働行為となります。

また使用者は、施設管理上必要な限度を超えて、組合事務所の使用時間を制限したり、上部団体役員の入室を禁じるなど利用者の制限をすることなどはできません。

4 組合掲示板

(1) 掲示板の設置・利用

企業施設内の組合掲示板の貸与は原則として使用者の同意が必要だが、組合活動上高い必要性があり、貸与が使用者に過大な負担を強いるものでないことから、使用者が合理的根拠なしに掲示板の設置や貸与を拒否することは支配介入の不当労働行為となりえます。

但し、日本チバガイギー事件・最判平成元年1月19日は、複数組合への掲示板の貸与にあたって、掲示事項の許可制、掲示物の届出制、施設内でビラ配布をしないこと、という条件をつけたことにつき、この条件は「正常な労働組合であれば到底受け入れられないような不合理なものとはいえない」から不当労働行為ではない、としました。この判断は極めて不合理だと思いますが、このような最高裁判例があることは知っておいた方がよいでしょう。

公務員組合が庁舎内の掲示板の利用が認められている場合、国有財産法18条6項に基づく行政財産の目的外使用で、そこから労働組合の利用権という私権が生じると解すべきと考えます。

(2) 掲示内容への干渉

使用者が掲示板の設置・利用を許可した場合、そこにいかなる文書を掲示するかは原則として労働組合の自由です。したがって、掲示内容に対する使用者の干渉は団結権もしくは表現の自由の侵害となりえます。

5 在籍専従

労働組合は使用者に対して当然に在籍専従制を要求できるわけではありません。

しかし、一旦在籍専従制を認めていたのに、合理的根拠なしに一方的に廃止することは、支配介入の不当労働行為となります。

在籍専従者に対する使用者の一定の給付が労働組合の「経費援助」に当たれば労組法第7条3号が定める不当労働行為となるし、第2条但書2号により労組法上の労働組合とは認められないことになります。但し、在籍専従中の社会保険料負担の一方的中止は違法・不当と評価された裁判例もあります。

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実務研修会「職場における組合活動の権利と限界」
<報告2>第2部 現場での組合活動(総論)、組合活動と施設管理権・・・

弁護士 與語 信也


第1 職場での組合活動(総論)

1 組合活動権

(1) 憲法28条は、団結権・団体交渉権・団体行動権を労働三権として保障しています。団体行動権には、争議権と組合活動権の2つがあり、組合活動は憲法上の権利として保障されています。

(2) 組合活動の例

主なものに、ビラ配り・ビラ貼り・機関誌の発行配布、組合大会・集会の開催、ワッペン・リボン・ゼッケンの着用、抗議文の掲示・設置、組合旗や垂れ幕の掲揚等があります(現代ではSNSも)。

2 職場での組合活動の制限(判例)

(1) 受忍義務説から職務専念義務説、施設使用許諾説へ

昭和30年~40年代くらいまでは、学説・下級審裁判例は、「組合活動が使用者の権限と抵触した場合でも、使用者は一定の範囲で自らの権限の侵害を受忍すべき」とする受忍義務説が有力でした。これは、組合活動が基本的人権の行使であることを前提とする限り、使用者に一定の制約があるのは当然のことで、損害賠償請求の禁止(労組法8条)からも自然な帰結とされていました。

しかし、昭和50年代、最高裁は受忍義務説を否定、以下のように、職務専念義務説、施設使用許諾説へ変容していきます。

ア 就業時間内の組合活動

労働者には「職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務」があり、この義務違反には「実害の発生を必ずしも要件としない」。(就業時間中のプレート着用行為につき、目黒電報電話局事件(最判昭52・12・13))

イ 会社施設の利用

「使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、その利用を許さないことが施設に関する使用者の権利濫用であると認められる特段の事情がない限り、正当な組合活動と認められない」(国鉄札幌電車区事件(施設内でのビラ貼り行為につき、国鉄札幌運転区事件(最判昭54・10・30)

(2) 最高裁の判断枠組み

上記の通り、最高裁は、職場での組合活動は、労働者の職務専念義務、使用者の施設管理権により、原則禁止、例外的に正当性があると認める「特段の事情」がある場合に許されるとの判例法理を確立され、現在に至っています。


第2 組合活動と施設管理権の関係(場所の問題)

1 企業内でのビラ配布

(1) ビラ配布という活動は、企業内で行っても使用者の施設管理権を侵害しないし、休憩時間や始業前終業後であれば指揮命令権とも抵触しないので、本来は労働組合が自由になしえます。しかし、多くの就業規則で許可制とされているため、裁判では、実際の適用の場面で問題となってきました。

(2) 休憩時間中のビラ配布行為につき、目黒電報電話局事件(最判昭52・12・13)

ビラ配布が労働者の休憩を妨げたり企業秩序を乱す恐れがあることから、ビラ配布の許可制そのものは有効とした上で、「ビラ配布が局所内の秩序風紀を乱す恐れのない特別な事情が認められるときは、規定の違反になるとはいえない」とし、事案として、原告のビラ配布行為は局所内の秩序風紀を乱すおそれがあったので、懲戒処分は適法としました。※原則として無許可ビラ配布が就業規則違反になるという点で問題。

(3) 上記枠組みで「特別な事情」があるとして会社の処分を無効とした判例

・昼の休憩時間中の工場食堂でのビラ配布(明治乳業事件 最判昭58・11・1)

・就業時間前の職員室でビラ配布(倉田学園事件 最判平6・12・12)

2 企業内でのビラ貼り

(1) ビラ配布と異なるのは、施設に接してなされ、施設の美観を損なう可能性を持つ点です。判例は、ビラ貼り行為の禁止は施設管理権の行使として原則有効、「特段の事情」がある場合に例外的に権利濫用という、ビラ配布と同様の枠組みを採用しています。もっとも、ビラ貼り行為に対しては極めて厳しい態度を示しています(権利濫用となりにくい)。刑事的にも器物損壊罪・建造物損壊罪の適用可能性があり、ビラ配布より注意が必要です。

(2) 裁判例

・ビラ貼りを理由とする懲戒処分を有効 国鉄札幌運転区事件(最判昭54・10・30)

・ビラ貼り禁止の仮処分を認容 エッソ石油事件(東京地決昭和56・12・25)

・ビラ撤去費用の損賠請求を認容 動労甲府支部事件(東京地決昭50・7・15)

3 組合集会の開催

(1) 判例は、組合集会のための企業施設利用についても許諾説、すなわち、施設利用の許諾をしないことが権利濫用となる特段の事情がない限り、組合活動を排除する立場をとっています。しかし、集会はビラ貼りと異なり施設への影響はないため、施設利用拒否は不当労働行為だとして多くの裁判で争われてきました。

(2) 裁判例

・無許可集会の解散命令有効 全逓新宿郵便局事件(最判昭58・12・20)

・食堂の無許可使用に対する中止命令有効 池上通信機事件(最判昭63・7・19)

社内放送による集会中止命令の不当労働行為性を否定

・食堂利用拒否と屋外集会の不許可の不当労働行為性を否定 

日本チバガイギー事件(最判平元・12・11)

・食堂の利用拒否の不当労働行為を否定(最判平7・9・8)

※少数ながら認めた事案もある

上部団体加盟を理由とした施設利用拒否の不当労働行為性を肯定

総合花巻病院事件(最判昭60・5・23)

複数組合併存状況での組合事務所貸与

日産自動車事件(最判昭62・5・8)


第3 就業時間中の組合活動について(時間の問題)

1 判例法理からは、就業時間中は労働義務を負い、それと抵触する行為は組合活動であっても原則として許されないということになります(参照:上記目黒電報電話局事件(最判昭52・12・13)。

ただし、時間内であっても業務に支障をおよぼすおそれがない場合、労働協約等によって認められている場合、使用者が許諾した場合は、正当性を失わないと考えるべき。

2 リボン闘争 ※そもそも争議行為ではない→組合活動として許容されるか

(1) 歴史的には、就業時間中のリボン・ワッペン・プレート・腕章・ゼッケン着用(いわゆるリボン闘争)が、業務に支障を生じさせるのかという点で問題となってきました。

昭和30年~40年代の判例は、労働提供義務と矛盾なく、原則として正当性を認める立場でしたが、その後立場を転換。リボン闘争は組合活動および争議活動としての二面性を有し、一般的に違法とする枠組を確立し現在に至ります。

(2) 大成観光事件(最判昭57・4・13)

ホテル従業員らが「要求貫徹」等と書かれた白布を名札の下に付けて勤務。会社からこれを禁止する警告に応じなかったため、組合役員が減給等の懲戒処分をした事案。救済申立で不当労働行為を認めた救済命令に対する取消訴訟において、上記枠組みでリボン闘争の正当性を認めず。

※国労マーク入りのベルトの着用という実質的に業務に支障を生じさせていないものも認めず。JR東日本(本庄保線区)事件(最判平8・2・23)

3 協定や許諾がある場合

組合活動のための就業時間中の離席は、協定や使用者の許諾がなければ原則許されないが、実際は多くの会社で協定が存在している。

就業時間中の組合活動に優越的価値が認められるとした裁判例もある(団交拒否に対する抗議行動など)。


第4 使用者批判の言論活動について(内容の問題)

1 組合による言論活動、特に経営政策や経営者の批判が、企業の信用を失墜させ、または名誉を毀損するとして、懲戒処分や刑事告訴、差止、損害賠償の理由とされることがあります。

しかし、内容に意図的な虚偽情報、個人の名誉棄損等になりうるものがない限り、本来は自由であり、言論には言論で反論すべきとするのが原則である。

西谷敏「労働組合法」では、「批判言論の正当性の評価でもっとも重視すべきは批判内容の真実性。論文のような厳密さを求めるべきではなく、細かい言葉の使い方ではなく、全体として真実性が認められるかどうか。誇大な表現であっても、真実性と混同してはいけない」とされています。

2 裁判例としては、会社周辺、役員宅周辺での街宣活動、関連会社、取引銀行などに対する要請活動の違法性が問題となってきました。近年では、組合のWEBサイト、SNSでの宣伝の違法性なども問題とされています。

3 裁判例

(1) スカイマーク事件(東京地判平19・3・16)

組合の街宣活動の不法行為性を認めた上で、本件宣伝行動の表現行為に及んだことについて正当な理由があると認められるから,違法性が阻却され,原告組合の不法行為責任を否定。

(2) 藤美術印刷事件(東京高判28・7・4)

関連会社の社会的評価を低下させる内容のビラ等を関連会社周辺で配布したり筆頭株主や取引先銀行等に「要請書」を送付した行為は、正当な組合活動の限界を超えるとして組合員らの共同不法行為の成立を認容。

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